「だから俺は真也(しんや)だって!」
俺は、昨日まで見たこともなかった女の子に迫られている。懇願するように、肩をつかまれ大声を出されている。ショートヘアで小柄、言ってしまえばボーイッシュなのだが、胸は膨らみかけ。声もアルトと男にしては高く、正真正銘の女の子。それが、朝学校に来た瞬間すがりつかれたのだからこちらも大混乱している。
「わかった、わかったから落ち着け」
とはいえ、休み時間中に見ていたエロ本の内容をすらすらと言い当てたのだ。間違いなくこいつは俺の親友の真也だ。
「ほ、ほんとか?」
「仕方ないだろ……それよりも、何でそんなことになってるんだよ」
真也は、俺の幼なじみで、昨日帰りに別れるまでは、運動神経のいい、男の中でも筋肉が人一倍ついた、いわゆるマッチョ体型の男だったはずだ。それが今は、腕はほっそりとして、胸筋が付いていたはずの胸は多少の膨らみがあるだけだ。
「俺が知るかよ……朝起きたらこんな事になってて、ショックで思考停止状態になってここまで来たんだ」
「普通そういう時って学校休むよな」
「来ちまったんだから、しょうがないだろ」
俺が女になったらそうする。それで、色々な所を物色して……まぁそんなことは置いといて、今女になっているのは真也だ。この状況をどうするべきか。昨日までエロ本を共有する仲であったとしても、いきなり体を見せてくれとは言えないだろう。
「じゃあ、体を見せてくれ……」
あれ、俺今なんて言った?
「お、俺は男だぞ……?」
「いや、女……」
「男だって言ってるだろ!」
真也は大きな声で怒鳴ってきた。俺は答えを返すことができない。それは、大きな声でひるんだせいではない。真也の胸がいきなり、ボワン!と大きくなったのだ。しかも、かなり大きく。
「な、何これ……!」
真也は、胸にいきなりついた重量に狼狽している。小さいメロンくらいのサイズはあるだろうか、シャツの中でタプンタプンとゆれる、それは紛れも無くおっぱいだ。それに、足の方も、さっきに比べてムチッと肉が付いている気がする。髪も少し伸びて、最初言った、ボーイッシュという表現があてはまらなくなった。つまり……
「お前、女っぽく……」
「俺は男だ!」
今起こっている事象を全部否定したいのだろうけど、どたぷんと揺れるおっぱいが俺の視界を誘惑する。どうしても、思春期の男の性というか、見ざるを得ない。女の、乳房だ。しかも、俺の目が釘付けになっているその時に、またギュッと一回り大きくなった。俺の股間もギュッとなったのは言うまでもない。親友に性的興奮を覚えている俺は、どうしてもこいつが女だと認識するしかない。そうじゃなきゃ、俺がホモだってことになる。
「……大人しく女だって認めろよ」
「なにいってるんだ!、俺は男だ、男だ、男だっ!!」
もうさっきから気づいていたけど、真也は自分が男だと思う、というか主張するたびに、体が反抗するように女の特徴が大きくなっている。髪はみるみる伸びてロングヘアに、尻もでかく、胸の方は落ち着いてきたがそれでも大きくなり続け、心なしか、胸に引っ張りあげられたシャツの隙間から見えるウエストが、更にくびれている気がしてならない。
「お、落ち着け!おい!!」
「はっ……」
俺が手を伸ばし、制したところでやっと、真也は自分の体の変貌に気がついたようだ。
「これが、私の体……?」
どうやら女になりすぎて、思考も変わってしまったらしい。身振り手振りが周りの女がしているのとほとんど変わらない。ああ、真也よ、今お前はいずこに……
「そうだよ。分かったらこれ以上お前自身が男だなんて……」
「責任、とって?」
ん?こいつ、今責任って言ったか?
「私をパニック状態にしたのは、あなたでしょ?ね、責任取ってよ」
「何言って……」
「いいから、ね」
さっきとは打って変わって、自分からその肢体を見せつけるような格好をしている。誰だ、こいつ。と思いつつも、俺の心臓は強く拍動していた。
「……ああ、なんでもしてやるさ」