転がる性

ボクは、れっきとした男なのに、はたから見れば女にしか見えない。いわゆる「男の娘」だ。これまで幾度と無く女子と間違えられ、男子だと解ってる奴らからも女子扱いされることも数えきれないほど。力が弱いわけでも、背が特別低いわけでもないけど、ふっくらとした体つきや、一向に声変わりしないことがコンプレックスになっていた。それでボクはこれまで、髪も短く切って、部活のサッカーもたくさん練習して、できるだけ男らしく生きようとしてきた。

その日もそうだった。だけど、中学校から帰る途中立ち寄ったコンビニで、ボクは「それ」に出会ってしまった。

「こ、これは……」

女性向け雑誌の表紙に、可愛い服を着たモデルの写真が載っていた。そこまでは普通だった。問題は、そのモデルの顔つきがボクとそっくりだったことだ。少しドキッとした後に、ボクがそのモデルの格好をしているところを無意識に想像した。

「(ボクがこんな可愛い服を着たら、どうなるんだろう……周りからちやほやされたりするのかな)」

想像上のボクの周りに、いっぱいのカッコイイ男の人が、ボクの目標、憧れの男らしい人が集まってくる。いつもなら、少し考えるのだけでも拒否反応を起こしていたのに、その時のボクはなぜか充足感を感じていた。

「(そしたら、私、人気者になれるかな。え、私?)」

どこからともなく出てきた『私』という一人称。頭の中の女装したボクが使いそうな感じ。それを、思わず使ってしまったのだった。

「(わた……し。え、あれ……?私じゃなくて!)」

ボクは『私』を振り切ろうとしたけど、頭の中で反響するこだまのように、『私』で満たされていく。同時に、全身がピリピリと痺れを感じてきた。

「う、うぅ……!」

しびれが、ボクを作り変えていくような奇妙な感覚に、思わずうめき声を出してしまった。だけど、それはすぐに収まった。

「な、なんだったの?」

胸に手を当てて、落ち着こうとした。でも、それは逆効果だった。なぜなら、手にムニュッと柔らかい、慣れない感覚が伝わってきたからだ。

「え?」

下に目を向けると、心なしか胸のあたりが盛り上がっている。

「ま、まさかそんなこと……」

ボクは服を脱いで嫌な予感を否定したくなったが、その場で全裸になるわけにも行かず、コンビニのトイレを借りて……嫌な予感が確信に変わってしまった。

「これ、おっぱい……?私に何でおっぱいが?って、ってことは!」

トランクスの中に手を突っ込む。小さくても、確かにそこにあったボクの男の象徴が無い。ハッと鏡を見ると、髪も肩まで伸びていた。

「わ、私、女の子になってるぅ!!」

そんなの、嫌だった。これまでコツコツと作り上げてきた日常を全部否定されるようなものだったから。ボクは、その悪夢のような現実を、否定し返すしか無かった。

「わ、私は……ボクは男なんだ!そんなに簡単に女になってたまるかぁっ!」

そしたら、またしびれのような感覚が襲ってきて、数秒もしないうちに胸は胸筋を残して平らに戻り、髪も元に戻った。股からムギュッと圧縮された感覚が伝わってきて、ボクは男に戻れたことが分かって、やっと一息つけたのだった。

それが、数週間前。それからも、何回か女の子になる現象が起きていた。ボク自身が女装している場面を想像する度、実際に女の子になってしまうのだ。やめればいいのにと思われるかもしれないが、なぜか無意識に想像してしまう。最近は男に戻れないで、女のままクラスに出たこともある。体つきはほとんど変わらないけど、髪は長くなって目立つから、はさみで切ってはいたけど。

そのボクが今いるのは、ウィメンズの洋服屋さんの前だ。安めだけど、流行に乗ってそうなスタイリッシュなものから、子供用のかわいいものまで売っている。見た瞬間にまたドキッとしてしまって、私が着たらどうなるのかなって。あ、またしびれが全身にかかってきた。こんなに簡単に体が変化してしまうから、この女の子の体も楽しもうかな。

私が着てたのが男子学生用の服だったから、店員さんはかなり困惑してたみたい。コスプレで通したら半分納得してくれて、そこから服選びを手伝ってもらって、結局30分くらい吟味してたかな。こんなに長く洋服屋さんにいたのは初めてだけど、すごく楽しかった。ようやく試着室に入った時は、もう私が女の子の服を着ることは当然のことのように思えた。

でも、すごくドキドキする。本当にこの服に袖を通していいんだろうか。私は道を踏み外すことはないんだろうか。

「ううん、大丈夫」

私は自分にそう言い聞かせた。まずは学生服を脱いで、下着をつける。すごい、完全にフィットする。スポブラのホックをつけると、胸のふっくらとした膨らみがすこし上に持ち上げられて、錯覚で大きくなったようにも見えた。店員さんに選んでもらった服を全部着ると、私はどこからどうみても女の子で、元が男だとは全然わからないほどだった。

「私、すごく綺麗……もう、このままでもいいかも」

そんな言葉が自然に口からこぼれた。その瞬間、ビリビリッといういつものしびれがもっと強烈になったものが、全身の感覚を支配した。

「ん……んぅっ……」

しびれに何とか耐え、私は鏡を見続けた。肩まで伸びていた髪が、背中の半分まで伸びる。少し中性的とも言える顔つきも、輪郭が丸くなり、鼻が小さくなっていわゆる「女顔」に変化する。胸に圧迫感がかかると、鏡の中の自分の胸の部分が服越しでも分かるくらいに盛り上がった。やっとしびれから開放されると、私にはもう後戻りができないことが何となく分かった。でも、それでもうよかった。

「ふふっ……お母さんにどう説明しようかな」

ちょっと困ったように微笑んでいる鏡の中の女性は、とても魅力的だった。

投稿者: tefnen

pixiv上にAPまたはTSFの小説をアップロードしている者です。

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