侵食するカラダ その3

「あいつの手術、あれは要するに、体を一定間隔で変形するようにするだけなの。大方、『女の子になれる』とか言われたんだろうけど」校医は、淡々と説明した。「体がどう変形するかはその人の意思によるから、その場でなりたい体型を想像していれば、その通りになるのよ」

「……ってことは」俺の脳裏を不安がよぎった。「俺は、女になりたいって、そう思っていたことになるのか?」俺のあの時の結論は、そんなに女になることに傾いていたのか?

「いえ、そうとは限らない」

校医は、目を細めて俺を見た。「あいつの理論の場合、成長ホルモンに加えて、異性のホルモンを大量に分泌させることで変身を起こしてる。つまり、異性になるような変身しか引き起こせないから、君はどっちにしろ女になっていた。それにしても、深い考えなしであいつのところに行ったの、君は?」

「う……だって本当に女になると思ってなかったし……」正直、これ以外に返す言葉が見つからない。校医はそんな俺を見てため息をついた。

「君ね、世の中を甘く見てると、今に痛い目をみるわよ」いや、すでに痛い目を見ている気もするが。「手足を切断されて見世物にされたりとか」うむ、それは確かにイヤだな。「実験生物に洗脳されて子供をうまされたりとか」待て、なんだって?「その子供に栄養を供給するためのミルクタンクにされたり……」

「ちょ、ちょっと!いくらなんでもそれはないだろ!?」どこのマッドサイエンティストがそういうことをできるんだ!?

「いえ、今の、全部兄がやったことよ。この目で見てきたから、間違いない」そう言う校医の目は、真面目そのものだ。冗談ではないのだろう。「君が、女の子になったり、元に戻ったりするようになっただけだったのは、実は幸運なんだから。ただ、私は兄が施した手術の理論は知っていても、もとに戻す方法は分からない。さっきも言ったとおり、慣れることが肝要よ」

「慣れろって!?この体に!?」こんなおとぎ話のような説得で、納得が行くはずがない。これまでがおとぎ話じみていたのは否定出来ないが、それでもだ。

「できないっていうの?これまで、同じような境遇の人がたくさんいて、ほとんどの人が順応してきたのよ。君ができないはずがない」

「俺と同じような奴がたくさんいるって、そこが嘘かもしれないからだ」大体、俺は一回も他の人間が変身するのを見ていない。実際、変身させられたのは俺一人だけなのかもしれないのだ。

「証拠が欲しいのね。じゃあ、今日の放課後ここに来なさい。あと、変な気を起こして、女になった自分なんか想像しないでね」校医はため息混じりだった。というか、そういうこと言うから想像してしまうわけだが。まあ頑張ってみるか。

放課後。

「あらあら……また立派に育っちゃって」

「はぁ……はぁ……余計な……お世話だ」俺の体は、また爆乳美少女に変わっていた。だってまあ、仕方ないだろ。授業が終わってすぐに、委員長にまた話しかけられて、どでかい胸を見せつけられたんだから。俺はタプンタプンと揺れる胸を押さえながら、やっとのことで保健室に戻ってきたのだった。

「それで、この子なのよ、見せたかったのは」

「先生?あれを、この人に見せればいいの?」ベッドに横たわっているのは、小さな女の子だった。肩まで伸びる黒いふわふわの髪。ぷっくりとしたほっぺと、なぜか上半身を脱いでいるその体はぷにぷにしてぽっこり……

「ってぇ!?なんで裸なんだよ!俺はロリコンじゃないぞ!」

小学生の裸を見て、思わず興奮してしまった。でもなぜかその子も校医も俺の大声に驚く様子もなく、むしろニヤニヤしている。「な、なんだよ……」

「ねえ、わたしの事見て、何か思い出さない?」

「え?」女の子に言われた俺は、こんな子がこの学校にいたか、と考えると、すぐに思い出した。同じ学年に、今年、チビな女子が転校してきたっていう噂が流れていなかったか?それに、同時期に突然学校を出てった奴もいたと。

「まさか、お前も女になって、女として学校に通ってるのか?」

俺の言葉を聞いて、女の子はニコッと笑った。まぶしい笑顔に、少し胸がドキッとする。「じゃあ、本当に、あなたもなのね。そう。私は女の子になっちゃう身体になった。そこまでは合ってる」

少女はおもむろにスカートの留め具に手を掛け、その股間を露出させた。

《ポロ……》

そこには、想像していなかったものが、ついていた。「実は、今も男なの。小さいけど、ちゃんとあるでしょ?」ある。確かにある。親指くらいの、小さなナニが、確かにある。

「紹介が遅れたけど、この子の名前は、佐藤 沙耶香(さとう さやか)」固まってしまった俺を見て、校医が補足した。「でも、本当の名前は佐藤 昌也(さとう まさや)。どっちでも、好きに呼んでいいと思うわ、ね、佐藤さん」

佐藤は、首を大きく縦に振る。「私と同じ境遇の人なら、どっちでもいいよ!でもみんなの前では、男の名前は出さないでね」

分からない。元々男で、女になるようになったのに、女に見える格好の男に変身して学校に通っている?わざわざそんな事をする意味が、全くわからない。

「説明して欲しいっていう顔してるわね」

相変わらず目を丸くして股間のナニを見つめ続ける俺だったが、やっとのことでゆっくりとうなずいた。

「この子はね、元々今よりすごく体格が良くて、そうね……元の君よりもかなり力があったんじゃないかしら?でも、あいつの言葉に乗せられて被験者になってしまった。それで、女性になる時はかなり体格が違ってしまって、周りも対応しきれなかったみたい。だから、これくらい小さな体になって、男の時でも女で通用するようにして、日々の生活をしているってわけ。これが、症状に対する対応の一つ、しかもこの子自分一人で考えた方法よ」

「いや、これだけじゃまだ信じられないぞ」

まだ、佐藤が変身するところを見ていない。校医は呆れ顔をしたが、佐藤はうんうんとうなずいた。

「要するに、私が本当に変身するか見たいんだね」「ああ、俺の目の前で、俺そっくりに変身してくれ」

ここで、佐藤まで固まった。「そ、そんなおっぱい大きくしたくないよ、絶対痛いし」確かに、俺の胸には特大スイカサイズのおっぱいが付いている。対して、佐藤はそのおっぱい二つと体積が同じくらいの体の大きさしかない。相当激しい変身になるだろう。

「できないのか?じゃあ、俺は信じないぞ」俺は意固地になる。今の状況が治らないなんて、まだ信じたくない。「君、いい加減に……」

「分かったよ。変身する。でも、最初にそのおっぱいで気持ち良くしてからね」

こいつ、いきなり何を言い出す……って、俺も同じくらいの無茶を言っているのか。じゃあ、仕方ない。

「ああ、いいよ。やってやる」あれ?本当に仕方ないか?まあいいか。

俺は、無意識のうちにパツパツになったシャツを脱ぎ捨て、佐藤がいるベッドの上に四つん這いになっていた。

体が勝手に動く。歯磨きをしたり、シャツのボタンを止めたり、そんな日常の動作みたいに、無意識のうちに体が動いて行く。今やろうとしていることは、こいつを俺のおっぱいでマッサージするという、人生はじめてのことなのに。

「じゃあ、いくぞ」俺は、奴の腰の上に、どたぷんっ!と胸を降ろす。すると、あいつの小さい息子が、俺の胸の表面にくっついているのが伝わってきた。

「あうっ……!気持ち、いいっ」

佐藤が可愛らしい声を上げる。食べてしまいたくなるほど……

「あのねぇ、二人とも、人の保健室のベッドでなにやろうとしてるの」

なに、やろうと、してる。本当だ、俺は何をやろうとしてるんだ!?姿勢を戻し、佐藤を見るとかなりびっくりしている。どうやら、さっきの願いは冗談だったらしい。男の俺に、マッサージを頼んだところで笑われるだけだと思っていたようだ。ところが、俺はノリノリで胸を載せてきた、そんなところだろう。

「もう……佐藤くん、ごめん、この人の言っている通りにしてあげて。……って、もうする気のようね」

佐藤からとんっ、とんっと音がする。体を見ると、トクン、トクンという脈動が、最初心臓の上だけ起こっていたのが、周りに広がって行っている。

「ひゃっ……んっ……!」

ついには、小さい体全体がドクンドクンと脈動し、ベッドの上で飛び跳ねた。腰に乗せたままの俺のおっぱいも、たゆんっ!たゆんっ!と揺れ、乳首が……

「あぅ……っ!ひゃんっ!やだっ!」

先っぽがこすれて、気持ち良くなっちゃうっ!……佐藤の体も、だんだん大きくなって、中学生くらいの体が俺のおっぱいに猛アタックしてくるぅっ!!おちんちんも、大きくなってきて、固くなってきてるっ!

「やめてぇっ!……~っ!!」

俺は、やっとの思いでおっぱいを持ち上げ、衝撃から逃れることができた。なんてことを考えてたんだ、それに、自分の声とは信じられない、喘ぎ声を出していた。校医を見ると神妙そうな顔をしている。

「あぁっ!!胸が、胸がぁっ!!」

佐藤が大声を出した。いや、今まで俺が変身した時と同じくらい、どたばたともがきながら、体が太くなったり細くなったり、「熱いよぉっ!」とかいろいろ叫んでたんだが、俺の意識の中に入ってこなかっただけで……

《ムリリリィッ……!!!》

何かが無理やり伸びにくい風船を押し広げて行くような音がして、同時に佐藤の平べったい胸から二つ、丘が大きく前に突き出てきた。Cカップというところだが、俺の胸にはまだまだ及ばない。

「うおぉ……」他の奴の胸が膨らむのなんて、初めて見たわけで、思わず胸の下に腕を組んで感心してしまった。プルンプルンと震えながら、ムリムリと膨らんでいく二つの膨らみは、やがてタユンタユンと大きく揺れるほどの、立派なおっぱいに成長していく。

「んふぅっ……くぅっ!」小さな子供の声が、少しだけ低くなり、深くなって、今の俺と同じような大人の女のものに変わっている。

《プシュゥッ》

と、ここまでかなり大きく膨らんでいたペニスが、ヌメヌメとした液体を噴き出し始めた。小便とは確実に違うソレは、精液に間違いない。ただ、普通の射精と違って、勃起していたソレがだんだん縮んでいっているのだ。

「私のおちんちん、中身がでちゃうよぉっ!」

佐藤は、その最期を見逃すまいとしているのか、それとも縮小を止めようとしているのか、すごく焦った顔で、ピュッピュと噴出を続け、もう元のサイズより小さくなったそれをじっと見る。が、ほどなく急拡大し、顔よりも一回り大きくなった胸に視界が遮られてしまったらしく、完全に股の中に埋もれてしまっても、見えなくなったそれを確認しようとしている。

「おっぱい、おっぱいじゃまぁっ!!」

佐藤の言葉に逆上したかのように、胸は《ボンッ!!》とさらに大きくなった。やっと、おれと同じくらいになったか?胸を当てて、確認してみよう。

《ムニュッ》

おっぱいと、おっぱいが重なりあう。と、佐藤の鼓動がおっぱい越しに伝わってくる。俺の胸も、ポヨ、ポヨと揺れて、何だか、体が、熱く、なって……

「いい感じ……」この子の体、すごく大きくなって……さっきとは違うかわいさ……一人で二つの魅力があるなんて、もう、食べちゃいたい……

もっと紗耶香ちゃんのこと、知りたい、味わいたい。そう思って、苦しそうな表情の顔に手を近づけていく。その時、紗耶香ちゃんの目がくわっと開いた。

「わ、わたし……こんなことに……」紗耶香ちゃんが私に話してくる。変身が終わったのかな?

「なぁに?私の体になってみて、どう?やっぱりすごいでしょ……?っ!!!」

俺は、俺は何を言ってるんだ!?俺の思考が体に蝕まれているというのか!?エロい体に、男を誘惑するこの体に、心が、持って行かれている!

「す、すまないっ!!佐藤!!」とっさに謝る。が、その必要はなかった。

佐藤は、淫らな笑顔を浮かべていた。体の触れ合いを通じてもっと快楽を得たい、そう言っている顔だ。「うふっ……」ぞっとするような含み笑いも、俺のことを咎めるどころか、さらに求めていることをあからさまに示していた。そして、それは実際の行動にも現れる。両手で、俺の両胸を挟み、上下左右にもみ始めた……

「ひゃんっ、さ、さとうっ、もむの、やめてっ!」快感が、快感が俺の脳を占拠する。理性が追いやられ、意識が朦朧として、目の前が見えなくなっていく。「うふっ、うふふっ……」佐藤の淫魔のような笑いだけが、耳に入ってくる。このままじゃ、俺……

「はい、そこまでっ!」という校医の声とともに、《パシッ!!》と何かが手で叩かれるような音がする。すると、俺は快楽の洪水から解放され、視界がはっきりした。校医が、少し引きつった顔で、佐藤の顔を平手打ちしていた。

「せ、先生……ごめんなさい、私こんなつもりじゃ……」佐藤の方は、悲壮な顔をして、校医に許しを請うていた。校医はすぐに優しい顔になり、佐藤を抱きしめた。

「いいの。君が悪いんじゃない。悪いのは、体なのよ」校医は俺にも優しそうな、でも申し訳無さそうな感じでもある顔を向けた。

ああ、そうなのか。俺が元に戻る方法はやっぱりないんだな。そして、いつか俺は今あるこの「俺」を失って、違う誰かに成り果てるんだ。俺は、校医の顔を見て、それを認めるほかなかった。

侵食するカラダ その2

電車の中で、俺は自分の胸に集まってくる視線を感じながら、これからの事について考えていた。俺は、本当に女になってしまった。それも、スタイルは抜群、顔も美しさと可愛さをうまく兼ね備えた、通りを歩けば誰もが振り向くような美少女だ。実際、この電車に乗った全員が一回は俺のことを見ているだろう。

試しに、服から大きく突き出している胸の膨らみを下から持ち上げ、ムニュッと歪ませると、男は全員、女も半分くらいが目を丸くして俺を見た。そんなに俺って、目立つんだな。

一人暮らしで、誰もいない家に着くと、すぐに服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びようとした。完全にサイズの合っていない服はキツかったし、胸の間に汗が溜まって、かぶれてしまいそうだった。

「……」

鏡を見た瞬間、それまで成り行きで動いていた体が、動かせなくなる。さっき俺は自分の姿を見たはずなのに、雑誌でも見たこともないような特大スイカの胸や、一点のシミもない透き通った肌、これ以上細くなったら折れそうなウエスト、豊満な太もも。その全てが、俺を誘惑した。

隣に先生がいたさっきと違って、今なら、誰も見ていない。俺は衝動的に手のひらほどに大きく薄く広がった乳頭の先っぽを、クイッとつまんでみた。

「あ……んっ」

俺の股間に息子が残っていたら、一瞬のうちにとんでもなく固くなるような、色気たっぷりの声が出た。

俺の、この喉から。

顔が熱くなり、鏡を覗くと、目の前の少女も顔を紅潮させ、エロい表情になっている。

俺の顔が、エロい。

体が変わっても脳の中は男なのか、滅茶苦茶興奮する。と同時に、自分が超えてはならない一線を超えたことを実感する。といっても、いまさらどうしようもない。今日は疲れたし、さっさと体を洗って、寝ることにしよう。

「ふんふ~ん♪」

俺はいつものようにスポンジにボディソープを付けて、こっちはいつものようにじゃなく鼻歌を口ずさんで肌を擦った。

《ゴシッ!!》

「ひゃんっ!」痛い!すごく痛い!っていうかなんだ今の声!無意識のうちに、黄色い悲鳴を上げてしまった。俺の考えとは別に、体が勝手に声を出してしまったのだ。

俺は一瞬思考が止まってしまった。自分の体が、自分のもので無くなっていってしまうのではないか、という不安にさいなまれたのだ。

「何考えてるんだよ、俺!」俺は、手をグーパーと動かして、自分に言い聞かせる。「ほら、自分で動かせるじゃないか」

それから俺は、できるだけ優しく、肌を洗い始めた。一番やりやすかった脚の先から……と言っても前かがみになったせいで、胸がつっかえたが……、尻、腰、胸の下、胸の間、胸の上、肩、腕と、ここまでは順調だった。

「股……って……どうなってるんだ……?」視界を塞ぐおっぱいを何とか脇にどかして、股の間を確認する。そこには、ピッと一筋、線が入っている。俺は恐る恐る、人差し指と中指を使って、その線を左右に引っ張った。すると、それはカパッと開いて、ヒダのようなものと、突起のようなものが露出された。人の一部とは思えない形をしているそれは、少しグロい。

そっとじ。

いやいやいやいや、自分の一部なんだから、どうにか慣れなければならないだろう。俺は覚悟を決めてもう一回それを開けた……

《ムギュギュギュギュ》

とそのとき、胸が妙な変形を始め、それを皮切りに俺の全身がぐにゃぐにゃと……

「はっ……!?」

俺は意識を失っていたようだ。そして、ここは風呂場。俺の体は……

元に戻っていた。完全に男の姿に戻り、俺が女だった形跡は一つもない。

「ふ、ふふ……やっぱり、そうだよな……あんなこと、実際にあるわけがないよな……」

鮮明に記憶に残っている女としての体験は……あれはきっと夢なんだ。そう自分を説得し、俺は体についていた石鹸を流し、髪を洗って風呂をあとにしたのだった。

翌日。学校に着いた俺は、だれとも会話することもなく、席に座り込んだ。昨日の体験が頭から抜けない。妙な装置で、自分の体が細胞単位で全て女に変わってしまうという、変な夢。胸についた、超大きくて、そして重い膨らみ。会ったこともないほどの可愛い女の子の顔が、自分のものになっていた。もっと何かやっておけばよかったんじゃないかと思ったが、どうせ夢だ。

「どうしたんだよ、おい!」いつの間にか、友達の新田が俺の前に立っていた。大声を出して俺を呼んでるってことは、相当な回数、呼びかけてきていたに違いない。

「ああ、なんでもねえよ」「そんなわけないだろ!お前らしくもなくぼーっとしてさ」否定しようがない。一人暮らしの俺にとって、学校での友達付き合いは大切な日常の一部だ。大抵、自分でもオーバーと思うくらいの挨拶をしてクラスに入っていく。その俺が、なんにも言わず席に直行して何か考えこんでいるなんて、不思議以外の何者でもないだろう。

「病気でもしてんのか?そろそろ期末試験だぞ」新田は、本気で俺のことを心配しているようだ。

「いや、さ、女になった夢を見てだな」

自分でもこの事を言うとは思っていなかったが、自分の中で貯めこんだままっていうのがいやだった。新田は、それを聞いて吹き出した。

「おい、なんだよそれ!お前も相当試験に追い込まれてるんだな」
「あ、ああ。そうだな」

確かに、追い込まれてなきゃ、女性化できるって聞いて、電車賃まで払って行くわけないよな。

そんな俺の視界の中に、たゆん、たゆんと大きく揺れ動く盛り上がりが入ってきた。

「お、デカパイ委員長のおでましだぜ」新田の言う通り。食べたものが全て胸に行くと言われている、このクラスの委員長が、教室に入ってきたのだ。Hカップはあり、本人は事あるごとにでかすぎるその胸のことで文句を言っているらしい。

まあ、俺のほうがデカイけど。

え?今、俺、自分の胸が、委員長よりでかいって考えたか?俺におっぱいなんて無いのに?

「ちょっと、何マジマジと見てるんですか?」遠くにあったおっぱいが、いつの間にか目の前にあった。ずーっと凝視していたらしく、周りの軽蔑の視線が突き刺さってくるようだ。

「あ……すみませんでした」と、今更謝っても遅い。委員長は俺をにらみつけて、説教する気満々だ。

「だいたいあなたは……って、きゃあ!!」まさかの委員長、なにもないところでコケた!そして……

《ドタプーン!》

俺の顔に、おっぱいが襲いかかった。服越しでもわかる柔らかさと、温もりに、俺の顔は包まれ、そして、思考が支配される。俺の『夢』がフラッシュバックし、鏡に映る『自分』の姿が、頭の中を埋め尽くしていく。

「ちょっと……ねえ……」委員長の声が、意識の彼方で聞こえる。しかし、俺の体で何かが駆け巡り始め、ゴゴゴゴと音を立てて、周りの雑音をかき消してしまう。

そして、ついにそれは始まった。

女性ホルモンが脳から分泌され、新陳代謝が加速されていく。そのせいで、全身の細胞が分裂や変成を繰り返し、体が至る所でメキメキ、ゴポゴポッ!という音を立てて不定型になる。

《ムギュギュギュギュ!!》

そして、俺の中にわずかに存在していた乳腺が、血流に合わせて急速に増殖し、胸を盛り上げる。苦しくなった俺は、服を脱ぎ、上半身を露出させた。

全身の血管は異様に浮き立ち、その先の組織が動いているかのように、絶えず変形を繰り返している。筋肉細胞が脂肪細胞に変わり、破骨細胞が俺の骨を細くし、造骨細胞が逆に俺の骨を形作る。

「んっ……んんっ」

声の高さが安定しない。体のすべての部分から、人体が出すはずのない、メリョメリョとか、ズルズルとかいう生々しい音が出され、そのたびに体の表面が凹んだり膨らんだり、伸びたり縮んだりする。

「んはっ……」

制服のズボンの左がメリメリと破れ、中から筋肉が異常に発達した脚がでてきたと思ったら、その筋肉の殆どが一瞬にして脂肪に置き換わり、同時に、ゴキッと膝の向きが変わって、左足だけが右足より一回り太く、内股になった。

その根本で、股間が怒張し、普通のバナナほどに大きくなってしまう。あまりの痛さにズボンを脱ぐと、尻が左からボンッボンッと膨らみ、それに吸いだされたかのようにペニスがギュッギュッと収縮し、股の中に消えてしまった。

「あ……はぁんっ」

次に起こったのは、お腹の膨張だった。筋肉質だったお腹が、水を入れられるように、パンパンに膨れ上がっていくのだ。腸ではないどこかに、何かを無理矢理詰め込まれる感覚がする。

「はぁっ、はぁっ」

俺が呼吸するごとに一回りづつ、妊婦のように膨らんでいくお腹。臨月を通り越し、3つ子くらいになる。

《ギュルルルルル!!!》
「んんっ!きゃああああっ!!」

腹部の変化が終わった所で、急に膨らみが吸い取られるようになくなり、逆に、これまでリンゴサイズだった胸のほうが、ヘリウムボンベで空気を封入される風船のように、特大メロンサイズまで、一気に膨れ上がった。当然、ものすごい痛みが走る。

「ふぅっ……」

胸に脂肪を送り込んだお腹の方は、逆にコルセットに締められたかのようにくびれ、いつの間にかムチムチに熟した右足の質量感を強調していた。

《ギュギュギュ……》

そこで、未だに俺の目の前にいた委員長のおっぱいを意識したのが悪かったのか、胸の中に、皿に何かが詰まっていく感覚がし始めた。俺のおっぱいがブルブル小刻みに震え始め、次第にその周期が短くなっていく。そして……

《バイィン!!!!》

乳房が爆発するように拡大し、2倍の大きさまでひとっ飛びした。どゆんどゆんと揺れるそのZカップでも足りないくらいの大きさの双つの肌色の球は、人間の乳とは到底思えないほど大きい。

そこで、体の中が安定し、変身が終わった。俺は、冴えない男子高生から、超乳を持つ牛乳女になっていた。クラス中の人間が、いきなり変身した俺を驚きの目で見ている。

「あなた、その胸……」唐突に、委員長が俺の旨をペタッと触った。その腕でも隠し切れないだろうほどの乳房に、委員長の手はかなり小さく見えた。

「恥ずかしいです……っ」そんなに色気を出す気はなかったが、自分でもドキッとするような甘い声が出てしまった。俺は、いったいどんな女になってしまったのか。この胸でもまんざらでない俺は、どこか頭のネジが飛んでしまっているのだろう。

「あ、ご、ごめんなさい……と、とりあえず私のジャージ貸してあげるから、ほ、ほ、保健室に、い、行って来なさい」

委員長の声がかなり震えている。それでも俺に助け舟を出してくれるのは、さすが委員長といったところか。って、そんな冷静な分析してる場合じゃなかった。周りに見られている。でも、そこまで問題じゃない気が……

「ほ、ほ、ほら、ジャージ!着なさい!」委員長がジャージを差し出してくれる。この肉体美をジャージの中に詰め込んでしまうなんて、もったいない。そんなこと絶対おかしいのに。

って、俺は露出狂かよ!?

一瞬、気が触れていたようだ。変身のショックで、思考回路がパンクしていたんだろう。さっさとジャージを来て、この場から立ち去らなければ。

「って、すごくきつい」胸のサイズが特に合っていない。襟からもはみ出て、今にもジッパーが飛んでしまいそうだ。乳首の形も服の表面に浮き出てしまっている。

「うるさいわね!……よかったじゃない、憧れのおっぱいが手に入って」委員長に、意地悪を言うくらいの余裕が出てきたようだ。俺は言われるがままに、保健室へと向かった。

「あなた、本当に男?」事情を説明した後に、保健室の女性校医に言われた一言目がこれだ。

「ええ、間違いなく……今日の朝まで、男でした」こんなことを、誰がどう見ても女の生徒に、しかも証拠のために出した学生証に写っている顔と共通点が何もない間抜けじみた爆乳女子生徒に言われても、誰も信じないだろう。

「そうなの……じゃあ、試しにこれを飲んでみて」

信じられないことに、俺が男だと信じられた。なんてことだ。それに校医は、俺に白い錠剤を渡した。俺の女性化の原因に、心当たりがあるっていうのか?

「ほら、水」
「あ、はい」

ゴクリ。錠剤が喉を通り抜けていった。と、体がぽぉっと熱を帯び始め、胸が縮み始めたかと思うと、数秒で俺は元の姿に戻った。

「ふーん、やっぱりあいつがやったのね」校医は俺の変化をて、うん、と何かに確信を持ったようだ。

「あいつって?」「私の兄よ」

世界って狭いなー。俺を女にした男が、校医の兄だなんて。そんな馬鹿げた話があるか。

「とりあえず、あいつの処置を受けた以上、元に戻る術はないわ。私がケアしてあげるから、大人しく女の子になることね」

どうやら俺は、後戻りできないらしい。ハァ……と、ため息をつくしかなかった。

侵食するカラダ

『簡単に性転換できるところがある』

そう聞いた俺は、興味本位で練馬区の「診療所」に向かった。西武線の駅に近いそこは、着いてみるとただの賃貸アパートのような建物、というより本当にアパートだ。思っていたとおりガセかと思ったが、入口の一つに「性転換はこちら」というシュール極まりない案内の紙が貼り付けてある。

「さて、どんな釣りなんだ?」ドアの取っ手を握ろうとしたとき、女子高生が中から出てきた。内気そうなその子は俺のことに気づくと、小さな声でささやきかけてきた。

「本当に女の子になっちゃうから、気をつけてね」

俺はあっけに取られた。こういうことを言うってことは、こいつは元々男だってことか?確かに、きている服はチェック柄のワイシャツにジーパンと、典型的なオタクと一緒だ。しかもサイズが全然合わず、『私は元オタクの男です』とその姿だけで俺に主張しているようだった。

しかし、そんなこと、男が女になるなんてこと、実際に起きるわけがない。俺は気を取り直し、女子高生を鼻であしらった。「フンッ、こけおどしだろ?」

その言葉を聞いた彼女は、明らかに不満そうに俺を睨んだ。「そう、それならそれでいい……」独り言のように呟くと、そいつは踵を返し、駅の方に去って行った。

俺に女性化願望がないわけじゃない。でも、それは単に異性の体でしかできない体験をしてみたい、レベルの願望で、別に男のままでも問題はないのだ。それでも、その弱い願望が俺にここまで足を運ばせたのだ。俺は意を決して、アパートの扉を開いた。

「いらっしゃい、我が診療所へ」すぐに、柔らかく優しい、いわば紳士的な男の声に迎えられた。不気味といえば不気味だが、俺は包み込んでくるようなその声に、自然と答えを返す。

「あの……女になれるって聞いてきたんですけど」

少しの沈黙。なんか恥ずかしくなってきた。人の前で女になりたいと言ったことなんて、初めてなのだ。だが、玄関先に白衣をきた背の高い中年の男性が微笑みながら出てきて、見当違いのことを言ったのではないと、ホッとすることができた。

「その通り。さあ、奥へいらっしゃい。順番待ちになるけど、それでもいいかな?」

順番待ち?そんなにここは有名なのか?と中へ入ると、トイレらしき小部屋につながるドアがついた広めの和室に、敷布団が何枚か敷かれ、合宿所のようになっている。だが、何よりも俺の目を引きつけたのは、壁際に貼り付けられたようにおかれている装置だ。小さめの冷蔵庫くらいの大きさのそれには、真ん中に操作盤らしきタッチパネルが取り付けられ、その他は電源ボタンと、タッチパネルの上にカメラのレンズのようなものがついている。そのレンズは何かを撮るのではなく、逆にそこを覗き込む構造になっているようだ。

「お待たせ。それで、どういう女の子になりたいのかな?」

その言葉は、俺ではなく、すでに装置の前に置かれた丸いすに座った男に掛けられていた。男、といっても、服を脱ぎ、さらけだされた上半身はかなり丸っこい。女性ホルモンでもやっているのかと思うくらい、印象が柔らかいのだ。それだけに、男が発した声には腰が抜けそうなほど驚いた。

「声が高い、小柄な子になりたいです」その声は、信じられないほど低かった。それに、よくみてみると腕からは大量の毛が生えている。体の大きさも俺とそんなに変わらない。やっぱり、れっきとした男だった。

「それでは……」白衣の男は操作盤をぽちぽちとタッチして操作し、男にそれを見せた。「これでいいかな?」

先生が、男に聞くと、男はコクリとうなずいた。すると今度は先生は俺を見た。「じゃあ、あとに入ってきた君、少し外で待っていてくれないか?」

「え?」なぜ、俺を追い出さなければならないんだろうか?やっぱり、ガセネタなんだろうか?そういう考えがすぐに出てくるのは、この装置が女性化するのにはあまりにもちゃっちく見えていたからに違いない。

俺はよほど怪訝そうな顔をしたんだろう。先生はニコッと微笑んで、「心配ない。この装置が出す光が、処置する人以外には少し有害なんだ。なに、数分で呼びに行くから」と優しく言った。そんな言葉くらいでは、これがホンモノだと納得することはない。だけど、俺は結局その場を離れ、アパートの外で待つことにした。

冬も近づき、肌寒い。つい最近まで聞いていた虫の声も、すっかり鳴りを潜め、大通りから遠いこともあって、風の音しかしない。やることもない俺はスマホを取り出し、友達とメッセージを投げ合う。その間、アパートから誰も出てくることはなく、近くを軽トラが走っていくことくらいしか、俺の周りに人がいることを感じさせることが起きなかった。

そういう状態になると、いろいろ自然と考えてしまうのだが、今自分が面白半分でやろうとしていることが、どれだけの影響をこれからの人生に及ぼすのか、それが気になった。女になれば、人生が変わるんだろうか?これまで、普通の男……学園祭で女装は一回だけしたことがあるけれど……ただの男として生きてきたし、将来の設計もそれが続く前提で行ってきたのだ。女性になればそれが根底から崩れることになる。

じゃあ、なんで俺がこんな話に乗って、時間を書けてここまで来たのかというと、今の人生がつまらない、という一言に尽きるだろう。要は、人生の転機が欲しいのだ。顔はあまりぱっとせず、勉強があまりできるわけでもない。このままだと、あとすこししか残っていない学生生活も、華がなく終わってしまう。何か大きなことを自分でするのには時間がなさすぎる。そこに、この話が転がり込んできたのだ。

ただ、そこまでして、本当に大丈夫だろうか?

「あのー?」俺の考えは、少女の高い声によって途切れた。

「うおっ!?」あまりに急だったから、大きな声をだしてびっくりしてしまった。その子は、アパートの扉の影から俺のことをじっと見ていた。結構小さい子だが、その様相に幼さは感じられない。こんな女の子が、俺に何の用……って、ちょっと待てよ?

「まさか、椅子に座ってた……」俺が聞くと、その子は顔いっぱいの笑顔を俺に見せた。

「そうですよ!ボク、女の子になったんです!」

頭にガッツーンと打撃を食らったような衝撃。手術は、本当にホンモノなのか?さっきまで、それがホンモノであるということ前提の思考をしていたはずなのに、その事実に、茫然自失としてしまう。

「どうしたんです?ほら、あなたの番ですよ!」

それに構わず、女の子は俺を部屋の中に引き入れ、自分は外に出て、お辞儀をした。

「あなたも、『望んだ姿』になれるといいですね!」

そしてそのまま、扉を閉めた。

『望んだ姿』。

俺、どんな女の子になりたいんだ?そもそも、本当に女になってしまっていいのか?

いや、待て待て、俺。考えろ。どうせ、部屋の中にもともとあの子はいたんだ。男が変身したように見せかけるために、俺を追い出して、入れ替わったんだ。そうさ。そうに決まっている。……いや、もしそうなら、なんで俺のためにそんなトリックを……

「……どうしたのかね?」

突然、背後から先生の声がした。俺はビクッとして、振り返る。そこには、大柄で、俺を包み込むようなオーラの、男が、いた。いや、どうみても先生だが。

「なんでも、ないです」なんとか、言葉をひねり出すと、先生は相変わらずの微笑を浮かべる。「そうか。では、君の番だ。上の服を脱いで、装置の前の椅子に座ってくれたまえ」

言われたとおりに、先生に続いて、部屋に入り椅子に座ると、俺の目の前に立った。

「この装置の説明をさせてもらおう」先生は唐突に説明を始めた。「この装置は、君の細胞すべてのDNAを不安定にさせた上で、書き換えるものだ」

DNA。デオキシリボ核酸。細胞核の中にあって、細胞分裂の際に、細胞の雛形になるものだ。つまるところ俺の設計図、というわけだ。というのを、最近勉強した。それを書き換えるということは、やっぱり俺の体は今のままではすまないだろう。

「まあそれだけでは体の形が変わることはないから、成長ホルモンや女性ホルモンを分泌するよう、脳に司令する機能もある。画期的だが、医療界には完全に認められていない」

「え……」俺は、違法手術を受けようとしているのか!?というより、今聞いた機能は、こんな単純な機械じゃ、到底出来ないような芸当である気もする。それに、本当の性転換手術は、メスやらなんやらちゃんと使う外科手術であるというイメージがある。

「ふふ、驚いたかね?だがね、これまで失敗したことは、一回もない。千人以上の男子を、女子に変えてきて、一人も失敗したことはないのだから、君が最初の失敗例になるなんていうことは、ほとんどあり得ない。さて聞こう。君はどんな女性になりたいのかな?」

先生の目が、俺の目を凝視する。不思議な輝きを持つその目から、何かが入ってくるような気がするくらい、まじまじと見られている。どんな女性になりたいか、だって?

「お、俺は……胸がとんでもなくでかくて、金髪ロングで、でも背は今より少し低くて……」俺は、俺の好みをつらつらと言葉にすることにした。先生はフムフムとうなずきながら、メモを取る。「足も綺麗で尻も出てて、でもウエストはキュッと絞まってる、そんな女の子になりたい……」

「それだと、周りから浮くことになるが……金髪は高校じゃもう廃れてるだろう?」先生の言葉が、グサッと刺さる。現実的なアドバイスであっただけに、相手が本気なのが完全に分かったからだ。「だから、黒髪の方がいいと思うがね」

先生は、微笑んだままだ。俺は無理な注文を言って、ボロを出させるつもりだったが、その気配は一向に感じられない。

「分かりました……」俺は、最後の手段にでた。「それで、料金の方は……?」もしこれが詐欺なら、カネのことを聞けば、ウン万と言ってきて、俺の払えるギリギリを狙ってくるに違いない。

だが、その思惑は外れた。

「160円だ」

160円。それなら財布に……って、ペットボトルジュース一本分と一緒だぞ!?そんな安価で、こんな大掛かりなことできるか!?逆に疑わしいぞ!

「あの……」しかし、そのことを指摘しようとした俺は、先生の瞳を見て、言葉を出す気をなくした。別に、熱意に感動したとか、あまりの存在感に恐怖したとかでもない。単に、言葉が出なくなったのだ。

「なんだね?」

「いえ……」素直に、財布から百円一枚と五十円一枚、それに十円一枚を取り出し、差し出された先生の手に渡した。

「ふふ、本当は無料なんだがね……君は私のことを疑い過ぎだ。これくらい受け取っておかないと、信用してくれないだろう?さあ、いよいよ始めようじゃないか」

先生は、操作盤をポチポチと操作する。よく見ると、スリーサイズが120-65-90、身長が150cmに設定されている。しかし、分かったのはこれだけで、後はよく分からない番号や記号が並べられて表示されている。

「よし、設定完了だ。レンズを覗き込んでくれ」

俺は、指示通りにする。レンズの向こうは、真っ暗だ。

「では、開始!」

《ピカッ!!》

レンズの中から、目が潰れそうなほどの光が、俺を襲った。その瞬間、全身が激しく振動するような、強烈な感覚に襲われる。

「うぉぉおぉっ!!!」
《ボコボコボコボコッッ!!!》

肌を見ると、そこらじゅうが膨れたり凹んだりを繰り返し、腕の毛を見ると、肌の中に引きずり込まれるように、短くなっていく。そして、指先から手のひら、腕へと、肌の色が抜けていく。まるで、俺の腕が何かに置き換えられていくかのようだ。

《ドクンドクンドクンドクン!!!!》

心臓も痛いほどに大きく、そして速く鼓動し、全身を血液が駆け巡っているのが感じられる。不定型になっている俺の体は、大胸筋がとんでもなく大きくなったかと思えば姿を消したり、腹筋が割れるほど発達したかと思えば、脂肪だらけの膨らんだ腹になったり、一体何になるのか分からなくなっているほどに、変形に変形を重ねていく。

「そろそろ、完全に元の形を失った頃だ。これから理想の形に近づいていくぞ」

これまで変化のなかった、胸板についている2つのポッチが、ブクッと膨らんだ。と同時に、体中から左胸に何かがジュルジュルと流れていき、皮膚を水風船のように無理矢理に押し上げる。最初、リンゴサイズまでゆっくり膨らんだそれは、次には鼓動に合わせてブクッブクッと膨らむ。衝撃に耐えながら手で触ってみると、手の方は皮膚の中で何かがジュクジュクと出来上がっていく感触が伝わり、胸の方は何かに圧迫される感じがある。左胸の方も、右胸に遅れながら着実に膨らんでいく。

《ブルンッ!ブルンッ!》

膨らむごとに揺れるそれは、俺の目から下半身を隠していく。その有様に気を取られていたようで、髪はいつの間にか伸び、俺の視界の中に入ってきた。

「これが、俺の……髪……?」髪を手の上に乗せると、サラサラと滑り落ちていく。その手も、筋肉がすっかり落ち、スベスベとした細いものに変わっている。

《ガキッ!!》

「うっ……」肩の方まで目を写したとき、肩甲骨のサイズが一挙に変わり、肩幅が一回り小さくなった。その肩を撫でて、変化を体感していると、今度は尻のほうが熱くなってきた。

《ゴキゴキゴキッ……ビキキッ!!》

腰を触った途端、骨盤の形が変わり始め、大きく広くなっていく。メロンほどになった胸のせいで前からは目で確認できず、体を捻って何とか目視すると、ズボンが広げられている。次に、胸と同じように尻に何かが流れ込む感覚が伝わってくると、ズボンはさらにパンパンになり、丸い膨らみの形が外に押し出されていた。逆に、ウエストはギュッと絞られていく。

「んんっ……!!」俺の声も、2オクターブくらい高くなり、完全に女性のものだが、それよりも、股間から何かが吸い出されている。とっさに股をおさえると、これまで大切に育ててきたものが、体の中に引っ込んでいく。そして、下腹部に何かができあがっていく。女性にしかない器官、子宮だろう。これで、俺は晴れて子供を身ごもれる体になったわけだ。全然うれしくないが。

ズボンの上から、脚を触ると、ほどよく筋肉は付いているが、柔らかくムチムチとしたものになっている。

「終わったみたいだね」先生に言われて、椅子を立つ。そして鏡を見ると、思い浮かべた通りの理想の女の子が前にいた。モチモチとした胸を手に乗せてみると、ムギュッと歪んで、目からも手からも柔らかさがいやというほど伝わってくる。

「どうかね?」

「すごい……です」はっきりいって、めちゃくちゃ可愛い。鏡の前でポーズをとりまくったあと、俺は、とりあえず帰ることにした。

服を着ようとすると、胸の先端が擦れて、経験したことのない刺激で気がおかしくなりそうだったが、何とかこらえた。それにしても、ジャケットを着た時点で、胸の膨らみが大きく前に押し出されてしまい、服がパンパンになって、恥ずかしい格好になった。

「今日は、ありがとうございました」「お元気で」

先生と挨拶を交わし、診療所を後にした俺だった。

環境呼応症候群 リツイートの子

「今日のネタツイートも反応ないなぁ……」

パソコンの画面をまじまじと見つめる少女がいた。

「フォロワーの数もだいぶ増えてきたのに、なんでかなぁ……」

目を落とし、ぺったんこの胸を触る少女、円谷 律(つぶらや りつ)のその行動は、一見脈絡のないものに思える。しかし、彼女がわずらっているメタモルフォーゼ症候群のことを考えると、SNSサイトでの自分の投稿があまり拡散されないことと、彼女の小学生のような体型が関連づけられる。つまり、彼女の場合、投稿がどれだけシェアされるかで、身体の大きさが変わるのだ。

「ああん、もう!」ショートヘアに、前髪に髪留めを2つ並べて付けたその頭を、引っ掻き回す。「どうしてよ!」

少女は、パソコンの画面の左上に貼りつけられた写真を睨む。そこには、前途有望なスタイルをした中学生が映っている。何を隠そう、この中学生こそが律なのだ。発症前の彼女は、今よりも頭一つ大きく、Bカップのバストを持つ普通の女子中学生だった。それがある日、突然ピリッと電流が走ったかと思うと身体が小さくなり始め、それ以降少し成長したり若返ったりを繰り返し、2ヶ月くらい前にやっと症状が何に依っているかが分かったばかりだ。

元々得意だった絵の技術を磨いて人気が取れるイラストを描き、拡散されやすい投稿はどういうものか研究し、とにかく自分の身体が元に戻るように努力を惜しまなかったが、今のところ効果は見られず、彼女は小さいまま学校での不便な生活を強いられていた。

パソコンの電源を付けたまま、律は布団に飛び込んだ。「もう、どうしろっていうのよ!!」考えても考えても、これ以上の方策が思いつかなかった。何もかも考えたつもりでいた彼女は、自分の症状に気づいている者が律自身だけではない可能性にまでは考えが及んでいなかった。

次の日。いつものようにブカブカの昔の制服を着て登校し、自分の席についた律。ぼーっとしながらケータイを眺めていると、彼女の机の前に、発症する前からずっと想いつづけていた男子生徒が近づいてきた。

その少年は、ぎょっとした律をまじまじと見た。「え、なに……?」律はなにが起こっているかわからず、男子に尋ねる。彼の名前は日下部 太一(くさかべ たいち)。サッカー部のエースである太一は、律に限らず多くの女子生徒に好意を持たれている。鍛え上げられた恰幅のいい身体は、律の小さなそれとは対照的ですらある。

「あ、あの……」律は、ずっと自分を恥ずかしくなるほどじっと見つめている太一に、もう一度声をかけた。すると、やっと気づいたのか、太一はなぜか震えた声を出した。

「円谷、だっけ……メタモルフォーゼ症候群の……」

律は、話したこともなかった太一に自分の名前を覚えられていることにドキッとした。なにしろ、律はこれまで教室の端から彼に見とれていることしか出来なかった。それくらいは、クラスの女子の誰もがやっていたことであって、律が特別視されるほどのことでもない。

「なんで、私の名前を……」律は、なおもじっと自分を注視している太一に問いかける。そのときだった。

《ブーッ》

「んっ……」ケータイのバイブが作動すると同時に、律の体にトクンッと小さくも普通とは違う鼓動が響いた。律は、そのバイブが、自分の投稿がシェアされた通知であることに気づいて、自分の手をじっと見た。案の定、手指が合わせて5mmくらい伸び、それで終わる……はずだった。

《ブーッ……ブーッブッブブブブブブ》

手から目を離した途端、ケータイのバイブが、ものすごい早さで繰り返され始めたのだ。

「え、何っ!?」律がケータイをポケットから取り出すと、通知欄がすさまじいスピードでスクロールされ、10回、20回、いや30回と、シェアが非常に早いペースで何回も行われていることを示した。

「ちょ、ちょっと待って……ってことは」

《ドクンッ!!》

これまでないほどに強い衝撃が、律の体を襲った。「ひゃうん!」

《ニョキッ!!》

律の奇声とともに、右腕が伸びた。長さが一気に2倍くらいになって、袖口から飛びだしてきたようにも見えた。左腕もピクッ、ピクピクッと震えたと思うと、バァン!と伸び、右腕と同じ長さになった。

「や、やっぱり、円谷って……」「あ、あぁああっ!!」太一の言葉を遮るように律が叫ぶ。

《ムギュギュギュッ!!》

と、そのスカートから伸びる脚が形をゆがませる。「噂通りだ……」太一は、その脚を机をどけて確認しようとするが、律は恥ずかしさから伸びた腕で隠そうとする。その間にも脚は伸長をはじめ、最初は地についていなかったのが、地面に押し付けられるように成長する。

「円谷、元の姿に戻るんだな」「たいち、くん……なんで、わたし、のこと……」上半身の成長と共に、律の目線がクックッと上がり、太一のそれに近づいて行く。「オレ、実は円谷のこと気になってたんだ……だが見ろ、あんなに小さくなってしまって……告白しづらくなってたんだよ」

変身を終えたらしい律の体は中学生の平均的なものに戻っていた。ブカブカだった制服はちょうど良くなり、突然の憧れの人からの告白にドキドキする心臓の動きが、制服の上からも分かった。「太一くん、そうだったの?本当に?」

信じられないという顔をしている律に、太一は顔を赤らめながら頷いた。律は、喜びのあまり席から跳ぶように立ち上がり、太一に抱きついた。「ちょ、ちょっと円谷……」「太一くん!私も、ずっと、あなたのこと……っ!!??」彼女の返答は、途中で止まってしまった。

《ブブブブブブブーッ!》

スカートの中にいれていたスマホが、再び狂ったようにバイブを作動させはじめたのだ。彼女の投稿が、さらにシェアされている……つまり、律がさらに成長することを示唆していた。

「う、うそ……でも、私、元に戻ったから、もうこれ以上は……ひゃああっ!!」

《ムクムクッ!ムギュッ!》

ぴったりになった制服の胸の部分が、今度は異常なまでに盛り上がった。襟口から、むぎゅ、むぎゅ、と脈動しながらおっぱいがこぼれ出してきて、左右に引っ張られた服には先端の突起の形も含めてくっきりと律の成長して行く乳房の形が浮き上がっていた。Dカップだったそれは今やメロンサイズで、それでもなお膨張をやめようとしない。

「私、もっと、大きくなっちゃうぅ!」

体の成長からくる慣れない感覚に、体をのけぞらせる律。そのせいで、巨大化し続ける胸の膨らみがさらに強調され、胸は上に向かって、ブルン、ブルンン!!と突き上げるように成長する形になっている。それを支える体の方も大きくなり、最初は140cmもなかった身長が、1回目の成長で160cmになったのもつかの間、もう170cmに達しようとしている。

膨れ上がる律の体を包んでいる制服にも限界が近づいているようで、律の頭が軽く入る程度になった乳房が、服の上からも下からもはみ出し、縫い目がブチブチとほつれていく。

足もムチムチと成熟し、ソックスが太ももに食い込んでその柔らかさを強調していた。

《ムギュッムギュッ!》

「ひゃんっ」尻は胸と同じく、周期的に体積を増し、パンティが引きちぎれる音がスカートの中から聞こえてくる。

「ん、んんっ……」「す、すごい……」太一の目の前にいる少女は、この10分にも満たない時間の間に、幼い少女からグラビアアイドルも顔負けの長身爆乳女性に育ち上がっていた。最初は、座っていたせいもあるが、見下ろす状態だったのが、今は自分より頭一つ大きく、激しい変化を見せつけられた少年は、大きな興奮を覚えていた。

「太一、くん……」幼さがすっかり抜け、色気すら感じさせる声で尋ねる律。「教えて、なんで、私の病気のこと、知ってるの?」

だが、太一の方は放心状態で、応答するのに少しかかった。「病気のこと?あ、いや、俺も今日聞かされたんだよ。円谷のこと観察していたやつがいてな。一週間くらいで気づいたらしい」

たどたどしい言葉だったが、律は何とか理解した。どうやら、毎日変わる律の体の大きさと、SNS上での律のシェアのされ具合を両方とも観察していた者がいるらしい。律はそこでハッとした。その人物が、知り合い全員、いや学年全員、いや、学校全員に投稿をシェアをするように仕向けたら……

「ところでさ、円谷……」鼻息が荒い太一が、しどろもどろに言葉を発した。「その……おっぱい触ってもいいか……?」

初めて話す女子に聞くことでは到底ないその質問への答えはしかし、与えられることはなかった。スマホが、これでもかとばかりにバイブを作動させていた。律は、再び自分を襲い始めた体が爆発しそうになる感覚に耐え、SNSアプリを起動し、通知欄を見た。

「嘘……でしょ?」

思ったとおり、シェアの数がうなぎのぼりになっていたが、その数は全校生徒の5分の1にも満たなかったのだ。

「これでこんなに大きくなるの……?そんな、私、どこまでおおきく……」スマホの振動とともに、体の中にバネのように溜め込まれていく力を感じる律。胸を触ると、細かく震えながら段々と張り詰めていく。制服は、強くなって行く胸の弾力にギチギチと悲鳴をあげ、生地自体が引きちぎられて肌色が露出しはじめた。そして……

《ドクンッ!!!!》

「ひゃああっ!!」強い心臓の拍動のような衝撃とともに、ついに成長が再開される。溜まっていた力が解放され、律の体はグワッ!グワワッ!と押し広げられる。

《バインッ!ボワンッ!》

胸も爆発するように何回も膨張し、制服はたまらず破れてしまった。

「いやんっ!」制服から拘束を解かれ、ブルンッ!と外に飛び出したそれは、一つ一つに赤ん坊が入りそうなほど巨大で、それでもまだまだ大きくなり続けている。スカートも腰の部分から破れ落ちてしまったが、律はデリケートゾーンを何とか隠した。胸は不釣り合いに大きくなっているものの、背も190cm、210cmとグイグイと伸び、そしてついに……

《ゴシャッ》

「あいたっ!」天井に頭がついてしまった。その頃には、たゆんたゆんと揺れる二つの果実はバランスボールくらいになり、元の小さい律が入ってしまいそうだった。

「これじゃ、教室に潰されちゃうっ!」律は、成長をやめない体がつっかえてしまわないように、前に両手をついて屈んだ。

「あっ……」

後先考えずに行ったその行動で、太一は巨大な乳房の下敷きになっていた。「重い、重いっ!」「太一くん!」律は急いで胸をどかそうとするが、太一の様子がおかしい。

「幸せ……」自分の体を包み込む柔らかさに堕ちてしまっているのだ。そんな太一をよそに、律は更なる成長を遂げようとしていた。

《ピクピクッ……ドワァン!!!!》

右胸が細かく揺れると、一気に二十、三十倍の大きさへと拡大し、周りにあった机や椅子や生徒を吹き飛ばした。衝撃波で、教室の窓という窓が割れ、黒板にヒビが入った。

《ムギュギュ……ドォンッッ!!!!!!》

左胸も、ゆっくり拡大を開始したかと思いきや、右よりも強い勢いで爆発し、教室の半分が律の胸でうめつくされていた。

《ドックン!!ドックン!!》

今や、胸の脈動は教室全体を振動させるほどに強くなり、鉄筋コンクリートの建物を崩壊させようとしている。教室の床に横たわる二つの大きな肌色の塊は、天井や床のタイルをえぐり取りながら侵食を続け、その度にドユンッ!!と振動する。律は、自分の乳房に寄りかかりながら必死で止めようとした。

「も、もう大きくなるのはいやぁ!」

結局、教室の全部が埋め尽くされるまで成長は続き、窓からはみ出したり、床と天井が乳房の弾力で大きく歪むほどに、律、いや、律の胸は成長したのだった。

それから幾日か経った後。

「太一くぅん!」
「お、律か。おはよう」

太一に手を振りながら駆け寄って行く律の体は、大きかった。中学生にしては大きすぎる170cmの体から突き出ている、Iカップくらいの胸の膨らみが暴力的に振動する。

なぜ律が成長したままになったかというと、校内全体に律の病気の特性がばれてからというもの、つまらない投稿でもシェアする生徒が激増したのだ。それでも、際限のないシェアはされず、律は常識的なサイズで、といってもかなり大きい方だが、生活することができていた。

「私、こんな写真撮っちゃったの」
「どれどれ……?ブフゥッ!」律から手渡されたスマホを見て、太一は吹き出してしまった。今の体のサイズで撮った、律のヌード写真だった。胸のサイズを強調するようなポーズを取り、その質感が伝わってくるかのようだ。

「ど、どうかな……?」律がはずかしそうに聞く。「つい嬉しくって、撮ってみたんだけど」「とうこう……してやる」

「え?」太一にあまりに小さい声で反応され、律は聞き取ることが出来なかった。

「もっと、大きくなってもらう!」太一は、素早くスマホを操作し、写真をSNSに載せてしまったのだ。

「えっ……」律は一瞬困惑したが、すぐに笑顔になった。「そうだよね、太一くんも、おっぱい好きだもんね」

律は自分でボタンを外し、外に飛び出し、膨らみ始めた乳房を太一に見せつけた。

「私で、いっぱい、楽しんでね!」