種族チェンジャー~序章~

『種族チェンジャー』なるアプリが僕のタブレットに現れたのは、ある日曜のことだった。動画アプリを開こうと、電源をつけた時、ゴシック体ででかでかと「異」の一文字だけが書かれたアイコンが、唐突に現れたのだ。

「なんだよこれ……」

ウィルスや迷惑アプリだと困る。すぐに削除しようとしたが、どうやってもアンインストール方法が見つからなかった。ネットで調べても、このアプリの情報は一切出てこない。興味本位で、アプリを開いてみることにした。

すると、またもデザイン性のかけらもない画面が出てきた。いろいろな選択項目と、ボタンの山。ただ、アプリの『種族チェンジャー』という名前の通り、種族を選択するところと、「変更」というボタンがある。その上には、「名前」の欄と「年齢」、「性別」の欄があった。ただ、どれもグレーアウト、つまり選択も入力もできない状態だった。

「……どういうことなんだ……」

更に良くみると、「対象を選ぶには、カメラで対象を捉えてください。写真は撮らなくても結構です」と小さく注意書きがあり、その下に「カメラ」のボタンがあった。ボタンを押して、カメラへのアクセスを許可すると、いつもどおりのカメラ画面が出てくる。試しに、自分を映してみることにした。

「おっ、本当に僕の情報がでてきた」

ピコンと音がして、画面はメニューに戻り、僕の名前、「野田 茂雄(のだ しげお)」と、年齢と、性別が出てきた。種族ももちろん「人間」と情報が出てきた。

「ん、全部選択できるようになった」

グレーアウトしていた選択欄が、操作できる。名前は何でも入れられる。年齢は、1から100を選べる。種族は「エルフ」「獣人(猫)」「ドワーフ」とか、ファンタジーに出てくる種族ばかりだ。どうやら、人型以外の種族はないらしい。

「性別は、と、あれ?」

アプリの設計ミスなのか、性別は「女性」しか選べないようだ。それに、他の欄を操作すると、強制的に選択が「女性」になる。最後に、アプリを閉じたり、「リセット」ボタンを押すと、情報がもとに戻る。

「こうなるとなにか試したくなるな……」

無論、僕自身の体ではない。本当に種族が変わったら、大変なことだ。それに、種族を変えるイコール僕が女になるということらしいから、ますます自分で試してはダメだ。

「うーん、何か試しやすい相手は……」

その時、窓の外を母と娘の親子連れが通った。とっさに、小学生くらいの娘の方をカメラで捉える。そして、「種族」を「エルフ」にして、「変更」ボタンを押した。

「しまった、勢いでやっちゃった……」

女の子が立ち止まり、母親はそれに気づいて声をかけている。窓の外なのであまり音は聞こえてこない。だが、女の子がだんだん小さくなっていくのが分かった。母親は腰を抜かして床に倒れ込んでしまった。その間にも、女の子は服の中に埋もれていった。

「どういうことなんだ……まさか」

年齢の欄を見ると、「8歳」となっていた。小学生の年齢としては妥当……だが、種族をエルフに変えたからか、年齢は0から500歳まで選べるようになっている。長寿の種族らしいエルフにとって、「8歳」は赤ん坊にほかならない。

僕は、年齢を「40歳」にあげて、もう一回変更ボタンを押した。すると、ブカブカになった服の中から、光り輝くような金髪の女の子が出てきた。すくすくと大きくなり、幼児体型だが、身長は前よりも高くなった、くらいのところで成長が止まった。

おどおどする「40歳」の娘を前に、30歳くらいであろう母親は気絶してしまっていた。僕は「リセット」ボタンで女の子を元に戻そうとした。

「あれ?」リセットボタンは、操作できなくなっていた。ただ、その他の選択項目は操作できる。僕は手動で、種族を「人間」に、年齢を「8歳」に設定して、「変更」ボタンを押した。女の子の髪は元の日本人らしい黒に、身長ももとに戻った。数分すれば意識を取り戻すだろう母親が、記憶を失っていることを願いつつ、カーテンを閉めた。

どうやら、このアプリは本物らしい。

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投稿者: tefnen

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