いたずら神のE道具 格上の押下

「ただいまー……って誰も居ないか」

学校から帰ってきた中学生の少女は自分の部屋に向かった。宿題をする前に少し漫画でも読もう。と思った彼女の目に飛び込んできたのは、勉強机の上においてある見慣れないものだった。

「なんだろう、これ?」

それは、押しボタン。小さな金属の箱の上に、スケルトンのボタン部分が付いている。昔どこかのテレビ番組で、芸能人が押していたような、簡単なボタンだ。しかし、少女の記憶には、これを机の上に置いた記憶も、買った記憶すらもない。

「理恵が遊んだまま置いてったのかなぁ……それとも愛お姉ちゃんが私にびっくりでも仕掛けてるのかな?それなら……」

少女はボタンに恐る恐る手を伸ばし、そして押した。

『ほぁー!』

なんとも間抜けな音が出たが、それだけだった。少女はほっと一息ついて、ボタンはそのままに本棚から漫画の単行本を取り出し、読み始めたのだった。しかし、一話を読み終わった時、異変が起こった。

「なんか、暑くなってきてる……」

少女の体から汗が噴き出始めたのだ。暖房もつけておらず、かと言って日が差し込んでいるわけでもない。夕方で室温が下がっていく一方なはずなのに、少女は暑さを感じた。身を起こした彼女は、自分の体の中から熱が発せられているのに気づいた。

「ちがう、私の体が熱くなってきてる……あっ……!」

そのとき、少女に軽い衝撃が走り、それを境に熱は冷めていった。

「何だったんだろ、今の……あれ、なんか服が……」

すこし余裕があったはずの服がきつくなっている。下を見ると、もともと膨らみかけだった胸に、大きな膨らみがくっつき、服を押し上げていた。少女がそれを触ると、フヨフヨと変形すると同時に、少女の胸の部分に触られている感触が伝わってきた。

「えっ……これ、おっぱい……?もしかして、おしりも……」

腰に手を当てると、姉である愛と同じ程度の大きさの尻が付いていた。よく見ると、体の部分一つ一つが、高校生のそれに成長を遂げていた。少女は部屋の鏡に映り込む自分を見た。

「うそ……これが私……?」

姉と瓜二つの高校生になった自身の姿に呆気にとられてしまい、ゲームソフトを借りるために姉本人が部屋に入ってきたことに気づかないほどであった。

「え、アタシが何で二人いるの!?」
「あ!お姉ちゃん、いつの間に!?」
「お姉ちゃ……ってことは双葉なの!?」
「そ、そう……私双葉だよ!」
「でも、どうして?あ……」

愛は自分の生き写しのようになった妹の奥に、机に置かれたボタンを見とめた。勘がいい彼女は、机の上からボタンを取り上げ、妹の前に持ってきた。

「これでしょ?これを押したら大きくなったのね」
「え、お姉ちゃんなにか知ってるの?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。どれ」

愛はそのままボタンをポチッと押した。

『ほぁー!』

双葉が押した時と同様、音が出るが何も起きない。ところが、愛は早とちりをしてしまった。

「何も起きないってことは、今のはハズレってことね」

ポチッ。

『ほぁー!』
「またハズレー?」
「ちょ、お姉ちゃん……」

ポチッ。

『ほぁー!』
「どうなってるのよ、えい!」

ポチッ。

『ほぁー!』
「あーもう!双葉、どうしたら大きくなったのよ!」

思っていた結果が出ない苛つきを妹に押し付ける愛だが、双葉も反撃しようとした。

「何で私に怒るかな!」
「いいから早く教えなさいよ!」

だが、その剣幕に、一瞬で双葉は折れてしまうのだった。

「えーとね、押したらその音が鳴って、その後少し経ってから大きくなったんだよ」
「って、ことは……」
「お姉ちゃんも待ってれば大きくなるよ」
「な、なんでもっと早く言ってくれないの!何が起こるか分からないじゃない!」
「だ、だって……」
「だってじゃないで……しょ……あ……あ……」

愛の様子がおかしくなり始めた。全身の皮膚が赤らみ、汗が吹き出始める。

「お姉ちゃん……?」
「あ、あ……あついぃぃいい!!」

愛が叫ぶと同時に、全身を覆う服がビリビリと音を立て、中から膨張する愛の体がグググッと出てきた。あっと言う間に服は千切れ、愛は一糸まとわぬ姿になってしまう。それでも成長は続き、普通の大人を通り越して、背は伸び、胸はムクムクと膨らみ、それを覆うように皮下脂肪がムチムチと急増殖する。

《ゴツンッ!》
「うぁっ!!」

ついに部屋の天井の高さに届き、激しすぎる成長のせいで、頭を強く打ってしまった。たまらず床にドサッと倒れると、家全体にドーンッと衝撃が走り、至るところからギシギシと軋みが聞こえてきた。

「でも!……まだ!……あつい!!!」

愛の全身はドクンドクンと脈打ちながら巨大化を続け、部屋いっぱいになったところで、やっと成長が終わった。

「う……動けない……胸も苦しいし……」

その巨大な体に対しても大きい、大玉ころがしの玉くらいの乳房が、部屋の壁と床と天井によって歪み、愛の体を圧迫していた。本棚やベッド、勉強机などはその弾力で押しつぶされてしまっていた。

「お姉ちゃん!?大丈夫!?」
「だ、大丈夫なわけ……!」

『ほぁー!』

「「はっ!?」」

愛と双葉の会話を遮るように、間の抜けた、しかし身の毛もよだつような音が響いた。

『ほぁーほぁほぁほほほほぁー!』
「ちょ、機械が故障したの!?」

身動きが取れず音の源の方を確認できない愛。その質問に答えた双葉の声は、絶望に満ちていた。

「ううん……理恵が……」
『ほぁー!ほぁー!』
「これ、楽しい!もらってもいい!!?って、この肌色の壁、どうしたのっ?」
『ほぁー!』

末っ子の理恵。小学生の彼女が、ボタンを際限なく、何回も押していた。

「ちょ、まさか……理恵!やめなさい!って、もう……」

双葉はそれを止めようとしたが、理恵の体が姉と同じように、赤みを帯びてきたのに気づいた。

「あれ?なんか気持ち悪くなってきちゃった……」
「時、すでに遅し……愛お姉ちゃんあとよろしく!」
「はぁ!?ちょっと待ちなさいよ!!」

双葉は姉の制止を聞かなかったようで、ドタドタと逃げていった。その次の瞬間、壁と天井と自分の胸だけが見えていた愛の視界が、急に開けた。信じられないような轟音とともに。

「ん、なんで……り、理恵!?」

自分と同じくらいの身長になった理恵が目の前にいた。それで、家が吹き飛ばされたせいで、自分が解放されたことに気づいた。理恵の体型は小学生のままだが、身長は刻一刻と伸びていく。

「お姉ちゃん、怖い……よぉ……!んあっ……ああっ!!!」

愛の時と同じように、理恵は大きな叫びとともにその体型を変え始めた。まず足がグキグキと伸びていき、同時にムチムチと肉がついて、ぽってりとしていたそれは、美しい曲線を纏った大人のそれに変化する。全身の巨大化が止まらないのも相まって、身長はゆうに5階ほどの中層ビルを超えていた。家ほどの大きさになっていた愛ですら身の危険を感じるほどになり、急いで離れる。

「理恵……!」
「んんっ……くきゃっ……」

妹の顔が遥か上にあるのを見て、大きすぎる違和感に立ちくらみを起こしそうになる愛。その視線の先には、さらなる変化を遂げていく「小学生」の体があった。

「かはっ……んんんぅっ!!」

足に取り残されていた他の体の部分も成長を始め、幼児体型が長く、細く、曲線的な輪郭を帯び、大人の階段を数十段ひとっ飛びしていく。この時点で、140cmにも満たなかった理恵は高さ140mの高層ビルすらも超えるような巨人に成長していた。巨大化が止まらないまま、胸板の一部がぷっくりと膨れ始めた。

「胸が……いたいっ……!」

乳首の周りが小山のようにプクーッと膨れたかと思うと、その小山は大噴火を起こしたように何十倍、何百倍もの大きさに膨れ上がり、その中に熱気球が何個も入るような大きさまで、一気に成長してしまった。あまりの重さに理恵はバランスを失い……

《ドゴォォォオオオオン!!!》
「あうう……!!!チクチクする!!」

密集した住宅街、いやそれに隣接した駅前の商店街までも巻き込んで、倒れた。発生した非常に強い揺れもともかく、理恵の重さはどんなに堅牢なつくりの建物も一瞬で破壊するほどのものだった。チクチクするどころではない。

「うわあん!私、どうしちゃったのー!!」

なんとか巻き込まれていなかった愛と双葉は、目の間にそびえる肌色の壁を眺めつつ、ため息をつくほかなかった。

投稿者: tefnen

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