覚醒の夢 4話 ~魚沼 結月 後編~

「じゃあ、続きはじめるね」

結月は、弟が持っているお盆から、食べかけのマフィンを持ち上げ、残りをほおばる。そして、もぐもぐと食べるとエプロンの胸の部分の膨らみが大きくなっていく。ゴクッと飲み込むと、体が一回り大きくなる。食べたおなかを擦ると、尻がプリッと震え、膨らんだ。

「もう一つ……、いや二つ……」

いつもの落ち着いた様子をかなぐり捨て、マフィンを口に流しこむ。その度、四肢が伸び、那月との身長差が開いていく。エプロンの横から膨らみが確認できるほどに乳房が成長し、尻の膨らみは張りを保ったまま成長する。ゴクリゴクリとマフィンを飲み込むごとに、ムクッムクッと結月は、中学生の体からスタイルの良い高校生へと大きくなっていく。

「ふぅ~、いつも通り、おいしいマフィン……」

自分のマフィンの味に、そして自分の成長に陶酔している結月。やはり魔王の魔力の影響か、性格まで歪んでいるようだ。

「あなたは、これどう思う?」

――私が成長した時に比べたら、こんな大きさなんて……
と菜津葉が考えてしまう乳房は、スイカよりも大きくなる菜津葉のものと比較するなら確かに小さいものである。だがそれは、平均的な女性のものを超えている。少し前まで小学生だった結月からすれば、大きな変化であった。そして、自然な反応は……

「おっ……きぃ……」
――えっ?

菜津葉の口を突いて出るフリューの言葉に、菜津葉自身が驚く。
「でしょ……?でもまだこれからなんだよ?」
「そ、そんな……」
――ま、当然そうだよね……

結月をあざむくための演技を続けるフリューに対して、本音しか『吐かない』菜津葉――さぞかし、演技の邪魔になっているだろう。
『あのですね、この子のスキを探すために幼稚園生になりきってるのに、菜津葉ちゃんが協力してくれないと気が散っちゃいます』フリューの脳内ボイスもどことなく苛立ちを含んでいる。
――あー、分かったよ……

「ねえねえ、姉ちゃん、そろそろ僕の方も始めてよ」

マフィンのお盆をテーブルに置き、結月に何かをねだる那月。
「そうだね~、私も結構大きくなったから、そろそろだね」

結月は、那月のズボンのチャックを下ろし、ブリーフをおろして小さな男の象徴を眺める。
「成長なしだと小さいね、けど」

胸を寄せ上げ、作った谷間でエプロン越しに那月を慰める。
「ん、んっ……」
「ちょっと小さすぎるかな……」

那月の膨らみ方を見て、不服そうな結月である。那月も申し訳なさそうにするが、結月がマフィンを手に取ったのを見て顔色が変わった。

「や、やめ……て、あれは……」
「だめだよ、そうしなきゃまたお菓子作れないじゃない」

そして、優しい笑顔のまま那月の小さい口をこじ開け、無理矢理突っ込んだ。

「ん、んんんっ……!!」

すると、那月の小さかったそれが、ドクンドクンと脈動し始め、赤黒く、不自然に膨らみ始めたではないか。那月はそれが膨らむ痛みに苦悶しながら、再開された胸のマッサージに、快楽と苦痛が混じった複雑な表情を浮かべる。あっという間に、成人男性でも大きいくらいに、それは成長した。
「おちんちん、い、いたいよぉっ……!でも、また、あれがきちゃうよぉっ!」
「いいんだよ、きちゃっても」

結月は弟の息子を胸でもみながら、さらにマフィンを食べる。ムニュッムニュッと揉まれるたびに大きくなっていくそれは、結月の口に出口を向けたまま怒張している肉の棒を包み込み、メロンサイズとなって快感を送り込み続ける。
「いたい、けど、きもちいいよぉ……!また、おもらししちゃうぅっ!」
「大丈夫、出たものは全部私が飲んであげるから」

『な、なんですかあのプレイ……私もしてみたいです……』
――見てられないよぉっ、目を閉じてよ!
過激になっていく姉弟の遊びを、ただただ凝視する姿は幼稚園生、頭は妖艶なフリューと、やっぱり頭も小学生な菜津葉。そして……

ドピュゥッ!

「ひゃっ!」
ついに那月から飛び出した精の子が、結月の顔に襲いかかった。白いヌルヌルまみれになった結月だが、恍惚の面持ちだ。

「もっと、ちょうだい……」
その液体をペロッと舐めると、今度は肉棒を口に入れ舐め回す。
「んんっ、もっと出ちゃうぅっ!」
口の中にさらに液体が排出されているのか、結月はゴクゴクと飲んでいる。

『だ、だだだ、ダメですよ、菜津葉ちゃんはまだこういうのは早いから!』
――だったら目を閉じてってさっきから言ってるでしょ!ああ、駄目だこの人。
やっぱり、女の体をしていても、女の声でも喋り方でも、中身はあのマッチョマンなのだ。目を閉じるどころか、食い入るように見つめてしまっている。菜津葉は必死に意識をそらした。

『あ、菜津葉ちゃん、あの子の胸、張ってきてます!』
――はぁっ!?

結月が喉に熱い液体を流し込む、その度に、胸に何かが詰まっている。柔らかそうだったおっぱいが、硬さを帯びて、さらに那月を強く刺激していた。
「んーふふ、ぷはぁっ……ちょっと作りすぎちゃったかな……」

ある程度たまったところで、結月は口を離した。行き場を失った白い噴水は、フローリングを汚してしまう。
「ね、姉ちゃん……っ、もっと、して……」
「ちょっとだけ待っててね、那月」

結月はキッチンへ向かった。その間に那月は腰が砕けたように地面にへたっと座り、菜津葉の方を恥ずかしそうに見つめた。
「おしっこ止まらないよぉ……」

結月は、雑巾とバケツ、そして大きめのジャム用のビンを2つ持ってきた。
「那月、あとで私が片付けてあげるから、気にしないでいいよ……それより、もう、出ちゃいそう……」
パンパンに張った乳房の先が、少し湿っている。結月はそれを覆うようにビンをかぶせ、そして――

ブシャァッ!!!

体の方に押し付けて、溜まった液体を絞り出した。一瞬で、瓶は母乳で一杯になり、結月は器用に蓋を締めてテーブルの上においた。
「おっぱい、出しきれなかったなぁ」
張りが残ったのか、その顔は不安そうであったが、ハッとしたあと、一瞬で笑顔に戻り、それは菜津葉に向けられた。

「そうだ、あなたには特別、直接飲ませてあげる」

菜津葉に寒気が走ったときにはもう小さな体は持ち上げられ、おっぱいに口をつけさせられていた。

「んぐううっ!!」

菜津葉、そしてフリューは必死に抵抗したが、うふっ、と結月が笑うと、大量の母乳が菜津葉の中に流れ込んできた。
『いけません、菜津葉さん!この母乳は魔力の塊になっています!』
――じゃあ、どうしたら!
フリューが他人事のように、菜津葉に怒鳴る。その間にも、母乳が菜津葉の体内に侵入をしかけてくる。

「これであなたも、母乳たっぷりのおいしいマフィンが作れるようになるよ」

――体が、熱くなってきたぁっ……
『菜津葉ちゃん』
――え?
『私を、信じてください……』

「んんっ!」
ついに菜津葉の体が、魔力の影響で大きくなり始めた。
「んあああっっ!!!」
そして、大量の魔力のせいか、体よりも先に手足がグンッ!と急速に長くなる。わずか2秒ほどで、長さは4倍、太さは3倍程度になった。

「ちょっと、すごい勢い……」
結月すら仰天するが、その間にも、胴の部分も一気に大きくなり、小学生用の児童服を勢い良く破る。これには、結月の方も重さに耐えられなくなり、菜津葉の体を放した。
「ど、どうしたの、一体……」

「おっぱい、もっとちょうだいぃっ!」
フリューは、ほとんど母乳を出し切った乳房から口を離し、もう一つの方もギュッギュッと絞るようにして、勢い良く吸い出す。
「ひゃんっ!」

「んんんっ!」
すると、菜津葉の成長しているが真っ平らだった胸板に、ブルンッとリンゴ大の乳房があらわれ、さらにメロンの大きさまでボヨンッ!と大きくなって、同時に張り詰めていく。
「おっぱい、出ちゃうっ!」
「すごいね、もう出ちゃうの……?」

菜津葉の中で無尽蔵に生産されていく母乳は、あっという間に容量の限界点を突破し――

ブッシャアアアッ!!!

部屋中に、勢い良くまかれ、何もかもを白く濡らした。だが、それが出切るとプシューッと空気が抜けるように乳房も縮んでしまった。

「お姉ちゃん、まだ、足りないよ……」
「うーん、仕方がないね」
結月は、マフィンをまた一つ口に入れる。すると、また乳房に張りが戻る。

「ほら、おっぱいあげるよ……あれ?」
だが、今度は体が小さくなっていた。体から何かが染み出していくように、乳房が体中から何かを吸い出すように、その分母乳が生産されていたのだ。
「おっぱい、ちょうだい!」

ここぞとばかりに、フリューは結月の乳房に吸い付き、もう一つはガシッと掴んで、たまったものを出させた。
「あっ、やめてっ!離して!」
体が大人から高校生、高校生から中学生へと小さくなっていく結月は、母乳を飲んでさらに成長する菜津葉からは逃げられない。

『ふふ、これが狙いだったんですよ。母乳で急激に成長したのは、半分は菜津葉ちゃんの魔力のおかげ。それで、入ってきた母乳と菜津葉ちゃんの魔力を混ぜ合わせ、またこちらも母乳として噴出、魔力の根源となっているであろうマフィンに噴射し、そちらでも魔力を混ぜ合わせる。もう、結月ちゃんがマフィンを食べても……』

「こ、こうなったらっ!むぐぐぅっ!」
結月は、信じられない速度でマフィンを食べだした。再び体が大人のものへと戻り、母乳の勢いが増す。
「んぎゅぅっ!」

『そんなっ、菜津葉ちゃん、マフィンが無くなるまで、耐えてっ!』
結月の魔力に対抗するため、さらに体を大きくするフリュー。全身がドクンッドクンッと脈動しながら、菜津葉はさながら結月のミルクを貯めるミルクタンクのように、手が、足が、胸が、大きくなる。そして、もう片方の乳房から出るミルクは、どんどん周りに撒き散らされる。
――ミルク、いっぱい、おかしくなっちゃう、よ……

身長が160cmから180cm、さらに2mの大台へと近づき、菜津葉は150cm前後を行き来している結月に合わせるため、膝立ちになる。スネに、母乳の洪水による冷たさが伝わってくる。

そして、必死に結月の体にしがみついてはいるが、ビーチボール級に膨らんだ乳房が二人の間に挟まり、それを邪魔してくる。もう限界かと思ったその時――

「あっ、なくなっちゃった……」

プシューと体が小さくなる結月。菜津葉の口に入ってくる液体の流量が急激に減る。そして、それが出終わった頃には、結月の体は元の小学生に戻っていて、菜津葉はいつの間にか結月を持ち上げていた。
「結月ちゃん、ごめんっ!」
「えっ!?……むぅっ」

待っていましたと言わんばかりに結月の乳首から口へと、自分の口を動かす……というより、結月の体を動かして口づけをする菜津葉。何かが出ていく感触がする。

「あああああぁぁぁぁああっ!!!!!」
浄化が始まると、結月は鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げ、頭を抱えた。菜津葉は、未だ自分の中にある魔力の脈動を感じながら、その行く末を見守る。

少しすると、頭を抱えるのをやめ、結月は自分の手を見て、自身の姿を確認した。
「ゆ、づきちゃん……?」
「あ……うん……私、どうしたのかな……キスされたら……もやもやが晴れた……」
菜津葉や、三奈が見ていたピンクの霧のことだろう。洗脳が解けたのだ。

「よかった、結月ちゃん……」
「お姉さん、だれ……?」
「あっ……」
未だに自分のことがバレていないのは、フリューの演技のおかげだろう。しかし、二人は、ここにいるのが結月と菜津葉(とフリュー)だけでないことをすっかり忘れていた。

「うわっ……わああぁぁぁっ!!!!」
「な、那月!」
部屋を洪水状態にしていたミルクが、那月に迫って……その口から、自分自身を押し込むように入りだしたのだ。そして、同時に菜津葉の胸が膨れだし、ミルクが飛び出し、そのまま那月の体に飛び込むように入っていく。

ブクブクブクーッ!!!!

当然、それが貯められる場所――腹部が、暴力的に膨らむ。そしてその膨らみは、人体の限界に、急速に近づいていく。行き場を失った魔力が、もうひとりの結月を作ろうとしたのは良いものの、完全に暴走してしまっていた。

「結月ぃっ!!」

その流入現象は那月が破裂する前に終わった。だが――

ドクンッ!!!

那月の体がビクンッと跳ね、膨らみきった腹部が、脈動した。成長は、これからのようだった。那月は、ドクンッドクンッという腹部の脈動とともに、ポンプで膨らまされる風船人形のように――

ボインッ!ギュワンッ!

女性のように成長していく。段階的に、しかし爆発するように大きくなる体に、服は一気に千切れ去り、その下にできゆく体は、筋肉より皮下脂肪が、骨より巨大な乳が目立つ、見まごうこともない女のものだ。

「そんな、どうしてっ!」
「これじゃ、私も浄化できない……!」
幾分小さくなったものの、まだ身長が180cmくらいある菜津葉だが、那月の急激な成長はもうその大きさに届こうとしていた。そして、結月は自分を菜津葉と気づいていないだろうが、これしか言えなかった。
「結月しか、何もできない……ううん、結月ちゃんなら、何とかできる……できるよ、結月ちゃんっ!」
「えっ……?」

2m、2m40cmとさらに巨大化する那月を前に、結月はうろたえるだけだ。その手を、菜津葉はギュッと掴んだ。
「キス、するんだよ」
「キ……ス……?」

ガタンッ!!ガッシャーンッ!!!

家具や家電を壊しながら体積を増やしていく那月。もう一刻の猶予もなかった。
「早く!完全に那月くんが魔力に飲み込まれちゃう!」
「わ、わかったっ!那月!」

「ねえ……ちゃん……」
「那月……いま、助けてあげるから……」
結月と那月は、優しく唇を重ねた。すると、那月の体全体がぽぉっと、柔らかい光に包まれた。
「ありがと……姉ちゃん……」

光が消えると、そこにいたのは小学生の那月。全てが元通りになったのだった。

「よかった、那月……」

弟を抱きしめる結月を前に、菜津葉も自分の体を元に戻した。

「えっ、菜津葉ちゃん!?」
結月は思いがけない親友の出現に目を丸くして驚いた。
「えへへ、ごめんね、今まで言えなくて……」


――これが、結月が見た夢だった。
――夢の中で、私はお菓子を作っていたの。みんなと一緒に食べるためのクッキーをいつもどおり焼いてた。そしたら……

「あ、このマフィン、おいしそう」

――自分用にも一つだけ、お菓子を作りたくなっちゃって。でもその時、中世ファンタジーで出てくるようなフードをかぶった、知らない男の人が出てきてこういったの。

「お前の魔力を解放せよ!」

――何言ってるのこの人、と思ったら、その、おっぱいが、痒くなって、服を脱いでみたらプクーって膨れだして。慌ててるうちに、お母さんのより大きくなっちゃって。びっくりしたんだけど、揉んでみたら、ミルクが出てきたの。もしかして、これでマフィンを……?と思って作ってみたら美味しくって!でもどんどんミルクが出てくるからどんどんマフィンを作って、自分で食べてたの……美味しかった……


「で、起きたらマフィンが一つ、ベッド際に置いてあった、と」
「んー、そうじゃなくて、起きたらおっぱい大きいままで、絞ったらミルクが出てきたから……とっておいたの」
「なるほどね」
菜津葉は、結月の服をもらって、ビリビリに破けた自分のものの代わりに着なおしていた。結月と菜津葉はそこまで体のサイズが違わないので、ちょうどよかった。

「でもマフィンを作って食べてるところを那月に見られて、当然那月の前で大きくなっちゃったんだけど。そしたら急におなかの下のほうが熱くなってきて……」
「い、言わなくていいよ!」
「ありがとう、菜津葉ちゃん。私を、那月を助けてくれて」

「助けたのは私ですけどね!」
黙って話を聞いていたフリューが水を差した。フリューは、騒動が落ち着いたあとポッと姿を現し、自己紹介までは済ませていた。
「あ、そうでしたね、フリューさん」
「あとね、結月ちゃん、あなたの魔力、ちょっと使用方法を広げておきましたよ。体だけじゃなくて、精神状態も変えられるようにしたんです。『このお菓子を食べると、勉強したくなる』とか、『このお菓子を食べると、私に惚れる』とか」

「えっと……楽しそうですね」
「正しく、常識の範囲内で使ってくださいね」
いたずらっぽい笑みを浮かべるフリューと、呆れている菜津葉に、結月は優しく微笑む。
「じゃあ……『幸せになる』お菓子、作っておきますね」

等価交換 序

『無作為な選別により、あなたは特別な能力を得ました。確認するにはOKをクリックしてください』なんていう、ウィルス感染サイトへの誘導のようなメッセージが出たのは、休みの日にパソコンでゲームやらネットサーフィンやらをしようとして、パソコンを起動した直後だった。

「なんだよ、変なリンク踏んだわけでもないのに……」ブラウザすら付けていない。このパソコンは家族には触らせないから、自分の操作以外でこんなメッセージが出るように設定がされるわけもない。「まあ、こんなもん無理矢理閉じれば……ってあれ」
いくらキーボードを操作しても、画面が動かない。イラッとして電源ボタンを長押ししたものの、電源が切れない。最後にはコンセントを抜いたが、それでもパソコンは謎の電力源で動き続けた。何か、超常的な現象に、俺は出くわしていた。仕方がないので、唯一動かせたマウスカーソルをメッセージのボタンに合わせ、クリックした。すると、ソフトのチュートリアル的な画面が開いた。

『まず、あなたは人間と、無生物のもの全ての形を自分も含めて自由自在にできます。試しに、自分の腕力を上げたいとか、脂肪を筋肉にしたいとか念じてみてください』というメッセージが、腕の絵と共に表示される。

――バカバカしすぎる。俺は神にでもなったっていうのか。
と思ったはいいものの、パソコンは相変わらずマウス以外が操作を受け付けない。ここまでくると、このままだと自分の部屋の扉すら開かない気すらする。仕方なく、鍛えられることもなく脂肪だけが蓄えられている右腕をじっと見た。

――腕力よ、上がれ。
考えるだけでも恥ずかしくなる文言だ。だが、その瞬間、俺の目の前で腕がボコボコと変形を始めた。

「うお、おおっ!?」思わず変な声を上げてしまう。自分の腕の脂肪が、皮膚の中で移動している。数秒すると、腕の形はガチッと固定された。
「な、なんだよこれ……」俺の腕は、念じたとおり、筋肉の塊のようなムキムキのものになっていた。力を入れると、ムキッと動くそれは、本当に筋肉だった。だが、それは一瞬でブヨッとした脂肪に逆戻りした。あまりに奇妙な光景に、無意識に元に戻るように願ったみたいだ。

どうやら、この能力とやらは本物らしい。無生物、っていうのは、生き物じゃない置物とかのことだろう。試しに、マウスパッドに向かって念じたら、四角のパッドが丸に、そしてすぐにまたもとに戻った。念じるというより、なってほしいものを思い浮かべるくらいでこの能力は発動するようだ。

よし、次はどんな能力なんだ。と、クリックする。

『次に、念じる対象は、変形前と後で同じ重さになっていなければなりません』……質量保存って言うやつか。確かに、俺の腕も、マウスパッドも、重さは変わっていなかった気がする。――また、クリックする。

『ただ、同時に二つ以上のものを変形させるときは、変形対象の合計の重さが変わらなければ結構です』
ん?どういうことだろう。まず、二つ以上のものを変形させられるっていうことが前半部分で分かる。後半部分は……合計の重さが変わらない、ということは、一個のものを軽くすれば、もう一個のものは同じだけ重くできるってことか。次は……

『人間の精神は、いくらでもいじることができますが、指定がなければ変形と辻褄が合うように精神が変えられます』
……わけがわからないよ。人間を筋肉質にしたら気が強くなるとか、そんな感じだろうか。
『試しに、自分の精神を男性に保ったまま、体を女性にしてみてください』
「ぶふぅっ!!」勢い良く吹き出してしまった。俺が女だって?なんでそんなことしなくちゃならんのか。第一、俺みたいに70kgもある重さの女性なんて、そんなの背が高くない限り完全に肥満になってしまう。

……とりあえず、人間の形を自由にできるっていうのは、性別も含めて、らしい。なら、年齢とか、身長とかも変えられるんだろう。近所のおじいさんを若いギャルにすることもできるんだろう。

気を取り直して、次へ、をクリックした。

『人間の変形をする場合には、まず対象が服越しでもいいので接触しなければなりません。また、この接触は自分の方から積極的におこなったものは無効です』
ふむふむ……近所のおじいさんを若いギャルにしたいなら、まずおじいさんに自分を触ってもらえってことか。なんか気持ち悪いな。

メッセージはこれで終わりらしい。で、俺にどうしろと。今日は家にこもってネットサーフィンしたい……いや、せっかくだからいろいろ試してみるか……

ガタンッ!!!

ああっ、うるっさい!!!隣の部屋に弟が何か壁に投げつけたんだろう。気が小さい俺が強く出られないのをいいことに、嫌がらせしてくる。そうか、まずアイツに仕返しをすればいいんだな。

いいことを思いついた俺は自分の部屋を出て、弟の部屋の扉の前に立ち、扉をコンコンと叩いた。
「ああっ!?なんだ兄貴!」中から不機嫌そうな弟が出てきた。高校生の弟は、俺よりも背が高く、力も強い。気性が荒くて、これまでの人生、何度殴られたことか。
「いや、うるさいから注意を……」いつも、こんなことはしない。また、殴られるのが分かっているからだ。だが、『能力』があればこの話は逆に俺を優位に立たせてくれる。
「うるせえのはお前の方だよ!とっとと失せろっ!」

そして予想通り、肩を、ドンっと押された。こっちの勝ちだ。――弟よ、太れ。内気になれ。

「ふんっ、……あ、あれ……?」扉を閉じようとした弟の動きが止まった。俺より頭一つ高い背丈が、縮み始めたせいで違和感が出たのだろう。その縦に縮んだ分が、横方向に移動していく。腕や足が太くなり、腹も出てきた。余興だ。俺の方は背を高くしてやるか。そして、気も強く。

「……オレ、太って……あれ、兄貴が大きくなってる……?」変身した俺を見て、縮こまる弟。どうやらかなり内気になったらしく、目線が泳いでいる。
「ふん、これまでの仕返しだ。せいぜい俺のおもちゃになれ」ふむ。俺の方も謎の自信が湧いてくる。俺と弟の立場は、完全に逆転。いや、それまで以上の差で、俺の方が上になっていた。

……といっても、太った弟を持っていても俺に何の得があるっていうんだ。パシリにするにしたって限度がある。この俺の前でガクガク震えている弟が、妹だったらどれだけいいか……と、半分無意識で、華奢な女の子を念じた。

「っと……いまの70kgくらいの体重で華奢な女の子ってのも無理か……」
「え?」
胸に全振りしたらどうなる?試してみよう。

「弟よ、今からお前は俺の妹だ」……あえて、精神の書き換えはしない。男の精神のまま、違う性別になってもらう。
「な、なにを……っ!」

弟の太い手足が、前に出た腹が、膨れた顔が、一気に絞られるように細くなる。そしてその分の肉が、念じたとおりに胸に詰め込まれ、バスケットボールサイズのおっぱいが、服をぶち破って飛び出してきた。髪はサラサラとツヤを増しながら長くなり、肌からは体毛が見えなくなり色が澄んでいく。

「なんだよ、この胸っ!!」弟が胸を持ち上げる。その声も、鈴を転がす声で、弟の男口調には全然あっていない。
「すげえな、りっぱなおっぱいじゃないか!」
「お、俺は男だからおっぱいなんかない!」腕でその胸をギュッと締め付ける。無意識に護身しようとしているのか、内股になっているその姿は、俺の願った妹の姿そのものだった。どうやら弟は、精神が体に引っ張られているらしい。こんな能力一つで――十分に素晴らしい能力なのだが――弟という存在は消え去り、一人の爆乳少女になったのだった。

だが、胸が重すぎるのか弟の息が段々荒くなり、ついには座り込んで、床におっぱいを付けてすすり泣き始めてしまった。このままでは日常生活すらままならないだろう。仕方がないので、家の壁やらに重さを移してやり、Eカップ程度までに小さくした。