大鑑巨人主義!前編

ここはとある巨大テレビ局の仮眠室。取材続きの疲れの中、俺はぐっすり寝ていた。が…

ドーンッ!!

「な、なんだなんだ!!」

俺は、大きな揺れに飛び起きた。そのゆれは地震のように長く続かず、すぐに収まった。俺が寝ていた仮眠室に、編集長が飛び込んできた。

「おい、スクープが取れるぞ、早くヘリに乗れ!」
「は!?」
「いいからはやく!」

俺は編集長に怒鳴られるままに、取材ヘリが収容してある屋上へと向かった。ヘリコプターはすでにローターを起動し、すぐに飛び立てる準備がしてあった。

「お、渡辺!お前つい3時間前まで徹夜の取材してたのに大丈夫か!」

パイロットの岡部が、ヘリコプターの方に走ってくる俺を見て笑った。あいつだって、同じ取材で疲れきってたはずなのに。

「編集長に言われたんだよ、それで、なんだよスクープって、さっきの揺れと関係有るのか?」
「あ?なんだお前、知らないのか。まあ離陸すればすぐ分かるさ」

俺が寝ている間に多くのことが起きたかのように言われた。地震か?それとも火山の噴火?疑いながらも、ヘリのカメラの後ろに腰を下ろし、ヘッドセットに喋った。

「いいぞ、さっさと終わらせよう!」
「ふん、きっと驚くぞ」

ローターの回転数が上がり、ヘリはヘリパッドを離れた。テレビ局の屋根が離れていく。

「な、なんだありゃ……!」
「すげーだろ」

隠れていたテレビ局の下の風景が一気に広がったが、見えたのはいつもの港や町並みだけではなく、なにかすごく大きいもの。いや、明らかに人間なのだが、そのスケールは俺の常識をはるかに上回っていた。こんなの、テレビの特撮もの以外で見たことがない。

「あれは……女性か……?」

そこには、東京タワーより少し背が低めで、体型的には長身、緑なす黒髪は、中層ビルほどの高さにある腰まで伸びている。弓を持ち、矢筒を背中に抱えていることから、射手なのだろうが、あの矢は高層ビルすら貫き通すだろう。全体的に赤を貴重とした射手の服の上に、黒い大きな胸当てを当てている。足の方は、何やら下駄のような、はたまた軍船の艦首のような、何かを履いている。それに、何だろう。肩から下げている盾には、まるで旧型の航空母艦のような……

「お、おい、寝ぼけてんのかよ!さっさとカメラを回せ!」
「はっ!俺としたことが……」

俺がぼーっと「ソイツ」を眺めているのを見かねて、岡部が言ってきた。といっても、どこを撮ればいいのやら。そのものすごく戸惑っている顔か、胸当てがあってもわかるようなふくよかな胸か、それともニーソックスに包まれた健康的な脚か……どうにもこうにも、全身が大きすぎてカメラに収まりきらない。身長が250mはありそうだ。

「こ、ここは東京、ですよね……?多分、あれが陛下のおわします所で……じゃあ南に行けば……」

少し動くだけで何もかも破壊してしまいそうな大きな体とは裏腹に、汚れのない、どこかにプライドを漂わせる声で、彼女は独り言をつぶやいた。どうやら、東京を破壊しに来た無慈悲な生物では、少なくともないらしい。

「南って……どっちです……?」

なんだろう、何かかわいそうになってきた。半分涙声になってきたその巨人に、俺は話しかけてみることにした。

「おい、岡部、もう少し近づけるか?」
「大丈夫かよ、あんな大きいのに近づいて……」
「スクープを取りたいんだろ、俺が独占インタビューしてやるからさ!」
「なにバカなこと言って……ああもう、近づきゃいいんだろ!?」

岡部は機体を動かし、彼女に近づいていった。200mくらいになったところで、あちらもこちらに気づいたようだ。

「な、なんですか?この飛行機……?何で浮いてられるんですか……?すごいです!」

こんな状況でも好奇心いっぱいなのか、顔を近づけてきた。おかげで、喋りやすくなった。俺は拡声器の電源を入れ、巨人に向かって叫んだ。

「あの!!お名前をお伺いしても!?」
「ひゃっ!?」

いきなり声を出したせいで、巨人がたじろいだ。それで一歩後ろに退いてしまい、その足からドーンッ!という轟音が聞こえてきた。みると、下のビルが粉砕され、跡形もなく消え去っていたのだ。

「ああ……大丈夫ですよね……?」
「ああ!!この地帯は避難命令が出て誰も居ないはずだから!!それよりもお名前!!」
「あ、私は、連合艦隊、第一航空戦隊の赤城と申します。母港を探していたら……いつの間にかここに……」

赤城?ミッドウェー海戦で喪失したことで、連合艦隊の能力が大きく低下してしまったという、あの赤城?

「あの、赤城は航空母艦のはずで、こんな大きな人間女性ではないですよね?」
「……信じられないとは思いますが、私も信じられないのです。人間の形を持つことになるなんて、夢にも思っていませんでした。だけど、現にこうなってしまったのです。横須賀に、横須賀に帰らないと……」
「横須賀、ですか……」

神奈川の大きな米軍基地がある、今の横須賀。もし彼女が旧日本軍の空母であったとして、母港のほとんどが敵国の基地になっていると知ったら、どうなることだろうか。

「あ、そうですよ、あなたならどちらにあるかご存知ですよね?」
「うっ」

本当に案内すべきか迷った。日本に現れた巨大女が、米軍の基地を壊滅させる、なんて、とんだ大事件だ。しかし、横須賀まで飛んでいける燃料はあるし、他の海上自衛隊の基地を見せても納得しないだろうし……今さらこのネタを逃すわけにも行かない。

「いいでしょう、ただし、できるだけ市街地に被害は出さないようにしてくださいね!」
「え、ええ、それはもちろん……」

俺は岡部の方にアイコンタクトをした。岡部は肩をすくめて、横須賀に進路をとった。

「では、ついてきてください」
「はい、ってうわぁ!!」

いきなりのハプニングだ。赤城は低層ビルにつまづいてしまい、天王洲アイル駅の真上に倒れてしまった。東京モノレールの線路はポキッと折れ、埋立地の弱い地盤はえぐられ、手を突いた先の首都高の橋桁は破壊されて下の運河に落ちていってしまった。

「あいったたた……」

本人は痛がっているが、真下の人の安否が心配だ。それにどう転んでも、この地帯の修復には何週間もかかるだろう。だが、それは俺の知ったことではない。コミュニケーションが成功した今、赤城自体のことをまともに取材できる一員になったのだ。下の被害は誰か他の奴らがやってくれるにちがいない。

「すみません……本当に……」

すぐに立ち上がった赤城のスカートにはモノレールの車両がひしゃげてくっついていたが、赤城が払うとぺろっと落ちていき、地面に激突して粉々になった。

「多分、大丈夫ですから……」
「気をつけます……」

赤城は履物を運河の水面に付けた。すると履物は沈むこと無く赤城の体重を支え、赤城はスケートをするように運河の上を流れ始めた。

「じゃあ、行きましょうか」

赤城はそのまま、東京湾のほうに滑っていった。(つづく)

0 (拍手)

投稿者: tefnen

pixiv上にAPまたはTSFの小説をアップロードしている者です。