感染エボリューション 7話

美優の目が覚めると、外は真っ暗になっていた。蛍光灯の明かりが煌々と室内を照らしている。

「あたし、どれくらい寝てたんだろ…ん?」

足にぽよぽよと柔らかいものが触れているのに気づいてそちらを見ると、伍樹がすやすやとベッドに寄りかかって寝ていた。そのよく育った胸が、体にかけられた布団の上からあたっていたのだ。

「伍樹くん…看病してくれてたのかな…でも…」

美優は自分よりも重い体に押さえられ、動くことが出来ない。仕方なく、伍樹の肩をポンポンと叩いて起こそうとする。

「伍樹くん、伍樹くん!起きて!」
「あ…美優ちゃん…」

すぐに目を覚ます。寝ぼけた顔は女の美優でも心を動かされそうなきれいなものだ。美優は多少顔が熱くなるのを感じたが、気にとめないことにした。

「おはようございます、伍樹…」
「あれ!もうこんな暗くなったのか!?」
「伍樹くん!?」

美優の言葉に被るように伍樹が叫ぶ。そして慌て始めたのを何とか美優が抑えようとする。

「やばいって早く帰らないと補導されちまう!」

まるで経験者のようである。あるいは本当に経験済みなのかもしれない。

「あの、ちょ…」
「え!何で俺下ジャージなんだ!!まあいいか!」

自分の鞄を探しているのかあたりを見回している。振り向く度胸がブルンブルンと揺れた。

「えっと、あ…」
「何か胸が重い!ってなんだこのおっぱい!!」

胸を鷲掴みにして叫ぶ。さも女性化したのを初めて知ったかのように。

「おちついて!!」
「え…!」

美優の言葉にやっと気がついた。多少息が整っていない伍樹は、更に取り乱した。長めの髪をどうにかこうにか整えたり、シャツを入れたりしつつ、落ち着かない。

「み、美優ちゃん…!ごめん、こんなに遅くまで学校いるの久しぶりでさ、俺!わけわからないことばっかだし!」

憧れの相手の滑稽な姿を見て、思わず美優は吹き出してしまった。

「あはは!伍樹くんって、思ったより面白い人なんだね」
「えっ!?」
「いいの。じゃあ帰ろ?」

体面を保てずショックを受けてたたずむ伍樹をよそに、帰り支度を始める美優。変身で服がただの布切れになっていた美優は保健室の白衣を拝借することにした。美優の小さな体にはおあつらえ向きの、膝まで隠れるほどの長さのものだ。一つ一つボタンを締めていく。

「下がスースーするけど、仕方ないよね」
「あ、あの、美優ちゃん」
「何?」
「なんで俺の前で隠れないで着替えたの?俺男だけど」
「あっ…」

美優の中に理不尽な怒りと恥ずかしさが一気にこみ上げてきた。俯いてもそれは止まらない。

「美優ちゃん?」

下を向いた美優に尋ねてくる伍樹の声で、それは爆発した。

「伍樹くんの…」
「えっ?」
「馬鹿!!」

パシーン!!という痛みに満ちた音が部屋中に響く。

「ほげっ!」
「変態!マヌケ!」
「うぎゅ!ふにょ!」

往復ビンタを受け伍樹は床に倒れた。

「気にしてなかったのに伍樹くんがいったせいで!恥ずかしい!」
「そんな…」
「もう!さっさと帰りましょ!」


学校から出て、通勤ラッシュも峠を越えた駅前に着いても、美優は不機嫌なままだった。足早に歩く彼女の数歩後ろを、伍樹が追いかける。美優は微妙な罪悪感を感じ、居心地が悪かった。それで、今日のところはさっさと別れようとした。

「ねえ、伍樹くんはどこまでついてくるの?電車通学なんでしょ?」
「それは…」
「じゃあ、ここでお別れだよね。さよなら」
「待って!」

伍樹を背に家路を急ごうとする美優だが、肩を掴まれて振り返る。

「何?」
「あの、その、美優ちゃんのことが心配で…そんな格好で夜の道を一人は危ないよ」

美優は伍樹の可愛らしい顔の奥に親切心と、それとは別の何かを感じ取った。美優をじっと見つめる瞳に、また顔が熱くなった。

「そ、それなら…でも」
「でも?」
「正直、伍樹くんの方がよっぽど危ないよ…?」

美優はぽんっと伍樹の柔らかくシャツを押し上げている胸を叩いた。当たりどころがいいのか悪いのか、嬌声を上げる伍樹。

「あうっ!」

その声で、周りの人々の視線が一瞬美優たちの方を向いた。ほとんどはすぐに散っていったが、いくつかはしつこく残っている。

「ね、だから…はや…」
ドクンッ!!
「くぅっ!」

しかし次に嬌声を上げたのは美優の方だった。あの衝撃がまた体に走り始めていたのだ。

「美優ちゃん!?」
「何で、またっ!?」

保健室で抗体を飲み、ウィルスは駆逐していたはずだった。それなのに、またもや美優の体は変化しようとしていた。顔だけ熱かったのが、ブワッと手足の先まで広がっていく。

「あ、あつい…」
ドクンッ!
「うわぁっ!」

白衣から出ていた脚がグワッと伸び、一気に重心が高くなったせいで、バランスを崩した美優は前に手をついて倒れてしまう。その慣性の力で、というように胸に急激に脂肪がつき、白衣を限界まで引っ張って膨らむ。あまりの大きさに腕の長さを追い越し、タプンと地面についてしまう。

「ひゃっ…冷た…」
ドクンッ!
「あっ!」

その状態から体が脱したがっているかのように、腕がグイッと伸びて、美優の上体が持ち上がる。その視線の先には、何も出来ず戸惑うばかりの伍樹の姿があった。

「伍樹くん…」
ドクンッ!
「んんっ!!」

ただ伸びているだけだった手足にムチッと脂肪がつき、腕は白衣の中を満たし、外に出された脚はふっくらと膨れて、曲線を描き出す。そこで、美優は周りがパニック状態になっているのに気づいた。二人を除いて、ほぼ全員が走り回ったり叫んだりしている。警察を呼ぶ声もある。

「警察?救急車じゃなくって…?」
ドクンッ!
「えあっ!」

美優は自分の顔がグキグキと形を変え、髪が伸びて首にかかるのを感じた。それで熱は引いていき、自分の体を確認することが出来た。

「さっきみたいには、大きくなってないみたい…よかった」
「み、美優ちゃん」
「何?」

見ると、伍樹は自分のほうではなく、自分に歩み寄ってくるコツコツという靴の音の方に目を向け、固まっていた。美優が伍樹と同じ方向に向くと、そこには数人の紺の制服と帽子をまとった人々がいた。

「この人で間違いないでしょうか」
「ああ、間違いない」

その互いに話しかける人々は、どうみてもその土地の警察官だった。

「そこの学生の方、すみませんが」
「なんですか?」

警察官の一人が美優に話しかける。その目は威圧感を体現したかのような眼差しを美優に向けていた。

「任意同行をお願いします」
「え?」
「ほら、取り押さえろ!この子が幽閉対象に違いない!早く!」

社交辞令の優しい声もすぐに消えてしまった。

「や、やめて…あっ!」

弱々しくも逃げ出そうとする美優を、容赦なく二人の警察官が地面に押さえつけ、手錠を付ける。

「同行者もだ!」
「や、やめろ!」

もう二人の警察官は、伍樹を拘束した。それを確認した、最初に話しかけた警官が、今度は暴力的な口調で言葉を発した。

「やっと捕まえたぞ!街を危険にさらすウィルスどもを!」

美優はあまりの突然の出来事を理解できずにいたが、沸き起こってくる悪い予感を否定することだけはできなかった。


数分後、美優がいたのはひとつの部屋の中。2つの椅子が向かい合うように設けられ、ひとつは美優、もう一つは先ほどの警官が座っている。

「あ、あの~うわっ!」

部屋がガタンと揺れる。エンジン音も聞こえる。それは部屋ではなく、特殊な車の荷台に相当する部分だった。

「何だ」
「ちょっとこれ、蒸れるんですけど…」

美優も、着ていた白衣の上に、気密性の防護服のようなものを着せられ、顔に付けられたガスマスクの小さな窓から、警官を覗くしか無かった。しかも体が動かない。手足を固定されていたのだった。

「つべこべ言うな、これ以上ウィルス…だかなんだかを感染させないためだ。俺だってここにいたくないのに」
「じゃあここにいなければいいのに」

強気に出る美優。いつか見たドラマで、警官は容疑者であろうと被告であろうと、傷つけることは許されていないのを知っていたのだ。

「うるさいぞ!護送中は警護してなきゃいけないんだ。そうお達しが出てる」

案の定、警官は手を出してこない。

「お達し?」
「お前には知る必要のないことだ。ああもう、必要以上に刺激するなって言われてるんだから…」

最後の方は小声で美優は聞き取ることが出来なかった。それよりも気になることがあった。

「あの、伍樹くんは…」
「誰だって?あー、あの同行者の…もう一台の装甲車に乗ってるぞ。まったく、どうしてこんな大掛かりなこと…」
「そうこう…しゃ?」

装甲車とは現金を輸送するときに使われる、犯罪組織に襲撃されても多少は耐久できるように、特別に設計された車のことだ。美優にはその知識がなかったが、警官は構わず続けた。

「そうだ。お前らの身柄を引き渡すために、地下鉄の車庫に向かってるんだ」
「身柄を…引き渡す…」

美優は、逃げなければいけない、と反射的に感じ、体がなんとか動かないかとジタバタと暴れ始めた。

「おいおい、そう暴れるなって。あと1分くらいすれば着くんだから」
「1分しかないの!?」
「うむ。まあその華奢な体じゃどんなに頑張っても拘束は外れないさ」
「私の体が小さいから無理…?…じゃあ」

ガスマスクの下で美優は念じた。すると、体が熱くなり、大量の汗が出始めた。全身を激しく貫くような衝撃も、心臓の脈拍と同期して美優の中を走る。

「どうするつもりだ?」
「大きく、なる!」

美優に合わせたサイズの防護服の中で、膨らみ始める体。すぐに全身が満杯になり、伸縮性のいいゴムのお陰で体の輪郭がはっきりと現れる。プチプチと穴が開き始めると、そこから中に溜まっていた汗が吹き出し、車内に飛び出した。

「な、なんだと…!」
「ん、んんっ!!」

ついにその巨大な乳房が防護服をブチブチと破って、肌色の部分が見え始めたと思うと、防護服は引き裂かれ、ブルンッと飛び出た。

「い、いたっ…!あっ…!」

拘束具がその成長とともに破壊され、美優の体は解放されていく。胸から発した防護服の裂け目はどんどん広がり、あらわになっていく。

「んぎゅ…!」

美優は成長するだけでなく、全身が巨大化していた。周りのものがスケールダウンし、最初は背が高かった警官も今は見降ろす形になっている。

「あたっ!」

身長が急激に伸びるせいで、ガツンッと頭を打ってしまうが、それでも成長は止まることはない。ひしゃげた椅子を潰し、四つん這いになる美優で、車内が満たされていく。

「お前、どんどんでかく…!だ、誰か助けてくれ!!」
「逃がさない…!」

車外へ出ていこうとする警官を、両手で押さえる。変身する前は体を使って全力で飛びかかってもムリだったろうが、今は軽々と警官の動きを止めることが出来る。今や、部屋の半分は胸と顔と腕だけで占められ、もう半分は残りの体の部分で埋め尽くされていた。

「う…これじゃ…潰されちゃう…!」

少し残っていた空間も、美優のムチムチとした脂肪が詰まっていく。警官は手から解放された物の胸に押しつぶされそうになっていた。

「た、助けて…」

美優がどう動こうとしても車の壁も天井もびくともしない。万事休す、そう思った時車の扉が開かれた。

「な、これは!抗体の準備早く!」

美優は白衣を着た女性がいるのを見た。そして、彼女は部下らしき、これも白衣の男性に指示して、液体の入った小瓶を出させた。

「さあ、これを飲んで!」

美優は言われるがままに液体を飲み込んだ。

「んっ!ああああっ!!!」

美優の中で爆発が起こる。その爆風は汗となって美優から出て行く。開け放たれた扉から、汗の洪水が流れ落ちていくと同時に、美優は小さく、小さくなり、元の姿に戻っていく。最後にはびしょぬれになった美優と警官が二人、車内に倒れていた。

「う、うう…」
「大丈夫?さあ、研究所に行きましょう。あなたの体を治してあげるわ」
「は、はい…」

朦朧とする意識の中、美優は女性に連れられて外に出た。そこにあったのはたくさんの電車。地下鉄の車庫に、到着していたのだ。女性は、その沢山の電車のうち、窓が少なく、無骨な電車に乗り込み、美優も続いた。美優が入り口をくぐるとそれはすぐに閉められ、電車は動き出した。

感染エボリューション 6話

手を握り合ったまま、二人はしばらくの間見つめあっていた。身長差が1m以上あるせいで、伍樹は美優を見上げ、逆に美優は伍樹をしたに見る形になっていた。

「手を繋いだら、俺の体から何かが出て行った…」
「そしてあたしには…何かが入って来た」
「俺は元通り…小さく」
「あたしは…もっと大きく」

そこに、保健室の扉がガラガラと開かれる音が飛び込んで来た。

「誰!?」
「私だよ、ジャージと抗体、持ってきたよ」

結子は部屋に入って来て、二人を見た。そして少し目を大きく開いて、美優を品定めするように眺める。

「美優ちゃん…だよね?」
「うん…」
「また、大きくなっちゃったんだね」
「そうなんだよ。治ってなかったみたい」

結子は深くため息をついた。

「それで、結子ちゃん」
「なに?伍樹君」
「不思議なことが起こって…結子ちゃんがこんなに大きくなる時点で十分不思議なんだけど、俺と美優ちゃんが手を繋いだら…」
「あたしが大きくなって伍樹くんが小さくなったの」

結子はそれを聞いて、首を傾げた。

「どういうこと?」
「まるで、あたしの中に何かが入り込んで来たみたいな感覚がして、そしたら体がもっと大きくなって…」
「ふーん…それ、ウィルスが移動したってことかな」

美優と伍樹が同時に手をポンと打った。

「そういうことか!」
「え、そこで納得する?普通、思いつかないかな」
「仕方ないでしょ、立て続けに大きくなったり小さくなったりしたんだから、こっちは」
「いや、責めるつもりはないけどね。それよりほら、美優は抗体のもうよ。それ以上大きくなると保健室からでられなくなっちゃうよ」
「うん」

美優は結子から差し出された抗体を受け取り、飲んだ。すると、前と同じように信じられない量の、それこそ美優の縮む量と同じくらいの、汗を出して、美優は元の小さな体に戻った。

「はぁ…ふぅ…これが…ウィルス…なんだね…」

床にできた水たまり、というより保健室の床一杯に溢れる洪水を見ながら美優が言った。ベッドの上に避難した結子は、苦笑いした。

「あはは、こんなに美優の中にウィルスがいたなんてね…正直、信じられないよ」
「だよ…ね…」

熱に精神を疲弊した美優が、息も途切れ途切れに喋る。そのうちにも、汗の海は干上がって行った。

「これで伍樹君以外元通りだね!」
「俺も元通りになりたいんだけど…」

結子は安心した顔を一瞬見せたが、表情が凍った。

「どうしたの?結子」
「ねえ、あの人」
「どの人?」

美優は真顔だ。どうやら昼に会った青年のことをわすれてしまったらしい。結子は頭を抱えた。

「あのねえ…とにかく、感染してるのは伍樹君だけじゃないってこと」
「え?」
「そういえば…望のやつも…」

伍樹も難しい顔に戻る。美優は今だに話について行けず、二人を見ているだけだ。暇をもてあそぶように、手で太ももをすりすりと撫で始めた。

「そう。望君も伍樹君が変身する時、汗を触っちゃったの」
「てことは…」

ちょうどその時、保健室の扉がガラッと開いた。

「どなたですか?」

結子がその扉の方に呼びかける。

「伍樹くぅん…ここにいるんでしょ…?」

聞き覚えの無い、幼いが淫らな口調の声が聞こえてきた。

「まさか…」
「そのまさかよ!」

飛び込んで来たのは体操用のジャージの上着だけ羽織った、今の伍樹と同じような小さな少女だ。そして、ベッドに腰掛けた伍樹に抱きつく。

「伍樹くん…会いたかった…」
「お、おい…」

なにが起こっているか見当がつかない美優は、その少女に尋ねた。

「ねえ、あなた、誰?」
「わたしぃ…?のぞみ、よ」
「のぞみ!?」

大声を上げる伍樹をよそに、さらに混乱した美優。「のぞみ」など聞いたことが無い名前だった。

「ね、ねえ…どうなってるの?」
「気づかないの?美優ちゃん。これ、望君だよ」
「その名前はもう捨てたの!」
「え…望君?名前、捨てた?」

結子と、のぞみと名前を変えた望から同時に話しかけられ、混乱は頂点に達する。結子は美優の両肩に優しく手を置いた。

「美優ちゃん、深呼吸」

美優は胸に手をおいて、深く呼吸した。

「落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、一つ一つ説明するね。まず、伍樹君が教室の中で成長した時、望君は伍樹君の肩に触れてたでしょ?」
「あー、そうだったね」
「それで、望君にもウィルスが感染したの」
「うん」
「で、伍樹君は感染した後、こんなに小さな子になったよね」
「そうだね」
「てことは、同じように感染した望君も…」
「小さな子になるわけだ」
「そう!だからここにいるのは」
「望君」
「正解!」
「やった!」

子供のように喜ぶ美優。結子は再度頭を抱えた。

「美優ちゃん、こんなに子供っぽかったっけ?」
「それよりも…伍樹くん…」
「な、なに…?」

のぞみが伍樹に擦り寄る。外見からすると小学生二人がイチャイチャしているようだ。

「わたし、気づいたの…伍樹くんのこと、ずっと前から好きだったって…」
「へ?」
「わたしも女の子になって、同性愛でもなんでもいいことがようやくわかったの」
「いや、良くないだろ!」

先ほど「俺は同性愛者じゃ無いんだ!」と教室から飛び出して行った望とは、まるで主張が異なっている。伍樹はのぞみの肩をがしっと掴み、前後に揺さぶった。

「目を覚ませ、望!お前はこんなこと言うやつじゃなかったはずだ!」

しかし、のぞみは揺さぶられ終わると、とろんとした目で伍樹の瞳を覗き込む。

「違うの伍樹くん…これが本来のわたしなの」

伍樹の着ているワイシャツのボタンを一個一個外し始める。

「でも、こんな体じゃつまらないでしょ?わたしも、さっきの伍樹くんみたいに大きくなる」
「え…」

伍樹のシャツを脱がせ終わると、自分もジャージを脱ぎ捨てる。結子と美優が見ている前で、のぞみの凹凸の無い綺麗な体があらわになった。のぞみは、自分の胸と伍樹の胸を合わせ、こすり始めた。

「あん…体が…疼いて来たぁ…」
「や…やめ…ろっ!望…!!」
「わたしも、大きくなる…大きく…なるぅ!!」

のぞみが叫ぶと、それは始まった。すり合わされている胸が、脂肪と乳腺が同時に発達し、内側からムクムクと押し広げられる。そして、体の動きに合わせて、上下左右にムニムニと動く。

「ん…いい…この感覚…いいよぉっ!」
「のぞ…む…!!」

その動きを支える下肢も、ググッと長くなり、動き自体が大きくなって行く。しかし、それに釣られるように乳房も大きくなり、動きによってより大きな歪みを発生させて行く。

「わたしの…なまえは…はぁん!!」
「おもいよ…あぁっ」

脊椎が長く太く発達し、上体が伸び、それと時を同じくして太くなる。体重が重くなり、伍樹はベッドの上に押し倒されてしまった。

「のぞ…み…!だって…くぅっ!」

伍樹の上に覆いかぶさる形になったのぞみが、ベッドの上についた腕がグキュッと長くなり、同時に掌もそれに釣り合って成長する。髪も伸び、伍樹の顔の方に垂れ下がる。

「言ってる…でしょおっ!」

全身にムチッと脂肪がつく所につき、それまで胸以外の凹凸に乏しかった見事な曲線美が作り出された。のぞみは、その大きくなった体と二つの潰れた果実で小さな伍樹をベッドの上に拘束した。

「ね…?伍樹くん…?」
「ひ…」

のぞみの口元は緩み、影の中で光っているような瞳のおかげで、その顔はまるで獲物を手に入れたヒョウのようだった。伍樹は震え上がって、動くことができない。

「あなたはもう、わたしのもの…」
「の…のぞ…うっ…!」
「あら?伍樹君も大きくなるの…?」

のぞみの言ったとおり、先ほど小さくなったばかりの伍樹の体の表面がざわざわと波立っていた。

「ち…ちが…俺は…」
「なにが違うの…?体は正直なようだけど」

のぞみの胸を押し上げるように、伍樹の胸板に厚みがで始める。二人の胸はムニィッと横に潰れていく。力なくベッドの上に横たえられている腕も、ムギュムギュと、大人の腕へと成長し、押された手は横へと進んでいく。ベッドの端から垂れている脚は、ムクムクと体積を増加させる。

「ん…ぐっ…」
「わたしに追いついて来たわね…じゃあ…わたしももっと大きくなっちゃおうかな…」

のぞみの肢体も、自分で言った通りに、どんどん大きくなる。伍樹に体重を預けたままの乳房も、プルプルと振動しながら拡大する。

「んはぁっ…!」

伍樹が先ほどの、結子と同じくらいの大きさまで成長した時、のぞみはその二倍の身長と、比べ物にならないほど大きな、呼吸でたゆんたゆんと揺れる双つの乳房を、伍樹の身体の上に乗せていた。伍樹がのしかかられ、動けないことには変わりなかったのだ。

「伍樹くんの体もこんなに大きくなっちゃうなんて…ふふ…これからが楽しみ…」

上半身の体重を胸とその下にいる伍樹に預け、のぞみが、伍樹の顔を愛でる。

「すべすべしたお肌…ああ、なんて素敵なの」

のぞみは狂気の混じった顔に恍惚の表情を浮かべる。

「望…」

対して、伍樹の方に浮かぶのは、絶望と悲哀。

「お前は、俺の親友…のはずなのに…どうして…」
「伍樹くんはわたしのペットよ…伍樹くんがかわいいのがいけないの…」

今度は身体を上から下までスーッと撫でる。

「それに、こんなに魅力的…最高よ」
「…最低だよ…お前がこんなになっちまうなんて…」
「わたしだって…こんなになるとは思っても見なかったわ…でもそれは神様からの祝福…さあ…存分に…二人で…っ?」

言葉が急に途切れる。のぞみは、顔をゆがませ、振り向いた。美優が、その太ももに触れていたからだ。

「なにするのよ、わたしたちの至高の時に、水を差すつもり…?」
「うん、そうだよ。もう、伍樹くんから離れて」

美優はいつになく強い声を出す。その声は、決意に溢れている。

「ふん、美優ちゃんの小さい体じゃ、なにもできないわよ…」
「それは、どうかな」
「なっ…あ…わたしの…体が…!!」

のぞみの体が、縮み始めていた。特に成長の大きかったその胸が、風船から空気が抜けて行くように、内側に引っ込み始める。

「あたしが、全部吸い取る…っ!」

美優は、伍樹の時と同じように、腕から何かが流れてくるのを感じていた。その何かは、体の中に入り込み、美優を内側から外に押し出していく。あっという間に、美優は結子の体型に追いついた。

「やめて!わたしの体を…取らないで!!」

のぞみは喚き立てるが、美優にその体型を奪い取られるかのように、急激にしぼんでいく。美優ののぞみに当てられた手は、その身長差が逆転するのと並行して、太ももから背中、そして肩へとその位置を変える。

「んっ…おっぱい…重い…」

あまりにも大きくなった、もはや球となっている二つの膨らみに、美優が耐えきれずしゃがみ込む。乳房はその脚に乗り、ムニュンと横にゆがんだ。

「いや!いやだ!伍樹くんはわたしのもの!美優ちゃんなんかに、絶対渡さないんだから!!」

中学生の大きさまで縮んだのぞみが、伍樹にしがみつく。伍樹はその頭を撫でた。

「大丈夫、だけど俺とお前は親友、それ以上にはなれないんだ」
「伍樹…くん…」

美優に吸い尽くされ、伍樹は幼稚園児、最後には2歳ほどまで小さくなった。

「ごめん…わたし…どうにかしてた…」

舌足らずの言葉を紡ぎ出すのぞみ。伍樹は母性溢れる女性の体で、優しく抱きしめる。

「だけど、伍樹くんのこと好きなのは、ほんと」
「分かったよ、だから二度とこんなことしないでね」
「う、うん。わたし、おうちかえるね」

のぞみは伍樹の抱擁が解かれると、床に落ちていたジャージを着直して、トテトテと小さな足音で保健室から出て行った。

「ふう…一時はどうなることかと思ったよ、ありがと、美優ちゃん…」
「えへ…伍樹くんが苦しそうだった…から…」

美優は床にしゃがみこんだまま、立てば天井に頭を打ちそうなほど大きな体を抱きかかえていた。

「また、抗体、飲まないと」
「うん、美優ちゃん。はい」

美優は、前回と同じく、何十リットルもの汗を床に垂れ流し、元に戻った。

「なんか…わたし、疲れちゃった…ちょっと…休ませてね」

保健室のベッドの上に横たわった美優は、深い眠りに落ちた。

感染エボリューション 5話

そのまま、昼休みが終わってしまった。

「みんな席につけ〜!」

保健体育の教諭である龍崎が、教室に入ってきた。

「ほら、そこの三人…も…?」

美優と結子、伍樹に声をかけようとする教諭。だが、彼はそこにいる小さな少女が誰か、当然わからなかった。

「おい八戸、その子は誰だ。妹さんか?」
「え…」

上の空だった美優がかろうじて反応した。

「だから、その子は誰だと!妹なら、すぐに帰らせろ!」

あまりに薄い反応に龍崎の怒号が飛ぶ。その荒らげられた声とは裏腹に、目がキラキラしている。うわぁ…と周りの視線はもはや救い用がない人を見るものだった。

「あ、こ、この子は…」
「その、篠崎伍樹君です…」

喋り出せない美優を、結子が補足した。

「し、しし…し」

教諭は故障した機械のように震え声になる。普通なら、とんだ戯言と、軽く済ませられるのだが、つい一昨日成長していた美優のことを考えると、簡単には否定できないのだろうと、美優は感じていた。
教諭は何十回も篠崎の「し」を繰り返し続けてやっと、深呼吸をして、息を落ち着けた。

「…そ、そうか…そうなのか…」
「納得してくれるんですか」
「ううむ…そうせざるを…得ない…な。だが、その格好で授業は無理だろう」

伍樹は、変身した時からずっとYシャツ一着だけを羽織っていた。その下に下着が着いているかどうかもわからない。

「先生、伍樹君を、早退させてあげてください」

結子が、衝撃から立ち直れていない伍樹の代わりに促す。教諭も大きく頷いた。

「ああ。だがな…それは、元に戻るのか?八戸だって元に戻ったんだから、篠崎だって大丈夫だろ?」
「それは…」

そこで、伍樹が急に立ち上がって大声を出した。教室じゅうにその幼い声が響いた。

「元には、もどれねえんだよ!!ふざけんな、どういうことだよ!!俺は一生小さい女の子のままだとか、俺がなにをしたっていうんだよ!!!」
「伍樹くん!?」

美優は癇癪を起こした伍樹に恐怖を感じた。

「落ち着け!伍樹!」

そう抑えるのは、伍樹の親友の男子生徒だった。伍樹はそれに気づいたのか、大きくため息をついた。

「望(のぞむ)、ああ…叫んでもどうすることもできないしな…」
「美優ちゃんだってこんなに怖がってるぞ」

伍樹は横目で美優を見た。その目の奥には、怒りの炎が燃えている。しかしすぐ目をそらして、言った。

「ごめん。美優ちゃんのせいじゃないのは分かってるけど…どうしても、納得がいかないんだよ」
「伍樹くん…こっちこそごめん…」
「じゃあ、俺帰るから…」

そそくさと帰ろうとする伍樹。その肩を、望と呼ばれた生徒が抑える。

「ま、待てよ…」
「望っ…うっ…!!」

急に苦痛の表情になる伍樹。

「そんなに俺、強く握ったか…?」
「ち…っ!違うんだっ!うぅっ!!」

美優はその様子を見て気づいた。伍樹は成長しようとしていたのだ。

「望さん!すぐに、伍樹くんから離れて!!」
「は?ん、なんだこの…汗か?」

伍樹の体全体が汗で濡れ始め、そして望はその体を服の上から手で触ったままだった。

「時すでにおそし…だね…」
「なに言って…なんだ伍樹の肩、変な感じになってるぞ!」

ウィルスが体を作り変え始めたせいで、それはムギュムギュと変形し始めていた。

「体が…熱いいっ!!」

伍樹が大声を出すと、シャツの胸の部分が盛り上がり始めた。

「もしかして元に戻るのか?いや、これって…」

その膨らみはまるでプリンのようにフルフルと揺れている。その小さな体に見合わない、結子ほどの大きさのそれは…

「おっぱい!?」
「ん…んぐぅ…」

伍樹はその重さでバランスを崩し、床の上に四つん這いになった。

「ふ…ぐっ!!」

その床についた腕が、グキグキと長くなり、ぶかぶかなシャツの中を満たして行く。小さな手のひらの指一本一本がバラバラに長くなり始め、全てが長くなると、手のひら全体がグキッと大きくなる。

「あ、足が…いた…うぅっ!」

次に足と胴が同時に長くなり、ぶかぶかの服からスルスルと体が出てきた。

「むぐぅっ!」

そして、ムクッと太くなり、健康的な下肢がむき出しになった。露わになった小さな可愛らしい尻が、ボンッと膨らんで、プリッと張った。

「あ、ああああっ!」

最後に髪がバサッと長くなって、変身が終わった。

「ふぅ…はぁ…」
「い、伍樹…」

望は目の前で起こったことが信じられなかったようだ。床の上で荒い息を立てる伍樹を、じっと見つめるしかなかった。

「望ぅ…。俺…!」

その四つん這いの格好のまま、そして尻を親友に向けたまま、首だけを動かして伍樹が声を出す。美優はその声に自分にはない女性の魅力を感じた。それを証明するように、望の顔が紅潮してきた。

「そんな声、出すなよ!お、俺…」
「どうしたんだよ、望…」

先ほどと同じ、誘うような声で伍樹が言う。

「あーもう!俺は同性愛者じゃないんだあああ!!」

望は頭を抱えて、教室から飛び出して行ってしまった。

「望?望!!…仕方ないやつだ。それにしても」

伍樹は立ち上がった。そして、自分の体を確認する。伍樹は10年ほど時を飛び越えたようで、幼稚園児のようだったその体は高校生のものに変わっていた。特に、そのシャツを大きく押し上げる胸、シャツの下端から微妙に見える尻、そして長く黒い髪の毛は、周りにフェロモンを撒き散らしているようだった。

「…俺の…おっぱい…」

伍樹の視界に、すぐ真下に見える大きな膨らみがどうしても入ってくるためか、それを自分の手でポヨポヨと触り始めたのだった。

「ちょ、ちょっと…伍樹くん!周りのみんな見てるよ!!」
「え?…うわあああ!!見ないでくれ!!」

しかし、その華奢な腕で乳房を隠そうとしたせいで、その大きさが逆に強調され、「見てくれ」と言わんばかりの格好になってしまった。

「も、もう!!」
「篠崎!!」
「はい、せんせ…い…」

伍樹の声が途中で途切れる。それもそのはず、教諭の顔にはいやらしい笑みが浮かび、鼻血が途切れることなく流れていたのだ。

「さっさと帰れ!ここはストリップじゃないんだぞ!」

美優にとって、抑揚が足りずほぼ棒読みのその台詞は、教師としての最後の尊厳のように思えた。

「言われなくても!」
「あ、待って!あたし、伍樹くんを送ってきますね!!」
「む、そうだな!行ってこい!」

相変わらず感情がこもらない台詞を背に、二人は教室を出た。

「本当に、ごめんね」

保健室で、二人は話していた。下着を持っていなかった伍樹がそのまま学校から出て行こうとするのを、美優が止めたのだ。次の休み時間に、結子がジャージを持ってくるまで、この場所で待つことにしたのだった。

「望にあんな目で見られるなんて、思っても見なかった。あの変態教師はどうでもいいけど」
「あはは…」
「俺は男なのに」

その言葉とは裏腹に、体つきは美優よりも女性らしい。美優はそれが少しだけ羨ましくもあったが、なにも言わないことにした。

「俺、これからどれくらい成長するんだろうな」
「それは…」

美優は、青年の、ウィルスが体を無限大に成長させる、と言う言葉の『無限大』の意味を捉えかねていた。

「多分、男の子はそんなに成長しないよ」
「…そうだといいんだけど」
「それに…!!」

美優の体に、あの衝撃がまた走り、体が跳ねた。

「どうしたの!?」
「そんな…どうしてっ…ああっ!!」

美優の体がまた跳ねる。美優は、自分の体の中で、熱が溜まり始めるのを否応無しに感じ取った。

「なおった…はずだった…っ!!のにぃぃいい!」

脚がググググッと伸び、太さがボンッボンッと膨れ上がる。スカートの口が無理やり押し広げられ、ギチギチと悲鳴をあげ始める。

「うううううう!!!!」

腕もバンッと一気に2倍ほどの長さを得て、シャツから飛び出してくる。同時に胴もポンプで空気を入れられるように大きくなり、シャツは引き裂かれてしまった。そして、凹凸のなかったウエストが、ギュッと締められる。

「んんっ!!」

顔はすでに幼さを失い、さらに衝撃のせいで涙が流れている。髪もサラサラと体のラインに沿って、腰のあたりまで伸びた。

「私の…おっぱい…がああああ!!!」

ついに、その平らだった胸板に、美優の一息一息ごとに脂肪が注入され始め、ムクッムクッと前に突き出されて行く。それは数秒の間に、リンゴのサイズに成長し、次の数秒にメロン、その次はスイカとなった。その成長により生じた揺れが、時間とともに大きくなり、最後には暴力的に揺れる特大のスイカが、美優の感覚を翻弄していた。

「み、美優ちゃん…」

その身長は2mに達し、体積は2、3倍になっている。そしてその体は、全身からかなりの量の液体、汗を滴らせていた。

「あ…あたし、どうして…抗体は飲んだはずなのに…」

当惑する美優の前で、何かが変わり始めていた。それは、伍樹の体だった。彼はすでに次の成長を始めようとしていたのだった。

「あ、あれ…俺の体…また…」

今度は暑がることも、苦しむこともしない。しかしその服の中が胸の脂肪で満たされて行く。身長もクイッと伸び、シャツから体がはみ出て、露出が大きくなる。脚も腕も、髪も長くなり、静かにその成長は終わった。

「さっきみたいに…痛くなかった…」

美優はその大きな体を動かし、伍樹の体を見た。その体には、汗が一滴もついていない。

「あれ…?」
「はぁ…ともかく俺は成長し続けるんだな。こんな早いペースで。しかも美優ちゃんとは違って元に戻れない」
「そんなことないよ、きっと元に戻る方法はあるって!」

美優は伍樹の手を握る。

「美優ちゃん…そうだね。ちょっと悲観的になりすぎてたかもしれないよ。ありがとう」

伍樹も握り返す。

「よし、じゃあ結子ちゃんが戻って来る前に元に…あれ、手が動かない?」
「あたしも手が…あっ…」

美優は奇妙な感覚に陥った。

「何かが、腕から流れ込んで…!!」
「俺から何かが抜けてく!!」

美優の爆乳とでも言うべき巨大な胸の膨らみが、ブルンと自分で揺れたかと思うと、さらなる膨張を始めた。

「あたし、もっと大きく…!!」
「俺は…!」

伍樹の方は、はち切れんばかりに張ったシャツが、スルスルと元に戻って行く。したからはみ出た脚も、細く、短くなっていく。

「伍樹くんの体から、何かが来てるよお!!」

美優の脚は、逆にムクムクと膨らみ、さらにムチムチとした脂肪を蓄えて行く。それが終わった時、そこにはついさっきより一回り大きくなった美優と、子供の体に戻った伍樹が、呆然として座っていた。

「どういう、ことなの…」

美優の中では、今まで以上の疑問と困惑が渦巻くだけだった。

感染エボリューション 4話

「どういうことなんだろ…」
「そんなこと今はどうでもいい!さっさとお薬飲まないとまた大きくなっちゃうよ!」

美優と結子の二人は美優の家へと急ぎ足で向かっていた。結子の体調不良ということにして、学校を早退したのだった。

「ね、美優ちゃん」
「何?」

胸をゆっさゆっさと揺らしながら、美優に一生懸命ついていく結子が聞いた。

「さっきから行ってるお薬って、何のことなの?美優ちゃんは、自然に元に戻ったんじゃないの?」
「あ…」

正体のわからない青年に助けられたことを、なかったことにしていた美優の矛盾に、結子が気づいたのだった。美優は立ち止まって、申し訳ない気持ちで答える。

「あのね、そのことなんだけど」
「うん」
「あたしがね、うちの中でもっと大きくなってる時に、ある人が入ってきたんだ」
「え…」

結子は少し青ざめた。よく考えなくても不法侵入である。美優はそれを認めながらも、続ける。

「それでね、その人が言ってたんだけど、私が大きくなってたのは変なウィルスのせいだって」
「ウィルス!?」
「うん、それで、たいさいぼう……に、ぎ…ぎ…なんだっけ、そう、擬態して…せ…」

美優の中で青年が口にした「セックスアピール」という言葉がとても卑猥なものに思えて、なかなか次を話すことができない。驚きが弱まって、美優の真っ赤になった顔を見かねた結子が助け舟を出した。

「それで、体が大きくなっちゃうんだね」
「う……そうなんだって」
「それで、そのウィルスの抗体か何かをもらったんだね」
「そう、そうなの!こうたい!」

結子は首を傾げた。

「でも、本当にそんなウィルス、あるの?もしそうだとしたら、私だけじゃなくて他の人にも感染してるはずじゃない?」
「うーん、その人は『俺のウィルス』って言ってた気がする…」
「その人の?」
「でも本当はそうじゃないとも言ってた」
「複雑な話…なんだね」
「うん、ふくざつ。じゃなくて、さっさと帰らないと!」

二人は再び歩き始め、抗体がある家へと向かって行った。

玄関につくと、扉には鍵がかかっていた。

「ちょっと待ってね」
「ね…美優…ちゃん…」
「何?あっ」

美優が見ると、結子の顔をだらだらと汗が流れている。

「体が…熱くなって…きちゃった…」

変身が始まろうとしていた。

「結子!…くっ」

美優は鍵を思いっきり差し込み、錠が壊れるほど勢い良く回した。

「待っててね!」

美優は朝食を食べた時、白衣を受け取り、自分の部屋に置いていた。それを取りに行くために、全速力で家の中を駆け抜けた。部屋に着くと、白衣のポケットをまさぐる。中の小瓶の一つを取り出すと、他の瓶がポケットからこぼれ落ち、割れてしまった。だが今の美優にそれを気にしている余裕はなかった。結子は死ぬことはないが、成長の苦しみを味わわせたくなかったのだ。

「よし、これで!」

玄関に掛け戻ると、美優が苦しそうに胸を押さえていた。その胸はまるで生きているようにムギュムギュと形をゆがませ始めていた。

「結子!これ飲んで!」
「み…ゆ…!うん」

美優は、薬を注いで欲しいと言っているように開けられた結子の口に、グイッと小瓶の中身を入れた。その瞬間、結子はむせ混んだ。

「あ、あついい!!」

いつもはおとなしい結子の口から信じられないほど大きな声が出て、美優は狼狽してしまった。それをよそに、結子の体からこれもまた信じられない量の汗が吹き出て、服がびしょ濡れになって行く。

「これで、これで大丈夫だから…ね!」
「う、うううっ!!」

そして、結子の体は美優がそうなったように、一回り縮んで、元に戻った。

「ふぅ…ふぅ…」
「結子!」
「美優…ちゃん…、ありがと…」
「すごい汗だよ、うちのお風呂で流した方がいいよ」
「うん…そうする」

美優は結子を招き入れた。結子が服を脱ぎ、シャワーを浴びている間、美優はその服を洗おうとした。

「ん…あれ?」

しかしその服はすでに乾いていて、汗でよれている様子すらなかった。

「おっかしいな…」

美優は、それで洗うのをやめた。そして、20分もすると、結子が風呂場から出てきた。

「ふぅー、まだお昼なのに疲れちゃったわ。まるで、私の体が私のものじゃなかったみたいな、変な感じだったの」
「うん、あたしもそんなだった…いつもよりもずっと背が高くて、見える世界も全然違ったもん」
「ふーん。そうだよね、美優ちゃんは私よりすごく大きくなってたから…あれ?」
「あ、その服」

結子も、美優と同じ違和感を感じたようだ。

「さっきまで…びしょ濡れだったのに…」
「うん、変だよね」
「まさか…!!」
「えっ?」

結子が頭を抱えた。

「ねえ、私たちが大きくなったのって、ウィルスのせいだって言ってたよね」
「うん」
「ウィルスって、すごく感染性が高いんだけど、何かを媒介しないと他の人にはうつらないんだよ」
「かんせんせい…?ばいかい…?」

語彙がいまひとつ足りない美優の顔に疑問符が浮かび上がる。結子は一回ため息をついて、言い直した。

「つまり、一回体の中に入ったらウィルスの症状が出ちゃうんだけど…症状、くらいわかるよね」
「バカにしないでよ!いくらあたしでも分かるって!」
「なら良かった。でもね、体の中にあるものが、人間の体同士を移動するのには、一度体の外にでないといけないでしょ?」
「うん」

美優がコクコクとうなずくのを見て、結子が続けた。

「その時にね、たとえば乾いた空気だけあればいいのとか…」
「え、それって普通じゃないの?」
「…ううん、そうじゃないみたい。それに、もしそうだったらこのウィルスで周りみんなが大きくなってるはずでしょ?私だけじゃなくて」
「あ、そうか」
「とにかく、このウィルス、この汗を通って感染するものじゃないかな、て思ったんだよ」
「ほー…」

イマイチ合点がいかない美優だが、結子は話し続けた。

「私、美優ちゃんが教室で大きくなった時に汗に触ったでしょ」
「そうだっけ」
「その時に感染したんだよ、多分」
「じゃあ、もう大丈夫だよね、二人とも飲んだもん。こうたい…だっけ」
「そう、抗体。だから大丈…夫…」

結子の声がだんだん小さくなる。

「どしたの…?」
「ううん、嫌な予感がしただけ。多分、気のせい。ふぅ、私、もう帰るね。ちょっと疲れすぎちゃった」
「あ、お菓子食べてかないの?」
「いいよ…それに、美優ちゃんは学校に戻りなさい」
「えー」

むーっと頬を膨らませる美優を見て、結子は呆れた顔をした。

「子供じゃないんだよ、それに美優ちゃんは成績危ないんだから」
「わかったよう」

結局その日は結子は戻ってこなかったが、それより他はいつもの平和な日常だった。

「あ、結子、おはよー」
「おはよう」

次の日には結子は普通の生活に戻ったようだった。しかしその表情は少し曇っているように、美優には見えた。

「大丈夫?」
「うん、もう平気」

結子が笑顔になったことで、美優はそれ以上気にかけないことにした。しかし、昼休みが始まると、やはり結子は不安そうな表情をしている。

「ねえ、本当になんもないの?」
「うーん…実は」
「え、何?」

その時、叫びが聞こえてきた。

「う、うわ、うわああああ!!な、なんなんだよこれええ!!!」

トイレから聞こえるらしい声は最初伍樹のもののように聞こえたが、次第に高くなって行った。

「俺の、俺の体がああ!!」

そして、最後には幼い、小さな女の子が叫んでいるようになった。結子は顔を手で覆って、つぶやいた。

「やっぱり…」
「え、どういうことなの結子!」

その疑問に答えるように、バタバタと誰かが教室に駆け込んできた。

「み、みんな!!」

その誰かは先ほどの叫び声の主のようだ。幼稚園児ほどの女児がサイズが合わないYシャツだけを羽織って、教壇の上で仁王立ちになっていた。

「お、俺の体が、小さくなっちまった!!」

教室がざわめく。クラスの誰もが、突然の小さい女の子の登場に当惑していた。その子は、美優を見つけると、走ってきた。

「ね、ねえ美優ちゃん!!俺、伍樹だよ!」

その可愛らしい顔に見合わない男口調で、美優に向かって叫ぶように喋るその子。だが、美優の方は状況が飲み込めない。

「え、え?」
「だから、俺は伍樹なんだって!」
「こんな小さな子が伍樹くんのはずが…」
「美優ちゃん」

結子が口を挟んだ。

「この子、伍樹君だよ。間違いなく」
「え、何言ってるの結子、そんなわけ…」
「分かってくれるのか!?…ゆ、結子ちゃん?」

伍樹と名乗る小さな子が顔を輝かせて結子の方に抱きつく。

「い、伍樹君…」
「俺、どうしちゃったんだよ!どうして体が小さく!それに髪は長くなってるし!小便してたらどんどん体の中身が抜けてくように、小さくなったんだ!」

さも結子を責めるように騒ぎ立てる少女。

「…あのね、ちょっと長いお話になるんだけど、いい?」
「あ、ああ。俺がどうなってるか分かるなら何でもいい!」
「あと、美優ちゃんも覚悟して聞いてね」
「え?う、うん…」

「あれが、ウィルスの仕業で、結子ちゃんの汗を触ったから観戦したと…?」

ここ2日の経緯を聞いて、信じられないという風に伍樹が発言する。

「私も正直信じられなかったけど、実際私も美優ちゃんも、その人からもらった抗体で元に戻ったの。ね、美優ちゃん」
「え、うん…」

説明をほとんど結子に任せていた美優は、一瞬遅れて反応した。

「でも、その人もこのウィルスがどういうものか分かってなかったみたい」
「え、それは初耳だよ」
「なんか、人づてに聞いたような話し方、してた気がする」
「気がする…って…」

美優の曖昧さに不満げな伍樹。

「仕方ないもん…あたしも大きくなる途中で苦しかったんだよ…」
「とにかく、その人が作ったウィルスじゃないんだね。まあ、抗体使って直しましょう、これ以上広がる前に」
「抗体…あっ!」

美優が飛び上がって、大声を出した。

「どうしたの?」
「抗体…もうないんだよ」
「「えええええっ!?」」

二人も大声を出した。

「ごめんなさい…昨日結子ちゃんにあげようとした時、他の全部こぼしちゃったの」
「そんな、あはは…」

伍樹が下を向き、そのまま動かなくなってしまった。結子は顔を覆った。

「ごめん伍樹くん…あたしのせいで…」
「い、いや…君のせいじゃ…ないよ…うん…」

「こうなったら、もう一回その人を見つけるしかないよね」

結子が提案する。

「うん、でもどうしよう…」
「とにかく行動行動だよ!……」
「おい、どういうことだよ!!」

結子の言葉にかぶるように、大声がした。振り返ると、そこにはフードをかぶった青年が立っていた。

「あ、あの人だ!」
「えっ!?」

青年はズカズカと美優に近づいてきた。

「感染広がってるじゃねえか!!まさかお前、抗体をやる前に誰かにうつしたのか!?」
「えっと、うん」

結子が私ですと手を上げる。青年が机に両手をついてうつむく。

「やっぱり…」
「どうしたんですか?」

美優が声を掛けると、青年はキッと美優を睨んだ。

「『どうしたんですか?』じゃないだろ!校庭で漏らしてる奴がいるなって見てたら、どんどん小さくなってくじゃないか!それであっという間に…」

青年の視界に小さい伍樹が映った。青年は伍樹を指差し大声を出した。

「そうだよ!こいつみたいに小さな女の子に!!」
「あの、そのことなんですけど…」
「なんだよ」
「抗体余ってません?」

青年はハッと冷静を取り戻し、姿勢を直した。

「抗体…な。余ってるが…」
「じゃあ早くそれを!!」

うつむいたままだった伍樹がバッと起き上がり青年に言った。

「お前、元々男だよな?じゃあ無理だ」
「え、なんで…」
「なんでか知らないが、抗体を男の感染者に使うと、重大な副作用が起きて死ぬらしい」
「は…」

三人の表情が凍りつく。

「だから男に移る前に止めておきたかったんだよ!こうなったらもう、感染を止める方法はお前らを殺すしかない」
「殺すって…」
「が。俺にはそんな度胸はない」

周りが四人を見つめているのを無視して、会話は続く。

「じゃあ俺はどうなるんですか」
「…さあな。もう、俺の知ったことか」
「そんな無責任な」
「そもそもこのチビがぶつかってきたのが…!…いや…俺が悪い。すまない…一応残りの抗体を渡しておく」

青年は持っていたナップザックを机の上におろした。

「じゃあな」

そして、そのまま立ち去って行った。三人は追いかけることもせず、ただ沈黙していた。

感染エボリューション 3話

「返せよ、俺のウィルス」
「あんたの…!ウィルス…っ!?」

体に走り続ける衝撃に耐えつつ、美優は声を出す。

「ああ、厳密には俺のじゃないが…それに…かなり苦しそうだな」
「説明…してよ!私の体に…っ!なにが起こってるの!?」

美優の体に熱がこもり始め、肌が汗で濡れて行く。

「お前、最近誰かにぶつかって何か液体をかぶったの覚えてないか?」
「えき…たい…?」
「ま、その様子じゃ覚えてないようだな。お前はその時ウィルスを体内に取り込んだんだ」
「ウィルスって…なによう…!」

乳房が意思を持ったようにムニムニと形を歪め始めた。

「基本的には他のウィルスと変わらない、自己複製が目的のRNAの容器。そして今お前の体の中にいるのは…」

体全体がザワザワと波打つように、脂肪の移動が起こる。

「難しいことはわからないんだが、体細胞に擬態し、感染者のセックスアピール、性的な魅力を増大させる」
「んぎゅ…っ!」

そして、すでに巨大な乳房がムクッムクッとこれでもかという風に体積を増やし、その重さで美優の体をソファーに沈める。

「抗体がなければ、それこそ無限大に」
「くぅ…っ!」

背骨がボキボキと音を発し、成長して、美優の体がソファーの上からはみ出す。

「エネルギーは普通の空気から得られるようだ」
「あ…ああっ!」

脚が伸び、ソファーの端からはみ出して行く。尻と脚の太さが同時にギュッと太くなり、ソファーの上を埋め尽くす。

「しかし、こんなに大きくなるとは…本当に、ぶつかって来たのはお前だよなあ」
「んあっ!!」

腕も脚と同じように成長して、他の体の部分と釣り合う。

「たく、今俺が見つけなかったら、この家を壊すまでずっと成長してたろうよ、お前」
「ふぅ…ふぅ…」

体の熱を冷やそうとする汗にまみれ、びしょ濡れになったソファーの上で、荒い息を立てる美優。

「妹を喜ばせようとやったのに。制御すれば、こんなに大きくなることもないはずだったのに、まあいい。こうなったら事が明らかになる前にお前に抗体をやろう」

男は、ポケットから小さな試験管のようなものにコルクで栓をしたものを取り出し、蓋を開けて、いまだ息が荒い美優の口に近づけた。

「本当はこうやって摂取させるものじゃ無いんだろうが、このウィルスだって肌にぶっかけただけで感染したんだ。抗体だってかなり強いはず。飲め」

美優は言われるがままに、差し出された液体を飲んだ。吐き出しそうなほどの味など気にせずに、飲み干した。

「あ…あっ!」

すると、美優の体の中で引き始めていた熱が戻って、さらに中で何かが燃えるように、熱くなった。

「も、燃えるっ!!」

汗が大量に出る。普通では考えられないほどの量の液体が出る。逆に、体は縮小し始め、まるで、美優という水が入ったスポンジが絞られて行くようだった。

「まあ、これでお前は元に戻るだろう。念のため、今のやつを5本くらい置いておくからな。もう会うことはないだろう」

男は美優が着ていた白衣のポケットに瓶を数本入れると、立ち去って行った。一方の美優は、ゆっくりと縮み続けていた。

「熱い!熱いよぉっ!」
「どうしたの!?美優なの!?」

玄関先から母親が呼びかける声がする。

「お母さん…助けて…!」
「美優!」

ドタドタという足音がすると、母親が飛び込んできた。母親は美優のまだ元に戻り切っていない、結子よりも一回り大きめな体をみて、驚愕した。

「美優…!?」

そして数秒後に、美優は完全に元に戻った。美優の周りはまるで水が入ったバケツが何杯もこぼされたかのように濡れていた。

「おかあ……さん…」

美優は母親をみて安心し気が抜けたのか、すぐに気絶してしまった。

美優が目を覚ますと、自分の部屋の天井が見えた。

「ん……」
「目が覚めた?」

母親がそばに座っている。

「あ、お母さん…」
「よかった。帰ってきたら倒れてるんだもの、びっくりしたわ」
「ごめん…」
「それに妙なことなんだけど、あなたが一瞬大きくなってたように見えたわ…」

美優はなにを言うべきか考えた。母親に、男から言われたことを打ち明けるべきか。しかし、抗体を飲まされたおかげで、ウィルスを駆逐し、もう大きくなることはない。美優は、白を切ることにした。

「変な幻覚だね」
「そ、そうよね…幻覚よね…床もびしょ濡れになってると思ったら、すぐに乾いちゃったし」

その言葉に美優は何かが引っかかったが、気にせず続けた。

「お母さん、あたしお腹空いちゃった」
「じゃあすぐんいお夕飯にするわね」
「私も手伝うよ!」
「あら、いいの?」
「うん!さあさあ行こう!」

今までずっと気を失っていた娘の威勢のよさをみて、母親は少し困惑しつつも安心したようだ。美優のほうは元気を出すことで、その日の出来事を全て忘れようとしていた。

次の日。学校に登校した美優は、話しかけて来た結子が心底安心しているのを感じた。

「あ、美優ちゃん元に戻れたんだ」
「そうなの。気づいたら夢みたいに元に戻っててね!」
「ほんと、夢みたいだよね。あんなに大きくなってたの」

今は結子より頭二つ分背が低い美優が、その前に分かれた時は逆に頭二つ分背が高かったのだ。結子も相当困惑していたのだ。

「もう、大丈夫だから」
「そう、なんだ。良かった」

二人は少しの間沈黙した。美優は昨日の出来事のショックが、こだましているように感じた。

「おはよう!朝礼を……」

教諭が教室に入って来て、声を出しかけた。ところが、元の体に戻った美優に目が止まった途端、目を見開き、さらに大きく、つんざくような大声で叫んだ。

「八戸が元に戻ってる!!」
「は、はぁ……」

その大声のターゲットにされた美優はたまらない。しかし何とか曖昧な答えを返せた。教諭は満面の笑みを見せて続けた。

「良かったあああっ!!」

教室全体から「えぇ……?」と声が聞こえ、侮蔑の目が向けられる。気がついた教諭は顔を整え、咳払いをする。

「いや、昨日八戸が飛び出して行ってしまったと聞いてな。ちゃんと学校に戻って来たということを喜んだわけで、決して俺はやましいことを考えたわけではないぞ」

最後の部分だけ小声で、教諭は主張したが、もはや説得力はない。教諭はクラス全員の冷たい視線を浴びながら、朝礼を始めるしかなかった。

「あのロリコンが……」
「あはは……」

美優は教諭を睨みつけ、結子はその後ろから苦笑いするしかなかった。

「ま、まあお子さんと同じように生徒を愛したいってことじゃ無いかな……ちょっと気持ち悪いけど」
「すごくキモいって!」

二人の言葉で教諭がビクッと震えたように見えた。

昼休み。美優はまたドキドキしていた。

「ねえ、本当に伍樹くんに話しかけた方がいいかな……?」
「いや、だって、このままだと終わっちゃうよ?それに、昨日のハプニングだって、チャンスに変えられるって!」

美優は学食で買ったパンを潰さんとしているかのように握りしめ、伍樹の方を見つめる。伍樹は他の男子生徒と楽しそうに会話をしている。そして、その額には昨日飛ばして当てたボタンの跡が少し残っている。

「う、うん…」
「昨日みたいに大きくなることも無いんだから」
「まあ、ね…」
「じゃあ行ってらっしゃい」

結子が美優の背中をポンと押した。美優は受けた力で動くロボットのように、ぎこちなく歩いていく。

ーーパン、食べよ…パン、パン……

今度は昨日のような衝撃を感じることもなく、伍樹の前にたどり着いた。

ーーなにか、話さなくちゃ……

そして、口をついて出た言葉。

「伍樹パン!!」

大声で二つの単語を叫んだ美優の周りで、一瞬空気がこおった。名指しにされた伍樹が言葉の意味を捉えかね、声を出した。

「えっ!?」
「あっ!」

美優は我に返った。

「あ、あの!!」
「はいっ!!」

美優の大声に、思わずかしこまる伍樹。美優もハッとして、深呼吸した。

「パン、一緒に、食べ…ませんか?」
「え、あ、うん…いいよ」

二人の緊張した会話に、周りも硬直していたが、やっと話が通じたのをみて、すこし胸をなでおろした。

「じゃあ伍樹、かわいい美優ちゃんを泣かせるんじゃねえぞ?」
「は?お前なに言って…」

伍樹と喋っていた男子生徒が気を利かせて席を空けた。

「ま、いっか……じゃあ…あの…座って?」

伍樹もあまり女子生徒と話すことがなく、かなり言葉を選んで喋る。

「あ、ありがとう…ございます」

美優はフラフラとしながら男子生徒が空けた席に座る。

「それで、えっと……」
「き、昨日はごめんなさい!!ボタン、当てちゃって」

伍樹の顔が真っ赤になった。

「怒ってますよね、すごい勢いで飛ばしちゃったから」
「い、いや、違うんだよ……いや、でも、うん、違う。大丈夫だよ、怒ってない」
「じゃあなんで顔が真っ赤に」
「い、いやこれはその……ああ畜生!」

伍樹は目線を大きく逸らし、頭を抱えて大きく叫んだ。

「えっ!?」
「正直なこと言っても、いいかな……」
「ど、どうぞ……」

美優は身構える。あまりいいことの予感はしなかった。

「あの、昨日の、はちの……美優ちゃんの……その、胸が……」
「あっ」

美優の顔も真っ赤になった。目の下に見えた自分の大きな胸の谷間が、頭の中に鮮明に蘇って来た。

「ごめん……」
「い、いいよ……伍樹くんも……その、男の子なんだもん」

美優はうつむいて下を見ると、そこにはぺったんこの胸板。美優はそれを服の上からペタペタと触った。

「今の私なんて……」
「ち、違うんだ!そういう……意味じゃ……それに、元の美優ちゃんの方が俺としては、その、好き、かな」
「ほんと!?」

影がさしていた美優の表情がぱぁっと明るくなる。

「そうだよ、元気で、健気で。正直、龍崎のことなんにも言えないよ」
「そうなの!?私も、伍樹くんのこと、好きなんだ!」
「美優ちゃんくらい声が大きいとそれくらい知ろうとしなくても分かるよ。ありがとう」

美優は本来の明朗さを取り戻し、伍樹とずっと話し続けた。そしてあっという間に昼休みは終わり、それを知らせるチャイムが鳴る。

「じゃあね、伍樹くん」
「うん、楽しかったよ」

美優はルンルンと自分の席に戻る。結子は、グッと親指を立てた。

「大成功だね!」
「うん、ありがと、後押ししてくれて」
「実行に移したのは美優ちゃんの方だよ、とりあえず、お弁当しまって、次の授業の準備を……っ…」

結子の表情が急にゆがんだ。

「どうしたの?」
「う、ううん。なんでもな……あっ!!」

美優に悪寒が走った。今の結子の仕草は、昨日までの美優の成長の前段階に、いやというほど似ていた。

「まさか……!」
「あ、あれ……熱くなって来た……っ!?」

顔から汗が吹き出ている。間違いなかった。結子の体は成長しようとしていた。

「嘘でしょ、終わったはずだったのに」
「ん、んんっ……!」

机に押し付けられている掌がグニグニと変形して、体からは聞き覚えのある奇妙な音が聞こえ始める。

「結子!!」
「あぁっ!!」

ついに成長が始まった。机の下で脚がグイッグイッと伸び、スカートからスッスッと出る。もともと大きい胸がグググッと制服を突き上げるように膨らみ、シャツが左右に引っ張られて、その上の方からグニッと胸の肉がはみ出した。

「ん…苦しっ…んうっ!」

腕が伸びて太くなり、制服がゆがむ。胴がクイッと伸びると、座高がキュッと上がり、膨らんだ胸がユサッと揺れ、さらにシャツが横に引っ張られる。そこで成長は終わったが、結子の苦しそうな表情は変わらなかった。

「息が……」

ブラのサイズが合わなくなり、呼吸を妨げていたのだった。

「結子!?」
「え、ええいっ!!」

結子は余裕がなくなった制服の腕を無理やり前に動かした。すると、背中の縫い目がプツプツとほつれると同時に、ぷつっという音がして、胸がブルッと揺れた。ブラが壊れたようだった。

「ふぅ…ふぅ…」

成長した結子の体は、やはり汗で濡れている。美優は体が冷えてはいけないと、ハンカチでその体を拭いた。

「み、美優ちゃん…ありがと」
「ごめんね、私のせいで結子ちゃんまで」

しかしハンカチだけでは足りなかった。美優が拭くものを探していると、真っ白なタオルが差し出された。伍樹が、美優の近くに来ていた。

「これ、部活用のだけど、使って」
「あ、ありがと…」

美優は受け取ったタオルで結子の体を拭き、服から汗を吸い出した。すぐに、汗は綺麗になくなった。

「洗濯はいいよ、俺も今日の部活でつかわなくちゃならないし、部室に洗濯機あるから」
「そ、そう?ごめんね。伍樹くん」
「ありがとうございます…」

結子は今起こったことが信じられないで、ワナワナと震えていた。

感染エボリューション 2話

次の日、前の日の変身など忘れてしまっていた美優。布団から体を起こすと、いつもより少しだけ小さくなった周りのものに大きな違和感を感じた。

「あれ?どうしちゃったのかな」

布団から出ると、パツパツになった寝間着が目に入った。

「私ったら、美穂のきちゃったのかなぁ」

寝ぼけ眼の美優はまだ気付かない。胸がはだけて、プルンプルンと揺れる何かが目に入っても、それでも気付かなかった。

「髪、切らないと」

変身で伸びた髪がしきりに視界に入って来る。扉の取っ手に手をかけて、開けようとしたところでようやく、気づいた。

「あれ?私の手、大きくない?」

大きさに限らずその指の長さも変わっていた手を見て、昨晩のことが、頭の建て付けの悪い記憶の引き出しから、出てきたのだった。

「あ、そうだ!!私、おっきくなったんだった!」

その声はいつも通り家じゅうに響き渡る。

「うるさいわよ、美優!起きてるならさっさと朝ごはん食べちゃいなさい!」
「は、はーい!」

居間から聞こえてきた母親の声に答え、扉を開けてドタドタと走って行った。母親は台所で夕食の支度をしているのか、居間にはいなかった。就職して仕事を持っている母親は、帰りが遅くなる日は夕食を前持って用意するのだ。

「いただきまーす!」
「はーい!」

台所から美優と同じ元気の良さそうな声が返ってくる。美優が朝食をバクバクと食べている間、母親が台所から出てくることはなかった。

「ごちそうさま!」
「今日は遅刻しなくて済みそうね」
「うっ」

母親の鋭いツッコミが美優に突き刺さる。

「私だって好きで遅刻してるわけじゃないもん!本当だよ!」
「はいはい」

美優は自分の部屋に戻り制服に着替える。

「ボタンが……締まらないっ!」

だが、サイズが合わない。考えて見れば当然のことだった。成長した体を、元々の小さな体を包むためにあつらえられた服が覆いきれるわけがなかった。

「お腹引っ込めて……胸を潰せば!!」

何とか収まった。あまり服に力が加わらないように、慎重に行動する美優。カバンを持ち上げ、部屋を後にして玄関に向かう。

「いってきまーす!!」
「いってらっしゃい!」

居間から母親の声がした。どうやら夕食の支度は終わったようだ。それを確認すると、美優は家を出て行く。その後すぐ、居間から母親がひょこっと顔を出した。

「あらら、遅刻してなくても慌ただしいわね、あの子は。足音が何時もより大きかった気がするし。まあ、気のせいかな」

学校に着くと、いつもと同じように美優に視線が集まった。しかしその理由は、いつもと違っていた。包んでいる体積が大きいせいで今にもはち切れんばかりの制服に、なまめかしい足。風になびくセミロングのつややかな髪と、美しい顔立ち。その輝いているような笑顔が無ければ、誰も美優を美優と認識することはできなかっただろう。

「おっはよー!」

しかしまたもや、本人は自分の体の変化を忘れていた。体型の変化から感じていた違和感などとうに吹き飛び、結子に聞かれるまで、頭の中では、変身の記憶の片隅にすら無かった。

「ね、ねえ、美優ちゃん、だよね?」
「なに言ってるの結子?この時間でまだ寝ぼけてるの?」
「だ、だって、私の知ってる美優ちゃんより背もおっぱいもおっきいし…」
「あ…!そうだった!私、昨日大きくなったの!」
「お、大きく?」

その会話は、教諭の大声で遮られた。

「朝礼を始めるぞー!みんな席につけーぶふっ」

その声に変な音がおまけされていた。教諭が美優を見た瞬間吹き出してしまったのだ。

「八戸!?お前八戸だよな!?」

ドカドカと歩み寄ってくる教諭。

「え、ええ…それがなにか…」

なぜか涙目になっている教諭だが、すぐに気を取り直したようだ。

「い、いや…なんでもない」
「まさか、私が小さい方が良かった…とか」

その美優の言葉に、教諭は取り乱した。

「違うぞ!絶対に違うからな!!」
「ロリコ…」
「うわああああ!!!朝礼だ!!朝礼!」

周りの引き気味の冷たい目線を全身に受けながら、教諭は戻っていく。

「あー愛の裏の厳しさだったんだ…」

結子のコメントが追い討ちをかけた。

「それにしても、なんでいきなり大きくなっちゃったのかな」

結子が美優に聞く。美優は首を傾げて答えた。

「んーさっぱり見当もつかないよ。成長期とか?私、体小さかったから」
「いや、それはないでしょ?一晩のうちに、人間はそんなに大きくならないよ?」
「うっ、そんな真面目に答えないでよ。それに、一晩じゃなくて、寝る前に10秒くらいで大きくなったんだよ!」
「え、10秒……?」

結子は目を見開いて驚きをあらわにしたが、そこで耐えかねた教諭が声を上げた。

「そこの二人!……朝礼だ」

教諭はまだショックから立ち直っていなかったようで、大きく声を出し始めたものの、途中からかなり小声になった。

「はーい」
「はい!」

二人は素直に従って、朝礼を受け始めた。

授業中、周りからの視線がチラチラと美優に飛んで来ていた。本人はそれに気づかなかったが、クラスメイト達は体型が変化した美優が本当に美優であるかどうか、図り兼ねていたようだ。

美優はというと、伍樹に話しかけることばかり考えていた。体が少し大きくなったおかげで、少し多めに勇気が持てているようだった。

ーー伍樹くん……はぁ伍樹くん……

そんなこんなで授業の内容など頭の中に入ってこないまま、昼休みを迎えた。

「やっぱり、美優ちゃんが大きいと違和感大きいな」
「うん…」
「黒板の見え方も違うし、ノートをとってるときだって美優の髪が見えてて」
「うん…」
「美優ちゃん?」
「うん…」

授業終わりに結子が話しかけたが、美優にはあまり聞こえていなかった。

「はあ、もう、伍樹くんに声をかけたいんだよね」
「うん…え!?あ、うん!」

やっとの事で、美優は自我を取り戻したようだった。

「じゃあ、行って来たらいいよ、お弁当も一緒に食べてきてもいいよ」
「私…心臓がばくばく言って止まらないんだけど!」
「美優ちゃん…じゃあ先に話しかける言葉決めておこ?」

結子の提案に、美優はすがるようにうなずいた。

「で、でっ、どういうのが、いいかな!?」

その声はそんなに離れていない席に座る伍樹にも、容易に聞き取れるものだったが、結子はそれを指摘せずに続けた。

「えっと、お弁当一緒に食べない?とか」
「おべんと、いっしょ、たべない!?」
「私に言ってもしかたないよ」
「じゃ、じゃあ、伍樹くん、言ってくる!」
「行ってらっしゃい」

もう日本語が怪しいほど言葉が乱れている美優を、結子は軽く手を振って見送る。美優は机の上に弁当を起き忘れたまま、伍樹の方にフラフラと歩いて行った。

ーーおべんと、たべる。おべんと、いっしょ!

意識がもうろうとするほど、心臓がドキドキ言うのを感じている美優。だが、

ドキドキドキドクンッ!

「ひうっ!」

その激しい脈拍に紛れるように、大きな衝撃が美優の体に走った。しかし、そのまま美優は歩み寄るのを止めない。

ーーおべんと!おべんと!

思考が伍樹に話しかけることに極端に集中しているせいで、体全体に熱がこもり、全身から汗が吹き出して、キツキツの制服が濡れていっても、全く気付かなかった。

ドクンッ!ドクンッ!

衝撃が心臓の鼓動と同じくらい頻繁に美優の体に走るようになった時、美優は伍樹の席にたどり着いた。といっても、たった3mほどの距離だったが。

「伍樹……きゅん!」
「ん、何?」
「お弁当、一緒にっ!!」

その時、元々サイズがあっていなかった、汗でびしょ濡れになっていた制服の胸の部分が、ブチブチと音を立てた。

「え、何……!?」

美優が音の方を見ると、ボタンの間から胸の谷間が顔を覗かせていた。そして、その隙間は、時間が経つごとに広がっていく。

「わ、私…また大きくぅっ!?なっ…ちゃう…っ!?」

衝撃で途切れ途切れになる美優の言葉。

「八戸!?」

急に苦しみ出した美優を見て、声をかける伍樹。

「伍樹…くん…っ!んあっ!!」

限界まで引っ張られたボタンの糸がぷつっと切れ、解放された胸の圧縮力で、外れたボタンが伍樹の方に放たれた。

「あいたっ!!」

それは伍樹の額にバシッと音を立てて直撃し、床にカランっと落ちた。

「ご、ごめんっ!!あぁっ!」

次に下肢が成長し、美優の背がまたガクンと一回り大きくなった。バランスを崩して、尻餅をついて倒れてしまった美優の目線に、靴を突き破って大きくなる自分の足が見えた。

「私、これ以上はっ!いいのにぃっ!!」

髪はさらに伸び、背中を覆い、パンツがびりっと破れる音がしたと思うと、臀部にも脂肪が上乗せされ、尻に感じていた柔らかさが、いままで以上に大きくなる。腕もぐきっと伸び、手もそれに合わせるように成長した。

「こんな…こんな…」

美優は裸足となり、胸の部分は汗でムンムンとフェロモンを漂わせる乳房が見えている。その大きさはGカップ、数分前と比べて倍の大きさほどになっていた。

「美優ちゃん、大丈夫…?」

最初に声を掛けたのは結子だった。びしょ濡れになっている制服の腕の部分に、そっと触れる。

「だ、大丈夫なわけ…ない…でしょっ!?」

美優は伍樹の前から姿を消したかった。それで、立ち上がると裸足のままトイレの方に走り出した。

「美優ちゃん!!」

呼びかける親友の声など、聞こえていなかった。個室に駆け込み、便器の蓋を閉めて泣き始めてしまう。

「どうしたのよ、私の……体……」

そして、蓋の上に腰掛け、しばらくの間学校に響き渡るほど大きな声で泣いていた。

小一時間経ったところで、ようやく美優は泣き止んだ。

「はぁ…いつまでもこうしてられない…教室に…戻る?」
「今日はもう、帰った方がいいよ、美優ちゃん」

美優が驚いたことに、独り言に返事が返ってきた。それは他でもない、結子の声だった。

「結子!なんでここに…」
「美優ちゃんの声、大きいんだもの、授業なんて受けてられないよ。私まで泣きそうになっちゃった」
「ごめん…」
「服、無いんだよね。よかったら、理科の先生から大きな白衣でも貸してもらう?」
「うん、そうする…っ!?」

またもや、飛び上がりそうなほどの衝撃が走った。

「どうしたの!?」
「また…なの…!?」

それに応えるように、足の太さが太くなったり細くなったりし始める。そして、熱が体の中にこもり始め、汗腺から汗が湧き出てくる。

「体…熱いよ…っ!!助けてっ…!!」
「美優ちゃん!大丈夫!?」

体全体から、グニグニと音が生じると、何かが爆発するような痛みと、自分の体が外に押し出されるような感触を美優は感じた。

「きゃああああっ!!」

その悲鳴と同時に、乳房がムギュッと膨らみ、シャツの残りのボタンもぶちぶちと飛んで床に落ちた。脚は伸びると同時に太さをギュギュッと増して、スカートを引きちぎる。

すでに縫い目がほつれていた制服も、さらに長く太くなる腕と、長くなる胴に限界を超え、背中からビリッと破けた。
ロングヘアーはボリューム感をさらに出し、便器の蓋に潰されていた尻も体を持ち上げるようにぷるんと大きくなった。

「はぁ…はぁ…もう…やだぁ…」

その汗でぐっしょりと濡れた体には、元の華奢な体型など、どこにも見当たらない。身長はクラスの大柄な男子学生と同じくらいになり、元々男子の胸とそれほど相違ないほど平らだった胸には、美優の頭が入りそうなほど大きく、それでいて前をツンと向いた張りのある一対の乳房がある。体の熱から赤く紅潮したその顔は、言い知れぬほどの魅力があった。下肢はムチムチと柔らかい脂肪が付いているが、逆に腰はキュッとくびれている。誰かが設計したかのように、美優の体は一目で人を虜にするほどの爆乳美女になっていた。

「元に…戻して…」

しかし、美優自身はこれを望んでいなかった。あくまで普通に高校生活を送りたい彼女にとって、言うなれば常人離れしたいまの体型は邪魔でしかない。

「美優ちゃん…服、取ってくるね…」
「…」

結子が戻ってくる頃には、美優は疲れ切って眠ってしまっていた。

「みーゆーちゃん!」
「ん…あっ私寝ちゃってたの…ごめんね」

個室の扉越しに会話する二人。

「入っていい?白衣持ってきたよ」
「分かった…」

鍵を開け、扉を開ける美優。結子はその裸の体を見て、驚きを隠せない。

「…美優ちゃん、自分で着れる?」

しかし結子はそれを抑えて、声をかけた。

「…うん。ありがとう」

白衣を手渡された美優は、白衣を自分の体にかけ、ボタンを留めていく。

「ちょっと…きついけど…んっ」

平均的な男性でもかなり余裕のある白衣でも、大きくなった美優の体と胸を覆い切ることはできなかった。結局第一第二ボタンは外したまま、そこから胸の上半分を出すことにした。後ろにプリッと出たヒップの下、太ももまでは隠すことができた。

「美優ちゃんセクシーだね…私でもうっとりしちゃう」

結子は長い髪を白衣の中から引っ張り出しばさっと後ろに回す美優をみて評価する。その目はキラキラと輝いている。

「ちょ、ちょっと…冗談じゃないんだよ?」
「でも、本当にすごいんだもん…私だってそうなりたいよ」
「…本当に?」

結子は真顔に戻り、少し微笑んで答えた。

「嘘。でもちょっと本気だよ」

美優は少し呆れ顔になった。

「結子って思ってたより変な子」
「あはは、じゃあ一緒に帰ろう?」
「うん!」
「あ、やっと笑った」

いつも通りの親友同士の会話で、美優に笑顔が戻っていた。

「あ、うん…ありがとう!」
「こっちこそ、いつまでも泣かれてちゃ困るもん」
「えへへ」
「うふふ」

二人は、夕暮れの昇降口から手をつないで帰って行った。

「ただいまー!って…玄関に鍵かかってたし誰もいないよね」

自分にツッコミをするが、結子と分かれて、急に不安感が襲ってきた。

「私、戻れるのかな…また、大きくなったりしないよね」

そう独り言を言いつつ、居間のソファーに座りテレビをつける。疲れからか放送内容はあまり頭の中にとどまらない。

「この白衣もきついし…胸のところだけ開けておこ…」

慣れない大きな手で何とかボタンを外すと、ゆさっと豊満な乳房が出てきた。

「私のこれも大きくなっちゃって……重すぎるっていうの」

美優はそのままソファーに横たわる。

「はぁ疲れちゃったな……」

うたた寝しかかったところで、美優は叩き起こされてしまった。

ドクンッ!
「うにゅっ!!…えっ…!?」

疲れに追い打ちをかけるように、次の成長がはじまろうとしていたのだ。しかし、それより驚くべきものが、いや人が目の前にいた。

「あなた…誰…っ!?」
「やっと見つけた…」

フードを深く被り目が隠れている若い男だ。美優のことを上から睨みつけるように見つめている。

「え…?」
「返せよ、俺のウィルスを!!」

感染エボリューション 1話

その少女、美優はその日も普通の学校生活を送るため、登校している最中だった。

「いけない、遅刻遅刻!」

小さい体で町の人ごみの中をすり抜け、走っていく。

「すみません、すみませーん」

ぶつかる前に謝って行く美優。運動神経がよく、視力もいい美優が人にぶつかることは滅多に無いが、それでも全速で走っていると衝突が回避できない時もある。その日はというと、ドーンと勢いよくぶつかってしまった。しかも、ぶつかった相手が持っていた小瓶のようなものに激しく当たってしまい、瓶が割れて中身を思いっきりかぶってしまった。

「あーん、やっちゃった!すみませんでした!」

しかし、美優はすこし頭を下げただけですぐに走り始めた。

「お、おい!待て!」

相手の呼び止める声も聞かずに、走り去る美優。液体もいつの間にか乾き切っていて、学校に着く頃にはぶつかったこと自体忘れてしまったのだった。


「おはよー!」
「遅刻だ、八戸」
教室の扉を駄目元で元気良く開けた美優は、教諭の怒号に迎えられた。

「す、すみません、先生。でも電車が遅れてしまって」
「お前の通学は徒歩だけだろう!」
「寝坊しました」
「よろしい。まあまだ朝礼中だから、今回は許してやろう。席に座りなさい」
「ありがとうございます!」

美優は何もなかったかのように意気揚々と席に向かって行く。だが、一人の前では顔を真っ赤にしていた。美優の片思いの恋人、伍樹(いつき)だ。自分の席に座ると、その後ろに席がある親友の一人の結子(ゆうこ)が話しかけてくる。

「また、顔真っ赤になってるよ、みゆちゃん」
「う、うるさいな!」
「うるさいのはお前だぞ、八戸」

結子のつっこみに対してかなり慌てふためき、知らず識らずのうちに大声を出していたいようだ。教諭にまた叱責されてしまった。

「すみませんでした」

そして大人しく座ると、その後は押し黙った。


1時間目が終わると、即座に美優は愚痴をこぼした。

「たくもう、しつこいんだよ。龍崎のやつ」

龍崎というのは担任の教諭の名前である。やんちゃで幼児体型の美優とは真逆にあるような、しとやかで出るところが出ている結子が苦笑しながら答える。

「まあ、ちょっと、厳しすぎかもね」
「ほんとだよ!1分くらい遅刻したからって…」
「大声も、出したけどね」

美優の顔がまた真っ赤になる。

「それは結子がおちょくるからじゃないの」
「私は見たまま言っただけだよ。本当にりんごみたいに赤かったんだから。美優ちゃんの顔」
「うるさい!」

そこで、美優は周りの視線が自分に集まっていることに気づいた。また声を大きくしすぎたようだ。

「な、なによ」

美優はその視線に言い返すように細々と声を出した。クスクスと笑い声が聞こえたが、視線はまた散らばって行った。

「また、笑われちゃった、伍樹くんに」
「伍樹君だけ気にするんだね」
「し、仕方ないでしょ…」
「まあね」

2時間目が始まると、すぐに嫌なことは忘れてしまい、授業に集中…ではなく居眠りを始めてしまう美優だった。


ーー何…?どこ?ここ…

美優の目に見えている世界。どこか雲の中のような、白いもやに包まれている場所。美優はそこに漂うように存在していた。

服も全て無くなり、美優は生まれたままの姿になっている。その凹凸に乏しい体が、唐突に変化を始めた。

ーー何…?

はっきりとしない視界の中で、美優は自分の体が大きくなっていることに気づいた。あっという間に、まるで結子のように、胸は膨らんで、身長が伸びていた。

ーー私、どうなってるの?

「美優ちゃん」

そしてこれも何の前触れもなくかけられる言葉。それは、伍樹の声だった。大きくなった美優の前に、忽然と伍樹が姿を現したのだ。

「伍樹……くん?」
「きれいだよ、美優ちゃん」

伍樹は美優にすっと近づき、体を抱きしめた。

「伍樹くん…」

美優も抱きしめ返す。降って湧いたような幸福に身を任せるように。


「美優ちゃん」
「伍樹くん…えっ?なんだ結子か」
「そんなことより、起きて!」

美優はいつの間にか自分のカバンを抱きしめ、恍惚の笑顔を浮かべていたようだ。その前には、老いた社会科教諭の怒り狂った顔がある。

「八戸さん。私の授業、聞く気が無いなら教室の外に行ってくれませんか」

怒りと老い、どちらから来ているのかわからない震えが混じった声で、教諭は告げた。

「え…。うそお」

夢の中の幸せと、現実の辛さのギャップに嘆く美優。2時間目が終わるまで、廊下に立たされてしまったのだった。


その日の夜。居眠りの夢などすっかり記憶の彼方にあった美優だったが、ベッドの上で自分の小さな手を見て、珍しく思い出したのだった。

「あの夢、なんだったんだろう?今まで見たこと無いような。私の体、あんなに大きくなって…」

身長が140cmから160cmまで伸び、胸はAAAカップからDカップまで膨らんでいる夢の中の自分を思い浮かべる美優。

「結子みたいなおっぱいが大きくて、背が高くて、髪もサラサラで綺麗な子になれば、伍樹くんも振り向いてくれるのかな?私を女の子として見てくれるのかな」

しかし、夢の中と現実の違いは、目の前にある小さな手に痛いほど見せつけられていた。大きくため息をつく美優。

「はぁ…まあ、仕方ないよね。私は、ちんちくりんだって事実は、どうしたって変わらないんだから…ふぎゅっ!?」

突然美優の体を襲った衝撃に、奇声をあげてしまう。

「なに…?今の…っっ!!?」

再びドクンッと衝撃が襲う。そして美優の目に飛び込んできたのは、グニグニと形を変える自分の手だった。

「えっ…何よ!…うぐっ!!」

衝撃は止まることがなかった。今度は次第に美優の体に熱が溜まって行く。

「体の中が…変に…」

その発生源がわからない熱は、とどまるところを知らないように、たまり続けて行く。

「熱い、熱いよ!!」

そして、美優の体の中で何かが動き回っているかのように、グギュルギュギュと音がし始めた。

「私、私…うわあああ!!!!」

耐えきれなくなった美優が悲鳴を上げると、その体が空気を入れられる風船のようにブクーッと膨れ上がった。寝巻きの中から肌色の双丘が飛び出し、ブルンと揺れ、座高が伸びて美優の視線が一段上がる。手足は寝間着の中からニョキニョキと出てきて、同時についた豊かな皮下脂肪で寝間着がパンパンになってしまった。ショートボブだった髪もセミロングまで伸びた。その全てが終わると、何事もなかったかのように熱も、音も、無くなった。

「はぁ…ふぅ…何…今の…」

美優は精神を解放され、息を落ち着けながら自分に何が起こったかを見た。目線のしたには夢にまで見た大きな乳房、寝間着の間から覗く腰にはくびれが、足は適度に太さがついて、触るとプニプニとしている。それに、背も伸びている。

「わ…私、大きくなっちゃった!」

美優を支配したのは困惑ではなく無上の喜びだった。

「これだったら、伍樹くんも……明日が楽しみ!」

これから起こる惨事など、今の美優に知るすべは無い。美優はパンパンになった服のまま、布団に潜り込み、そのまま深い眠りについた。

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感染エボリューション 序章

ある都内の薬品会社ビル。その地下深くに、研究室があった。国の地図にも載らず、政府の重役と、研究所の関係者以外、誰もその存在を知らない、極秘の研究所だ。床と壁は吸音性の素材で作られ、核分裂炉による自家発電を行うその研究所は、国の存続に大きく関わるような研究を行い、その時も、同じように繊細で大規模な研究が続けられていた。

だが、保管品のチェックをしていた所員が、叫んだ。

「ウィルスAP-04とその抗体の試薬びんの、数が足りません!」

一大事だ。薬品が漏れ出すことなど、あっていいはずがなかった。それに、今回見つからないのはウィルス。非常に不安定で、なおかつ感染性の高いもので、元のものが無害であったとしても、感染している間に突然変異を起こして、致死性すら簡単に発現するような、大変危険なものだ。

「なんですって!?」

それを聞いたもう一人の女性所員は、当然驚きを隠しきれていない。

「すぐに見つけ出しなさい!さもないと…」
「所長!大変です!」
「今度は何ですか!」

女性所員は、どうやらこの研究所の所長であるようだった。もう一人の所員は、タブレット端末を所長に渡した。

「それは……このビデオを見ていただければ早いかと」
「これは……テレビニュース?」

その画面には、ニュースキャスターが二人映っている。女性アナウンサーが、ニュースを読み上げている。

『本日未明、東京、練馬区のコンビニエンスストアで……』
「何も起こらないじゃないの、今はそれどころじゃないのよ!?」

焦りから気が短くなっている所長は、食い気味に所員に問いただした。

「落ち着いてください!私の予想が正しければ、所長にとって非常に重要な事のはずです」

映像の中で、アナウンサーが原稿を読み続けている。

『これにより、コンビニにいた35歳の男性てんいっ……!』

だが、それはいきなり中断されてしまった。アナウンサーは何かの衝撃が加わったかのように、目を丸くしている。

『熊野さん、大丈夫ですか?』

隣にいる男性アナウンサーに尋ねられ、女性は我に返る。

『あ、大丈夫……です。失礼いたしました、コンビニ……!あぁんっ!』

また遮られてしまう。今度は喘ぎ声まで出てしまって、アナウンサーは少し下を向いてハァハァと荒い息を立てている。

『く、熊野さん!?』

しかし女性アナウンサーからの応答はない。代わりに、アナウンサーは胸を抑えて、報道の口調を崩して言った。

『んぐ……胸が……熱いぃっ!』

そして、その言葉と同時に、腕の下でYシャツの生地がギュッギュッと動きを見せた。横に引っ張られている様子を見ると、にわかには信じがたいが、胸に厚みが出てきているようだった。

『くぁっ……あぁっ!……ああああっ!!』

アナウンサーが叫び声を上げると、シャツのボタンが1個、2個と飛び始め、中身が見え出した。そこには、白いブラジャーからはみ出て成長する、2つの大きな肌色をした塊だった。

『なんで……私の!……おっぱいがぁ!!』

それだけでなく、背も少しずつクックッと上がり、ボブカットにしていた髪も、サラサラと伸びていった。そこで、映像は途絶えた。所長は、放送するに相応しくない場面が展開されたことで、緊急に放送が中止されたのだろう、と察した。

――これは……まずいわ……

そして、すぐに部下に大声で指示を出す。

「私達が思っている以上に、事態は深刻だわ!!急いで、情報を集めて!!」
「はい!!」

二人の所員は、その場から走り去っていった。所長は、その場で頭を抱えた。

――なんてことなの……私の作ったウィルスが……

この話は、悲惨な事故に巻き込まれた、とある不運な少女の物語である。

||次話>>

トキシフィケーション ~TS・AR編~

自分でも納得行かなかった文章はSNSサイトにアップロードせずにこちらに公開します。こちらのシリーズの没作品です。


 

今日の被験体は、ユージーン・ジョンソン、私の会社の理事だ。彼には、ある秘密があって、私の実験には最適だった。

「お、おい!ここはどこだ!お前!」
「ミスター・ジョンソン、私の実験室へようこそ」
「なぜ…私の名前を…?お…お前…!見たことあるぞ!あの陰湿な…清掃員か…!」
「その通りです、今日は私の実験にお付き合いいただこうと思って」

彼は、すでに私の実験台の上に寝かせてある。睡眠薬の効きが弱く、ジャケットしか脱がせることが出来なかった。だが、50歳にしてはほっそりして、健康的だった。

「何するつもりだ!このチューブは何だ!今すぐ放せ!さもなくばクビにしてやるぞ!」
「まあ、そうかっかなさらず。きっと気に入っていただけるはずです」
「気に入る?何を…?」
「私の毒。これは、人の体を、豊満な女性に変えるのです」
「な…?お前…まさか…!」
「さあ、始めましょうか」

スイッチをカチッと入れ、毒の注入を開始した。

「ぐ…!」

ユージーンは体を強ばらせた。時折、ビクンと体が跳ねる。

「んああああっ!」
《ムクムクムクッ!》

彼が大きな声を上げると、胸のあたりが急激に膨らんできた。ワイシャツは限界まで引っ張られるが、それでも止まらない膨張で、ボタンがプツッ!プツッ!と取れる。現れた膨らみは、筋肉の発達というよりは、脂肪の増殖のような形だった。

「んんんっ!」
《ビリッ…ビリッ…!》

下に着ているシャツが徐々に破れ始める。

「おいおい…」

そこに現れたのは、老婆のようなしわしわな乳房だった。大きさだけがものすごい。

「うがぁっ!」
《シュルシュルシュル…》

ユージーンが力を抜くと、同時に乳房が収縮を始めるが、その分の脂肪が行ったのか、腕の部分が太くなって、そこからもビリビリと音がし、袖が縫い目からとれ、さらに一部が破けた。私は、そこから、袖を完全に破り、上半身はほぼあらわになった。

「ん…ぐ…」

あらゆる所に刻まれた深いシワが、消えたり、また刻まれたりを繰り返す。だが、少し黒ずんでいた皮膚は、徐々に白さを帯びていく。

「ああああっ!」

白髪を少し含んだ黒い短髪が、バサッ!と伸び、同時に根本から金色に変わった。

「んっ…ああっ!」

声が変わっていく。年季の入った、所謂ダンディーな声がみずみずしさを取り戻す。

「あああああああ」

そしてトーンが上がり、女性のものとなる。

「ぐあああっ!」
《ビリッ!》

ズボンの左足が破けた。中からは、むっちりと脂肪が付いた、女性の足が出てきた。それはすぐに萎むが、

《ビリッ!》

続けざまに右足が破ける。またそれも萎む。

「あぅっ!」
《ビリリッ!プルンッ!》

その縦に入った裂け目が、一気に腰の方まで行ったかと思うと、プルッとした柔らかそうな塊がでてきた。同じように縮む。

そして、その変化が移っていくように、ウエストがギュッとしまり、乳房が膨らみ始める。どちらも、ハリとツヤを取り戻した綺麗な肌に包まれていた。

「んっ…くうっ…!」
《ムクッ!ムクムクッ!》

乳房はどんどん膨らむが、ウエストが元の中年の男に戻ると、収縮を開始した。そして、何もなかったかのようにシワの入った平らな胸板に戻った。

「い、いたいぃっ!」

顔の作りが変わる。顎は小さくなり、唇は大きくなる。目はキッとしたつり目に成る。

《ボンッ!》
「うぐっ!」
《バインッ!》
「がぁっ!」

乳房が、右から順に、その顔と同じくらいまでに急激に大きくなった。今度は、そのままだった。

《ムククーッ!》

下半身が、風船が膨れるように大きくなった。シワはほとんどが綺麗に消え去り、若々しくて、ムチムチとしている。これまでの3人と、変わりない。

「んっ…!」

他の部分からもシワは消え去るとともに、ゴツゴツとしていた体の表面がふっくらとした皮下脂肪に覆われ、なだらかになる。

「あああっ!」

ゴキゴキと骨格が変わり、腰は太く、足が内股に近くなる。

そして、変身が終わった。
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今回は、注入量を100mlにしたせいか、あまり体は大きくならず、女性の特徴もそんなに大きくならなかった。

「終わりましたよ」
「…ん…なんだこれはぁ!」

ユージーンは鏡に写る自分を見て、かなり驚いている。だが、思った通り、満更でもないようだ。

「ミスター・ジョンソン、こういう服はお好きでは?」

それを見た私は、クローゼットからゴシックドレスを取り出した。

「ん…?そ、それは!」
「そうです、あなたのご趣味の、女性の衣装です」
「なぜ、それを…!」
「それは、とにかく…」

私は、リモコンで拘束具を外した。

「お召しになってみては…?」
「わ、私は…そんな…」
「さあ、自らの欲求を抑えることはありません。それに、これ以外に服がありませんし」
「くっ…」

ユージーンは、慣れた手つきで、ドレスを着ていく。

「これが…私…サイズも…ピッタリ…」
「化粧も、必要ないですよ」
「そうね…いや!…そうだな…」
「男口調を作る必要なんて無いですよ。むしろ、不自然です」
「そ、そう?じゃあ…エヘンッ…」

ユージーンは、咳払いをし、ポーズを取った。

「私、ユージーナ!ジーナって呼んでね!」

非常にかたわら痛い。だが、ここは我慢だ。

「ジーナさん、お綺麗で」
「ありがとう!あなたの、名前は?」
「ジャック・マクファンです」
「ジャック!これから、よろしくね!…はぁっ…」

ユージーンは、嬉しそうに息を吐いた。

「どうですか?気持ちいいでしょう?」
「そうだな…これまでの体では、感じられない快感だ…」
「体を小さな女の子になる薬もありますが?」
「ん…また今度…お願いするよ…ではなくて…なぜ、このことを知っていたんだ?」
「ちょっとした、レシートを拾いましてね…」

本当は、女装癖を嗅ぎつけた私が、シュレッダーに細工をしてまで手に入れたものだったが。そのレシートには、奥さんの歳にも見合わないドレスが数着記載されていたのだった。中には特注のものも。

「そ、そうか…まあ、いいんだ。こんな体験、お前抜きじゃ出来なかっただろうからな」
「お喜びいただけたようで、なにより」
「あと…これ、元に戻れるんだろうな」
「ご心配なく。一定時間毒の効果を抑える薬がありますよ」
「完璧だ。…そうだ、何か私にできることがあったら、いつでも私の番号に掛けてくれ」
「ありがとうございます」
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ユージーンは、若い女性の姿のまま、ドレスを来て帰っていった。服代はまかなってもらったが、これからも、薬を作る資金を、提供してもらうことにしよう。

…私の計画も、もうそろそろ実行に移す時が来たようだ。しかし、あと一回、実験を行う必要があった。