次の日、前の日の変身など忘れてしまっていた美優。布団から体を起こすと、いつもより少しだけ小さくなった周りのものに大きな違和感を感じた。
「あれ?どうしちゃったのかな」
布団から出ると、パツパツになった寝間着が目に入った。
「私ったら、美穂のきちゃったのかなぁ」
寝ぼけ眼の美優はまだ気付かない。胸がはだけて、プルンプルンと揺れる何かが目に入っても、それでも気付かなかった。
「髪、切らないと」
変身で伸びた髪がしきりに視界に入って来る。扉の取っ手に手をかけて、開けようとしたところでようやく、気づいた。
「あれ?私の手、大きくない?」
大きさに限らずその指の長さも変わっていた手を見て、昨晩のことが、頭の建て付けの悪い記憶の引き出しから、出てきたのだった。
「あ、そうだ!!私、おっきくなったんだった!」
その声はいつも通り家じゅうに響き渡る。
「うるさいわよ、美優!起きてるならさっさと朝ごはん食べちゃいなさい!」
「は、はーい!」
居間から聞こえてきた母親の声に答え、扉を開けてドタドタと走って行った。母親は台所で夕食の支度をしているのか、居間にはいなかった。就職して仕事を持っている母親は、帰りが遅くなる日は夕食を前持って用意するのだ。
「いただきまーす!」
「はーい!」
台所から美優と同じ元気の良さそうな声が返ってくる。美優が朝食をバクバクと食べている間、母親が台所から出てくることはなかった。
「ごちそうさま!」
「今日は遅刻しなくて済みそうね」
「うっ」
母親の鋭いツッコミが美優に突き刺さる。
「私だって好きで遅刻してるわけじゃないもん!本当だよ!」
「はいはい」
美優は自分の部屋に戻り制服に着替える。
「ボタンが……締まらないっ!」
だが、サイズが合わない。考えて見れば当然のことだった。成長した体を、元々の小さな体を包むためにあつらえられた服が覆いきれるわけがなかった。
「お腹引っ込めて……胸を潰せば!!」
何とか収まった。あまり服に力が加わらないように、慎重に行動する美優。カバンを持ち上げ、部屋を後にして玄関に向かう。
「いってきまーす!!」
「いってらっしゃい!」
居間から母親の声がした。どうやら夕食の支度は終わったようだ。それを確認すると、美優は家を出て行く。その後すぐ、居間から母親がひょこっと顔を出した。
「あらら、遅刻してなくても慌ただしいわね、あの子は。足音が何時もより大きかった気がするし。まあ、気のせいかな」
—
学校に着くと、いつもと同じように美優に視線が集まった。しかしその理由は、いつもと違っていた。包んでいる体積が大きいせいで今にもはち切れんばかりの制服に、なまめかしい足。風になびくセミロングのつややかな髪と、美しい顔立ち。その輝いているような笑顔が無ければ、誰も美優を美優と認識することはできなかっただろう。
「おっはよー!」
しかしまたもや、本人は自分の体の変化を忘れていた。体型の変化から感じていた違和感などとうに吹き飛び、結子に聞かれるまで、頭の中では、変身の記憶の片隅にすら無かった。
「ね、ねえ、美優ちゃん、だよね?」
「なに言ってるの結子?この時間でまだ寝ぼけてるの?」
「だ、だって、私の知ってる美優ちゃんより背もおっぱいもおっきいし…」
「あ…!そうだった!私、昨日大きくなったの!」
「お、大きく?」
その会話は、教諭の大声で遮られた。
「朝礼を始めるぞー!みんな席につけーぶふっ」
その声に変な音がおまけされていた。教諭が美優を見た瞬間吹き出してしまったのだ。
「八戸!?お前八戸だよな!?」
ドカドカと歩み寄ってくる教諭。
「え、ええ…それがなにか…」
なぜか涙目になっている教諭だが、すぐに気を取り直したようだ。
「い、いや…なんでもない」
「まさか、私が小さい方が良かった…とか」
その美優の言葉に、教諭は取り乱した。
「違うぞ!絶対に違うからな!!」
「ロリコ…」
「うわああああ!!!朝礼だ!!朝礼!」
周りの引き気味の冷たい目線を全身に受けながら、教諭は戻っていく。
「あー愛の裏の厳しさだったんだ…」
結子のコメントが追い討ちをかけた。
「それにしても、なんでいきなり大きくなっちゃったのかな」
結子が美優に聞く。美優は首を傾げて答えた。
「んーさっぱり見当もつかないよ。成長期とか?私、体小さかったから」
「いや、それはないでしょ?一晩のうちに、人間はそんなに大きくならないよ?」
「うっ、そんな真面目に答えないでよ。それに、一晩じゃなくて、寝る前に10秒くらいで大きくなったんだよ!」
「え、10秒……?」
結子は目を見開いて驚きをあらわにしたが、そこで耐えかねた教諭が声を上げた。
「そこの二人!……朝礼だ」
教諭はまだショックから立ち直っていなかったようで、大きく声を出し始めたものの、途中からかなり小声になった。
「はーい」
「はい!」
二人は素直に従って、朝礼を受け始めた。
—
授業中、周りからの視線がチラチラと美優に飛んで来ていた。本人はそれに気づかなかったが、クラスメイト達は体型が変化した美優が本当に美優であるかどうか、図り兼ねていたようだ。
美優はというと、伍樹に話しかけることばかり考えていた。体が少し大きくなったおかげで、少し多めに勇気が持てているようだった。
ーー伍樹くん……はぁ伍樹くん……
そんなこんなで授業の内容など頭の中に入ってこないまま、昼休みを迎えた。
「やっぱり、美優ちゃんが大きいと違和感大きいな」
「うん…」
「黒板の見え方も違うし、ノートをとってるときだって美優の髪が見えてて」
「うん…」
「美優ちゃん?」
「うん…」
授業終わりに結子が話しかけたが、美優にはあまり聞こえていなかった。
「はあ、もう、伍樹くんに声をかけたいんだよね」
「うん…え!?あ、うん!」
やっとの事で、美優は自我を取り戻したようだった。
「じゃあ、行って来たらいいよ、お弁当も一緒に食べてきてもいいよ」
「私…心臓がばくばく言って止まらないんだけど!」
「美優ちゃん…じゃあ先に話しかける言葉決めておこ?」
結子の提案に、美優はすがるようにうなずいた。
「で、でっ、どういうのが、いいかな!?」
その声はそんなに離れていない席に座る伍樹にも、容易に聞き取れるものだったが、結子はそれを指摘せずに続けた。
「えっと、お弁当一緒に食べない?とか」
「おべんと、いっしょ、たべない!?」
「私に言ってもしかたないよ」
「じゃ、じゃあ、伍樹くん、言ってくる!」
「行ってらっしゃい」
もう日本語が怪しいほど言葉が乱れている美優を、結子は軽く手を振って見送る。美優は机の上に弁当を起き忘れたまま、伍樹の方にフラフラと歩いて行った。
ーーおべんと、たべる。おべんと、いっしょ!
意識がもうろうとするほど、心臓がドキドキ言うのを感じている美優。だが、
ドキドキドキドクンッ!
「ひうっ!」
その激しい脈拍に紛れるように、大きな衝撃が美優の体に走った。しかし、そのまま美優は歩み寄るのを止めない。
ーーおべんと!おべんと!
思考が伍樹に話しかけることに極端に集中しているせいで、体全体に熱がこもり、全身から汗が吹き出して、キツキツの制服が濡れていっても、全く気付かなかった。
ドクンッ!ドクンッ!
衝撃が心臓の鼓動と同じくらい頻繁に美優の体に走るようになった時、美優は伍樹の席にたどり着いた。といっても、たった3mほどの距離だったが。
「伍樹……きゅん!」
「ん、何?」
「お弁当、一緒にっ!!」
その時、元々サイズがあっていなかった、汗でびしょ濡れになっていた制服の胸の部分が、ブチブチと音を立てた。
「え、何……!?」
美優が音の方を見ると、ボタンの間から胸の谷間が顔を覗かせていた。そして、その隙間は、時間が経つごとに広がっていく。
「わ、私…また大きくぅっ!?なっ…ちゃう…っ!?」
衝撃で途切れ途切れになる美優の言葉。
「八戸!?」
急に苦しみ出した美優を見て、声をかける伍樹。
「伍樹…くん…っ!んあっ!!」
限界まで引っ張られたボタンの糸がぷつっと切れ、解放された胸の圧縮力で、外れたボタンが伍樹の方に放たれた。
「あいたっ!!」
それは伍樹の額にバシッと音を立てて直撃し、床にカランっと落ちた。
「ご、ごめんっ!!あぁっ!」
次に下肢が成長し、美優の背がまたガクンと一回り大きくなった。バランスを崩して、尻餅をついて倒れてしまった美優の目線に、靴を突き破って大きくなる自分の足が見えた。
「私、これ以上はっ!いいのにぃっ!!」
髪はさらに伸び、背中を覆い、パンツがびりっと破れる音がしたと思うと、臀部にも脂肪が上乗せされ、尻に感じていた柔らかさが、いままで以上に大きくなる。腕もぐきっと伸び、手もそれに合わせるように成長した。
「こんな…こんな…」
美優は裸足となり、胸の部分は汗でムンムンとフェロモンを漂わせる乳房が見えている。その大きさはGカップ、数分前と比べて倍の大きさほどになっていた。
「美優ちゃん、大丈夫…?」
最初に声を掛けたのは結子だった。びしょ濡れになっている制服の腕の部分に、そっと触れる。
「だ、大丈夫なわけ…ない…でしょっ!?」
美優は伍樹の前から姿を消したかった。それで、立ち上がると裸足のままトイレの方に走り出した。
「美優ちゃん!!」
呼びかける親友の声など、聞こえていなかった。個室に駆け込み、便器の蓋を閉めて泣き始めてしまう。
「どうしたのよ、私の……体……」
そして、蓋の上に腰掛け、しばらくの間学校に響き渡るほど大きな声で泣いていた。
—
小一時間経ったところで、ようやく美優は泣き止んだ。
「はぁ…いつまでもこうしてられない…教室に…戻る?」
「今日はもう、帰った方がいいよ、美優ちゃん」
美優が驚いたことに、独り言に返事が返ってきた。それは他でもない、結子の声だった。
「結子!なんでここに…」
「美優ちゃんの声、大きいんだもの、授業なんて受けてられないよ。私まで泣きそうになっちゃった」
「ごめん…」
「服、無いんだよね。よかったら、理科の先生から大きな白衣でも貸してもらう?」
「うん、そうする…っ!?」
またもや、飛び上がりそうなほどの衝撃が走った。
「どうしたの!?」
「また…なの…!?」
それに応えるように、足の太さが太くなったり細くなったりし始める。そして、熱が体の中にこもり始め、汗腺から汗が湧き出てくる。
「体…熱いよ…っ!!助けてっ…!!」
「美優ちゃん!大丈夫!?」
体全体から、グニグニと音が生じると、何かが爆発するような痛みと、自分の体が外に押し出されるような感触を美優は感じた。
「きゃああああっ!!」
その悲鳴と同時に、乳房がムギュッと膨らみ、シャツの残りのボタンもぶちぶちと飛んで床に落ちた。脚は伸びると同時に太さをギュギュッと増して、スカートを引きちぎる。
すでに縫い目がほつれていた制服も、さらに長く太くなる腕と、長くなる胴に限界を超え、背中からビリッと破けた。
ロングヘアーはボリューム感をさらに出し、便器の蓋に潰されていた尻も体を持ち上げるようにぷるんと大きくなった。
「はぁ…はぁ…もう…やだぁ…」
その汗でぐっしょりと濡れた体には、元の華奢な体型など、どこにも見当たらない。身長はクラスの大柄な男子学生と同じくらいになり、元々男子の胸とそれほど相違ないほど平らだった胸には、美優の頭が入りそうなほど大きく、それでいて前をツンと向いた張りのある一対の乳房がある。体の熱から赤く紅潮したその顔は、言い知れぬほどの魅力があった。下肢はムチムチと柔らかい脂肪が付いているが、逆に腰はキュッとくびれている。誰かが設計したかのように、美優の体は一目で人を虜にするほどの爆乳美女になっていた。
「元に…戻して…」
しかし、美優自身はこれを望んでいなかった。あくまで普通に高校生活を送りたい彼女にとって、言うなれば常人離れしたいまの体型は邪魔でしかない。
「美優ちゃん…服、取ってくるね…」
「…」
結子が戻ってくる頃には、美優は疲れ切って眠ってしまっていた。
「みーゆーちゃん!」
「ん…あっ私寝ちゃってたの…ごめんね」
個室の扉越しに会話する二人。
「入っていい?白衣持ってきたよ」
「分かった…」
鍵を開け、扉を開ける美優。結子はその裸の体を見て、驚きを隠せない。
「…美優ちゃん、自分で着れる?」
しかし結子はそれを抑えて、声をかけた。
「…うん。ありがとう」
白衣を手渡された美優は、白衣を自分の体にかけ、ボタンを留めていく。
「ちょっと…きついけど…んっ」
平均的な男性でもかなり余裕のある白衣でも、大きくなった美優の体と胸を覆い切ることはできなかった。結局第一第二ボタンは外したまま、そこから胸の上半分を出すことにした。後ろにプリッと出たヒップの下、太ももまでは隠すことができた。
「美優ちゃんセクシーだね…私でもうっとりしちゃう」
結子は長い髪を白衣の中から引っ張り出しばさっと後ろに回す美優をみて評価する。その目はキラキラと輝いている。
「ちょ、ちょっと…冗談じゃないんだよ?」
「でも、本当にすごいんだもん…私だってそうなりたいよ」
「…本当に?」
結子は真顔に戻り、少し微笑んで答えた。
「嘘。でもちょっと本気だよ」
美優は少し呆れ顔になった。
「結子って思ってたより変な子」
「あはは、じゃあ一緒に帰ろう?」
「うん!」
「あ、やっと笑った」
いつも通りの親友同士の会話で、美優に笑顔が戻っていた。
「あ、うん…ありがとう!」
「こっちこそ、いつまでも泣かれてちゃ困るもん」
「えへへ」
「うふふ」
二人は、夕暮れの昇降口から手をつないで帰って行った。
—
「ただいまー!って…玄関に鍵かかってたし誰もいないよね」
自分にツッコミをするが、結子と分かれて、急に不安感が襲ってきた。
「私、戻れるのかな…また、大きくなったりしないよね」
そう独り言を言いつつ、居間のソファーに座りテレビをつける。疲れからか放送内容はあまり頭の中にとどまらない。
「この白衣もきついし…胸のところだけ開けておこ…」
慣れない大きな手で何とかボタンを外すと、ゆさっと豊満な乳房が出てきた。
「私のこれも大きくなっちゃって……重すぎるっていうの」
美優はそのままソファーに横たわる。
「はぁ疲れちゃったな……」
うたた寝しかかったところで、美優は叩き起こされてしまった。
ドクンッ!
「うにゅっ!!…えっ…!?」
疲れに追い打ちをかけるように、次の成長がはじまろうとしていたのだ。しかし、それより驚くべきものが、いや人が目の前にいた。
「あなた…誰…っ!?」
「やっと見つけた…」
フードを深く被り目が隠れている若い男だ。美優のことを上から睨みつけるように見つめている。
「え…?」
「返せよ、俺のウィルスを!!」