ラド的な子

ここは、核戦争が起き、破滅してしまった世界。どこかで致命的な間違いが起き、人類がほぼ吹き飛んでしまった時間軸の話。
ハリボテ小屋の中で、一人の少女、ジーンが、腕につけたモバイルコンピュータ、ポップガールの値を読み取っていた。

「そろそろ、ラド値を落とさないと……」

ラド値とは、この汚染された世界で、そこら中に分布している人体に害をなす汚染物質、「ラド」の体内濃度の指標である。幸いにも、ラドバイバイという薬を使うことで、濃度を落とすことができ、人類はなんとかこの「ラド」がある世界で生活することができていた。

「よし、と……」

点滴のように血液に注入するその薬だが、少し不純物が混ざっていることは日常茶飯事で、それに耐えることができるように、人間の体は少し変化を遂げていた。
だが、その日の不純物は、いつもと違うものだったということにジーンが気づくのは、まだ先の話である。

「これで、また全力で探索できるね」

空になった薬の袋を机の上に置く。この袋も、重要な物資だ。ジーンの小屋の中には、さまざまなガラクタが置いてあった。産業という産業が存在しないこの世界では、ベッド、椅子、机、すべてをガラクタで作る他ない。愛用の銃も、パイプや、針金などを組み合わせて作り出した、手作り感満載のものだ。

「食べ物も、飲み物も腐ってきちゃってるし……また、あの水たまりに水をくみに行こうかな」

そう言って、銃を腰のベルトにさし(これもお手製のものだ)、弾や、もしもの時の保存食品や、銃の補修部材をカバンに入れる。そしてジーンは、荒れ果てた世界へと家を後にした。

ジーンは道中、ラドに汚染されたモグラの群れに出会った。
外には、ラドに汚染され大型化したネズミや蚊、他にも危険な動物がたくさんいる。しかし、その動物を食わねば、生きていくことはできない。一人で倒せそうであれば、動物の群れにも攻撃をしかけるのが普通だった。

「一匹、ラドまみれのやつがいる……でもやるっきゃないか」

モグラは、比較的弱い部類の動物だ。ただ、一匹ラドをまとい、緑の光を体内から発しているものがいた、噛みつかれれでもすれば、ラドがジーンの体内に入ってしまうだろう。しかし、ジーンとしては、この獲物は確実に仕留めておきたいものだった。

「よし、いくぞ!」

まずは一匹目に気付かれないように近づき、そして頭部に一発、銃弾を打ち込んだ。その銃声で、周りのモグラが一斉に地面に潜る。モグラが潜るのは、逃げているのではなく、地面の下から不意打ちを食わせるための攻撃手段だった。ジーンの記憶が正しければ、生きているのはあと二匹である。

「ここから出てくるか……」

地面の音を聞きながら、攻撃を喰らわないように位置取りをするジーン。そして思ったとおりの場所から出てきた二匹を、確実に射撃した。

「ふぅ……あれ?あのラドまみれのやつは……?」

その時、ジーンの真下から、緑に光るモグラが飛び出し、間髪入れずに足に噛み付いた。

「うぐぁっ!」

ジーンの中に、ラドが入り込む。しかしその時、普段感じない衝撃が、ジーンの体を貫いた。

「な、なに……!?」

再びモグラは地面に潜った。気を抜いている暇はないが、なぜか手にはめている手袋が、すこしきつくなっているのに気づく。

「き、気のせいだよね?」

集中が切れたジーンは、さらなる攻撃を受けないように、後ろへと下がる。だが、ラド物質がたんまりと入ったドラム缶が後ろにあった。

「あ、やば……」

その存在に気づいたときには、もう遅かった。ジーンはドラム缶を押し倒してしまい、飛び出してきたラド物質を全身にかぶってしまった。

「くぅぅ、また貴重な薬を使わないといけないの……?」

遠くでモグラが地面から飛び出した音がしたが、もうこちらを見失っているようで、地面を走ってきたり、再び潜る音はしてこなかった。それよりも、体についたラド物質から、ラドが皮膚を通して侵入をはじめたときの衝撃のほうが、ジーンを驚かせた。

「うぐっ!な、なにっ!!??」

普段、ラドが体内に入るときは、体力がどんどん削られていく。しかし今は、体の中に大きな熱が入ってきていた。そして、その熱が体のなかで膨らんでいくような感覚が、ジーンを襲った。

「お、おかしいよ、何が起こってるの!?」

ジーンの手や足が、徐々に長く、太くなっていく。メキメキと音を立てながら、骨格が成長していくのだ。まるでラドが体の一部になるかのように、ジーンの体を作り変えているのだ。ジーンは、ラド物質を急いで拭き取るが、その間にも、胸当ての中で胸が膨らみ、圧迫感が大きくなっていく。

「や、やめて、こんなところで装甲が合わなくなるなんて、死ねと言ってるみたいじゃない!」

しかし、完全に合わなくなる前にラド物質を拭き取り終わり、ジーンは九死に一生を得た。

「うぅ、なんなのよ……これ、薬を使えばもとに戻るのかな……」

一回り、二回り長くなった手足と、明らかに大きくなって、胸当てを押し上げている自分の乳房を見つめながら、ジーンはそれでも、進み続けるほかなかった。ラド値はまだ低く、薬を使うのはもったいない。
最後の一匹のモグラも無事仕留め、肉を切り出すことができたジーン。