手を握り合ったまま、二人はしばらくの間見つめあっていた。身長差が1m以上あるせいで、伍樹は美優を見上げ、逆に美優は伍樹をしたに見る形になっていた。
「手を繋いだら、俺の体から何かが出て行った…」
「そしてあたしには…何かが入って来た」
「俺は元通り…小さく」
「あたしは…もっと大きく」
そこに、保健室の扉がガラガラと開かれる音が飛び込んで来た。
「誰!?」
「私だよ、ジャージと抗体、持ってきたよ」
結子は部屋に入って来て、二人を見た。そして少し目を大きく開いて、美優を品定めするように眺める。
「美優ちゃん…だよね?」
「うん…」
「また、大きくなっちゃったんだね」
「そうなんだよ。治ってなかったみたい」
結子は深くため息をついた。
「それで、結子ちゃん」
「なに?伍樹君」
「不思議なことが起こって…結子ちゃんがこんなに大きくなる時点で十分不思議なんだけど、俺と美優ちゃんが手を繋いだら…」
「あたしが大きくなって伍樹くんが小さくなったの」
結子はそれを聞いて、首を傾げた。
「どういうこと?」
「まるで、あたしの中に何かが入り込んで来たみたいな感覚がして、そしたら体がもっと大きくなって…」
「ふーん…それ、ウィルスが移動したってことかな」
美優と伍樹が同時に手をポンと打った。
「そういうことか!」
「え、そこで納得する?普通、思いつかないかな」
「仕方ないでしょ、立て続けに大きくなったり小さくなったりしたんだから、こっちは」
「いや、責めるつもりはないけどね。それよりほら、美優は抗体のもうよ。それ以上大きくなると保健室からでられなくなっちゃうよ」
「うん」
美優は結子から差し出された抗体を受け取り、飲んだ。すると、前と同じように信じられない量の、それこそ美優の縮む量と同じくらいの、汗を出して、美優は元の小さな体に戻った。
「はぁ…ふぅ…これが…ウィルス…なんだね…」
床にできた水たまり、というより保健室の床一杯に溢れる洪水を見ながら美優が言った。ベッドの上に避難した結子は、苦笑いした。
「あはは、こんなに美優の中にウィルスがいたなんてね…正直、信じられないよ」
「だよ…ね…」
熱に精神を疲弊した美優が、息も途切れ途切れに喋る。そのうちにも、汗の海は干上がって行った。
「これで伍樹君以外元通りだね!」
「俺も元通りになりたいんだけど…」
結子は安心した顔を一瞬見せたが、表情が凍った。
「どうしたの?結子」
「ねえ、あの人」
「どの人?」
美優は真顔だ。どうやら昼に会った青年のことをわすれてしまったらしい。結子は頭を抱えた。
「あのねえ…とにかく、感染してるのは伍樹君だけじゃないってこと」
「え?」
「そういえば…望のやつも…」
伍樹も難しい顔に戻る。美優は今だに話について行けず、二人を見ているだけだ。暇をもてあそぶように、手で太ももをすりすりと撫で始めた。
「そう。望君も伍樹君が変身する時、汗を触っちゃったの」
「てことは…」
ちょうどその時、保健室の扉がガラッと開いた。
「どなたですか?」
結子がその扉の方に呼びかける。
「伍樹くぅん…ここにいるんでしょ…?」
聞き覚えの無い、幼いが淫らな口調の声が聞こえてきた。
「まさか…」
「そのまさかよ!」
飛び込んで来たのは体操用のジャージの上着だけ羽織った、今の伍樹と同じような小さな少女だ。そして、ベッドに腰掛けた伍樹に抱きつく。
「伍樹くん…会いたかった…」
「お、おい…」
なにが起こっているか見当がつかない美優は、その少女に尋ねた。
「ねえ、あなた、誰?」
「わたしぃ…?のぞみ、よ」
「のぞみ!?」
大声を上げる伍樹をよそに、さらに混乱した美優。「のぞみ」など聞いたことが無い名前だった。
「ね、ねえ…どうなってるの?」
「気づかないの?美優ちゃん。これ、望君だよ」
「その名前はもう捨てたの!」
「え…望君?名前、捨てた?」
結子と、のぞみと名前を変えた望から同時に話しかけられ、混乱は頂点に達する。結子は美優の両肩に優しく手を置いた。
「美優ちゃん、深呼吸」
美優は胸に手をおいて、深く呼吸した。
「落ち着いた?」
「うん」
「じゃあ、一つ一つ説明するね。まず、伍樹君が教室の中で成長した時、望君は伍樹君の肩に触れてたでしょ?」
「あー、そうだったね」
「それで、望君にもウィルスが感染したの」
「うん」
「で、伍樹君は感染した後、こんなに小さな子になったよね」
「そうだね」
「てことは、同じように感染した望君も…」
「小さな子になるわけだ」
「そう!だからここにいるのは」
「望君」
「正解!」
「やった!」
子供のように喜ぶ美優。結子は再度頭を抱えた。
「美優ちゃん、こんなに子供っぽかったっけ?」
「それよりも…伍樹くん…」
「な、なに…?」
のぞみが伍樹に擦り寄る。外見からすると小学生二人がイチャイチャしているようだ。
「わたし、気づいたの…伍樹くんのこと、ずっと前から好きだったって…」
「へ?」
「わたしも女の子になって、同性愛でもなんでもいいことがようやくわかったの」
「いや、良くないだろ!」
先ほど「俺は同性愛者じゃ無いんだ!」と教室から飛び出して行った望とは、まるで主張が異なっている。伍樹はのぞみの肩をがしっと掴み、前後に揺さぶった。
「目を覚ませ、望!お前はこんなこと言うやつじゃなかったはずだ!」
しかし、のぞみは揺さぶられ終わると、とろんとした目で伍樹の瞳を覗き込む。
「違うの伍樹くん…これが本来のわたしなの」
伍樹の着ているワイシャツのボタンを一個一個外し始める。
「でも、こんな体じゃつまらないでしょ?わたしも、さっきの伍樹くんみたいに大きくなる」
「え…」
伍樹のシャツを脱がせ終わると、自分もジャージを脱ぎ捨てる。結子と美優が見ている前で、のぞみの凹凸の無い綺麗な体があらわになった。のぞみは、自分の胸と伍樹の胸を合わせ、こすり始めた。
「あん…体が…疼いて来たぁ…」
「や…やめ…ろっ!望…!!」
「わたしも、大きくなる…大きく…なるぅ!!」
のぞみが叫ぶと、それは始まった。すり合わされている胸が、脂肪と乳腺が同時に発達し、内側からムクムクと押し広げられる。そして、体の動きに合わせて、上下左右にムニムニと動く。
「ん…いい…この感覚…いいよぉっ!」
「のぞ…む…!!」
その動きを支える下肢も、ググッと長くなり、動き自体が大きくなって行く。しかし、それに釣られるように乳房も大きくなり、動きによってより大きな歪みを発生させて行く。
「わたしの…なまえは…はぁん!!」
「おもいよ…あぁっ」
脊椎が長く太く発達し、上体が伸び、それと時を同じくして太くなる。体重が重くなり、伍樹はベッドの上に押し倒されてしまった。
「のぞ…み…!だって…くぅっ!」
伍樹の上に覆いかぶさる形になったのぞみが、ベッドの上についた腕がグキュッと長くなり、同時に掌もそれに釣り合って成長する。髪も伸び、伍樹の顔の方に垂れ下がる。
「言ってる…でしょおっ!」
全身にムチッと脂肪がつく所につき、それまで胸以外の凹凸に乏しかった見事な曲線美が作り出された。のぞみは、その大きくなった体と二つの潰れた果実で小さな伍樹をベッドの上に拘束した。
「ね…?伍樹くん…?」
「ひ…」
のぞみの口元は緩み、影の中で光っているような瞳のおかげで、その顔はまるで獲物を手に入れたヒョウのようだった。伍樹は震え上がって、動くことができない。
「あなたはもう、わたしのもの…」
「の…のぞ…うっ…!」
「あら?伍樹君も大きくなるの…?」
のぞみの言ったとおり、先ほど小さくなったばかりの伍樹の体の表面がざわざわと波立っていた。
「ち…ちが…俺は…」
「なにが違うの…?体は正直なようだけど」
のぞみの胸を押し上げるように、伍樹の胸板に厚みがで始める。二人の胸はムニィッと横に潰れていく。力なくベッドの上に横たえられている腕も、ムギュムギュと、大人の腕へと成長し、押された手は横へと進んでいく。ベッドの端から垂れている脚は、ムクムクと体積を増加させる。
「ん…ぐっ…」
「わたしに追いついて来たわね…じゃあ…わたしももっと大きくなっちゃおうかな…」
のぞみの肢体も、自分で言った通りに、どんどん大きくなる。伍樹に体重を預けたままの乳房も、プルプルと振動しながら拡大する。
「んはぁっ…!」
伍樹が先ほどの、結子と同じくらいの大きさまで成長した時、のぞみはその二倍の身長と、比べ物にならないほど大きな、呼吸でたゆんたゆんと揺れる双つの乳房を、伍樹の身体の上に乗せていた。伍樹がのしかかられ、動けないことには変わりなかったのだ。
「伍樹くんの体もこんなに大きくなっちゃうなんて…ふふ…これからが楽しみ…」
上半身の体重を胸とその下にいる伍樹に預け、のぞみが、伍樹の顔を愛でる。
「すべすべしたお肌…ああ、なんて素敵なの」
のぞみは狂気の混じった顔に恍惚の表情を浮かべる。
「望…」
対して、伍樹の方に浮かぶのは、絶望と悲哀。
「お前は、俺の親友…のはずなのに…どうして…」
「伍樹くんはわたしのペットよ…伍樹くんがかわいいのがいけないの…」
今度は身体を上から下までスーッと撫でる。
「それに、こんなに魅力的…最高よ」
「…最低だよ…お前がこんなになっちまうなんて…」
「わたしだって…こんなになるとは思っても見なかったわ…でもそれは神様からの祝福…さあ…存分に…二人で…っ?」
言葉が急に途切れる。のぞみは、顔をゆがませ、振り向いた。美優が、その太ももに触れていたからだ。
「なにするのよ、わたしたちの至高の時に、水を差すつもり…?」
「うん、そうだよ。もう、伍樹くんから離れて」
美優はいつになく強い声を出す。その声は、決意に溢れている。
「ふん、美優ちゃんの小さい体じゃ、なにもできないわよ…」
「それは、どうかな」
「なっ…あ…わたしの…体が…!!」
のぞみの体が、縮み始めていた。特に成長の大きかったその胸が、風船から空気が抜けて行くように、内側に引っ込み始める。
「あたしが、全部吸い取る…っ!」
美優は、伍樹の時と同じように、腕から何かが流れてくるのを感じていた。その何かは、体の中に入り込み、美優を内側から外に押し出していく。あっという間に、美優は結子の体型に追いついた。
「やめて!わたしの体を…取らないで!!」
のぞみは喚き立てるが、美優にその体型を奪い取られるかのように、急激にしぼんでいく。美優ののぞみに当てられた手は、その身長差が逆転するのと並行して、太ももから背中、そして肩へとその位置を変える。
「んっ…おっぱい…重い…」
あまりにも大きくなった、もはや球となっている二つの膨らみに、美優が耐えきれずしゃがみ込む。乳房はその脚に乗り、ムニュンと横にゆがんだ。
「いや!いやだ!伍樹くんはわたしのもの!美優ちゃんなんかに、絶対渡さないんだから!!」
中学生の大きさまで縮んだのぞみが、伍樹にしがみつく。伍樹はその頭を撫でた。
「大丈夫、だけど俺とお前は親友、それ以上にはなれないんだ」
「伍樹…くん…」
美優に吸い尽くされ、伍樹は幼稚園児、最後には2歳ほどまで小さくなった。
「ごめん…わたし…どうにかしてた…」
舌足らずの言葉を紡ぎ出すのぞみ。伍樹は母性溢れる女性の体で、優しく抱きしめる。
「だけど、伍樹くんのこと好きなのは、ほんと」
「分かったよ、だから二度とこんなことしないでね」
「う、うん。わたし、おうちかえるね」
のぞみは伍樹の抱擁が解かれると、床に落ちていたジャージを着直して、トテトテと小さな足音で保健室から出て行った。
「ふう…一時はどうなることかと思ったよ、ありがと、美優ちゃん…」
「えへ…伍樹くんが苦しそうだった…から…」
美優は床にしゃがみこんだまま、立てば天井に頭を打ちそうなほど大きな体を抱きかかえていた。
「また、抗体、飲まないと」
「うん、美優ちゃん。はい」
美優は、前回と同じく、何十リットルもの汗を床に垂れ流し、元に戻った。
「なんか…わたし、疲れちゃった…ちょっと…休ませてね」
保健室のベッドの上に横たわった美優は、深い眠りに落ちた。