日曜のジョギング前に、ラジオ体操第一をする男性。薄手のランニングウェアを着て、準備は万端だ。
「背伸びの運動から、いち、に、さん」
腕を高く上げ、横に倒して下に付ける。いつもの体操だ。そう、この時点までは。
「腕と足の運動です、いち、に、さん……」
腕を体の前で振り、スクワットをする。それにつれて、男性の体は上下する。が、1回スクワットするごとに頭の位置が下に下にと下がっていく。男性は目を閉じて体操をしていて、変化に気づかない。8回も繰り返すと、175cmと少し高めの彼の身長は、165cmになってしまった。
「腕を回します。体の外側と、内側に」
大きく腕を回すと、その遠心力で筋肉が流れ去っていくかのように、キュッキュッと細くなっていく。2回繰り返してかなり細くなった腕に、次は脂肪が少しつき、丸っこい、しかし太っているというほどではない腕となった。
「胸の運動です。斜め上に大きく」
胸を後ろに反らすと、最近大きくなり彼の小さな自慢になっていた胸筋が、すぅっと薄くなっていく。4回めが終わる頃には、胸板はすっかりまっ平らになってしまった。
「横曲げの運動」
体を横に曲げる。腹に少しついていた贅肉が、引っ込んでいく。
「前後に曲げの運動」
前に体を曲げると、後ろに突き出された尻がムクッ、ムクッと丸みを帯びて大きくなり、短パンを押し上げていく。逆に後ろに体を反らすと、彼の股間の膨らみがスッスッと小さくなっていった。
「ねじる運動です」
体を左に右に、大きく小さく捻ると、それにつれて腰がギュッギュッとくびれて行く。
「腕と足の運動です」
腕を勢い良く突き上げ、同時に足を伸ばす。そうするごとに、脚がプルンと揺れる。今起きている、ももの脂肪の増殖を物語るようである。
「上体を斜め下に曲げて、正面で胸を反らせます」
体を下にまげて、男の顔が下を向く。次に上がってきた時には、そこには中年男性のものに差し掛かっていた、できかけのシワの多い顔ではなく、すべすべとした肌の、10代後半のみずみずしい女性の顔があった。
「体を大きく回します」
体につれて大きく回る頭の、髪がさらさらと伸び、最後には髪が振り回されるのを男性が感じるほど長くなった。
「両足とびの運動です」
小刻みに飛ぶ男性の肩が、なで肩へと近づく。飛ぶ度に、肩甲骨がガタガタと下がっている。
「腕と足の運動」
最初にした運動の繰り返しだ。それに伴う変化も同じで、ついに男性の身長は女性であっても平均以下の155cmになってしまった。長めに伸びていた髪が相対的に更に長くなった。
「最期に深呼吸です」
男性が大きく息を吸うと、平らだった胸板がムクムクと盛り上がっていく。息を吐いても元に戻らず、次に息を吸うとDカップ、次はFカップ、最後にはGカップとなって、ランニングウェアの胸の部分はパンパンになってしまい、その先の突起が上からでも確実に見えてしまっている。
「よーっし今日も……ってなんだこの声!?」
その声は今の姿にふさわしい、若々しい女性の声だった。
「なんじゃこりゃあああ!!!」
無意識に胸を鷲掴みにしながら、男性は叫ぶのであった。