白い恒星

「いただきます」

とある日本家屋で、朝食の食卓を囲む3人の姿があった。父親の名前は天彦、いたって普通の人間……なのだが、他の二人が違った。妻の白扇と娘の九音には、狐のような耳と、九尾の尻尾が生えている。白扇は狐の神であり、銀白に光る長い髪と、その男性でもかなわないような高身長と、これでもかというくらいムッチリとした体型は、神々しいほどのものだった。九音のほうは、顔立ちは母親譲りの美人だが、耳と尻尾以外は普通の子供だった。薄い桃色の髪の毛を揺らしながら、もぐもぐと美味しそうに母親の作ったご飯を食べている。

「あなた、そんな残念そうな顔しないでも……」

若干ブカブカになっている和服の胸の部分を、天彦は少し不満そうに見ていた。今の白扇の胸はGカップほどの巨乳なのだが、本来はもっと、というかかなり、というか比べ物にならないほど大きいものなのだ。それをいつも堪能している天彦にとっては、今の白扇は完全に大きさが不足している。

「あ、すみません……そんなに顔に出ていましたか……」
「はい……ご飯をいただくときは、こうしないと食事に手が届かないのですから……」

テレビからは、ニュースの音声が聞こえてくる。『太陽風が近づいており、電磁ノイズなどの障害が見込まれます』……と、太陽から吹き出される大量のエネルギーを電磁波で、地磁気が乱されるらしいことを報道していた。

その瞬間だった。ドカンッ!!と、机が肌色の球体で潰されていた。紛れもない、白扇の乳だった。

「えっ!?なんで、いきなり……!」

白扇自身が一番驚いていたが、それはどんどん大きくなっていた。

「かーさま、どうしたの!?」

九音はせまりくる胸肉から逃げつつ、母親を不安に思って声をかける。

「私の体が、力で満たされて……!止められないっ!」

部屋が、白扇で満たされていく。神通力を使っているのか、和服もサイズアップしてなんとか局部を隠している。

家の壁や柱がギシギシと軋み、変形して、ついにはバァンッと崩れ落ちた。

「白扇さん!」

そこにあるのは、家より大きな白扇の乳房と、それに隠れそうになりつつも、これも巨大化している白扇の体があった。天彦の目の前にある脚も、これまで以上にムッチリと膨らんでいる。

「太陽からの力が、いつもよりもすごくて……っ!抑えきれませんっっ!!!」

その声は街中に響いていた。巨大化は止まらず、むしろスピードアップしていく。九尾の狐神は地面をえぐり、周りの建物を倒し、その豊満な体つきを近所の住人に見せつけながら、大きくなっていった。

さっきまで小さすぎると思っていた白扇の胸は、街の一角を占拠し、さらに隣の街区へ侵食していく。ボリュームたっぷりの尻は、電柱を倒し、通りかかった車を潰し、ムチムチと音を立てて、体積を増やしていく。
見る人を惹いてやまない紫色の目は、身長が伸びるにつれ、どんどん高いところへと上がっていく。

「このままでは、街が潰されて……よい、しょっ!!」

自分の体で壊滅していく街を見て、白扇が立ち上がった。その曲線的なシルエットが、太陽光との逆光で強調される。上を飛んでいたヘリにぶつかりそうになるくらい大きくなった体と、胸にはバルンバルンと数十メートルの振幅で揺れる巨大な球体が付き、腰は暴力的なほどの肉付きで、しかもさらにスケールアップしていく。

「まだ、速度がさがらないなんて!」

白扇の大きさは、一歩で狭めの公園が潰れるほどのものだったのが、次の一歩では小さめの駅が脚の下にすっぽり入ってしまい、さらに次の一歩ではスーパーが跡形もなくなった。

天彦からは次第に遠ざかっていっているようだったが、それでも、白扇の焦ったような、恥ずかしがっているような顔が見える角度は変わらない。超高層ビルと同じくらいの高さで、その数十倍の体積を持った乳房を振り回し、それで起こった気流で雲の形が変わるほどになっていく。

「天彦さん、私、どうすればっ!」

遠ざかっていくときは少し時間がかかったのに、どうしようもなくなったのか戻ってくるのは早かった。そして、白扇が、天彦に顔を近づけようとすると、小惑星のような大きさの肌色の柔肉が地面に激突し、大きなクレーターができた。すべすべでぷるんぷるんとゆれる、数kmの高さがある断崖絶壁の上から、白扇の涙顔が覗いていた。

「ここまできたら、限界まで大きくなってみたらどうでしょう?溜め込んだ力で、なんとかできるかも」
「は、はぁ、なるほど……」

実はこんなことになるのは今日が初めてではない。これまでも街一つだけではなく、地球や他の惑星まで壊してしまったことがあった。白扇は、そのたびに神通力で世界をもとに戻していたのだ。

「でも、毎回恥ずかしいです……」

地面がゴゴゴゴと揺れる。まだまだ白扇の巨大化は止まっていない。地平線の彼方で、白扇の足が高山を押し崩していた。

「それよりも……白扇さん……」
「えっ?あ、はい、只今」

天彦の姿がフッと消えた。それを確認して、白扇は乳房を持ち上げて、勢いよく、仰向けに寝転んだ。その衝撃で地殻が割れ、マントルが吹き出し始めるが、白扇の体はそのエネルギーすら吸収して、巨大化のスピードはドンッと上がった。

「……これ、白扇さんの胸……だよな……?」

その胸の上にワープさせられた天彦は、プルンプルンと揺れる大地に顔をうずめた。いつものような、いい香りと体温が伝わってくる。九音も、その感触を楽しんでいるようだった。

「もう、二人で楽しまないでください!」
「……白扇さん、なのか?」

そこには普通サイズの……といっても、胸は男一人を包み込めそうなくらい大きいが……白扇が立っていた。

「分身ですよ、今は大きさが違いすぎてしゃべることもできませんから……」

三人を、半透明のシャボン玉のような球体が包むと、高速移動を始めた。すると、永久に続くかと思われた肌色の大地の地平線に、本物の白扇の顔が見えてきた。先程とは違って、優しい微笑みを見せている。

「やはり綺麗な方だ……また、地球をすごい高さから拝めるのかな?」
「いえ、もう地球は力として吸収してしまいました……ちょっと離れてみましょう」

今度は、ワープといえる速度で白扇から離れた。すると、太陽がすぐ近くにあった。いくら巨大化しているとは言え、太陽のほうが100倍以上大きかった。しかしすぐに、そのエネルギーを吸収する白扇の胸……もとい体が追い越し、太陽は白扇の口にすっぽり入るサイズになってしまう。白扇は、天彦に向かって少し微笑むと、火の球体を口の中に入れてしまった。

「また、やっちゃいましたね」
「これを復元する前に、三人だけの時間を楽しみましょう?」

再び、本物の白扇の胸の上に降り立つ。普通サイズだった白扇の分身も2倍くらいに大きくなり、天彦は超々巨大な白扇と、分身の白扇の二人に挟まれ、至高の時間を過ごした。

ふしぎなオーラ

ダイマックス。それは、ポケットモンスター、略してポケモンと呼ばれる、不思議な生き物、その中でも特定の個体だけが行える身体強化技能だ。

あるオーラをまとった特定のエリアでしか発揮できないそれは、まさに「巨大化」。巨大な体で、莫大な体力と攻撃力をもって、敵を破壊し尽くすのだった。

10歳の女ポケモントレーナーであるユウリは、まさに今ダイマックス化したポケモンの巣穴に入り込んでいた。普通のポケモンの巣穴など、人が通れる大きさのものは少ないが、巨大化したポケモンなら話は別だった。

ユウリは、腕につけたダイマックスバンドに、パワーがだんだんたまりつつあるのを感じつつ、奥に進んでいく。この巣穴のオーラは、ユウリが足を踏み入れた他のダイマックスポケモンの巣穴のどれよりも数段強かった。

やがて、広い空間に出た。ポケモンの寝床だろうが、そこには何もいない。ユウリが捕まえようとしていたダイマックスポケモンは、影も形もなかった。彼女は肩を落として、来た道を帰ろうとした。だが、ユウリが思っても見なかったことが起こった。

オーラが彼女の方に向かって凝縮され、ダイマックスバンドが強い光を発し始めたのだ。ユウリのこれまでのダイマックスポケモンとの戦いでも、巣穴のオーラを利用して自分のポケモンを巨大化させて使うことがあり、その時でもバンドは光っていた。だが、今回の光は目もくらむほどの強さであり、いつもよりも激しいものだった。ユウリが恐怖を感じ、バンドを取り外そうと手を当てた、その時だった。

バァァン!!

バンドが爆発したかのような音が響き渡るとともに、溜め込まれていた光がユウリの全身に注ぎ込むように流れたのだ。途端、ユウリは少し大きめのはずの服がきつくなっているように感じた。

光が収まって、ユウリは服を確認した。するとなぜか、全部の服のサイズが小さくなり、ユウリの体に合わなくなっていた。すぐにベルトがブチッと切れ、手持ちポケモンが入っているモンスターボールが床に落ちた。

衝撃で、中のポケモンが飛び出してくる。鳴き声を上げて主人を見たそれは、非常に驚いたような表情をした。驚いたのは、ユウリも同じだった。服と同じように、ポケモンのサイズも小さくなっていたのだ。

しかも服もポケモンも、さらに小さくなり始めていた。そこで、彼女は何が起きているのか悟った。自分が巨大化しているのだ。

だが、半ばパニックに陥ったユウリの体は、大きくなっているだけではなかった。破れている服から出ている腕や足は、そのサイズからしても明らかに長くなっていた。すでに膨らみ始めていた胸も、段々と服を大きく押し上げるように成長し、そして服を引きちぎってさらけ出された。

彼女は、目の前にいるポケモンから隠すように、自分の体を抱きながら、あることを思い出した。非常に限られたポケモンがダイマックスを超えた巨大化であるキョダイマックスをすることが可能だと聞いていたのだ。キョダイマックスをしたポケモンは、巨大化するだけでなく、見かけにも別のポケモンになったかのような変化が出る。

ユウリにも、それと同じ現象が起きていたのだ。彼女の体は、子供から大人のものへと変貌を遂げようとしていた。ズボンをビリビリとやぶいていく腰回りにも、大きなヒップが生み出され、オーラの光に薄暗く照らされる彼女のシルエットはどんどん女性的になっていく。

巨大化も続いていた。元の何十倍も大きくなると、空間の天井に頭がガツンとあたり、体育座りにならざるをえなかった。足と体で、膨らんだ胸がムニュッと潰され、巨大ながらも弾力感を醸し出していた。しかも、莫大な大きさとなった今でも、それはむぎゅぎゅと膨らむことをやめなかった。これまでダイマックスさせたどんなポケモンよりも大きくなり、慣れない大人の体に、どうすることもできないユウリの前で、頭と同じくらいの体積になってやっと巨大化は止まった。

そこで、彼女はやっと、空間の隅に、ひときわ強く輝く宝石のようなものがあるのに気づいた。巣穴から出ることもできず、他にできることのないユウリは、その宝石に手を伸ばし、触れた。

途端、宝石が光を発し、収まっていた巨大化が再開した。しかも、今度はかなり急速だった。ググググと大きくなるユウリの体は一瞬で空間を埋め尽くした。

だが、巣穴の壁に潰されると思ったユウリが、やけくそで全身の力を込めて立ち上がろうとすると、あっけなく巣穴は崩壊し、ユウリの豊満となった体は地上へとさらけ出された。地上にいたポケモンは撒き散らされ、トレーニングやポケモンをゲットするために周りにいたトレーナーは、突如現れた、一つの街よりも大きい女性トレーナーの全裸を見せつけられることになった。

その地方の最も高い建物よりも高くなった体だけでなく、すべての湖を足しても負けそうなくらいの体積を持った胸も、島のどこからでも見ることができるくらい巨大なものだった。

校舎日和

『さあ、猫松さん、一緒に食べましょう』
「そ、そう……じゃな……」

ねこますの眼下には、鉄筋コンクリート製の学校校舎があった。その一部は、隣にいたのらきゃっとに食べられている。

(なんで、こんなことになったのじゃ……?)

この話は、二人がこの世界で『起きた』ときから始まる。

『猫松さん、猫松さん』
「あっ、はいれた……」

ねこます、通称バーチャルのじゃロリ狐娘YouTuberおじさん、略してのじゃおじ、と呼ばれる彼女は、中学生くらいの背丈の巫女服姿の金髪狐耳の少女だ。ただし……

「のらちゃんお久しぶりー」

その口から発せられる声はアラサー男性そのもの。この世界の特異性として、姿と声が合わないのは普通のことなのだ。

『お久しぶりです、猫松さん』

それに対して答えるのは、のらきゃっと。戦闘用アンドロイドの銀髪美少女だ。ゴシック調で、紫がかった黒の服は、大きく胸が押し上げられ、その後ろからはネオンのように赤く光るしっぽが飛び出ている。頭の上から生えている猫耳は、放熱板のようなフィンが埋め込まれた機械のようなものだ。

「あ、あっ……やっぱり、のらちゃんを近くで見ると……あはは……」

ねこますは、背丈が低い彼女の方にかがみ込んでいた、のらきゃっとの頭をなでた。

『猫町さんも、かわいいですよ』

のらきゃっとの方は、少し焦点が合わなくなっているねこますの頬を撫でた。

「ああぁぁ……これ、すげ……触感までちゃんと分かる……のらちゃんの香りまで……ほんとに」

我を失いかけたねこますの唇は、色白の指にピッと押さえられた。

『猫松さん、ちゃんとバーチャル、バーチャル見て』
「あ、すみません……のじゃ。ねずみさんから紹介してもらった試験用VRシステム、こんなにすごいと思わなかった……のじゃ」

ねこますはぺこりと謝った。

『まあ、私のご認識さんまで再現しなくても良かったと思うんですが』

「ご認識さん」は簡単に言えば、のらきゃっとに内蔵された言い間違いを一定の法則で起こすシステムのようなものだ。このせいで、彼女はねこますのことを「猫松さん」と呼ぶしかなかったり、一般的でない言葉を言うのは難しかったりする。

「そうじゃよね……。でも、のらちゃんはそれも合わせてのらちゃんだから、それでいいのじゃ」
『それもそうですね。じゃあ、このワールドを回ってみましょうか。何か、大きな街のようですね』

二人の周りには、大きな広場が広がっている。ブティックや喫茶店がならぶ、ヨーロッパ風のおしゃれな空間だ。ねこますは、その店の一つに、カラフルなスイーツが並べられているのに気づいて、近づいていった。

「あ、マカロン……たくさん積まれてるのじゃ……」
『マカロンですか。入ってみましょう』

洋風のお菓子が並んだ店に足を踏み入れる二人。焼き菓子の甘い香りがただよっている。

「本当に甘い香りがするのじゃ……」
『新体幹……新体験……ですね。香りを、この世界で感じられるのは』

のらきゃっとは、棚からクッキーを取り上げ、口に入れた。

『甘い、甘いですね』
「本当に甘そうなクッキーですよね」
『猫松さん、こっち来て』
「のじゃ?」

誘われるがままに、ねこますはのらきゃっとの側によった。その口に、クッキーが突っ込まれる。

「うおっ!!って、甘い……」
『味までするのは、びっくりです』

クッキーを噛み砕く感触まですることに、驚きを隠せない。そんなねこますに、ポッキーが差し出された。

『今なら、ちゃんとしたポッキーゲームができますよ』

銀髪美少女が、目を細め、妖艶な表情でねこますを誘っていた。思わず飛び退いてしまう狐耳。

「そ、そんな……、俺、恥ずかしくって……!」
『冗談、冗談ですよ』

のらきゃっとは、差し出したポッキーをニコニコと食べてしまった。

「ふぅ……か、カウンターでは、何が売ってるのじゃ?」
『村ショット……村ショップ……』

ここに来て「ご認識さん」が発動するが、彼女が言いたいのは……

『ノラ ショット。そうです、そうです』
「そうです、そうです!……で、のらショットって、あの紅茶とエネルギードリンクを混ぜて作るアレ、ですよね」
『そう。校舎と、ですね。……紅茶』
「いまは、遠慮しておくのじゃ……」

二人は、店から出た。その後も、服を着せ替えてみたり、髪型をいじってみたり、飾りをつけてみたりと、二人でいろいろな体験をしていった。このどれもが、他の世界では体験しづらいことなのだが。

「この世界って、不思議じゃな……」
『楽しくて、いいじゃないですか。あっ』

そこで、のらきゃっとの体が、服ごと少し大きくなった。

「おっ、どうしたんですか!?」
『なんか、面白い機能があるようですね』

また、彼女の体が大きくなり、一軒家くらいまで巨大化した。

「おおー、大きいのらちゃんだ」
『かわいい猫松さん』

その大きな手、いや、指で、ねこますの頭を撫でる。

『そうだ、猫松さん。一緒に、校舎でも頂きませんか』
「紅茶、ですよね?」

のらきゃっとは、また目を細めてねこますを誘った。

『校舎、です。校舎。すぐそこに、学校があるんです』
「え、ええっ!?」
『行きましょう』

ゆっくりと歩いて行ってしまうのらきゃっと。といっても大きくなった体だとねこますが走らなければならないくらい速い移動だったが。

『着きましたよ、って、猫松さん?』
「は、速すぎるのじゃ……」

トキシフィケーション~毒の力~ 温泉編

ここは山奥の温泉。寂れた宿屋に、3人の家族が訪れていた。父親と、母親と、小学生の子供だ。

「やっとついた……こんな秘境、よく見つけたな……」
「ええ、そうね……」

父親、大介(だいすけ)は30代のサラリーマン。妻の花菜(かな)がチラシのスミに書かれていた宣伝を見て、子供の真波(まなみ)と一緒に行きたがったことで、近くの街から車で1時間もかかるこの宿に行くこととなった。

「イラッシャイマセー」出迎えるのは、アメリカ人のような背の高い男性。多少なまっているが、和服を着て落ち着いた雰囲気だ。

「あら、外国の方なのね」
「マズハ、オチャデモー」
玄関で靴を脱いだ三人を見て、靴を下駄箱に入れながら中に案内する。朽ちた外観とは裏腹に、内装は都心の宿に引けを取らない近代的なものだった。

「古宿に泊まるのは、少し不安があったけど、これなら大丈夫そうね、ね?真波?」
「うん!でも私、もう疲れた……」

真波は、そのロングヘアを手ぐしでときながら、小さなあくびをした。

「あらあら、じゃあお茶は後にして、お風呂でも入ってくる?」
「どうしよう、一人で大丈夫かな」

「ソレナラ、オチャヲ イレタアトニ ワタシガ ゴイッショシマスヨー」
宿の主人が、宿泊部屋に案内しながら、ニコニコと微笑んで言った。両親は荷物をおろしつつ、その主人の善意の笑みを信頼することにした。

「それでは、よろしくお願いします」

「デハ、オチャヲ オモチシマース。ゴユックリー」
「ありがとうございます」
主人は、ふすまを閉じて立ち去っていった。大介は早速テレビを付けて、椅子に座りくつろぎ始めた。

「ふう、こんな田舎に、ここまで綺麗な宿があるとはね」
「そうね……」

その部屋は、つい最近につくられたと思えるほど整っていた。テレビも最新型の4Kモニターで、エアコンは変色の一つもしていないピカピカの新品だ。

「ねえ、なにかおかしいと思わない?」
「そうか?別にそんなことないだろ。おい、真波、お風呂にいく支度をしておいて」
「あ、はい、お父さん」

大介は立ち上がると、荷物の鍵を開けて、その口を開けた。真波は、それを見て自分の下着を取り出した。

「あ、真波、浴衣も持っていきなさい」
「うん」

と、そこで部屋のふすまが開き、主人がお茶を持って入ってきた。
「オマタセシマシター」
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環境呼応症候群 評価の子

「これで、準備はよし、と……」

私は、葉隠愛真(はがくれ いとま)。外見からだと、中学生と思われるかもしれないが、立派な大学生だ。といっても、もともとこんなに小柄なわけではない。高校の卒業アルバムを見れば、いまよりも成長した私がそこにいる。

「で、服は脱いで、と……」

今は、私の一人暮らしの部屋、三脚に固定したカメラの前でパソコンを広げている。伸縮性のある水着――今の私には大きすぎるビキニを肩からぶら下げ、私がやろうとしていることは、私の姿をネット配信することだった。

「うわぁ、他の配信、エグい……」

普通の配信サイトではない、たった1年前まで私も年齢的には閲覧すらアウトだった、そういうサイトに、ライブ配信をするのだ。

その理由は、広告費でお金が欲しい、ということと、私がメタモルフォーゼ症候群にかかっていることの二つ。メタモルフォーゼ症候群とは、近頃一部の界隈で話題になっている、自分の置かれている環境に応じて体の大きさが変わってしまうという奇病だ。例えば、気温に反応して症状がでる患者は、暑ければ大人の体に、寒ければ子供の体になる。

「でも、そろそろ始めなくちゃね」

そして、私は、たくさんの人にプラスの評価を受ければ受けるほど体が大きくなり、マイナスだったら引き算されて小さくなる。でも、幼稚園児サイズより小さくなることはないみたいで、胎児になって消えてしまうとかいう命の危険にさらされることはない。大きくなる方は……今のサイズより大きくなるほど、評価を受けられないから、どうなるかわからない。年を取って死ぬなんてことは、ないはず……だよね。とにかく、私はもう少し大きくなりたかった。

「配信開始っと……」

使い捨てのマスクをはめて、配信を始めるボタンをクリックする。少しローディングの時間があって、その後に床においたノートPCを見つめる私が映った。

「えーと、コホン……」

他の配信は、ほぼみんな男女同士がアレコレやっているものだ。女子中学生が一人で映っているなんて配信、誰も来ないかも、とも思っていたけれど、そういう趣向の人もいるらしい。10人くらいが、すぐに配信を見に来た。その後も、ちらほらと増えていく。

「み、見に来てくれてありがとうございます……」

直後から、段々私の視線が下がり始めた。この18禁のサイトで、貧相な中学生が映っているだけ。そんなの、低評価を受けるに決まっている。だけど、最初はそれが狙いだった。

「ひゃっ、ち、小さくなっちゃうっ……」

そして、カメラに近づいて、膨らみかけだった乳房が縮んでいくのを、アップで見せつける。

「私、悪い評価を受けると、子供に戻っちゃうんですっ」

来場者数は減ることはなかったが、増え方も鈍ってきた。そして、20人ほどになっていた視聴者は、私が言ったことを信じていないようで、どんどん評価が下がっていく。

「だ、だめぇっ、私、赤ちゃんになっちゃう!」

私にカメラがどんどん高くなっていく。ついにレンズと私の背の高さが同じくらいになった。小学生低学年くらいになったのだろうか、でも、そこで変化が止まった。

「やっと……止まったぁ……怖かったよぉ……」

小さい子供って、こんな感じに振る舞ってたっけ?と思いつつ、泣き顔をしてみせる。すると、世のロリコン達の心をつかんだらしく、来場者数が上がり始めるとともに、体が熱くなっていくのを感じた。

「こんどは、おっきくなってく……」

コメントは見ていないけど、高い評価を受けているらしい。それも、段々人数が増えて、体の中の熱は強くなっていく。足を見てみると、ぐぐぐっ……と伸び始めたところだった。胸には、段々脂肪が付き始めたのか、少し痛いくらいの張りを感じる。
「これで、元に戻れる……」

だが、その台詞に端を発したのか、視聴者達、つまり幼児体型趣向の人が低評価を出し始めた。長くなりかけた腕が、ヒョコッと短くなり、体が小さくなって、地面がかなり近づいた。

「あ、ダメっ……」

今の状態では、カメラに映らない。もう少し遠ざかろうにも、配信として見えづらくては低評価を受け続けるだけだろう。私は三脚に近づいて、何とかカメラを下に向けようとする。だけど、その間にも体は小さくなって、最小サイズの幼稚園生に戻ってしまう。
「え、えいっ」

そんなことになることも見越して、カメラには紐を付けてある。本体には手が届かなくなってしまったけど、それを引っ張って、カメラを無理矢理下に向けることができる。だけど、それじゃ見ている方も多分面白くないんだ。
「と、届かないよ……」
必要のないジャンプをしながら、涙声を出す。私は、昔は演劇部で花形を務めていたこともあって、こういう演技は得意なのだ。

そして、少し体が大きくなり始めたのを確認し、紐を引っ張ってカメラの角度を下げた。……今だ。

「や、やったぁっ……」
ロリの上目遣いの泣き顔。破壊力抜群の光景に、一気に評価が跳ね上がった。つまり……

「ひゃんっ!」
胸からおっぱいが飛び出した。本来の私くらいの、平均的な女子大生の胸が、ゆっくりと小学生になりつつある私の体にフルフルと揺れながらくっついていた。その後に、脚がぐぐいっと大きくなり、一瞬前に顔があった位置に、太ももが来た。配信画面には私の太ももがゆっくりとムチムチになっていくのが映っているだろう。

カメラの向きを上げようとすると、腕もぎゅぎゅっと伸び、上げ終わったあとに、上半身が伸びて腰がキュッと締まった。

「ごめんなさい、これが本来の私なんです……」

ビキニに胸を納めると、さらにそれは膨らんで、いわゆる「普乳」から「巨乳」へとレベルアップする。カメラが胸よりも下にあるせいで、私の視界から一瞬カメラが消えた。

私は少しカメラから遠ざかったついでに、PC画面を確認する。視聴者数の増え方が、さっきよりかなり速くなっている。200人くらいだったのが次の1秒は300人、次は500人。急激に変身したのが大勢の目に留まったらしかった。

こんなにたくさんの人に一気に評価を受けたら……

ギュギュギュギュ……と胸に圧迫感を感じた。背もどんどん高くなって、天井が近づいている感覚もしたが、それよりも……

「水着が、食い込んで……!!」

店で見つけたなかで一番大きいものを選んだはずが、私の胸がそれをかなり上回るサイズになっている。紐が食い込んで、乳房が大きく形を歪ませていた。

「きゃああっ!!」

ビキニがビチッと破れた音よりも、左右のおっぱいがバインッと互いにぶつかる音の方が、そして、その勢いで押し倒されたカメラが、ガタンッと床に落ちる音の方が大きかった。

「きゃんっ!!」

その瞬間、私の体は破裂した風船のようにパンッと音を立てて、またもや園児サイズになった。カメラが倒れたせいで、配信画面は天井を映すわ、とても大きなノイズが飛んで来るわで、評価が下がったに違いない。

「カメラ、壊れてないよね……?」

ノートPCの画面を見ると、配信はちゃんと続いていた。画面に映っている、秒針を動かし続ける時計が、それを証明している。それよりも。

「1000人……!?」

100人のロリコン達が、高評価を与えただけで私の成長は急になって、500人の時は日本人では考えられないサイズまで成長した。この配信を続けたら、大変なことになってしまう。

私は、カメラを両手で取り上げて、それに向かって謝った。

「ごめんなさい、この配信は終わり……ひゃああっ!!!」

なぜ、何も言わずに配信を切らなかったのだろう。と、その時考えても遅かった。全身が燃えるように熱くなる。1000人を超える視聴者達が、「もっと見たい」という評価を、私に、私の体に、向けていた。

「あつい、あついよぉっ!!!」

もう演技でも何でもない、心からの叫びを、配信してしまう。熱さのせいで、カメラを私から逸らすことも忘れて。

ここからは、私は何も覚えていない。熱さから気を逸らすのに必死になってカメラを握っていたのだけが、私の記憶。だから、ここからは配信の履歴映像だ。

――私が映っている。両腕で握っているはずなのに、映像はブレがなく、かなり安定している。そして、体温が上がっていく私の皮膚が、赤みを帯びていく。私は、歯を食いしばって、目を閉じている。
その映像に、ゴゴゴゴと地鳴りのような音が加わる。見ると、短くぷにぷにとした腕がぐにぐにと変形し、段々長くなっている。この音は、私の体が変形していく音らしい。ゴキゴキと骨が軋む音も混じっている。
ぽっこりしたおなかも、一瞬膨らんだり、元に戻ったり。でも、やっぱり全身がどんどん成長している。胸はペッタンコのままだけど。

ここからはさらにおかしなことになっていた。映像に映る、私の両手が空いていた。つまり、カメラが私の手から離れている。地響きのような低い音は消え、視点が私の周りを動き回っている。
――まるで、私ではない他の誰かが、私を撮影しているように。
でも、その動きは人間のものじゃなかった。視点は素早く移動し、上下左右前後と、自由自在に、とんでもない動きをする。でも、誰の息も聞こえない。聞こえるのは、スタタタッという……足音?

『ん、んんんっ……』

幼稚園生サイズになっていた私は、いつの間にか高校生ほどにまで成長している。でも、私が本当に高校生だったときより、かなり貧相な気がする。

『あっ!!』

バランスが悪いせいか、私は後に倒れ、尻餅をついた。腕を後ろにして体を支え、まだまな板のままの胸を前に突き出す形になった、その突き出た胸部を、斜め上から急にアップで撮影し始めるカメラ。
すると、それが合図になったかのように、ゴキゴキと成長を続けているその肋骨の上で、乳輪がググググ……っと広がり、同時に乳首が膨張する。そのまま大きくなっていく胸の先端。

『ふっ、くぅっ……』

その下で、ついに膨らみ始める私のおっぱい。水を入れられる水風船のように、フルフルと揺れながら膨らんでいく。徐々に巨大ともいえる大きさになっていくそれを、今度は伸ばしていた脚の上からの視点で撮影し始めるカメラ。視界の下の方に入ってきた太ももは貧相そのもので、どんどん膨張する胸とはアンバランスだ。だけどそれもつかの間、上半身の方から脂肪が詰められるかのように、ムギュッ、ムギュッと、太く、太く、それでいて張りは保ったまま、太ももに肉が付いていく。その後で、尻にも膨大な量の体積が加わり、成長を止めない骨格も相まって、さらに頭が遠ざかっていく。

今度は、視点は私から距離をおき、横から眺める形になった。私はもう、2mくらいの身長になっていて、それでも大きく見えるくらいのおっぱいがタプンタプンと揺れている。全身汗だくで、その汗の流れる方向が、生々しく私の立体感を強調していた。成長スピードは下がるどころか、さらにスピードアップしている。やがて、部屋全体でも窮屈なくらいに、サイズが増えていく。

……と、そこでノートPCが破壊されたのだろう、配信は終わっていた。現に、私のノートPCは潰されてめちゃくちゃになっている。配信が切れたことで評価が下がったのか、気づいたときには私は普通の大学生くらいの体に戻っていた。
でも、時折胸がボンッと大きくなったり、また縮んだりしている。視聴者の間で意見の交換とかがあって、それで今でも評価が変わっているんだろうと思う。

この録画がネット上を出回ったら、私の評価は絶えず上がったり、下がったりするんだろう。いつか落ち着くときは、どんなサイズになっているのか、私にもわからない。

ドリンク剤

「泣いても笑っても明日が期末試験だ、みんなやるぞ!」
「はぁ……」

とある賃貸アパートの一室。小さいテーブルを囲んで男一人、女三人、合わせて四人の大学生が勉強会を開いていた。

「もう疲れたよ……」ブツブツ言いながら数行にも渡る数式を書いていた未来(みらい)は、シャープペンを机の上に投げ捨てた。「休憩したいな……」

「おいおい、まだまだこれからだろ、赤点取ったら補修で夏休み潰れるんだぞ?」机の上でぐでーっと伸びてしまった未来を、諒(りょう)が諌めようとする。とはいえ、彼のノートもあまり埋まっておらず、消しゴムのカスより、周りに散らかった空になった菓子の袋のほうが目立っていた。

「みーちゃん、がんばろうよー」おっとりとした声で、橙子(とうこ)も未来を励ます。

「橙子はおっぱい大きいよなー」未来は、そんな友人の励ましをスルーして、橙子の服を大きく押し上げる胸の膨らみを見つめる。「美人さんだし、天然さんじゃなきゃ、アイドルの方が似合ってるよ」

「お前、こんな時に何オヤジくさいこと言ってんだよ……」
諒はそう言いつつ、未来と同じく橙子の胸に見入ってしまう。

「諒くん、未来!二人ともいつまで橙子の胸見てるの!全く恥ずかしいわ!」
四人のうち一人だけ、背の低い、そらが騒いだ。橙子も未来も大体160cmくらいの平均的な背丈の中で、130cmほどしかないそらがいるせいで、大学生の中に中学生が混じっているような錯覚さえ覚える。しかし、四人の中で一番勉強が進んでいるのは彼女で、この勉強会もそらが開いたものだった。

「もう、そらは嫉妬しちゃってー!」
「ち、違うってば!」未来にからかわれ、顔が真っ赤になるそら。

「あ、そうだ、アタシこういうのもってきたんだけどー」
教材を入れるためのカバンから、エネルギードリンクのビンを4本取り出し、机の中央に並べる橙子。

「あら、気が利くじゃない。えーと……なにこれ……」
そのビンには、【胸が大きくなる薬】【胸が小さくなる薬】【ムチムチになる薬】【いろいろと大きくなる薬】……と油性ペンで書かれたビニールテープが貼り付けられていた。

「見ての通りだよ!」
もう【自分は嘘をついています】と言っているようにしか見えない顔で未来がニヤついた。隣では諒が吹き出し、橙子が首をかしげている。
「あ、あなたねぇ……」

「ふん、いいわ、乗ってあげる。ちょうど疲れてきたところだし……」
そらは、呆れ果てながら【いろいろと大きくなる薬】の、ラベルというには安っぽすぎるテープが貼られたビンを取り上げ、フタを空ける。すると、バチバチッと新品のドリンク剤のフタを開けるときと同じ音がした。
「(やっぱり普通のドリンク剤にテープ貼っただけじゃないの……)」

中からする香りも「オ○ナミンC」そのもの。それを、グイッと飲み干すと、炭酸が強かったせいか、口からピリッとした刺激が伝わってきた。ただし、味は普通のドリンク剤だった。
「はぁっ、生き返る……」栄養を受け入れた脳が冴え渡っていくのを、そらは感じた。
「ねー、もうちょっと面白い反応してくれてもー」未来は、そらがドキドキしながらドリンク剤を飲んだり、飲み干したあとに体の様子を見てみたりするリアクションを待っていたらしい。

「だって、あからさまに普通のドリンク剤じゃないの……ほら、あなたたちも飲みなさいよ。続けるわよ」
そらの前で、未来と諒がつまらなさそうにドリンク剤を飲んだ。

「橙子も、なにぼーっとしてるの」そらが促すと、ドリンク剤が出てきたところからキョトンとしたままだった橙子はやっと動いた。
「えーとね、どうやったら胸が大きくなったり、小さくなったりするのかなーって思って」

「あー、未来の嘘だから、大丈夫よ。何も起きないから」
「そうなんだー」橙子は安堵の吐息をもらして、【胸が小さくなる薬】というラベルが貼られたドリンク剤を飲んだ。

「ほんと、皮肉よね、胸が大きい橙子がその『薬』を飲むなんて……」
「うぅっ!」
「と、橙子!?」

いきなり聞きなれない大きな声を出した橙子に、三人が目を丸くした。
「ど、どうしたんだ橙子!」
「か、体が熱く……あ、あついぃっ!!」

体の熱を逃がそうとしたのか、橙子は急に服を脱ぎ出し始め、下着だけになってしまった。諒は突然の出来事に目をそらしたが、すぐに視線を戻した。
「あついよ、あついよぉっ!」

汗だくになった橙子からムンムンとした香りが解き放たれる。そして、それは起こった。
「橙子、胸、小さくなってない!?」
「え、えっ!?」

噴き出す汗に体積が持っていかれるように、胸がしぼみ始めていた。その証拠に、少し小さいくらいだったブラに大きな余裕が生まれ、それはどんどん大きくなっていっている。
「お胸が、なくなっちゃうっ」
リンゴの大きさだった胸は、あれよあれよと縮み、ついに橙子の胸はペタンコになってしまった。
「どうして……?あ、でも、体が軽いかも……」

こんな時にも天然な彼女だったが、戦慄を覚えざるを得ない他三人。
「お、俺、何飲んだっけ……!?」
「アタシは、【ムチムチになる薬】……ってことは」
「俺は【胸が大きくなる薬】?ハッ、男の俺に胸なんて……ぐぅっ!!」
諒は、急に胸を押さえ苦しみ始めた。

「諒!?大丈夫……ひぃっ」
諒に手を伸ばした未来だが、その諒の腕がギュッと音を立てて細くなったのを見て、腰を抜かしてしまった。
「お、俺、どうなるんだっ……げほっ……あ、ああっ……」
バリトンの男声が、女性のようなアルトへとトーンを上げる。この時点で、察しのいいそらには分かってしまった。

――諒の体は女のものに作り変えられていっている。

「な、なんだよっ、普通のドリンク剤じゃなかったのかよっ!!」
パニックで声を上げる諒だが、その間にも髪が伸び、ロングヘアになる。
「そのはずだよ、でも……」

「うああぁっ!」
痛みのせいか急に立ち上がり、敏感になっていく肌のせいか服を脱ぐ諒。その体はまだ男のものだったが、筋肉がどんどん萎縮し、脂肪へと変換されていく。その代わりという感じに、乳首がムクムクと膨らみ始め、褪せていた色が赤みを帯びていく。
「う、うそ……」
未来もついに何が起こっているか分かったらしく、顔色が青ざめていく。その答えと言わんばかりに、今度は全身からのゴキゴキという音とともに、骨格が変化し始める。肩と胸が絞られるように狭くなり、つられるように肩幅も狭くなっていく。顔の形も変わり、ゴツゴツとしていたものがスッと端正なものに変わる。腰も太くなり、膝が引っ張られるように内側に向いていく。そして、身長自体も減っていき、ついには未来よりも背丈が低くなってしまった。

「ん、んんんっ!!」
最後に、体が小さくなった分余った脂肪が、かき集められるように、胸へ、尻へと動いていく。鎖骨がはっきり見えるほどだった胸が、刻一刻と水風船のようにプルプルと震えながら膨らみ、未来の、そして元々の橙子のそれをも追い越し、メロン大まで膨らむまで、かかったのはたったの一分くらいだった。尻にもプリッとした張りのある膨らみが付き、そこで変化は終わった。

「りょ、諒……?」
そこに立ち尽くす諒に声をかけた未来。

「お、俺が、お、女に……」
変身の中でも自分の体がどうなっているのかは分かっていたらしい。諒はそのまま、机の上に置いていたスマホを手に取った。

「……諒?」
「おー、まさに俺のタイプ……」
自分の新しい姿に惚れてしまったのか、気持ち悪い笑みが浮かんでいる。が、その表情がすっと変わる。そして、いかにもしおらしい声で台詞を吐いた。

「諒くん、今日一緒に、海、いかな……うおおっ!!」
最後まで言う前に興奮する諒に、呆れる未来とそら。

「だ、だが、俺は男だ……よなぁ……、まいっか、いかにも童貞らしいアイツを弄ってやるか……そうだなー……あ、あの……新田くん、ちょっといいかなっ」
胸を強調するポーズを取る諒。一人劇場がいつまでも続くかと思われたが、その諒の視線が、未来に止まった。そして、震え始める。

「み、未来ちゃ……未来……」
「なに『男だ』とかいいながら早速女に染まり始めてるんだ……」
ツッコミを入れる未来だが、諒の震えは止まらない。
「お前、太く、なって、ないか……?」

未来は、そのときになって初めて、自分の体に服が食い込み、圧迫感が加えられているのに気づいた。
「ま、まさか……」
その理由はもちろん、服が小さくなったのではなく、未来の体自身が【ムチムチ】になり始めていたためだった。
「いや、いやっ、ダイエットがんばって体重キープしてたのにぃっ」

「(そんな……いや、あれは確かに普通のドリンク剤だったのに……)」そらは、自分の身にも迫りつつある『薬』の効果に恐怖し……そして若干期待しつつ、その顛末をみていた。

少し痩せすぎにも見えていた、短い丈のスカートから出ている未来の脚が、ムギュッ、ムギュッと膨らみ始めた。
「だめぇっ、ムチムチなんかいやだぁっ」
その脚の成長を抑えようと、手を押し付けるが、効果があるはずもなく、太さは元の3倍くらいになってしまった。

「こ、今度はおなかがっ……」
未来が服を捲し上げ、見事なクビレができているウエストがあらわになった……が、それもつかの間、下腹部にむっちりとした肉がついた。

「スカート、苦しっ……」
未来はスカートのホックを外したが、それでも間に合わず、ビリッと破れてしまう。次の瞬間には胸がブルンッとゆれ、膨らみだして服がパンパンになる。

「もう、もうやめて……っ」
あっという間に限界に達した服が破れ、タプンタプンと巨大になった乳房が現れた。ブラジャーはその付け根に巻き付くだけで、全然役目を果たしていない。

服というカラを破って出てきたようになっている未来の体は、文字通りムチムチに成長し、元のスレンダーなものとはかけ離れていた。しかし、肥満の領域までは行っておらず、肉感的な体、という感じである。

「未来、ドリンク剤、だよね……これ」
「そうに決まってるじゃない!!それよりも、【いろいろ大きくなる薬】、だったよね」

未来は涙目だが、そらの方をかなり不安そうに見ている。

「あなたが書いたんじゃないの」
「そうだけど……実は道端で会ったお兄さんにドリンク剤渡されて、効果を書いたビニールテープを張れば本当にその通りになるって言われて……でも、そんなことより!」

「あ、きた……」
「そら!」
そらは、段々と体全体が熱くなってきているのを感じた。

「あついわね、確かに……あつい、あついぃっ!!」
体中が炎で焼かれるように熱くなるのに耐え、そらは自分の左の手のひらを見る。すると、引っ張られる感覚とともに、子供っぽかったそれが、長く、細く、大きくなった。

「ううっ、でも、服、脱がないとね……!」
右の手のひらも大きくなるのを感じながら、服を脱ごうとするが、あまりの熱さに手元が狂ってしまう。諦めて、そらは自分の変化を観察することにした。
「腕もっ……長く、なってきてるっ……」
ゆっくりと、しかし着実に成長する腕。その奥に見える脚も、長くなる。未来と同じ長さまで長くなるとそれは止まったが、今度は体が上下に引っ張られる感覚がしはじめる。

「ふふ、これで、背がっ」
小さく頼りなかった体が、横にも、縦にも伸びていく。脱げなかった服がいたるところで裂け、肌色が見える。
「ひゃんっ!」
ここまで、伸びるだけだった体に、一気に肉がついていく。手足が健康的に膨らみ、尻にも適度な脂肪がつく。
「む、むねがぁ……」

胸に何かが凝縮していく感覚がする。同時に、目の前でも、腹までの平坦なラインの上に、膨らみができていく。

「わ、私に……おっぱいが……」
その膨らみの中にムギュギュギュ……と何かが詰め込まれていく。そしてどんどん膨らみは大きくなり、Dカップほどになると、成長は止んだ。160cmくらいになった体の熱も、引いていく。

「まあ、みんなの変化量からしても、これくらいが妥当よね」
新たにできた胸の膨らみを吟味しながら、そらは得意そうな笑みを浮かべた。

「そら、本当に大丈夫……?」
「何がかしら?」

「そら、私……いや、俺、実は、三分の一くらいしか飲んでない……の……」
恥ずかしそうに爆乳を隠しながら、女に染まりかけの諒が言う。
「え?」
「アタシもなの……」
おなかをプニプニしながら、まだ涙目の未来も言った。
「……え?」
「私は、全部のんだよー」
服を着直し、満面の笑みの橙子に、そらは耳を貸す余裕がなかった。

引き始めた熱が、また戻ってきていたのだ。
「うそ、うそうそうそっ!!!」

そして、そらの成長は再開された。乳房がムククーッと膨張し始めるのをみて、そらは胸をギュッと押さえた。
「こ、これ以上はいいのよぉっ!!」
だが、大きくなっているのは胸だけではなかった。手も脚も更に伸び、布切れになって巻きついていた最後の衣服を引きちぎりながら、体全体が巨大化していく。
「もう、大きくなんてなりたくないんだからぁっ!!」

そらの頭にゴツンッと何かが当たる。それは紛うことなき、部屋の天井だった。
「これじゃ、怪獣みたいじゃないのぉっ!!止まってぇ!」
しかし、成長は止まるところを知らず、部屋を埋め尽くしていくそらの体。

「ねぇっ、そろそろ逃げないと、建物が崩れちゃう!」
胸だけキツイ服を着た諒が、未来と橙子を引っ張り出した。アパートの骨格が、巨大化したそらの強大な力で歪んでいた。

「ああああっ!!!」
そらが大声を上げると、アパートはあっけなく崩壊した。

そこで成長は終わったらしく、身長10mくらいになったそらは、アパートの瓦礫の上に立ち尽くした。

「ど、どうしてくれるのよぉっ!!」

巨大な少女の叫びが、街全体にこだました。

覚醒の夢 1話 ~古町 菜津葉~

古町 菜津葉(ふるまち なつは)は、北陸のとある町に住んでいる、普通の小学四年生。今は12月、日本海側特有の大雪に見舞われるが、学校は普通に授業を行う。

「じゃあ、行ってきます!」

学校は、小学生の菜津葉の足で20分程度のところにある。登校班は10人で、集まるのは家のすぐそばの公園だ。冬ということもあり、見送りの親を含めて全員厚着だ。

「菜津葉ちゃん、おはよ……」
「おはよー、三奈(みな)ちゃん!」

菜津葉を見るなり声をかけてきた、菜津葉より一回り小さな子。同い年の新津 三奈(にいづ みな)は、菜津葉の幼なじみ。気が弱く、いつも菜津葉にくっついて行動している。小学校でも別のクラスになったことはなかった――平日はだいたい一緒にいるし、休日も良く互いの家で遊んだりする。

「三奈ね、ちょっと怖い夢見たの」
小さい声で、そう菜津葉にしゃべりかけてきたのは、菜津葉と他の生徒との会話が落ち着き、学校につく直前になったころだった。

「え?どうしたの?」
「うーん、私、なんか……なっちゃって、みんなのこと……」
声がいつにもまして小さく、一部聞き取れない。その上、話の重要な部分が始まる前に、学校の門に到着してしまった。
「おはよう、みんな!今日も余裕の到着だな!」
教頭の声に遮られ、会話はそれで終わってしまった。
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風船に手が届くまで

街角で配られるヘリウム風船は、得てして家に帰る前に受け取った子供の手から離れていくものである。

「うわーん!」
「あぁ、あんな高いところに引っかかってる……」

この少女、未唯(みゆ)の場合も、途中の公園で手を離してしまった。空に飛んで行ってしまえば諦めが付いたのだろうが、風船は木の枝に引っかかっていた。父親である唯夫(ただお)も同伴していたが、引っかかった位置があまりに高くどうしようもない。

「未唯、ママも待ってるしそろそろ行こう。風船ならまたもらえるから……」
「やだ、やだ!」

唯夫自身も、子供時代によく味わった苦痛なだけに、あまり強く言うことができない。
そのうち、10分が経った頃、もうひとりの少女が近づいてきた。

「あの風船、ほしいの?」

そして、少女は未唯に喋りかけた。

「う、うん。取ってくれるの?」
「いや、それはキミがどうにかするべきだよ。ボクは、それを手伝うだけ」
「手伝う……?肩車でもしてくれるの?」

小学生である未唯と、その少女はあまり体の大きさも、体つきも変わらなかった。肩車などしようものなら、少女は未唯も耐えきれないだろう。唯夫は娘の身を案じて、突然あらわれ、助けを差し伸べてくれた少女に感謝を伝えつつも拒否しようとした。

「お嬢ちゃん、助けてくれてありがとう……」
「でも、ボクの助けはいらないって?これは、ボクがやりたいことなんだ。キミの許可はいらない」

明らかに年下である少女に、真っ向から拒絶されてしまい戸惑う唯夫。まるでそれは、唯夫よりはるかに大きな存在のようだった。それをよそに、少女は続けた。

「いいかい、ミユ。キミの目標には、キミ自身の力でたどり着かなきゃいけない。それは、その目標がなんであれ、同じことなんだ」
「……?」

いきなり哲学的なことを言い出した少女。だが表情は真面目そのものである。

「だけど、自分ひとりの力じゃなくて、誰かを頼ることも重要なんだ。今日は、ボクが力を貸してあげよう。いいかい?」
「うん。あ、ありがとう」

未唯がわけもわからないまま感謝すると、少女はニコッと微笑んだ。のではなく、ニヤァと表情を歪めた。

「なーんちゃって。風船は取らせてあげるけど、ボクのおもちゃになってね、ミユ」

途端、少女の体がまばゆいまでに光り始めた。未唯はそれをぼーっと見るしか無かったが、次に自分の体が熱くなり始めているのに気づいた。周りの空気から、熱を吸い込んでいるような妙な感覚だった。

「風船はキミの手で取ってもらう。でも、キミは飛べない。そうだよね?じゃあ……」

パァッ!!と少女が発する光が強烈になり、あたり一面が光に包まれた。

「大きくなるしかないよね!」

光が消え去ると、少女も姿を消していた。だが、その不可解な現象よりもさらに不可解なことが起き始めていた。

「ぱ、パパ、未唯……」
「大きくなってる……?」

唯夫の腹あたりまでしか無かったはずの未唯の背丈が、胸の部分まで伸びていた。

「お服がキツイよっ」

体は大きくなっていたが服はそのままなようで、所々がパツパツになり、縫い目がブチブチとほつれ肌色が見えていた。しかも、「大きくなる」というのは体のサイズだけでなく、体型、年齢もであったようだ。腕も脚も、もとの幼児体型のままではなく、すらっと細く長くなっていた。だが、腹部はまだぽっこりと膨らみ、子供のままだった。

「未唯……」
「パパ……」

未唯と唯夫は不安そうに見つめ合うことしかできない。中学生くらいの体型になった父娘は、ほとんど同じ身長になり、互いの目線が水平になったが、それも少しの間だけで、未唯はさらに大きくなっていく。少女が取らせると言った風船は、まだ10mは上にある。それは、未唯があとそれだけ大きくなること、つまり3階建てのビルくらいまで巨大化することを示していた。

「私、どうなっちゃうの……?」

少女が消えるときの強烈な閃光にも関わらず、周りにはほとんど人がいなかった。だがいまや身長が2mになっている、しかし体型は中学生のままの少女の姿は少しでも近寄れば違和感を感じざるをえないものだった。

「み、未唯の……おっぱい……」
「えっ?」
「い、いやなんでもないんだ……」

先ほどとは逆に、未唯の胸の高さに唯夫の目があった。その胸には、膨らみかけの、テントのような形の乳房があり、ささやかなピンクの突起がじわじわと大きくなっていた。

「すごい……」

周りをチェックするのに必死になっている未唯は、信頼する父親が娘である自分に性的な興奮を覚えているのに気づかない。そのうちにも、体の成長に比べて胸の膨らみの成長スピードは急激に上がり、前に突き出されてフルフルと揺れた。服はもはや何も覆っておらず、未唯は胸以外は若干幼児体型が残った姿を周りに晒していた。その身長は、まだ3mくらいで、風船にはまだ遠い。

「おぉ……」

自分の2倍、いや3倍くらいの身長の娘を見上げ、その少し膨らんだ腹の先に大きく丘のようにそびえる2つの乳房。唯夫はゴクリとつばを飲んだ。伸びるだけだった脚にも徐々に皮下脂肪がつき、唯夫の顔と同じ高さの所で女性的な柔らかさを蓄えていく。

未唯が身長5mにもなり、体型も高校生に近づいて、骨盤も大きくなり、腰にくびれが付いてきた、その時だった。一陣の風が、風船が引っかかっていた木に吹き付けられたのだ。

そして、風船が枝から外れ、天高く飛び上がった。

「あっ、風船が!」
「な、なんだ!?」

唯夫は、高度を上げていく風船を見た。次に、彼が覚えたのは興奮だった。

「(未唯は、どこまで大きくなるのだろう?見てみたい……)」

それに答えるように未唯の体からゴゴゴゴと地鳴りのような音がし始めた。

「ぱ、パパ、私、もっと、大きくなっちゃうぅっ!!」

5mの身長が、風船を追うようにドォンッ!!と伸びた。縦に伸びるということは、当然全体が大きくなるということである。脚は木の幹など屁でもない太さに、胸はアドバルーンのサイズをひとっ飛び。体重もトラックが何十台あっても足りないくらいに増えて、地面は大きくえぐられる。

20m、50mと指数関数的に伸びていく未唯の身長。街のどこからでも、未唯の高校生の体型となった体がはっきりと見えるくらいになった。風船が引っかかっていた木は、無残にも成長する脚にへし折られ、成長の速さのせいで旋風が発生して、いろいろなモノが巻き上げられていた。

「もう、風船なんていいから、もとに戻してっ」

無防備に揺れる胸は、100mの高さとなった未唯の体でもバランスが崩れるギリギリくらいまで大きく成長していた。バストトップは90mといったところだろうか。

「もしかして、風船を取ればもとに戻れるのかな……えーっと……」

風船は、上昇するだけでなく風に吹かれて何百メートルか横方向にも飛ばされていた。未唯から見ると前の方向で、未唯はすぐに見つけることができた。

超高層ビルと同等のサイズまで大きくなった未唯だったが、風船は上昇気流に煽られているのかもっと高いところにあった。気圧が低くなっているせいでサイズが大きくなっている。未唯は、足元のことを考えずに風船を追って走り始めた。

「まって、まって!!」

数キロトンある巨大な体は、一歩ごとに民家を押しつぶし、道路をえぐり、大きな地震を起こした。10mくらいの振幅で揺れる胸は、被害が及ばない遠くから見れば壮観であっただろう。しかも、移動中にも未唯の体は確実に大きくなっていく。日本一の高さのビルやタワーも超えて、物理法則を無視して質量と体積を増やしていく。普通の小学生だったはずの少女が、竜巻と突風を巻き起こしながら風船を追いかける。

「あ、あぁっ!」

そして、事もあろうに未唯は高速道路につまづいた。身長500mの体が宙を舞い、地面へと落下していく。

「きゃっ!!」

地面を最初に襲ったのは、巨大に膨らんだ乳房だった。普通の大きさなら、ボインッといった効果音ですまされるだろうが、未唯の大きさ200mくらいの胸は、あらゆる建造物を一瞬で破壊したうえで地面と衝突し、大きなクレーターを作り上げた。

胸だけでも街2つを消滅させられた。その次に落ちてきた体は、1つの都市を消滅させてしまった。

「う、うぅ、痛い……」

未唯の体は、ころんだ状態のままでも巨大化をやめない。胸は地面を擦りながら前進し、街を掃き掃除するかのように破壊範囲を広げる。脚は街も丘も同じように削り、さらに体型が大人に近づいているのかムチムチと膨らみ、股下に残っていた安全地帯すら潰していく。

未唯は手を付いて立ち上がった。身長は3000mに達し、上昇をやめようとしていた風船に、やっと手が届くまで大きくなったのだった。

「やった、風船!」

未唯は風船に手を伸ばす。すると、風船が急に大きくなり始めたではないか。未唯がそのひもをつかむ頃には、未唯の体に見合ったくらいの大きさまで、巨大化したのだった。

「風船、取れてよかったな。未唯」
「ぱ、パパ?」

しかし、それは風船が大きくなったのではなかった。未唯がもとの大きさまで戻っていたのだ。破れたはずの服も元通り。街を巨大娘が破壊した跡など、見えなかった。唯夫も、キョトンとした未唯を微笑んで見ているだけだった。

「夢、だったのかな……?」
「がんばったね、ミユ」
「あ、さっきの……」
「そう、ボクだよ。名前はガイア。人間たちの間では『大地の神』と呼ばれているものだけど」

未唯も唯夫も、耳を疑った。目の前にいる普通の人間にしか見えない少女が、自分のことを神だと言ったのだ。

「ちょっとね、遊んでみたくなったのさ」
「私、夢の中でお山さんくらい大きくなってた……」
「オレも、夢の中で大きくなっていく未唯を眺めていたような……」

ガイアは、ニコッと微笑んだ。

「夢じゃないよ。あれは本当に起きたんだ。そしてボクが全て元通りにした」
「ほ、本当に?」
「ふふ、信じられないならそれでいいさ」

パッと姿を消すガイア。だが声は続いた。

「十分楽しませてもらったよ。その代わり、死ぬまでボクがキミ達に加護を授けよう。あと、どうやらタダオは、大きなおっぱいがお望みのようだね」
「な、なっ……」
「ミユの成長を楽しみにしてるといいさ。じゃあね!」

こうして、父娘の奇妙な体験が幕を閉じたのだった。そしてその言葉通り、数年後、未唯は唯夫好みの爆乳高校生に育ったそうな。

「……さて、次は誰で遊ぼうかな?」

巨大兵器

「未確認航空機、発見!来ます!」

コンピュータがこれでもかというように配置されている、特撮の司令室のような部屋で、大声が飛び交う。

「戦闘機部隊を派遣し、できるだけ被害を抑えろ!その間に、アレの展開を!」
「司令!アレは遺伝子G1A-NT35Sを持たない人間には……」
「だから遺伝子スキャナーを搭載して、自律的に適合者を見つけられるようにしたんだ!今すぐ展開!」
「り、了解!」

部下は、とんでもなく大きい赤いボタンに拳を叩きつけ、「アレ」を起動した。

ある中学校の校庭で、その子はバレーボールをプレーしていた。

「えーいっ!」

跳躍し、大きく動かした手が強いスマッシュを繰り出した。その球は、地面に叩きつけられる……

《パァン!》

直前に、破裂した。

「え、なに!?あ……」

《ゴゴゴゴゴ……》

地響きがしたと思うと、爆音とともに白の機体が少女の真上を通り過ぎた。白い機体に、日の丸が付いている。

「自衛隊のジェット戦闘機……?じゃあ、今のは流れ弾?でも……」

敵がいなければ、弾を撃つ必要など無い。平和を謳歌する日本に、敵などいるはずがない。だが、少女の疑問を解消するとともに、あらたな疑問を投げかけることが起こった。ジェット戦闘機を追うように、黒い、プロペラの飛行機が猛スピードで飛んでいた。第二次世界大戦の映画で見たような、一見古いその機体には、ネオンのように青く輝く塗装がなされ、SFチックにも見える。その飛行機は、ジェット戦闘機に置いて行かれるどころか、その後ろにピッタリとつけ、そして……

《バァン!!》

一瞬にしてジェット機が火に包まれた。

「な、なに……」
『適合者、発見!融合します!』
「えっ!?」

映画さながらの壮観を見上げていた少女は、声がした方を見た。すると、DVDのような銀色の円盤が飛んでいるのを確認できた瞬間、少女の腹部に突き刺さった。

「んぐっ……!」

円盤が刺さったところから出たのは血ではなく、光だった。

『融合シークエンス開始!』

そして円盤は少女の体の中にグリグリと入っていってしまった。

「え、ちょ、ちょっと!」

少女は円盤が入っていった腹部を触ってみたが、傷ひとつ付いていない。

「え、えぇ……!?きゃっ!?」

困惑する少女に追い打ちをかけるように、その隣に巨大な金属の塊がドーンッ!と落ちてきた。塊には、金属の筒が何個も付き、まるで戦艦に付いている砲塔のようだった。

『さあ、触ってください』
「へ?」

少女に、男の声が聞こえた。軍人じみた、正しい規律と威厳を感じさせる低い男の声だ。

『あなたには申し訳ありませんが、我々の敵と戦っていただきます』
「て、敵?」
『今は説明している暇はありません!その兵器に触ってください!』
「そんなこと言っても……」

少女の頭上に、プロペラの音が響いた。上を見ると、先程の戦闘機が、少女に向かって突っ込んできていた。

『さあ、早く!!』
「え、えぇい!!」

戦闘機に襲われる恐怖と、それから逃れるただ一つの窓を与えられ、少女は言われたとおりにするしかなかった。少女が兵器を触ると、砲が戦闘機に向けられ、ドドドド!!と連続して発射した。その弾は戦闘機に当たることはなかったが、驚いたのか、戦闘機は向きを変え、通常の飛行に戻った。少なくとも戦闘機を追い払うことはできたようだ。

「たすかったぁ……でもこれじゃ、アレを倒せないよ……」
『巨大化シークエンス開始!』
「へっ!?」

急に空から光が舞い降り、少女は光に包まれた。

「え、え、あああああっ!」

光はすぐに収まったが、少女の体の中にとてつもないエネルギーが貯めこまれ、全身が光り輝いていた。

(か、体が、熱いっ!!)

ついに、それは始まった。少女の体がグーッと大きくなり始め、服のあらゆるところがバリッ、ビリッと裂けていく。靴は縫い目がほつれ、収まりきらなくなった指が外に出ていく。1m半くらいだった身長は、あっという間に、2m、4mと大きくなり、先ほどは体より大きかった兵器を、片手で持てるほどの大きさまでどんどん巨大化する。地面は少女が動くたびにえぐれ、服は腕や足に巻き付く糸のように千切れてしまった。身を包むものが無くなった少女の周りに光の粒が集まり、セーラー服を形成すると、校舎の2倍くらいの高さになった少女は、変身を完了した。

『さあ、兵器を持って戦ってください!』
「も、もう、やればいいんでしょ!」

地面に置かれていた兵器を持ち上げ、少女は飛行機との戦闘を始めた。

《パァン!》
「ふぅ、やっと全部落とせた……」

ハエのように不規則な飛行をする戦闘機に手間取りつつも、10分ほどで少女の圧勝が決まった。とはいえ、服はビリビリにやぶれ、もともと大きめな少女の胸が下から見えてしまっていた。

「やっと、これで元に……」
《ドォン!》
「今度はなに……えっ!!??」

頭上から聞こえてきた大砲の音に、目線をそちらに向ける少女。そこには、今の少女より大きな古い戦艦が空を飛び、砲塔を少女の方に向けていた。

『ちっ、トヤマが出てくるとは……さらなる巨大化シークエンス開始!』
「と、とやま……?て、ちょっと待って!!」

納得行かない少女に、またもや光が降り注いだ。

「ね、ねぇ……もうこれで終わりだよね?」
『た、多分……』
「多分じゃないわよ!もう、今私がどれくらいの大きさになってるか、解ってるんでしょ!?」

その大声は、太陽系中に響いていた。少なくとも、真空でなければ響いていただろう。少女は、今や太陽よりも大きくなっていた。兵器は少女の巨大化に合わせ、変形に次ぐ変形を遂げ、地球がその砲塔に何個も入るほどの大きさまでになり、同じくらい巨大な敵の主力艦を木っ端微塵にした。

「じゃあ、戻してよ!」
『そ、それが……君の巨大化をコントロールしていたマイクロ波発生器が暴走して……』
「そ、それじゃ私……」

これもまた、巨大化に合わせて繕い直されていたセーラー服が、ビリビリと音を立て始めていた。

「も、もういや!!……あっ」

激しく動いた少女の体は、近くにあった地球を粉々にしてしまった。少女はその意思とは関係なく、人類を滅ぼしてしまったのだった。

変身描写だけ書きたい!(GTS1)

「これ、すごく、かわいい!!」

店先に並ぶキーホルダーを見て大興奮の少女。だが、その興奮で、彼女のある呪いとも言うべき体質が発現してしまったのだった。

《ドクンッ!》
「っ……!!」

全身を襲った衝撃が、彼女にそれを思い出させた。

「また……やっちゃった……」
《ドクンッ!!》
「んんっ!!」

その時、少女の体がカメラで画像が拡大されるかのように、ズイッと大きくなった。

「お客様、大丈夫ですか!」
「へ、平気……」
《ドクンッ!》
「んぅっ……!」

何回も繰り返される衝撃の度に、少女は頭一つ分大きくなっていく。急に苦しみだした客に話しかけた店員は、急に背が高くなった少女に腰を抜かし、床に倒れてしまった。

「お客さん、お、大きく……」
「ご、ごめんなさ……」
《ドクンッ!》
「あぁっ!」

ここまで無傷だった彼女の服が、どういうわけか一瞬で破け去り、一糸まとわぬ姿になってしまった。

《ドクンッ!》
「ん……!!」

店の1階の高さを超えた彼女に走る衝撃は、周りに音が聞こえるほど大きなものとなっていた。

「あらあら、また大きくなってるのね」
「全く大変な子ね……」

その心臓の鼓動にほかならない音を聞きつけた少女をよく知る通行人が、建物と同じくらいになった少女の姿を、さも日常的な光景のように見物していた。

「は、恥ずかしいよぉ……」
《ドクンッ!》
「んぐっ……!!」

少女は周期的に訪れる衝撃とともに、グイッグイッと大きくなり、重さを支えられなくなったアスファルトはメキメキと地面から剥がされていく。彼女から発せられるドクンッ、ドクンッという重低音は、今や近くの窓をガタンと揺らすほどの強さだ。

「う、うう……何で私……」
《ドクンッ!》
「ひぐっ……!!こんな体質に……」
《ドクンッ!》
「んぁっ!!なっちゃった……」
《ドクンッ!》
「ぅあっ……!もう、人がしゃべる邪魔しないでよ!!」

少女は、サイズが2mを超える自分の足が店舗の棚を粉々に破壊するのも気に留めず、大声を出した。それで衝撃が収まるわけもなく、逆にその大声でそれまで少女に気づかなかった人にまで注目されるようになってしまった。それでなくても、ドクンッ!という音がすでに街中に響きわたっていたのだが。

「おー、また大きくなった!もう東京タワーに追いつくんじゃないか?」と完全に見世物を見ているようなものや、「あのお姉ちゃんすごい!私もアレくらい大きくなりたいな!」と何か間違った方向のあこがれを持たれたりだとか、「こら、見ちゃいけません!」と何か教育に悪いものだと思われたりだとか。少女の羞恥心は深まる一方だった。

「も、もう!こんな街、吹き飛んじゃえ!!」

少女はその巨体を跳躍させた。それだけで、足元の地面は完全にえぐられ、店は基礎が崩壊して倒壊してしまった。しかし、一度地面から離れたものは、また地面に着く。少女の足が着地したその瞬間、信じられない程のエネルギーが少女から地面に伝わり、その反動でバァーン!!!と地表面とその上にあった建物は一瞬で吹き飛ばされてしまった。

「あ、あぁ……」

少女の周りはクレーターとなり、剥きでた水道管からプシューと水が噴き出る音が響いていた。

「また、やっちゃった……でもちょっと、面白いかも!!」
《ドクンッ!》
「ひゃうっ!」

その日、その街は本当に地図から姿を消してしまった。