菊月妄想3

体の熱は、どんどん大きくなって、やがて菊月の体全体が燃えるように思えるほどに熱くなっていく。

「はぁっ……はぁっ……」

荒い息をし始めた菊月に、如月が「大丈夫、菊月ちゃん!?」と呼びかけるが、それが聞こえないほどの動悸に菊月は襲われていた。

(煉獄の炎のようだ……っ!)

苦しみ始めた菊月に、窓際に座っていたクゥも、チラチラとこちらを見ている。今の事態の産物は、今は泣き止んでほけーっと菊月を見つめている睦月の体を見れば一目瞭然だ。そして、その『結果』に向かって、菊月の体が変化を始めようとしていたその時だった。

「今、帰還したぞ。ん?何だ、如月も三日月もまだいたのか……」

それは、簡単な出撃を終えてきた(といっても彼女以外は全員大破した)キィだった。納豆は誰かに取ってもらったのか無くなっていた。そして、司令を反故にしてまだ菊月部屋を出ていない如月と三日月を叱責しようとした。しかし、菊月が急にうめき声を上げたのを見て、キィは反射的に菊月に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!?この杏仁豆腐で食あたりでも……」
「う、うぅっ!!!」

グイッ!

苦しがって胸を抑えていた菊月の体が、急に縦に伸びた。服が持ち上げられ、へそと太ももが顕になる。目の前で突然大きくなった菊月に、キィは思わず飛び退いた。

「な、何が起こって……!」

ググググ……

体の伸長は止まらず、140cmくらいあった身長が、160cm、165cmと大人の平均身長さえ超えてどんどん大きくなっていく。

「ぐっ……くぅ……っ」

その白い髪は身長に合わせて伸び、腰を覆っていく。今や制服はピチピチになって、スカートはところどころ破けている。靴下の先も、指がだんだん見え始め、太ももにも肉がついて、靴下の張力がつくる谷が大きくなっていく。

「胸が……熱いっ!!」

今まで平らだった胸も、急速に成長が進んでいく。制服を引き裂いて出てきた肌色の丘は、むくむくと大きくなって、10秒くらいたったときにはもうりんごサイズになり、その後も水風船のように膨らむことをやめなかった。

「あわわわ……」と三日月は硬直し、如月は口を押さえて青ざめている。キィは変身をほぼゼロ距離で見せられ、その場で腰を抜かして床にへたり込んでしまった。

「まだ、大きくなるっ……!」

ムククーッと膨張する乳房は、制服をさらに破って、ついにはメロンサイズまで成長してしまった。そして、変身が終わった。

「私は、いったい……」

自分の体の状況を確認しようとして立ち上がると、今まで見えていた世界と全く別のものが見え、狼狽してしまう菊月。それもそのはず、175cmの身長となった今、目の位置は普段に比べて頭一つかそれ以上上にあったのだ。

「き、キクちゃん……」如月は、戦艦でも尻込みするほどのスタイルになった菊月になんとか話しかけた。「す、すごいわね……その体。色仕掛けも、それだったら楽にできるわよ……」

「そう、なのか……?」菊月は、豊満な胸を見、張りのいい尻を触ってみたりした。そして、足元を見ようとすると、これがなかなか胸が邪魔で見えない。菊月はすこし前かがみになった。

「あっ……」その時、キィと目が合った。先ほどの威厳はどこへやら、少し震えながら菊月のことを見上げている。

(キィ……)

その、なぜか急に愛らしく見えた橙色の瞳や、今はついていないはずの納豆の一粒、そしてサラサラとした白い髪が、急に……

「欲しくなって、しまった……」
「な、に……?」

その先の行動は、本当なら破廉恥極まりない恥ずべきことなのに、菊月にはもはやそれが当然に思えた。キィを大きくなった力で押し倒し、服を脱がせ始めたのだ。

「やめ……うっ」

菊月の眼光は、キィを自分のものにせんとする獣のように、キィを圧倒していた。

「キィよ……こういうものは、好きか……?」と、菊月は服を脱がされて露出していたキィの右乳首を、口でつまみ始めた。

「ひゃっ……!」キィは、性にも合わない可愛らしい嬌声をあげ、幼い体には強すぎるほどの快感に溺れてしまった。

「ふふ……練度が高いとは言え、やはり一人の駆逐艦なのだな……」菊月は、今度は乳首を甘噛みした。変身する前には、こんな事が誰かに刺激や快感をもたらすことなど、知りもしなかった菊月だったが、体が自然に動く。

「っ……!きゅっ……」キィは必死に菊月の攻めに耐えているが、目が虚ろになり、手足はビクビク痙攣するばかりだ。

「このまま私のものとなるがいい、キィ……」
と、その時、「だ、だめですそんなこと!」と、三日月が菊月の背中を引っ張り上げようとした。無論、体格差が大きすぎて菊月はびくともしない。だが、菊月はそこでピタッと動くのをやめた。

「三日月……?」キィは、攻めが止まったおかげで意識がはっきりし、助け舟を出した三日月を見つめた。

「キク姉さん、忘れてはいないでしょうけど、私たちは提督の指示に従うことが使命なんです。どんなはずみなのか知りませんが……」と、三日月は菊月をなだめようとしたが、その言葉は菊月に遮られた。三日月の方にスッと向いた菊月が、顎の下をツーっと指でなでたのだ。

「ひゃぅああっ……!」三日月はその場にガクンと膝をついて床に倒れ、そのままビクビクと震えた。「にゃんなのぉ……」

菊月はフッと歪んだ笑みを浮かべた。「やはり三日月はそこが弱いようだな……私はキィが欲しいのだ。心配するな、三日月もあとから……」

「おや?キィは私のものだ。新人のくせに、生意気な態度を取るんじゃないぞ」と遮ったのは、いつの間にかすぐそばにいたクゥだった。

「クゥ……?」のしかかられたままのキィが、困惑した表情でクゥを見た。クゥはニッと口を緩ませる。

「百戦錬磨のキィだが、この鎮守府に加わったのは私とたった1日違うだけだ。それ以来、どんな資源不足も、どんなイベントも、二人で共に見続けてきた」

自信満々に言うクゥだが、キィは困惑したままで、完全に片思いなのは誰の目にも明白だった。

「だから、新人の貴様に、キィをくれてやるものかっ!」
「ひゃぁんっ!」

クゥは菊月に後ろから飛びつき、その胸を鷲掴みにした。菊月は思わず悲鳴を上げた。ただ、キィとは違って、大人の色気というものがたっぷり詰まっていた。

「な、なにをするっ……ひゃぅっ!」

キィの方も仕返しとばかりに、菊月の乳首を覆うように口をつけ、出もしない母乳を欲しがるようにチューチューと吸いだした。そして、牛の搾乳のように手のひら全体を使って、胸を揉みしだいた。

「この菊月は、……はぷっ……貴様らのペットではないぞっ……!」

クゥは尻の方に移動し、破れかけのスカートを引き裂くと、菊月の尻をペシペシと叩き始めた。

「こうも大きいと、叩きやすいものだな!」
「くっ……この菊月、この程度ではっ!!」

菊月はしゃぶられたままの乳房ごとキィに再びのしかかると、その顔を胸で覆い尽くした。

「ひゃ、やめ……ろっ」
「クゥよ、叩くのを、やめないとっ」

収拾のつかなくなった菊月三人に、提督からの制止が入ったのは、その後30分も経ってからだった。

「如月に呼ばれて来てみれば、これは一体どういうことなんだ」
「すまない、私の管理不行き届きだ」

提督の問いただしにすぐに答えたのは、キィだった。ただ、足は菊月に攻められ続けたせいでガクガクと震え、今にも倒れそうだ。クゥは申し訳なさそうにその隣にちょこんと座っていたが、菊月は二人の後ろでビクンビクンと時折痙攣しながら倒れていた。

「司令官、この新人なんだが……今や戦艦クラスの装備も扱えることだろう」
「なに、そこで倒れているのは新人菊月なのか?」

提督にとっては、菊月部屋に来てみたら3人の菊月がプレイをしていた、ということくらいしかわからないのだ。なんせ、如月はいきなり始まった乱交パーティと、助けに行こうとした三日月が一瞬で陥落したことに対応しきれず、提督に助けを求める時も「しれいかん……きくづき……さんにん……たすけて……」と単語を羅列することしかできなかったのだ。

「ああ、そうだ。そこにある杏仁豆腐を食べたら急に大きくなってな」
「そうか。それで、新人が戦艦になれば一緒に出撃できると?」

キィはコクッとうなずく。

「この新人のことが、気に入ってしまってな。多少資源はかさむだろうが、ちゃんと運用してやってくれ」
「ふむ……菊月を主力艦隊で二人使えるのは願ったりかなったりだし……きぃちゃんの願いだ、わかった」
「うむ」

『きぃちゃん』という呼び方に、顔を少し赤らめながら、提督に向けている眼差しはきらめくようだった。

「ただ、その前に……」

提督は、キィの後ろを指差した。最初から倒れていた菊月に加えて、キィが菊月を気に入ったことを知ったクゥが、泡を吹いて倒れていた。キィは呆れたような顔になったが、すぐ提督に微笑んだ。

「きっと司令官も、すぐ新人のことを気に入るぞ」
「ああ、わかってる」

二人の左手の薬指に、同じ銀色の指輪が光った。

菊月妄想2

二人に連れられ、菊月は「菊月」と書かれた扉の前に来ていた。

「お邪魔しま~す」「失礼します」

如月がドアをノックし扉を開け、三日月と一緒に中に向かってお辞儀をし、進んでいった。菊月は少しの不安を感じながら後に続く。

「おお、如月、三日月、補給はできたか」

中では、もう一人の菊月が食事をしていた。献立は、納豆をかけたご飯、味噌汁と漬け物、お茶という質素な物だった。納豆は大粒で、一粒頬にくっついていたがその菊月は気づいていないようだった。

「ちょっと、この新人さんを案内してあげたくってね」「補給はこのあとすぐします」と言う姉であるはずの二人は緊張を覚えているようで、今日「起きた」ばかりの菊月とは明らかに違う態度で接していた。

「新人、か。自己紹介をしてやるか」ご飯を食べていた菊月はお茶を少し飲んで立ち上がり、新人菊月に向き直った。納豆を頬につけたまま。

「私が、睦月型九番艦、菊月だ」その左手の薬指に、結婚指輪が光る。威厳を感じさせる何かが、感じられる。「第一艦隊旗艦、百戦錬磨の駆逐艦……提督に付けられたあだ名は!」

菊月は、ゴクリとつばを飲んだ。ところが、そこまでは淡々と喋っていたその駆逐艦娘は、なぜだか顔を真っ赤にした。そして、少しうつむいて、かろうじて聞こえるくらいの大きさで、ぼそっと言った。

「……『きぃちゃん』……だ……」

場の空気がカチンコチンに凍ったように、菊月は感じた。納豆をつけたままの『きぃちゃん』は、ガクガクと震えながら続けた。

「き、『キィ』と……呼んで、構わない……ぞ……。我々の艦隊に、か、歓迎する……」

戦いでその意思と戦闘技術を磨き、大ベテランであるはずの旗艦菊月が、かわいらしいあだ名を付けられそれを名乗ることを恥ずかしがりながら、なおリーダーとしての役目を果たすのを見て、新人菊月は敬意を感じざるを得なかった。とりあえず、納豆を取ってあげたかった。

「さ、さぁ。新人よ、茶でもどうだ?」と、まだ顔が赤いが新人菊月を直視しなおしたキィは、手で食卓においてある急須を指した。「ほら、如月たちも」

「じゃあ、お言葉に甘えて」「では、湯呑みを持ってきますね」三日月はキッチンにある食器棚に向かっていき、如月と菊月はキィとともに、食卓に座った。程なくして、三日月も三つの湯呑みをお盆にのせて座り、急須からお茶をいれると三人に加わった。

「それで、新人菊月よ。あだ名はなにがいい?」と、キィは真顔で言った。
「あだ名、だと……?」

それは菊月にとって思いがけないことだった。如月と三日月にはあだ名は無いようだったからだ。しかし、考えてもみれば、十人以上いる菊月に、あだ名でも付けなければそれぞれを正しく覚えたり、指揮することなどできない。といって、艦むすとしての基礎知識しか記憶に無い菊月には、自分をなんと呼んで良いのかなど、皆目見当が付かなかった。
一分くらい考え続けていた菊月を、ご飯を食べながら見ていたキィは、少しほほえんで

「思いつかないか。では、キクキクなどどうだ?この名前なら、司令官も気に入ると思うぞ」
「き、キクキク……」

菊月は愕然とした。『きぃちゃん』よりはましかもしれないが、『菊月一号』のほうがまだ良かった。だが、キィの威厳とそのあだ名のギャップを考えると、それくらいの辱めは受けて当然、というのが結論だった。

「い、いいだろう」
「よろしい!では私は任務があるので、これで失礼する。すぐに戻るが、その時には艦隊での指命について教授しよう」
「あ、あぁ、頼むぞ」

キィは、食器を台所に片付けると、悠々と去って行った。納豆は結局顔に付いたままだった。

「じゃあ、私たちは睦月型部屋に戻るわね。早く補給しないと、きぃちゃんに怒られちゃうわ」
「これから、よろしくお願いしますね」

如月と三日月は早々にお茶を飲み干すと、出口へと向かっていった。菊月は手を振りながら見送ろうとしたが、如月が扉を開ける前に、勝手に扉が勢いよく開いた。

「如月ちゃあん!!」と飛び込んで来たのは、長身の戦艦娘のように見えた。しかし、赤みがかった焦げ茶色の髪と、濃い緑のセーラー服が、それが睦月であることを示していた。

「む、睦月むぎゅっ」ただ、回避する暇も無く抱きつかれた如月の顔に、特大の柔らかい何かがが押し当てられた。間違いなく、幼児体型だったはずの睦月は、爆乳になっているのだ。背はかなり伸び、セーラー服からのぞく腰はきゅっと絞まり、顔も若干大人びている。黒いソックスはところどころが破け、太ももがはみ出している。

「睦月、大きくなっちゃった!入渠が終わったから間宮さんのところに行ったんだけど、途中にあったレアチーズケーキを食べたら体が熱くなって、気がついたらこんな感じになってたのね!」睦月は、強く抱きしめている如月がバタバタ暴れて逃げようとしているのにも気づかず、まくしたてた。「どうしよう!装備も合わないし、体が重くて砲撃されてもよけられないにゃ!あ、あれ?如月ちゃん?」

如月は、抱きしめられたままぐったりとしてしまい、腕がだらんと垂れていた。胸に包まれ、息ができていなかったようだ。睦月は如月を抱擁から解放すると、如月の肩を激しく揺らした。

「如月ちゃん!如月ちゃぁん!!」
「如月のこと、忘れないでね……」如月の目は虚ろだった。
「洒落になってない!なってないですよ!!」

「それで、これが睦月ちゃんが言ってたレアチーズケーキね」
「プリンのようにも見えますが……」
「ふむ……」

睦月が泣いている脇で、菊月、如月と三日月の三人は、つつくとぷるんと揺れる食べ物らしきものを見つめていた。

「杏仁豆腐のようにも見えるな。甘い香りもするぞ」

菊月は、見れば見るほど食べたいという欲求が高まってきているのを感じた。

「間宮さんに、聞いてみましょうか?」という三日月も、その食べ物から目を離せなくなっているようだった。如月も、顔に手を当てて考えているようだったが、口が緩み、今にも一口食べてしまいそうだ。その三人に、急に後ろから声がかかった。

「なに、スプーンならここにあるぞ。食べるというのも一つの手だ。腹を壊しても仕方ないがな」

三人は飛び上がって声の主を見た。そこにいたのはもう一人の菊月……というのも、指輪は付けていなかったのですぐに見分けが付いた……だった。顔の右側に、大きめの切り傷の跡がある。

「なんだ、そんなに驚くことは無かろう」その手には、一本のスプーンが握られている。そしてそれは、菊月の方に差し出されていた。菊月は、思わずそれを受け取ってしまった。

「なんだ、よく見てみれば新人か。私は『きくぅ』と呼ばれている者だ。『クゥ』と呼んでくれればいい」平静を保っているが、耳が真っ赤になっているのに、菊月は気づいた。
「私は、『キクキク』らしい」と、菊月はついさっき付けられたあだ名を名乗った。

「そうか。ではキクキク、私は窓辺で本でも読んでいよう。その食べ物の件が片付いたら、少し話をしようか」といって、クゥは本棚に歩いて行った。

「では、一口頂くとするか」

「あ、ちょっと待ってください!」「キクちゃん!!」という二人の制止は、勢いで動いてしまった菊月を止めるには遅すぎた。食べ物は、菊月の喉を通り過ぎ、胃の中に入っていってしまった。

「し、しまった……」菊月の体が、熱くなり始めた。