肌の漂白剤

「黒ずんだ肌におすすめ!1日3錠飲めば、10日目に効果が出ます!」

というのが、三郎(さぶろう)が10日飲んできた薬の宣伝文句だった。40代に入ろうとしていた彼の肌は、長年嗜んできたタバコの煙が染み付いたように黒ずんでいた。
現場仕事の彼にとっては、そこまで気になっていなかったことではあったが、テレビで「きれいな肌の男性の方がモテる」というのを見て、一つ薬を試してみることにしたのだった。

「しかし、全然効き目がない……もったいないから飲んでたが、偽物だったか」

残り1錠で、全部の薬を飲み終わる。夕食の片付けをしながら、相変わらず浅黒い色の自分の肌を見た。

「やっぱ、そんなに気にするもんでもなかったか」

バツイチだが、まだ時間の余裕はある。肌が汚かろうが、どこかでまた新しい伴侶を見つけられるだろう。彼は、最後に残った薬を袋からだし、水で飲み干した。

「だが、ちょっとくらいきれいになっても良かったんじゃないか?」

その時、彼の右腕からベリッと何かが剥がれる音がするとともに、激痛が走った。

「いっつ……な、なんだってんだよっ!」

彼は、いつの間にか付いていたシールか何かが剥がれたのだろうと思って、右腕を見た。

「な……な、なんだこりゃぁっ!」

その手首が、脈動するように膨れたり、しぼんだりしている。そして、その膨れる範囲が、どんどん広がっていた。

「俺の、俺の腕がぁっ!」

やがて腕全体が風船のように、パンパンに膨れ上がった。

「な、んだよ……これ……」

三郎は、恐る恐る膨れた右腕を触る。だが、自分の腕を触っているはずなのに、右腕には触れられている感覚がない。それは腫れ物と言うより本当に風船のようで、中が透けて見えるようだった。

「気持ちわりいなぁ……うわっ!?」

パァンッ!!と、ただの膜と化した三郎の右腕の皮膚が、破裂した。だが、変わらず痛みはない。三郎の左腕のひどい日焼けの後の剥がれたもののように、右腕から半透明に垂れ下がった。

「ったく……なんだってんだよ」

三郎はその皮膚を剥がす。そこには、現場で酷使された筋肉質の腕ではなく、きめ細やかな白い皮膚に包まれた、細い腕があった。

「……は?ん、こ、こんどは手がっ」

右の手指が、ドクンドクンと脈打ちながら膨らんでいく。ベリベリと皮膚が剥がされる音が聞こえ、やがて膨らみは手のひら全体に広がる。

「ま、まさかっ」

三郎は膨らんだ右手を、左手で引っ張った。すると、右手の皮膚は手袋を外すようにスルッと抜け、中には細くて長い、右腕と同じように透き通った肌の手指があった。

「あの薬のせいで、皮膚が剥がれていっているのか!?」

しかし、変わったのは皮膚の色だけではない。明らかに、新たに現れた右腕は、元の三郎よりほっそりとしたものだ。輪郭も柔らかく、どこか女性らしささえ感じる。

「まさか、女になってる?はは、そんなわけねーか」

その言葉に答えるがごとく、今度は股間から激痛がした。

「いぎっ……う、嘘だろ、おいっ!」

三郎は、トイレに駆け込み、便座の上にどんと腰かけて、ズボンを下ろした。そこには、異常に盛り上がったトランクスがあった。

「や、やめろ、やめろっ!!」

トランクスも下ろすと、先端だけが異様に膨張と萎縮を繰り返すペニスがあった。そして、メリメリとペニスの皮が剥がれていく音がしている。そこで三郎は、その膨張と収縮が、自分の呼吸に連動していることに気づいた。息を吸えば膨らみ、吐けば縮む。

「じゃ、じゃあ、息を止めれば……!」

三郎は息を止めようとしたが、本能的に、水に潜る前のように、一気に息を吸い込んでしまった。三郎のペニスはそれに呼応してありえないくらいに膨張してしまった。トイレに、皮が剥がれる音が響いた。

「ひぎいいっ!!」

あまりの痛さに、荒い息になる。睾丸までも大きく膨れ上がってしまい、ついに……

パァンッ!と、三郎の股間は破裂した。

「うわああぁぁっ!!」

その皮は、トイレの中に垂れ下がり、水に引っ張られるように自然に落ちてしまった。

「まさかまさかまさか……っ!」

そこには、毛一本ない、スッと入った一本のスジしか残っていない、寂しい股間が残るだけだった。

「俺、やっぱり、女にっ……!あ、あたまがっ!」

顔を焼かれるような痛みが走る。たまらず、顔をかきむしると、ボロボロと皮膚が取れ、中からは別人のような、端正な顔が現れる。髪もサラサラと伸び、三郎の手にかかった。

「の、喉が苦し……ぁ……ぁあっ!声が!」

三重顎のように、首まわりがブクゥッっと膨れる。喉仏がなくなったせいで、三郎の声のトーンがグイグイあがり、アルトくらいの女性のものになってしまった。プシュッと空気が抜けると、首の皮はダラッと垂れ下がった。

「ま、また皮膚がっ!洗い流さないと!」

パニックに陥りかけていた三郎は服を脱ぎ捨て、浴室に飛び込み、蛇口を捻った。しかし、首にシャワーを当てた瞬間、乳首に激烈な刺激が走った。

「ぎゃぁっ!」

腰が抜けた三郎はシャワーを投げ捨て、壁に背を当てて床に座り込んでしまった。その呼吸ごとに、ビリッビリッと胸の突起に電撃のような痛みが走っていた。

「胸、胸がっ」

ビクン、ビクンと乳首が振動し、胸筋がムギュ、ムギュと形を変えていく。乳首の周りに小さな山が、空気入れで空気を入れられるように形成され、その周りも丸く膨らむ。

「くっ、今度こそっ……」

三郎は息を止め、女性の象徴とも言える胸の膨らみの成長を抑えようとした。思惑通り、胸の成長は止まったが、その頃には胸の筋肉はすっかり鳴りを潜め、元々とはかけ離れたものになってしまっている。

そして、1分くらいして、息止めにも限界が来た。

「ん……ぐ……はぁっ、はぁっ」

そして、大きく息をしてしまう三郎。口から入った空気を受け止めるかのように、ギュゥギュゥと乳房が膨れ上がり、元々の三郎の皮膚の中で、深い谷間ができていく。そして、ピリッ、ピリッと皮でできた乳袋に亀裂が生じ始めると、浅黒い被覆の中から、色白な肌が覗いた。

「だ、だめ……っ」

だが、内部からの膨張に対して、あまり弾力のない皮膚は耐えるすべを持たず、ビリビリと破れて中身の女体をさらけ出し、大きく育った胸がブルンッと飛び出した。

胸に気を取られていた三郎だったが、体全体の皮膚がボロボロと取れ、中に形成された女性の生肌に取って代わられていた。腰の部分もピンピンに肌が張ったと思えば、中からプリッと弾力のある尻肉が飛び出す。脚の皮はタイツのように脱げ、左腕もブカブカの長手袋をしているような状態になった。

もう事態を受け入れるほかなくなった三郎は、立ち上がって風呂場の鏡を見た。薬の効能は完璧で、全身の肌がすべすべとした白い物になっていた。ところどころに残っている元々の皮膚の黒さのせいで、全身が輝いているようにすら見えた。

「一体、俺が何をしたっていうんだよ……」

鈴の音を鳴らすような声と、柔らかい輪郭、出るところは出ている良いスタイル。鏡の中に映るのはグラビアに出てきそうな女性だ。三郎は無意識に自分の体を触り、その女性が自分であるという事を確認していた。

「し、しかし、結構、好みの女になっているな……」

胸を持ち上げると、そこそこの重さと弾力を感じる。多少肉がついた腹と太ももに手を押し込み、その肌の張りを確かめる。