環境呼応症候群 評価の子

「これで、準備はよし、と……」

私は、葉隠愛真(はがくれ いとま)。外見からだと、中学生と思われるかもしれないが、立派な大学生だ。といっても、もともとこんなに小柄なわけではない。高校の卒業アルバムを見れば、いまよりも成長した私がそこにいる。

「で、服は脱いで、と……」

今は、私の一人暮らしの部屋、三脚に固定したカメラの前でパソコンを広げている。伸縮性のある水着――今の私には大きすぎるビキニを肩からぶら下げ、私がやろうとしていることは、私の姿をネット配信することだった。

「うわぁ、他の配信、エグい……」

普通の配信サイトではない、たった1年前まで私も年齢的には閲覧すらアウトだった、そういうサイトに、ライブ配信をするのだ。

その理由は、広告費でお金が欲しい、ということと、私がメタモルフォーゼ症候群にかかっていることの二つ。メタモルフォーゼ症候群とは、近頃一部の界隈で話題になっている、自分の置かれている環境に応じて体の大きさが変わってしまうという奇病だ。例えば、気温に反応して症状がでる患者は、暑ければ大人の体に、寒ければ子供の体になる。

「でも、そろそろ始めなくちゃね」

そして、私は、たくさんの人にプラスの評価を受ければ受けるほど体が大きくなり、マイナスだったら引き算されて小さくなる。でも、幼稚園児サイズより小さくなることはないみたいで、胎児になって消えてしまうとかいう命の危険にさらされることはない。大きくなる方は……今のサイズより大きくなるほど、評価を受けられないから、どうなるかわからない。年を取って死ぬなんてことは、ないはず……だよね。とにかく、私はもう少し大きくなりたかった。

「配信開始っと……」

使い捨てのマスクをはめて、配信を始めるボタンをクリックする。少しローディングの時間があって、その後に床においたノートPCを見つめる私が映った。

「えーと、コホン……」

他の配信は、ほぼみんな男女同士がアレコレやっているものだ。女子中学生が一人で映っているなんて配信、誰も来ないかも、とも思っていたけれど、そういう趣向の人もいるらしい。10人くらいが、すぐに配信を見に来た。その後も、ちらほらと増えていく。

「み、見に来てくれてありがとうございます……」

直後から、段々私の視線が下がり始めた。この18禁のサイトで、貧相な中学生が映っているだけ。そんなの、低評価を受けるに決まっている。だけど、最初はそれが狙いだった。

「ひゃっ、ち、小さくなっちゃうっ……」

そして、カメラに近づいて、膨らみかけだった乳房が縮んでいくのを、アップで見せつける。

「私、悪い評価を受けると、子供に戻っちゃうんですっ」

来場者数は減ることはなかったが、増え方も鈍ってきた。そして、20人ほどになっていた視聴者は、私が言ったことを信じていないようで、どんどん評価が下がっていく。

「だ、だめぇっ、私、赤ちゃんになっちゃう!」

私にカメラがどんどん高くなっていく。ついにレンズと私の背の高さが同じくらいになった。小学生低学年くらいになったのだろうか、でも、そこで変化が止まった。

「やっと……止まったぁ……怖かったよぉ……」

小さい子供って、こんな感じに振る舞ってたっけ?と思いつつ、泣き顔をしてみせる。すると、世のロリコン達の心をつかんだらしく、来場者数が上がり始めるとともに、体が熱くなっていくのを感じた。

「こんどは、おっきくなってく……」

コメントは見ていないけど、高い評価を受けているらしい。それも、段々人数が増えて、体の中の熱は強くなっていく。足を見てみると、ぐぐぐっ……と伸び始めたところだった。胸には、段々脂肪が付き始めたのか、少し痛いくらいの張りを感じる。
「これで、元に戻れる……」

だが、その台詞に端を発したのか、視聴者達、つまり幼児体型趣向の人が低評価を出し始めた。長くなりかけた腕が、ヒョコッと短くなり、体が小さくなって、地面がかなり近づいた。

「あ、ダメっ……」

今の状態では、カメラに映らない。もう少し遠ざかろうにも、配信として見えづらくては低評価を受け続けるだけだろう。私は三脚に近づいて、何とかカメラを下に向けようとする。だけど、その間にも体は小さくなって、最小サイズの幼稚園生に戻ってしまう。
「え、えいっ」

そんなことになることも見越して、カメラには紐を付けてある。本体には手が届かなくなってしまったけど、それを引っ張って、カメラを無理矢理下に向けることができる。だけど、それじゃ見ている方も多分面白くないんだ。
「と、届かないよ……」
必要のないジャンプをしながら、涙声を出す。私は、昔は演劇部で花形を務めていたこともあって、こういう演技は得意なのだ。

そして、少し体が大きくなり始めたのを確認し、紐を引っ張ってカメラの角度を下げた。……今だ。

「や、やったぁっ……」
ロリの上目遣いの泣き顔。破壊力抜群の光景に、一気に評価が跳ね上がった。つまり……

「ひゃんっ!」
胸からおっぱいが飛び出した。本来の私くらいの、平均的な女子大生の胸が、ゆっくりと小学生になりつつある私の体にフルフルと揺れながらくっついていた。その後に、脚がぐぐいっと大きくなり、一瞬前に顔があった位置に、太ももが来た。配信画面には私の太ももがゆっくりとムチムチになっていくのが映っているだろう。

カメラの向きを上げようとすると、腕もぎゅぎゅっと伸び、上げ終わったあとに、上半身が伸びて腰がキュッと締まった。

「ごめんなさい、これが本来の私なんです……」

ビキニに胸を納めると、さらにそれは膨らんで、いわゆる「普乳」から「巨乳」へとレベルアップする。カメラが胸よりも下にあるせいで、私の視界から一瞬カメラが消えた。

私は少しカメラから遠ざかったついでに、PC画面を確認する。視聴者数の増え方が、さっきよりかなり速くなっている。200人くらいだったのが次の1秒は300人、次は500人。急激に変身したのが大勢の目に留まったらしかった。

こんなにたくさんの人に一気に評価を受けたら……

ギュギュギュギュ……と胸に圧迫感を感じた。背もどんどん高くなって、天井が近づいている感覚もしたが、それよりも……

「水着が、食い込んで……!!」

店で見つけたなかで一番大きいものを選んだはずが、私の胸がそれをかなり上回るサイズになっている。紐が食い込んで、乳房が大きく形を歪ませていた。

「きゃああっ!!」

ビキニがビチッと破れた音よりも、左右のおっぱいがバインッと互いにぶつかる音の方が、そして、その勢いで押し倒されたカメラが、ガタンッと床に落ちる音の方が大きかった。

「きゃんっ!!」

その瞬間、私の体は破裂した風船のようにパンッと音を立てて、またもや園児サイズになった。カメラが倒れたせいで、配信画面は天井を映すわ、とても大きなノイズが飛んで来るわで、評価が下がったに違いない。

「カメラ、壊れてないよね……?」

ノートPCの画面を見ると、配信はちゃんと続いていた。画面に映っている、秒針を動かし続ける時計が、それを証明している。それよりも。

「1000人……!?」

100人のロリコン達が、高評価を与えただけで私の成長は急になって、500人の時は日本人では考えられないサイズまで成長した。この配信を続けたら、大変なことになってしまう。

私は、カメラを両手で取り上げて、それに向かって謝った。

「ごめんなさい、この配信は終わり……ひゃああっ!!!」

なぜ、何も言わずに配信を切らなかったのだろう。と、その時考えても遅かった。全身が燃えるように熱くなる。1000人を超える視聴者達が、「もっと見たい」という評価を、私に、私の体に、向けていた。

「あつい、あついよぉっ!!!」

もう演技でも何でもない、心からの叫びを、配信してしまう。熱さのせいで、カメラを私から逸らすことも忘れて。

ここからは、私は何も覚えていない。熱さから気を逸らすのに必死になってカメラを握っていたのだけが、私の記憶。だから、ここからは配信の履歴映像だ。

――私が映っている。両腕で握っているはずなのに、映像はブレがなく、かなり安定している。そして、体温が上がっていく私の皮膚が、赤みを帯びていく。私は、歯を食いしばって、目を閉じている。
その映像に、ゴゴゴゴと地鳴りのような音が加わる。見ると、短くぷにぷにとした腕がぐにぐにと変形し、段々長くなっている。この音は、私の体が変形していく音らしい。ゴキゴキと骨が軋む音も混じっている。
ぽっこりしたおなかも、一瞬膨らんだり、元に戻ったり。でも、やっぱり全身がどんどん成長している。胸はペッタンコのままだけど。

ここからはさらにおかしなことになっていた。映像に映る、私の両手が空いていた。つまり、カメラが私の手から離れている。地響きのような低い音は消え、視点が私の周りを動き回っている。
――まるで、私ではない他の誰かが、私を撮影しているように。
でも、その動きは人間のものじゃなかった。視点は素早く移動し、上下左右前後と、自由自在に、とんでもない動きをする。でも、誰の息も聞こえない。聞こえるのは、スタタタッという……足音?

『ん、んんんっ……』

幼稚園生サイズになっていた私は、いつの間にか高校生ほどにまで成長している。でも、私が本当に高校生だったときより、かなり貧相な気がする。

『あっ!!』

バランスが悪いせいか、私は後に倒れ、尻餅をついた。腕を後ろにして体を支え、まだまな板のままの胸を前に突き出す形になった、その突き出た胸部を、斜め上から急にアップで撮影し始めるカメラ。
すると、それが合図になったかのように、ゴキゴキと成長を続けているその肋骨の上で、乳輪がググググ……っと広がり、同時に乳首が膨張する。そのまま大きくなっていく胸の先端。

『ふっ、くぅっ……』

その下で、ついに膨らみ始める私のおっぱい。水を入れられる水風船のように、フルフルと揺れながら膨らんでいく。徐々に巨大ともいえる大きさになっていくそれを、今度は伸ばしていた脚の上からの視点で撮影し始めるカメラ。視界の下の方に入ってきた太ももは貧相そのもので、どんどん膨張する胸とはアンバランスだ。だけどそれもつかの間、上半身の方から脂肪が詰められるかのように、ムギュッ、ムギュッと、太く、太く、それでいて張りは保ったまま、太ももに肉が付いていく。その後で、尻にも膨大な量の体積が加わり、成長を止めない骨格も相まって、さらに頭が遠ざかっていく。

今度は、視点は私から距離をおき、横から眺める形になった。私はもう、2mくらいの身長になっていて、それでも大きく見えるくらいのおっぱいがタプンタプンと揺れている。全身汗だくで、その汗の流れる方向が、生々しく私の立体感を強調していた。成長スピードは下がるどころか、さらにスピードアップしている。やがて、部屋全体でも窮屈なくらいに、サイズが増えていく。

……と、そこでノートPCが破壊されたのだろう、配信は終わっていた。現に、私のノートPCは潰されてめちゃくちゃになっている。配信が切れたことで評価が下がったのか、気づいたときには私は普通の大学生くらいの体に戻っていた。
でも、時折胸がボンッと大きくなったり、また縮んだりしている。視聴者の間で意見の交換とかがあって、それで今でも評価が変わっているんだろうと思う。

この録画がネット上を出回ったら、私の評価は絶えず上がったり、下がったりするんだろう。いつか落ち着くときは、どんなサイズになっているのか、私にもわからない。

投稿者: tefnen

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