「こ、ここはどこ……?」
一人の女子大生が、路地裏で迷っているようだ。日も暮れ、街灯がぽつりと一つ、彼女の上で光っている以外は、真っ暗だ。
「わ、私今まで大通りを歩いてたよね……?スマホ見ながら歩いてたっていっても、こんなところ、入ってくるわけ無いし……とりあえず地図を調べて……」
「おじょうさん」
「うわぁっ!?」
暗闇の中からいきなり男の声がして驚く女子大生。そこには、時代遅れのローブを着た、RPGに出てきそうな男が立っている。
「こんな所を一人で歩いていては、危険ですよ」
「……ご、ご心配ありがとうございます……」
彼女には、不気味なローブ姿の男から一刻も早く遠ざかりたい、という直感にもにた恐怖が湧き上がった。しかし、足を動かそうとする意思に、体が従わなかった。
「え、なんなのこれ、足が動かない……」
「それは、そうですよ。私の結界の中にいるんですから」
「結界……?」
女子大生は、真上から自分を照らす光に、熱のようなものが加わってきているのに気づいた。
「ちょ、これ、熱い……!」
光を遮ろうとして、手をかざす。だが、その手に、妙な感覚が伝わってくる。
「なんかすごくカサカサする……!」
手を目の前に動かすと、その感覚の正体が分かる。しかし、彼女は安堵するどころか、恐怖を感じざるを得なかった。彼女の手は砂をかぶったように白い粉で覆われていた。いや、彼女の手自体が、粉になっていたのだ。手は、彼女がじっと見ているその前で手首からポロッと取れ落ち、床にぶつかった衝撃で、粉々になってしまった。
「……え……っ」
手だけではない。光が差す体の表面、服の表面が色を失っていく。同時に、サラサラとした粉が、体から分離し床に積もり積もっていく。
「……!」
悲鳴を上げようとした彼女の口も、いつの間にか固まり、瞳から流れだした涙も、粉に吸い込まれ、顎まで流れることはなかった。ついに、手の指や髪の毛の先が欠けていたが、女子大生は人間の形を保ったまま、完全に白い粉の塊と化した。
「ふむ……なかなか形が残りましたね……しかし、像にするのが私の目的ではないですし……」
男がパチッと指を鳴らすと、粉の像にピキッと亀裂が入り、各部分がバラバラに落ち、床にあたって砕け散った。最後に残ったのは、白い粉の山だ。
「よし、これで人間小麦粉の完成といったところでしょうかね。これに砂糖とバターと卵黄と……私特製のスパイスを……」
男の言葉とともに、どこからともなく現れた、白い粉、黄色い固まりと液体、そして光の粒のようなものが山に加えられ、竜巻のように舞い上がって、混ぜられていく。材料は、これも忽然と現れた無数の型に流し込まれ、一瞬にしてふっくらと焼けた。あたりには、とろけてしまいそうな甘い香りが立ち込める。
「おいしいクッキーの完成ですね。本来ならティータイムにピッタリの」
一口サイズに焼けたクッキーは、あっと言う間に数個ずつプラスチックの袋に梱包され、ひとりでに夜空へと飛んで行く。
「こんな夜にお菓子を食べる子は、いないでしょうが……まあ、明日が楽しみといったところでしょうかね」
ローブの男は、女子大生を小麦粉にした照明に向かってパチッと指を鳴らした。すると明かりは消え、逆に周りの風景が見え始める。そこは、女子大生が歩いていた大通りそのものだった。彼女は、この男の、照明に見立てた結界の中に入ってしまったせいで、周りが見えなくなり、逃げ出せなくなってしまったのだ。
明かりが消えると同時に、男も姿を消し、大通りの喧騒は何事もなかったかのように夜を明かした。
—
その翌日。夏の暑さに耐えかね、二人の小学生の男子が、クーラーの効いたリビングでゲームに勤しんでいた。二人とも元気いっぱいの育ち盛りで、こんなに暑くなければ仲間と野球をするような外見をしている。
「いただき!」
「あっ、そこでくるかメテオ!」
対戦ゲームのようで、かなりヒートアップしている。それで、彼らの横にスッとクッキー入りの袋が飛んできたことにも気づかなかった。
「そろそろおやつ食べよっか!」
「そうだな建人(けんと)!あ、こんなところにクッキーが……」
少しおとなしめな子のほうが、クッキーの袋に気づき、建人と呼ばれたもう一人に見せる。
「クッキーよりポテイトゥ食べようぜ」
「あ、もう一つ食べちゃった……なんだこれ、変な……あ……っ」
クッキーを食べた子が、胸を抑えて苦しみだした。そして、床に仰向けに倒れ、手を床に付け、ぐっと痛みをこらえるように、歯を食いしばった。
「な、大智(たいち)どうし……」
「んああっ……!!!」
急に叫び声を上げる大智と呼ばれた子。すると、手足がググッと伸び、薄手のTシャツの胸の部分に、ピクッと突起が立った。股間も、異常なまでな勃起を見せている。建人は、いきなりの親友の変化に、腰を抜かし、倒れてしまう。
「た、たすけ……んぅああっ!!!」
さらに手足が伸びるが、それは普通の男のように筋肉や骨で角ばったものではなく、まるで女のように皮下脂肪に覆われ、柔らかな輪郭を持ったものであった。同時に腰がグキキッと何かに引っ張られるように横に拡大する。スポーツ刈りにしていた髪の毛も、サラサラと伸びて、周りの床に広がっていく。
「た、い……ち?」
夢にも見なかった事態を受け入れられず、ただただ大智が変わっていくのを見届けるしか無い建人。
「あ、おちんち……んんっ!!!」
股間の突起が、グチッ、ミヂッ、と音を立てて、体に潜り込むように萎縮し、ついに見えなくなってしまった。
「ふぅ……ふぅ……んっ!あぅっ!」
左胸がグイッと盛り上がり、薄手のシャツの襟から、どうみても乳房の膨らみにしか見えない、肌色の固まりがはみ出る。続いて、右胸も同じサイズまで膨れ上がり、女子高生の体格まで大きくなっている体の上に、大きな双子の山が出来上がった。
「ふあっ……もっと……んぁっ!!」
大智が声を上げるごとに、ムクッ、ムクッと体が一回りづつ大きくなる。その吐息は、小学生のものは到底思えない色っぽさを醸し出している。着ていたシャツはビリビリ破け、短パンは尻と太股に食い込み、その肉感をさらに強調している。
《ビリーッ!!》
ついにシャツが胸からの圧力に負けて大きく破れ、頭と同じくらいのサイズになった胸が解放されて、タプンタプンと大きく揺れた。同時に、大智は喘ぎ声を出すのをやめた。
「た、大智?大丈夫か?」
建人はやっと我に返り、数分前の姿の面影が全くなくなった大智に近づいていく。仰向けに寝そべったその体の上で、大智の呼吸とともに揺れる胸は、建人の幼い好奇心を誘う。
「(ゴクリ……)」
建人は、その力にあっさりと負け、腕を豊満な乳房へと伸ばした。その瞬間、大智の目がカッと見開き、建人の腕をガシっと掴んだ。
「ひゃっ!?ご、ごめ……!」
しかし、建人が想像したのとは逆に、大智は友人の腕を、自分の胸に押し付けたのだった。
「どう?私のおっぱい……。やわらかいでしょ……?」
「えっ、ええっ……うん、やわらかい……」
建人のなかで、さっきまで対戦ゲームで盛り上がっていた大智とは思えない発言に対する警戒と、手に伝わってくるなんとも言えない柔らかい感触への興奮がせめぎあい、幼い精神はパンク寸前になっていた。
「じゃあ……」
大智は、寝そべったまま建人の服を超人的なスピードで脱がせ、両手でヒョイッと持ち上げて自分の体の上に寝かせた。
「私の体、全身で堪能して……!」
そしてギュッと腕で建人を抱きしめ、乳房に建人の頭を押し付ける。
――おっぱいやわらかい……いや!こいつは大智で……で、でも……おなかもすごくスベスベしてる、そしてこの汗の匂い……
建人は、今起こっていることの不可解さに混乱しつつ、小学生でも持ち合わせている本能に、徐々に抗えなくなっていった。
「まだ何もしないの……?じゃあ私から……」
その時だった。
「建人お兄ちゃん?誰か来てるの?」
「真都(まと)!」
建人の、同じく小学生の妹、真都が、いつの間にやら部屋に入ってきたのだ。
「駄目だ、今は入ってきちゃ……っ……」
「だれなの、このおねえちゃん……えっ」
建人の中で、何かの線がプツッと切れていた。何かを考える前に、いたいけもない妹の口に、親友を女性にしたクッキーを、有無をいわさず突っ込んでいたのだ。
「お、おにいちゃ……んっ……!」
その効果はすぐに現れた。身長が伸びる前に、膨らみかけにも入っていない胸が、ムクッ、ムククッと、部屋着の薄いシャツを盛り上げ始めたのだ。その大きさは、30秒ほども経たないうちに特大メロンサイズまでになってシャツの下からはみ出し、真都の体では支えきれなくなってしまった。
「なんで、私におっぱいが……んああっ……!!!」
後ろに突き出す形になっていた尻がムギュギュッと膨らみ、同時に足がニョキニョキと伸びて、未だ胸以外成長していない上半身を、下から押し上げていく。足には、ムチムチと脂肪が付き、腰もゴキゴキと広がる。
「いや、私これ以上大きくっ……!!」
腕も伸び、部屋着を限界まで引っ張る。背骨が伸びて、相対的にウエストが絞られ、女性特有の美しい曲線が描き出されていく。
「わ……私……」
声も、子供っぽい高い声から、落ち着いた声に変わる。そこで変身が終わったのか、大きくなった腕をついて、何とか立ち上がった。
「こんなに、大きくなっちゃったのね……」
建人は、何も考えること無く、自分よりも格段に背の高くなった妹の胸に飛びついた。
「あら、おにいちゃん。そんなに私のおっぱい好きなの……?」
妹の問いに、ただただ頷く建人に、理性はほぼ残っていない。起き上がってきた大智は、真都に目配せし、建人を持ち上げて真都の胸に押し付け、自分の胸も同じように押し当てた。建人は、頭を二人の乳で挟まれ、そして考えることを完全にやめた。
—
「今回は効能を大きくしすぎましたかね……性格や思考が完全に変わってしまうとは……」
疲れ果て、死んだようにリビングの床で眠る3人の子供を、ローブ姿の男が眺めていた。
「次にお菓子を作る前に、少し検討する必要がありそうですね……まあ、このお三方にはこれからも楽しんでもらうことにしましょうかね。この際、クッキーは差し上げることにしましょう」
まだ、中に15個は残っている包みを、男はニヤニヤしながら確認し、そして部屋から姿を消した。