覚醒の夢(仮) 序章

高層ビルの屋上に、二人の人間の影があった。少女と、黒いローブを羽織った、見るからに悪党が睨み合っている。
「魔法少女ナッツ!貴様もこれまでだ!」
「愛と正義の力、見せてあげるんだから!」
少女の名は魔法少女ナッツ。本名は古町 菜津葉(ふるまち なつは)。普段は普通の小学生だが、その正体は街を襲い来る魔人から守り抜く、正義の味方だ。

「フハハハ!強がっていられるのも今のうちだぞ!」
真剣な菜津葉に対して、悪党の方は余裕しゃくしゃくといった様子だ。ニヤける敵に、菜津葉は全力を魔法のステッキに込め、叫んだ。
「えーい!アイスフリューゲルス、ルミナスツーク!悪よ!滅び去れ!」

キュピィィッ!シュバッ!!

強い光を発した菜津葉のステッキから、強力な魔法が解き放たれる。――彼女の必殺技だ。これで、悪党は成敗される……

だが、迫りくる光の塊を見た悪党の表情は、急に冷めたものに変わった。

「ナッツ……いや、菜津葉よ。我の力を鍵とし、その力を覚醒させよ」

急に声音も渋く低いものに変わった悪党は、難なく魔法を自分のステッキに吸わせ、代わりにどす黒いオーラをまとった魔力を、菜津葉に向けて放った。
そして黒い魔力が、反撃も防御も許さず、菜津葉の小さい体に襲いかかる。

ドガァァン!!

「きゃぁっ!」
魔力は、菜津葉の体を破壊するのではなく、その中に染み込んでいく。否応なく同化し、菜津葉の存在そのものを作り変えていく。そして、体の中で心臓から一番遠い部分、手足から、変化は始まった。靴が一瞬で破れ、中から出てきた足は、メキメキと音を立てながら元の十倍くらいまで大きくなり、手も同様に形を保ったまま大きくなる。

「なに……これっ!」
「ふふふ、成功のようだな。では菜津葉、さらばだ。再びの邂逅、心より待っているぞ」
悪党は、菜津葉の変化を見て満足そうに笑い、消え去る。クッ……と苦い顔をする菜津葉。

体に対して大きすぎて持ち上がらないはずの手足は、しかし、軽々と動かせる。

――菜津葉は薄々気づいていた。これが、自分の夢の中の話であると。夢なら、何が起こっても大丈夫だと。

そのうちにも、スネやモモも成長を始め、足と同じくらいのスケールに成長する。ここまで来た時、別の種類の変化も始まっていた。幼いままだった足が、長く、細く伸びだし、サイズも一回り大きくなる。手も、丸っこいものから、指がすぅっと伸び、全体に長くなる。菜津葉は、巨大化するとともに年齢的な意味でも大きくなり始めていた。

「私、どうなっちゃうの……!?」
夢とわかっているなら、起きようとすれば起きられる。だが好奇心からだろうか――菜津葉はその夢を見続けることにした。大人になって、誰よりも大きくなった自分は、どんな感じなのだろう――そんな、純粋な好奇心だ。

次に大きくなったのは、頭を除く胴体の部分だった。風船のように、菜津葉の上半身がむくむくと大きくなり、服をビリビリと引き裂いていく。今度も、それと同時に四肢が成長する。地響きのようなゴゴゴゴという音ともに、脚は更に2倍に伸び、ムチッと脂肪が付いて、体に起伏が増えていく。腕もすぅっと伸び、およそ幼児体型の胴体とは全くバランスがとれていない。頭に至ってはその13mくらいになった体に比べたらただのイボレベルに小さかった。

「後は頭……?うぅっ!」
最後の仕上げとばかりに、頭が風船のごとく膨らむ。それと同時に、背骨の節々一つ一つがゴキゴキと音を立てて成長し、上下に引っ張られたウエストにくびれが生まれる。へそも細く上下に伸び、女性特有の曲線美が生まれる。乳腺の発達も促進され、さらけ出されていた乳首がプクッと膨らんだかと思うと、胸全体が盛り上がる。そしてすぐに脂肪も付き、元の大きさならCカップくらいの、健康的なハリのある乳房が形成された。太ももに隠れてしまうくらいだったヒップも、大量に脂肪がのり、プルっと膨らんだ。

「ちょっと、小さいかも……?」
自分の胸を勘定する間にも、顔は少し縦に伸び、凛としたものに変わる。髪も少し伸び、背中を覆った。これで変化は終わりのようだった。菜津葉は、小学生の体から、巨大な高校生の体に成長していた。が、母親のものに比べて自分の乳房が小さいことに、少し落胆を覚えた。実際はそんなことはなく、ほぼ同じだった。しかし夢の外、小学生である菜津葉から見た母親のそれは、自分が小さいことで起きる錯覚で大きく見えていた。

「もっと、セクシーになりたい!」
セクシーさのかけらもない発言だったが、ここは菜津葉の夢の中。その願いはすぐに叶えられた。乳房がプルッと揺れると、ムクムクと膨らみ始めたのだ。菜津葉の視界を、徐々に肌色の塊が占領していく。手で触ってみると、純粋な柔らかさが伝わってくる。

「じゃあお尻も……?」
菜津葉は体を後ろにそらし、視線を動かす。その先では、ヒップがムギュッと、爆発するように大きくなった。

「すごいっ!」
唐突に現れた鏡に、自分の姿を映す。設定がいつの間にかなくなっているのは夢に有りがちなことだ。体全体の巨大化はなかったことになっていた。

そしてそこには、母親のものをもっと若くしたような顔と、いつかどこかで見たグラビア雑誌のモデルより一回り大きな体を持った女性がいた。

「あはははっ!これが大人の私ね!」
体のメリハリを強調するポーズを取る菜津葉――

――だが、そんなポーズの必要はないといわんばかりに、胸の成長は止まっていなかった。

「……うそっ……やめて、止まってっ!」
それに気づいた菜津葉がギュッと抑えてももう遅い。乳房は非常識なサイズにまで膨れあがり、そして、今になって重力を思い出したように、ズシッと菜津葉に重荷としてのしかかった。

「……重っ、ひゃっ」
前にバランスが崩れたはずなのに、仰向けに地面に倒れる菜津葉。だが、胸はどんどん膨らみ、菜津葉の肺を圧迫する。
「いき、くるしい……しん、じゃうっ」


「菜津葉ー?起きなさい、もう朝よ!」
「はぁっ、はぁっ、ゆめ、かぁ」
夢なのは、最初からわかっていたのだが。胸の上に、飼い猫のシオンが居座っていた。息苦しさの原因はこれだったらしい。

「こら、シオン、どいてって」
飼い猫をどかし、ベッドから立ち上がる。いつもどおりの朝が来たのだ。……が、どうも視界がおかしい。夢とのギャップからの違和感ではない。むしろ、視界が夢と同じなのだ。

「え、なに、これ」
床が遠い。ベッドが小さい。目の前にある扉も小さい。そして、胸の圧迫感が消えていない。

「まさか……」
菜津葉が下を見ると、パジャマを大きく押し上げる何かが胸についている。触ってみると、自分が触られている感触がある。ついでに、腰にも締め付けられているような感触があるのに気づく。見てみると、昨日までは脚全体を覆っていたはずの服が、脚の半分も隠しきれていない。尻の部分はパンパンになり、伸び切ったゴムは今にも切れそうだ。

――そう、夢の中だけではなく、現実でも、菜津葉は成長していた。

「ええええええええっ!!!!!」

菜津葉は、これまでにないほどの大声を上げた。――それが、マズかったらしい。
階段をドタドタと駆け上がってくる音がしてきた。母親が菜津葉の声を聞いて、部屋に向かっている音だ。「どうしたの、菜津葉!!」という、鬼気迫る悲鳴に近い声も聞こえる。

「あ、ママがきちゃうっ、どうしよう、どうしよう!」
菜津葉は逃げも隠れもできず、扉は開かれた。

「菜津葉!」
「ママ!」
成長した姿を見られ、万事休す。と、思われたが――

「何かあったの!?まさか、お尻から血……とか!?」
「え?」
なぜだろう。今の自分の体を見て、なんの違和感も感じないのだろうか?と思って、自分でも体の再確認をする菜津葉。だが、それは、元の小学生のものに戻っていた。

「えっと……なんでも、ない、シオンが変な格好してただけ」
少し苦しい言い訳だったが、菜津葉にしてはよく言ったほうだ。母親もそれで納得したようだ。
「……なんだ、びっくりした。早く降りてらっしゃい、朝ごはん冷めちゃうから」
「はーい」
母親について、朝食の席に赴く菜津葉だった。

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投稿者: tefnen

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