副作用2 (1/3)

その次の日。自然と目が覚めた少年は、いつものように背伸びをしてあくびをかく。そして、少しぼーっとしたあと、思い出した。

「あ、元に戻ってる……」自分の体を見ると、服が破れている以外は普段どおりのものに戻っていた。ただ、手足がやけに細く、肌も色白になっている。股間を確認すると、そこだけは元に戻っていないことがはっきり分かった。

薬の副作用で、少年は少女になり、男に戻れなくなっていた。しかも、『オトナになる薬』のハズが、元と同じ年頃の、子供の体で安定していた。

それよりも、少女には緊急の、文字通り課題があった。目覚まし時計を見ると、いつも起きている時間を50分過ぎていた。

「遅刻しちゃう!」少女は飛び起き、パジャマを脱ぎ捨てて学校に行くための服に着替える。学校は電車通勤が必要なほど遠いところにあったが、電車の本数は少ない。通勤ラッシュでも、30分に1本しか来ない。少しの遅れが、致命的な遅刻につながるのだった。

「うぅっ」だが、そんな彼女を、また胸の痛みが襲った。内側から無理に押し広げられるような、痛烈なものだ。見ると、思ったとおり、ぷっくりと胸が膨らんでいる。それと同時に、心臓が少し強めに脈をうっていることにも気づいた。

「もしかして、激しい運動とかすると、成長しちゃうの……?」手指も少し長くなるのを見て、仕方なく遅刻することにした彼女だった。思ったとおり、少し落ち着かせると、その長さは元に戻り、胸の膨らみも消えていた。

「よかった……って、そんな場合じゃないんだって……」少女は、カバンに授業に必要なものを詰め込み、先にでかけていた親が作った弁当を回収すると、学校に向けて出発した。
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副作用

「これが『オトナになる薬』……?」

見た目は、ただの風邪薬のような錠剤。それを手のひらの上に置いて、九歳の少年はじーっと見つめた。二次性徴はまだ始まっていないが、背は低いわけではない。ただ、気になっていた近所の年上の女性に告白したときの反応が彼にこの薬を手にさせた。それは単純明快、『コドモっぽい』と一蹴されたのだった。あまり使い方に慣れていないインターネットで、どういうわけかこの『オトナになる薬』を見つけ、即日で購入、そして今日それが届いたというわけだ。

「えーと、『一日三回、一錠ずつ飲めば一ヶ月で効果が出ます……』」

薬が入っていた瓶にある注意書きを読み上げる。小学生レベルの漢字の知識で読めるように、難しい漢字はふりがなが振ってあった。

「『10錠飲めば一時間で効果が出ますが、副作用については保証できません』……かぁ」

彼は、少しのあいだ逡巡した。副作用でどんなことが起きるかまったく見当がつかない。しかし、この薬を衝動買いさせた焦りが、彼を動かした。10錠で一時間なら、20錠だったら一瞬で効果が出るのではないか。そう憶測した小学生は、瓶から薬をドバっと出した。そして本来なら一週間かけて飲む量を、水と一緒に一気に飲み干した。

「ふぅ……」

あまりにも大量の錠剤で、少し息がつまりかけたが、何とか胃袋に詰め込む。そして、薬は胃袋から身体に吸収されていく。それを、少年は自分の体の中の熱として感じ取った。だが、その熱は少し経つと収まった。

「え……」

時計の音がチクタクと部屋に響く。少年は瓶をボーッと見つめていたが、一分くらいして諦めたのか、瓶のフタを閉じた。

「やっぱり、こんな薬だけで大人になれたら苦労しない……か」

近所のお姉さんが、遠ざかっていく。悲しみよりも、バカバカしさの方が大きかった。考え方だけでも大人になってないかと少し思考したが、何も変わっていなかった。彼は、宿題をするためノートと教科書を取り出し、勉強机に準備して座り、鉛筆を握った。

そのときだった。

《メキメキ……》
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変身描写だけ描きたい!(TS/AP/TF)

「ま、待ちなさい!お前にはまだ!!」
「見ててください……俺の変身!」

俺は師匠に叩き込まれた気功術を発動させた。怪人が一般市民を襲っているのに、俺自身の安全を考えてなどいられない。それに、修行の成果を見せるには絶好のチャンスだ。

「ふんっ!!」

気合をこめると、俺の体がぐにぐにと縮み始める。逆に、髪は長く伸び始め、黒かったものが根本からピンク色に染まっていく。

「く、くぅっ!!」

とどのつまり、俺は魔法少女に変身しようとしていたのだ。なぜ少女に変身しなければならないかと言うと、話せば長くなるが、体に一定量ある魔法を凝縮させるのが一番の目的だ。

「だ、ダメです!!やはりまだ早い!!」

師匠は必死に止めてくるが、その言葉とは裏腹に、俺は思ったとおりの少女の体に近づきつつあった。手足は短く細くなり、筋肉も鳴りを潜めていく。そして、ぶかぶかになった服が変形を始める。変身中に少し発散される魔力が、普段着をフリルたっぷりのコスチュームに変えていくのだ。

「ふふっ、師匠……ちゃんと、俺、変身できましたよ」
「お前……!」

いつもより視線が低い。近くにある窓ガラスに映る俺の姿は、魔法少女そのもの。体は小学生くらいの大きさで、顔も幼くかわいらしく、もともとの面影などどこにもない。体の中は、濃度の高まった魔法で少しぽかぽかする。準備運動にと、体を少し浮かせ、魔法の命中度を高めるためのステッキを作り出す。

「じゃあ、俺、アイツを倒してきま……っ……!?」

怪人に敵意を向けた瞬間だった。いきなり体が熱くなって、心臓がバクバクと激しく鼓動した。

「だから、言ったのに!お前の体は、まだ戦闘向きの魔力に付いていけるようなものではないのだ!」
「じゃあ、元に……!!」

元に戻る気功術を発動させようとするが、体中を駆け回る熱、いや、魔力のせいで集中できない。

《ギュウッ……!!》

なにかに、胸が締め付けられている。いつの間にか怪人に襲われたかと思ったが、違う。服の、胸の部分が前に押し出されていた。そしてそれは俺の見ている前でどんどん大きくなる。

「こ、これって!?」

俺の疑問は、すぐに解決された。その盛り上がりは爆発的に大きくなり、服を破り捨てて飛び出てきた。肌色の、やわらかくすべすべとしたカタマリ。おっぱいだ。それも、子供の胸には釣り合わない、手に余るくらいの大きさだ。

「な、なんで!俺、男なのに!」
「今は、魔法少女でしょう。もう、手遅れです。あなたは、怪人になるのです」
「か、怪人!?この俺が!?うぐぅっ!?」

脚に、急に空気が送り込まれたかのような圧迫感が走り、目線がグイッと上がる。大きな胸で視界が邪魔されて脚はよく見えない。

「お前は木属性の魔法が得意だった……だから……」

ピンク色の髪が、緑色に染まり始め、更に伸びて腰に掛かってくる。背骨がグキグキと伸ばされ、骨盤が広がる。

「だから、植物の怪人になると……?」

指に痛みが走ったと思うと、一本一本が長く細く伸びる。そして、腕が引き伸ばされるように長くなる。

「ええ……」

服はもはやビリビリに破け、俺の体はほとんどが外気にさらされている。さっき幼い少女を映していた窓ガラスには、緑髪の女性が写っている。ほどよく健康的なその体は、こんな危機的状況でなければ、いつまでも眺めていたいくらいだ。

「なんだ、普通の女じゃないか」
「ここで終わると思ったのですか?
「え……うっ、ぐぅっ!!??」

脚に、強烈な痛みが走る。骨が、皮が溶けていく。そして、皮膚は茶色にただれて、形が崩れていく。ささくれだらけの乾いたそれはまるで木の幹のようだ。

「ドリアード、樹の怪物になるようですね……」
「そんな……!!」

その脚は、地面に突き刺さり、その下の土から、養分を吸い出す。俺の目では見えないが、体でそうわかった。そして、ドクン、ドクン、と吸い上げた養分が上半身に蓄えられ始める。

「おいしい……」

無意識にそう声を発していた。大地の恵みは、とても美味だった。こんな街の中でも、地中深い所では自然が残っているのだろう。その恵みで、俺の体は育ち始めた。

「いい、いい……」

肌が、微妙に緑色を帯び始める。巨乳だった胸が、更に大きくなっていく。脚からツルが伸び、体に巻き付いて服のようになる。そして、豊かに育った乳房も、包み込んでいく。

腰には飾りのように花が咲いた。地面に根を張った脚は、いつの間にか人の身長くらいに長くなり、人間と変わらない大きさの上半身と不釣り合いになっていた。師匠の顔が、下の方に見える。

「……思ったとおりの、結果になりましたね……」

その表情は、これまで見たことがないほどに曇っていた。その悲しげな顔が、俺の胸に突き刺さった。

「お、俺は……アイツを倒して……」
「だめです、だめですよ!怪人になっても、心を奪われなければ……!!」

師匠が、必死に俺を止めている。だが俺のプライドが、人間を襲っている怪人を倒せと言っていた。……今思えば、それはドリアードの本性が誘いかけていたのかもしれないが。

どっちにしろ、俺は無我夢中でそいつを攻撃し始めた。脚からつながったツルや樹の根、ありとあらゆる攻撃手段で、狩りをした。殺す、ころす、コロス。それ以外、考えなかった。

そして、怪人が粉々になった頃には、師匠の姿はなかった。もう、魔法少女なんかどうでもよくなっていた。それよりも……

「この大地は、ワタシのモノ……醜い人間の街など、この地から消してしまおう」

そんなワタシの前に、立ちはだかるものなど、なかった。