『機関』(pixivより転載)

ここは私達が住んでいる世界とはまた別の世界。見た目は似ているが、歴史がどこかでネジ曲がり、地球全体を破滅に導く核戦争が起きてしまった後の、荒廃した、漫画で言えば世紀末の世界。

賊がはびこり、人々の心はすさみ、文明などほとんど存在しないこのパラレルワールドに、たったの一箇所だけ、技術進歩が途切れることなく続いた場所が、存在した。

『機関』と呼ばれるその場所は、荒廃した都市の真下に作られ、核戦争があったときから、少しずつではあるが発展をつづけていた。『機関』では、優れた科学者たちがアンドロイドや放射能のない水や食べ物などの生産法などの革新的な技術を開発し続け、いつしか戦争前の技術を上回るほどの近代的な世界を生み出していた。

「……」

そのメインロビーに、一人の少女が連れられてきていた。連れられて、といっても、テレポーテーション、つまり瞬間移動技術で転送されてきたようなものだ。彼女が着ている赤いジャンプスーツは、この世界に点在する対核兵器用のバンカーの出身であることを示していた。バンカーの中では、外の放射能だらけの世界とは違い、あらゆる生活機能が備わった、快適な暮らしができるようになっていた。金髪のサラサラした長い髪も、世紀末の世界ではなく、バンカーでの安寧な暮らしの中で生きてきた証拠になっていた。
日本で言えば小学生くらいの少女は、その幼く可愛い顔に、暗い、死んだような表情を浮かべていた。この少女を連れてきた、今は隣に立っている男も、あまり浮かない顔をしている。

「君にはすまないことをしたが、君の能力を買ってのことなんだ……」
「私の、能力……」

少女は言われた言葉を落ち込んだ声で繰り返すのみで、反応らしき反応を示さない。その二人に、白衣を着た白髪の男性が近づいてきた。

「ドミニコ博士。言われたとおり、バンカーから女の子を一人連れて来ました」

ドミニコは、落ち込んでいる少女を見るなり、男性に怒りの目を向けた。

「途中、何かあったのかね!3G-543(さんじーごよんさん)!」

3G-543。これが、少女を拉致した男の名前、というよりシリアルコード。男は、人間にそっくりのアンドロイドだったのだ。

「申し訳ありません、バンカーの中でこの子を探す際、警備に見つかってしまい……住民を全滅させるしかありませんでした」
「なんということだ!543、お前は室内農場送りだ!」
「……はっ」

男はお辞儀をして、その場から去っていく。ドミニコは、少女に向き直り、「すまない」と頭を撫でようとした。だが、少女はその手をパンッと自分の腕で弾き飛ばした。

「なんで、お父さんも、お母さんも……友達のジェニーも!みんな殺しちゃったの!?」
「こんなことになるとは思っても見なかったのだ……我々のアンドロイドには、世界一のステルス技術が搭載されていたのだから、まさか見つかるとは」
「そんなことはどうでもいいの!ねえ、みんなを返して、ねえ!!」
困り切ったドミニコは、近くにいた女性研究員に手招きした。

「君、すこしなだめてやってくれ」
「は、はぁ……ねぇ、あなたの名前……」
「名前なんていいでしょ!?」

一度怒りのタガが外れた少女は、まくし立てるように怒鳴り続けた。

「私も殺してよ!」
「それはできない相談よ、女の子を殺すなんて」
「いいのよ!私が殺してっていってるんだから!」

「……仕方ない」

見るに見かねたドミニコは、少女の腕を握った。

「い、いたいっ……」
「少しの間、眠っていてもらう。落ち着いたら、ここがどんなにいいところか分かってくれるはずだ」

そしてドミニコは、薄い睡眠薬が入ったアンプルを白衣から取り出し、針をつけて、少女の手首に刺した。

「何するのよ!……あ、あ……だめ……眠くなって……」
「おやすみ」

少女は睡眠薬の効果に、ただ従うだけしかできなかった。


次に目が覚めた時、少女はベッドの上に寝ていた。

「お、お母さん……」

来るはずのない母親を呼び、起こったことを思い出して、涙をながす少女。だが、一人の時間は長く続かなかった。ドミニコが、少女の部屋に入ってきたからだ。

「どうだね。ゆっくり休めたかな」
「……ふん」
「……まあいい。『機関』へようこそ。アン、それが君の名前だね?」
「……そうよ」

少女はベッドに横たわったまま、ドミニコから目をそらしている。ドミニコはそのまま話を続けた。

「『機関』は、この世界で最も技術が進んでいる人々の集まりだ。そこに君が連れられてきた理由は一つ。君の能力が、我々に必要だからだ」
「……また、私の能力、なのね?」
「その通り!アン、君は、この世界においては稀有な存在なのだよ。大きなポテンシャルを秘めているのだ」
「バンカーでも一番頭が悪くて、力もないのに?」

アンは、ドミニコを睨んだ。

「とにかく、我々は君にバンカー以上の安全を与えられる。バンカーにいたときよりも、ずっと重要な役目を背負ってもらうけどね」
「ホントに?私が重要?」

アンは、少しだけ敵意を緩ませた。

「私、バンカーではずっと役立たずって言われてきたのよ?」
「ここでは、そんなことはない。むしろ、我々の存亡に関わるくらい、君は重要なんだ」
「そ、そうなの?」

アンは、少し目を輝かさせた。

「そうだよ。さあ、今日からその役目にとりかかってもらうことになっている。身体検査に来てくれないか」
「……わかったわよ。行けばいいんでしょ」

アンは、ドミニコに用意された着替えを着たあと、ドミニコに連れられ、『機関』の中にある生体研究施設に足を運んだ。『機関』の中では、アンがバンカーで見てきたものより新しく、洗練された世界が形作られ、子供の好奇心をそそるものがたくさん存在していた。アンは子供心ながらに、この施設に自分が大きく貢献できると分かって、心を弾ませていた。

「さあ、ついたぞ」

10分ほど歩いて付いた小さな部屋には、横倒しになったポッドのようなものが一つ設置されていた。それはアンの体よりもかなり大きく、大人が一人入っても十分に余裕がありそうだった。ポッドは大きなガラスが嵌めこまれ、中が見えるようになっていた。

「これに、入るの?」
「そう、君の体をくまなく検査しないとならないんだ。外は放射能汚染がひどいと聞いているからな」
「私、外に出たことなんて……」
「まあ、決められた手順というものがあるのだよ。さあ、入ってくれたまえ」

アンは、ドミニコの言葉とともに開いたガラス扉から、恐る恐るポッドの中に入り、枕のようなクッションに頭を横たえた。

彼女が、二度とそこから出られないことも知らずに。

「入った……わよ」
「よろしい。それでは、はじめよう」

ドミニコは、表情一つ変えずに、ポッドのそばにある操作盤の、大きな緑のボタンを押した。すると、シューッという音とともに、ガラス扉が閉じた。アンは、ドキドキしながら次の動作を待っていたが、その口を覆うように、ガスマスクのようなものが枕から飛び出し、アンの頭部をがっちりと掴んだ。

「んっ、んんーっ!!」

次に、マスクから逃げようとジタバタともがく手足を、ロボットアームが正確に捕まえてひっぱり、アンはポッドの中で強制的に大の字にされてしまった。

「どうだね。そんなに痛くないだろう」
「ん~っ!!(放して!ここからだして!)」
「ほうほう。放せ、出せ、か。できないな」

アンの思考はポッドに伝わるらしく、操作盤に表示されたその思考を、ドミニコは読み取っていた。そのうちにも、アンにシャワーのようなものがかけられ、服がびしょぬれになった。いや、濡れただけでなく、その場で溶け始めた。

「この日のために特別に用意した服だ。少しの食塩をかけるだけで、すぐに溶ける」

アンの小さな体がだんだんとさらけ出され、裸を赤の他人に見られる恥ずかしさのあまりアンの顔が紅潮した。

「(私をこんなにして、嘘をついたのね!)」
「嘘?嘘などついていないぞ?すぐにわかる」

完全に服が溶けきると、今度はその股を包むように、吸盤のようなものがアンに取り付いた。

「(もういやぁ!)」
「もう?いやいや、まだまだこれからだよ」

ドミニコは操作盤の表示を確認し、次のスイッチを入れた。すると、アンの手首にチクッと刺される刺激が、そして次の瞬間に、心臓がドクンッと強く脈を打つ衝撃が伝わった。脈が打たれるごとに、心臓だけだったその衝撃が、全身に伝わっていき、アンの体が、ビクンッビクンッと痙攣した。

「君は、この世界にはびこる、破壊と殺戮をもたらす巨人のことを知っているかね?」
「(こ、こんな状態でそんなこと……!)」

アンの体全体が、ビクンッビクンッと動き、全身の静脈が浮き立ち始めるのを見て、ドミニコは説明を始めた。

「彼らは、もともと人間だったらしい。我々と同じね。それが、一種のウィルスで強制的に怪物に変えられたらしい」

アンは、自分の体が次第に熱くなっていくのを感じた。

「その名も、『強制進化ウィルス』と言うらしいがね。核戦争前に、ここにあった国が超人兵器を創りだそうとして開発したものらしい」

アンは、自分の体が自分のものではなくなっていく感覚に襲われた。体内でグツグツと煮えくり返った細胞たちが、形を歪め始めていた。

「我々は、そのウィルスをある経路で入手した。そして徹底的に研究し、新しく作り上げたのが今君に注入している『強制成長ウィルス』だ」

そこまで説明が達した時、ついにアンの体が変化をし始めた。アンの骨がゴキゴキと言いながら大きく伸びはじめたのだ。

「ウィルスに遺伝子を書き換えられた破骨細胞と造骨細胞が動きを急加速させはじめたな。かなり痛いはずだが、我慢してくれ」
「んんんんーーーっ!!!!」

アンの手足は、太さを変えずに伸びていたが、次第に、体から何かが送り込まれるかのようにグググッと太くもなり始めた。

「(私が、押し広げられてくよぉ……!)」
「脂肪細胞にも、ウィルスの効果が出始めたようだな。胸部はあまり成長してないようだが、これは参ったな」

ドミニコが言うとおり、胸の部分はまだ小さな乳首しか存在しなかったが、これも、次第にプクッと膨れてきた。

「おお、乳腺が成長を始めたか。となれば次は……」

大きくなる乳首とともに、胸部に膨らみが見え始め、次の瞬間、ドカンッと大きくなった。ポヨンポヨンと揺れるメロン大の乳房は、まだ足りないというようにムクッムクッと成長していく。

「胴体も伸びて、女性らしいくびれができ始めているな。子宮も、今頃成熟しているはずだ。もともとのウィルスは不妊という副作用を引き起こしていたようだが」

股の中で、性器がムクムクと大きくなっていくのが、ドミニコにはポッドに付いたセンサーで、アンには急激に大きくなっていく股間からの快感で分かった。同時に、肉がついていなかった尻も、プクーッと膨れた。

「(あっ……んんっ……!)」
「よし!アン、君は『機関』の子供を授けられる、立派な女性だ!」

すでに170cm位になっていたアンの肉体は、ビクンビクンと震えていた。足にはむっちりとした脂肪がつき、胸にはバスケットボール並の大きさの乳房がタプンタプンと揺れている。幼さを少し残した顔には、体が変わる前と同じ、サラサラした金髪。貧相な体だったアンは、今や『機関』一のグラマラスで、美しい女性に変わったのだった。

「(こ、こんな体にして……なにするつもりなの……)」
「まだ、気づかないのかね。仕方ない、一から説明しよう。『機関』は、もともとは15人くらいの小さな団体だった。核戦争の時に生き残れた、幸運な我々の祖先だ。今『機関』にいる200人全員が、その15人の子孫、というわけだ」
「(それが……どうして、私に関係あるの……?)」
「ふむ。このように小さい団体から大きな共同体を作るには、何回も遺伝的に近しい者同士で、生殖行為を行わなければならない。ただ、これは遺伝子的にリスクが大きいことがわかっている」
「(……)」
「つまり、アン、君のような外部からもたらされた遺伝子が必要なのだ」
「(私に、子供を産んでほしいの?そんなの、いや!)」
「もう、断る権利は君にはないよ」

ドミニコは、操作盤のスイッチをポンと押した。と同時に、アンの性器の中に、股の拘束具から何かが送り込まれた。

「(な、なにしたのよ!)」
「アン、君の最初の子種だ」
「(えっ……んんっ、おなか、おなかがふくらんでる!)」

子種を受け取ったアンの子宮の中では、すでに受精が済み、胎児が成長して、アンのくびれた腹部を中から押し広げていた。あっという間に臨月の大きさまで育つと、そこで膨張は収まった。

「(いた、いたいっ!)」
「陣痛のようだね」
「(ぐっ、ああああっ!!)」
「ちなみに、今のは私の精子だ。やっと子供ができて、私も嬉しいよ」

アンの膣から、赤子が飛び出すように出てきた。そして、股間の拘束具からポッドの外に送り出されると、産声を上げた。ドミニコはその赤ん坊を取り上げ、ニコニコしながらあやすと、ポッドの脇においてあったベビーベッドのようなものに載せた。

「(ひどい、ひどいよ……私、ずっとこのままなの……?)」
「ああ、そうだ。君はそのポッドから出られはしない。その代わり、仮想現実の世界を見せよう。両親といつまでも中にいられるぞ。それに、この行為はそこまでひどくないぞ。上の世界では、奴隷商が人を人として扱わず、無害な住民が、賊によってスポーツ代わりに殺されることもあると聞いている。それと比べたら、君の体は傷つけられることはない」
「(でも……)」
「我々も生きることが必要なのだ。明るい未来をつくるためには、どんな犠牲でも惜しまない。とうの昔にそう決め、実際そうしてきた。アン、君だけ例外とはいかないのだ」
「(う、うう……)」

アンは、目を閉じて、自分の悲運を恨んだ。しかし、「それでは、仮想現実装置オン」というドミニコの声が聞こえた後、目を開くと、そこには自分のこれまでの生活、両親や親友があった。

「アン、どこに行ってたの?心配したわよ」
「アン、そろそろ食事が配給される時間だぞ」
「アン、明日もまた遊ぼうね!」

「お母さん、お父さん、ジェニー……うん」

苗床となってしまった自分の現実から逃げるように、仮想現実にのめり込んでいくアンだった。