「やっぱり偽物だったのかなー、あんなに安い薬で、1000円もしない錠剤で性転換できるわけなかったんだ」
薬を飲んで10分しても、効果は現れなかった。結局、夜が来てしまいベッドに横たわる尊(たける)。
「女の子になってたらどうなってたんだろう」
そう考えている彼は、自分の脈拍が早くなってきているのに気づいた。
ドキドキドキドキ……
「どうしたんだ、僕……なんか、変……」
自分の胸を見てみると、その心臓の動きがはっきりと見えるほど大きな脈を打っている。
「はぁ……はぁ……まさか、今頃……うぅっ……!!」
その鼓動の大きさは、一回ごとに尊に衝撃を与えるほどになっていた。彼の意識は朦朧としていたが、その痛みで身を捩ってしまう。
「くるし……いたっ……ああっ!!」
今やドクドクと動いているのは胸だけではなかった。その腕、足、そして顔すらも、定形を失って、ときおりボコッと何かが浮き上がっては沈んでいくようなうごめき方をしている。それに、全身の骨からギシギシメキメキときしむ音が聞こえ始めている。髪は下に引っ張られるように毛根が痛み出し、伸長を始めていた。
「くぅっ……こんなに痛い……なんてぇっ!」
ついに筋肉や骨から来る痛みに耐え切れなくなった尊は、ベッドの上でバタバタと身悶えてしまう。服で隠れて見えないその男としての小さな乳頭も、他の部分と同じように普通の女性よりも大きくなったり、はたまた赤子よりも小さくなったりと、左右バラバラに膨縮を繰り返すようになっている。指の長さすらも元からかなり逸脱している。まるで、尊の中で薬が暴れ回り、そこらじゅうを中から蹴ったり、殴ったりしているようだった。
「ああっ……あああああっっ!!!」
そして突然胸が盛り上がり始め、丸い膨らみがパジャマを引っ張り、引きちぎらんばかりに押し上げていく。その上で成長と萎縮を繰り返すことを止めない乳首がビクンビクンと暴れ回り、パジャマはそのせいでギチッギチッと悲鳴を上げる。膨らみは尊が激しく体を動かす慣性の力で、ブルンブルンと揺れている。
「うぐっ……ううううっ!!」
パジャマが上に引っ張られて見えていた、腹筋が発達した腹部が変形していく。その割れた筋肉はグキリグキリと、見えない力に潰されるように、部分部分が消滅していく。それと同時に、横からもギュッと腰が握られるように幅を縮め、一気にくびれる。生えていた体毛はスッと中に吸い込まれ、あとにはきめ細かい肌が残った。
「あぅっ……ぐぎゅぅうううう!!」
高くなっていく声で尊は叫び続ける。その尻が、胸と同様丸く膨らみ始め、パジャマの尻の部分を一杯にしていく。ブクッブクッと左右がそれぞれに大きくなって、キュッと張力が出る。腿の部分にも十分すぎるほどの脂肪がついて、その縫い目からブチブチッと糸がほつれる音が聞こえた。
「はっ……はっ……」
叫びすぎて酸素が不足し、もう声が出なくなっているが、それでも全身のうごめきは止まらず、先程から胸を圧迫する乳房も、大きくなり続ける。が、一瞬で引っ込んだ。
「はぁ……はぁ……むね……が……」
尊は苦悶の表情のままだが体を動かすのをやめ、胸を押さえた。
「あ、ああっ……」
平になっていた胸が、最初の心臓の動きのように鼓動する。そして、
「ああああああっ!!」
尊の叫びと同時に、ぼぎゃんっ!!と内部で爆発が起こったようにバスケットボール大まで瞬時に爆膨した。パジャマはそれに耐えきれるはずもなく、乳房がバインッと外に飛び出し、さらに一回り急拡大して、バランスボール並みのサイズになってしまった。そうなったところで、激しい脈拍は元に戻り、体のうごめきも止まった。
「おわ……った……のか……」
尊は身長はそのまま、男の特徴は失い、逆に女の特徴が過激なほど存在している全く別の人間になっていた。着く所に付き過ぎた脂肪と、かなりくびれた腰。それに、爆乳を超えた「超乳」と呼ばれるほどの大きさの、体にのしかかるような乳房。やすい薬で済ませようとした代償として、移動の自由をほぼ根こそぎ奪われてしまったのだった。