巨大兵器

「未確認航空機、発見!来ます!」

コンピュータがこれでもかというように配置されている、特撮の司令室のような部屋で、大声が飛び交う。

「戦闘機部隊を派遣し、できるだけ被害を抑えろ!その間に、アレの展開を!」
「司令!アレは遺伝子G1A-NT35Sを持たない人間には……」
「だから遺伝子スキャナーを搭載して、自律的に適合者を見つけられるようにしたんだ!今すぐ展開!」
「り、了解!」

部下は、とんでもなく大きい赤いボタンに拳を叩きつけ、「アレ」を起動した。

ある中学校の校庭で、その子はバレーボールをプレーしていた。

「えーいっ!」

跳躍し、大きく動かした手が強いスマッシュを繰り出した。その球は、地面に叩きつけられる……

《パァン!》

直前に、破裂した。

「え、なに!?あ……」

《ゴゴゴゴゴ……》

地響きがしたと思うと、爆音とともに白の機体が少女の真上を通り過ぎた。白い機体に、日の丸が付いている。

「自衛隊のジェット戦闘機……?じゃあ、今のは流れ弾?でも……」

敵がいなければ、弾を撃つ必要など無い。平和を謳歌する日本に、敵などいるはずがない。だが、少女の疑問を解消するとともに、あらたな疑問を投げかけることが起こった。ジェット戦闘機を追うように、黒い、プロペラの飛行機が猛スピードで飛んでいた。第二次世界大戦の映画で見たような、一見古いその機体には、ネオンのように青く輝く塗装がなされ、SFチックにも見える。その飛行機は、ジェット戦闘機に置いて行かれるどころか、その後ろにピッタリとつけ、そして……

《バァン!!》

一瞬にしてジェット機が火に包まれた。

「な、なに……」
『適合者、発見!融合します!』
「えっ!?」

映画さながらの壮観を見上げていた少女は、声がした方を見た。すると、DVDのような銀色の円盤が飛んでいるのを確認できた瞬間、少女の腹部に突き刺さった。

「んぐっ……!」

円盤が刺さったところから出たのは血ではなく、光だった。

『融合シークエンス開始!』

そして円盤は少女の体の中にグリグリと入っていってしまった。

「え、ちょ、ちょっと!」

少女は円盤が入っていった腹部を触ってみたが、傷ひとつ付いていない。

「え、えぇ……!?きゃっ!?」

困惑する少女に追い打ちをかけるように、その隣に巨大な金属の塊がドーンッ!と落ちてきた。塊には、金属の筒が何個も付き、まるで戦艦に付いている砲塔のようだった。

『さあ、触ってください』
「へ?」

少女に、男の声が聞こえた。軍人じみた、正しい規律と威厳を感じさせる低い男の声だ。

『あなたには申し訳ありませんが、我々の敵と戦っていただきます』
「て、敵?」
『今は説明している暇はありません!その兵器に触ってください!』
「そんなこと言っても……」

少女の頭上に、プロペラの音が響いた。上を見ると、先程の戦闘機が、少女に向かって突っ込んできていた。

『さあ、早く!!』
「え、えぇい!!」

戦闘機に襲われる恐怖と、それから逃れるただ一つの窓を与えられ、少女は言われたとおりにするしかなかった。少女が兵器を触ると、砲が戦闘機に向けられ、ドドドド!!と連続して発射した。その弾は戦闘機に当たることはなかったが、驚いたのか、戦闘機は向きを変え、通常の飛行に戻った。少なくとも戦闘機を追い払うことはできたようだ。

「たすかったぁ……でもこれじゃ、アレを倒せないよ……」
『巨大化シークエンス開始!』
「へっ!?」

急に空から光が舞い降り、少女は光に包まれた。

「え、え、あああああっ!」

光はすぐに収まったが、少女の体の中にとてつもないエネルギーが貯めこまれ、全身が光り輝いていた。

(か、体が、熱いっ!!)

ついに、それは始まった。少女の体がグーッと大きくなり始め、服のあらゆるところがバリッ、ビリッと裂けていく。靴は縫い目がほつれ、収まりきらなくなった指が外に出ていく。1m半くらいだった身長は、あっという間に、2m、4mと大きくなり、先ほどは体より大きかった兵器を、片手で持てるほどの大きさまでどんどん巨大化する。地面は少女が動くたびにえぐれ、服は腕や足に巻き付く糸のように千切れてしまった。身を包むものが無くなった少女の周りに光の粒が集まり、セーラー服を形成すると、校舎の2倍くらいの高さになった少女は、変身を完了した。

『さあ、兵器を持って戦ってください!』
「も、もう、やればいいんでしょ!」

地面に置かれていた兵器を持ち上げ、少女は飛行機との戦闘を始めた。

《パァン!》
「ふぅ、やっと全部落とせた……」

ハエのように不規則な飛行をする戦闘機に手間取りつつも、10分ほどで少女の圧勝が決まった。とはいえ、服はビリビリにやぶれ、もともと大きめな少女の胸が下から見えてしまっていた。

「やっと、これで元に……」
《ドォン!》
「今度はなに……えっ!!??」

頭上から聞こえてきた大砲の音に、目線をそちらに向ける少女。そこには、今の少女より大きな古い戦艦が空を飛び、砲塔を少女の方に向けていた。

『ちっ、トヤマが出てくるとは……さらなる巨大化シークエンス開始!』
「と、とやま……?て、ちょっと待って!!」

納得行かない少女に、またもや光が降り注いだ。

「ね、ねぇ……もうこれで終わりだよね?」
『た、多分……』
「多分じゃないわよ!もう、今私がどれくらいの大きさになってるか、解ってるんでしょ!?」

その大声は、太陽系中に響いていた。少なくとも、真空でなければ響いていただろう。少女は、今や太陽よりも大きくなっていた。兵器は少女の巨大化に合わせ、変形に次ぐ変形を遂げ、地球がその砲塔に何個も入るほどの大きさまでになり、同じくらい巨大な敵の主力艦を木っ端微塵にした。

「じゃあ、戻してよ!」
『そ、それが……君の巨大化をコントロールしていたマイクロ波発生器が暴走して……』
「そ、それじゃ私……」

これもまた、巨大化に合わせて繕い直されていたセーラー服が、ビリビリと音を立て始めていた。

「も、もういや!!……あっ」

激しく動いた少女の体は、近くにあった地球を粉々にしてしまった。少女はその意思とは関係なく、人類を滅ぼしてしまったのだった。

投稿者: tefnen

pixiv上にAPまたはTSFの小説をアップロードしている者です。

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