ある都内の薬品会社ビル。その地下深くに、研究室があった。国の地図にも載らず、政府の重役と、研究所の関係者以外、誰もその存在を知らない、極秘の研究所だ。床と壁は吸音性の素材で作られ、核分裂炉による自家発電を行うその研究所は、国の存続に大きく関わるような研究を行い、その時も、同じように繊細で大規模な研究が続けられていた。
だが、保管品のチェックをしていた所員が、叫んだ。
「ウィルスAP-04とその抗体の試薬びんの、数が足りません!」
一大事だ。薬品が漏れ出すことなど、あっていいはずがなかった。それに、今回見つからないのはウィルス。非常に不安定で、なおかつ感染性の高いもので、元のものが無害であったとしても、感染している間に突然変異を起こして、致死性すら簡単に発現するような、大変危険なものだ。
「なんですって!?」
それを聞いたもう一人の女性所員は、当然驚きを隠しきれていない。
「すぐに見つけ出しなさい!さもないと…」
「所長!大変です!」
「今度は何ですか!」
女性所員は、どうやらこの研究所の所長であるようだった。もう一人の所員は、タブレット端末を所長に渡した。
「それは……このビデオを見ていただければ早いかと」
「これは……テレビニュース?」
その画面には、ニュースキャスターが二人映っている。女性アナウンサーが、ニュースを読み上げている。
『本日未明、東京、練馬区のコンビニエンスストアで……』
「何も起こらないじゃないの、今はそれどころじゃないのよ!?」
焦りから気が短くなっている所長は、食い気味に所員に問いただした。
「落ち着いてください!私の予想が正しければ、所長にとって非常に重要な事のはずです」
映像の中で、アナウンサーが原稿を読み続けている。
『これにより、コンビニにいた35歳の男性てんいっ……!』
だが、それはいきなり中断されてしまった。アナウンサーは何かの衝撃が加わったかのように、目を丸くしている。
『熊野さん、大丈夫ですか?』
隣にいる男性アナウンサーに尋ねられ、女性は我に返る。
『あ、大丈夫……です。失礼いたしました、コンビニ……!あぁんっ!』
また遮られてしまう。今度は喘ぎ声まで出てしまって、アナウンサーは少し下を向いてハァハァと荒い息を立てている。
『く、熊野さん!?』
しかし女性アナウンサーからの応答はない。代わりに、アナウンサーは胸を抑えて、報道の口調を崩して言った。
『んぐ……胸が……熱いぃっ!』
そして、その言葉と同時に、腕の下でYシャツの生地がギュッギュッと動きを見せた。横に引っ張られている様子を見ると、にわかには信じがたいが、胸に厚みが出てきているようだった。
『くぁっ……あぁっ!……ああああっ!!』
アナウンサーが叫び声を上げると、シャツのボタンが1個、2個と飛び始め、中身が見え出した。そこには、白いブラジャーからはみ出て成長する、2つの大きな肌色をした塊だった。
『なんで……私の!……おっぱいがぁ!!』
それだけでなく、背も少しずつクックッと上がり、ボブカットにしていた髪も、サラサラと伸びていった。そこで、映像は途絶えた。所長は、放送するに相応しくない場面が展開されたことで、緊急に放送が中止されたのだろう、と察した。
――これは……まずいわ……
そして、すぐに部下に大声で指示を出す。
「私達が思っている以上に、事態は深刻だわ!!急いで、情報を集めて!!」
「はい!!」
二人の所員は、その場から走り去っていった。所長は、その場で頭を抱えた。
――なんてことなの……私の作ったウィルスが……
この話は、悲惨な事故に巻き込まれた、とある不運な少女の物語である。
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