同化 前編

少年の目の前に、ケーキが置かれている。イチゴの乗った、1ピースのショートケーキだ。普通のケーキに見えるが、その場所が問題だった。

ケーキは、住宅街の道路のど真ん中に不自然に置かれた、一本足の机の上に置かれているのだ。

「おいしそ~」

普通の大人なら、不信がって、それを食べようとは微塵も思わないのだが、小学生低学年の彼は違った。ケーキに近づくと、誰も見ていないのを確認して、ケーキの脇に置いてあったフォークで、半分くらい一気に口に突っ込んだのだ。

「ん、んっ!?」

しかし、舌に伝わってきたのは、少しのにがみと、包み込んでくるようなゲル状の物体の感覚だけ。そして本来するはずの味が全くしないケーキは、生きているかのように、のどの奥に滑り込んでいってしまった。

「や、やだっ……」

物体は、食道をむりやり下に向かう。そして、胃にたどり着くと胃壁から少年の身体に侵入し、全身にじわじわと広がっていく。

「か、体が熱いよぉ……」
「まんまと引っかかったわね、あなた」

いきなり、少年と同年代の少女の声がして振り向くと、ケーキと机があったところに、フリフリのついた、人形のような子が立っている。金髪で、金色の瞳のその子は、状況が状況でなければ一目惚れしてしまうような可愛らしい笑顔をたたえていた。

「誰?僕のこと、知ってるの?」

少年が尋ねると、少女は笑顔を崩さないまま、ソプラノの声で答えた。

「いいえ、今初めてあったばかり。それにしても……」

少女は、少年の体つきを頭から足まで吟味するように見た。

「いい素体ね。男性器もあまり成長してないようだし……」
「だんせいき?」

キョトンとする少年に、やれやれといった感じで肩をすくめる少女。

「それの、ことよ」
「う、ぐっ……!」

股間に痛みを感じた少年が、手で痛みの元を抑えようとすると、まだ剥けてもいないそれが、バナナのサイズまで膨れ上がり、短パンの上からはみ出して赤黒く脈動した。

「ふっ、くぅ……!」

慣れない感覚に、その場で崩れ落ちてしまう少年。少女はなおも輝くような笑顔で言う。

「あら?少しやり過ぎちゃった?ごめんごめん」

その言葉と共に、今の現象が幻だったかのように元の大きさに戻るソレ。

「なんで……おおきく……」
「あなたが食べたケーキ。あれは、私の一部なの。食べられることで食べた人間と一体化し、その体型をある程度操れるのよ」
「……?」

少年はイマイチ少女の言葉の意味がわからないようだが、少女は構わず続けた。

「でもね、それには条件があって、宿主、いまはあなたのことだけどね、その人間が意識したり言葉にした部分だけしか変えられないのよ。さっきだったら、あなたが男性器って言ったから私はその大きさを変えられたわけ。分かった?」

頭がパンクしたようなポカンとした少年の表情をみて、少女はうなずく。

「ま、わかんないよね。いいわ、これから分からせてあげるから」

少年は、少女から突如放たれた邪悪な気配に身震いし、きびすを返して逃げ出そうとした。しかし、少女はそれが行動に移される前に気づいた。

「あら?私から逃げられると思ってるの?」

少年はその言葉と同時に逃亡を始めようとした。が、彼の足が、体が、急に重くなり、その場から動けなくなった。

「うふふ、言い忘れてたけど、体を小さくするのは私が全部勝手にできるのよ」

少女の視線は少年の足に向けられている。それに従うように自分の足を見ると、信じられないほどに瘦せこけ、ピクピクと震えている。少女は、少年の足から筋肉のほとんどを奪ってしまったのだ。

「胎児にされたくなかったら私に従いなさい?あ、誰か来たわ」

少年は、遠くから拍子のいい足音が聞こえてくるのに気づいた。そちらを見ると、地元の幼なじみの女の子、といっても年下の幼稚園児で、いつも少年が兄であるかのように遊んでやっている子が、走ってきた。

「あ、お兄ちゃん!どうしたの!?」

地べたに座っている少年に気づくと、そのままのペースで駆け寄ってくる幼なじみ。少年は、逃げろ、と叫びたかったが、なぜかそれが許されないことのように感じて、何もできない。自分の足の異常さから、危険を察してもらおうとしたが、いつの間にか足は元に戻っている。少年が横を見ると、少女の姿はなく、少年がさきほど口にしたケーキと同じように、幼なじみに合わせてあつらえられたかのようなかなり低いテーブルに、コーラのような茶色のジュースがコップ一杯に注がれ、置かれていた。

「あれ?なんだろ、これ?おいしそう!お兄ちゃん、これ飲んでいいかな!」

少年は、幼なじみが少女の支配下に入ってしまうのを止めるため、首を横に振った……はずだったが、なぜかうなずいていた。

「ほんと!?じゃあ、いただきます!」

幼なじみは、ぐいっと一口、液体を飲み込んだが、目を見開いて、すぐにコップを戻した。

「ふぇ、な、なにこれ、気持ち悪いよぉ……」
「はぁい、少年よくやった!」

青ざめた顔になっている幼馴染をよそに、飲み物とテーブルは、さっきの少女に形を戻し、パチパチと拍手した。少年は罪悪感から、なにも言うことができない。気分が悪そうな顔をしながら、幼なじみは突然現れた少女に驚いた。

「お姉ちゃん、だれ?」
「私?そうね……いたずら好きのモンスターっていうところかしら?あなた、よっぽどその小さな体にコンプレックスがあるみたいね」
「こんぶ?」

まだ語彙が足りない幼稚園児に、少女は手を近づけた。少女の顔は、先ほどの笑顔のままだ。

「だから、大きくしてあげる。まずはその『おっぱい』から」
「おっぱい……?」
「うふ……」

4,5歳なのだからおっぱいと呼べるようなものは何もない。これはもちろん、幼馴染にそれを意識させるために言ったことだった。少女の手が小さな胸に達すると、幼馴染の「んぅっ!」という喘ぎに近い叫びとともに、乳首がビクンビクンッ!と左右バラバラにTシャツを突き上げた。
そして、体から何かが送り出されるように、ムギュ、ムギュと、胸が盛り上がり、小さな体に不釣り合いな乳房へと成長していく。

「わたしに、おっぱいがぁ……!重いよぉ……」

Tシャツは左右に引っ張られ、印刷してある文字が横に伸びていく。いまやリンゴ、いや、また膨らんで幼馴染の顔くらいになった「おっぱい」は、体重バランスを大幅に崩し、ついには幼馴染は地面に手をついて倒れてしまった。襟からは、膨れ上がった胸の肉が溢れ、下からは柔らかい肌色の塊がプルプル揺れるのが見える。それでも、まだ成長は止まらず、Tシャツはさらに引き伸ばされて、ところどころがビリビリ言い始めた。

少年はというと、それをじっと見つめ、鼻の下を伸ばしていた。と同時に、はずかしめられている幼馴染を助けられず不甲斐なさを感じ、複雑な感情になにもできなくなっていた。

「うーん、胸だけ大きくしすぎたかなー」

幼馴染の胸は、元々の体の半分くらいの質量になり、幼馴染の動きを封じていた。

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「ねーねー、手とか足とかも大きくしたいんでしょ」
「えっ、そんなこと」

半泣きになっている幼馴染に、またも笑顔で尋ねる少女。

「だって、動きづらそうじゃないの」
「……それは……。ふぐぅっ!」

何とか動こうとじたばたさせていた腕が、肩と一緒に、メキメキと大きくなり、パンパンになっていたTシャツをさらに引っ張る。そして、耐えきれなくなったシャツの生地にところどころで穴が開き始め、幼馴染の露出がさらに上がっていく。掌も大きく成長し、指も親指から、人差し指、中指と、子供の小さいものから大人のものへと、ピキッと音を立てて無理やり押し広げられるように大きくなっていく。

足も、骨盤がグキグキと大きくなったとおもうと、腰の方から骨が太く、長くなり、それを包んでいたスカートがビリビリと破ける。成長が足の先に達すると靴下がちぎれ、靴も爆発するように破壊されてしまった。何とか意識を保っていた幼なじみは、体勢を直して、地面に座った。

「はぁ……はぁ……」
「私好みに育ったじゃないの。髪がちょっと短めだけど」

バサァッ!と、肩にかかるほどだった髪が一気に腰まで伸びた。ついに、幼なじみは意識を失ってしまい、地面に仰向けになって倒れた。

「あらら、ちょっとやりすぎたかしら?」

服で何とかデリケートな部分が隠れている幼なじみ。ほとんどはだけている自分の頭より一回り大きい肌色の果実は、呼吸とともにゆっくり振動し、健康的に育った体は傷一つ付いていない。丸見えになったウエストはくびれ、足はムチムチとした脂肪に覆われている。少年より小さかったその体は、今は大学生くらいの身長と、それにしてもメリハリのついた、グラビアアイドルのような体型を手に入れていた。

それを見た少女は少し満足気な表情になっている。

「上出来ね。さぁ、起きなさい。私の眷属ちゃん。一緒に遊びましょ」

その言葉を聞いた幼なじみはパッと起き上がった。その黒かった瞳は、少女と同じ金色に染まり、虚ろになっている。

「はい、マスター」

感情が抜けた声で喋るその女性は、もはやそれまでの幼稚園児の面影を残していない。少女が何かつぶやくと、破れていた衣服が幼なじみにまとわり付き、一瞬光ったと思うと赤いビキニに変わった。

「これで、準備完了ね。それで、どう、少年?私の力、分かったでしょ?」
「えっ」

終始放心状態だった少年は、最初の笑顔に戻った少女に話しかけられ我に返った。金色の瞳に見つめられた少年の本能は、逃げろと叫んだ。

「(に、逃げないと……で、でも……)」
「逃げさせなんてしない。次は、あなたの番よ」
「(なにも、何も考えちゃダメだ!)」

少年の元に、大人の女性になった幼なじみが近づいてきた。

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投稿者: tefnen

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