『帰還』 (1/3)

人には好みというものがある。理論や道理によらない、人の性格からくる、何を良しとするかという判断基準だ。

「ついてこい新入り!男の戦いを見せてやる!」

例えばこんな怒鳴り方をして敵に正面から突っ込むのが好きな伍長、ディアン。彼にとっては戦略などという回りくどいものは好みに合わず、実力をぶつけ合うことこそが正義だ。そして、その決断を支えて余りあるほどのスタミナと筋力を持つ体を、毎日自分のスケジュールで鍛え上げている。

「死にたいのかディアン!俺の命令に従え!!」

隊長であるミアルは真逆だ。部下の命の責任を負っているのもあって、性急な突撃は言語道断と考える。軍人として体を鍛えているのは当然だが、思考トレーニングと実際の戦闘での経験から、軍隊の中でもピカイチの判断力をもっている。

「ですが隊長!このままではジリ貧です!」
「では、私が囮になります、隊長」

その二人の間に割って入るように、少しだけ華奢ではあるが背の高い男が口論をさえぎる。

「兵長、何を言っているのだ」

この男、兵長のジュードは英雄的行動が好み……ではあるが、これまで一度も許可されたことはない。ディアンの突撃は効果が認められていたが、ジュードは毎度のごとく後先考えず、自分の体を投げ出すのだ。持って生まれた顔立ちの良さのせいで、人気だけを先に考えてしまう。

「貴様が囮になっても、残り三人では突破は不可能だ。特にこの新入りがいる今はな。それに……」

そんな三人に引っ張り回される二等兵ギアズ。まだ精神も体も成熟しておらず、言われるがままに動く彼には、これと言った好みは無かった。命令系統的に、隊長の身長な戦略に従うことがほとんどだったが、ディアンの猪突猛進にも何も言わずに付いていき、ジュードが自己犠牲を主張しはじめたら普通に置いていこうとする。

という風に、戦術の好みがバラバラな4人は、小隊としてある戦争に身を投じていた。相手は、この科学が進歩した世界にあるまじき、魔術。それも、女を無条件に味方として吸収し、男を貪っていく女性の姿をした淫魔の一族、サキュバスだった。元々平和だった世界に、サキュバスが侵攻すると言うかたちで、2年ほど前に始まった戦争。あっという間に人間側が不利になり、和平交渉をしようにも、サキュバスはその使者を襲う始末。女性は一時は軍事基地に匿われたものの、襲撃があろうものなら即座に洗脳を受け、自分から飛び出して敵に下ってしまう。男性も急激に数を減らしていた。人間の敗北、いや滅亡は、もはや秒読みの段階に入っていた。

「銃弾で、あいつらの体に刻まれた紋章を撃ち抜く。そうすれば、サキュバスを行動不能にできる。それを命がけで実証してくれた隊員達のためにも、この事実を本部に持ち帰るのが俺たちの使命だ!お前一人でも犠牲にできるか!」
「し、しかし……隊長……」

そして今、小隊は、星の数ほどのサキュバスに取り囲まれていた。サキュバスが攻撃してこないのは、小隊が苦しむのを余興として楽しんでいるからだろう。幸い、食料や水は、膠着状態になった時点で1ヶ月分は残っていた。あと2週間は尽きることはないだろう。

「(早く帰りたいな……)」

ギアズは口論を続ける上官たちの前で、心の中でため息をつくばかりだった。

そして、その日も何の成果もなく日が暮れてしまい、見張りを交代で行いながら、順番に睡眠をとることになった。
それは、ギアズが見張りに付いているときに起こった。

『ギアズ……』

ギアズの頭に、彼には懐かしい声が響いた。数か月前から会っていない、母親の声だ。

「母さん……?」
『そうよ……私は、あなた達小隊の安全を願っているのです……サキュバスに負けたりしてはいけない』
「でも、母さん、俺、どうすれば……」

暫定基地として張ったテントから周りを見渡すと、ゴーストタウンと化したかつての都市の中心街の建物が建ち並んでいる。一見静まり返っている寂れた町並みだが、建物の中を双眼鏡でよく見ると、どの建物でも、魅惑的な姿をした大人の女性たちが、楽しそうにしゃべり合っている様子が伺えた。背中から生える悪魔の翼が、その女性たちがサキュバスであることを物語っていた。

「俺たちも、やられちゃうんじゃ……」
『そんなことはありません。でも、女抜きの生活を何週間も強いられている状態では、サキュバスの姿を見た途端、誘惑されてしまうかもしれません』
「たしかに……あんな綺麗なお姉さん、隊長が見たら冷静でいられなさそうだ……小さい女の子が好きなロリコン伍長や、妹さんラブな兵長だったら大丈夫だろうけど」

小隊としての行動の中で、ある程度の女の好みは聞かされていた。これも戦術と一緒で3人バラバラ。色恋沙汰を経験する前に兵隊として駆り出されたギアズだけが、これといった好みを持っていなかった。

『ギアズ、あなたが上官の方々を慰めてあげるのです』
「え?」

《キィィィン……》

その母親の一言と同時に耳鳴りがし、さらに体が熱くなるのを感じるギアズ。そして、体の至る所にこれまで感じたことのないような痛みが走る。

「お、俺、どうなって……っ……声、がぁっ」

声変わりしたてのギアズの声のトーンが急に上がっていく。戦闘服を急いで脱いでみると、兵士として鍛え上げていた筋肉が萎縮していくところだった。かなり日焼けしていた肌からは色素が抜けていき、透き通るような白に変色していく。

「母さん、俺に、なにをっ」
『今は私の力が足りません。ですから、小さい子にしかできませんが……女の子としてまずは伍長様を……』
「えぇっ!?うっぐぅっ!!!」

その途端、股間を思い切り蹴られたような痛みが走る。ギアズは気絶しそうになりながらも、股に手を当てる。

「なくなってる……う、嘘、だ……」

男の象徴が、忽然と消えていた。いつの間にか戦闘服は丈が合わなくなり、ぶかぶかになっている。視界に髪の毛がかかり、頭を触ってみると、短めに切っていた髪が肩まで伸びていた。

「新入り……そろそろ交代時間だ、しっかり休め……って誰だ貴様!!」

変身が終わるとほぼ時を同じくして、ディアン伍長が見張り場に出てきた。見慣れない幼女にピストルを向けて警戒するとともに、ストライクゾーンど真ん中のその姿に、鼻の下が伸び切ってしまった。

「ご、伍長、ギアズ、です」
「新入りか!貴様さてはサキュバスに……というわけでもないのか……?」

目を丸くするディアンは、サキュバスの特徴である頭のツノと、背中の翼が、目の前の幼女には生えていないことを見て、ピストルを下げた。なぜか、どことなく嬉しそうである。

「伍長、俺、どうしたら良いんでしょうか……」
「そ、そのだな……『おとうさん』と呼んでくれないか」

一瞬、思考が停止した、気がした。この上官は何を言っているんだ。が、いつも人の言いなりになるギアズは、今回も言われたとおりにした。

「お、おとーさん……?」
「うっひょお!!」

初めて会ったときから一度も見たことのない満面の笑み。母親が言っていた『慰める』というのはこういうことだろう、とギアズは感じた。

「よし、こうなったのも俺の作戦への神様からの報酬だろう!よし、ギアズ、たかいたかーい!」

ディアンは小さくなったギアズの腰を両手で持ち上げる。周りをサキュバスに囲まれている状況で、こんなことをすれば、高い、高い!ではなく他界、他界!となるのをすっかり忘れてしまっているようだ。しかしギアズも、頭の中に響いた母親の声に応えようと、幼女を演じることにした。

「わーい!たーのしー!」

久しぶりに聞いた幼女の笑い声にディアンはさらに興奮する。

「そうかそうか、お父さん、もっとがんばっちゃうぞー!」

大声を出すディアンだが、近くのテントで寝ている隊長と兵長は起きてくる様子はない。ギアズは気持ち悪いほどに上機嫌のディアンに、そして小さすぎ、華奢過ぎる自分の体に、困惑を覚えざるを得ない。

「えへへ、もっともっとー!(俺って、男、だよなぁ……?)」
「そ、そろそろやめないといかん……が、もうちょっとだけ……!」

幼女を無意識に演じる自分の発言と、思考が摩擦を起こす。しかし、元から弱い彼の意志は周りの流れに打ち勝つことはできず、抵抗しつつも流され行くままだ。そのうちに、別の違和感が沸き起こってきた。

「(なんか、伍長の笑顔から……というか手から、何か伝わってきてる……?)」

とんでもなく興奮しているディアンから、ギアズの体に、熱の塊のようなものが伝わってきていた。それを溜め込むギアズの全身が次第に熱くなっていく。

「おとーさん、何か変だよぉ……!」
「ぎ、ギアズ……?」

なぜか幼女口調のままのギアズ。そのせいで再度テンションが上ったのか、熱の量がぐわっと上がる。

「だ、だめ……」
「お、おい、だいじょうぶか!!!――」

ギアズの意識は、猛烈な熱の中に埋もれていった。

淫らの写し身

この作品は『あむぁいおかし製作所』様で投稿させていただいたものになります。イラストは『製作所』様管理者であるあむぁい様を通じ、まこも葦乃様(https://twitter.com/0w0_CaO)に制作していただきました。
投稿先URL:
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町外れの森の中、県道にほど近い小道に、一軒の古い木造の家があった。表札もなく、駐車場には草が生い茂り何年も使われていないことがうかがえた。明らかに誰も出入りしていない家の周りには、蜘蛛の巣が至るところに張られている。

その家の前に二人の小学生の男の子が立っている。大きい方は健二(けんじ)。パーカーを着て、背丈は学年でも高い方で、中学生に見られてもおかしくないほどだった。もう一人は、望(のぞむ)。男子にしては髪は長めで、柔らかい顔立ちは中性的だが、身長は普通の男子と変わらない。町から二時間くらい歩き、やっと到着した喜びに、声変わり前の子供の声で、望ははしゃいで、健二に満面の笑みを見せた。

「やっとついた!ここが、芳雄(よしお)が教えてくれた空き家だね!さあ行こう、健!」
「あ、ああ……本当にあったんだな。なあ、望、なんかすごく寒気がするんだけど」

早めの声変わりが終わった健二が、低い声で答える。
望は好奇心旺盛だった。それで、小学校の友達である芳雄に肝試しとは名ばかりの、きつい遠出をさせるための口車に乗せられてしまったのだった。そして、健二はというと、単に望についてきたのだ。というのも、少し興味があったのと、小さい望が田舎道を一人で歩いて行くのに不安を感じたからだ。

「何行ってるのさ、最初に行こうっていったのは健二じゃん!先に行っちゃうぞ」
「それはそうなんだが……」

威勢よく廃屋の中に入っていこうとする望。だが、それとは対照的に、あまりにも古く、人気のない民家に怖気づいたのか、大柄であるはずの健二は尻込みしてしまっている。

「ほらほら!」

望は玄関の扉を引っ張った。鍵はかかっておらず、周りの古さからは信じられないほど扉は軽快に開いた。

「よし!……あれ?なんだろうこのシール……」

望が開いた扉の枠には、ビッシリとシール……ではなく、神社にあるような紙の御札が貼ってあった。難しい漢字の塊でうめつくされた御札の意味は、望に分かるはずもなかった。

「なあ、まずいんじゃないか?オレ、もうこれくらいでいいからさ……っておい!」

小声で望にささやいた健二。しかし、望は御札に気を取られていたのか、そのまま中に入っていってしまった。健二も仕方なく、親友の身を案じて中に入っていくことにした。

「望……?うわ……な、なんだこれ」

御札が張られていたのは扉の枠だけではなかった。玄関の壁という壁、床にも天井にも、御札が所狭しと貼られている。あまりの異様さに、吐き気まで覚える健二を差し置いて、望はケータイの照明を使って、興味津々と言った様子でどんどん奥へと進んでいってしまう。健二はもう自暴自棄になって、望にくっついていくことにした。

「ここには何があるのかな?」
「おい、おい!」

望は、どんな引き戸も、障子も、躊躇なく開けていく。だが、雰囲気とは裏腹に、居間、書庫、台所、便所。窓さえも埋め尽くす御札以外は、いたって普通の民家だった。だが、最後の一部屋だけは違った。

「うわー、なんだろうこの縄……」
「これ、本当にヤバイやつだろ」

部屋の入り口のふすまが御札の付いたロープのような何かで固く閉ざされているのだ。健二は、これに触ったら嫌なことしか起こらない、たたりでも下るんじゃないか、という予感がした。

「もう帰ろうって!御札が貼ってある以外なんにも面白く無いぞ!」
「……でも、この中に何があるか見てみたいな」
「はぁ!?」

望は、扉を開けるのに邪魔になっている綱をぐいっと引っ張った。すると、とても子供の手では千切れなさそうな綱が、いとも簡単にビリっと切れてしまった。

「あ、これで入れる!」
「ちょ、ちょっとまて……」

健二が制止する暇もなく、望は扉をバッと開けてしまった。健二は、中から怪物が飛び出してきたかのように、ワーッと叫んで地面に倒れたが、ふすまの奥にあったのは、何の事はない、少し広めの部屋だった。

「健二、大丈夫?」
「あ、ああ……」
「さっきから変だよ?」
「そ、そうだな……ただのボロ家で、なにビビってんだろうな」

望と健二は、大部屋へとそろりそろりと入っていく。中には、これまであったような御札はなかったが、窓に貼られた障子からは日光が一切差し込んでこない。

「ん?あれはなんだ?」

部屋の真ん中に、幕がかかった、大きな鏡台のような物があった。鏡自体は巨大な布で覆い隠されていた。

「なんだろ……あの布外してみようか」
「ああ……」

二人の体よりも大きい幕を、二人でひっぱり外し、中にある鏡面が見えた、その時だった。

《ガタンッ!!カタッ!》

二人が入ってきた扉が、勢い良く閉められ、おまけに鍵がかかる音がしたのだ。

「や、やっぱりヤバイって!!早く逃げようぜ!」
「あ、うんっ」

扉に向かって走りだし、体当たりで開けようとする健二。だが、木でできた脆そうな扉は、健二の突撃で壊れるどころか、少年の体を跳ね返した。健二は思わず床に倒れてしまった。

「ってて……ど、どういうことだ……」
「健二……なんか、この鏡変だよ……」
「そんなのもう分かりきってるだろ!」
「いや、でも……」

望は鏡に近づいていく。普通の鏡だったら望が映るはずだった。しかし、映ったのは望の小さい体ではなく、ボンデージを身にまとった、背が高く、スタイル抜群の女性だった。長い黒髪に金色の目は、どこか現実離れした魅力を放っていた。

「ボク、じゃない……」
「な、ななな……」

目の前で起きるわけのわからない事態に頭が混乱し、体が動かなくなってしまう健二と、鏡を見つめるほかない望。

『ふふ……やっとこの部屋まで侵入できる能力がある器が……って子供じゃないの』

突然、鏡の中の像がしゃべりだした。望は、一瞬ビクッと体を震わせたが、すぐに気を取り直したのか、鏡の中の女性に話しかけた。

「あなたは、誰ですか?ボク、よく分からなくて……」
『アタシ?そうねぇ、魔女、って言ったらいいかしら』

魔女は、望を品定めするようにジロジロと見つめた。

『すごい神通力ね……』
「お姉さん、なんで鏡の中に……」
『ふん、アタシが望んで入ってるわけないじゃない。もっといろんな男の精を吸い取りたいのに。あのクソ霊媒師が……』

ブツブツと独り言を始めた魔女。望はおそるおそる声をかけた。

「あの……」
『あら、悪かったわね。子供にこんな口調で話すもんじゃないわね。アタシは、今の言葉で言うと、江戸時代の生まれよ。ひょんなことから魔女になって、男達のチカラを吸収して強くなったの。でも、まぁいろいろあって……要するに、アタシはちょっとやりすぎちゃったのよ。誰それ構わず襲って、絞りかすにしてやって……』
「……?」
『分かってないようね。いいけど。どうせ、アタシの器になる存在なんだから、すぐに自分の体で分かるでしょ』

魔女が指をぱちんと鳴らすと、鏡の中に望の像が現れた。

『これでよしと。じゃあいくわよ』
「な、何をするんですか……?器って……?」
『こう、するのよ』

そう言った魔女は、鏡の中の望の像にギュイイッと吸い込まれ、いや、望の背中から入り込むように自分を押し込み始めた。

「んっ、うううっ」

と同時に、望は背中から何かが押し込まれる感覚に襲われた。それは、望の体にグイグイと潜り込んでくる。手足がその衝撃で震えているかのように、ピクピクと痙攣する。さらに、中にはいった何かは、望の体を中から押し広げていく。

「んんっ……」

その感覚に呼応するように、望の手のひらが、痙攣しながらメキッメキッと大きくなる。腕全体も引き伸ばされるように長くなって、シャツの中からクイックイッと飛び出していく。足も長くなり、望の目線が上がっていく。ただ、伸びた手足には筋肉の代わりに薄く皮下脂肪が付き、まるで女性のような、柔らかい印象のものになっている。

「あ、頭が……」

望が痒みを感じて頭を押さえると、少し耳に掛かる程度だった髪がサラサラと伸び、背中にかかるほどまで伸長した。

「ボク、どうなってるの……?」

鏡に映る望の容姿は、ほっそりとした女性のそれとほとんど変わらなくなっていた。顔も、幼い子供の顔から、清楚な思春期の少女のものになっている。

「(きれいな体じゃないの……)」
「えっ」

望に、先ほどの女性の声が頭の中から聞こえたような気がした。と同時に、望の体が望の意思とは関係なく動き始めた。

「うふ、でもこれじゃ足りないわ……えっ、や、やだ、やめて……」

魔女の言葉が、望の口から直接飛び出てきた。望は恐怖に震えるが、体の自由は全くきかない。

「もうちょっと、魅力的にしなくちゃね……ん、んんっ……!」

胸の突起に指を当てると、それはプクッと膨れた。望は、自分を今の姿まで成長させた何かが胸に集まってくるのを感じた。

「ん、いい、いいわぁ……っ!」

望の胸の中の器官が、魔女の力に影響され、成長し始めると、平らだった胸板に膨らみが見え始め、シャツを盛り上げながら、トクン、トクンと育っていく。そしてたった数秒で、自分が見慣れた母親の小ぶりのものよりも、自分のもののほうが大きくなってしまった。それは、呼吸とともにフルフルと揺れるようになり、望の中で幼い性欲が掻き立てられていく。着ていたプリントシャツの文字が、丸みを帯びながら横に大きく広がり、その大きさを物語っていた。

「おっぱいだけじゃなくて、おしりも、太ももも大きく……っ!」

スレンダーだった足や腰回りが、ムチッ、ムチッと音を立てながら膨らみ、元の倍、いや3倍ほどまでに大きくなる。おかげで、履いていたトランクスやズボンがビリビリと破れてしまった。

「ぼ、ボク、女の人になっちゃうっ!!」
「(まだ男よね。だけど、あそこに付いてるものがなくなれば、それも分からなくなるわね!)」
「え、えっ……!?」

望は、自分の得物を見ようとするが、Gカップはあろうかという乳房に視界を遮られた。仕方なく鏡を使って、左右から引っ張られ千切れる寸前のズボンのジッパーを慌てておろし、破れたトランクスから突き立っていた男性器を確認した。

「よかった……」

消えているかと思われた男の象徴がそこにあると分かって、安心する望だったが、

「(ふふっ)」
「ぐぅっ!!?」

魔女の一声とともに、メキョメキョという音を立てて、それは潰れるように小さくなり、股間の中に押し込まれていってしまった。残ったのはスッと入った筋だけで、そこにペニスがあった跡など何もなかった。

「う、うぅ……!」
「(最後の仕上げねっ)」

望の中に、子宮が形作られていく。尻にもう一つの穴が空けられると、すぐに新しくできたヒダで隠された。最後に、潤んでいた望の瞳の色が、黒から燃えるような赤に変わり、顔の作りも、可憐な少女から、目はキッと長くなり、唇は厚くなって、魅惑的な美女のものに変わった。

「(ふふ……これであなたはアタシのもの……あら?)」
「あれ?ボクの体、動かせる?」

いつの間にか、奪われた体の主導権が、望に戻っていた。望は、自分の手のひらを開いたり閉じたりして、その事を確かめる。

「はぁ……」
「(ちっ……力を使いすぎてコントロール出来なくなったわね……)」

魔女の声は不満げだ。安心したのか、胸に手をおいてため息をつく望。だが、女性化したことには変わりなく、背が高くなったせいもあるが、これまでとかなり違う視界に、戸惑いを覚えたままだった。

「これから、どうすれば……」

望は、胸から手を下ろして、考えをまとめようとした。だが、その拍子に胸の先端を手で強く叩いてしまった。

「ひゃんっ!」

なんとも言えない快感が、望の幼い精神を襲った。

「な、なんなの……?」

望は、その快感の源を探ろうと、シャツに浮き上がっている突起を、指でくいっとつまんだ。

「ひゃぅうっ!!」

再び襲う快感。望は、その場にへなへなと座り込んでしまった。

「き、きもちいいよぉ……」
「(こんなことしてる場合じゃないんだけど……この子、なかなか……)」
「あんっ!んっ!」

さらに何回もつまんだり、突起を手のひらで撫でてみたりと、新しい感覚に溺れていく。そして、この快感を別のところでも感じられないかと、熱くなっていた下腹部に手を伸ばした。

「ん、ねちょねちょしてる……」

 

望が股間に手を当てると、男の時にはなかったヒダの中から、ねっとりとした液体が出ているのに気づいた。これが愛液であることなど、幼い望には分からない。だが好奇心と快感への欲望から、ヒダの中に手を突っ込み、そして、クリトリスに乱暴に手を当ててしまった。

「んっっ………!!!」

ついさっきまでの感覚とは比べ物にならないほどの強さで、全身に衝撃が伝わった。

「女の人のカラダって……すごいぃ……」

普通なら恐怖を覚えて立ち止まるところを、望はさらにクリクリとそれをつまんだ。

「んひゃっ……!あんっ……!!」

腰を抜かしたままの親友がすぐそこにいることも忘れ、女として初めての絶頂に達しようとする望。

「んん、き、きちゃうぅぅ!!!!」

子宮で生み出された愛液が、ブシャァッ!と股間から吹き出すと、ついに限界が来たのか、望は床の上に倒れてしまった。

「ん……あは……」
「(すごい子ね……さ、そろそろ……)」

魔女は、意識が遠のいた望の体を乗っ取った。恍惚としたものになっていた望の表情が、悪意に満ちた笑みに支配された。

「あなたを、食べる時が来たようね……?」

健二の方に向き直った魔女が、彼の体を舐め回すように見つめた。

「ひ、ひぃっ!殺さないでっ!」
「あはっ、カワイイ子……」

変わり果てた望の体で、魔女が健二に四つん這いになって近づいていく。

「や、やめてっ……」
「そんなこと言ったって……」

健二のズボンのジッパーを、ズルズルとおろし、中身を探る魔女。

「こんなにいきり立ってるじゃないの……?」
「う、うぅ……」

肉感的な女性の魅力に勝てなかったのか、引きずり出された健二のイチモツは、赤黒く膨らみ、固くなっていた。

「どんなことしてあげようかしら……?」

美女に迫られ、健二の中で恐怖よりも、興奮が上回っていく。

「やっぱり、最初はこれよね……?」

魔女は、健二の男性器を、まるでソフトクリームでも食べるかのようになめまわし始めた。

「ん、んうっ!」
「素直でいい子ね……」

少しでも強く魔女に蹴りをかませば、健二は逃げられるはずだった。だが、もっと気持ちよくなりたい、されたいという欲望が、彼にそれを許さなかった。

「くちゅっ……ん、はぁっ……」
「おふっ」

魔女は、さらに行為をエスカレートさせ、口ですっぽりとソレを覆い、ベロベロと舐めた。二次性徴を迎えたとはいえ、性行為などまだ数年先の話の健二を襲ったのは、思いもよらない感覚だった。

「気持ち……いい……」
「んふっ、気に入ってくれたかしら……?」

健二は、その感覚に溺れそうになったが、その時、ついさっきの望の痴態を思い出した。絶頂し、床に横たわる親友の姿を。

「だ、だめだ……」
「あらあら」
「の、望!助けてくれ!」

自分ではどうしようもない。そう思った健二は、魔女の中にいるはずの望に、必死で助けを求めたのだった。すると、魔女は苦痛に顔をゆがめた。

「んぁっ!!あ、だめぇっ、アタシ……ぼ、ボクは、何を……?」
「望!」

望は姿勢を変えずに、周りをキョロキョロと見回した。

「健二、くん?」
「よ、よかった……」

だが、健二が安心したのもつかの間、望はタプンタプンと揺れる胸を垂らしたまま、健二に少し近づいた。そして、シャツ越しに、豊満な果実が、勃起したままの健二のペニスを包み込んだ。

「うおっ!の、望、離れてくれっ……!」
「え、なんで?」

望はもっと健二に近づく。健二の男性器を胸とシャツで擦り上げながら。

「んおおおっ!!や、やめろぉ!」
「そんなことより、これ、気持ちいいんだよ?」

望はなにを思ったか、シャツをまくり上げ、露出した下乳でペニスを挟み込んだ。

「お、お前、何するつもりだっ!」
「え、何って、次の、サービスだよ。ボクが気持よくしてあげる」

そこで、健二は気づいた。健二が喋りかけていたのは、単に口調を変えて演技しただけの魔女だったのだと。

「ま、魔女めっ……!」
「あ、気づいた?じゃあ、聞きたいんだけど、ボクの話し方と……アタシの攻め方、どっちがいいかしら?」

答えを待たずに、乳ごしに健二をマッサージし始める魔女。

「んひぃっ!そろそろ、で、出てくるっ……!」
「早いわねぇ……、でも、まだ答えを聞いてないよ?」
「ふおおっっ!!!」

ついに耐え切れず、ぶしゃぁっと胸の中に出してしまう健二。それは勢い余って胸の間から飛び出し、望のシャツにかかった。魔女は少し驚いたようだったが、すぐにニヤリと笑った。

「元気いいね……でももうちょっと欲しいわね……」

口調をコロコロと変える魔女。まるで望と魔女、二つの人格が同時に健二を攻め立てているようだった。

「も、もうやめてくれ……」
「いやよ」

魔女は体を起こすと、縫い目がほつれ、ボロボロになっていたシャツを破り捨てた。

「えいっ」
「うわぁっ!」

そして、健二を押し倒すと、パーカーのジッパーを降ろし、中に来ていたシャツを破って、筋肉が発達した胸板の上に直接のしかかった。巨大な胸は、健二の上でムニッと形を歪めた。

「おほっ……」
「どう?ボクのおっぱい、大きいでしょ?……これでイカせてあげる」
「の、望の口真似は、やめろっ!」
「そんなに強く言わなくたって、やめてあげるわよ」

魔女は、ムチムチとした太ももを、健二の足に絡めるようにしてこすり付けたり押し付けたりした。一回射精したものの興奮が収まらない健二は、もともと自分より小さかったとは思えない親友の体に包まれ、もうどうすることもできなかった。

「ん、んうううっ!!!」

さっきよりも強い勢いで、ブッシャァアアッっと飛び出る白濁液とともに、健二の意識も飛んでしまった。

「ふふっ、子供の割にはがんばったじゃない……」

自分の足や、床に撒き散らされた精液を見て、魔女は感心したような声をだす。そして、自分の胸に向かって声をかけた。

「さぁ、そろそろ起きなさいよ」
「(ん、んっ……あれ、ボク、どうしたの……?)」

今度はまぎれもない望の精神が、魔女の中で目を覚ました。

「キミの親友の、健二、だったっけ。おいしかったわよ」
「(け、健二!?この魔女め、体を返せ!)」
「ムリよ。それに……」

魔女は、さらけ出された自分の乳首や、クリトリスをなでた。

「あぁんっ……」
「(ひゃんんっ!!!)」

快感が共有され、自分で触った時よりも強い快感に魔女の中で望は必死に耐えた。

「(だ、ダメだ、ボクは男なんだ……)」
「オンナになったほうが、気持ちいいわよ?んんっ……」

魔女は、自慰を続け、望の精神に攻撃を仕掛ける。

「(ああっ!ひゃっ……や、だぁっ……)」
「ほらほらぁ……」

容赦なく続く魔女の攻めに、疲弊していた望はついに自分を投げ出してしまった。

「(ん、くぅっ……きもち、いいの……もっとほしい……)」
「うふふっ、いいわ……でも、次は自分で、ね……?」
「(うん……自分で……獲物……見つける……)」
「そう、見つけるのよ……」

望と魔女の精神が同化を始め、望の純真さが、魔女に殺され、そして記憶を読まれ、操作される。

「(キミの友達、芳雄……そう、芳雄がいい……)」
「芳雄がいい……」

瞳の色が赤から、青に変わる。体がシュルシュルと元に戻っていき、大きかった胸や尻は引っ込むように無くなり、髪も短くなる。背の高さも元の小さいものに戻ると、破れていた服が魔法のように繋ぎ合わされ、修復された。望は無言でそれを着ると、そばでう~んと呻きながら倒れている健二に声をかけた。

「健二、行こうか」

魔女と同化を終えた望の言葉は、強い魔力を帯びていた。そして、健二の体がぐいっと立ち上がった。開かれた目は虚ろだった。

「マスター……」
「さ、帰ろう、おいしいご飯が待ってる……」

望の青い瞳が、不気味に光る。望が指をパチッとならすと、二人の姿がフッと消えた。

ところ変わって、ここは二人の住む街の路地裏。

「あいつら、こんなに暑い中を遠くまで行ったんだろうな。いい気味だぜ、あの森の中にそんな家あるわけないっつーの!」

そこには、二人を魔女の廃屋に行くように仕向けた芳雄の姿があった。炎天下を、自分の家にいればいいものの、汗だくで歩いている。

「あ、俺、なんでこんなところにいるんだ?」

そう、彼も魔女の魔力に操られ、自分の意志とは無関係に、路地裏にふらふらと歩いてきたのだ。そんな芳雄の背後から、望の声が囁いた。

「ボクが、呼んだからだよ」
「ひぇっ!!?望、それに健二!?」

遠くにいるはずの二人が急に自分の後ろにあらわれ、心臓が飛び出そうなほど驚かされる芳雄。

「お、お前ら、廃屋は行ったのかよ!まさか、ビビって途中で帰ってきたわけじゃねーだろうな!」

光っているようにも見える望の青い瞳と、何の感情も示さないで、望の後ろに立っている健二の姿にたじろぎながら、芳雄は叫んだ。その声は、恐怖で裏返っている。

「まさかぁ。ボクたちに教えてくれたのに、行かないわけないじゃないか。ねぇ、健二」
「あ……ぁ……」

芳雄が知っている明朗なものとは違う、ねっとりとした語調で望は言葉を発し、魂の抜けたような声で健二が応える。

「な、なんなんだよお前ら……っ、なにか、なにかおかしい!」
「なにか……って?例えば……」

恐怖に震える芳雄の前で、望の姿が変わり始めた。手足がメキメキと伸び、身長が同じはずだった芳雄を見下ろすくらいに背が伸びる。

「ボクがこんなに背が高かったりとか?」
「な、なななっ!!!???」

芳雄は、急に大きくなった望を前に、腰を抜かしてその場で倒れてしまう。

「こんなに、髪が長かったり、……声が、大人っぽかったり……?」

ざわざわと伸びる髪。そして、子供のものから女性の大人のものに変わる声。芳雄の理解を超えた現象が、現実となって彼に襲いかかる。

「お、おまえ、まるで、女じゃ……」
「え?これくらい健二でもできるよ……?でしょ?健二?」
「はい、マスター……」

望の後ろで、健二も姿を変えていく。髪が長くなり、体格が華奢になって、あっという間に三人と同世代の少女に変身した。

「け、健二!?」
「……なぁに?……芳雄くん?」

透き通った声にも、誘惑的なしゃべり方にも、健二の面影はない。逃げ場を完全に失った芳雄の前で、望の胸がむくむくと膨らんでいき、ものの数秒で芳雄が見たことのないほどの大きさまでに成長する。

「の、望……そ、それは、お、女の、おっぱい、なのか……?」
「他に、何があるの?」

ゆさゆさと揺れる巨大な乳房と、大きく押し上げられたプリントシャツに浮き上がる突起に、思わず興奮してしまう芳雄。それに気を取られている隙に、芳雄は望に取り押さえられた。そして少女に姿を変えた健二が、芳雄に襲いかかろうとしていた。

「さぁ、芳雄。存分に、精をちょうだいね」
「や、やめろ!健二、お願いだから!」
「……いただき……まぁす」

健二の虚ろな目は、芳雄にロックオンしていた。

「うぎゃああああっ!!!」

救いようのない芳雄の絶叫が、街にこだました。

ドリンク剤

「泣いても笑っても明日が期末試験だ、みんなやるぞ!」
「はぁ……」

とある賃貸アパートの一室。小さいテーブルを囲んで男一人、女三人、合わせて四人の大学生が勉強会を開いていた。

「もう疲れたよ……」ブツブツ言いながら数行にも渡る数式を書いていた未来(みらい)は、シャープペンを机の上に投げ捨てた。「休憩したいな……」

「おいおい、まだまだこれからだろ、赤点取ったら補修で夏休み潰れるんだぞ?」机の上でぐでーっと伸びてしまった未来を、諒(りょう)が諌めようとする。とはいえ、彼のノートもあまり埋まっておらず、消しゴムのカスより、周りに散らかった空になった菓子の袋のほうが目立っていた。

「みーちゃん、がんばろうよー」おっとりとした声で、橙子(とうこ)も未来を励ます。

「橙子はおっぱい大きいよなー」未来は、そんな友人の励ましをスルーして、橙子の服を大きく押し上げる胸の膨らみを見つめる。「美人さんだし、天然さんじゃなきゃ、アイドルの方が似合ってるよ」

「お前、こんな時に何オヤジくさいこと言ってんだよ……」
諒はそう言いつつ、未来と同じく橙子の胸に見入ってしまう。

「諒くん、未来!二人ともいつまで橙子の胸見てるの!全く恥ずかしいわ!」
四人のうち一人だけ、背の低い、そらが騒いだ。橙子も未来も大体160cmくらいの平均的な背丈の中で、130cmほどしかないそらがいるせいで、大学生の中に中学生が混じっているような錯覚さえ覚える。しかし、四人の中で一番勉強が進んでいるのは彼女で、この勉強会もそらが開いたものだった。

「もう、そらは嫉妬しちゃってー!」
「ち、違うってば!」未来にからかわれ、顔が真っ赤になるそら。

「あ、そうだ、アタシこういうのもってきたんだけどー」
教材を入れるためのカバンから、エネルギードリンクのビンを4本取り出し、机の中央に並べる橙子。

「あら、気が利くじゃない。えーと……なにこれ……」
そのビンには、【胸が大きくなる薬】【胸が小さくなる薬】【ムチムチになる薬】【いろいろと大きくなる薬】……と油性ペンで書かれたビニールテープが貼り付けられていた。

「見ての通りだよ!」
もう【自分は嘘をついています】と言っているようにしか見えない顔で未来がニヤついた。隣では諒が吹き出し、橙子が首をかしげている。
「あ、あなたねぇ……」

「ふん、いいわ、乗ってあげる。ちょうど疲れてきたところだし……」
そらは、呆れ果てながら【いろいろと大きくなる薬】の、ラベルというには安っぽすぎるテープが貼られたビンを取り上げ、フタを空ける。すると、バチバチッと新品のドリンク剤のフタを開けるときと同じ音がした。
「(やっぱり普通のドリンク剤にテープ貼っただけじゃないの……)」

中からする香りも「オ○ナミンC」そのもの。それを、グイッと飲み干すと、炭酸が強かったせいか、口からピリッとした刺激が伝わってきた。ただし、味は普通のドリンク剤だった。
「はぁっ、生き返る……」栄養を受け入れた脳が冴え渡っていくのを、そらは感じた。
「ねー、もうちょっと面白い反応してくれてもー」未来は、そらがドキドキしながらドリンク剤を飲んだり、飲み干したあとに体の様子を見てみたりするリアクションを待っていたらしい。

「だって、あからさまに普通のドリンク剤じゃないの……ほら、あなたたちも飲みなさいよ。続けるわよ」
そらの前で、未来と諒がつまらなさそうにドリンク剤を飲んだ。

「橙子も、なにぼーっとしてるの」そらが促すと、ドリンク剤が出てきたところからキョトンとしたままだった橙子はやっと動いた。
「えーとね、どうやったら胸が大きくなったり、小さくなったりするのかなーって思って」

「あー、未来の嘘だから、大丈夫よ。何も起きないから」
「そうなんだー」橙子は安堵の吐息をもらして、【胸が小さくなる薬】というラベルが貼られたドリンク剤を飲んだ。

「ほんと、皮肉よね、胸が大きい橙子がその『薬』を飲むなんて……」
「うぅっ!」
「と、橙子!?」

いきなり聞きなれない大きな声を出した橙子に、三人が目を丸くした。
「ど、どうしたんだ橙子!」
「か、体が熱く……あ、あついぃっ!!」

体の熱を逃がそうとしたのか、橙子は急に服を脱ぎ出し始め、下着だけになってしまった。諒は突然の出来事に目をそらしたが、すぐに視線を戻した。
「あついよ、あついよぉっ!」

汗だくになった橙子からムンムンとした香りが解き放たれる。そして、それは起こった。
「橙子、胸、小さくなってない!?」
「え、えっ!?」

噴き出す汗に体積が持っていかれるように、胸がしぼみ始めていた。その証拠に、少し小さいくらいだったブラに大きな余裕が生まれ、それはどんどん大きくなっていっている。
「お胸が、なくなっちゃうっ」
リンゴの大きさだった胸は、あれよあれよと縮み、ついに橙子の胸はペタンコになってしまった。
「どうして……?あ、でも、体が軽いかも……」

こんな時にも天然な彼女だったが、戦慄を覚えざるを得ない他三人。
「お、俺、何飲んだっけ……!?」
「アタシは、【ムチムチになる薬】……ってことは」
「俺は【胸が大きくなる薬】?ハッ、男の俺に胸なんて……ぐぅっ!!」
諒は、急に胸を押さえ苦しみ始めた。

「諒!?大丈夫……ひぃっ」
諒に手を伸ばした未来だが、その諒の腕がギュッと音を立てて細くなったのを見て、腰を抜かしてしまった。
「お、俺、どうなるんだっ……げほっ……あ、ああっ……」
バリトンの男声が、女性のようなアルトへとトーンを上げる。この時点で、察しのいいそらには分かってしまった。

――諒の体は女のものに作り変えられていっている。

「な、なんだよっ、普通のドリンク剤じゃなかったのかよっ!!」
パニックで声を上げる諒だが、その間にも髪が伸び、ロングヘアになる。
「そのはずだよ、でも……」

「うああぁっ!」
痛みのせいか急に立ち上がり、敏感になっていく肌のせいか服を脱ぐ諒。その体はまだ男のものだったが、筋肉がどんどん萎縮し、脂肪へと変換されていく。その代わりという感じに、乳首がムクムクと膨らみ始め、褪せていた色が赤みを帯びていく。
「う、うそ……」
未来もついに何が起こっているか分かったらしく、顔色が青ざめていく。その答えと言わんばかりに、今度は全身からのゴキゴキという音とともに、骨格が変化し始める。肩と胸が絞られるように狭くなり、つられるように肩幅も狭くなっていく。顔の形も変わり、ゴツゴツとしていたものがスッと端正なものに変わる。腰も太くなり、膝が引っ張られるように内側に向いていく。そして、身長自体も減っていき、ついには未来よりも背丈が低くなってしまった。

「ん、んんんっ!!」
最後に、体が小さくなった分余った脂肪が、かき集められるように、胸へ、尻へと動いていく。鎖骨がはっきり見えるほどだった胸が、刻一刻と水風船のようにプルプルと震えながら膨らみ、未来の、そして元々の橙子のそれをも追い越し、メロン大まで膨らむまで、かかったのはたったの一分くらいだった。尻にもプリッとした張りのある膨らみが付き、そこで変化は終わった。

「りょ、諒……?」
そこに立ち尽くす諒に声をかけた未来。

「お、俺が、お、女に……」
変身の中でも自分の体がどうなっているのかは分かっていたらしい。諒はそのまま、机の上に置いていたスマホを手に取った。

「……諒?」
「おー、まさに俺のタイプ……」
自分の新しい姿に惚れてしまったのか、気持ち悪い笑みが浮かんでいる。が、その表情がすっと変わる。そして、いかにもしおらしい声で台詞を吐いた。

「諒くん、今日一緒に、海、いかな……うおおっ!!」
最後まで言う前に興奮する諒に、呆れる未来とそら。

「だ、だが、俺は男だ……よなぁ……、まいっか、いかにも童貞らしいアイツを弄ってやるか……そうだなー……あ、あの……新田くん、ちょっといいかなっ」
胸を強調するポーズを取る諒。一人劇場がいつまでも続くかと思われたが、その諒の視線が、未来に止まった。そして、震え始める。

「み、未来ちゃ……未来……」
「なに『男だ』とかいいながら早速女に染まり始めてるんだ……」
ツッコミを入れる未来だが、諒の震えは止まらない。
「お前、太く、なって、ないか……?」

未来は、そのときになって初めて、自分の体に服が食い込み、圧迫感が加えられているのに気づいた。
「ま、まさか……」
その理由はもちろん、服が小さくなったのではなく、未来の体自身が【ムチムチ】になり始めていたためだった。
「いや、いやっ、ダイエットがんばって体重キープしてたのにぃっ」

「(そんな……いや、あれは確かに普通のドリンク剤だったのに……)」そらは、自分の身にも迫りつつある『薬』の効果に恐怖し……そして若干期待しつつ、その顛末をみていた。

少し痩せすぎにも見えていた、短い丈のスカートから出ている未来の脚が、ムギュッ、ムギュッと膨らみ始めた。
「だめぇっ、ムチムチなんかいやだぁっ」
その脚の成長を抑えようと、手を押し付けるが、効果があるはずもなく、太さは元の3倍くらいになってしまった。

「こ、今度はおなかがっ……」
未来が服を捲し上げ、見事なクビレができているウエストがあらわになった……が、それもつかの間、下腹部にむっちりとした肉がついた。

「スカート、苦しっ……」
未来はスカートのホックを外したが、それでも間に合わず、ビリッと破れてしまう。次の瞬間には胸がブルンッとゆれ、膨らみだして服がパンパンになる。

「もう、もうやめて……っ」
あっという間に限界に達した服が破れ、タプンタプンと巨大になった乳房が現れた。ブラジャーはその付け根に巻き付くだけで、全然役目を果たしていない。

服というカラを破って出てきたようになっている未来の体は、文字通りムチムチに成長し、元のスレンダーなものとはかけ離れていた。しかし、肥満の領域までは行っておらず、肉感的な体、という感じである。

「未来、ドリンク剤、だよね……これ」
「そうに決まってるじゃない!!それよりも、【いろいろ大きくなる薬】、だったよね」

未来は涙目だが、そらの方をかなり不安そうに見ている。

「あなたが書いたんじゃないの」
「そうだけど……実は道端で会ったお兄さんにドリンク剤渡されて、効果を書いたビニールテープを張れば本当にその通りになるって言われて……でも、そんなことより!」

「あ、きた……」
「そら!」
そらは、段々と体全体が熱くなってきているのを感じた。

「あついわね、確かに……あつい、あついぃっ!!」
体中が炎で焼かれるように熱くなるのに耐え、そらは自分の左の手のひらを見る。すると、引っ張られる感覚とともに、子供っぽかったそれが、長く、細く、大きくなった。

「ううっ、でも、服、脱がないとね……!」
右の手のひらも大きくなるのを感じながら、服を脱ごうとするが、あまりの熱さに手元が狂ってしまう。諦めて、そらは自分の変化を観察することにした。
「腕もっ……長く、なってきてるっ……」
ゆっくりと、しかし着実に成長する腕。その奥に見える脚も、長くなる。未来と同じ長さまで長くなるとそれは止まったが、今度は体が上下に引っ張られる感覚がしはじめる。

「ふふ、これで、背がっ」
小さく頼りなかった体が、横にも、縦にも伸びていく。脱げなかった服がいたるところで裂け、肌色が見える。
「ひゃんっ!」
ここまで、伸びるだけだった体に、一気に肉がついていく。手足が健康的に膨らみ、尻にも適度な脂肪がつく。
「む、むねがぁ……」

胸に何かが凝縮していく感覚がする。同時に、目の前でも、腹までの平坦なラインの上に、膨らみができていく。

「わ、私に……おっぱいが……」
その膨らみの中にムギュギュギュ……と何かが詰め込まれていく。そしてどんどん膨らみは大きくなり、Dカップほどになると、成長は止んだ。160cmくらいになった体の熱も、引いていく。

「まあ、みんなの変化量からしても、これくらいが妥当よね」
新たにできた胸の膨らみを吟味しながら、そらは得意そうな笑みを浮かべた。

「そら、本当に大丈夫……?」
「何がかしら?」

「そら、私……いや、俺、実は、三分の一くらいしか飲んでない……の……」
恥ずかしそうに爆乳を隠しながら、女に染まりかけの諒が言う。
「え?」
「アタシもなの……」
おなかをプニプニしながら、まだ涙目の未来も言った。
「……え?」
「私は、全部のんだよー」
服を着直し、満面の笑みの橙子に、そらは耳を貸す余裕がなかった。

引き始めた熱が、また戻ってきていたのだ。
「うそ、うそうそうそっ!!!」

そして、そらの成長は再開された。乳房がムククーッと膨張し始めるのをみて、そらは胸をギュッと押さえた。
「こ、これ以上はいいのよぉっ!!」
だが、大きくなっているのは胸だけではなかった。手も脚も更に伸び、布切れになって巻きついていた最後の衣服を引きちぎりながら、体全体が巨大化していく。
「もう、大きくなんてなりたくないんだからぁっ!!」

そらの頭にゴツンッと何かが当たる。それは紛うことなき、部屋の天井だった。
「これじゃ、怪獣みたいじゃないのぉっ!!止まってぇ!」
しかし、成長は止まるところを知らず、部屋を埋め尽くしていくそらの体。

「ねぇっ、そろそろ逃げないと、建物が崩れちゃう!」
胸だけキツイ服を着た諒が、未来と橙子を引っ張り出した。アパートの骨格が、巨大化したそらの強大な力で歪んでいた。

「ああああっ!!!」
そらが大声を上げると、アパートはあっけなく崩壊した。

そこで成長は終わったらしく、身長10mくらいになったそらは、アパートの瓦礫の上に立ち尽くした。

「ど、どうしてくれるのよぉっ!!」

巨大な少女の叫びが、街全体にこだました。

ナノ・インベージョン 2

「いっぱい、背が伸びてるといいな!」

小学生の拓也(たくや)は、鏡を見ながらはしゃいでいた。夜9時、小学生は寝る時間であるが、次の日にある身体測定が楽しみなのだ。

「拓也、もう寝なさい!」
「えーっ!」

母親に叱られても寝る気の無い彼。そのテンションのせいで口の中に入ってきたホコリのような何かにも気づかない。

「だって、明日は!」
「はいはい、身体測定のことでしょ!だから……あら?」

元気に溢れていた拓也は、急に眠気に襲われた。そして、素直に寝床に入った。

「ふあ~ぁ……おやすみ、ママ」
「え、ええ。おやすみ」

あまりに突拍子もない息子の行動に驚く母親だったが、拓也がすやすやと寝息を立て始めると、電気を消して部屋から出ていった。


「ニケ、どうするつもりなんだ」
「えーっ!ちょっと遊んであげるだけだよ!」

ニッコリと笑うニケに、和登は無邪気さゆえの残酷さを垣間見た気がして、苦笑いを返すことしかできない。なぜかアプリの使い方を和登よりよく知っている風のニケが、無関係の小学生にナノマシンを感染させたのだ。そして、機能の確認をするようでもなく、ポチポチとボタンを押して拓也を寝かせつけてしまった。

「まさかとは思うが、ニケ……そのアプリ結構使ってたりするのか……?」
「夜行性だからね!」

答えになってない。だが、寝ている間に家族の誰かのプロポーションをいじくって遊んでいるようなのは分かった。朝起きる前に全員の体型を戻しているのだろう。――ナノマシンを感染させた人間の認識能力を捻じ曲げる事ができるようだが、新菜の年齢に見合わないデカパイは健在だったし……と、完全にニケに認識能力を操られている和登は考えた。

「まあ、明日が楽しみだな」
「うん!和登より面白い反応してくれるはず……、なんでもない」
「ん?」
「なんでもなーい!」


翌朝。拓也は目覚ましの音で目を覚ました。

「ん~……」

大きく背伸びをして、寝床から立ち上がる。

「……え?」

その途端、拓也を襲う大きな違和感。床が、異様に遠い。少しパニックに陥りかけた拓也だが、気を取り直して部屋にある鏡に向かった。すると……

「僕の背、伸びてる……?じゃなくて、足が伸びてる!?」

彼の足は、いや足だけが、高校生並みに伸びていた。腰から上の部分は元の小学生のままだ。寝間着からかなりはみ出したそれは、かなり筋肉質で、すこし力を入れるとピクピクと動く。

「え?えっ?」

足を動かしてみると、鏡の中の長い足も動く。だが、手の方は小さく幼いもののまま。骨盤は少し大きくなって、その下に拓也からしてみれば大きい足がくっついているのだ。

「拓也、どうしたの?朝ごはんできてるわよ?」
「ママっ、僕の足、変に……」
「あら、すごく背が伸びてる。よかったじゃない」

母親は、息子のアンバランスな体を見ても全く驚かなかった。これもナノマシンの意思操作によるものだが、拓也にそれを理解する術はない。

「ママ……」
「あ、今日は尿検査もあるのよね?ほら、おしっこ取ってきなさい」
「うぅ……」

拓也は、ランドセルから尿検査用の容器を取り出し、足に対して小さすぎる腕で何とかバランスを取りながら、トイレに向かった。

「……なに、これ……?」

そして、部屋着のズボンを降ろした拓也の視線の先にあったものは、長く太く変化した彼のイチモツ。二次性徴などとっくに終えていると言わんばかりに成長したそれは、拓也には刺激の強いものだった。

「でも、おしっこ取らないと……」

小さい手で、大きなソレの狙いを定め、出そうとしたその瞬間……

ドックンッ!!

「んひぃっ!?」

拓也の全身に、大きな衝撃が走ったのだ。

ドクンッ!ドクンッ!

心臓の鼓動と同期して訪れるそれは、まるで激しい血流が彼の全身を駆け巡り、そして……

「おちんちんが膨らんでくっ!」

拓也の男性器を押し広げているようだった。だが、赤黒く怒張し、鼓動するそれは、急にグイッグイッと押しつぶされるように短くなった。

「うぐぅっ!」

ドクンッ!ドクンッ!と未だに続く衝撃と共に、彼の体に入り込むように縮むペニス。そして、豆粒ほどになったそれはついに、股の中へと潜り込んでいってしまった。

ドクンドクンドクンッ!

変化はそれで終わらず、グイグイと体の内側が切り開かれる感触が拓也を襲った。子宮が形成されているのだが、拓也は別のことが気になり始めた。

「おしっこ、どうやってだすの……?」

そして、それを出しかかっていたせいか、股間から黄色い液体がこぼれ始めていた。

「おもらし、しちゃったよぉ……」

拓也はしくしくと泣きながら、便座の上に座った。何とか尿を取ると、容器に移し替え、床をトイレットペーパーで拭いた。


「やっぱりこんな足、変だよ……」

登校中にも、短すぎるズボンで覆い切れない足にドギマギする拓也。だが、それに違和感を感じているのは彼一人のようだった。

「拓也くんの足、すごいねー!ムキムキ!」

幼なじみの女子生徒に、ペチペチと足を触られる。陸上選手並みに筋肉を蓄えた足は、低学年の好奇心を集めていた。

「そんなに触らないで、もう……」

いくら言っても、一歩歩くたびムキッ、ムキッと形を変える筋肉を面白がる小学生たち。だが、そんな彼の憂いは別の形に変わろうとしていた。

ドクンッ!!

「うっ!!ま、またきたぁ……」

ドクンッ!!ドクンッ!!

今度は、脚の筋肉が力を入れずともグニグニと動き始めた。当然脚が言うことを聞かなくなり、拓也は脚を前に出してその場にへたり込んだ。

ギュッ!!ギュギュッ!!

すると、大量にあった筋肉が、ギチッギチッと音を立ててしぼみ始めた。脚は、あっという間に皮と骨だけのようになってしまった。

「え、ええっ?」

呆気にとられる拓也だが、ドクンッ!!と次に来た衝撃とともに、グキィッ!!と腰と膝が大きなきしみを上げた。細身となった脚が、内股となっていた。

「これって、女の人の脚みたい……」

ドクンッ!

そして、つぎは皮下脂肪がギュッと詰められるように、脚全体が横方向に、丸く膨らんだ。ドクン、ドクンと心臓が脈拍を打つたびに、ひとまわり、またひとまわりと太くなり、健康的というのがちょうどいいくらいのものに変わった。衝撃は、そこでひとまず終わった。

オーバーなほどに筋肉質だった拓也の脚は、ムチッとした女性のものに変わったのだった。

「すごい……」

拓也は、脚を触ってみると、プニプニとした柔らかさと、すべすべとした心地よさを感じ、少しの間惚けてしまった。

「拓也くん、大丈夫?そろそろ行くよ?」

班のリーダーが、脚だけ女子高生になった拓也に、たじろぐ様子も見せず言った。

「え、うん……」


「身体測定、緊張するねー」
「うぅ……」

拓也は、保健室で順番を待つ列に並び、クラスメートとしゃべり……合っていなかった。当然だ、ジャージから伸びた脚は自分のものとは思えないほどスッと長く、ブリーフに収まっているはずの男性の象徴はない。そして、髪もジャージを着た瞬間にバサッと伸びてしまい、腰まで伸びるロングヘアはクラスの注目を集めるほどになっていた。

「ほら、このカードを保健室の先生に渡して」

記録カードを渡されると、拓也にさらなる変化が起こった。

ドクンッ!!

「ううっ!!」

大声を出したにも関わらず、周りは誰ひとりとして反応を見せない。そのうちにも、カードを受け取った腕がギュッギュッと伸び、指は長く、細く伸びた。そして、背骨の節々一つ一つがグキッ、グキッと大きくなり、拓也の背が更に伸びていく。ジャージがせり上がり、ヘソが丸見えになってしまった。

「もう、伸びなくていいからぁっ!」

声すら、もう小学生のものではなく、少し色気が混じった女性のものになってしまった。だが、体をギュッと抑えると、変化は収まった。

「はぁ、はぁ……」

もはや、はたから見れば普通の女子高生である。荒い息を立てながら、じっと立つ拓也だったが、保健室の入り口から顔を出す、担任の声が聞こえてくる。

「拓也くーん、何してるんだ、早く来なさい」
「うん……」

ナノマシンの精神操作を受け、涙目ながらも保健室に入っていく拓也。中には、身長計と体重計に乗るクラスメートたちがいた。拓也は、校医に測定カードを渡した。

「えーと、拓也くんね。ずいぶん背が高くなったわねー」

もう、皮肉なのか率直な感想なのか分からない。
「さあ、身長計の台に乗ってね。上からコツンってするからねー」

背丈などどうでも良くなった拓也だが、言われるがまま身長計に乗った。校医が、測定部分を拓也の頭に当てる。と、その時だった。

ドクンッ!

「うっ!」

小さな悲鳴をあげた拓也に、校医が驚いた。

「え、そんなに痛かった?」
「そんなこと、ないです……」

衝撃が、拓也を襲う。周期的に生じるそれは、全身に何かを詰め込んでいく。そのたびに、拓也の身長が伸びる。

「えっと、150、じゃなくて、155……、え、160?」

ドクン、ドクンと衝撃は続く。脚が、体が、腕が、キュッ、キュッと太さを保ったまま縦に伸びる。

「ちょ、ちょっと、165、うーん、もう、届かない!先生!」

170cmを超え、男性である担任を呼び寄せる事態にまでなった時、それは終わった。

「180cm。っと。はい、次は体重計に乗ってね」

小学生、いや日本人全体でも高い分類に入る身長。病気と捉えるのが普通なのに、校医はスルーした。そして、拓也もそれを当然と受け取った。クラスメートも、自分たちの中に大きすぎる存在がいても、気にも留めない。それも、ナノマシンの機能だった。

「うーん、50kg?この体重じゃやせすぎ。危ないかな、もっと食べないと」

この言葉を聞いて反応するがごとく、身長は伸びたが、最低限の脂肪しか付いていない拓也の体は、またしても変化を始めるのだった。脚が、グ、ググッ……と、脂肪を蓄え始めたのだ。徐々に太くなる脚のせいで、ジャージがパンパンになっていく。

「あれ、55kg、いや、60kg……」

腕にもムチッと脂肪が付き、丸い輪郭が生み出される。ジャージの上は、骨格が大きくなったせいで既にギリギリのサイズになっていたが、更に大きくなる体で、段々と引き伸ばされる。

「65.2kgね。じゃあ次、スリーサイズを測りましょう」
「え?僕は男……」
「さあさあ」

パツパツになってしまったジャージに圧迫感を覚えつつ、校医に導かれるがままに、場所を移す。そして、服を脱ぐと、スリムな体型が顕になった。

「じゃあ、ヒップから……」

ドックンッ!

校医の言葉で、測定の準備を始めた拓也の体。その小さな尻がプルッと震える。そして、ルーラーがピトッと体に触れた瞬間。

ブルンッ!!

「きゃあっ!」

尻が爆発的に大きくなる。だが、その後も内側から押し広げられる感覚が止まらない。

「くすぐったいのは分かるけど、じっとしてなさい」

その間にも、ギュッギュッと柔らかい輪郭が膨れ上がっていく。

「僕のお尻がぁ……」
「すごい、100cm超えてる……」
「えっ!?」

拓也は自分の体を確認するべく振り返ろうとしたが、その腰をルーラーが捉えた。

「次はウエストねー」
「うぅっ!」

ルーラーに締め上げられたとでも言うように、十分締まっていたウエストがキュッとさらに細くなった。

「58cm。最後に……」

ドクン、ドクン、ドクンッと、脈拍ごとに拓也の胸に何かが詰め込まれ始めた。真っ平らな胸の突起がピクン、ピクンと動き始め、小さかった乳輪が広がっていく。そして、乳腺が成長の準備を完了させる。

「だ、だめぇっ……」
次に何が起こるか察した拓也だったが、校医は待ってくれなかった。ルーラーが胸に触れた瞬間……

ブルンッ、ムギュギュッ!ミチミチィッ!!

ルーラーを押し戻すように、二つの膨らみが生まれ、育ち、膨張し始めた。

「こ、こら、じっとして!」

自分の胸にじっとしてほしいのは拓也の方だが、校医は容赦ない。Aカップなど一瞬で飛び越え、Eカップ、Gカップと膨らんでいく乳房を無理矢理押さえ、ルーラーを止める。

「110cm!」

だが、それで成長が終わったわけではなく、ルーラーで押さえられた部分の上下に乳肉がこぼれだしていく。校医がルーラーを手放すと、拓也の頭くらいになった、二つの柔らかい塊が解放され、タプン、タプンと揺れた。

「終わった……の……?」

拓也が下を見下ろすと、呼吸するたびにフルフルとゆれる胸が、視界を遮った。手で持ち上げてみると、その柔らかさで指が包まれる。自然にできあがっている谷間は何かの深淵を望むようで、かなり深くミッチリとしている。

ヘナヘナと座り込むと、こちらも大きく膨らんだ尻が、衝撃を吸収してぷるんと揺れた。彼は、クラスメートたちがいる前で、新しい快感に溺れ、胸を揺らし、揉みしだき、肌をなでた。そして、股間に手を伸ばし……


「たーのしー!」

ナノマシンに付いているらしい、視界をジャックする仕組みのカメラ機能を使って、ニケは少年の体型を操作していた。

「和登にも何かしてあげたいな!」

高校に行っている主人の事を考え、楽しそうな笑顔を浮かべるニケだった。

いじめられっ子に女の子にされる

「へっ、来やがったな」
「な、なんだよ……」

律弥(りつや)は、クラスでは随一のイケメン、成績優秀、運動神経も抜群と、申しどころのない完璧超人だった。――というのは表の顔。裏の顔は、弱いものを虐めることでしか満足感を得られない、性格が曲がった高校生の少年だ。対して、彼に呼び出された卓男(たくお)は、小柄で少し太った体型。成績はそこそこいいが運動は苦手、女友達など幼なじみくらいしかいない、根暗な生徒だった。

「ところでさ、今からオレが何するか、分かってんだろ?」

――先日虐めたのは卓男の親友だった。卓男が律弥を睨みつけるのを見て、律弥はニヤッと笑った。

「ボクに手を出すと、大変なことになるよ?」

だが、卓男も同じように口を歪ませ、律弥の背筋を凍らせた。負け犬の遠吠えでしかないそのセリフに、同じようなことを何回も言われてきた律弥は、うろたえた。

「う、うっせー!弱者の分際で!!」
その恐怖を打ち消すように卓男に殴り掛かるが、普段の様子からは信じられない速度で避けられ、空振りに終わる。

「ねえ、律弥ってさ……リリヤに似てるよね……」

そして耳元で囁かれた言葉が何かの呪文であったかのように、律弥の全身に響いた。
「リリヤ……?誰だよ、そいつ……」

「この子さ」卓男のポケットから、一枚のカードが取り出される。そこには、エロゲのヒロインのような、胸の大きい、黒髪ロングの少女が描かれている。

「はぁ……?名前しか似てないじゃん、ほれ」律弥は、卓男からカードを奪い取る。こうすると、返せ、返せと泣きわめく顔が見れる……のがこれまでの経験だった。しかし、卓男はニヤニヤしたままである。面白くない律弥は、次の攻撃にでた。
「おいおい、こんなほっそい腕して、筋肉付いてるのかよ!笑えるなぁ、見てみろよ、俺の腕がこんなに細いわけ無いだろ!」絵に描かれた少女の腕を指差して、ゲラゲラと笑う。そして律弥は、学ランを脱ぎ捨て、普段の運動で鍛えた筋肉質な腕を、見せつけ……る、はずだった。だが、その腕が見えた途端、筋肉がギュッギュッと押し縮められるように萎縮した。

「な、なに!?うっ!!」そして同時に、骨がゴキゴキといいながら細くなって、まるで……「そいつの腕みたいになってるぞ、なぁ!」

「だから言ったでしょ、律弥はリリヤに似てるって」
「う、腕だけだろ!身長も近いかもしれないが、だいいち俺は男だぞ!」

ギチュッ!!

その途端、律弥の股間に例えようもないほど強い痛みが走る。
「っっ!!!」たまらず手で抑えると、そこにあったはずの男の象徴が、消えてなくなっていた。

「そんな、俺は、女じゃない……」

ギチチチ……

「ん、ぐぅっ」
今度は痛みというよりは腹の中でなにかが作り変えられていく違和感がある。まぎれもない、子宮と卵巣が出来上がっていくのだ、と律弥は本能的に理解せざるを得なかった。

「ほらほら、やっぱり似てるんだよ」煽ってくる卓男に苛立ちを覚え、その言葉を否定しようとする律弥。
「んなわけ、あるか!腹筋だってな、お前や、コイツとは違って鍛え上げられてんだよ!」

着ていたタンクトップを持ち上げ、腹を見せると、たしかにその瞬間は律弥の言うとおり割れた腹筋がはっきりと見えていた。――が、それも一瞬。
メキョッ、メリッと割れていた筋肉の部分部分が、引っ込んでいく。そして、少しの盛り上がりを残して、胸から腰にかけてのスッキリとしたラインが完成した。ヘソも、少し横に伸びていたのがスッと縦に伸びる形に変わった。

「……胸だって、膨らんでいるのはおっぱいじゃなくて筋肉だぞ」
胸筋が強張り、盛り上がったと思うと、乳頭が少し膨れ、硬そうだった膨らみが、丸みを帯び、柔らかくなり、Cカップほどの乳房となっていく。

「は、肌だって、こんなに白くは……!」
さぁっと音がするように、健康的に焼けていた肌が、顔から体、体から足へと透き通るような白いものに変わる。

「ふふ、ボクの思った通り、リリヤにそっくりだ」

――コイツは、本心では言っていない。俺を煽っているだけだ。
そう分かった律弥……だが、ここに来ても歪んだプライドを捨てることはできなかった。

「そんなに俺の顔って女っぽくないだろ」顔が、グキキと変わり、男の角ばったものから女性のものへ変化する。
「ううん、何言ってるんだよ」

「はっ、髪だってこれじゃあベリーショートだ、ロングじゃない」ワックスで決め、少し染めていた髪が、一気にバサッと伸び、ツヤを帯びた黒髪に変わる。
「律弥、さっきからおかしいよ」

「おかしくない、脚も尻もこんなにむっちりしてないだろ……っ!」腕と同じく、スポーツに適した引き締まった脚の筋肉が、脂肪へと置き換わる。尻もムククッと膨らみ、制服のズボンをパンパンにする。
「いや、リリヤと一緒だよ」

「声だって、こんなに低く……ない……だろ……」そう言う間にも、律弥の声のトーンが上がり、テノールからソプラノへとあっという間に変化する。
「声まで似てるんだからびっくりだよなー」

「……胸、小さいし……」タンクトップを軽く持ち上げていた胸がバインッと膨らみ、服がズボンと同じくパンパンになってしまう。
「現実にリリヤみたいな子がいると思ってなかったよ」

「お、俺は、違うんだ、リリヤじゃないんだ……っ!」

律弥、いや、リリヤは言ってはいけないことを口にしてしまった、そんな気がした。

「リリヤ、そんな、女の子が『俺』なんて言っちゃいけないよ?」
「え?私、リリヤ……?女なのか……?だって、男口調だし、違う……よね?」

卓男の歪んだ笑みはいつの間にか本心からの笑顔に変わっていた。

「女だよ。でも、リリヤは、もうちょっと積極的なんだ」
「私が卓男に積極的な……わけ……もう、仕方ないんだから」

リリヤは、小柄な卓男に抱きつき、胸が邪魔するのも無視して、頬をこすり合わせた。

「うふふ、卓男、大好き……」
「僕もだよ……いつものバブみをちょうだい」
「バブみなんて……」

少女は、もはや卓男の思う壺だった。

「いじめられたのね……?大丈夫、私がいるでしょ……?」
「リリヤママーッ!」

地面に落ちたカードから、描かれていたはずの少女が、姿を消していた。

変身描写だけ書きたい!(TS/AP1)

子供というものは、得てして好奇心が旺盛なものである。自分の家のリビングに、肌色の大きな袋があったら、入りたくなるものなのだ。

「(えへへ、秘密基地つくろー!)」

少年が今四つん這いになって入ろうとしている秘密基地、と言うよりは大人一人分くらいしか無いその袋は、大人が見れば背中に大きな口が開いている風船式のダッチワイフだった。しかも、かなり質が低い。

「(中が、光ってる?)」

袋の中に入った少年は、昼間のリビングには不釣り合いなネオングリーンの光で、自分の体が照らされていることに気づいた。その光に少年が見とれていると、急に入り口が小さくなり始めた。

「え、だ、だめ!外に出して!!」

少年は袋の口をこじ開けようとしたが、みるみるうちに入り口は縮小し、ついに消えてなくなってしまった。

「出して出して出して!!!」

袋の中で暴れ、膜を引きちぎって出ようとするが、突然緑の光が強くなり、少年の目をくらませてしまった。

「うわっ!!」

目を閉じた少年には、自分の心臓の鼓動が強く聞こえる。初めは、他の音が全くしないのでそのように聞こえると思っていたが、心臓の拍動は確実に強くなり、また速くなっていた。

「(な、なに、怖いよ……ママ、助けてっ)」

小さい子供にはよくあることだが、少年が家にいすらしない母親に助けを求めた瞬間。

《ドクンッ!!》
「うぐっっ!!」

全身に、大きな衝撃が走る。そして、体が段々と熱くなっていく。と同時に、袋が段々膨らみ、元の形、つまり等身大の女性に似た風船人形の形を取り戻していく。外から人形の様子を見られない少年には分からないことだが。

「ううっ!ボクの体が、動か……されてるっ!」

袋に入ったときのまま、四つん這いだった少年の体が、袋に合わせるように格好を変えられていく。少年を大きくしたら、ダッチワイフと同じ位置になるように。

「ボク、どうなっちゃうの……!?」

目だけを動かせる状態の少年だったが、腕の皮膚が張るような感覚に視線を動かす。

「えっ……ぼ、ボクの腕、膨らんでる……!?」

なんとその腕は、現在進行形でムクムクと大きく、長くなっているではないか。幼児の域を少しだけ抜け、少しずつ筋肉質になっているがまだまだ丸っこい少年の腕が、引き伸ばされるように成長していた。脚の方もしゅるしゅると伸び、同時に脂肪がついて、ムチッとした太ももが形成されていく。

「こ、このままじゃ破裂しちゃうよぉっ!!」

皮膚の成長が後回しなのか張ったままのせいで与えられる圧迫感に、体の成長を膨張としか捉えられない少年の混乱した精神は、次に起こった変化でさらに混乱を極めていく。少年の胸が、ムクムクと膨らみ始めたのだ。彼の母親の小さめなバストサイズを、ものの数秒で越えてしまう少年自身の乳房。製作者の性癖のせいかスイカサイズに大きいダッチワイフの胸に引き寄せられるように、ムギュギュギュと膨らみ続ける。だがその頃には体が十分に大きくなり、余裕があったダッチワイフと同じくらいの身長になった少年の視線は、ダッチワイフの頭部にすっぽりと隠されてしまった。

「んむむ~っ!!」

顎の動きすら抑えられ、うめき声しか挙げられない少年。その声音も、幼い子供ではなく、大人のアルトボイスに変貌を遂げていく。その間にも、男性として生活していた彼の、女性としての魅力が過剰なまでに引き出されていく。ムチムチとした足に対してあまり大きくなったヒップがボワンッ!と爆発するように大きくなり、風船人形をちぎらんばかりにその巨大さを主張する。異様なまでに大きいはずの人形の胸の部分すら、少年の大きく成長した乳房に更に引き伸ばされる。

足の部分などはピッチリどころかパンパンで、今にも破けそうである。

《ピリッ、ピリッ》

そして、それは実際に破け、ビニールの皮の中から、成長したばかりの透き通るような肌が見え始めた。

《ピリリッ、ビリーッ!》

破けるスピードが急激に早くなり、太ももの部分から上下に亀裂が広がっていく。プルッとしたヒップがあらわになり、キュッとしまった腰回りが見え、バァンっと抜け殻を破り去った乳房は、その衝撃でタプンタプンと揺れた。

「ぷは~っ、死んじゃうかと思ったぁ……」

体が自由に動かせるようになった元少年が、腕と頭に残った膜を剥がす。その顔は純粋無垢な子供ではなく、清楚な女性のものとなり、短く切っていた黒い髪は腰にも届くロングヘアに。指はすらっと美しく伸びていた。

沙月と命

男子中学生の少年は、目の前の机に置いてあるコップに入った、青と赤のスムージーをマジマジと見た。毒々しい色をしたそれの中では、何かが動いているようにも見える。

「なんだよこれっ!」
「今からキミに飲んでもらうものだよ、リア充くん」
「り、リア……?」

彼は、椅子に手足を拘束され、丸メガネをかけた科学部の男子生徒に、青のスムージーのコップを口に近づけられつつあった。その表面はもこもこと生きているように動き、まるで少年の中に入りたがっているようだ。

「く、こんなもの飲んだら死んでしまうっ!」
「大丈夫、死にはしない。ただちょっと、痛いかもねぇ。さぁ」

部員は少年の鼻をつまみ、スムージーを一気に少年の口の中に流し込んだ。

「うぅっ!ぐぼぼっ!!!」
「ほら、こぼしちゃだめじゃないか。キミの彼女も観ているんだからね」

少年の彼女は、二人の目の前で柱に縛り付けられ、スムージーを飲まされる少年に「沙月(さつき)!!」と叫んでいた。少年は、スムージーを飲み込みたくはなかったが、スムージーの方から、少年の中に潜り込んでいってしまう。

「んごごっ!」
「元気がいいねぇ、さすがボクが作った子たちだ……」

十秒もしないうちに、コップの中は空っぽになり、部員は少年からコップを離した。

「さて、お次はこっちを、カノジョさんに……と」

部員は、少年にしたのと同じように、少女には赤いスムージーを飲ませた。

「んぎゅうっ!?」

彼女も抵抗する様子を見せたものの、結局スムージーは一滴残らず少女の体の中に入っていってしまった。

「命(みこと)にまでそんなこと!ただではすませないぞ、この悪党め!」
「悪党で結構、結構。そんなことより、今飲み込ませたもの、何だか分かるかい?わからないだろうねぇ。だって、ボクが丹精込めて作った実験生物なんだからねぇ」
「実験……って、俺たちをモルモットにするつもりか!」

部員の丸メガネが、キラっと光った。

「ご名答」
「てめぇ、常識ねぇのかよ!!」
「常識……?そんなもの、とっくのとうに忘れてるねぇ。普段は、実験の秘匿性のためにただの根暗なヤツを演じてるが、それだけじゃ下らない下らない。ボクの知識と技術を活かしてなんぼの人生だからねぇ」

言葉を紡ぐと同時に部員の顔に現れるその笑みは、悪魔のようにネジ曲がり、悪意に満ちたものだ。

「悪魔、め……っ!」
「ふっ。そろそろ、次のステップに移らせてもらうよ」

部員のポケットから、アンプルと注射器が取り出される。アンプルには、透明の液体が入っている。

「まだ俺たちに何か打ち込むつもりかっ」
「活性剤さ。さっきキミたちの体に入っていった子たちが、キミたちの細胞に十分になじんでいるころだろうからね。それでは」

少年は必死に拘束から逃れようとしたが、抵抗むなしく、注射器を通して活性剤が注入される。

「んぐぅっ!!!??」

それと同時に、少年の体全体が殴られたかのようなショックを受ける。ドキンッ!!ドキンッ!!と強い感覚が少年を襲う。少年は痛みを目を閉じ歯を食いしばって耐えるが、心なしか手足の拘束が緩んでいく気がする。

「(こ……れ、はっ……逃げる、チャンスっ……!!)」

衝撃が収まると、少年は逃走のために拘束を振りほどいて、目を開けた。これで自由、と立ち上がって逃げようとした少年を、しかし、大きな違和感が襲った。

「(周りのものが、でかくなってる……!?)」

ちょうどいい高さだった机が、かなり高めになり、椅子も高くなって、少年の足は宙に浮いていた。部員も大きくなったように見える。

「(ちょっと待て、俺の周りが全て大きくなった……って、ことは……俺が、俺が……)」
「おや、思ったより効果が出るのが早かったようだね」
「俺、縮んでる!!??」

驚く少年の前で、同じく活性剤を注入された少女も、ギュッギュッと押し潰されるように小さくなっていく。中学生が小学生に、そして幼稚園生くらいまで。

「はい。これで初期段階は完了」
「ふ、ふざけるなっ!!」

少年も、同じく幼稚園生くらいまで小さくなっていた。声もかなり高くなっている。椅子から飛び降りて弱い力で部員に立ち向かうが、手も足も出ない。

「まぁ、諦めたまえよ。男なのにみっともない……いや、今は男じゃないんだっけ……?」
「はっ!?何言ってんだ、こんなに小さくなっても俺のチンコは……」

『ついてるぞ』と言おうとして、股間をまさぐる元少年。だが、そこには何もない。幼稚園生にも大きな豆粒くらいのモノがついているはずなのだが、なにもないのだ。部員が、自分の姿を確認しろと言わんばかりに差し出した鏡を見ると、瞳の色が青くなっていた。

「お、お、俺が女になってる……?」
「いや、女でもない。無性(むせい)の状態なはずだよ。そんなことより、カノジョの様子を見てみたらどうだい?」
「そ、そうだな」

無性、の意味が少年にはあまり分からなかったが、うながされるがままに、少年は少女の元に駆け寄った。少女も体が小さくなったおかげで拘束が外れ、床の上に四つん這いになっていた。着ていた服はほとんど脱げ、ブラウス一枚になっていた。といっても、少年もTシャツ一枚になっていたが。

「命(みこと)、大丈夫……か……?」
「さ、つ、き……」

少女の目は赤く光っていた。そしてその目を見た途端、少年の中の何かが変わった。

「命、さま……って、俺は何を!?」
「わ、わわ、今すごくイケナイこと考えてたっ!」

少年には、少女が、自分のつき従うべき存在に見えた。逆に少女には、少年が奴隷のように見えたのだろう。あたふたする二人に、部員が近づいてきた。

「どうだい?新鮮な感覚だろう?メスとオス、いや、キミたちはメスと無性の特徴を得たんだよ。ボクの子たちが持っている社会構造を、引き継いだんだねぇ」
「意味分かんないんだけど……」
「確実な生殖のために、メスが強い社会構造と、そのための遺伝子の特徴を持っているのさ。メスはあらゆる環境で生殖に適した生体構造を作り上げ、無性はメスの指示に従う。簡単に言うと、メスは無性を好きにできる。そして、メスは自分の体を作り変えられるのだ」
「だから……?」
「少女よ、少年の髪が伸びたらいいな、とか、考えてみるがいい」
「は……?うーん……」

少女が考えこむと、少年の髪が、バサッと伸びて、肩に掛かる程度になった。

「うわっ、すごい!」
「お、俺の髪が……」
「いいだろう……少女よ、キミは少年を意のままに操れるのだ」

少女は、目をつぶって少し考えると、うん、とうなずいた。そして、少年に向かってニコッと微笑んだ。

「沙月、私の妹になって!」
「お、お姉ちゃん、そんなのやだよっ!……って、俺は今何て言った!?後輩にお姉ちゃんって!?」
「おや、同級生ではなかったのだね……」

頭を抱える少年を、少女が撫でる。

「そうなの、沙月のほうが一つ上級生。でも、今日から私がお姉さん!」
「ほぉ……面白い。では、ボクはカメラを残して録画しているから、あとは隙に続けてくれたまえ……」
「うん!」
「うん!……じゃねえよ!なんで俺らが……」

少女の瞳が赤く光った。

「沙月ちゃん!年上の人には優しくしなきゃダメだよ!」

と同時に、少年の瞳は青く光った。

「う、うん。ごめんなさい、命お姉ちゃん」

部員はフッと笑うと、部屋から出て行った。少しすると、カチャッと鍵がかかった音がした。

「あ、そうだ……お姉ちゃんなんだから、もうちょっと大きくならなくちゃ……」

少女が息を吸い込むと、手足が少しずつ伸びて、ブラウスから股が見えるほど成長した。それでも元の体よりは小さく、小学生低学年程度の幼児体型のままだった。

「さぁ、沙月ちゃん!」

少女の瞳は赤く光ったままだ。

「なに?お姉ちゃん」
「沙月ちゃん、私たち、これから子作りしないと!」

空気が固まった。数秒の沈黙の後、二人の瞳が光るのをやめ、二人は慌てて視線をそらし背中を向け合った。

「こ、子作りぃっ!!??じょ、冗談やめてくれよ、沙月!!」
「わ、私、何かに取り憑かれてたみたい!!もう、恥ずかしいよ!」

二人の幼女は、顔を赤らめながら下を向いた。

「それで、どうする……ここから何とかして出ないと」
「うん、私たち、何かに操られてるみたいだし、この状況は脱しないとね」

ほとぼりが冷めてくると、元少年は部屋のドアの方まで歩いて行く。少女は、それを心配そうに見つめる。

「ち、ちくしょ、背伸びしてもとどかないぃ……」

元少年は、幼稚園生の体でドアノブに手を伸ばすが、ノブが上の方に設置されているのと少年の背が低すぎるせいで、どうしても手が届かない。その様子を見て、少女はクスッと笑った。

「わ、笑わなくてもいいだろ!?」

少年は、少女にむくれ顔を見せる。

「ご、ごめん、っ、でも……」

そして、少年と少女の目が合ったとき、またもや瞳が光りだした。

「ちょっと、背を伸ばして、もらおっかな……」
「や、やだっ……んぐっ」

少女が身長を伸ばした時とは裏腹に、少年の体からはバキッ、メキッと痛々しい音が聞こえる。

「痛いよぉっ!!」

自分の体を抱きしめ、悶えると、少年の体がグググッと体積を増し、手も足もメキメキ成長して、中学生位のものになった。ただ、筋肉はあまりつかず、肌は白く繊細で、男性らしくはなかったが、かと言って女性の二次性徴も全く無く、女というわけでもなかった。

「あ、そっか……沙月ちゃんが『無性』っていうのは、男でも女でもない、ってことかぁ」
「えっ……」

少女が少年の後ろに回りこんで、背が伸びたせいでTシャツからはみ出て、さらけ出された股間を確認する。

「うん、私のと違うね……」
「お姉ちゃん、恥ずかしいからやめてっ!……」

少年がとっさに股間を手で隠すと、少年の瞳の青い光が消えかかる。

「あ、お、俺は……俺の体、元に戻って、ない……」
「沙月ちゃん」

逆に、少女の赤い光は強くなった。それに呼応するように、少年の青い光は強さを取り戻した。

「その言葉遣いは、ダメ」
「ごめんなさい、お姉ちゃん……でも、沙月、男でも女でもないんだよ……?」
「じゃあ、女の子にしてあげる」
「ひゅあっ……!」

少年の胸がピクピクっと痙攣し、足がガクガク震え始めた。メキィッと音がすると、腰が横に広くなり、尻がムチッと膨らんで、男の時にはなかった丸みを帯びた。脚は内股になり、太ももにも丸みが加わる。次に、Tシャツに小さめな突起がピクッと突き立った。

「は、恥ずかしいよぉっ」

それを隠そうと両手を当てると、その下で胸が膨らむ。手のひらの下を満たすように脂肪がつき、さらに少年の手を押しのけようとする。しばらくそれが続くと、上半身全体がメキメキと形を変え、少しのくびれができ、ヘソも位置を変える。

「沙月ちゃん沙月ちゃん、あともうちょっとで女の子になれるよ」
「へっ……?う、う、おなか、がっ」

少年の腹部に、新たな器官が作られていく。生殖に必要な、卵巣と子宮が、少年の腹部を満たすように成長する。

「よし、完成……」
「うぅっ、お姉ちゃん、私、どうなっちゃうの……?……お姉ちゃん?」

少女は難しい顔をしている。少年は不安げに、少女に近づく。

「私、お姉ちゃんぽくない……」
「え?」

中学生の身長に、中学生にしては少し大きめな胸と尻を持った『妹』と、小学生低学年のちんまりとした体の『姉』。それをそのまま、本当に姉妹として捉えるには、違和感が大きすぎた。

「……そ、そうだよ……私、お姉ちゃんの妹じゃなくて……命のカノジョなわけだし……俺が女なわけないし……」

少年の瞳から光が消えていく。

「でも、お、俺に、おっぱいが……」

シャツを控えめに押し上げる自分の胸に、戸惑いながらも目がくらんでしまう少年。

「ふへ、ふへへ、触り放題……」
「沙月……」

自分だけの世界に入りかけていた少年だったが、少女の存在を思い出した途端、背筋が凍った。

「命!!ご、ごめん、俺はそんなつもりじゃ!!」

少女は怒りを露わにしていた。しかし、それは少年が思っていたものとは違った。

「沙月は、私に付き従うものなの……だから……」

小学生サイズの少女の体が震え始める。ただ、怒りからくる震えとは確実に違う震えだ。少女の体は、急速な成長の準備をしていた。

「み、命……?」
「だからぁっ!!」
「うわぁっ!」

少女の体が爆発した、ように見えた。というのも、130cm程度だった少女の体が一気に170cmまで伸びて150cm程度の少年を追い越したのだ。それだけでなく、胸もバインッと膨らんでGカップほどになり、ブラウスはいたるところが破れてしまい、大きく伸びた手足にはムチッとした脂肪がついが。その成長の衝撃で、部屋の中の物がごちゃまぜに吹き飛ばされ、床に少女の脚がめり込んだ。

「沙月ちゃんは、私以外見ちゃダメなの……」

元々より成長した少女は、淫らな目で少年を見つめた。そして、大きな胸をさらに強調するように手で持ち上げ、少年に見せつける。

「命……お姉ちゃん……っ」
「ほら……」

そして少女は、少年を抱きしめた。少年は、柔らかく大きな体に包み込まれ、その腕の中で安心感を覚えた。

「大好き、お姉ちゃん……」
「ありがと、沙月ちゃん……でもね、私たち、子作りしなきゃ……」

先程から強さが回復してきていた、少年の瞳の光が、一瞬にして弱まった。

「だ、ダメだ……沙月、そんなの違う!アイツの、いや、俺たちの体の中にいる得体のしれない生き物の言いなりになるなんて、ダメだっ!」

対して、少女の赤い光は、弱まるどころかさらに強まった。

「沙月ちゃん、何を言うの……?おとなしく、私のものになってよ……」

少年は、少女の意思で活性化される実験生物に心を乗っ取られまいと、これまでにない抵抗を見せ、瞳の光は点滅した。

「ダメだ、ダメだ、ダメだ!」
「そう、なの……それなら……」

すると、少女の体が、更に大きくなり、180cm、190cmと、グイッ、グイッと背が伸び、ブラウスを引きちぎるように胸が膨らみ、顔と同じくらいになる。そして少女は、増えた体重に任せて、少年を床に押し倒した。

「無理矢理服従させてあげる……」
「ダメ、だ……命、お姉ちゃん……違う、違うっ……俺は……私は……っ!」

光が激しく点滅し、少年の口調が一言ごとに変わる。

「命、は……、命お姉ちゃんは……なんでっ……これで……いいのかよっ……」
「私……?沙月ちゃんを私のものにできるなんて、願いがかなったようなものだから」
「えっ」
「沙月ちゃんは、私のものにはなりたくなかったみたいね?だから、そんなに抵抗する。でも、私は違うの。だから……」
「ん、んごごっ!!!んああっ!!」

少女の瞳が強く光った途端、少年のBカップほどの慎ましやかだった胸が、ムクッ、ムクッと大きくなり始め、シャツを押し上げる。

「私のものになって、楽になって?」
「んうっ!!……命、そんな……私、やだ……うううっ!!!」

胸の成長スピードが上がり、いつしか大きくなりすぎた少年の胸は、持ち主の動きを止めてしまうほどになった。

「私の言うこと聞かないと、一生動けない体にしちゃうよ……?」

少女の言葉は、本気だった。強く光る赤い瞳は、少年の青い瞳を捕らえて離さなかった。とめどなく大きくなる乳房は、自分の意志ではどうしようもなく、さらに少年にのしかかる少女の体は、どうやっても押しのけることはできない。逃れようのない現実を突きつけられ、少年の心は重圧で潰れ始めた。

「私っ……は、命の……命、お姉ちゃんの……」
「私の……?」

そして、プチッと、何かが切れた。

「俺は命の妹……、私は、命お姉ちゃんの、妹……」

青い瞳の光が、消えなくなった。

「もう一回、お願い」
「私は、命お姉ちゃんの妹、命お姉ちゃんの、好きにしていいもの、だよ……」
「うん……沙月ちゃんを、絶対に離さないよ……」
「うふふっ……うっ、ふっ……」

少年の胸が小さくなる代わりに、体全体が生殖に適した大きさまで成長した。

「じゃあ、いくよ、沙月ちゃん」
「うん、命お姉ちゃん……」

少女のヘソから産卵管が生成され、少年のヘソに突っ込まれる。はたから見れば異様すぎる風景ではあるが、二人にはこれが当然に思えた。

「お姉ちゃんの子供が、私の中に……」
「ちゃんと、元気な子を産んでね……」

そして、二人は抱きしめ合い、二人だけの時間を楽しんだ。

「……ふむふむ……この星の知的生命体には、思いの外なじめたようだな……」

ところ変わって、二人の様子を隣の部屋で、ずっとカメラを通して眺めていた、部員。

「宿主と繁殖方法を求め、この星に来て5年。長い道のりだった……二人の中で頑張ってくれた同志たちよ、実験生物と呼んですまなかった。だが、これからも健闘を祈っているぞ。生まれてくる子供にも、期待をかけよう」

部員の口から、ピュッと青い液体が飛び出した。部員はその場で跡形もなく消え去り、液体は空中をふわふわと漂ったあと、窓の外に出て、空の彼方に消えた。

侵食するカラダ その3

「あいつの手術、あれは要するに、体を一定間隔で変形するようにするだけなの。大方、『女の子になれる』とか言われたんだろうけど」校医は、淡々と説明した。「体がどう変形するかはその人の意思によるから、その場でなりたい体型を想像していれば、その通りになるのよ」

「……ってことは」俺の脳裏を不安がよぎった。「俺は、女になりたいって、そう思っていたことになるのか?」俺のあの時の結論は、そんなに女になることに傾いていたのか?

「いえ、そうとは限らない」

校医は、目を細めて俺を見た。「あいつの理論の場合、成長ホルモンに加えて、異性のホルモンを大量に分泌させることで変身を起こしてる。つまり、異性になるような変身しか引き起こせないから、君はどっちにしろ女になっていた。それにしても、深い考えなしであいつのところに行ったの、君は?」

「う……だって本当に女になると思ってなかったし……」正直、これ以外に返す言葉が見つからない。校医はそんな俺を見てため息をついた。

「君ね、世の中を甘く見てると、今に痛い目をみるわよ」いや、すでに痛い目を見ている気もするが。「手足を切断されて見世物にされたりとか」うむ、それは確かにイヤだな。「実験生物に洗脳されて子供をうまされたりとか」待て、なんだって?「その子供に栄養を供給するためのミルクタンクにされたり……」

「ちょ、ちょっと!いくらなんでもそれはないだろ!?」どこのマッドサイエンティストがそういうことをできるんだ!?

「いえ、今の、全部兄がやったことよ。この目で見てきたから、間違いない」そう言う校医の目は、真面目そのものだ。冗談ではないのだろう。「君が、女の子になったり、元に戻ったりするようになっただけだったのは、実は幸運なんだから。ただ、私は兄が施した手術の理論は知っていても、もとに戻す方法は分からない。さっきも言ったとおり、慣れることが肝要よ」

「慣れろって!?この体に!?」こんなおとぎ話のような説得で、納得が行くはずがない。これまでがおとぎ話じみていたのは否定出来ないが、それでもだ。

「できないっていうの?これまで、同じような境遇の人がたくさんいて、ほとんどの人が順応してきたのよ。君ができないはずがない」

「俺と同じような奴がたくさんいるって、そこが嘘かもしれないからだ」大体、俺は一回も他の人間が変身するのを見ていない。実際、変身させられたのは俺一人だけなのかもしれないのだ。

「証拠が欲しいのね。じゃあ、今日の放課後ここに来なさい。あと、変な気を起こして、女になった自分なんか想像しないでね」校医はため息混じりだった。というか、そういうこと言うから想像してしまうわけだが。まあ頑張ってみるか。

放課後。

「あらあら……また立派に育っちゃって」

「はぁ……はぁ……余計な……お世話だ」俺の体は、また爆乳美少女に変わっていた。だってまあ、仕方ないだろ。授業が終わってすぐに、委員長にまた話しかけられて、どでかい胸を見せつけられたんだから。俺はタプンタプンと揺れる胸を押さえながら、やっとのことで保健室に戻ってきたのだった。

「それで、この子なのよ、見せたかったのは」

「先生?あれを、この人に見せればいいの?」ベッドに横たわっているのは、小さな女の子だった。肩まで伸びる黒いふわふわの髪。ぷっくりとしたほっぺと、なぜか上半身を脱いでいるその体はぷにぷにしてぽっこり……

「ってぇ!?なんで裸なんだよ!俺はロリコンじゃないぞ!」

小学生の裸を見て、思わず興奮してしまった。でもなぜかその子も校医も俺の大声に驚く様子もなく、むしろニヤニヤしている。「な、なんだよ……」

「ねえ、わたしの事見て、何か思い出さない?」

「え?」女の子に言われた俺は、こんな子がこの学校にいたか、と考えると、すぐに思い出した。同じ学年に、今年、チビな女子が転校してきたっていう噂が流れていなかったか?それに、同時期に突然学校を出てった奴もいたと。

「まさか、お前も女になって、女として学校に通ってるのか?」

俺の言葉を聞いて、女の子はニコッと笑った。まぶしい笑顔に、少し胸がドキッとする。「じゃあ、本当に、あなたもなのね。そう。私は女の子になっちゃう身体になった。そこまでは合ってる」

少女はおもむろにスカートの留め具に手を掛け、その股間を露出させた。

《ポロ……》

そこには、想像していなかったものが、ついていた。「実は、今も男なの。小さいけど、ちゃんとあるでしょ?」ある。確かにある。親指くらいの、小さなナニが、確かにある。

「紹介が遅れたけど、この子の名前は、佐藤 沙耶香(さとう さやか)」固まってしまった俺を見て、校医が補足した。「でも、本当の名前は佐藤 昌也(さとう まさや)。どっちでも、好きに呼んでいいと思うわ、ね、佐藤さん」

佐藤は、首を大きく縦に振る。「私と同じ境遇の人なら、どっちでもいいよ!でもみんなの前では、男の名前は出さないでね」

分からない。元々男で、女になるようになったのに、女に見える格好の男に変身して学校に通っている?わざわざそんな事をする意味が、全くわからない。

「説明して欲しいっていう顔してるわね」

相変わらず目を丸くして股間のナニを見つめ続ける俺だったが、やっとのことでゆっくりとうなずいた。

「この子はね、元々今よりすごく体格が良くて、そうね……元の君よりもかなり力があったんじゃないかしら?でも、あいつの言葉に乗せられて被験者になってしまった。それで、女性になる時はかなり体格が違ってしまって、周りも対応しきれなかったみたい。だから、これくらい小さな体になって、男の時でも女で通用するようにして、日々の生活をしているってわけ。これが、症状に対する対応の一つ、しかもこの子自分一人で考えた方法よ」

「いや、これだけじゃまだ信じられないぞ」

まだ、佐藤が変身するところを見ていない。校医は呆れ顔をしたが、佐藤はうんうんとうなずいた。

「要するに、私が本当に変身するか見たいんだね」「ああ、俺の目の前で、俺そっくりに変身してくれ」

ここで、佐藤まで固まった。「そ、そんなおっぱい大きくしたくないよ、絶対痛いし」確かに、俺の胸には特大スイカサイズのおっぱいが付いている。対して、佐藤はそのおっぱい二つと体積が同じくらいの体の大きさしかない。相当激しい変身になるだろう。

「できないのか?じゃあ、俺は信じないぞ」俺は意固地になる。今の状況が治らないなんて、まだ信じたくない。「君、いい加減に……」

「分かったよ。変身する。でも、最初にそのおっぱいで気持ち良くしてからね」

こいつ、いきなり何を言い出す……って、俺も同じくらいの無茶を言っているのか。じゃあ、仕方ない。

「ああ、いいよ。やってやる」あれ?本当に仕方ないか?まあいいか。

俺は、無意識のうちにパツパツになったシャツを脱ぎ捨て、佐藤がいるベッドの上に四つん這いになっていた。

体が勝手に動く。歯磨きをしたり、シャツのボタンを止めたり、そんな日常の動作みたいに、無意識のうちに体が動いて行く。今やろうとしていることは、こいつを俺のおっぱいでマッサージするという、人生はじめてのことなのに。

「じゃあ、いくぞ」俺は、奴の腰の上に、どたぷんっ!と胸を降ろす。すると、あいつの小さい息子が、俺の胸の表面にくっついているのが伝わってきた。

「あうっ……!気持ち、いいっ」

佐藤が可愛らしい声を上げる。食べてしまいたくなるほど……

「あのねぇ、二人とも、人の保健室のベッドでなにやろうとしてるの」

なに、やろうと、してる。本当だ、俺は何をやろうとしてるんだ!?姿勢を戻し、佐藤を見るとかなりびっくりしている。どうやら、さっきの願いは冗談だったらしい。男の俺に、マッサージを頼んだところで笑われるだけだと思っていたようだ。ところが、俺はノリノリで胸を載せてきた、そんなところだろう。

「もう……佐藤くん、ごめん、この人の言っている通りにしてあげて。……って、もうする気のようね」

佐藤からとんっ、とんっと音がする。体を見ると、トクン、トクンという脈動が、最初心臓の上だけ起こっていたのが、周りに広がって行っている。

「ひゃっ……んっ……!」

ついには、小さい体全体がドクンドクンと脈動し、ベッドの上で飛び跳ねた。腰に乗せたままの俺のおっぱいも、たゆんっ!たゆんっ!と揺れ、乳首が……

「あぅ……っ!ひゃんっ!やだっ!」

先っぽがこすれて、気持ち良くなっちゃうっ!……佐藤の体も、だんだん大きくなって、中学生くらいの体が俺のおっぱいに猛アタックしてくるぅっ!!おちんちんも、大きくなってきて、固くなってきてるっ!

「やめてぇっ!……~っ!!」

俺は、やっとの思いでおっぱいを持ち上げ、衝撃から逃れることができた。なんてことを考えてたんだ、それに、自分の声とは信じられない、喘ぎ声を出していた。校医を見ると神妙そうな顔をしている。

「あぁっ!!胸が、胸がぁっ!!」

佐藤が大声を出した。いや、今まで俺が変身した時と同じくらい、どたばたともがきながら、体が太くなったり細くなったり、「熱いよぉっ!」とかいろいろ叫んでたんだが、俺の意識の中に入ってこなかっただけで……

《ムリリリィッ……!!!》

何かが無理やり伸びにくい風船を押し広げて行くような音がして、同時に佐藤の平べったい胸から二つ、丘が大きく前に突き出てきた。Cカップというところだが、俺の胸にはまだまだ及ばない。

「うおぉ……」他の奴の胸が膨らむのなんて、初めて見たわけで、思わず胸の下に腕を組んで感心してしまった。プルンプルンと震えながら、ムリムリと膨らんでいく二つの膨らみは、やがてタユンタユンと大きく揺れるほどの、立派なおっぱいに成長していく。

「んふぅっ……くぅっ!」小さな子供の声が、少しだけ低くなり、深くなって、今の俺と同じような大人の女のものに変わっている。

《プシュゥッ》

と、ここまでかなり大きく膨らんでいたペニスが、ヌメヌメとした液体を噴き出し始めた。小便とは確実に違うソレは、精液に間違いない。ただ、普通の射精と違って、勃起していたソレがだんだん縮んでいっているのだ。

「私のおちんちん、中身がでちゃうよぉっ!」

佐藤は、その最期を見逃すまいとしているのか、それとも縮小を止めようとしているのか、すごく焦った顔で、ピュッピュと噴出を続け、もう元のサイズより小さくなったそれをじっと見る。が、ほどなく急拡大し、顔よりも一回り大きくなった胸に視界が遮られてしまったらしく、完全に股の中に埋もれてしまっても、見えなくなったそれを確認しようとしている。

「おっぱい、おっぱいじゃまぁっ!!」

佐藤の言葉に逆上したかのように、胸は《ボンッ!!》とさらに大きくなった。やっと、おれと同じくらいになったか?胸を当てて、確認してみよう。

《ムニュッ》

おっぱいと、おっぱいが重なりあう。と、佐藤の鼓動がおっぱい越しに伝わってくる。俺の胸も、ポヨ、ポヨと揺れて、何だか、体が、熱く、なって……

「いい感じ……」この子の体、すごく大きくなって……さっきとは違うかわいさ……一人で二つの魅力があるなんて、もう、食べちゃいたい……

もっと紗耶香ちゃんのこと、知りたい、味わいたい。そう思って、苦しそうな表情の顔に手を近づけていく。その時、紗耶香ちゃんの目がくわっと開いた。

「わ、わたし……こんなことに……」紗耶香ちゃんが私に話してくる。変身が終わったのかな?

「なぁに?私の体になってみて、どう?やっぱりすごいでしょ……?っ!!!」

俺は、俺は何を言ってるんだ!?俺の思考が体に蝕まれているというのか!?エロい体に、男を誘惑するこの体に、心が、持って行かれている!

「す、すまないっ!!佐藤!!」とっさに謝る。が、その必要はなかった。

佐藤は、淫らな笑顔を浮かべていた。体の触れ合いを通じてもっと快楽を得たい、そう言っている顔だ。「うふっ……」ぞっとするような含み笑いも、俺のことを咎めるどころか、さらに求めていることをあからさまに示していた。そして、それは実際の行動にも現れる。両手で、俺の両胸を挟み、上下左右にもみ始めた……

「ひゃんっ、さ、さとうっ、もむの、やめてっ!」快感が、快感が俺の脳を占拠する。理性が追いやられ、意識が朦朧として、目の前が見えなくなっていく。「うふっ、うふふっ……」佐藤の淫魔のような笑いだけが、耳に入ってくる。このままじゃ、俺……

「はい、そこまでっ!」という校医の声とともに、《パシッ!!》と何かが手で叩かれるような音がする。すると、俺は快楽の洪水から解放され、視界がはっきりした。校医が、少し引きつった顔で、佐藤の顔を平手打ちしていた。

「せ、先生……ごめんなさい、私こんなつもりじゃ……」佐藤の方は、悲壮な顔をして、校医に許しを請うていた。校医はすぐに優しい顔になり、佐藤を抱きしめた。

「いいの。君が悪いんじゃない。悪いのは、体なのよ」校医は俺にも優しそうな、でも申し訳無さそうな感じでもある顔を向けた。

ああ、そうなのか。俺が元に戻る方法はやっぱりないんだな。そして、いつか俺は今あるこの「俺」を失って、違う誰かに成り果てるんだ。俺は、校医の顔を見て、それを認めるほかなかった。

侵食するカラダ その2

電車の中で、俺は自分の胸に集まってくる視線を感じながら、これからの事について考えていた。俺は、本当に女になってしまった。それも、スタイルは抜群、顔も美しさと可愛さをうまく兼ね備えた、通りを歩けば誰もが振り向くような美少女だ。実際、この電車に乗った全員が一回は俺のことを見ているだろう。

試しに、服から大きく突き出している胸の膨らみを下から持ち上げ、ムニュッと歪ませると、男は全員、女も半分くらいが目を丸くして俺を見た。そんなに俺って、目立つんだな。

一人暮らしで、誰もいない家に着くと、すぐに服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びようとした。完全にサイズの合っていない服はキツかったし、胸の間に汗が溜まって、かぶれてしまいそうだった。

「……」

鏡を見た瞬間、それまで成り行きで動いていた体が、動かせなくなる。さっき俺は自分の姿を見たはずなのに、雑誌でも見たこともないような特大スイカの胸や、一点のシミもない透き通った肌、これ以上細くなったら折れそうなウエスト、豊満な太もも。その全てが、俺を誘惑した。

隣に先生がいたさっきと違って、今なら、誰も見ていない。俺は衝動的に手のひらほどに大きく薄く広がった乳頭の先っぽを、クイッとつまんでみた。

「あ……んっ」

俺の股間に息子が残っていたら、一瞬のうちにとんでもなく固くなるような、色気たっぷりの声が出た。

俺の、この喉から。

顔が熱くなり、鏡を覗くと、目の前の少女も顔を紅潮させ、エロい表情になっている。

俺の顔が、エロい。

体が変わっても脳の中は男なのか、滅茶苦茶興奮する。と同時に、自分が超えてはならない一線を超えたことを実感する。といっても、いまさらどうしようもない。今日は疲れたし、さっさと体を洗って、寝ることにしよう。

「ふんふ~ん♪」

俺はいつものようにスポンジにボディソープを付けて、こっちはいつものようにじゃなく鼻歌を口ずさんで肌を擦った。

《ゴシッ!!》

「ひゃんっ!」痛い!すごく痛い!っていうかなんだ今の声!無意識のうちに、黄色い悲鳴を上げてしまった。俺の考えとは別に、体が勝手に声を出してしまったのだ。

俺は一瞬思考が止まってしまった。自分の体が、自分のもので無くなっていってしまうのではないか、という不安にさいなまれたのだ。

「何考えてるんだよ、俺!」俺は、手をグーパーと動かして、自分に言い聞かせる。「ほら、自分で動かせるじゃないか」

それから俺は、できるだけ優しく、肌を洗い始めた。一番やりやすかった脚の先から……と言っても前かがみになったせいで、胸がつっかえたが……、尻、腰、胸の下、胸の間、胸の上、肩、腕と、ここまでは順調だった。

「股……って……どうなってるんだ……?」視界を塞ぐおっぱいを何とか脇にどかして、股の間を確認する。そこには、ピッと一筋、線が入っている。俺は恐る恐る、人差し指と中指を使って、その線を左右に引っ張った。すると、それはカパッと開いて、ヒダのようなものと、突起のようなものが露出された。人の一部とは思えない形をしているそれは、少しグロい。

そっとじ。

いやいやいやいや、自分の一部なんだから、どうにか慣れなければならないだろう。俺は覚悟を決めてもう一回それを開けた……

《ムギュギュギュギュ》

とそのとき、胸が妙な変形を始め、それを皮切りに俺の全身がぐにゃぐにゃと……

「はっ……!?」

俺は意識を失っていたようだ。そして、ここは風呂場。俺の体は……

元に戻っていた。完全に男の姿に戻り、俺が女だった形跡は一つもない。

「ふ、ふふ……やっぱり、そうだよな……あんなこと、実際にあるわけがないよな……」

鮮明に記憶に残っている女としての体験は……あれはきっと夢なんだ。そう自分を説得し、俺は体についていた石鹸を流し、髪を洗って風呂をあとにしたのだった。

翌日。学校に着いた俺は、だれとも会話することもなく、席に座り込んだ。昨日の体験が頭から抜けない。妙な装置で、自分の体が細胞単位で全て女に変わってしまうという、変な夢。胸についた、超大きくて、そして重い膨らみ。会ったこともないほどの可愛い女の子の顔が、自分のものになっていた。もっと何かやっておけばよかったんじゃないかと思ったが、どうせ夢だ。

「どうしたんだよ、おい!」いつの間にか、友達の新田が俺の前に立っていた。大声を出して俺を呼んでるってことは、相当な回数、呼びかけてきていたに違いない。

「ああ、なんでもねえよ」「そんなわけないだろ!お前らしくもなくぼーっとしてさ」否定しようがない。一人暮らしの俺にとって、学校での友達付き合いは大切な日常の一部だ。大抵、自分でもオーバーと思うくらいの挨拶をしてクラスに入っていく。その俺が、なんにも言わず席に直行して何か考えこんでいるなんて、不思議以外の何者でもないだろう。

「病気でもしてんのか?そろそろ期末試験だぞ」新田は、本気で俺のことを心配しているようだ。

「いや、さ、女になった夢を見てだな」

自分でもこの事を言うとは思っていなかったが、自分の中で貯めこんだままっていうのがいやだった。新田は、それを聞いて吹き出した。

「おい、なんだよそれ!お前も相当試験に追い込まれてるんだな」
「あ、ああ。そうだな」

確かに、追い込まれてなきゃ、女性化できるって聞いて、電車賃まで払って行くわけないよな。

そんな俺の視界の中に、たゆん、たゆんと大きく揺れ動く盛り上がりが入ってきた。

「お、デカパイ委員長のおでましだぜ」新田の言う通り。食べたものが全て胸に行くと言われている、このクラスの委員長が、教室に入ってきたのだ。Hカップはあり、本人は事あるごとにでかすぎるその胸のことで文句を言っているらしい。

まあ、俺のほうがデカイけど。

え?今、俺、自分の胸が、委員長よりでかいって考えたか?俺におっぱいなんて無いのに?

「ちょっと、何マジマジと見てるんですか?」遠くにあったおっぱいが、いつの間にか目の前にあった。ずーっと凝視していたらしく、周りの軽蔑の視線が突き刺さってくるようだ。

「あ……すみませんでした」と、今更謝っても遅い。委員長は俺をにらみつけて、説教する気満々だ。

「だいたいあなたは……って、きゃあ!!」まさかの委員長、なにもないところでコケた!そして……

《ドタプーン!》

俺の顔に、おっぱいが襲いかかった。服越しでもわかる柔らかさと、温もりに、俺の顔は包まれ、そして、思考が支配される。俺の『夢』がフラッシュバックし、鏡に映る『自分』の姿が、頭の中を埋め尽くしていく。

「ちょっと……ねえ……」委員長の声が、意識の彼方で聞こえる。しかし、俺の体で何かが駆け巡り始め、ゴゴゴゴと音を立てて、周りの雑音をかき消してしまう。

そして、ついにそれは始まった。

女性ホルモンが脳から分泌され、新陳代謝が加速されていく。そのせいで、全身の細胞が分裂や変成を繰り返し、体が至る所でメキメキ、ゴポゴポッ!という音を立てて不定型になる。

《ムギュギュギュギュ!!》

そして、俺の中にわずかに存在していた乳腺が、血流に合わせて急速に増殖し、胸を盛り上げる。苦しくなった俺は、服を脱ぎ、上半身を露出させた。

全身の血管は異様に浮き立ち、その先の組織が動いているかのように、絶えず変形を繰り返している。筋肉細胞が脂肪細胞に変わり、破骨細胞が俺の骨を細くし、造骨細胞が逆に俺の骨を形作る。

「んっ……んんっ」

声の高さが安定しない。体のすべての部分から、人体が出すはずのない、メリョメリョとか、ズルズルとかいう生々しい音が出され、そのたびに体の表面が凹んだり膨らんだり、伸びたり縮んだりする。

「んはっ……」

制服のズボンの左がメリメリと破れ、中から筋肉が異常に発達した脚がでてきたと思ったら、その筋肉の殆どが一瞬にして脂肪に置き換わり、同時に、ゴキッと膝の向きが変わって、左足だけが右足より一回り太く、内股になった。

その根本で、股間が怒張し、普通のバナナほどに大きくなってしまう。あまりの痛さにズボンを脱ぐと、尻が左からボンッボンッと膨らみ、それに吸いだされたかのようにペニスがギュッギュッと収縮し、股の中に消えてしまった。

「あ……はぁんっ」

次に起こったのは、お腹の膨張だった。筋肉質だったお腹が、水を入れられるように、パンパンに膨れ上がっていくのだ。腸ではないどこかに、何かを無理矢理詰め込まれる感覚がする。

「はぁっ、はぁっ」

俺が呼吸するごとに一回りづつ、妊婦のように膨らんでいくお腹。臨月を通り越し、3つ子くらいになる。

《ギュルルルルル!!!》
「んんっ!きゃああああっ!!」

腹部の変化が終わった所で、急に膨らみが吸い取られるようになくなり、逆に、これまでリンゴサイズだった胸のほうが、ヘリウムボンベで空気を封入される風船のように、特大メロンサイズまで、一気に膨れ上がった。当然、ものすごい痛みが走る。

「ふぅっ……」

胸に脂肪を送り込んだお腹の方は、逆にコルセットに締められたかのようにくびれ、いつの間にかムチムチに熟した右足の質量感を強調していた。

《ギュギュギュ……》

そこで、未だに俺の目の前にいた委員長のおっぱいを意識したのが悪かったのか、胸の中に、皿に何かが詰まっていく感覚がし始めた。俺のおっぱいがブルブル小刻みに震え始め、次第にその周期が短くなっていく。そして……

《バイィン!!!!》

乳房が爆発するように拡大し、2倍の大きさまでひとっ飛びした。どゆんどゆんと揺れるそのZカップでも足りないくらいの大きさの双つの肌色の球は、人間の乳とは到底思えないほど大きい。

そこで、体の中が安定し、変身が終わった。俺は、冴えない男子高生から、超乳を持つ牛乳女になっていた。クラス中の人間が、いきなり変身した俺を驚きの目で見ている。

「あなた、その胸……」唐突に、委員長が俺の旨をペタッと触った。その腕でも隠し切れないだろうほどの乳房に、委員長の手はかなり小さく見えた。

「恥ずかしいです……っ」そんなに色気を出す気はなかったが、自分でもドキッとするような甘い声が出てしまった。俺は、いったいどんな女になってしまったのか。この胸でもまんざらでない俺は、どこか頭のネジが飛んでしまっているのだろう。

「あ、ご、ごめんなさい……と、とりあえず私のジャージ貸してあげるから、ほ、ほ、保健室に、い、行って来なさい」

委員長の声がかなり震えている。それでも俺に助け舟を出してくれるのは、さすが委員長といったところか。って、そんな冷静な分析してる場合じゃなかった。周りに見られている。でも、そこまで問題じゃない気が……

「ほ、ほ、ほら、ジャージ!着なさい!」委員長がジャージを差し出してくれる。この肉体美をジャージの中に詰め込んでしまうなんて、もったいない。そんなこと絶対おかしいのに。

って、俺は露出狂かよ!?

一瞬、気が触れていたようだ。変身のショックで、思考回路がパンクしていたんだろう。さっさとジャージを来て、この場から立ち去らなければ。

「って、すごくきつい」胸のサイズが特に合っていない。襟からもはみ出て、今にもジッパーが飛んでしまいそうだ。乳首の形も服の表面に浮き出てしまっている。

「うるさいわね!……よかったじゃない、憧れのおっぱいが手に入って」委員長に、意地悪を言うくらいの余裕が出てきたようだ。俺は言われるがままに、保健室へと向かった。

「あなた、本当に男?」事情を説明した後に、保健室の女性校医に言われた一言目がこれだ。

「ええ、間違いなく……今日の朝まで、男でした」こんなことを、誰がどう見ても女の生徒に、しかも証拠のために出した学生証に写っている顔と共通点が何もない間抜けじみた爆乳女子生徒に言われても、誰も信じないだろう。

「そうなの……じゃあ、試しにこれを飲んでみて」

信じられないことに、俺が男だと信じられた。なんてことだ。それに校医は、俺に白い錠剤を渡した。俺の女性化の原因に、心当たりがあるっていうのか?

「ほら、水」
「あ、はい」

ゴクリ。錠剤が喉を通り抜けていった。と、体がぽぉっと熱を帯び始め、胸が縮み始めたかと思うと、数秒で俺は元の姿に戻った。

「ふーん、やっぱりあいつがやったのね」校医は俺の変化をて、うん、と何かに確信を持ったようだ。

「あいつって?」「私の兄よ」

世界って狭いなー。俺を女にした男が、校医の兄だなんて。そんな馬鹿げた話があるか。

「とりあえず、あいつの処置を受けた以上、元に戻る術はないわ。私がケアしてあげるから、大人しく女の子になることね」

どうやら俺は、後戻りできないらしい。ハァ……と、ため息をつくしかなかった。

侵食するカラダ

『簡単に性転換できるところがある』

そう聞いた俺は、興味本位で練馬区の「診療所」に向かった。西武線の駅に近いそこは、着いてみるとただの賃貸アパートのような建物、というより本当にアパートだ。思っていたとおりガセかと思ったが、入口の一つに「性転換はこちら」というシュール極まりない案内の紙が貼り付けてある。

「さて、どんな釣りなんだ?」ドアの取っ手を握ろうとしたとき、女子高生が中から出てきた。内気そうなその子は俺のことに気づくと、小さな声でささやきかけてきた。

「本当に女の子になっちゃうから、気をつけてね」

俺はあっけに取られた。こういうことを言うってことは、こいつは元々男だってことか?確かに、きている服はチェック柄のワイシャツにジーパンと、典型的なオタクと一緒だ。しかもサイズが全然合わず、『私は元オタクの男です』とその姿だけで俺に主張しているようだった。

しかし、そんなこと、男が女になるなんてこと、実際に起きるわけがない。俺は気を取り直し、女子高生を鼻であしらった。「フンッ、こけおどしだろ?」

その言葉を聞いた彼女は、明らかに不満そうに俺を睨んだ。「そう、それならそれでいい……」独り言のように呟くと、そいつは踵を返し、駅の方に去って行った。

俺に女性化願望がないわけじゃない。でも、それは単に異性の体でしかできない体験をしてみたい、レベルの願望で、別に男のままでも問題はないのだ。それでも、その弱い願望が俺にここまで足を運ばせたのだ。俺は意を決して、アパートの扉を開いた。

「いらっしゃい、我が診療所へ」すぐに、柔らかく優しい、いわば紳士的な男の声に迎えられた。不気味といえば不気味だが、俺は包み込んでくるようなその声に、自然と答えを返す。

「あの……女になれるって聞いてきたんですけど」

少しの沈黙。なんか恥ずかしくなってきた。人の前で女になりたいと言ったことなんて、初めてなのだ。だが、玄関先に白衣をきた背の高い中年の男性が微笑みながら出てきて、見当違いのことを言ったのではないと、ホッとすることができた。

「その通り。さあ、奥へいらっしゃい。順番待ちになるけど、それでもいいかな?」

順番待ち?そんなにここは有名なのか?と中へ入ると、トイレらしき小部屋につながるドアがついた広めの和室に、敷布団が何枚か敷かれ、合宿所のようになっている。だが、何よりも俺の目を引きつけたのは、壁際に貼り付けられたようにおかれている装置だ。小さめの冷蔵庫くらいの大きさのそれには、真ん中に操作盤らしきタッチパネルが取り付けられ、その他は電源ボタンと、タッチパネルの上にカメラのレンズのようなものがついている。そのレンズは何かを撮るのではなく、逆にそこを覗き込む構造になっているようだ。

「お待たせ。それで、どういう女の子になりたいのかな?」

その言葉は、俺ではなく、すでに装置の前に置かれた丸いすに座った男に掛けられていた。男、といっても、服を脱ぎ、さらけだされた上半身はかなり丸っこい。女性ホルモンでもやっているのかと思うくらい、印象が柔らかいのだ。それだけに、男が発した声には腰が抜けそうなほど驚いた。

「声が高い、小柄な子になりたいです」その声は、信じられないほど低かった。それに、よくみてみると腕からは大量の毛が生えている。体の大きさも俺とそんなに変わらない。やっぱり、れっきとした男だった。

「それでは……」白衣の男は操作盤をぽちぽちとタッチして操作し、男にそれを見せた。「これでいいかな?」

先生が、男に聞くと、男はコクリとうなずいた。すると今度は先生は俺を見た。「じゃあ、あとに入ってきた君、少し外で待っていてくれないか?」

「え?」なぜ、俺を追い出さなければならないんだろうか?やっぱり、ガセネタなんだろうか?そういう考えがすぐに出てくるのは、この装置が女性化するのにはあまりにもちゃっちく見えていたからに違いない。

俺はよほど怪訝そうな顔をしたんだろう。先生はニコッと微笑んで、「心配ない。この装置が出す光が、処置する人以外には少し有害なんだ。なに、数分で呼びに行くから」と優しく言った。そんな言葉くらいでは、これがホンモノだと納得することはない。だけど、俺は結局その場を離れ、アパートの外で待つことにした。

冬も近づき、肌寒い。つい最近まで聞いていた虫の声も、すっかり鳴りを潜め、大通りから遠いこともあって、風の音しかしない。やることもない俺はスマホを取り出し、友達とメッセージを投げ合う。その間、アパートから誰も出てくることはなく、近くを軽トラが走っていくことくらいしか、俺の周りに人がいることを感じさせることが起きなかった。

そういう状態になると、いろいろ自然と考えてしまうのだが、今自分が面白半分でやろうとしていることが、どれだけの影響をこれからの人生に及ぼすのか、それが気になった。女になれば、人生が変わるんだろうか?これまで、普通の男……学園祭で女装は一回だけしたことがあるけれど……ただの男として生きてきたし、将来の設計もそれが続く前提で行ってきたのだ。女性になればそれが根底から崩れることになる。

じゃあ、なんで俺がこんな話に乗って、時間を書けてここまで来たのかというと、今の人生がつまらない、という一言に尽きるだろう。要は、人生の転機が欲しいのだ。顔はあまりぱっとせず、勉強があまりできるわけでもない。このままだと、あとすこししか残っていない学生生活も、華がなく終わってしまう。何か大きなことを自分でするのには時間がなさすぎる。そこに、この話が転がり込んできたのだ。

ただ、そこまでして、本当に大丈夫だろうか?

「あのー?」俺の考えは、少女の高い声によって途切れた。

「うおっ!?」あまりに急だったから、大きな声をだしてびっくりしてしまった。その子は、アパートの扉の影から俺のことをじっと見ていた。結構小さい子だが、その様相に幼さは感じられない。こんな女の子が、俺に何の用……って、ちょっと待てよ?

「まさか、椅子に座ってた……」俺が聞くと、その子は顔いっぱいの笑顔を俺に見せた。

「そうですよ!ボク、女の子になったんです!」

頭にガッツーンと打撃を食らったような衝撃。手術は、本当にホンモノなのか?さっきまで、それがホンモノであるということ前提の思考をしていたはずなのに、その事実に、茫然自失としてしまう。

「どうしたんです?ほら、あなたの番ですよ!」

それに構わず、女の子は俺を部屋の中に引き入れ、自分は外に出て、お辞儀をした。

「あなたも、『望んだ姿』になれるといいですね!」

そしてそのまま、扉を閉めた。

『望んだ姿』。

俺、どんな女の子になりたいんだ?そもそも、本当に女になってしまっていいのか?

いや、待て待て、俺。考えろ。どうせ、部屋の中にもともとあの子はいたんだ。男が変身したように見せかけるために、俺を追い出して、入れ替わったんだ。そうさ。そうに決まっている。……いや、もしそうなら、なんで俺のためにそんなトリックを……

「……どうしたのかね?」

突然、背後から先生の声がした。俺はビクッとして、振り返る。そこには、大柄で、俺を包み込むようなオーラの、男が、いた。いや、どうみても先生だが。

「なんでも、ないです」なんとか、言葉をひねり出すと、先生は相変わらずの微笑を浮かべる。「そうか。では、君の番だ。上の服を脱いで、装置の前の椅子に座ってくれたまえ」

言われたとおりに、先生に続いて、部屋に入り椅子に座ると、俺の目の前に立った。

「この装置の説明をさせてもらおう」先生は唐突に説明を始めた。「この装置は、君の細胞すべてのDNAを不安定にさせた上で、書き換えるものだ」

DNA。デオキシリボ核酸。細胞核の中にあって、細胞分裂の際に、細胞の雛形になるものだ。つまるところ俺の設計図、というわけだ。というのを、最近勉強した。それを書き換えるということは、やっぱり俺の体は今のままではすまないだろう。

「まあそれだけでは体の形が変わることはないから、成長ホルモンや女性ホルモンを分泌するよう、脳に司令する機能もある。画期的だが、医療界には完全に認められていない」

「え……」俺は、違法手術を受けようとしているのか!?というより、今聞いた機能は、こんな単純な機械じゃ、到底出来ないような芸当である気もする。それに、本当の性転換手術は、メスやらなんやらちゃんと使う外科手術であるというイメージがある。

「ふふ、驚いたかね?だがね、これまで失敗したことは、一回もない。千人以上の男子を、女子に変えてきて、一人も失敗したことはないのだから、君が最初の失敗例になるなんていうことは、ほとんどあり得ない。さて聞こう。君はどんな女性になりたいのかな?」

先生の目が、俺の目を凝視する。不思議な輝きを持つその目から、何かが入ってくるような気がするくらい、まじまじと見られている。どんな女性になりたいか、だって?

「お、俺は……胸がとんでもなくでかくて、金髪ロングで、でも背は今より少し低くて……」俺は、俺の好みをつらつらと言葉にすることにした。先生はフムフムとうなずきながら、メモを取る。「足も綺麗で尻も出てて、でもウエストはキュッと絞まってる、そんな女の子になりたい……」

「それだと、周りから浮くことになるが……金髪は高校じゃもう廃れてるだろう?」先生の言葉が、グサッと刺さる。現実的なアドバイスであっただけに、相手が本気なのが完全に分かったからだ。「だから、黒髪の方がいいと思うがね」

先生は、微笑んだままだ。俺は無理な注文を言って、ボロを出させるつもりだったが、その気配は一向に感じられない。

「分かりました……」俺は、最後の手段にでた。「それで、料金の方は……?」もしこれが詐欺なら、カネのことを聞けば、ウン万と言ってきて、俺の払えるギリギリを狙ってくるに違いない。

だが、その思惑は外れた。

「160円だ」

160円。それなら財布に……って、ペットボトルジュース一本分と一緒だぞ!?そんな安価で、こんな大掛かりなことできるか!?逆に疑わしいぞ!

「あの……」しかし、そのことを指摘しようとした俺は、先生の瞳を見て、言葉を出す気をなくした。別に、熱意に感動したとか、あまりの存在感に恐怖したとかでもない。単に、言葉が出なくなったのだ。

「なんだね?」

「いえ……」素直に、財布から百円一枚と五十円一枚、それに十円一枚を取り出し、差し出された先生の手に渡した。

「ふふ、本当は無料なんだがね……君は私のことを疑い過ぎだ。これくらい受け取っておかないと、信用してくれないだろう?さあ、いよいよ始めようじゃないか」

先生は、操作盤をポチポチと操作する。よく見ると、スリーサイズが120-65-90、身長が150cmに設定されている。しかし、分かったのはこれだけで、後はよく分からない番号や記号が並べられて表示されている。

「よし、設定完了だ。レンズを覗き込んでくれ」

俺は、指示通りにする。レンズの向こうは、真っ暗だ。

「では、開始!」

《ピカッ!!》

レンズの中から、目が潰れそうなほどの光が、俺を襲った。その瞬間、全身が激しく振動するような、強烈な感覚に襲われる。

「うぉぉおぉっ!!!」
《ボコボコボコボコッッ!!!》

肌を見ると、そこらじゅうが膨れたり凹んだりを繰り返し、腕の毛を見ると、肌の中に引きずり込まれるように、短くなっていく。そして、指先から手のひら、腕へと、肌の色が抜けていく。まるで、俺の腕が何かに置き換えられていくかのようだ。

《ドクンドクンドクンドクン!!!!》

心臓も痛いほどに大きく、そして速く鼓動し、全身を血液が駆け巡っているのが感じられる。不定型になっている俺の体は、大胸筋がとんでもなく大きくなったかと思えば姿を消したり、腹筋が割れるほど発達したかと思えば、脂肪だらけの膨らんだ腹になったり、一体何になるのか分からなくなっているほどに、変形に変形を重ねていく。

「そろそろ、完全に元の形を失った頃だ。これから理想の形に近づいていくぞ」

これまで変化のなかった、胸板についている2つのポッチが、ブクッと膨らんだ。と同時に、体中から左胸に何かがジュルジュルと流れていき、皮膚を水風船のように無理矢理に押し上げる。最初、リンゴサイズまでゆっくり膨らんだそれは、次には鼓動に合わせてブクッブクッと膨らむ。衝撃に耐えながら手で触ってみると、手の方は皮膚の中で何かがジュクジュクと出来上がっていく感触が伝わり、胸の方は何かに圧迫される感じがある。左胸の方も、右胸に遅れながら着実に膨らんでいく。

《ブルンッ!ブルンッ!》

膨らむごとに揺れるそれは、俺の目から下半身を隠していく。その有様に気を取られていたようで、髪はいつの間にか伸び、俺の視界の中に入ってきた。

「これが、俺の……髪……?」髪を手の上に乗せると、サラサラと滑り落ちていく。その手も、筋肉がすっかり落ち、スベスベとした細いものに変わっている。

《ガキッ!!》

「うっ……」肩の方まで目を写したとき、肩甲骨のサイズが一挙に変わり、肩幅が一回り小さくなった。その肩を撫でて、変化を体感していると、今度は尻のほうが熱くなってきた。

《ゴキゴキゴキッ……ビキキッ!!》

腰を触った途端、骨盤の形が変わり始め、大きく広くなっていく。メロンほどになった胸のせいで前からは目で確認できず、体を捻って何とか目視すると、ズボンが広げられている。次に、胸と同じように尻に何かが流れ込む感覚が伝わってくると、ズボンはさらにパンパンになり、丸い膨らみの形が外に押し出されていた。逆に、ウエストはギュッと絞られていく。

「んんっ……!!」俺の声も、2オクターブくらい高くなり、完全に女性のものだが、それよりも、股間から何かが吸い出されている。とっさに股をおさえると、これまで大切に育ててきたものが、体の中に引っ込んでいく。そして、下腹部に何かができあがっていく。女性にしかない器官、子宮だろう。これで、俺は晴れて子供を身ごもれる体になったわけだ。全然うれしくないが。

ズボンの上から、脚を触ると、ほどよく筋肉は付いているが、柔らかくムチムチとしたものになっている。

「終わったみたいだね」先生に言われて、椅子を立つ。そして鏡を見ると、思い浮かべた通りの理想の女の子が前にいた。モチモチとした胸を手に乗せてみると、ムギュッと歪んで、目からも手からも柔らかさがいやというほど伝わってくる。

「どうかね?」

「すごい……です」はっきりいって、めちゃくちゃ可愛い。鏡の前でポーズをとりまくったあと、俺は、とりあえず帰ることにした。

服を着ようとすると、胸の先端が擦れて、経験したことのない刺激で気がおかしくなりそうだったが、何とかこらえた。それにしても、ジャケットを着た時点で、胸の膨らみが大きく前に押し出されてしまい、服がパンパンになって、恥ずかしい格好になった。

「今日は、ありがとうございました」「お元気で」

先生と挨拶を交わし、診療所を後にした俺だった。