環境呼応症候群 酔いの子

「本日はお日柄もよく……」
「そんなことはどうでもいいから!乾杯!」
「「「「乾杯!!」」」」
「……乾杯!」

今日は月に1回の飲み会。課の皆参加する、近くの居酒屋でやるものだ。別に、強制参加とかではないけれども、腹を割って愚痴を言い合ったりする、ストレス発散のいい機会になっているから、周知すれば皆こぞってやってくるのだ。ただ僕はというと、新入社員として、これまでは忙しすぎて参加を見送っていたけれど、やっと今回都合を合わせることができた。ビールをぐいっと一口飲んだ後、グループリーダーの高井さんが話しかけてきた。

「やっぱり最初はビールだよなー!なあ新人!」
「ですねー!」

本当は焼酎の方が好きだけど、話を合わせておこう。

「お、すごい……織田さん、あんなに小さいのに」
「織田か……あいつにはちょっとした秘密があってな」

織田さん、というのは、課にいる唯一の女性社員で、おまけに女性としても背も低いから、まるで課に子供が迷い込んでいるかのような光景が毎日見られる。といっても、もう打ち解けたし、その光景にも慣れてきた。それが、今日また驚かされてしまった。

「ぷはっ!これこれ!やっぱりこれよね!」

もうジョッキが空いた。1分も経ってないのに。遅目の一気飲みレベルだ。

「大丈夫なんですか?あんなに飲ませて」
「大丈夫だって!まあ、間違いなく潰れるだろうけど」

高井さん、それはどっちなんですか。

「そういえば山崎は初めてなんだよな。あれはな、見ものだぞ」
「へ?織田さんがですか?」

山崎とは僕のことだ。織田さんが見ものって、今でも結構見ものなんですが。

「いいか?胸のあたり見てろよ」
「それってセクハラじゃ……」
「大丈夫だって、もう酔っ払ってて今の記憶なんて残らないし」
「は、はぁ……」

言われるがままに織田さんのペッタンコ……ゲフンゲフン、胸を見た。すると、何か膨らんでいるようにみえる。いやいや、女性なら当然多少の膨らみはあるだろうけど、織田さんは……しかも、だんだん大きくなってる?シャツのボタンも、左右から引っ張られている。これは……

「どうだ」
「うわぁっ!」

あまりにも集中していたせいか、高井さんの一言でかなり驚いた。高井さんも一瞬目を丸くした。

「……ははははっ!!びっくりしただろ?」
「いや、どちらにもびっくりしました」
「まだまだこれからだぞ、飲みながら見てな」

机においてあるまだキンキンに冷えているビールを、ゴクリと飲んだ。だけど、目の前で起きていることを見ていたせいで、味が全くわからない。続けざまにゴクゴクと飲んだけど。だって、織田さんのシャツから谷間が覗くくらい、胸が大きくなっていたからだ。

「な、なぜなんだ……」
「それは、よくわからないが、『メタモルフォーゼ症候群』ってやつらしいぞ?酔えば酔うほど、胸だけじゃなく体全体も大きくなる。そういうものらしい」
「体全体?」

確かに、織田さんとその隣にいる先輩社員の背丈の差が縮んでいる気がする。肩幅も大きくなっているかもしれない。そんな織田さんは、グビグビと飲み続けている。シャツの方はもう限界で、喋り声で音は聞こえないが、ところどころが裂けはじめ、胸肉がプルンと出ている。

「でもな、本人に聞くと、冗談のように笑い飛ばされてさ。全く覚えてないらしい」
「全く、ですか……あ、ビールお願いします」
「俺もお願い」
「あ、私もあと3杯ー!」

通りかかった店員にお代りを頼む。織田さんは飲み干すと本能的に頼んでいるが、もう5杯は飲んでいる。元々の彼女だったら、もう倒れていても仕方ないだろうけど、いつの間にか男性社員を追い抜かして大きくなっているその体では、まだ足りないのだろう。

「ところで、いつわかったんですか、その事」
「もちろん織田が初めて飲み会に来た時さ。最初は山崎みたいに、酒を大量に飲む織田を心配したんだ。そしたらさ、どんどんでかくなってくじゃないの!どれだけでかくなるかは、まあお楽しみだな」
「まさか、それを見るために参加している人も?」
「もちろん。そのことがあってから、参加者が急増したし。ただ、口止めはしてあるはずだけどな」

僕も今日まで知らなかったのは、その口止めがあったせいだろう。そんなとき、ガラスがキーンッとなる音が響いた。見ると、織田さんのシャツのボタンが1つ外れて、そこからムニュッとおっぱいがでている。

「そろそろ、来るぞ」
「来るって、何が?」
「だいぶ乗って来た!一気飲み行くよ!」

織田さんが立ち上がって大声を上げると、高井さんを含めた皆が歓声を上げる。学生の集まりじゃないのに。織田さんは、ビールを一杯、いや二杯、それにとどまらず三杯と、1分以内に全部飲んでしまった。すると、織田さんの体が、グイグイと大きくなり、すでにシャツからこぼれ落ちていた乳房が、ボンッ!バインッ!と、数十倍の大きさまで爆発的に大きくなった。その重さで、織田さんが前にのめって倒れてしまうと、バランスボールほどの胸はグラスジョッキもつまみの皿も全て破壊して、テーブルの上を専有した。これは高く付くぞ、という思考より前に、なんて大きくて柔らかそうなおっぱいなんだ……というものの方が先に頭に浮かんだのは、多分酔いのせいだ。

「う、動けないー。なんでー?」
「織田さん、もっと飲む?」
「あ、ありがとー」

織田さんの口に先輩社員が日本酒を注ぐ。少しこぼれつつも、織田さんの中に入っていった日本酒は、さらに織田さんを大きくしていく。身長は2mを超えた。おっぱいはテーブルの上からはみ出るほどになり、前にいた課長の体に何もしないでも触れるほどになった。

「もっと、もっとー……」

まだ酒を欲している織田さんは、ポフンと頭を胸に乗せ、そのまま寝てしまった。潰れたな。

「山崎、せっかくだから触ってみたらどうだ」
「お、新入社員も一緒に体感してみるか」
「え?」

それって、いいのか?と思って躊躇する僕の手を、高井さんが掴んだ。

「大丈夫。誰も気にしないから。ほら」

そして、僕の手は、目の前に鎮座する肌色の塊に押し付けられ……なんだこの感触……すごく……暖かくて、包み込まれるような……

「最高だろ……?」

高井さんの声が聞こえたような気がしたが、関係ない。僕はその感触を無我夢中で、全身で感じようとしていた。僕は胸に飛び込んだ。周りから拍手が聞こえるような気がする。そんなことはどうだっていい。トクン、トクンという織田さんの心臓の脈拍を感じ、胎内にいるような感覚すら覚えた。柔らかくて、暖かくて……このまま、寝てしまいたい……

「お客さん!終点ですよ!」
「えっ!?」

目が覚めた。ここは、どこだ。電車の中?服は着てる、でも着た記憶なんて無い。

「車庫に入りますから、降りてください」
「あ、はい……」

不思議と酔った感覚はない。そんなに酒を飲んでいないのに、気を失ったのは何か毒ガスでも吸わされたせいなのかもしれない。いやいや、まさか。

電車を出ると、名前だけは知っている遠くの街の名前があった。時計を見ると、もう帰れないことがすぐに分かった。明日が土曜日でよかった。

次の出社日、高井さんに打ち明けると、大声で笑われた。

「がはは、そんな所まで行ったのか!」
「ええ、なぜか記憶もなくて……」
「おっぱいに飛びかかってたもんな、椅子からさ」

僕の顔がすごく熱くなっていくのを感じた。そんなことをしたのか、僕は。

「ま、俺も同じことしたけどな。全然飲んでないのに倒れて」

もしかしたら、あのおっぱいには魔法の効果でもあるのかもしれない。まさに魔乳だ……

投稿者: tefnen

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