夏のうだるような暑さの中、少年は住宅街の中を歩いていた。隣には、長い青髪を二つに束ねた女の子が付いている。
「こんな所であうなんて、嬉しい偶然だね、お兄ちゃん」
「あぁ……何でこんな所にいるんだ?」
少年は学校の帰りで、中学生の妹であるシホにばったり出くわしたのだった。シホは年齢不相応なスタイルをしていて、巨大な胸を、夏の暑さの中、汗で濡れた薄着の下でタユンタユンと震わせながら歩いていた。肌にくっついている生地のせいでその双丘の輪郭がいつもよりも大きく見え、襟からも谷間が見えている。といっても、本人に他人に見せつけようなどという意思はないのだが。しかも兄である少年はもう慣れっこで、別段驚くこともない。ただ、男として全く気にならないということでもないが。
「えへへ、先輩とちょっとお菓子屋さんに行っててね……あれ?あんな陸橋、この近くにあったっけ?」
「シホはここに来たことがないんだな」
二人の前に忽然と現れるコンクリートの橋桁。それは、住宅街に不自然に存在している新幹線の高架線路だった。都市どうしを無理矢理直線で結ぼうと、通る土地をいとわなかったせいで、こんな奇妙なことになっている。家はその向こうにあって、兄妹はその方向に歩いてきたのだった。
「これはな、新幹線が……」
ゴゴゴゴ……
少年が説明しようとした矢先、新幹線が近づいてきたことを示す地響きがし始めた。そこでやっと、彼は妹の「秘密」を思い出した。しかし、もう遅かった。
ビュンビュンビュン!!!!
「ひぃっ!!??」
新幹線が風を切る轟音が辺り一帯に響いた。と同時に、それに驚いたシホの体が……大きくなり始めた。兄より頭ひとつ小さかったのが、あっと言う間に追い抜かされる。ググググ……と体全体が大きくなり、そのスタイルが強調されるように服がぴっちりとくっついたかと思うと、ビリビリと破かれていく。そして、5秒ほど経った時には5m上にある高架橋の高さに届いてしまった。もはや、伸縮性の高い下着だけがシホの体を包み、住宅街のど真ん中で肌の殆どを露出した巨人と化してしまった。少年には妹の心臓の鼓動が地面を伝って、ドクンドクンとハイペースで聞こえてきて、その驚きが収まってないことがわかった。
「ああ、これは困ったことになった……」
「おにいちゃぁん……」
大きくなった妹の声が遥か上の方から発せられる。シホは、驚くと体がサイズ的な意味で大きくなってしまう体質を持っているのだ。
巨大化はまだ止まっていなかった。10m、20m、40mとどんどん大きくなる少女は、汗が滴る胸や尻を惜しげも無くさらしていた。しかし20階建の中層ビルになったところで高架橋につまづいてしまい、バランスを崩して橋の方に倒れ始めてしまった。それに、次の列車が、意味もなく警笛を鳴らしながら近づいてきていた。
「きゃああああっ!!ダメぇっ!!」
高架橋を破壊する寸前になって、すでに考えられないほど巨大だった胸がブルンッ!!ムギュギュギュ!!!と大きくなり、それによってともに大きくなった谷間に、橋桁はスポッと挟まれた。尻もプリンっと空に向かって膨らみ、逆にウエストはキュッと絞られる。巨大化の体質の他に、他の人の危機を感じ取ると成長するという体質も持っている。自分が倒れこむことにより線路が破壊されるのを危惧し、その体質が現れたのだった。
列車は、突然現れた巨人の乳房の間を、スーッっと抜けて……行かなかった。非常ブレーキをかけた列車はシホの下で止まってしまった。
「は、恥ずかしいから早く行ってぇっ!!」
少し大人びた少女の叫びは、普段の騒音の何十倍にもなって、家々の窓を破壊し、新幹線の架線も至るところでプチプチと切れた。周りの異変に驚き、更に何倍にも巨大化していくシホ。真下で耳を押さえていた兄は、溜め息をつくしかなかった。