『ワタモテ(私がモテないのはどう考えてもお前らが悪い)』のパロディです。
主人公、黒木智子の妄想で自身が美女になってるシーンがあったりする(同じ声優さんで、実際の智子は低音、妄想の方は高音で演じられてます)のですが、それをもうちょっとゆっくり変身させてみようかなと。では、どうぞ。(途中から視点変更します)
ここは、照明のついていない薄暗い部屋。唯一の光源になっている液晶ディスプレイの前に、その少女は座っていた。顔立ちはそれなりに綺麗だが、手入れのされていない黒いボサボサの髪、海の淵のように黒いクマ、腐った魚のような緑の目、女子高生とは思えない格好。それこそが、黒木智子だった。
この少女、容姿をあまり気にしないどころか、性格がねじ曲がっていて、心のなかでは過激な考えを持っているのに、それを外には出さずに、自分の中で悪い方向に膨らませてしまう癖があった。それゆえに他人と素直に会話することが難しく、恋人はおろか、友人まであまりいないという有り様だった。そんな彼女でも、頑張り屋ではあるので、それを認めて、見守ってくれている人は、少なからずいるのだが。
それはさておき、今日も彼女は、暗い部屋でネットサーフィンを楽しんでいるのであった。
「(この子、萌えるわ~めっちゃ可愛いわ~)」
アニメキャラのポスターを見ている彼女は、「大きいお友達」と呼ばれるような部類の人と、考え方が全く変わらない。ゲスな笑みを浮かべ、よだれを垂らしそうになっている彼女は、これでも女子高生なのかと疑いたくなる様子だ。
「(あ、そろそろアニメが配信される時間だ…)」
スタートメニューの時計を見て、智子はアドレスバーに配信サイトのアドレスを入力しようとする。だが、それを邪魔するようにウィンドウがパッと開いた。
「(ん、ポップアップブロックはしてあるはずなのに…うぜえなあ)」
ウィンドウに書いてあることを読まずに、×ボタンを押す智子。しかしすぐに別のウィンドウが開く。
「(なんなんだよ、うっとおしい…ん?「綺麗にしてやる」?余計なお世話だ!)」
今度はウィンドウに書いてあったことを読んだが、挑発的な文章に、再度×ボタンを押す智子。今度はウィンドウが無数に開き始めた。全てのウィンドウに『無視するな』と書かれている。
「(私としたことが、ブラクラ踏んだか…ふん、こんなの、初心者しかひっかからないっての)」
スタートメニューにマウスカーソルを動かし、ブラウザの全てのウィンドウを閉じようとする智子。
「(あーもう、手間かけさせやがって…ん?)」
フリーズしている。
「(私に対して喧嘩売ってんのか?こうなったら、タスクマネージャーで…)」
智子はショートカットキーでマネージャーを開こうとした。すると、スピーカーから、ガラスや黒板を引っ掻くような、皿を擦るような、とにかく吐き気がするような音がなり始めた。
「な、なんだよっ!」
智子は思わず耳をふさぐ。しかし、次なる苦痛が智子を襲い始めた。
「んんっ!体が、あ、熱いぃっ!」
智子はもがき苦しみ始め、椅子から床にドサッと崩れ落ちた。
「ぎゃああああっ!」
床でじたばたする智子の手足が、なんと伸び始めた。伸びた足は椅子を蹴飛ばし、手は遠かったベッドに当たる。
「か、顔が、燃える、焼けただれるっ!」
智子は顔に熱を感じてそういったが、それは逆に綺麗になっていく。クマは消え去り、瞳は輝きを取り戻し、全体的に大人びていく。ボサボサの髪も、見えない何かにセットされているかのように真っ直ぐ、サラサラなそれに変化する。
「あ゛ぁっ!…ゲホッ!ケホッ!…きゃぁぁっ!」
そのダミ声までもが、変化の対象になり、一オクターブ上がった、華麗な声になる。そして、最後に殆ど無かった胸が唯一の友達である成瀬 優ほどの大きさに、左乳房から順にボンッボンッと大きくなって、痛みが引いていった。
「な、なにが…」
智子は部屋の暗さのせいで何が起こったか分からなかった。
《バーンッ!》
「うっせーんだよ!」
勢い良く扉が開き、智子の弟である智貴が怒声を上げて飛び込んできた。
「ったく、人が寝てる時間に大声で…あれ?」
智貴の前には、いつもの姉とは違う、色気ムンムンの美女が床にへたり込んでいた。
「(え?誰だこの人?姉ちゃんの部屋にいるんだから…いやいや、でもこんなに綺麗なわけが…
でも、この緑の目は…)」
「智貴?」
「えっ!?」
その美女は、申し訳無さそうな顔をして、そのきれいな声で智貴を呼んできた。
「(俺の名前、呼んだよな、こいつ?でもいつもの姉ちゃんなら、『弟』って呼ぶはずなのに、あーもう訳分からん!)姉ちゃん、だよな?」
美女がコクリと頷く。
「俺の知ってる姉ちゃんは、もっと、うーんと、そう、汚いんだけど…」
「…?」
美女は首をかしげ、悲しそうな顔で智貴を見ている。
「(やりづれー…いつもだったら「うっせえ殺すぞ!」的なノリなのに…)」
「智貴、お姉ちゃんが悪いことしちゃったみたいね…」
「い、いや…もういいんだ(一旦部屋に戻って、頭冷やすか…)」
「だから、体で償ってあげる」
「えーっ!?」
いつもの智子も、冗談交じりで、同じ文句で弟を煽っていた。だが、今の智子は何かが違う。
「(いや待て待て待て待て!これは何かの罠だ!そうに違いない!)」
慌てふためく智貴を前に、智子はすっくと立ち上がり、胸がミッチリと詰まったシャツを脱ぎ捨てる。その背丈は、智貴よりも一回り高く、開放された乳房は智貴の目線の高さでフルフルと震えていた。
「罠だ!罠なんだー!」
智貴はいつもの姉との差に耐えられなくなって、その場から逃げ出し、自分の部屋に駆け込んだ。部屋の扉を閉め、その前に勉強机を引っ張ってきて、絶対に開けられないようにした。すぐに、ノックの後に外から声が聞こえた。
「ね、ねー、どうしたの、智貴?入っていい?」
「帰ってくれ!自分の部屋に!」
「そう…」
智貴は、朝になればまた姉と対面しなければならないことを考え、心臓がバクバクして止まらず、寝ることが出来なかった。おかげで、ただでさえ消えない目の下のクマが、次の朝はもっと深いものになっていた。
「お、おはよう…」
「あらー智貴、どうしたの、眠そうね」
「母さん、おはよう」
不安だった智貴の耳に、いつものゲスな声が飛んできた。
「ふっ、どうした弟、夜中アダルト雑誌でも読んでたか~?」
「姉ちゃん…」
智貴は一瞬安心してしまった。前にいるのは、いつもの「汚い」姉だ。
「うっせーな、さっさと食べないと遅刻するぞ」
「図星か、図星なのか~?」
こうして、嵐のような一夜が去ったのだった。