「これ、すごく、かわいい!!」
店先に並ぶキーホルダーを見て大興奮の少女。だが、その興奮で、彼女のある呪いとも言うべき体質が発現してしまったのだった。
《ドクンッ!》
「っ……!!」
全身を襲った衝撃が、彼女にそれを思い出させた。
「また……やっちゃった……」
《ドクンッ!!》
「んんっ!!」
その時、少女の体がカメラで画像が拡大されるかのように、ズイッと大きくなった。
「お客様、大丈夫ですか!」
「へ、平気……」
《ドクンッ!》
「んぅっ……!」
何回も繰り返される衝撃の度に、少女は頭一つ分大きくなっていく。急に苦しみだした客に話しかけた店員は、急に背が高くなった少女に腰を抜かし、床に倒れてしまった。
「お客さん、お、大きく……」
「ご、ごめんなさ……」
《ドクンッ!》
「あぁっ!」
ここまで無傷だった彼女の服が、どういうわけか一瞬で破け去り、一糸まとわぬ姿になってしまった。
《ドクンッ!》
「ん……!!」
店の1階の高さを超えた彼女に走る衝撃は、周りに音が聞こえるほど大きなものとなっていた。
「あらあら、また大きくなってるのね」
「全く大変な子ね……」
その心臓の鼓動にほかならない音を聞きつけた少女をよく知る通行人が、建物と同じくらいになった少女の姿を、さも日常的な光景のように見物していた。
「は、恥ずかしいよぉ……」
《ドクンッ!》
「んぐっ……!!」
少女は周期的に訪れる衝撃とともに、グイッグイッと大きくなり、重さを支えられなくなったアスファルトはメキメキと地面から剥がされていく。彼女から発せられるドクンッ、ドクンッという重低音は、今や近くの窓をガタンと揺らすほどの強さだ。
「う、うう……何で私……」
《ドクンッ!》
「ひぐっ……!!こんな体質に……」
《ドクンッ!》
「んぁっ!!なっちゃった……」
《ドクンッ!》
「ぅあっ……!もう、人がしゃべる邪魔しないでよ!!」
少女は、サイズが2mを超える自分の足が店舗の棚を粉々に破壊するのも気に留めず、大声を出した。それで衝撃が収まるわけもなく、逆にその大声でそれまで少女に気づかなかった人にまで注目されるようになってしまった。それでなくても、ドクンッ!という音がすでに街中に響きわたっていたのだが。
「おー、また大きくなった!もう東京タワーに追いつくんじゃないか?」と完全に見世物を見ているようなものや、「あのお姉ちゃんすごい!私もアレくらい大きくなりたいな!」と何か間違った方向のあこがれを持たれたりだとか、「こら、見ちゃいけません!」と何か教育に悪いものだと思われたりだとか。少女の羞恥心は深まる一方だった。
「も、もう!こんな街、吹き飛んじゃえ!!」
少女はその巨体を跳躍させた。それだけで、足元の地面は完全にえぐられ、店は基礎が崩壊して倒壊してしまった。しかし、一度地面から離れたものは、また地面に着く。少女の足が着地したその瞬間、信じられない程のエネルギーが少女から地面に伝わり、その反動でバァーン!!!と地表面とその上にあった建物は一瞬で吹き飛ばされてしまった。
「あ、あぁ……」
少女の周りはクレーターとなり、剥きでた水道管からプシューと水が噴き出る音が響いていた。
「また、やっちゃった……でもちょっと、面白いかも!!」
《ドクンッ!》
「ひゃうっ!」
その日、その街は本当に地図から姿を消してしまった。