ここは山奥の温泉。寂れた宿屋に、3人の家族が訪れていた。父親と、母親と、小学生の子供だ。
「やっとついた……こんな秘境、よく見つけたな……」
「ええ、そうね……」
父親、大介（だいすけ）は30代のサラリーマン。妻の花菜（かな）がチラシのスミに書かれていた宣伝を見て、子供の真波（まなみ）と一緒に行きたがったことで、近くの街から車で1時間もかかるこの宿に行くこととなった。
「イラッシャイマセー」出迎えるのは、アメリカ人のような背の高い男性。多少なまっているが、和服を着て落ち着いた雰囲気だ。
「あら、外国の方なのね」
「マズハ、オチャデモー」
玄関で靴を脱いだ三人を見て、靴を下駄箱に入れながら中に案内する。朽ちた外観とは裏腹に、内装は都心の宿に引けを取らない近代的なものだった。
「古宿に泊まるのは、少し不安があったけど、これなら大丈夫そうね、ね？真波？」
「うん！でも私、もう疲れた……」
真波は、そのロングヘアを手ぐしでときながら、小さなあくびをした。
「あらあら、じゃあお茶は後にして、お風呂でも入ってくる？」
「どうしよう、一人で大丈夫かな」
「ソレナラ、オチャヲ イレタアトニ ワタシガ ゴイッショシマスヨー」
宿の主人が、宿泊部屋に案内しながら、ニコニコと微笑んで言った。両親は荷物をおろしつつ、その主人の善意の笑みを信頼することにした。
「それでは、よろしくお願いします」
「デハ、オチャヲ オモチシマース。ゴユックリー」
「ありがとうございます」
主人は、ふすまを閉じて立ち去っていった。大介は早速テレビを付けて、椅子に座りくつろぎ始めた。
「ふう、こんな田舎に、ここまで綺麗な宿があるとはね」
「そうね……」
その部屋は、つい最近につくられたと思えるほど整っていた。テレビも最新型の4Kモニターで、エアコンは変色の一つもしていないピカピカの新品だ。
「ねえ、なにかおかしいと思わない？」
「そうか？別にそんなことないだろ。おい、真波、お風呂にいく支度をしておいて」
「あ、はい、お父さん」
大介は立ち上がると、荷物の鍵を開けて、その口を開けた。真波は、それを見て自分の下着を取り出した。
「あ、真波、浴衣も持っていきなさい」
「うん」
と、そこで部屋のふすまが開き、主人がお茶を持って入ってきた。
「オマタセシマシター」
—
その後、真波は主人に付いて風呂場に向かっていた。
「おじさん、お風呂ってどこにあるの？」
「モウチョットデスヨー」
彼の言うとおり、そのすぐ先に、風呂場はあった。ただ、更衣室がない。通路のすぐ先に、緑の湯が入った風呂桶があった。
「え、ど、どういうこと……？私、服脱がないとお風呂なんて……きゃっ！」混乱する真波だったが、その体がひょいっと持ち上げられた。
＜ふふふ、こんなに簡単に隔離できるとはね。それでは、アジア人の体で、皮膚接触で摂取可能な毒の効果を実験させてもらおうか！＞急に日本語を喋ることをやめた主人の表情は、ニタァっと悪意に満ちたものになる。
「え、英語……？なの……！？や、やだ、お母さん！お父さん！！」
風呂桶というより、風呂桶型の薬品容器に真波は放り込まれようとしていた。
「やだ、やだぁっ！」
「シャラップ！！オトウサン、オカアサン、スイミンヤクデ グッスリ！！」
そしてついに、真波は緑の液体の上に運ばれてきてしまった。
「ひっ、ひぃっ！」
「レッツスタート！」
《バシャーンッ！！》
真波を支えていた主人の腕が降ろされ、真波は容器の中に落ちた。
「んんんっ！！！！」
真波はすかさず容器から出ようとするが、一瞬で容器に透明なフタがされ、脱出はままならない。だが、真波に襲いかかったのは閉じ込められた絶望ではなく、全身への激痛だった。
＜よし、予想通りであれば成長を……ん……？＞
自分の体を抱きしめ、悶え苦しむ真波だが、その右腕が、急にブクッと膨れ上がり、服が勢い良く破れた。その腕は、筋肉が異常に発達していた。
＜こいつ、もしや男……？＞
スカートから覗く左足が、ギュイッと伸び、そして同じく筋骨隆々に育つ。それはすぐにもとに戻ったが、筋肉がピクピクしている。
＜ふむ……女装だったのか……＞
「（私は、女なの……！！）」容器の中で、股間の何かが急成長している感覚を覚えた真波は、服や髪型で隠していた本当の性別を拒絶しはじめていた。目を開けると、細い左手がグワアッと大きくなる。それは、紛れもなく男のもの。
「（いや、いやぁっ……！！）」スカートの先から、ニュッと伸びたソレも、真波の意思を否定するかのようだった。しかし、それも一瞬の間で、股の間にギュッと入っていく感覚とともに、股間の棒は消え去った。「（はぁ……）」
安心したと思ったら、また股間から飛び出してくる真波の息子。先ほどよりも数倍大きくなっている。そして同時に、腹筋が膨れるように発達し、メキメキと割れていく。信じられない光景だったが、真波は大人の男性の姿に近づいていた。「（ちがう、違うのっ！）」
＜ふむ……男であることを否定したがっているようだが、それなら望みが叶うぞ……＞
「（きゃんっ！）」真波の股間が、中に飛び込むように縮み、そこにはただの筋が残った。その分、という感じに尻がブクッと膨れる。そして、腹筋がボコンッと消えてウエストにくびれができると、右足がボンッと二倍の長さに伸びたと思うと、過剰なまでの脂肪が発達し、まん丸とした丸太のような足ができた。
「（え、え？）」左足は筋肉、右足は皮下脂肪で大きく長く育っている。まるで、それぞれの足ごとに性別が異なっているかのようだった。だが、左足から筋肉が抜け、一瞬細くなったと思うと、右足のような脂肪でまるまると膨らんだ。
つぎに、右腕がギュッギュッと縮み始めたと同時に、平らだった胸がトクントクンと鼓動するように盛り上がり始めた。「（私に、おっぱいが……）」視界の下で膨らんでいく胸は、服を引きちぎりながら、ムクッ、ムクッと次第に人並みの女性ほどに育っていく。そして、そのスピードは緩むことなく、逆に速くなっていた。「（も、もういいから……）」
ドクンッ、ドクンッとさらに膨張していく胸。逆に、巨大に育った脚はギュッギュッと縮み始めていた。まるで、脚の肉が胸に移っていくかのようだった。「（これ以上、おっきくならないでぇっ……！！）」胸を押さえ込んでも、その勢いは収まらない。長ささえ短くなっていく脚の成長分が、胸に詰め込まれていく。頭よりも大きくなった乳房に、視界が埋められていく。「（破裂しちゃうぅっ……！！）」水に浮く二つの肌色は、その大きさが強調され、ついには容器を埋め尽くすほどの大きさにまで育つ。
＜よし、ここで吸収完了か……＞
主人が何か呟いたタイミングで、真波の体は型に押し込められるように、元の姿へと戻っていく。完全にもとに戻ると、フタが外れ、真波はやっと外に出ることができた。
「あ、あれ……？私、どうしたんだっけ……？」
「ユカゲンハ ドウデシタカー」
「あ、はい……よかったです……」
自分が裸なのを主人が見ていることも気に留められないほど、真波は疲弊していた。そして、薬品の効果か、変身中の記憶は失われていた。浴衣を羽織ると、真波はフラフラと部屋へと向かった。中に入ると、テレビが付いたまま、両親がうたた寝していた。
「おかあさーん、おとうさーん、もどったよー」
「ん……あぁ、真波、おかえり……寝てしまったようだな……やっぱり長時間運転は疲れるな……」
「ええ、そうね……」
大きなあくびをしながら目覚める二人に、すこし笑いながら、無意識に、父親の方に歩いて行く真波。
「疲れたよ、お父さん」
「ん、そうだな……」
膝の上に頭を置き、うたた寝を始めた真波。その頬を、大介がなでる。
「本当に女の子みたいだな……」
「そうね……」
旅疲れした一家の、ゆっくりとした時間。それは、始まったとたんに、終わった。
「ううっ！！」
寝たはずの真波が、うめき声を上げて飛び起きたのだ。
「ど、どうした、真波！？」びっくり仰天の大介は、荒い息をあげる真波。
「わ、私、女の子になったの……！あの、お風呂に、入って……ああああっ！！！」
悲鳴と一緒に、浴衣から、真波の手足が飛び出す。それは、スラッとして透き通るような白い肌をまとい、まさに年頃の女性のものだった。
「真波！？」急に小学生から高校生くらいの体になった息子……いや、いまや娘となった真波に度肝を抜かれる母親。
「それで……はぁ……はぁ……私、すごく、大きく、なって……んんっ！！！」
ミチミチィッという音と共に、太ももが大きく膨らみ、同時に手足がまた一回り大きくなって、大介の背丈を追い越してしまった。
「ま、真波！？」
よく見ると、浴衣の胸の部分がムリムリと膨らんでいた。妻のものより一回り大きいそれに、鼻の下を伸ばしてしまう大介。それはさらに、ドクンドクンと段階的に膨らんでいた。
「た、助けて、お父さんっ……！！」
浴衣の帯がウエストにギッチリと締まってしまい、真波は必死に脱ごうとする。大介は危険を承知で、荷物の中から大きめのカッターを取り出し、何とか帯を切ろうとした。帯にはあまり大きな切込みが入らなかったが、それでも帯にかかる力が大きく、自然にちぎれていく。
「わ、私、まだ大きく……！！」
真波の体が、またグワッと一回り大きくなると、帯は一気に切れ、自由になった浴衣から裸体がさらけ出された。それは、まさしく女性のものであったが、父親よりもさらに一回り大きい体型で、日本人離れしたものになっていた。
「は、ははっ……真波……」
目の前でブルンブルンと揺れるおっぱいに気を取られつつ、カッターの刃をしまい机の上に置く。
「お父さん、怖いよ……っ！」真波は、その父親に抱きつく。だが、その瞬間また大きな悲鳴を上げた。
「きゃあああっ！！！」
そして、真波はさらに成長していく。バスケットボール大になっていた乳房が、その2倍まで一気に膨らむ。手足はさらに長く、そして太くなっていく。ヒップはボンッと大きくなり、ぶつかった机が大きく動いた。そして、その余波に巻き込まれた父親は、床に弾き飛ばされた。
「うーん……」意識が朦朧とする父親は、その頭上に大きな肌色の双球が迫ってきているのを感じた。そして、自分の体重など比にならないほどの重さを持った、自分の子供の体が。
「お父さん……きゃぁっ！！」再度長くなった脚が、ふすまを突き抜けて部屋の外に飛び出してしまう。父親に触れれば触れるほど、真波は巨大化していた。つい数時間前までは、女子の格好をしていたにしろ、男だった小学生は、いまや部屋の床を覆い尽くさんばかりの巨大な女性になっていた。
悪いことに、この成長で四つん這いになっても胸が地面につくようになり、床に気絶して倒れている父親との接触は、避けることができなくなってしまった。
「いや、いやあああっ！！！」グワワァッ！！！と真波は人の域を超えて大きくなっていく。尻の肉を皮切りに、天井を押し上げ始める真波の体。ギシギシと建物が悲鳴を上げ始めたその時に、真波はいきなり汗をかき始めた。大量の汗は床に溜まっていき、それは緑色を呈していた。
＜はぁ……ここまでくるとやりすぎだな＞
その後で、長靴をはいた主人が立っていた。汗は、次第に真波を覆うような信じられない量のものとなり、その汗が抜けた分、真波の体は小さくなっていた。汗の池の中、父親と母親は気を失って倒れていた。
—
その次の日。
「ありがとうございました、また来ますね」
「ハイ、マタノオコシヲー」
一家は、何事もなかったかのように、宿を去ろうとしていた。だが、その全員が女性になっていた。
「キヲツケテクダサイネー」
「ええ、帰り道も長いですから……」元父親の女性は、車を恨めしそうに見つめた。だが、主人は首を横に振る。
「チガイマース」そして、父親の肩をポンッと叩いた。瞬間、その胸がボインッと爆発したかのように膨らんだ。「ダンセイト セッショク、ノー！ネ！」
「あ、はい……男の人に触れたら、大変なこと、になるんですよね？」
「ソーデス」巨大化した真波の写真を見せつける主人はニコニコと笑みを浮かべた。
「キミモ ゲンキデネ」と、主人は真波の頭を撫でた。
「あ、はい！女の子として……んひゃっ！」小学生の体が、ボンッと大人になった。「……また来ますね」
「ハーイ！コンドハ オトモダチモ ツレテキテネ……」
＜私の、実験台として……＞
