マスターアサシン

ここは中世、ゴーロッパ大陸の南の半島に位置するミランツェ公国。ある銀行家の邸宅で、ひとつの命が生まれようとしていた。看護婦が妊婦を元気づけている。

「ふんばって、あともうちょっと!」
「んぐっ……ううああああっ!!」

そして、元気な産声が部屋中に響いた。その部屋にいた医師と、夫が近づく。看護婦は赤子を取り上げ、その股間に付いているものを見た。

「元気な男の子ですよ!カトローナ!」
「おとこ……のこ……よかった、元気なのね」
「ええ!それはもう……えっ?そんな、バカな!?」
「息子がどうかしたのか!」

看護婦が奇声を発した。それに驚いた夫がほとんど飛びかかるようにして赤子をふんだくった。すぐに顔から血の気が引いていく。

「い、いやそんな……ありえない!」
「何が、起きてるの?モンテローニ!」

モンテローニと呼ばれた夫は、その赤子の股の部分を妻に見せた。

「おちんちんが、縮んで……あ、なくなった……」

大声を上げている子の、その股間からちょこんと飛び出ていた突起が、中に埋もれていってしまったのだ。

「この子は……男の子なの?」
「分からないが……生まれた時男であったのなら、そうしよう……エレンツォ、この子の名前はエレンツォだ!」

モンテローニは、我が子を宙高く持ち上げた。その股間に、喜ぶかのようにボロンっと竿が生えた。

18年後。先の場面と同じ、ミランツェ公国の首都、ミランツェ。交易が盛んである街の街道は、多くの荷馬車や、商人、住民で溢れかえっていた。その中を、他の人を押しのけ早足で歩く、背の高く筋肉質な体つきの仮面を付けた青年がいた。小物入れの多い服を着て、腰には剣を付けている。そして、彼の視線の先には、豪華絢爛な服や装飾品を身にまとった商人がいた。

「こんなところに身を晒すなんて、アホなやつだ」

独り言を呟いたすぐ後に、青年は商人に辿り着き、間髪入れずに服から取り出したナイフを商人の胸に突き立て、叫び声を隠すために口を押さえた。

「ぐああああ!」
「辞世の句を言ったほうがいいぞ、この世の悪、ナンプラ騎士団の手先よ」
「やはり……きたか……アサシンめ!!この国の平和を……乱しおって……からに……!ぐっ……ふぅ……」

商人は捨て台詞を吐くと、そのまま息を引き取った。

「乱していたのはお前だ。ミランツェの交易を牛耳ろうとして、障害となる無実の者を抹殺していたのだから……さてと、そろそろ逃げないと」

この暗殺を見た通行人はパニックを起こし、街道は悲鳴が雨あられのように飛び交っていた。衛兵は何事かと原因を探ろうとして四苦八苦している。青年は、衛兵が状況を把握する前に、パニックに乗じてその場から逃げ去った。

数分後。誰も来ないような建物の屋上に先ほどの青年が立っている。仮面を取り外し、服を脱ぎ去ると、彼の鍛えあげられた体が惜しげも無くさらされた。

「今日はもうひとつ仕事を……こなさなけれ……ば!!うっ……!!」

彼は突然、毒を盛られたかのように、悶え始めた。すると彼の体が、メキメキと音を立てて、縮み始めた。筋肉はグッグッと萎縮し、骨は短く、細くなる。逆に、男としては多少長めである髪の毛はバサッと伸びた。

「なんで……いつもこう……違った、痛みがぁぁ……!!」

声の方は、男の低くよく通るものから、女の高く透き通ったものへと変わる。と同時に、喉仏が誰かに首を絞められたかのように潰れていく。胸には筋肉の代わりに脂肪が過剰に付き、乳房のように膨らみがつく。その大きさは脈拍と同期するようにムクッムクッと成長し、その国の一番の娼婦ですらかなわない大きさまで膨張する。尻も同様だった。

「ああっ……あああああっ!!!」

彼の股間でグチュグチュと嫌な音がして、息子が消えていくことを物語った。ムッチリとした足が内股になり、完全に女となった所で、彼の体が変わる音が止んだ。

「ふぅ……少しの休みくらいほしいものだ……」

彼、いや彼女は、先ほど着ていた服を、豊満な体が大きく露出されるように着直し、仮面を付けて建物から降りる。そしてそのまま、近くの酒場まで歩いて行った。

中には、沢山の衛兵と、ひときわ目立つ装備を付けた隊長がいた。彼女が入ると、隊長の近衛兵が身元を確認しに近づいてきた。

「お前、何者だ。名を名乗れ」
「そんなこと、どうだっていいじゃないのよ……」

彼女は、艷を惜しみなく入れた甘い声、身振りと、美しい顔と、露出した体つきで近衛兵を誘惑した。

「し、しかしだな……」
「あなたのものに、なってあげてもいいわよ……?」
「へ、へへ……いいねぇ……」

計算しつくされた誘惑で、あっと言う間に近衛兵は懐柔されてしまった。そのまま、彼女は近衛兵のおつきとして、好奇心と性欲が旺盛な衛兵の間をすり抜け、隊長のすぐ近くまで彼女は連れられていった。これが彼女の狙いだった。隊長は、彼女を見てヒューッっと口笛を吹いた。

「お、こいつはなかなかいい女だな、カルロ」
「でしょう。こいつを上に献上すれば、昇進間違いなしですよ」
「その時はお前も……ガハハハ!!」

下品に笑う隊長に、彼女はゴブレットに入ったワインを差し出した。

「隊長さま、これでもいかが……?」
「お、気が利く女だな。ちょうどのどが渇いていたのだ」

隊長は何の躊躇もなくそれを飲み干す。赤い液体が、体の中に滑りこんでいく。

「隊長さま、少しお色直しをしてきますわ……よろしくて?」
「ああ、その代わり後でたっぷりと楽しませてくれよ」
「もちろんですわ」

彼女は、扉を抜け、酒場の中庭に出た。その瞬間、フッと鼻で笑う。

「毒入りのワインが連れて行ってくれる、あの世でタップリと楽しむがいい。さてと、帰るかね」

中庭の門の錠をいとも簡単にピッキングして、彼女は悲鳴が上がり始めた酒場を後にした。

「ただいま、父さん。今日も成功だ」
「お、エレンツォ……それとも、今はエレンツィアかな……?」

銀行家は今は娘になっている、息子を品定めするように見た。

「素晴らしい体だ」
「ああ、神様からもらった賜物だよ。ただ、後一秒でも見つめ続けたら息の根を止めるからな?」
「ふふ、やってみるがいい」

二人は少しの間互いに笑いあった後、話を続けた。

「だけど、あの歴史の教科書にしか載っていないナンプラ騎士団が実在するなんて、思っても見なかったよ」
「ああ、あいつらはいつも統治者や、権力者の仮面をかぶって活動をするからな。誰も騎士団の存在には気づかない。ただ……」
「俺達を除いて、ということか」

父親はエレンツォに頷いてみせた。

「そう。我々と騎士団は歴史が始まる以前から今まで、絶えず戦いを繰り返してきたのだ」
「しかしなぜ、俺達家族にも秘密に行動していたんだ?」
「それはだな……」

その父親の言葉を、遠くから聞こえてきた女中の呼び声が遮った。

「夕食の支度が出来ましたよ!食堂へお上がりくださいな!」
「ああ、今行くよ!エレンツォ、話の続きはまた明日だ」

エレンツォとモンテローニは、部屋を出て行った。

翌日も、エレンツォは男の姿で街にくりだしていた。今日は任務もなくただの買い物であったが、ナンパ癖が出て、途中の酒場で油を売っていた。

「お嬢さん方、俺と一杯飲まないか……?」
「あら、逞しい体」
「素敵な方ね……、仮面を外して、お顔を見せてくださいな」
「男には、秘密が多いほうが魅力があるんだよ……」
「それもそうね……うふふ」

それはどちらかと言えばいつもの事で、もちろん父親にも母親にも公然の秘密となっていた。

「ねえ、私とも付き合ってくださいません?」
「お、どなたかな……?おお……」

エレンツォと数人の輪に、一人の女が入り込んできた。その容姿は女好きのエレンツォでさえこれまで見たことのないほどの美貌をまとっていた。なめらかな曲線を描く髪、あまり大きすぎない胸、魅惑的な体つき。それでいて、娼婦とは一味違った、上品な気質を感じさせる身のこなし。まるで、女となったエレンツォを思いおこさせるような女性だった。エレンツォは、思わず深々と礼をした。

「あなたとお話しできるなど、この上ない光栄」
「まあまあ、そこまでおっしゃらないで、恥ずかしいわ」
「私の名前はニロ。あなたは……」

もちろん偽名だ。仮面をかぶっている間は、エレンツォであることを知られてはならない。

「そんなことより、一杯乾杯しましょ?」
「……そうですね」

エレンツォは、無視されたことで一瞬うろたえたが、すぐに気を取り直して、女性から渡された杯を手にとった。

「乾杯!」「乾杯!」

そして、ワインを一気に飲み干す。アルコールが入った飲み物を飲むことで、体の中がじんわりと暖まって行くのを感じた。

「こんな美しいレディの前だと、格別な味がしますね……」
「うふふ、そのはずですわ……」

しかし、そこで終わらなかった。

《ドクンッ!》
「げほぉっ!!」

体の中の熱が急に強くなると同時に、心臓の脈が急激に強くなったのだ。

「な、ど、どういうことだ……!ぐぅっっ!!」
「うふ……あはは、やはり、君か、エレンツォ。こんなに簡単に任務が成功するとはね」

女性の口調が急に変わったことで、やっとエレンツォは自分が罠にはまったことを自覚した。

「き……きさまは……!!」
「おっと、女の子がそんな汚い口をきいちゃいけないよ?」
「ぐふぅっ!!」

エレンツォは、胸に自分の意志によらずに脂肪が発達し、服に圧迫される感覚を受けた。

――ま、まずい、変わるのを見られては……

急なことで、完全に浮足立ってしまった。

「トイレはあっちだよ、エレンツォ」

そこに出された助け舟に、言われるがままに周りの人間から逃げるエレンツォ。トイレに駆け込み、扉をバァンと閉めると、変身は続いた。

「ど……どうしたんだ、俺の……体はぁっ!!?」

足の筋肉が無くなり、骨格が変わってグキッと内股になる。筋肉の代わりに、脂肪がブワッと付き、ムチムチとした太腿が形成される。この光景を、エレンツォは幾度と無く見てきた。しかしそれは、自分がそうするように念じた結果であるのが全てで、今のように、止めようとしても止まらないのは初めてだった。

強く太い胸筋より、女性となった時に形成される巨大な乳房のほうが体積が大きい。胸は服の生地を無理やり引っ張り、所々でプツプツと糸がほつれる音が聞こえる。これを防ぐのに、毎回服を脱いでいたのだ。

「んぐっ……ぐぅっ!!」

顔が絞られるように変形して、髪が伸びた。それで、ついに変身は終わったが、エレンツォの動悸は収まらなかった。

――まさか、俺の体質がナンプラ騎士団の連中にバレたのか……!?いや、そうでないと説明がつかないぞ!とりあえず男に……なにっ!?

エレンツォはいくら念じても男に戻れない事に気づいた。

――い、いかん。今の姿で外に出れば、騎士団だけでなく庶民にまで俺の体質が……!とにかく、脈が落ち着いてから試すか……!

そして、数十分が経った。といっても、その間ずっとトイレを占領していれば怪しまれる。エレンツォは、力を振り絞って天井裏に隠れていた。そして、数回試した後、やっとのことで男に戻ったのだった。

エレンツォは父親に報告するためにすぐに家に帰り、玄関の扉を叩いた。

「い、今帰ったぞ!」
「……」

だが、中からは誰も出てこない。女中すら、その姿を見せなかった。

「お、おい、俺だ!」
「おかえり、エレンツォ。その家は空っぽだ」

今さっき聞いたばかりの声が、エレンツォの背後から掛けられた。

「お前は、さっきの……」
「そう。アサシン、お前の家族の安否が知りたいか?」

エレンツォは女性の胸ぐらを掴んで、大きな声で脅した。

「今すぐ言え!さもないとお前の首を……!!」
「おっと、こんなところでか弱い女性に暴力をふるうのかな?銀行家のお坊ちゃん」
「ぐっ……」

街道を行き交う全ての人が足を止めて、二人の方に目を向けていた。

「頼む、教えてくれ」
「街の一番大きい教会の大聖堂に囚われているはずだよ」
「なに?そんな公共の場で……」
「今日は聖なる儀式が行われるから、聖職者以外誰も入れないんだよ」
「そいつらが、……」
「そう、我々の同志。はは、せいぜいあがくんだね!」

エレンツォは女性が言葉を出し終える前に走り去っていた。

いつもより乱暴に人を押しのけ、教会を目指す。家族が騎士団にどういう仕打ちを受けるか、想像を絶している。教会に着くと、少しの間も置かずに扉に体当りした。中には、数えきれないほどの衛兵の向こう、祭壇の前に家族が縛り付けられ、その手前に枢機卿が立っていた。

「やはり来たか!双性のアサシン、エレンツォ!」

枢機卿はエレンツォに向かって大声を上げた。

「俺の家族を返せ!」
「返してもらいたくば、おのれの力を使って取り返しに来い!」
「望む所!うおお!!」

エレンツォは雄叫びを上げると同時に突撃を始めた。立ちはだかる衛兵をひとりひとりなぎ倒す。一人を斬りつけ、もう一人を突き刺し、その剣を奪い取ってもう一人の頭をかち割る。持てる力を全て使い、馬ほどの速度で走り抜ける。

「枢機卿!覚悟っ!!」
「ふふっ……!これでも、喰らえ……!」

エレンツォと枢機卿の間に障害が無くなった所で、枢機卿は懐から小瓶を取り出し、エレンツォに投げつけた。小瓶は絵レンツォにぶつかると、粉々に砕け散り、中身がアサシンにバシャッとかかった。

《ドクンッ!》
「うぐっ……!!また……これか……!!」
「おお、これぞ絶世の美女ともいうべきか……」

全身を駆け巡る痛みとともに、あっと言う間にエレンツォは女性と化していた。

「……これで、俺を止めた気になってないだろうな……?」
「まさか」
《ドクンッ!》
「ひゃっ……!?まだ……なにか起こって……な!?」

完全に女性となったエレンツォの豊満な胸が、ムクムクとさらに大きくなっていた。まるで、エレンツォの体から何かが溶け出すように大きくなるそれは、2m、3mと大きくなり、あっと言う間に教会の鐘の大きさほどになってしまった。

「おも……い!!これでは、身動きが……!!」
「ふふ、調べたとおりだ」
「調べた……?俺の体の何を!!」
「男性と女性の間を行き来する体の持ち主が、お前だけだと思ったのか?ミランダ、こちらに来い」
「はい、グランドマスター」

まったく動くことができなくなったエレンツォの後ろから、彼に嫌というほど聞き覚えのある声が聞こえた。

「お……まえは!」
「おやおや、まったくだらし無い乳房だね……人間の一部ではないみたいだ……よっ……!!」

エレンツォにワインを飲ませた女だった。しかし、エレンツォの視界に入ると同時に、その姿は急激に変わっていった。

「ミランダは、我々の理念に共感し、人体実験を引き受けてくれたのだ。代わりに、女性の時はエレンツォ、お前を超える美女に、いわばチューニングを施した」

ミランダの体は更に小さくなり、小さな男の子になってしまった。

「こんな子供に、なんてことを……」
「お前には、アサシンとして鍛錬された暗殺の能力が備わっている。騎士団は、お前のような人材をいつでも……」
「は!?俺に加われと!!バカなことを言うな」
「では、私と交わって子供を残せ。そして死ね」
「な、なにを!!」

枢機卿はエレンツォの後ろに回り込み、そして何の前置きも躊躇もなく突っ込んだ。エレンツォは思わず嬌声を上げてしまった。

「ひゃぅぅうう!!小男のくせして、そこだけはでかいのかよ!!」
「余計なお世話だっ!!……お前、本当に女になっているのだな……!」

何回も打ち付けられる二人の腰。その頻度は段々と上がっていく。

「あんっ……!ち、ちくしょう!……ひっ!……こんな、憂き目に……!!」
「素晴らしい感触だ……!ただ……そろそろ……出る!!」
「やっ、やめろ!!やめないと、後で痛い目を見るぞ!!」
「おおっ……怖いな……あとで好きにするがいいさっ……!!本当にそうできるのならばな!」

そこで、エレンツォの声は冷静そのものに戻った。

「ああ、そうさせてもらうよ。今すぐに」
「なっ!?うぎゃあああ!!!」

枢機卿の股間から、大量の血液が飛び出した。そして、床に何かがポトリと落ちた。エレンツォの手には、収納式の刃が握られていた。

「き、きさま、どこにそんな刃物を!!」
「足にベルトを巻いて、それに付けておいたのだ。そんなことはどうでもいい。どうだ、お前もう自分が男だと証明できないんだぞ」
「ぐ、ぐう……」
「お前自身にも人体実験しないとなぁ?」
「く、くそ!!今すぐこの手で殺してくれるわ!!」
「できるもんならやってみるがいい」
「おのれぇぇえええ!!」

エレンツォの煽りにまんまと乗っかった枢機卿はどこからか取り出したナイフを手に取り、エレンツォの背中に刺そうとした。しかし、エレンツォはそのナイフが空気を切る音を感じ、刃でナイフを弾いた。次の瞬間、エレンツォの刃は向きを変え、エレンツォ自身の力と、枢機卿の走ってきた勢いで、枢機卿の胸に深々と突き立てられた。

「聖職の肩書きを踏み台に人間の体をもてあそぶ悪魔よ、地獄に落ちたまえ」
「ぐあああっ!!!ぐ、ぐふふっ……お前も道連れにしてやる……!」
「なんだとっ!?」

枢機卿はイタチの最後っ屁とばかりに、小瓶を取り出しエレンツォに中身をぶちまけた。

《ドクンッ!》
「んああっ!!」
「体の制御を外す薬だ。暴走したお前の体は、すぐに破裂してしまうだろう……!うは、うはははっ……ははっ…………」

枢機卿の言ったとおり、すでに巨大化していたエレンツォの胸も、尻も、枢機卿の体を押しのけて、全ての部位の脂肪細胞が無限に増殖し、風船に空気を入れられるように膨らみ始めた。エレンツォは、心臓から全身にポンプのように送り出される何かで、皮膚が引き伸ばされる感覚を感じた。教会の床の上で、エレンツォはバルンッバルンッと揺れながら、巨大な球体に膨れ上がっていく。そして所々で、皮膚が限界を迎え始め、千切れそうになっていた。

――万事休すか!!いや……俺の体だ、俺が制御してやる!!
「ぐあああっ!!うおおおおっ!!」

エレンツォは大声を上げた。直径10mほどにもなっていた乳房が膨らむのをやめたが、他の部分は止まらない。

――ちくしょう、ちくしょう!!
「エレンツォ、お前の能力はここでおしまいじゃないはずだぞ!!」
「父さん!……」

父親の声に、痛みを堪え、冷静さを取り戻す。そして、ゆっくりと念じた。

――もとに、もどれ。

それだけ念じると、彼の体はプシューッと空気が抜けるようにして男の体に戻っていった。ミランダは一瞬呆気にとられたようだが、倒れている枢機卿を見て我を取り戻し、女性の体に戻って駆け寄った。

「グランドマスター!グランドマスター!誰か、医者を!!」

泣きじゃくるミランダをよそに、エレンツォは家族を解放した。

「ありがとう、父さん。おかげで助かった」
「違う。今のはお前が自分で成し遂げたことだ」
「アサシンのことを俺に隠してた理由って、そういうことだったのか?」
「ああ、このような事態に陥っても、自分で何とか出来るまで、待っていたのだ。さあ、帰ろうか」

エレンツォと家族は、ぼーっと立ち尽くしたままになった衛兵の中を歩き、教会を出て行った。

その後も、エレンツォはアサシンとしての活躍を続けた。決まった姿だけでなく、変幻自在に体の形を変えられるようになった彼は、時には老婆、時には幼い男児に変身して、暗殺をこなしていった。ゴーロッパ大陸に巣食うナンプラ騎士団をほぼ壊滅においやった彼は、伝説のマスターアサシンとして、その名を歴史に刻むことになるのだった。

投稿者: tefnen

pixiv上にAPまたはTSFの小説をアップロードしている者です。