副作用3 (3/4)

「……?」
「やっと目が覚めたんだね」

そこは、中学の保健室。美緒はベッドの上に横たえられ、掛け布団をかけられていた。三浦は、美緒を背負ってなんとかここまで運んできた。小さいとはいえ、ここまで急いで運んでくるのは三浦にも荷が重かった。

美緒も美緒の方で、激しい成長の疲れからか、体を動かす力が湧いてこない。

「……それでさ、君のことなんだけど……君が倒れたあと……」
「私、倒れてたんだ……」

三浦は、美緒の体を乗っ取っていた何かの話をしようとしていた。だが、何かが彼を引き止めた。

「保健室まで運んできたんだ、でも先生いなくてさ、鍵も開いてなかったから、外から何とか鍵を開けて君を放り込んだんだ」
「えっ!?」
「すまない、女の子にひどいことをした」

美緒は一瞬考えたが、すぐにニコッと微笑んだ。

「でも、先輩は私のことを考えてくれたんですよね!問題ないですよ」
「そうか、それはよかった。……君は、僕のこと、よく思ってくれてるみたいだね、ありがとう」
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副作用3 (2/4)

美緒は、その日起こった出来事を反芻していた。怪しい薬を飲んだら、体が『オトナに』なった。写真を撮っていないのでどんな姿になっていたかは想像もつかないが、つい数分前に顔を合わせていた三浦が判別できなかったのだ。かなりの変貌を遂げていたはずだ。

「んー、でもなぁ……」

薬の効果は数分しか持たなかった。もしその度10錠飲んでいたら、瓶の中に残ったあと30錠ほどの錠剤は、体の成長を維持するなんて考えもつかないほど量が足りていない。とにかく、大きくなったときの『姉』の謝罪で、三浦に話を聞いてもらえる道筋は付けた。また会うときまで、薬は取っておこうと決めた美緒だった。

そして、その次の日。前の日と同じ時間、同じ部屋で薬をさらに10錠飲んだ美緒は、1時間後に来るであろう三浦を待ち始めた。……のだが。

ガラガラ……と、一分もしないうちに教室の扉が開き、三浦が入ってきた。

「えっ!?」
「うわっ!?また君か!」

美緒は時計を見た。やはり、三浦が帰ってくる時間まで一時間ある……が、秒針が動いていない。電池が切れているのに何故か気づくことができずに、この時間を迎えてしまったようだ。

「いえっ、あのっ、今日はちょっと他の用事があってっ」
「そ、そうなのか……」

こうなれば成長が始まるのは一時間後。しらを切ってこの場をやり過ごすしかないと思う美緒。

「あはっ、あははっ……うぅっ!!」

だが、昨日と同じ衝撃が、美緒を襲った。思わず胸を押さえるが、その手がプルプル震える。

「どうしたんだっ!大丈夫か!?」

急にうめき声を上げた美緒を心配して、三浦が近づいてくる。美緒は彼に助けを求めようと手を伸ばしたが、その瞬間脚が震えだし、バランスを崩して前のめりに倒れてしまった。

「おっと……」

三浦は倒れかけた後輩を何とか胸で受け止めた。その体が不自然なほどに震えている……いや、痙攣している。そして。

「うっ、ううっ!!」

さらに美緒がうめき声を上げると、小さな体がぎゅいぎゅいと縦に伸び始めた。背伸びをしているのかと思うが、違う。短かった脚が異様に伸びているのだ。ついには脚の成長だけで三浦の身長に追いついてしまった。

「き、君っ!!」
「また、大きくなっちゃうぅっ!!」

その腕にしても、可愛らしく子供らしかったものが妙に伸び、さらには上半身が成長し始めた。そのせいで身長差は逆転し、三浦は美緒に押し倒され、のしかかられてしまった。

「うぅっ!!いやぁっ!!」

これまで縦に伸びるだけの成長だった体が、今度は横方向に膨らんでいく。ブルブルと震えながら、全体に脂肪とそれを支える筋肉がついていく。そして、三浦に押し当てられた胸に、柔らかい膨らみが形成されていく。

「おっぱいがぁっ、おっぱいがあついよぉっ!!」

ムリムリムリッ……!!と急激に大きくなるそれは、三浦の上半身を覆っていく。美緒の激しい鼓動が、乳房を通じて三浦に伝わってくる。女子と付き合っていた彼にしても、早すぎる体験に三浦の理性は文字通り潰されそうになっていた。

「な、なんでぇっ……まだ一時間経ってないのにぃ……」

ヒップもプルプルと膨れ上がり、三浦にさらなる重りとしてのしかかる。だが、体の痙攣自体は弱まっていき、美緒の体は大きくなることをやめた。

「はぁっ、はぁっ……」
「……」

そこには、体格差が逆転し、荒い息を上げる後輩に、押しつぶされそうな先輩が残された。やわらかな双球は三浦の肺を圧迫していたが、呼吸はかろうじてできた。

「あ、あっ、ごめんなさいっ……!」

美緒は体勢を立て直し、三浦から離れるが、三浦は未知の感覚に放心状態になってしまい、あまり動くことができない。

「先輩の前で『オトナ』になりたくて、先輩に私を見てもらいたくて、でもこんなに迷惑かけちゃいました……」
「え……」
「これ、なんです……」

美緒は、薬の瓶を三浦に見せた。三浦はなんとか立ち上がり、そのラベルを読む。

「『オトナになる薬』……?」
「そう、です……こんな薬、飲むんじゃなかった……」

今にも泣き出しそうな美緒に、三浦はどうすることもできない。すると、美緒はその表情のまま、三浦に近づき始めた。

「えっ?あれっ?」

そして、三浦の肩を持つと、椅子に座らせた。だが、美緒は当惑の表情を浮かべている。

「私、こんなことしたいはずじゃ……えっ!?」

美緒の手は三浦のジッパーを下ろし、中のモノを取り出した。

「な、なんでっ!?」

三浦の方はというと、突如として痴態を晒し始めた後輩をなぜか受け入れてしまっていた。その間にも、美緒は服を脱ぎ、豊満な肢体をソレにこすりつけ始めた。

「うおっ……」
「は、はずかしいよぉ……」

三浦は思わず興奮し、美緒に抱きつく。すると、美緒の体にさらなる変化が訪れ始めた。

「んんぅっ……」

彼女の体が、さらに大きくなっていくのだ。大人の女性としても身長が高くなっていき、ムチムチとした肉付きがさらに強調されていく。だが、ウエストはキュッとしまったままだ。

「まだ大きくなるの!?……!」

今度は、巨乳の中でも大きめなその胸で、大きく怒張した三浦のペニスを挟み込む美緒の体。自分の意志とは関係なく、濃密なスキンシップをしてしまう体に、美緒は涙を流しながらついていくほかなかった。

しかも、その胸もさらに膨張し、男性器を包み込んでいく。

「う、うっ……こんなの、出さずにいられるかっ……」

最後に残っていた三浦の理性を振り切り、白濁液が美緒の顔にぶちまけられた。そこで、美緒は白目をむいて意識を失った……が、体は動くのをやめない。

「な、なんだこれ……!?」
「うふふ、こんなに気持ちがいいってことないわ……」
「えっ!?」

美緒の口から、これまでとは違う、落ち着いた大人の声が出、三浦は冷や汗をかいた。その次の瞬間、美緒の目が戻った……しかし、その瞳は美緒のものではなく、赤く光る、悪魔のようなものだった。

「先輩くぅん?楽しんでもらえたかなぁ?」
「へっ……!?」

美緒の顔にも、悪魔のような笑みが浮かぶ。

「今はすぐにもとに戻っちゃうけど、あと二回、あと二回成長すれば、あなたは私のものになれるわ……せいぜい、楽しみにしてなさい」

その言葉が終わると、美緒はガクッとうなだれ、体の動きも止まった。そのまま、シューッと音をたてるように、男性でも長身の部類に入るほど成長していた美緒の体は、元に戻っていった。

三浦は椅子に座ったまま、自分の膝の上で寝息を立てている美緒を呆然と眺めた。

副作用3 (1/4)

「はぁ、なんでこんなものに頼ろうとしてるんだろう、私……」

一人の少女が、中学校の教室で一人佇んでいた。彼女の名は平良 美緒(たいら みお)。この中学の二年生だ。その隣の机の上は、『オトナになる薬』とラベルのされている薬がおいてある。『10錠飲めば一時間で効果が出ますが、副作用については保証できません』とも、印字されていた。

そして、彼女は55分前に、薬を10錠飲んでいた。憧れの先輩である三浦の気を引きたいがために、彼が部活を終えて一回教室に戻ってくる時間を覚え、その1時間前に薬を飲んだのだった。

「ホントに、あのおっぱいでかい人みたいになれるのかな?」

街ですれ違った……というよりは正面衝突した女性に、あまりに育ちが悪い体を見られ、笑われ、お詫びにもらった薬。彼女が見たことないくらいの胸に圧倒され、怪しい薬を拒否することもできなかった。

「でも……!」

ガラガラ……

教室の扉が開いた。予想通り、三浦が教室に戻ってきたのだった。筋肉質で大柄、顔はイケメンとは言い難いが、年に見合わず落ち着いたものだ。

「うわっ!?どうしたの、君……?」

人がいるとは思っていなかったようで、彼は一瞬うろたえたが、なんとか美緒に声をかけた。

「三浦先輩、あ、あの……!見てもらいたいものがあるんですっ!」

あと一分で薬を飲んでからちょうど一時間だった。その時間だけ待ってくれれば、美緒は『オトナ』になれるのだ。

「……いいけど、急いでね。あと二分でここを出ないと、最後のバスが出ちゃうから」
「は、はいっ!一分くらい、待ってくれるだけでいいです!」
「え?うん……」

二分。十分だ。美緒は、心臓が高鳴るのを感じた。時計の秒針を睨む。あと十秒、九秒、……、二秒、一秒……

「……あ、あれ?」
「どうしたの?」
「い、いえ……もうちょっとだけ……」

時間を過ぎた。そして、二十秒、三十秒と経過していく。焦りがつのっていく。そして……

「ごめん、これ以上待てない」
「あ、ご、ごめんなさい……っ!!」
「いや……だけど、いたずらならもうちょっと良いタイミングでやって。じゃあ」

三浦は踵を返し、扉を閉めて出ていった。美緒の中に絶望感が生まれた。三浦と話すのはこれが最初だった。第一印象は最悪、もう話しかけてくれないかもしれない。

「でも、なんで……」

薬の瓶の印刷を読み直す。そこには、『一時間で効果が出ます』と確かに書かれている。ため息をついて、瓶をおいた、その時だった。

ドクンッ!!

「ひゃいっ!?」と、あまりに突然に、全身に走った衝撃に奇声を上げてしまう。

ギュイッ!!

そして突然、美緒の腕が……伸びた。「なにっ!?なんなのっ!?」
美緒は無意識に、椅子に座って落ち着こうとした。しかし、腰をおいた瞬間。

ギュギュイッ!!

腕と同じように、脚が伸びる。その長さは、元の倍くらいになっていたが、太さは変わっていなかった。相対的にガリガリになった長い手足に呆然としていると……

ポコンッ!

美緒は左胸に衝撃を感じた。その発信源を見ると、なにかが大きく立って、服を押し上げている。場所から言うと、美緒の乳首だった。

「えっ、嘘でしょ……?」

服をたくし上げると、確かに左乳首が平らな胸に全然合わないくらい大きくなっていた。恐る恐る触ると、刺激が走る。

「ひゃんっ!」

すると、彼女の悲鳴に応じたかのように、右乳首もポコンッ!と巨大化する。そして休む間もなく、腰骨と背骨がメキメキッと成長し、美緒は『オトナ』というより、ガリガリの乳首が大きい女性らしき何かになってしまっていた。

「こんなの、やだぁっ!」

だが、『効果』はそれで終わらなかった。ドクン、ドクンと彼女の鼓動がだんだんと強くなり、そのたびに全身が痙攣するようになる。

「だんだん、太く、なってる……?」

美緒が理解したとおり、彼女の体は空気を入れられる風船のように、膨らんでいた。手足にはムチッムチッと皮下脂肪がつき、体を押し上げてくるのは尻が大きくなっているせいだろう。大きくなった乳首の根本にも、急速に膨らみがついていく。

「や、やった……これで、オトナにっ」

ガリガリだった美緒は、段々と健康的な体つきになっていく。着ていた服がギチギチといいはじめ、胸のボタンは左右に引っ張られていく。

「あっ、そろそろ、大きくなるの、やめてっ」

強い鼓動のたび、言葉を止めなければいけない。だが、美緒の思いが通じたかのように、その成長は服を引きちぎる前に終わった。といっても、くびれたウエストは丸出し、スカートもギリギリの丈になってしまっている。美緒は立ち上がって、自分の体を確認しようとしたが……

ガラガラ……

「ひぃっ!?」
「うわぁっ!?」

変身が終わって息をつく間もなく、教室の扉が開いた。入ってきたのは、帰ったはずの三浦だった。

「あの、どなた、ですか……?」

見知らぬ女性に、たどたどしく尋ねる三浦。なにしろ、巨乳のお姉さんがいると思わなかったところにいたのだ。しかも露出度は高く、三浦は目のやり場に困っているようだった。しかしそのおかげか、明らかに中学生と思えない体格の女性が、中学の制服を着ているのに気づいていない。

「あの……美緒……っていう子の姉です」
「あ……お姉さん、ですか……」

美緒は、自分のことを正直に話しても信じてもらえないだろうと、嘘をつくことにした。三浦はそれでも、目を背けたままだった。

「あの、俺、財布を置き忘れたので、取りに来たんですが……」
「ごめんなさいね、妹が変なことを……」
「いえ、いいんです……」

三浦は目を伏せながら、自分の机の中から財布を取り出し、そそくさと入口に戻っていく。

「では、これで……暗くなると変な人が多いから、気をつけてください」
「え、ええ……」

美緒はほっと胸をなでおろしたが、暗くなりつつある外を見て、急いで薬をカバンの中に入れ、教室をあとにした。あまりに急いでいたせいで自分の格好を忘れていたが、通学路の半ばで思い出したときには、美緒の体はもとに戻っていた。

子作りの準備

あむぁいおかし製作所様にて公開させていただいているものです。
リンク先:http://okashi.blog6.fc2.com/blog-entry-22321.html

「私をはらませちゃったね❤」
「はっ!?お前、安全日だって言ってただろ……!?」

このピンク色のアマは、いきなり何を言い出すんだ。仕事の鬱憤ばらしに高い金を払って、マッサージを受けていたら、いきなりこれだ。

「うん、安全に私に種付けできる日だよ!」
「た、たね……?冗談言ってんじゃないぞッ!?」

おいおい、子供ができるだと?こんなの、聞いてないぞ。今のうちに、こんなところから逃げ出して……

「あ、ダメだよ。ここまできたら、逃げられないんだから」

服を着ようとした俺の手足に、ぬめぬめとしたタコの触手のようなものが巻き付いた。抗おうとしても、とんでもない力で動きを押さえてくる。そして強制的に女の方を向かさせられた。

「なんだ、てめぇ……」
「私には、ちゃんとしたポカンパス、略してポカっていう名前があるんだよ」

ポカンパス……湿布の名前のようなそいつは、ニヤニヤしながらベッドの上で自分の腹をさすっている。まるで、腹の中の子供を撫でるように。その体の下から、俺を拘束している触手が出ていた。
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副作用2 (3/3)

数日後の夜、一台のパトカーがパトロールを行っていた。

「この道路にしては珍しく車がいませんね」
「そうだな……」

街の大通りには、パトカー以外、人っ子一人いない。24時間営業の店にすら客も、店員でさえもいないように思えた。

「不気味だなぁ……」

巡査二人、一人は男性で年上の三鷹、もう一人は女性の中野で、三鷹が運転をしていた。

「なんだか、俺たちがこの道路にいちゃいけないように思えてきた……」
「そ、そうですね……」

三鷹は、住宅街の中へとハンドルを切り、大通りから外れた。やはりそこにも誰一人として歩いていなかったのだが、数百メートル走ったところで突如として一人の上半身裸の少年が現れた。

「うおっと……びっくりした……」
「私もです……とにかく補導しないと……」
「そうだな、こんな夜に暗い道をあんな姿で一人で歩くなんて……このごろ失踪事件が多いんだから」

小学生らしきその少年の手前で、パトカーを停める。中野は、気に留めずに歩き続ける少年に声をかけた。

「きみ、大丈夫?一人でこんなところ歩いてちゃダメでしょ?なんで服を着てないの?」

それでも止まろうとしない少年。中野はその肩を持ち、引き止める。

「ちょっと、聞いてるの?」
「だ……め……一人に……して……」

たどたどしく、少年は言葉を紡いだ。もう、説得するだけではどうしようもないと考えた中野は、その体を抱き上げ、パトカーの後部座席に無理やり押し込んだ。

「こら、そんな乱暴にしちゃだめだろ……」
「いいんです、ほら、交番に行きましょう」

三鷹はため息を付き、サイドブレーキを緩めてアクセルを踏もうとした。その時だった。

「だめって、言ったわよねぇ……?」
「え?」

不意に、水商売のような口調の言葉が、しかし少年の声で発せられた。

「まぁ、また大きくなれるから、私はいいんだけど?」

三鷹は恐る恐る後ろを向いた。そこには、少年の泣き顔があった。その顔が、ゆっくりと持ち上がっていく。よく見ると、体が徐々に大きくなり、胸には乳房のような膨らみが付き始めていた。三鷹はぎょっとして、プルプル揺れながら膨らんでいく2つの膨らみを凝視した。

「男の子だと思った?残念……」

大粒の涙が出ているのに、その口からは余裕たっぷりの声が出てくる。まるで、口とそれ以外の体全体が違う人物のようだった。

「なんだ……おまえは……」

短めに切ってある髪が、一気に伸びていく。と同時に、胸の膨らみ方が速くなり、少年はそれを手で抑えようとする。

「こんなに大きなおっぱい、見たことないでしょ……?」

表情からは、『大きくならないで!』という叫びが伝わってきそうだが、その真逆の発言をしている。三鷹は、ただの子供だと思っていた子の急激な成長と、そのギャップに頭がおかしくなりそうだった。

「あら、ごめんなさいねぇ?この器の感情が、体の動きに出てるみたいね……?そろそろそれもなくなるわ」

三鷹の困惑に答えるその声とともに、髪と瞳が赤に染まっていく。表情が一瞬うつろになったと思うと、今度は歪んだ笑顔に変わった。これまでの発言とマッチするような、悪女の笑顔に。

「ふぅ、これで変身も済んだことだし……ねぇ、あなた?」
「ひぃっ!?」

放心状態になっていた中野に、少年……だった、女性が振り向いた。すっかり腰が抜けた中野は、悲鳴を上げた。

「あなたもみんなと同じにしてあげる……」
「い、いやぁっ……!」


時は戻って、少年が運び込まれた駅の事務室。体を完全に乗っ取られ、髪も瞳も紅に染まった少年は、ニヤァと口を歪ませ、女性駅員の方を向いた。

「もう遅かったわね……あなたの情報通り、薬を飲みすぎた奴は、4回目の変身で、私が表に出てくるのよ」
「あなた……」
「私は、人間界ではサキュバス……夢魔と呼ばれる悪魔よ。名前は……カトラスタ、でいいかしら」

明らかに本名を名乗っていないその『サキュバス』は、駅員を舌なめずりしながら見つめた。その動かない、赤い瞳に、駅員の心は揺れた。

「ふふ、いい顔ね……そこでかわいく見てなさい」

カトラスタは、呆気にとられている男性職員に近づいた。

「現実世界で見る男も、いいものね……私は、夢の中の悪魔。夢の中でしか男を見たことないもの」
「な、なにいって……悪魔、なんて……いるはずが……」
「あら、この子から変身したのを見てもそう言えるの?」
「う、うぅ……」

悪魔の正論に、駅員は口を閉じてしまう。

「あの薬は、私が薬剤師を誘惑して作らせた私の一部が入った薬。10錠でも飲めば体の中に『私』が溜まって、そのまま乗っ取っちゃう薬なのよ。それをこの子は……」

大きく実った乳房を吟味するように、揉みしだく。

「あぁっ……いい感じ……さて、と……ねぇ、この体、堪能してみたい……?」

ゴクリとつばを飲み込む駅員。眼の前の女性が悪魔と知らなければ、迷わず自分から近づいていっただろう。そして、知った今でも、無意識に手が伸びてしまっていた。

「でも、残念。私にはそんなことする意味がないわ。あいにく、今は急いでるしね?そのかわり……」

カトラスタは、男性駅員の腕をぎゅっと握った。

「すぐにあなたのパワーを吸い出してあげる」

ニコッと微笑むと、赤い瞳が強く光りだし、同時に男性駅員の体が干からびはじめた。

「な、やめ……ろ……」
「あぁん、あなたのパワーって思ったよりすごいのね……?」

逆に、カトラスタの体はムチムチと大きくなっていき、胸も尻も腿も、さらに肉感を増していく。腕を通じて、駅員の『パワー』を吸い上げているのだった。

「に……げ……、」

男性駅員は最後の力を振り絞って、女性駅員に逃げるよう促そうとしたが、無駄だ。彼女はカトラスタに幻惑を受け動けなくなっていたのだ。

「ごちそうさま、と。じゃあ、次はあなたね」

骨と皮ばかりになってしまった駅員の腕を放し、女性駅員に振り返るカトラスタ。先ほどよりもサイズアップした胸の膨らみを持ち上げ、満足げな顔で近づいていく。

「あなたには、私と同じ力をあげる。その代わり、私の眷属になってもらうわよ」
「けん……、ぞく……」

カトラスタは一歩、また一歩と近づいていくが、女性駅員は、やはり動けない。

「そ、私のしもべ、奴隷ってことよ。じゃあ、いくわよ」
「ん……」

そして夢魔は、不意に口づけをした。その瞳がまた光り始める。

「ん、んっ!!?」

ようやく幻惑が解けた女性駅員だが、時すでに遅し。無理やりねじ込まれてくる舌から、カトラスタの力が流し込まれる。

「ん〜っ!!!」

最近気になり始めていた小じわが全て消え、残業で傷んでいた髪は潤いを取り戻す。肌のくすみが消えると、全体的に色白となって……

《ギチギチギチッ!!》

急に制服が悲鳴を上げ始めた。特に旨の部分は大きく押し上げられているが、彼女の体全体が大きくなっていた。

「んふふっ……」

カトラスタは、駅員の変貌を見ながら、口づけを続ける。彼女自身の体は元に戻りつつあった。といっても元の少年のものではなく、変身後の彼の体に戻っていたのだった。

変身が終わると、女性駅員の体は一回り大きくなり、それ以上に胸が巨大化していた。

「さ、この男を収容してちょうだい。場所はわかるはずよ。あと、あの『薬』も作れるようになってるはずだから、大量にばらまいてちょうだいね?」
「はい、ご主人様……」

女性駅員だったカトラスタの眷属は、男性駅員を腕に抱えると、虚空へと消え去った。

「さて、私は新しい獲物でも見つけましょうね」

カトラスタがそう言うと、彼女の体はシュルシュルと元に戻った。

「男の……人、探さ……なきゃ……」

駅員とは別の形で眷属となった少年は、ふらふらと部屋を出ていった。


「あ、悪魔め……!」

三鷹は、カトラスタと、なすすべもなくカトラスタの眷属になった中野を睨んだ。

「俺は、何をされようとも屈しないぞ!!」

ホルスターから拳銃を取り出してみせるが、すかさず銃口が眷属の手で塞がれる。

「先輩、まさか私のこと撃てるはずないですよね?」
「ざーんねんでした、あとは任せたわ、かわいい眷属ちゃん」

パトカーの扉を開け、カトラスタは暗闇の中へと消えていった。

「まてぇっ!!」

シートベルトを外そうとする手を、だが、眷属の手が抑えた。

「せんぱぁい、いいことしましょうよぉ!」
「邪魔だ、どけ!」

何とかベルトを外し、パトカーの外に飛び出す。悪魔の姿は遠くに、だが確実に見えた。

「元陸上部の俺から逃げられると思うなよ!」

そして駆け出した彼の進路は、一瞬で何かに阻まれた。

「先輩、後輩をおいてどこに行くんですかぁ?」
「……っ、中野ォッ!目を覚ませぇっ!」

それが中野だとわかると、平手打ちで正気を取り戻そうとした。

「やっとご自分から手を差し伸べてくれましたね!」
「なっ……!?」

頬を打つはずのその手は、巨大化した眷属の胸をもんでいた。一瞬の戸惑った三鷹の視界は、次の瞬間あられもない方向を向いていた。

「先輩も一緒に楽しみましょ?」

三鷹は、路面に押し倒されていたのだった。女性であるはずの中野の力に、なぜかどうしてもかなわない。

「くっ……俺にはどうすることもできないってのか……!いっそのこと、もう殺してくれ!」

中野はその言葉に……満面の笑みを浮かべた。

「はい!人間の人生は終わらせて、一緒に悪魔になりましょう!」
「んっ……!?」

中野は、三鷹に口づけをした。そして、何かを三鷹の中に流し入れた。

「ふぅっ、先輩とこんなところでキスするなんて、思っても見ませんでした!」

中野は立ち上がり、 パトカーの中からカメラを取り出した。三鷹は、流し込まれた何かが、自分の全身を食い殺していくかのような痛みを感じていた。

「せんぱぁい、体の具合はどうですか?」
「全身が……痛い……!」

それは、悪魔の力が人間の構造を破壊していく痛みだった。三鷹の骨格、筋肉、そして脳を含めた神経全てが、別のものに書き換えられていく。

《グギギッ!!》

軋むような音がすると、腰がグイッと太くなり、逆に手足や身長は縮んだ。

《グチュッ!グジュッ!》

心臓が血液を送り出すたび、筋肉が脂肪に置き換えられ、その位置を徐々に変えていき、三鷹のシルエットが女性のものになっていく。

《メキメキ……》

顔は魅惑的な女性のものに変形し、髪が伸びる。

「あはっ!先輩が眷属になってく!!」
「そんな!俺は……!」

その声も、女性のハスキーボイスに変わる。

大きくせり出した胸がボタンをぶち破り、それが女性の象徴であることを主張するようにブルンブルンと揺れた。痛みはそこで収まり、変身が終わった。

「先輩、眷属になった気分はどうですか?」

中野はパシャッと写真をとり、三鷹に再生画面を見せた。

「お、俺は……ぁ……」

三鷹は戸惑いの表情を見せたが、口を歪ませ「最高の気分ね……」と笑い始めた。

「先輩!もっと私達と遊べる人たちを増やしに行きましょ!」
「『人』って、私達は『眷属』よ、間違えちゃ、だめっ!」

二人は、少しの間笑いあったあとフッと姿を消し、そこにはライトとエンジンがついたままのパトカーだけが、帰ることのない運転手を待ち続けていた。