菊月妄想2-3

「如月ちゃん、おやすみ!」

キク、キィと三日月が夜の戦いをしているさなか、如月と睦月(大)は灯りをつけて寝床についていた。

「睦月ちゃん、おやすみ」
如月は睦月に挨拶をし、布団にくるまった。そして、小さなため息をつく。
「司令官……如月のこと、忘れないでいてくれるかな……」

如月は、不安だった。これまでも、旗艦のキィを始め、たくさんの菊月の中で存在感が自分の存在感が大きいとはいえなかったが、キクと睦月が戦艦クラスのサイズになり、その大きくなった二人の脇で如月はアピールの機会すら与えられなかった。
司令官の中で、自分の影がさらに薄くなることを恐れる如月。だが一方で杏仁豆腐に精神を影響され、皆を襲い始めたキクを目の当たりにして、自分は『ああはなりたくない』という別の恐怖から、杏仁豆腐を口にすることはためらっていた。

「如月は、如月のままでいたいもの……」

しかし、不安は溜まる一方。隣で早くも寝息を立てている睦月は、性格が似ているせいで「でかい睦月」と呼ばれる鈴谷に負けずとも劣らないスタイルになっていた。

「うぅ……睦月ちゃん、私の事、置いてかないでね……」
寝ていることを分かっていつつ、睦月に声をかける。と、

「むにゃ……もう食べられないにゃ……」
子供っぽい寝言をつぶやく睦月。その姿に安心した如月は、そのまま目を閉じて、眠りについた。

だが、如月は知らなかった。自分が食べた夕食の中に、杏仁豆腐が少し混入していたことを。そして、その効果は量に関係なく、ただ発現するまでの時間が変わるだけのことを。

その数時間後、ついに如月の体に変化が起こり始めた。

睦月型で唯一Bカップに達していたその胸がピクッと震えると、ムクムクと大きく膨らみ始める。

「んんっ……ん……」

大きく押し上げられた寝間着の下から現れるウエストも、上下に伸びていく。脚も伸び、スルスルと寝間着から先端が出ていくとともに、太ももにムチムチと肉がつき、尻も成長する。

部屋着の中で膨張をやめない乳房は、ムギュギュギュと成長を加速させ、隣にいる睦月の大きさを追い越し、顔よりも大きくなる。

「んはっ……」

パツパツになった服に押さえつけられ、行き場所を失ったそれは、服の下からこぼれ始めた。もはや鎮守府の中で一番大きいと言っても過言ではない、スイカサイズの豊かな果実は、呼吸のたびにフルフルと震えた。

「はぁ……はぁ……」

しかし、これほどの変化があっても、いろいろあった疲れからか、如月が眠りから覚めることはなかった。


いつも通りの時間に、いつも通りに目が覚める如月。

「んん……」
寝ぼけ眼で布団から体を起こし、髪飾りをつけて、顔を洗いに洗面所に向かう。

「ちょっと……変な感じ……ひゃぁっ」

(ドタァッ!)

あまり前が見えていない状況で歩いていたせいか、床においてあった何かにつまづき、転んでしまった。

「な、なんなのよぉ……」
自分が脚を引っ掛けたものを確認しようと、足元を見ようと……したが、何かに邪魔されて見えない。

「え?なに……これ……?」

目の前にある、服に包まれた何か。服の中なのだから自分の体の一部であることは間違いないのだが……

「如月ちゃん……?どうしたの……?にゃっ!!??」
「睦月ちゃん?」

布団から出てきた睦月は、自分の目を疑っているように目をゴシゴシとこすった。

「や、やっぱり!如月ちゃん、大きくなってる!」
「私が、大きく……?」

如月は、自分の体を起こそうとして、胸に異常な重みがかかっているのに気づいた。
「おもた……って、これってもしかして……」
「おっぱい、おおきい……」
「おっぱい……?私の……?」

体を起こし終わると、胸にくっついている二つの肌色の塊を手ですくい上げる。
「やわらか……じゃなくて、どうしてこんなことに……」
「すごいよ如月ちゃん!キィちゃん顔負けだよ!」

如月は、大はしゃぎしている睦月に釣られるように少し苦笑いした。
「大きすぎよ……これじゃ悪目立ちしちゃう」と言いつつ、司令官にまた見てもらえることに少し喜びを感じるのだった。

「如月姉さん!さっき大きな音がしましたけど、大丈夫ですか!?」
「えっ……」

それだけに、扉をバァンと開けて登場した三日月……のようなトランジスタグラマーの女性に感じた戦慄は大きかった。

「三日……月……ちゃん……?」

たゆんたゆんと揺れる胸を見て動きが固まる。
「あぁ、すまない、如月……三日月もアレを食べたのだ……おい、貴様もか」
三日月の後に入ってきたキィは、如月をみて呆れ顔になった。

「いえ、私は……」
「昨日の夕食に、私が入れておいたんですよ。如月姉さん、ちょっと気になってたみたいでしたから」
「あ、そうなの……」

如月とキィは、呆れて頭をおさえた。

「睦月は、みんなが大きいの楽しいけどにゃ!これが睦月型のホントの力!」

そして、皆を元気づける一番艦のノリには、ついに誰もついてくることはなかった。

菊月妄想2-2

「新人ちゃん、お疲れ様!いつもより潜水艦の位置が分かりやすくてよかったにゃ!」
――帰ってそうそう、睦月がキクに抱きつくと、キクの巨大な乳房に顔が当たって、ボヨンと揺れる。
「あ、あっ……」
慣れない、柔らかい感触に、睦月は少し狼狽しているようだった。

「ごめんね、キクちゃん……でもっ!」
「ひゃぁっ!」
今度は如月が、キクの胸をガシッとつかんだ。

「おっきすぎよぉっ!キクちゃんのおっぱい!司令官をどうする気!?」
「や、やめっ……んぁっ!」
胸をもんでもんでもみまくる。如月らしくない行動にキクはどうすることもできず、ただ喘ぐだけだった。加えて、如月は司令官の身を案じて、怒っているわけではなかった。

「ねぇっ、教えてよっ!!」
その顔は、やましいことを考えて興奮しまくっている変態の顔であった。寒気を感じたキクは本能的に如月から離れた。
「な、なにもしないぞ!」

如月は胸を揉む姿勢のまま少し硬直していたが、すぐに落ち着いた。
「あっ、ごめんなさいね。キクちゃんが大きくなったのは、自分の意志じゃないものね」
だが、如月は懲りずにキクに近づいていっていた。それを止めたのは、キィだ。

「おいおい、キクも疲れてるだろうに……その辺にしておいてやれ」
ここまで静観していたキィが言うセリフでもないようにキクは思った……

――そして菊月部屋に戻る。

「まぁ、如月は睦月型の中で一番体のメリハリがあったからな」
「メリハリ……?」

ぽかーんとするキクに、キィは思わず苦笑いである。いまや睦月型どころか艦娘を全員集めてもキクに勝るダイナマイトボディなどいない。実際司令官も鼻の下を伸ばしていたのだ。

「如月も、それは怒るだろう」
「ん……?如月が怒っていた?」

――キィはあのニヤけた顔を見ていなかったのだろうか。キョトンとした顔をしあう二人。

「まさか、気づいていないと……?まあいい、キクは私のものだ。私が守ってやる」
「あぁ…………うむ」
キィの表情は私を頼っていいぞ!という頼もしいものだった。と同時に、ほめてほめて!とも訴えているようにみえた。試しに、キクはキィの頭をなでてみた。

すると、キィはニコッと笑顔になる。
――かわいい……と、目の前で喜んでいる小さい子に庇護欲が生まれ……

……段々と独占欲に変わっていく。

――私は、キィのもの……なら、キィも、私のもの……

キィが自分の感情が漏れていることに気づいて、凛とした表情に無理矢理戻したことで、キクの欲望は高まっていった。

「おい、撫でるのをやめ……っ!」

キィの目に映ったキクの表情は、ついさっきまでのオドオドしたものではない。それは、キクを支配したい、自分のものにしたいという歪んだ笑顔だった。

「ひっ……!」
「怯えるキィも、かわいい……」

キクは頭を撫でるのをやめないまま、キィを座らせ、仰向けに寝かせる。キィの方も無意識にキクに従ってしまう。朝とは完全に攻守逆転した二人。杏仁豆腐を食べた直後に出現した、性欲にまみれたキクが、再び現れたのだ。

「昨日の続きだ……」
「あ……あ……」

キィのスカートが脱がされ、上着も全部はがされる。キクも上の服を脱いだ、その時だった。扉が、ギィッと音を立てて開いた。

「み、三日月……?」
「ん……?また邪魔に来たのか……?」

外にいたのは、長く黒い髪、金色の瞳、大きくはねた一房の前髪。10番艦の三日月が、うつむいて立っていた。そして、その手には……

「まさか、それは!」
「そう、杏仁豆腐……ですよ」
そう言ってゆっくり顔を上げた三日月もまた、キクのように歪んだ微笑みを浮かべていた。その手で持つ小さめの小鉢に、どこで手に入れたのか、昨日の杏仁豆腐が入っている。

「ふふ、そうか……面白い……」
キクは不敵な笑みを浮かべ、必死に三日月を止めようとするキィを床に押さえつける。

「三日月に、キィはやらんぞ」
「大丈夫ですよ、キク姉さん……」
三日月は、小鉢の杏仁豆腐を、口に滑り込ませた。そして、ひと噛みもせずに飲み込む。

「……欲しいのは、キク姉さんの方ですから……」
キクたちの方に歩みだした三日月の足が、スカートから伸び、三日月の身長が伸びていく。スカーフを外し、上着を脱いだときには、彼女の胸が膨らみだし、ムクムクと大きくなって、キクのそれと同じか、少し小さいくらいに成長する。ぷにぷにしていた子供の短い腕は、皮下脂肪を適度に蓄えながら伸びる。

「どうしたんだ、三日月、お前らしくないぞ!」
「キィ姉さんは、黙っていてください、ね?」
三日月から感じるとは思っても見なかった圧倒的威圧感に、キィは動けなくなってしまった。その間にも、三日月の体の変化は続く。脚にもむっちりとした脂肪が付き、スカートはくびれたウエストに巻き付いて、膨らんだヒップを隠しきれない。三日月は、歩きながら、自分の体についたウエストラインをなで、胸や尻を触って、成長を確かめる。そして立ち止まって、キクに向かってニコッと、いや、ニヤッと、笑顔を向けた。

「私だって今なら……キク姉さんをイカせられるんです……」
そして、キィを拘束するために四つん這いになっているキクに後ろから抱きつき、首筋をペロッと舐めた。

「んんっ……!」
キクは予期しない快感に全身を震わせる。何とか耐えたが、キィの拘束は解けた……とはいえ、信じられないほどの変容を遂げた二人を前に、キィはただ打ち震えることしかできなかった。

「三日月、昨日の仕返しか……?」
「違いますよ……恩返し、です」

三日月はまた立ち上がって、一瞬にして成熟した体を二人に見せつけた。
「この快感に目覚めさせてくれた……だから、キク姉さんにも快感をあげます」

キクはキィの横に体を横たえ、キィを抱き寄せた。固まったままのキィに頬ずりをしたあと、三日月と同じように、体をくねらせ、ボディラインを見せつける。
「キィとの時間を邪魔しなければ、それでいいのだが……?」

「そうは行きませんよ、姉さん」
三日月はキクに胸を押し付けるように、自分も床に横たわる。
「私も、もっと楽しみたいんですから……」

菊月妄想2-1

ここは鎮守府。100を超える艦娘たちが暮らす、兵舎のようなところ。中は多くの部屋に分けられ、大抵は睦月型や初春型など、型式ごとに割り振られていた。
ただ、その中でも睦月型九番艦の菊月はずば抜けて数が多く、菊月専用の部屋、その名も『菊月部屋』と呼ばれる部屋があった。

「では、行ってくるぞ、キィ」
「武運を。イベ」

あまりにも多い菊月を呼び分けるために、あだ名が一人ひとりに付いているのだが、それはともかくとして、一人だけ体格、というか年齢がおかしい菊月がいた。周りは中学生ほどだというのに、その菊月だけは普通の女性の成人よりも一回り大きい。

「キク、足がしびれてこないか?」

先ほどイベと呼ばれた菊月を送り出したキィは、その大きな菊月、キクに膝枕をしてもらっていた。その左薬指には指輪が光り、提督の特別な存在であることと、非常に高い練度の証となっている。

「いや、これくらいのこと……轟沈に比べれば……っ」キクはガクガク震え、特注の制服を大きく押し上げている、豊満に育った胸がプルプル揺れている。
「つらそうだな。もう四時間はこの状態なのだから仕方ないが……」キィはそう言いつつも動かず、キクの太ももに顔を埋め、気持ち良さそうにこすりつける。

「な、なら、そろそろ……」
「却下だ。私に尽くすのは、司令官の命令でもあるからな」
キクの懇願を一刀両断すると、キィはスリスリと顔をこするのを続けた。あと一時間はこれが続きそうだったが、ドアがノックされる音でキィがすっくと立ち上がり、キクは正座の地獄から解放された。

「入っていいぞ」と、ドアに向かって歩きながらキィが許可を出す。
すると、「あ、キィちゃん、あのね」と入ってきたのは、茶髪をポニーテールにまとめた、睦月型7番艦の文月だった。「司令官さんが呼んでたよ。キクちゃんも一緒に来てって言ってたぁ」

「了解した」と、キィはうなずいた。「ほら、キク、行くぞ」

キクは、まだしびれが取れない足をさすりながら、「ま、待ってくれ、う、ううっ……」と呻いたがキィはさっさと出て行ってしまった。

キクはその後1分くらいかかってやっと部屋を出られたが、外には文月がちょこんと立っていた。

キクがつらそうな顔をしていたのを見て「キクちゃん、大変だね」と文月は心配そうだ。
「なに、こんなこと……ところで、なぜ文月は私を待っていたのだ?」
「えっと……自己紹介、まだしてなかったよね?」
首を傾げながら尋ねてくる7番艦に、幼さとあどけなさを感じるキクだった。

「ああ、そうだったな。睦月型9番艦の、菊月だ。昨日付けで、この艦隊に配属になった。よろしく頼むぞ」とゆっくり頭を下げるキク。
「7番艦の文月だよ〜。フミフミって呼ばれることもあるよ」とペコッとお辞儀する文月。「よろしく〜!ねえねえキクちゃん〜」

文月は、後ろに手を組んでキクに尋ねてきた。キクは、文月の好奇心いっぱいの目線に少したじろいだ。

「キクちゃんって、『やせん』、したことある?」

キクは、深海棲艦の魔の手から救われたばかりで、夜戦どころか敵との遭遇すらしたことない。そんなキクには、この質問に対する答えは明らかだった。

「いや、したことはないな」
「そうなんだ。わたし、司令官と『やせん』すると、すごいんだよ!」
「司令官と?」
「そうだよ〜!」

その時、キクの脳裏に、一日前のハプニングがよぎった。キクは体が大きくなったはずみで、キィを押し倒し、あらぬことをしてしまったのだ。そして、目の前の文月は「司令官と『夜戦』」すると、「すごい」と言っている。キクは、この『やせん』と、キィに対して行った行為が同一であるものではないかと疑った。同時に、文月を襲う司令官、いや、司令官を襲う文月を想像してしまった。かわいらしい見た目に反して、鍛え抜かれたテクニックで司令官を押し倒し、要所を手際よく攻めていく文月。

「キクちゃん?どうしたの?」

文月がいつの間にか近くにより、キクの目を覗き込んでいた。キクは心臓が飛び出るかと思うほど驚き、大声を出してしまった。
「ふ、ふみっ!そ、そろそろ行かないと、司令官とキィに叱責されてしまうから、ま、またな!」

逃げ出すようにその場を後にしたキクを、不思議そうな表情で見送る文月だった。

ーーー

「ま、待たせた!」と、キクが司令室に飛び込むと、キィが顔をニヤニヤさせた。
「お、やっと来たか。えー、キクキクでよかったか」と言ったのは、士官の制服に見を包んだ男、間違いなく司令官であった。

「その通りだ……司令官、どこを見ているんだ?私の顔はこちらだ」明らかに司令官の目線はキクの顔の少ししたに向いていた。黒い制服を大きく押し上げる膨らみに、完全に目を奪われていた。「……」しかも、呼びかけには答えずジーッと見つめている。

「コホンッ!」とキィが咳払いをすると、ようやく司令官は反応を見せた。

「ああ、すまない、すまない。しかし、かなり立派な育ち方をしたものだな」司令官はこころなしか興奮しているようで、息が乱れている。
「……任務でないなら、部屋に戻るぞ」キクは呆れてしまい、多少の苛立ちを顕わにした。

「ああっ!私が悪かった!……実はあの杏仁豆腐は戦艦になりたがっていた駆逐艦に渡そうと思っていたものだったのだが……予想以上の効果があったようだ……」キクが司令官に背を向け、出ていこうとしてしまい、司令官はかなり取り乱した。「あっ!ちょっと待って!話を最後まで聞きたまえ!あの杏仁豆腐のおかげで、君は戦艦級の装備を艤装できるようになった。だが、練度は最低、戦果を出すことは難しい」

「……なるほど」
「そう、そこでだ。キクにはキィ、睦月、如月、三日月で編成される臨時第一艦隊で、敵潜水艦を相手に実戦経験を積んで欲しい」
「せ、潜水艦……」今のキクは体が大きくなった分、巡洋艦クラスまでは装備できる魚雷が、逆に積めなくなっていた。つまり単艦では完全に無防備で、潜水艦を相手にするなどもってのほかだ。
「心配するな。キィは練度が高いから雷撃を外すことはないし、その他の三人も信頼に足る駆逐艦だ。キクは敵の状況を確認し、指令を出す練習をしてくれればいい」
キクは不安を感じながらもキィの落ち着いた顔を見て了承した。

「どう、きくちゃん?大和さんからもらった艤装は準備万全?」出撃後、如月がキクに尋ねる。特大サイズの艤装は、全て合わせれば今のキクとくらべても大きい。それをキクは、苦労しながらも操っていた。
「それにしても新人ちゃんおっきいのね!浜風ちゃんとかよりもおっきいんじゃないかにゃぁ?」睦月は、(杏仁豆腐を食べた睦月とは違うもう一人の方だ)ぷるんぷるんと揺れているキクの胸を凝視しながらはしゃいでいる。如月は「やだもう睦月ちゃんたら……」と多少嫌そうな表情を見せた。だが、如月も少し気になるようで、チラチラと胸の盛り上がりを見ている。
キクはその視線から逃げるようにキィの方を見ると、キィは遠くの方を凝視している。海風で後ろに流れる白い髪と凛々しい表情は、昨日見た弱々しいキィとは大違いだったが、キクはつい見とれてしまうのだった。キィもその視線に気づいたのか、一瞬キクの方に目を向けたが、少し口元をゆるめただけで、すぐに索敵にもどった。

「およ?三日月ちゃんどうしたのです?緊張しちゃってる?」

睦月の声に、キクは三日月を見た。三日月は下を向いたままで、ほとんどその黒い髪とセーラーしか見えない。「だ、大丈夫です」という声も細く、震えている。キクは気にかかったものの、練度は高い駆逐艦ということで、気にしないことにした。

「……見えた。十時の方向に、敵潜水艦」

キィの静かだがよく通る声とともに、戦闘が始まった。

菊月妄想3

体の熱は、どんどん大きくなって、やがて菊月の体全体が燃えるように思えるほどに熱くなっていく。

「はぁっ……はぁっ……」

荒い息をし始めた菊月に、如月が「大丈夫、菊月ちゃん!?」と呼びかけるが、それが聞こえないほどの動悸に菊月は襲われていた。

(煉獄の炎のようだ……っ!)

苦しみ始めた菊月に、窓際に座っていたクゥも、チラチラとこちらを見ている。今の事態の産物は、今は泣き止んでほけーっと菊月を見つめている睦月の体を見れば一目瞭然だ。そして、その『結果』に向かって、菊月の体が変化を始めようとしていたその時だった。

「今、帰還したぞ。ん?何だ、如月も三日月もまだいたのか……」

それは、簡単な出撃を終えてきた(といっても彼女以外は全員大破した)キィだった。納豆は誰かに取ってもらったのか無くなっていた。そして、司令を反故にしてまだ菊月部屋を出ていない如月と三日月を叱責しようとした。しかし、菊月が急にうめき声を上げたのを見て、キィは反射的に菊月に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!?この杏仁豆腐で食あたりでも……」
「う、うぅっ!!!」

グイッ!

苦しがって胸を抑えていた菊月の体が、急に縦に伸びた。服が持ち上げられ、へそと太ももが顕になる。目の前で突然大きくなった菊月に、キィは思わず飛び退いた。

「な、何が起こって……!」

ググググ……

体の伸長は止まらず、140cmくらいあった身長が、160cm、165cmと大人の平均身長さえ超えてどんどん大きくなっていく。

「ぐっ……くぅ……っ」

その白い髪は身長に合わせて伸び、腰を覆っていく。今や制服はピチピチになって、スカートはところどころ破けている。靴下の先も、指がだんだん見え始め、太ももにも肉がついて、靴下の張力がつくる谷が大きくなっていく。

「胸が……熱いっ!!」

今まで平らだった胸も、急速に成長が進んでいく。制服を引き裂いて出てきた肌色の丘は、むくむくと大きくなって、10秒くらいたったときにはもうりんごサイズになり、その後も水風船のように膨らむことをやめなかった。

「あわわわ……」と三日月は硬直し、如月は口を押さえて青ざめている。キィは変身をほぼゼロ距離で見せられ、その場で腰を抜かして床にへたり込んでしまった。

「まだ、大きくなるっ……!」

ムククーッと膨張する乳房は、制服をさらに破って、ついにはメロンサイズまで成長してしまった。そして、変身が終わった。

「私は、いったい……」

自分の体の状況を確認しようとして立ち上がると、今まで見えていた世界と全く別のものが見え、狼狽してしまう菊月。それもそのはず、175cmの身長となった今、目の位置は普段に比べて頭一つかそれ以上上にあったのだ。

「き、キクちゃん……」如月は、戦艦でも尻込みするほどのスタイルになった菊月になんとか話しかけた。「す、すごいわね……その体。色仕掛けも、それだったら楽にできるわよ……」

「そう、なのか……?」菊月は、豊満な胸を見、張りのいい尻を触ってみたりした。そして、足元を見ようとすると、これがなかなか胸が邪魔で見えない。菊月はすこし前かがみになった。

「あっ……」その時、キィと目が合った。先ほどの威厳はどこへやら、少し震えながら菊月のことを見上げている。

(キィ……)

その、なぜか急に愛らしく見えた橙色の瞳や、今はついていないはずの納豆の一粒、そしてサラサラとした白い髪が、急に……

「欲しくなって、しまった……」
「な、に……?」

その先の行動は、本当なら破廉恥極まりない恥ずべきことなのに、菊月にはもはやそれが当然に思えた。キィを大きくなった力で押し倒し、服を脱がせ始めたのだ。

「やめ……うっ」

菊月の眼光は、キィを自分のものにせんとする獣のように、キィを圧倒していた。

「キィよ……こういうものは、好きか……?」と、菊月は服を脱がされて露出していたキィの右乳首を、口でつまみ始めた。

「ひゃっ……!」キィは、性にも合わない可愛らしい嬌声をあげ、幼い体には強すぎるほどの快感に溺れてしまった。

「ふふ……練度が高いとは言え、やはり一人の駆逐艦なのだな……」菊月は、今度は乳首を甘噛みした。変身する前には、こんな事が誰かに刺激や快感をもたらすことなど、知りもしなかった菊月だったが、体が自然に動く。

「っ……!きゅっ……」キィは必死に菊月の攻めに耐えているが、目が虚ろになり、手足はビクビク痙攣するばかりだ。

「このまま私のものとなるがいい、キィ……」
と、その時、「だ、だめですそんなこと!」と、三日月が菊月の背中を引っ張り上げようとした。無論、体格差が大きすぎて菊月はびくともしない。だが、菊月はそこでピタッと動くのをやめた。

「三日月……?」キィは、攻めが止まったおかげで意識がはっきりし、助け舟を出した三日月を見つめた。

「キク姉さん、忘れてはいないでしょうけど、私たちは提督の指示に従うことが使命なんです。どんなはずみなのか知りませんが……」と、三日月は菊月をなだめようとしたが、その言葉は菊月に遮られた。三日月の方にスッと向いた菊月が、顎の下をツーっと指でなでたのだ。

「ひゃぅああっ……!」三日月はその場にガクンと膝をついて床に倒れ、そのままビクビクと震えた。「にゃんなのぉ……」

菊月はフッと歪んだ笑みを浮かべた。「やはり三日月はそこが弱いようだな……私はキィが欲しいのだ。心配するな、三日月もあとから……」

「おや?キィは私のものだ。新人のくせに、生意気な態度を取るんじゃないぞ」と遮ったのは、いつの間にかすぐそばにいたクゥだった。

「クゥ……?」のしかかられたままのキィが、困惑した表情でクゥを見た。クゥはニッと口を緩ませる。

「百戦錬磨のキィだが、この鎮守府に加わったのは私とたった1日違うだけだ。それ以来、どんな資源不足も、どんなイベントも、二人で共に見続けてきた」

自信満々に言うクゥだが、キィは困惑したままで、完全に片思いなのは誰の目にも明白だった。

「だから、新人の貴様に、キィをくれてやるものかっ!」
「ひゃぁんっ!」

クゥは菊月に後ろから飛びつき、その胸を鷲掴みにした。菊月は思わず悲鳴を上げた。ただ、キィとは違って、大人の色気というものがたっぷり詰まっていた。

「な、なにをするっ……ひゃぅっ!」

キィの方も仕返しとばかりに、菊月の乳首を覆うように口をつけ、出もしない母乳を欲しがるようにチューチューと吸いだした。そして、牛の搾乳のように手のひら全体を使って、胸を揉みしだいた。

「この菊月は、……はぷっ……貴様らのペットではないぞっ……!」

クゥは尻の方に移動し、破れかけのスカートを引き裂くと、菊月の尻をペシペシと叩き始めた。

「こうも大きいと、叩きやすいものだな!」
「くっ……この菊月、この程度ではっ!!」

菊月はしゃぶられたままの乳房ごとキィに再びのしかかると、その顔を胸で覆い尽くした。

「ひゃ、やめ……ろっ」
「クゥよ、叩くのを、やめないとっ」

収拾のつかなくなった菊月三人に、提督からの制止が入ったのは、その後30分も経ってからだった。

「如月に呼ばれて来てみれば、これは一体どういうことなんだ」
「すまない、私の管理不行き届きだ」

提督の問いただしにすぐに答えたのは、キィだった。ただ、足は菊月に攻められ続けたせいでガクガクと震え、今にも倒れそうだ。クゥは申し訳なさそうにその隣にちょこんと座っていたが、菊月は二人の後ろでビクンビクンと時折痙攣しながら倒れていた。

「司令官、この新人なんだが……今や戦艦クラスの装備も扱えることだろう」
「なに、そこで倒れているのは新人菊月なのか?」

提督にとっては、菊月部屋に来てみたら3人の菊月がプレイをしていた、ということくらいしかわからないのだ。なんせ、如月はいきなり始まった乱交パーティと、助けに行こうとした三日月が一瞬で陥落したことに対応しきれず、提督に助けを求める時も「しれいかん……きくづき……さんにん……たすけて……」と単語を羅列することしかできなかったのだ。

「ああ、そうだ。そこにある杏仁豆腐を食べたら急に大きくなってな」
「そうか。それで、新人が戦艦になれば一緒に出撃できると?」

キィはコクッとうなずく。

「この新人のことが、気に入ってしまってな。多少資源はかさむだろうが、ちゃんと運用してやってくれ」
「ふむ……菊月を主力艦隊で二人使えるのは願ったりかなったりだし……きぃちゃんの願いだ、わかった」
「うむ」

『きぃちゃん』という呼び方に、顔を少し赤らめながら、提督に向けている眼差しはきらめくようだった。

「ただ、その前に……」

提督は、キィの後ろを指差した。最初から倒れていた菊月に加えて、キィが菊月を気に入ったことを知ったクゥが、泡を吹いて倒れていた。キィは呆れたような顔になったが、すぐ提督に微笑んだ。

「きっと司令官も、すぐ新人のことを気に入るぞ」
「ああ、わかってる」

二人の左手の薬指に、同じ銀色の指輪が光った。

菊月妄想2

二人に連れられ、菊月は「菊月」と書かれた扉の前に来ていた。

「お邪魔しま~す」「失礼します」

如月がドアをノックし扉を開け、三日月と一緒に中に向かってお辞儀をし、進んでいった。菊月は少しの不安を感じながら後に続く。

「おお、如月、三日月、補給はできたか」

中では、もう一人の菊月が食事をしていた。献立は、納豆をかけたご飯、味噌汁と漬け物、お茶という質素な物だった。納豆は大粒で、一粒頬にくっついていたがその菊月は気づいていないようだった。

「ちょっと、この新人さんを案内してあげたくってね」「補給はこのあとすぐします」と言う姉であるはずの二人は緊張を覚えているようで、今日「起きた」ばかりの菊月とは明らかに違う態度で接していた。

「新人、か。自己紹介をしてやるか」ご飯を食べていた菊月はお茶を少し飲んで立ち上がり、新人菊月に向き直った。納豆を頬につけたまま。

「私が、睦月型九番艦、菊月だ」その左手の薬指に、結婚指輪が光る。威厳を感じさせる何かが、感じられる。「第一艦隊旗艦、百戦錬磨の駆逐艦……提督に付けられたあだ名は!」

菊月は、ゴクリとつばを飲んだ。ところが、そこまでは淡々と喋っていたその駆逐艦娘は、なぜだか顔を真っ赤にした。そして、少しうつむいて、かろうじて聞こえるくらいの大きさで、ぼそっと言った。

「……『きぃちゃん』……だ……」

場の空気がカチンコチンに凍ったように、菊月は感じた。納豆をつけたままの『きぃちゃん』は、ガクガクと震えながら続けた。

「き、『キィ』と……呼んで、構わない……ぞ……。我々の艦隊に、か、歓迎する……」

戦いでその意思と戦闘技術を磨き、大ベテランであるはずの旗艦菊月が、かわいらしいあだ名を付けられそれを名乗ることを恥ずかしがりながら、なおリーダーとしての役目を果たすのを見て、新人菊月は敬意を感じざるを得なかった。とりあえず、納豆を取ってあげたかった。

「さ、さぁ。新人よ、茶でもどうだ?」と、まだ顔が赤いが新人菊月を直視しなおしたキィは、手で食卓においてある急須を指した。「ほら、如月たちも」

「じゃあ、お言葉に甘えて」「では、湯呑みを持ってきますね」三日月はキッチンにある食器棚に向かっていき、如月と菊月はキィとともに、食卓に座った。程なくして、三日月も三つの湯呑みをお盆にのせて座り、急須からお茶をいれると三人に加わった。

「それで、新人菊月よ。あだ名はなにがいい?」と、キィは真顔で言った。
「あだ名、だと……?」

それは菊月にとって思いがけないことだった。如月と三日月にはあだ名は無いようだったからだ。しかし、考えてもみれば、十人以上いる菊月に、あだ名でも付けなければそれぞれを正しく覚えたり、指揮することなどできない。といって、艦むすとしての基礎知識しか記憶に無い菊月には、自分をなんと呼んで良いのかなど、皆目見当が付かなかった。
一分くらい考え続けていた菊月を、ご飯を食べながら見ていたキィは、少しほほえんで

「思いつかないか。では、キクキクなどどうだ?この名前なら、司令官も気に入ると思うぞ」
「き、キクキク……」

菊月は愕然とした。『きぃちゃん』よりはましかもしれないが、『菊月一号』のほうがまだ良かった。だが、キィの威厳とそのあだ名のギャップを考えると、それくらいの辱めは受けて当然、というのが結論だった。

「い、いいだろう」
「よろしい!では私は任務があるので、これで失礼する。すぐに戻るが、その時には艦隊での指命について教授しよう」
「あ、あぁ、頼むぞ」

キィは、食器を台所に片付けると、悠々と去って行った。納豆は結局顔に付いたままだった。

「じゃあ、私たちは睦月型部屋に戻るわね。早く補給しないと、きぃちゃんに怒られちゃうわ」
「これから、よろしくお願いしますね」

如月と三日月は早々にお茶を飲み干すと、出口へと向かっていった。菊月は手を振りながら見送ろうとしたが、如月が扉を開ける前に、勝手に扉が勢いよく開いた。

「如月ちゃあん!!」と飛び込んで来たのは、長身の戦艦娘のように見えた。しかし、赤みがかった焦げ茶色の髪と、濃い緑のセーラー服が、それが睦月であることを示していた。

「む、睦月むぎゅっ」ただ、回避する暇も無く抱きつかれた如月の顔に、特大の柔らかい何かがが押し当てられた。間違いなく、幼児体型だったはずの睦月は、爆乳になっているのだ。背はかなり伸び、セーラー服からのぞく腰はきゅっと絞まり、顔も若干大人びている。黒いソックスはところどころが破け、太ももがはみ出している。

「睦月、大きくなっちゃった!入渠が終わったから間宮さんのところに行ったんだけど、途中にあったレアチーズケーキを食べたら体が熱くなって、気がついたらこんな感じになってたのね!」睦月は、強く抱きしめている如月がバタバタ暴れて逃げようとしているのにも気づかず、まくしたてた。「どうしよう!装備も合わないし、体が重くて砲撃されてもよけられないにゃ!あ、あれ?如月ちゃん?」

如月は、抱きしめられたままぐったりとしてしまい、腕がだらんと垂れていた。胸に包まれ、息ができていなかったようだ。睦月は如月を抱擁から解放すると、如月の肩を激しく揺らした。

「如月ちゃん!如月ちゃぁん!!」
「如月のこと、忘れないでね……」如月の目は虚ろだった。
「洒落になってない!なってないですよ!!」

「それで、これが睦月ちゃんが言ってたレアチーズケーキね」
「プリンのようにも見えますが……」
「ふむ……」

睦月が泣いている脇で、菊月、如月と三日月の三人は、つつくとぷるんと揺れる食べ物らしきものを見つめていた。

「杏仁豆腐のようにも見えるな。甘い香りもするぞ」

菊月は、見れば見るほど食べたいという欲求が高まってきているのを感じた。

「間宮さんに、聞いてみましょうか?」という三日月も、その食べ物から目を離せなくなっているようだった。如月も、顔に手を当てて考えているようだったが、口が緩み、今にも一口食べてしまいそうだ。その三人に、急に後ろから声がかかった。

「なに、スプーンならここにあるぞ。食べるというのも一つの手だ。腹を壊しても仕方ないがな」

三人は飛び上がって声の主を見た。そこにいたのはもう一人の菊月……というのも、指輪は付けていなかったのですぐに見分けが付いた……だった。顔の右側に、大きめの切り傷の跡がある。

「なんだ、そんなに驚くことは無かろう」その手には、一本のスプーンが握られている。そしてそれは、菊月の方に差し出されていた。菊月は、思わずそれを受け取ってしまった。

「なんだ、よく見てみれば新人か。私は『きくぅ』と呼ばれている者だ。『クゥ』と呼んでくれればいい」平静を保っているが、耳が真っ赤になっているのに、菊月は気づいた。
「私は、『キクキク』らしい」と、菊月はついさっき付けられたあだ名を名乗った。

「そうか。ではキクキク、私は窓辺で本でも読んでいよう。その食べ物の件が片付いたら、少し話をしようか」といって、クゥは本棚に歩いて行った。

「では、一口頂くとするか」

「あ、ちょっと待ってください!」「キクちゃん!!」という二人の制止は、勢いで動いてしまった菊月を止めるには遅すぎた。食べ物は、菊月の喉を通り過ぎ、胃の中に入っていってしまった。

「し、しまった……」菊月の体が、熱くなり始めた。

菊月妄想

少女が目を覚ますと、そこは保健室のようにベッドが並べられた、静かな部屋だった。彼女自身も、その山のようにあるベッドの一つに横たわっていた。木製の枠の窓の外には、青い海と空が遮られることなく広がっている。

「う……私は、どれくらい寝ていたんだ……」薄い金色の、長い髪の少女は目をこすりながら寝床から立ち、それまでの記憶を思い出そうとする。彼女の名前は菊月、それに11人の姉妹がいること。それと、深く、どこまでも暗い海。それしか記憶になかった。

「フッ、情けないものだな……」部屋の出口から出ようと、スライドドアを横に引っ張るが、建てつけが悪いのかなかなか開かない。

「ん、~っ!!な、なんなのさ、一体!」全体重、といっても中学生程度の軽い体だが、その重みを掛けても、扉は開かない。と思ったが、やっと開いた。ただ、開いた理由は菊月自身ではなかった。

「おや、新しい艦か」

扉の向こう側に、白い軍服を着た背の高い男が立っていた。少女は、その人物が自分の上司、司令官であると、他でもない本能で理解した。扉を開けようと四苦八苦したせいで荒い息のまま、菊月は答えた。

「あ、ああ、睦月型9番艦の、菊月だ」
「そうか、では菊月、我が艦隊に歓迎するぞ」

男はそのまま、どこかへと歩き去って行ってしまった。

「司令官、だよな、あの男……」菊月が部屋を出ると、そこは長い廊下になっていた。どうすればいいか分からず、人気がない廊下をテクテクと進んでいくと、ある部屋に「睦月型」と書かれていたのを見て、そこに入った。今度は、扉はすんなりと開いた。

「失礼するぞ……」部屋の中には、お茶の間にしては大きい空間が広がり、低い机が数個、座布団が20個ほど置かれていた。真ん中に置いてある机には、赤みがかった黒髪の少女が昼寝をしていたが、菊月が入ってきたのに気づいたのか、目を覚ました。

「むにゃ……あ、菊月ちゃん。目が覚めたんだね」菊月は、今起きたばかりの少女にそう言われ、目が覚めたのはお前だ、と突っ込みたくなったが、冷静に答えた。

「その通りだ、一番艦、睦月。早速教えてもらいたいのだが……」

睦月は時折あくびをかきながら、睦月の隣においてあった座布団に座った菊月の質問に答えた。菊月自身は、最近あった海戦で奪還された艦であること。ここは鎮守府で、100を超える艦むす達が住んでいること。ただ、その中には「被り」も多いという。

「一体何なのだ、その『被り』というのは」菊月は多少困惑したが、睦月は菊月の様子にキョトンとして、当然のように答えた。眠気も覚めたようだ。

「何って、同じ艦むすが二人以上いるってことだよぉ?睦月だって、もう一人いるのね!」

「そ、それは何とも奇天烈だな」菊月に、悪い予感が走った。自分と同じ姿をした艦むすが、この睦月と同じように一人や二人、いるかもしれない。聞きたくない事実だったが、それを睦月に尋ねる前に、勝手にこの元気な一番艦は喋ってしまった。

「キテレツって、菊月ちゃんはあと……えーっと十人はいるよん♪」

「なっ!?じゅう!!?にんっ!?!?」想像以上の多さに、腰を抜かしてしまう。ドッペルゲンガーどころではない。自分は近く近代化改修の素になったり、解体されたりするのは間違いない。菊月は震えを抑えきれなかった。

「ふ、フッ、この菊月、そのようなことで怖気づくものか……ッ」

「あ、解体とかは大丈夫だと思うよ?ここの提督さん、菊月ちゃんのこと超好きみたいにゃし♪今回も、菊月が増えた!って喜んでたにゃん!だけど……」

解体は避けられると分かった菊月はほっと胸を撫で下ろしていたが、睦月の不安そうな表情にギクッとした。

「だ、だけど?」

「あ、如月ちゃん!おかえり!」その続きは、別の睦月型、二番艦の如月が部屋に入ってきたことによってお預けになった。睦月や菊月とあまり変わらない、中学生くらいの大きさの体にしては、色気のあるサラサラとしたロングヘアとその上に付けられた髪飾り、大人びた表情は子供っぽい睦月とは対照的とすら言える。

「ただいま、睦月ちゃん。あなたは、新しい菊月ちゃんね?」

「あ、ああ……」菊月は『新しい菊月』という言い回しに目眩がしたが、睦月よりも落ち着いて話せそうな如月が来たことで、少しホッとした。

「私は如月と申します。これからよろしくね?」如月はニコニコしながら挨拶し、お辞儀した。菊月も、立ち上がってペコリと頭を下げた。

「ほら、睦月ちゃん、司令官が呼んでらっしゃったわよ。遠征じゃないかしら?」
「あ、あぁ~っ!忘れてた~っ!あの睦月ちゃん、入渠中だったぁっ!」

睦月は、ドタバタと部屋を出て行った。その後すぐに、少し驚いた様子の黒髪のロングヘアに大きなアホ毛が目立つ艦むす、三日月が入ってきた。

「睦月ちゃん、どうかしたんですか?あ、菊月ちゃん、なんでこっちの部屋に?」

三日月は、菊月を見てさらに驚いたようだ。菊月はどうしてそんな反応をされるのか見当がつかず、何も言えない。如月は三日月に近づくと、耳元で何かを囁いた。三日月は「ああ」と納得したような声を出し、先程の如月と同じようにお辞儀をした。

「すみません。少し早とちりをしていたようですね。私は三日月です。一緒に、艦隊のお役に立てるような活躍をしましょうね」

如月は三日月を見てニコッとすると、菊月の方に近づき、睦月が座っていた座布団に座った。三日月もそれに付いてきて、座布団を取り出し如月の隣りに座った。

「さあ、固くならないで、座ってお話しましょ?おせんべいもあるわよ?」如月は菊月に座るように促し、菊月もそれに従った。

「それで、睦月ちゃんにどこまで聞いたのかしら?」
「私、菊月との『被り』が十人以上いるらしい、というところまでだ」

「ふぅ~ん?羨ましいけど、菊月ちゃんは司令官のお気に入りだもんね」如月は髪をいじりながら、若干妬ましげにしゃべった。ただその嫉妬は微かなもので、菊月は気づかなかった。

「そのようだな。自分と同じ顔の者が何人もいるこちらの身にもなってほしいものだ」

「菊月ちゃん、そんなに大変じゃないかもしれないわよ?そうじゃなきゃ、こんなにたくさん同じ子を集めようとしないもの」如月はそう言うと、三日月にウインクした。三日月はコクリと頷いた。

「その通りですよ。『菊月部屋』に行けば、分かります」

「『菊月部屋』……?」菊月には、一言聞いただけで想像がついた。この鎮守府にいる十人以上の菊月全員が住んでいる部屋のことだろう。

「そうよ。いっぱいの菊月ちゃんがいるところ。あそこに行けば司令官の寵愛する菊月ちゃんの一人になれるのよ。でもねでもね、あなた、秘書艦になりたいでしょ?それなら如月特製の色仕掛けで……」

「……早速、連れて行ってくれないか」如月が変なノリになりだしたのを無視して、菊月は三日月に頼んだ。

「もう、ツレナイんだからぁ」如月はプーッと頬を膨らませたが、三日月と一緒に立ち上がった。「行きましょ?丁度暇だし、案内してあげるわ」