環境呼応症候群 月給の子

「はぁ……今週もバックダンサーしかやらせてもらえないなんて……それに、1回だけ……」

アイドル、月野興子(つきの おきこ)は、事務所のソファに座り、悩んでいた。それなりのプロポーションに、均整がとれているが、それなりの顔。人気がでるはずもなく、後輩に追い抜かされる日々。焦りを感じつつも何もできない彼女は、引退を考え始めていた。

「OLになった在香の方が給料高いって……こんなはずじゃなかったのに……」

電話のSNSアプリに映る友人の写真を見て溜め息をつく。その時だった。

《ピリッ!》

「ひゃっ!?」

興子は突然体に走った電撃に、飛び上がってしまった。

「な、なに?静電気?……冬は乾燥するもんね、お肌に気をつけないと……」

いつもクリームを塗って保湿している腕を見た興子の口が開いたまま閉じなくなった。なんとその腕は、急激に小さくなっていく。それは、腕だけではなかった。

「え……な……服が、大きく……周りが、大きくなってる!!」

確かに、興子に対して、周りの世界は拡大しているようにみえる。しかしそれは、興子自身が小さくなっているゆえだった。

「え、私、小人になっちゃうの!?」

その発言が間違いであることを、落ち着こうとして触った胸が告げた。Bカップほどあった膨らみが、跡形もなく消え去っていた。彼女は、10歳ほどの少女に若返ってしまったのだ。

「ど、どういうこと!?私……」

言葉を遮るように、急に扉が開いた。そして、興子のプロデューサー、明石が入ってきた。

「ひっ!?」

明石は、興子に気づくと、やれやれといった呆れ顔で話しかけてきた。

「あれ、どこの子かな?うちの事務所に何か用……って月野さん!?」
「あ、私そのその、信じてもらえないと思うんですけど……って、えっ!?」

なぜか自身を認識したプロデューサーに、驚いてしまう興子。

「な、何で私がわかったんですか!?」
「それは、ホクロとか……瞳の色とかかなぁ?それより、どうしたんですかその姿!」
「これは……」
「いや、待って!これは、行けるぞ!!月野さん、これならブレイク間違いなしですよ!!ちょっと歌ってみて!」

明石は、興子を置きっぱなしのテンションだ。

「え、あ、はい。『せんのか~わ~に~、せんのか~わにな』……」
「小さくかわいい、歌がそれなりにいい!それでいて本当は大人!く~っ、これは最高だ!」
「歌はそれなり……」

興子の眉間にシワが寄った。

そして、明石の言ったとおり、その次の日からファンは激増した。『合法ロリアイドル現る!?』『新しいアイドルにアキバが踊る!』『歌の上手さなんて関係ない!』などなど、雑誌に取り上げられることも数えきれなくなった。ステージで歌う事や、握手会も日常的になり、これまでと比較にならないほど脚光を浴びる興子は、あっと言う間にトップアイドルの一人として名を連ねることになった。

「これよ、これが私の望んでたものなのよ……!!」
「どうです?私の言ったとおりでしょう?オファーが後を絶たないんで、管理するのに嬉しい悲鳴をあげてますよ」
「それは私も一緒ですよ……明日で、この姿になって一ヶ月になるかしら……?」
「そうです。その記念として、明日は特別なスケジュールを組んでおきましたよ」

その特別なスケジュールとは、高級フレンチレストランで、二人だけの貸し切りディナーというものだった。明石と興子は、特別にあつらえた衣装を着て、一ヶ月前は考えもしなかった二人での食事を楽しんだ。メインディッシュが終わり、あとはデザートだけというときだった。

「ふふ、美味しい料理でしたね!」
「あの、興子さん。実は、打ち明けたいことがありまして……」
「なんですか?なんでも聞いてあげますよ?」
「け、結婚を前提に、お付き合いしていただけませんか!?」
「えっ!!」

明石の言葉に、興子は胸を貫かれたかのようだった。心臓がドキドキ言って止まらなくなった。そのあまりの強さにうろたえる彼女。

「……無理、ですか……?」
「う、ううん……?そうじゃなくて……ドキドキしちゃって……」
「お答えを、いただけますか……」
「ちょっと待ってください……ね?……なんか、体が火照ってきちゃって……」

火照る、どころではない熱が、彼女の体に溜まってきていた。バクバク脈を打つ心臓から送り出された、熱い血液が全身を駆け巡っていた。

「汗、お拭きしましょうか……」
「そう、ですね……お願い、します……」
「あれ……月野さん……?」

耐えがたい熱をこらえて、興子は聞き返した。

「なん……です……か?」
「大きく、なってませんか……体が」
「えっ……!?」

興子は自分の腕を見た。それは、一ヶ月前とは逆に、風船にポンプで空気を入れているように、ググッと大きくなっていた。

「そ、そんな、元に、戻りたくない……!」

胸に大きな圧迫感を感じてさらに下を見ると、膨らみが形成されて、ムクムクと大きくなっている。興子の中に絶望感が広がっていった。

「いやぁぁあああ!!」
「月野さん!?」

変化を止めたい彼女の意思とは裏腹に、それは加速していく。グッグッと成長を続ける腕はテーブルの上にあった花瓶を突き飛ばし、服をビリビリと引き裂いて膨らみ続ける胸は、プルンプルンといやらしく揺れる。すぐに、興子は元の20代の姿に戻ってしまった。

「も、もう、おしまいだわ……私の……アイドル人生……」

すすり泣きを始める興子。しかし、それだけで終わらなかった。

「えっ……!?」

すでに服から出ていた胸がボワンッ!と一気にFカップほどになり、そこで小休止したあと、Jカップまでまた爆発的に成長した。

「こ、こんなの大きすぎっ……!!」

それを止めようとして腕でギュッと押さえる。乳房はそれを押しのけるようにドワンッ!!と爆発し、Zカップまで膨張して机の上にあるものを全て吹き飛ばしてしまった。

「や、やだぁ……!!」

最後の一押しとばかりに、ドォォォン!!ともう二回り大きくなり、重さに耐え切れなくなった机が足から潰れてしまった。

「こ、こんな体じゃもうお嫁にすら行けないじゃないの!!」
「い、いいぞ……」
「明石さん……?」

プロデューサーの恍惚の表情を見て、疑問を禁じ得ない興子。

「月野さん、立ってみてください」
「は、はい……え、こんなに背が高くなってる……」

彼女の体の他の部分も成長し、2.5m超えの巨体になっていた。一つがバランスボールほどの大きさの胸は大きかったが、足や腕のムチムチとした脂肪は男の性欲をそそるもので、プリっと大きくなった尻はむしゃぶりつきたいという本能を呼び起こすものだ。

「素晴らしいです……!!何で大きくなったのかは、この際どうでもいい!」
「いや、どうでもよくな……」
「豊満な体をしたグラビアアイドル!しかも昨日まで幼女だった!歌もそれなりに歌える!これは行けるぞ!!」
「だから、歌はそれなり……」
「明日からも、頑張りましょうね!一緒に!」

興子は、ハイテンションなプロデューサーに呆れると同時に、笑いがこみ上げてくるのを感じた。

「ふふっ。ええ、頑張りましょう!一緒に……!」

投稿者: tefnen

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