あぶない司令官

綾墨ふらったぁさん(pixiv.me/azflutter)のオリキャラ科奈子さんのSSを許可を得て書かせていただきました。膨乳話です。

ここは、とある艦艇。周辺海域を哨戒するために建造された、半ば基地のような大きな艦で、多数の艦娘が配備されている。

「んー、これと、文月ちゃんのアレを混ぜれば……!」

しかし、前線から遠く離れた海域に留め置かれたこの艦では、敵艦が捕捉されることすら稀だった。配備されているのも、旧型の駆逐艦である睦月型や、神風型くらいのもので、毎日安穏とした時が流れていた。

「よーし、完成ね!これでまた長月ちゃんたちにいたずらできるわ!」

司令室で多数のビーカーやフラスコに入った、怪しげな液体を見つめてニコニコしている女性。長い銀髪をポニーテールにまとめ、大きな眼鏡の奥に見える瞳は大きく紅い。スタイルは良く、ワイシャツやスカートを着込んでいるがそれでも胸や尻の膨らみは明らかに分かるほどだ。ほんわかとした雰囲気からは想像できないが、この女性、その名も科奈子(かなこ)こそが艦隊の司令官であった。

「またか、司令官。懲りないな」
「あら、長月ちゃん。いつの間に入ってきてたの?」
「ノックはしたが?」

すこしムスッとした顔をした緑の長髪の艦娘、長月は、睦月型の八番艦。黒セーラーに身を包んだその体は小柄、というより小学生くらいの子供そのものだが、この艦隊の秘書艦を務めている。

「ちゃんと司令官の勤めは果たしているんだろうな?」
「はいはい、報告はちゃんとしてるわよ。これは余った時間でやってるのよ」
「そうか、ならいいが。遠征任務、完了の報告だ。輸送艦隊は無事に佐世保の鎮守府に到着したよ」
「りょーかい。ねえねえ長月ちゃん、そんなことより、私の……」

科奈子の言葉を、長月は顔色を少しも変えずに大声で遮った。

「あー!補給の確認をしてほしいから少し一緒に来てくれ!」
「わかったわ。長月ちゃんと一緒ならどこだって……」
「さあ行くぞ!」

科奈子も、長月に発言を中断させられるのには慣れているようで、互いに深い信頼関係を築いた二人だからこそのやり取りとも言えるものだった。

「あ、ちょっとだけ待ってくれる?5分くらいかしら」
「そうか。まあ、それくらいなら問題ないぞ」
「終わったらすぐ戻るから!」

長月は少し嫌な予感がしたが、司令室で大人しく待っていた。これまで科奈子が致命的な問題を犯したことはなかったからだ。5分後、言った時間通りに科奈子は戻ってきた。

「じゃ、行きましょ」
「あぁ」

二人は、艦娘が補給を行う部屋に向かって、並んで歩いていた。科奈子の方が幾分背が高く、歩幅も大きいので長月が少し早歩きになるのがいつもの事だった。

「あの……なぁ、司令官。なぜそのフラスコを持ってきたんだ」
「フラスコ?あぁ、置いてくるの忘れちゃっただけよ」

科奈子の左手には、三角フラスコが握られていた。中には茶色の液体がたっぷり入っていた。

「フタもしてないじゃないか。落として中のモノをかぶりでもしたら……」
「大丈夫よ、人体に危険はないから」
「まあ、たしかにな。この前私に、その日の間、私の声が文月のものになるとかいうキテレツなモノを飲ませてくれたが、副作用は全く無かった」
「でしょ?あ、菊月ちゃん。久しぶりね?どうしたのその格好?」

長月と同じ長髪、だが色は銀、睦月型九番艦の菊月が、前の方からすれ違うように近づいてきていた。セーラー服がぼろぼろに破けていて、胸から上などは肌がさらけ出されていた。

「司令官……それに長月。……漁船と衝突した……」
「あら?いつもおとなしい菊月ちゃんがぶつかっちゃったの?」
「ああ、その時は少し天気が怪しくてな、菊月は雷に気を取られていたんだ」
「うぅ……すぐに着替えてくる。補給はその後」
「はーい」

菊月はスルスルと静かに更衣室の方に角を曲がって向かっていった。この時、菊月を見送る科奈子の顔が不気味なほどにこやかなのに、長月が気づいた。

「お、おい……さっき5分待てと言ったのはまさか……」
「わぉ、さすが長月ちゃんね」
「はぁ……」

長月は大きく溜め息をついた。少しの間待っていると、更衣室の方からドタドタと走ってくる音が聞こえてきた。

「お、戻ってきたか……な、何だ、あれは」
「ふふっ」

走って二人の方に駆け寄ってくる菊月のはだけた胸に、ゆっさゆっさと揺れる何かが付いている。それが菊月の乳房であることに気づくのに、少しも時間はかからなかった。

「き、菊月……」

数分前にはまっ平らに近かった菊月の胸についた、たぷんたぷんとゆれるおっぱいに目を丸くする長月。菊月は、科奈子をキッと睨んだ。

「司令官……!貴様、何か、アレに入れたな……?」
「菊月ちゃんも、女の子ね。甘いものに目がないんだから」
「くっ……遠征疲れのせいだ」
「まあ、そうね。それに杏仁豆腐なんてこの艦じゃ珍しい物だし、あんな所にあったら私でも食べちゃいそうだわ」

長月は、少し面食らっていたが、大体のことが飲み込めたようだ。

「……つまり、司令官は更衣室にあの薬品を混ぜた杏仁豆腐を置いておいたと。それで、菊月は誘惑に勝てずにそれを口にしたわけだな?」
「そうだ……そうしたらこんなことに」
「まあまあ、二時間すれば元に戻るから、その間は休んできたらどう?」

菊月は、元に戻るという言葉を聞いて、少しほっとしたようだ。

「……不本意だが」

そして、すごすごと浴場へと向かっていった。それを見送った科奈子と長月は、他の艦娘が待つ補給部屋へと足を進めた。

「ほんと、あの手のいたずらが好きだな、司令官は」
「だって、みんな食べちゃいたいくらいかわいいんだもの」
「ま、なんでもいいさ。だが、そのフラスコの中身だけは落とすな……うわぁっ!」
「きゃっ!」

突然、艦が大きく揺れ、二人はバランスを崩してその場で倒れてしまった。

「いったたた……。大波か……司令官、大丈夫か?」
「あー、怪我はないけどね、お薬が……」

科奈子が持っていたフラスコが、床に転がっていた。そしてその中身は……

「私にかかっちゃった」
「はぁ……こうなる予感はしてなかったわけでもないが」

科奈子のワイシャツはびっしょりと濡れている。

「だが、口から入れなければ効果はないんだろう?」
「そう思うでしょ?実はちょっと皮膚に付くだけでもいいのよ……だから……」

科奈子が自分の胸の膨らみを「ほら」という感じに見ると、それは、ギュッと一回り大きくなった。

「おっぱいが熱くなってきちゃった……こんな発熱作用、ないはずなんだけど」
「おいおい……」

さらにギュッギュッと大きくなる胸は、次第にワイシャツの中を満たした。下着のホックがビチッと壊れる音がすると、シャツの縫い目がプツプツとほつれていく。

「んんっ……ちょっと、強く作りすぎちゃった、かしらっ!」

見る見るうちに、ワイシャツのボタンの合間から肌色の塊が溢れだし、ボタンが左右に引っ張られていく。長月はこの状況を何もすることもできず、というか何かしようともせず、蔑むような視線を向けるだけだった。

「んあっ!」

ついに、ブチブチィッ!とシャツのボタンが吹き飛ばされ、バインッ!と科奈子の肥大化した乳房が飛び出した。

「重たっ!でも、もっと大きくなっちゃうっ」
「ふっ、自業自得だな」

ムクムクーッと膨れていく二つの柔球は、もはや科奈子の頭と同じくらいになっていたが、その膨張の勢いは止まるところを知らないようだった。

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「もったいないわ、長月ちゃんたちにいっぱいいたずらできたのに……」
「私はそんないたずらはお断りだ」

自分の胸の重みで、立ち上がることすら難しそうな科奈子を、腕を組んで見下ろす長月。だが、科奈子がニコッと長月に笑みを見せると、ビクッとたじろいだ。

「な、何だ……」
「長月ちゃん、あなたの靴下、ちょっと濡れてると思わない?」
「それがどうした……あっ」

長月が自分も薬品をかぶったという事実に気づくと同時に、その小さな胸が、グググ……と大きくなり始めた。膨らみかけだったそれは、ぐんぐんと脂肪を蓄え、服の中でフルンフルンと震えながら成長していく。

「ちょ、ちょっと司令官……!私の胸、おっきくっ……!」
「いたずら大成功ね!」

もはや赤ん坊が入っていてもおかしくないような大きさの乳房にのっかかりながら、科奈子はガッツポーズを決めた。

「ふ、ふざけるんじゃないぞぉっ!!」

艦全体に、セーラー服の中がおっぱいで一杯になった、長月の怒声が響き渡った。

一方その頃、補給部屋では睦月、如月、皐月、三日月の4人が机に座って、補給を待っていた。

「長月ちゃんも菊月ちゃんも、遅いにゃあ……」
「そうねぇ、この杏仁豆腐、ちゃんと人数分あるのにね」

その机には6つ、杏仁豆腐が入った器が並べられていた。

「妖精さんたちが持ってきてくれたデザート、美味しそうだよね!」
「うーん、何か怪しい気もするけど」

4人は杏仁豆腐をじーっと見つめていたが、ついに一番艦の睦月が、杏仁豆腐に添えられていたスプーンを手にとった。

「もう我慢出来ない!いっただきまーす!」
「ちょ、ちょっと睦月ちゃん?」
「もう1時間は待ってるし、先に食べたくらいで長月ちゃんや菊月ちゃんは怒ったりしないって!」
「まあ、それもそうね……よし、先に頂いちゃいましょう」

4人は手を合わせ、「いただきます」と言ってからスプーンを取った。そして、久しぶりのおいしいデザートを思う存分味わって食べ、あっと言う間に皿を空にしてしまった。と、その時だった。補給部屋の扉が、バァンと音を立てて勢い良く開いたのは。

「待たせたな!」
「な、長月?」

皐月が目にしたのは、たぷんたぷんと揺れる肌色。持ち主である長月の幼い体に不釣り合いな大きなおっぱいだった。

「ど、どど、どうしたの?そ、その、おっぱい!」

三日月があたふたしながら聞いたが、長月は、姉妹たちが座っていた机に置いてある皿にぎょっとしたようだった。

「睦月たち、杏仁豆腐、食べたのか……?」
「あ、ごめんね、でも長月ちゃんの分もあるから……」
「そういうことじゃなくて、胸、なんともないか!?」
「え、胸……?何も起きてないよ……?にゃっ!!??」

睦月が自分の胸を見ると、ぺったんこだったはずのそこには、水風船が二つ入っているかのような大きな膨らみがあった。しかも、それはだんだんとさらに大きくなっている。

「む、むむむむ、睦月、ちゃんっ!!??」
「如月ちゃん、これ、どうしよ……き、如月ちゃん!如月ちゃんも!」
「そ、そういえばブラが段々きつくなってる……っ!」
「ボクも、おっぱいがおかしいよ……」
「私もっ!」

全員が全員、セーラーを大きく押し上げる膨らみに右往左往した。睦月は大きくなった胸を腕で押し戻そうとし、如月は大急ぎでブラのホックを外そうと焦り、皐月は好奇心からか襟から自分の胸を見ようとし、三日月はバルンバルンと揺れる胸にパニックになってそこら中を走り回った。

「あぁー……これは補給どころじゃないな……」

長月は、自分の体にくっついた、巨大なおっぱいを恨めしそうに見た。

「早く元に戻ってくれよな……」

菊月妄想2-1

ここは鎮守府。100を超える艦娘たちが暮らす、兵舎のようなところ。中は多くの部屋に分けられ、大抵は睦月型や初春型など、型式ごとに割り振られていた。
ただ、その中でも睦月型九番艦の菊月はずば抜けて数が多く、菊月専用の部屋、その名も『菊月部屋』と呼ばれる部屋があった。

「では、行ってくるぞ、キィ」
「武運を。イベ」

あまりにも多い菊月を呼び分けるために、あだ名が一人ひとりに付いているのだが、それはともかくとして、一人だけ体格、というか年齢がおかしい菊月がいた。周りは中学生ほどだというのに、その菊月だけは普通の女性の成人よりも一回り大きい。

「キク、足がしびれてこないか?」

先ほどイベと呼ばれた菊月を送り出したキィは、その大きな菊月、キクに膝枕をしてもらっていた。その左薬指には指輪が光り、提督の特別な存在であることと、非常に高い練度の証となっている。

「いや、これくらいのこと……轟沈に比べれば……っ」キクはガクガク震え、特注の制服を大きく押し上げている、豊満に育った胸がプルプル揺れている。
「つらそうだな。もう四時間はこの状態なのだから仕方ないが……」キィはそう言いつつも動かず、キクの太ももに顔を埋め、気持ち良さそうにこすりつける。

「な、なら、そろそろ……」
「却下だ。私に尽くすのは、司令官の命令でもあるからな」
キクの懇願を一刀両断すると、キィはスリスリと顔をこするのを続けた。あと一時間はこれが続きそうだったが、ドアがノックされる音でキィがすっくと立ち上がり、キクは正座の地獄から解放された。

「入っていいぞ」と、ドアに向かって歩きながらキィが許可を出す。
すると、「あ、キィちゃん、あのね」と入ってきたのは、茶髪をポニーテールにまとめた、睦月型7番艦の文月だった。「司令官さんが呼んでたよ。キクちゃんも一緒に来てって言ってたぁ」

「了解した」と、キィはうなずいた。「ほら、キク、行くぞ」

キクは、まだしびれが取れない足をさすりながら、「ま、待ってくれ、う、ううっ……」と呻いたがキィはさっさと出て行ってしまった。

キクはその後1分くらいかかってやっと部屋を出られたが、外には文月がちょこんと立っていた。

キクがつらそうな顔をしていたのを見て「キクちゃん、大変だね」と文月は心配そうだ。
「なに、こんなこと……ところで、なぜ文月は私を待っていたのだ?」
「えっと……自己紹介、まだしてなかったよね?」
首を傾げながら尋ねてくる7番艦に、幼さとあどけなさを感じるキクだった。

「ああ、そうだったな。睦月型9番艦の、菊月だ。昨日付けで、この艦隊に配属になった。よろしく頼むぞ」とゆっくり頭を下げるキク。
「7番艦の文月だよ〜。フミフミって呼ばれることもあるよ」とペコッとお辞儀する文月。「よろしく〜!ねえねえキクちゃん〜」

文月は、後ろに手を組んでキクに尋ねてきた。キクは、文月の好奇心いっぱいの目線に少したじろいだ。

「キクちゃんって、『やせん』、したことある?」

キクは、深海棲艦の魔の手から救われたばかりで、夜戦どころか敵との遭遇すらしたことない。そんなキクには、この質問に対する答えは明らかだった。

「いや、したことはないな」
「そうなんだ。わたし、司令官と『やせん』すると、すごいんだよ!」
「司令官と?」
「そうだよ〜!」

その時、キクの脳裏に、一日前のハプニングがよぎった。キクは体が大きくなったはずみで、キィを押し倒し、あらぬことをしてしまったのだ。そして、目の前の文月は「司令官と『夜戦』」すると、「すごい」と言っている。キクは、この『やせん』と、キィに対して行った行為が同一であるものではないかと疑った。同時に、文月を襲う司令官、いや、司令官を襲う文月を想像してしまった。かわいらしい見た目に反して、鍛え抜かれたテクニックで司令官を押し倒し、要所を手際よく攻めていく文月。

「キクちゃん?どうしたの?」

文月がいつの間にか近くにより、キクの目を覗き込んでいた。キクは心臓が飛び出るかと思うほど驚き、大声を出してしまった。
「ふ、ふみっ!そ、そろそろ行かないと、司令官とキィに叱責されてしまうから、ま、またな!」

逃げ出すようにその場を後にしたキクを、不思議そうな表情で見送る文月だった。

ーーー

「ま、待たせた!」と、キクが司令室に飛び込むと、キィが顔をニヤニヤさせた。
「お、やっと来たか。えー、キクキクでよかったか」と言ったのは、士官の制服に見を包んだ男、間違いなく司令官であった。

「その通りだ……司令官、どこを見ているんだ?私の顔はこちらだ」明らかに司令官の目線はキクの顔の少ししたに向いていた。黒い制服を大きく押し上げる膨らみに、完全に目を奪われていた。「……」しかも、呼びかけには答えずジーッと見つめている。

「コホンッ!」とキィが咳払いをすると、ようやく司令官は反応を見せた。

「ああ、すまない、すまない。しかし、かなり立派な育ち方をしたものだな」司令官はこころなしか興奮しているようで、息が乱れている。
「……任務でないなら、部屋に戻るぞ」キクは呆れてしまい、多少の苛立ちを顕わにした。

「ああっ!私が悪かった!……実はあの杏仁豆腐は戦艦になりたがっていた駆逐艦に渡そうと思っていたものだったのだが……予想以上の効果があったようだ……」キクが司令官に背を向け、出ていこうとしてしまい、司令官はかなり取り乱した。「あっ!ちょっと待って!話を最後まで聞きたまえ!あの杏仁豆腐のおかげで、君は戦艦級の装備を艤装できるようになった。だが、練度は最低、戦果を出すことは難しい」

「……なるほど」
「そう、そこでだ。キクにはキィ、睦月、如月、三日月で編成される臨時第一艦隊で、敵潜水艦を相手に実戦経験を積んで欲しい」
「せ、潜水艦……」今のキクは体が大きくなった分、巡洋艦クラスまでは装備できる魚雷が、逆に積めなくなっていた。つまり単艦では完全に無防備で、潜水艦を相手にするなどもってのほかだ。
「心配するな。キィは練度が高いから雷撃を外すことはないし、その他の三人も信頼に足る駆逐艦だ。キクは敵の状況を確認し、指令を出す練習をしてくれればいい」
キクは不安を感じながらもキィの落ち着いた顔を見て了承した。

「どう、きくちゃん?大和さんからもらった艤装は準備万全?」出撃後、如月がキクに尋ねる。特大サイズの艤装は、全て合わせれば今のキクとくらべても大きい。それをキクは、苦労しながらも操っていた。
「それにしても新人ちゃんおっきいのね!浜風ちゃんとかよりもおっきいんじゃないかにゃぁ?」睦月は、(杏仁豆腐を食べた睦月とは違うもう一人の方だ)ぷるんぷるんと揺れているキクの胸を凝視しながらはしゃいでいる。如月は「やだもう睦月ちゃんたら……」と多少嫌そうな表情を見せた。だが、如月も少し気になるようで、チラチラと胸の盛り上がりを見ている。
キクはその視線から逃げるようにキィの方を見ると、キィは遠くの方を凝視している。海風で後ろに流れる白い髪と凛々しい表情は、昨日見た弱々しいキィとは大違いだったが、キクはつい見とれてしまうのだった。キィもその視線に気づいたのか、一瞬キクの方に目を向けたが、少し口元をゆるめただけで、すぐに索敵にもどった。

「およ?三日月ちゃんどうしたのです?緊張しちゃってる?」

睦月の声に、キクは三日月を見た。三日月は下を向いたままで、ほとんどその黒い髪とセーラーしか見えない。「だ、大丈夫です」という声も細く、震えている。キクは気にかかったものの、練度は高い駆逐艦ということで、気にしないことにした。

「……見えた。十時の方向に、敵潜水艦」

キィの静かだがよく通る声とともに、戦闘が始まった。

環境呼応症候群 風邪の子

子供は風の子、とはよく言ったものだ。2月に入って、俺が住んでいる場所はかなり冷え込んでいるが、外で遊んでいる子供をよく見かける。という俺も、部活やらバイトやらで家の外にいることは多いのだが。

しかし、俺の妹には、子供は『風邪』の子の方がよくあてはまる。病弱な妹は、冬だろうが夏だろうが関係なくよく風邪を引く。俺もよく風邪をうつされたが、俺が微熱が出たりせきが出たりする程度の症状で収まるのに対し、妹はよく高熱を出して、同じ風邪を引いているのに俺が妹を看病することはざらにあった。

ただ、子供、といっても、俺も妹も高校生で、子供と呼んでいいのか分からない年代になった。妹の方は、体が小学生のように小さいので子供に間違われることも多々あるが……この前なんて、家族で外食したときに俺がアイツの保護者に間違われて、帰ったあと八つ当たりにあった。アイツ、体は小さいくせに殴ったり蹴ったりするのはうまいんだよな。

だけど、最近になって妹はめっきり風邪を引かなくなった。学校での早退欠席が日常茶飯事だったのに、少なくとも今年に入ってからは一回も遅刻すらしていない。俺だって月に一回はするのに。そんなことはさておき、妹はそれまでの病弱さが嘘のように消え去り、内向的だった性格が段々と変わってきている。

「兄貴!兄貴ったら!」

兄貴、か。数ヶ月前は確実に「お兄ちゃん」としか呼ばれなかったが、性格が変わったのか何なのか、俺のことを兄貴と呼ぶようになったのだ。病弱だった頃は俺への依存が強かったから、自立してくれるのはありがたい。ただ……

「また私の服を兄貴の汗まみれのくっさいシャツと一緒にしやがったな!?このくそっったれ!」

俺の部屋の扉の外から聞こえてくる妹のセリフは、明らかに汚すぎる。これまでの関係とのギャップが酷すぎるのだ。前だったら、「お兄ちゃんにくっついてると、安心するの……」とか言ってきたくせに!ああ、あの時のほほえみが懐かしいぞ!だが、噂によるとこういう口調で話してくるのは俺だけらしく、他の友達や先生に対する態度は、明るくなっただけであまり変わってないらしい。

そんなこんなで、妹は全く病気をしなくなった……わけではない。風邪を引かなくなった、といったが、それは外から見たときの場合だけで、家の中では立派に病弱娘のままであった。さっきの罵倒も、かなりの鼻声だったし、また風邪を引くのだろう。そうなると、俺には気になることが一つできるのだった。俺は、自分の部屋を出て、妹の部屋の扉をこんこんと叩いた。

「入るぞ?またおまえ風邪引いてるだろ?」
「ああ、いいよ。また兄貴の世話になるね」

妹はすんなり俺のことを部屋に迎え入れる。部屋の中はいつも整理整頓されていて、まるでいつでも誰かを迎えることができるようにしているかのようだ。そして、妹はすこし顔が赤くなり、寒気がするのか厚着をしている。部屋は少し強く暖房が効いている。ボブカットの黒髪は、少しだが汗に濡れていた。

「やっぱり、大きくなってるな」

そして、いつも小学生の高学年程度の妹の体は、年齢に合った、高校生の体に成長していた。いつも見下ろすくらい下にある妹の顔が、頭一つ程度下にあるくらいの高さまで上がってきている。これが、妹に最近起こった変化の原因であった。妹は、風邪を引くと成長する体質を会得したのだ。

「うん、おっぱいも今はDカップくらいになってるかな?」

妹は、厚着の上から自分の胸の膨らみを触って、大きさを確かめた。少し伸びた手にすっぽり収まる程度の膨らみは、少しずつ大きくなっているようにも見える。微かだが、服が押し上げられつつあるように。

「ほんと、もうちょっと風邪を引かないような生活を送ってくれよ」
「うっさいな。頭痛いんだから説教するな!」

妹の息は段々荒くなってきている。ハァハァと胸が上下に動き、そのたびに膨らんでいる。さっき「Dカップ」と言われた胸の膨らみが、完全に外に見えるくらい大きくなっている。と、妹は何を思ったのか、急にその服を脱ぎ始めた。

「な、なにしてんだ!」
「ずっと見られてるのも恥ずかしいんだよ!だから、今日は早めに終わらせる!」

あっという間に、あと1枚脱げば上半身が裸という状態になった。その一枚の下で、リンゴくらいの大きさのおっぱいが荒い息と同期してムクッ、ムクッと膨張している。そして、最後の一枚を脱ぐと思いきや、今度は部屋の窓をバッと開けた。

「お、おい!」

俺は、妹が開け放った窓をすぐに閉めた。だが、妹には外の冷たい空気が相当の効果があったらしい。妹は、そのままベッドに倒れてしまった。ここまで繊細な奴も珍しいが、そんなことより、妹の息がさらに荒くなった。手足からはギシギシと骨がきしむ音が聞こえる。と同時に、目に見えるスピードで妹の体がさらに大きくなり、俺の大きさを通り越して、ベッドの上をいっぱいにしていく。リンゴ大だった胸も、息のせいでフルフルと震えながら、ひとまわりずつ、ムギュッ、ギュギュッと大きくなる。一枚残った服はギチッ、ギチッと破られ始め、中からおっぱいがこぼれだしている。

「おにいちゃん、そろそろだよぉ……」

妹は意識がもうろうとしているのか、ぼんやりした表情でこっちを見てくる。俺がうなずくと、妹は急に大きく「ひゃうんっ!」と嬌声をあげた。すると、いまやメロンの大きさになっていたおっぱいが、バウンッ!と服を引きちぎり、スイカ大まで拡大する。その後も、バインッ!ボワンッ!と2秒くらい間を置きつつも爆発的に大きくなり、そのたびに妹は「きゃうっ!」と大声をあげ、全身をビクンッ!と震わせた。

そして俺は、胸を揉み始めた。決して、性欲に負けて理性を投げ出した、とかではない。多分。これは、妹の風邪を治すために必要な行為なのだ。

「きゃっ、いいよぉっ……!」妹はこれでかなりの快感を感じるらしく、全身の力が抜けてしまうようだ。「もっとぉ……おにいちゃぁん……」

毎度のこと、妹の発する声はそんじょそこらのAVよりもエロい。なんせ、いつもの小さい状態の妹を知っているから、そのギャップがものすごく股間にくるのだ。

「おっぱい、できりゅぅ……」という妹の言葉とともに、胸の弾力が一気に強くなり、乳首が膨らみ始めた。重力で少しつぶれていたおっぱいは、球体のような膨らみに少しずつ形を変えていく。ある程度弾力が強くなって俺が揉むのを止めると、妹は顔を上げ、右の乳房の先っぽを口にくっつけた。俺は左の方に口を付ける。抵抗はないのかと言われると、実はもう何回もやってきたから、そんなに抵抗はない。だが、血流が促進され、あったかくなったおっぱいに口を付けるのは何回やっても興奮するものだ。

「むぅっっ!!!」そして、その口の中が、妹の母乳で満たされ始めた。勢いが強すぎて最初にやったときは喉を直撃して酷いことになったが、今はそれを受け流すことができる。母乳は、とても甘くて、いい香りがする。いつまでも飲んでいたいものだが、俺が口を付けているおっぱいが、しぼみ始めている。この母乳には、妹の風邪に対する特効薬の成分が含まれていて、それを飲むことで妹は風邪を引いてもすぐ回復できるのだった。

体の方も、風船から空気を抜くようにしぼんでいき、高校生、中学生を経て小学生の体へと戻っていく。こうして、いつもの行為が終わるのだった。

「兄貴、もういいぞ」

おっと、口を妹の胸に付けっぱなしだった。特大のおっぱいが付いていた胸には、いまやちょこんと突起がついているだけになった。これが、二週間に一回はあるのだから、兄としても気に病まれるというものだ。

菊月妄想3

体の熱は、どんどん大きくなって、やがて菊月の体全体が燃えるように思えるほどに熱くなっていく。

「はぁっ……はぁっ……」

荒い息をし始めた菊月に、如月が「大丈夫、菊月ちゃん!?」と呼びかけるが、それが聞こえないほどの動悸に菊月は襲われていた。

(煉獄の炎のようだ……っ!)

苦しみ始めた菊月に、窓際に座っていたクゥも、チラチラとこちらを見ている。今の事態の産物は、今は泣き止んでほけーっと菊月を見つめている睦月の体を見れば一目瞭然だ。そして、その『結果』に向かって、菊月の体が変化を始めようとしていたその時だった。

「今、帰還したぞ。ん?何だ、如月も三日月もまだいたのか……」

それは、簡単な出撃を終えてきた(といっても彼女以外は全員大破した)キィだった。納豆は誰かに取ってもらったのか無くなっていた。そして、司令を反故にしてまだ菊月部屋を出ていない如月と三日月を叱責しようとした。しかし、菊月が急にうめき声を上げたのを見て、キィは反射的に菊月に駆け寄った。

「おい、大丈夫か!?この杏仁豆腐で食あたりでも……」
「う、うぅっ!!!」

グイッ!

苦しがって胸を抑えていた菊月の体が、急に縦に伸びた。服が持ち上げられ、へそと太ももが顕になる。目の前で突然大きくなった菊月に、キィは思わず飛び退いた。

「な、何が起こって……!」

ググググ……

体の伸長は止まらず、140cmくらいあった身長が、160cm、165cmと大人の平均身長さえ超えてどんどん大きくなっていく。

「ぐっ……くぅ……っ」

その白い髪は身長に合わせて伸び、腰を覆っていく。今や制服はピチピチになって、スカートはところどころ破けている。靴下の先も、指がだんだん見え始め、太ももにも肉がついて、靴下の張力がつくる谷が大きくなっていく。

「胸が……熱いっ!!」

今まで平らだった胸も、急速に成長が進んでいく。制服を引き裂いて出てきた肌色の丘は、むくむくと大きくなって、10秒くらいたったときにはもうりんごサイズになり、その後も水風船のように膨らむことをやめなかった。

「あわわわ……」と三日月は硬直し、如月は口を押さえて青ざめている。キィは変身をほぼゼロ距離で見せられ、その場で腰を抜かして床にへたり込んでしまった。

「まだ、大きくなるっ……!」

ムククーッと膨張する乳房は、制服をさらに破って、ついにはメロンサイズまで成長してしまった。そして、変身が終わった。

「私は、いったい……」

自分の体の状況を確認しようとして立ち上がると、今まで見えていた世界と全く別のものが見え、狼狽してしまう菊月。それもそのはず、175cmの身長となった今、目の位置は普段に比べて頭一つかそれ以上上にあったのだ。

「き、キクちゃん……」如月は、戦艦でも尻込みするほどのスタイルになった菊月になんとか話しかけた。「す、すごいわね……その体。色仕掛けも、それだったら楽にできるわよ……」

「そう、なのか……?」菊月は、豊満な胸を見、張りのいい尻を触ってみたりした。そして、足元を見ようとすると、これがなかなか胸が邪魔で見えない。菊月はすこし前かがみになった。

「あっ……」その時、キィと目が合った。先ほどの威厳はどこへやら、少し震えながら菊月のことを見上げている。

(キィ……)

その、なぜか急に愛らしく見えた橙色の瞳や、今はついていないはずの納豆の一粒、そしてサラサラとした白い髪が、急に……

「欲しくなって、しまった……」
「な、に……?」

その先の行動は、本当なら破廉恥極まりない恥ずべきことなのに、菊月にはもはやそれが当然に思えた。キィを大きくなった力で押し倒し、服を脱がせ始めたのだ。

「やめ……うっ」

菊月の眼光は、キィを自分のものにせんとする獣のように、キィを圧倒していた。

「キィよ……こういうものは、好きか……?」と、菊月は服を脱がされて露出していたキィの右乳首を、口でつまみ始めた。

「ひゃっ……!」キィは、性にも合わない可愛らしい嬌声をあげ、幼い体には強すぎるほどの快感に溺れてしまった。

「ふふ……練度が高いとは言え、やはり一人の駆逐艦なのだな……」菊月は、今度は乳首を甘噛みした。変身する前には、こんな事が誰かに刺激や快感をもたらすことなど、知りもしなかった菊月だったが、体が自然に動く。

「っ……!きゅっ……」キィは必死に菊月の攻めに耐えているが、目が虚ろになり、手足はビクビク痙攣するばかりだ。

「このまま私のものとなるがいい、キィ……」
と、その時、「だ、だめですそんなこと!」と、三日月が菊月の背中を引っ張り上げようとした。無論、体格差が大きすぎて菊月はびくともしない。だが、菊月はそこでピタッと動くのをやめた。

「三日月……?」キィは、攻めが止まったおかげで意識がはっきりし、助け舟を出した三日月を見つめた。

「キク姉さん、忘れてはいないでしょうけど、私たちは提督の指示に従うことが使命なんです。どんなはずみなのか知りませんが……」と、三日月は菊月をなだめようとしたが、その言葉は菊月に遮られた。三日月の方にスッと向いた菊月が、顎の下をツーっと指でなでたのだ。

「ひゃぅああっ……!」三日月はその場にガクンと膝をついて床に倒れ、そのままビクビクと震えた。「にゃんなのぉ……」

菊月はフッと歪んだ笑みを浮かべた。「やはり三日月はそこが弱いようだな……私はキィが欲しいのだ。心配するな、三日月もあとから……」

「おや?キィは私のものだ。新人のくせに、生意気な態度を取るんじゃないぞ」と遮ったのは、いつの間にかすぐそばにいたクゥだった。

「クゥ……?」のしかかられたままのキィが、困惑した表情でクゥを見た。クゥはニッと口を緩ませる。

「百戦錬磨のキィだが、この鎮守府に加わったのは私とたった1日違うだけだ。それ以来、どんな資源不足も、どんなイベントも、二人で共に見続けてきた」

自信満々に言うクゥだが、キィは困惑したままで、完全に片思いなのは誰の目にも明白だった。

「だから、新人の貴様に、キィをくれてやるものかっ!」
「ひゃぁんっ!」

クゥは菊月に後ろから飛びつき、その胸を鷲掴みにした。菊月は思わず悲鳴を上げた。ただ、キィとは違って、大人の色気というものがたっぷり詰まっていた。

「な、なにをするっ……ひゃぅっ!」

キィの方も仕返しとばかりに、菊月の乳首を覆うように口をつけ、出もしない母乳を欲しがるようにチューチューと吸いだした。そして、牛の搾乳のように手のひら全体を使って、胸を揉みしだいた。

「この菊月は、……はぷっ……貴様らのペットではないぞっ……!」

クゥは尻の方に移動し、破れかけのスカートを引き裂くと、菊月の尻をペシペシと叩き始めた。

「こうも大きいと、叩きやすいものだな!」
「くっ……この菊月、この程度ではっ!!」

菊月はしゃぶられたままの乳房ごとキィに再びのしかかると、その顔を胸で覆い尽くした。

「ひゃ、やめ……ろっ」
「クゥよ、叩くのを、やめないとっ」

収拾のつかなくなった菊月三人に、提督からの制止が入ったのは、その後30分も経ってからだった。

「如月に呼ばれて来てみれば、これは一体どういうことなんだ」
「すまない、私の管理不行き届きだ」

提督の問いただしにすぐに答えたのは、キィだった。ただ、足は菊月に攻められ続けたせいでガクガクと震え、今にも倒れそうだ。クゥは申し訳なさそうにその隣にちょこんと座っていたが、菊月は二人の後ろでビクンビクンと時折痙攣しながら倒れていた。

「司令官、この新人なんだが……今や戦艦クラスの装備も扱えることだろう」
「なに、そこで倒れているのは新人菊月なのか?」

提督にとっては、菊月部屋に来てみたら3人の菊月がプレイをしていた、ということくらいしかわからないのだ。なんせ、如月はいきなり始まった乱交パーティと、助けに行こうとした三日月が一瞬で陥落したことに対応しきれず、提督に助けを求める時も「しれいかん……きくづき……さんにん……たすけて……」と単語を羅列することしかできなかったのだ。

「ああ、そうだ。そこにある杏仁豆腐を食べたら急に大きくなってな」
「そうか。それで、新人が戦艦になれば一緒に出撃できると?」

キィはコクッとうなずく。

「この新人のことが、気に入ってしまってな。多少資源はかさむだろうが、ちゃんと運用してやってくれ」
「ふむ……菊月を主力艦隊で二人使えるのは願ったりかなったりだし……きぃちゃんの願いだ、わかった」
「うむ」

『きぃちゃん』という呼び方に、顔を少し赤らめながら、提督に向けている眼差しはきらめくようだった。

「ただ、その前に……」

提督は、キィの後ろを指差した。最初から倒れていた菊月に加えて、キィが菊月を気に入ったことを知ったクゥが、泡を吹いて倒れていた。キィは呆れたような顔になったが、すぐ提督に微笑んだ。

「きっと司令官も、すぐ新人のことを気に入るぞ」
「ああ、わかってる」

二人の左手の薬指に、同じ銀色の指輪が光った。

菊月妄想2

二人に連れられ、菊月は「菊月」と書かれた扉の前に来ていた。

「お邪魔しま~す」「失礼します」

如月がドアをノックし扉を開け、三日月と一緒に中に向かってお辞儀をし、進んでいった。菊月は少しの不安を感じながら後に続く。

「おお、如月、三日月、補給はできたか」

中では、もう一人の菊月が食事をしていた。献立は、納豆をかけたご飯、味噌汁と漬け物、お茶という質素な物だった。納豆は大粒で、一粒頬にくっついていたがその菊月は気づいていないようだった。

「ちょっと、この新人さんを案内してあげたくってね」「補給はこのあとすぐします」と言う姉であるはずの二人は緊張を覚えているようで、今日「起きた」ばかりの菊月とは明らかに違う態度で接していた。

「新人、か。自己紹介をしてやるか」ご飯を食べていた菊月はお茶を少し飲んで立ち上がり、新人菊月に向き直った。納豆を頬につけたまま。

「私が、睦月型九番艦、菊月だ」その左手の薬指に、結婚指輪が光る。威厳を感じさせる何かが、感じられる。「第一艦隊旗艦、百戦錬磨の駆逐艦……提督に付けられたあだ名は!」

菊月は、ゴクリとつばを飲んだ。ところが、そこまでは淡々と喋っていたその駆逐艦娘は、なぜだか顔を真っ赤にした。そして、少しうつむいて、かろうじて聞こえるくらいの大きさで、ぼそっと言った。

「……『きぃちゃん』……だ……」

場の空気がカチンコチンに凍ったように、菊月は感じた。納豆をつけたままの『きぃちゃん』は、ガクガクと震えながら続けた。

「き、『キィ』と……呼んで、構わない……ぞ……。我々の艦隊に、か、歓迎する……」

戦いでその意思と戦闘技術を磨き、大ベテランであるはずの旗艦菊月が、かわいらしいあだ名を付けられそれを名乗ることを恥ずかしがりながら、なおリーダーとしての役目を果たすのを見て、新人菊月は敬意を感じざるを得なかった。とりあえず、納豆を取ってあげたかった。

「さ、さぁ。新人よ、茶でもどうだ?」と、まだ顔が赤いが新人菊月を直視しなおしたキィは、手で食卓においてある急須を指した。「ほら、如月たちも」

「じゃあ、お言葉に甘えて」「では、湯呑みを持ってきますね」三日月はキッチンにある食器棚に向かっていき、如月と菊月はキィとともに、食卓に座った。程なくして、三日月も三つの湯呑みをお盆にのせて座り、急須からお茶をいれると三人に加わった。

「それで、新人菊月よ。あだ名はなにがいい?」と、キィは真顔で言った。
「あだ名、だと……?」

それは菊月にとって思いがけないことだった。如月と三日月にはあだ名は無いようだったからだ。しかし、考えてもみれば、十人以上いる菊月に、あだ名でも付けなければそれぞれを正しく覚えたり、指揮することなどできない。といって、艦むすとしての基礎知識しか記憶に無い菊月には、自分をなんと呼んで良いのかなど、皆目見当が付かなかった。
一分くらい考え続けていた菊月を、ご飯を食べながら見ていたキィは、少しほほえんで

「思いつかないか。では、キクキクなどどうだ?この名前なら、司令官も気に入ると思うぞ」
「き、キクキク……」

菊月は愕然とした。『きぃちゃん』よりはましかもしれないが、『菊月一号』のほうがまだ良かった。だが、キィの威厳とそのあだ名のギャップを考えると、それくらいの辱めは受けて当然、というのが結論だった。

「い、いいだろう」
「よろしい!では私は任務があるので、これで失礼する。すぐに戻るが、その時には艦隊での指命について教授しよう」
「あ、あぁ、頼むぞ」

キィは、食器を台所に片付けると、悠々と去って行った。納豆は結局顔に付いたままだった。

「じゃあ、私たちは睦月型部屋に戻るわね。早く補給しないと、きぃちゃんに怒られちゃうわ」
「これから、よろしくお願いしますね」

如月と三日月は早々にお茶を飲み干すと、出口へと向かっていった。菊月は手を振りながら見送ろうとしたが、如月が扉を開ける前に、勝手に扉が勢いよく開いた。

「如月ちゃあん!!」と飛び込んで来たのは、長身の戦艦娘のように見えた。しかし、赤みがかった焦げ茶色の髪と、濃い緑のセーラー服が、それが睦月であることを示していた。

「む、睦月むぎゅっ」ただ、回避する暇も無く抱きつかれた如月の顔に、特大の柔らかい何かがが押し当てられた。間違いなく、幼児体型だったはずの睦月は、爆乳になっているのだ。背はかなり伸び、セーラー服からのぞく腰はきゅっと絞まり、顔も若干大人びている。黒いソックスはところどころが破け、太ももがはみ出している。

「睦月、大きくなっちゃった!入渠が終わったから間宮さんのところに行ったんだけど、途中にあったレアチーズケーキを食べたら体が熱くなって、気がついたらこんな感じになってたのね!」睦月は、強く抱きしめている如月がバタバタ暴れて逃げようとしているのにも気づかず、まくしたてた。「どうしよう!装備も合わないし、体が重くて砲撃されてもよけられないにゃ!あ、あれ?如月ちゃん?」

如月は、抱きしめられたままぐったりとしてしまい、腕がだらんと垂れていた。胸に包まれ、息ができていなかったようだ。睦月は如月を抱擁から解放すると、如月の肩を激しく揺らした。

「如月ちゃん!如月ちゃぁん!!」
「如月のこと、忘れないでね……」如月の目は虚ろだった。
「洒落になってない!なってないですよ!!」

「それで、これが睦月ちゃんが言ってたレアチーズケーキね」
「プリンのようにも見えますが……」
「ふむ……」

睦月が泣いている脇で、菊月、如月と三日月の三人は、つつくとぷるんと揺れる食べ物らしきものを見つめていた。

「杏仁豆腐のようにも見えるな。甘い香りもするぞ」

菊月は、見れば見るほど食べたいという欲求が高まってきているのを感じた。

「間宮さんに、聞いてみましょうか?」という三日月も、その食べ物から目を離せなくなっているようだった。如月も、顔に手を当てて考えているようだったが、口が緩み、今にも一口食べてしまいそうだ。その三人に、急に後ろから声がかかった。

「なに、スプーンならここにあるぞ。食べるというのも一つの手だ。腹を壊しても仕方ないがな」

三人は飛び上がって声の主を見た。そこにいたのはもう一人の菊月……というのも、指輪は付けていなかったのですぐに見分けが付いた……だった。顔の右側に、大きめの切り傷の跡がある。

「なんだ、そんなに驚くことは無かろう」その手には、一本のスプーンが握られている。そしてそれは、菊月の方に差し出されていた。菊月は、思わずそれを受け取ってしまった。

「なんだ、よく見てみれば新人か。私は『きくぅ』と呼ばれている者だ。『クゥ』と呼んでくれればいい」平静を保っているが、耳が真っ赤になっているのに、菊月は気づいた。
「私は、『キクキク』らしい」と、菊月はついさっき付けられたあだ名を名乗った。

「そうか。ではキクキク、私は窓辺で本でも読んでいよう。その食べ物の件が片付いたら、少し話をしようか」といって、クゥは本棚に歩いて行った。

「では、一口頂くとするか」

「あ、ちょっと待ってください!」「キクちゃん!!」という二人の制止は、勢いで動いてしまった菊月を止めるには遅すぎた。食べ物は、菊月の喉を通り過ぎ、胃の中に入っていってしまった。

「し、しまった……」菊月の体が、熱くなり始めた。

菊月妄想

少女が目を覚ますと、そこは保健室のようにベッドが並べられた、静かな部屋だった。彼女自身も、その山のようにあるベッドの一つに横たわっていた。木製の枠の窓の外には、青い海と空が遮られることなく広がっている。

「う……私は、どれくらい寝ていたんだ……」薄い金色の、長い髪の少女は目をこすりながら寝床から立ち、それまでの記憶を思い出そうとする。彼女の名前は菊月、それに11人の姉妹がいること。それと、深く、どこまでも暗い海。それしか記憶になかった。

「フッ、情けないものだな……」部屋の出口から出ようと、スライドドアを横に引っ張るが、建てつけが悪いのかなかなか開かない。

「ん、~っ!!な、なんなのさ、一体!」全体重、といっても中学生程度の軽い体だが、その重みを掛けても、扉は開かない。と思ったが、やっと開いた。ただ、開いた理由は菊月自身ではなかった。

「おや、新しい艦か」

扉の向こう側に、白い軍服を着た背の高い男が立っていた。少女は、その人物が自分の上司、司令官であると、他でもない本能で理解した。扉を開けようと四苦八苦したせいで荒い息のまま、菊月は答えた。

「あ、ああ、睦月型9番艦の、菊月だ」
「そうか、では菊月、我が艦隊に歓迎するぞ」

男はそのまま、どこかへと歩き去って行ってしまった。

「司令官、だよな、あの男……」菊月が部屋を出ると、そこは長い廊下になっていた。どうすればいいか分からず、人気がない廊下をテクテクと進んでいくと、ある部屋に「睦月型」と書かれていたのを見て、そこに入った。今度は、扉はすんなりと開いた。

「失礼するぞ……」部屋の中には、お茶の間にしては大きい空間が広がり、低い机が数個、座布団が20個ほど置かれていた。真ん中に置いてある机には、赤みがかった黒髪の少女が昼寝をしていたが、菊月が入ってきたのに気づいたのか、目を覚ました。

「むにゃ……あ、菊月ちゃん。目が覚めたんだね」菊月は、今起きたばかりの少女にそう言われ、目が覚めたのはお前だ、と突っ込みたくなったが、冷静に答えた。

「その通りだ、一番艦、睦月。早速教えてもらいたいのだが……」

睦月は時折あくびをかきながら、睦月の隣においてあった座布団に座った菊月の質問に答えた。菊月自身は、最近あった海戦で奪還された艦であること。ここは鎮守府で、100を超える艦むす達が住んでいること。ただ、その中には「被り」も多いという。

「一体何なのだ、その『被り』というのは」菊月は多少困惑したが、睦月は菊月の様子にキョトンとして、当然のように答えた。眠気も覚めたようだ。

「何って、同じ艦むすが二人以上いるってことだよぉ?睦月だって、もう一人いるのね!」

「そ、それは何とも奇天烈だな」菊月に、悪い予感が走った。自分と同じ姿をした艦むすが、この睦月と同じように一人や二人、いるかもしれない。聞きたくない事実だったが、それを睦月に尋ねる前に、勝手にこの元気な一番艦は喋ってしまった。

「キテレツって、菊月ちゃんはあと……えーっと十人はいるよん♪」

「なっ!?じゅう!!?にんっ!?!?」想像以上の多さに、腰を抜かしてしまう。ドッペルゲンガーどころではない。自分は近く近代化改修の素になったり、解体されたりするのは間違いない。菊月は震えを抑えきれなかった。

「ふ、フッ、この菊月、そのようなことで怖気づくものか……ッ」

「あ、解体とかは大丈夫だと思うよ?ここの提督さん、菊月ちゃんのこと超好きみたいにゃし♪今回も、菊月が増えた!って喜んでたにゃん!だけど……」

解体は避けられると分かった菊月はほっと胸を撫で下ろしていたが、睦月の不安そうな表情にギクッとした。

「だ、だけど?」

「あ、如月ちゃん!おかえり!」その続きは、別の睦月型、二番艦の如月が部屋に入ってきたことによってお預けになった。睦月や菊月とあまり変わらない、中学生くらいの大きさの体にしては、色気のあるサラサラとしたロングヘアとその上に付けられた髪飾り、大人びた表情は子供っぽい睦月とは対照的とすら言える。

「ただいま、睦月ちゃん。あなたは、新しい菊月ちゃんね?」

「あ、ああ……」菊月は『新しい菊月』という言い回しに目眩がしたが、睦月よりも落ち着いて話せそうな如月が来たことで、少しホッとした。

「私は如月と申します。これからよろしくね?」如月はニコニコしながら挨拶し、お辞儀した。菊月も、立ち上がってペコリと頭を下げた。

「ほら、睦月ちゃん、司令官が呼んでらっしゃったわよ。遠征じゃないかしら?」
「あ、あぁ~っ!忘れてた~っ!あの睦月ちゃん、入渠中だったぁっ!」

睦月は、ドタバタと部屋を出て行った。その後すぐに、少し驚いた様子の黒髪のロングヘアに大きなアホ毛が目立つ艦むす、三日月が入ってきた。

「睦月ちゃん、どうかしたんですか?あ、菊月ちゃん、なんでこっちの部屋に?」

三日月は、菊月を見てさらに驚いたようだ。菊月はどうしてそんな反応をされるのか見当がつかず、何も言えない。如月は三日月に近づくと、耳元で何かを囁いた。三日月は「ああ」と納得したような声を出し、先程の如月と同じようにお辞儀をした。

「すみません。少し早とちりをしていたようですね。私は三日月です。一緒に、艦隊のお役に立てるような活躍をしましょうね」

如月は三日月を見てニコッとすると、菊月の方に近づき、睦月が座っていた座布団に座った。三日月もそれに付いてきて、座布団を取り出し如月の隣りに座った。

「さあ、固くならないで、座ってお話しましょ?おせんべいもあるわよ?」如月は菊月に座るように促し、菊月もそれに従った。

「それで、睦月ちゃんにどこまで聞いたのかしら?」
「私、菊月との『被り』が十人以上いるらしい、というところまでだ」

「ふぅ~ん?羨ましいけど、菊月ちゃんは司令官のお気に入りだもんね」如月は髪をいじりながら、若干妬ましげにしゃべった。ただその嫉妬は微かなもので、菊月は気づかなかった。

「そのようだな。自分と同じ顔の者が何人もいるこちらの身にもなってほしいものだ」

「菊月ちゃん、そんなに大変じゃないかもしれないわよ?そうじゃなきゃ、こんなにたくさん同じ子を集めようとしないもの」如月はそう言うと、三日月にウインクした。三日月はコクリと頷いた。

「その通りですよ。『菊月部屋』に行けば、分かります」

「『菊月部屋』……?」菊月には、一言聞いただけで想像がついた。この鎮守府にいる十人以上の菊月全員が住んでいる部屋のことだろう。

「そうよ。いっぱいの菊月ちゃんがいるところ。あそこに行けば司令官の寵愛する菊月ちゃんの一人になれるのよ。でもねでもね、あなた、秘書艦になりたいでしょ?それなら如月特製の色仕掛けで……」

「……早速、連れて行ってくれないか」如月が変なノリになりだしたのを無視して、菊月は三日月に頼んだ。

「もう、ツレナイんだからぁ」如月はプーッと頬を膨らませたが、三日月と一緒に立ち上がった。「行きましょ?丁度暇だし、案内してあげるわ」

侵食するカラダ その3

「あいつの手術、あれは要するに、体を一定間隔で変形するようにするだけなの。大方、『女の子になれる』とか言われたんだろうけど」校医は、淡々と説明した。「体がどう変形するかはその人の意思によるから、その場でなりたい体型を想像していれば、その通りになるのよ」

「……ってことは」俺の脳裏を不安がよぎった。「俺は、女になりたいって、そう思っていたことになるのか?」俺のあの時の結論は、そんなに女になることに傾いていたのか?

「いえ、そうとは限らない」

校医は、目を細めて俺を見た。「あいつの理論の場合、成長ホルモンに加えて、異性のホルモンを大量に分泌させることで変身を起こしてる。つまり、異性になるような変身しか引き起こせないから、君はどっちにしろ女になっていた。それにしても、深い考えなしであいつのところに行ったの、君は?」

「う……だって本当に女になると思ってなかったし……」正直、これ以外に返す言葉が見つからない。校医はそんな俺を見てため息をついた。

「君ね、世の中を甘く見てると、今に痛い目をみるわよ」いや、すでに痛い目を見ている気もするが。「手足を切断されて見世物にされたりとか」うむ、それは確かにイヤだな。「実験生物に洗脳されて子供をうまされたりとか」待て、なんだって?「その子供に栄養を供給するためのミルクタンクにされたり……」

「ちょ、ちょっと!いくらなんでもそれはないだろ!?」どこのマッドサイエンティストがそういうことをできるんだ!?

「いえ、今の、全部兄がやったことよ。この目で見てきたから、間違いない」そう言う校医の目は、真面目そのものだ。冗談ではないのだろう。「君が、女の子になったり、元に戻ったりするようになっただけだったのは、実は幸運なんだから。ただ、私は兄が施した手術の理論は知っていても、もとに戻す方法は分からない。さっきも言ったとおり、慣れることが肝要よ」

「慣れろって!?この体に!?」こんなおとぎ話のような説得で、納得が行くはずがない。これまでがおとぎ話じみていたのは否定出来ないが、それでもだ。

「できないっていうの?これまで、同じような境遇の人がたくさんいて、ほとんどの人が順応してきたのよ。君ができないはずがない」

「俺と同じような奴がたくさんいるって、そこが嘘かもしれないからだ」大体、俺は一回も他の人間が変身するのを見ていない。実際、変身させられたのは俺一人だけなのかもしれないのだ。

「証拠が欲しいのね。じゃあ、今日の放課後ここに来なさい。あと、変な気を起こして、女になった自分なんか想像しないでね」校医はため息混じりだった。というか、そういうこと言うから想像してしまうわけだが。まあ頑張ってみるか。

放課後。

「あらあら……また立派に育っちゃって」

「はぁ……はぁ……余計な……お世話だ」俺の体は、また爆乳美少女に変わっていた。だってまあ、仕方ないだろ。授業が終わってすぐに、委員長にまた話しかけられて、どでかい胸を見せつけられたんだから。俺はタプンタプンと揺れる胸を押さえながら、やっとのことで保健室に戻ってきたのだった。

「それで、この子なのよ、見せたかったのは」

「先生?あれを、この人に見せればいいの?」ベッドに横たわっているのは、小さな女の子だった。肩まで伸びる黒いふわふわの髪。ぷっくりとしたほっぺと、なぜか上半身を脱いでいるその体はぷにぷにしてぽっこり……

「ってぇ!?なんで裸なんだよ!俺はロリコンじゃないぞ!」

小学生の裸を見て、思わず興奮してしまった。でもなぜかその子も校医も俺の大声に驚く様子もなく、むしろニヤニヤしている。「な、なんだよ……」

「ねえ、わたしの事見て、何か思い出さない?」

「え?」女の子に言われた俺は、こんな子がこの学校にいたか、と考えると、すぐに思い出した。同じ学年に、今年、チビな女子が転校してきたっていう噂が流れていなかったか?それに、同時期に突然学校を出てった奴もいたと。

「まさか、お前も女になって、女として学校に通ってるのか?」

俺の言葉を聞いて、女の子はニコッと笑った。まぶしい笑顔に、少し胸がドキッとする。「じゃあ、本当に、あなたもなのね。そう。私は女の子になっちゃう身体になった。そこまでは合ってる」

少女はおもむろにスカートの留め具に手を掛け、その股間を露出させた。

《ポロ……》

そこには、想像していなかったものが、ついていた。「実は、今も男なの。小さいけど、ちゃんとあるでしょ?」ある。確かにある。親指くらいの、小さなナニが、確かにある。

「紹介が遅れたけど、この子の名前は、佐藤 沙耶香(さとう さやか)」固まってしまった俺を見て、校医が補足した。「でも、本当の名前は佐藤 昌也(さとう まさや)。どっちでも、好きに呼んでいいと思うわ、ね、佐藤さん」

佐藤は、首を大きく縦に振る。「私と同じ境遇の人なら、どっちでもいいよ!でもみんなの前では、男の名前は出さないでね」

分からない。元々男で、女になるようになったのに、女に見える格好の男に変身して学校に通っている?わざわざそんな事をする意味が、全くわからない。

「説明して欲しいっていう顔してるわね」

相変わらず目を丸くして股間のナニを見つめ続ける俺だったが、やっとのことでゆっくりとうなずいた。

「この子はね、元々今よりすごく体格が良くて、そうね……元の君よりもかなり力があったんじゃないかしら?でも、あいつの言葉に乗せられて被験者になってしまった。それで、女性になる時はかなり体格が違ってしまって、周りも対応しきれなかったみたい。だから、これくらい小さな体になって、男の時でも女で通用するようにして、日々の生活をしているってわけ。これが、症状に対する対応の一つ、しかもこの子自分一人で考えた方法よ」

「いや、これだけじゃまだ信じられないぞ」

まだ、佐藤が変身するところを見ていない。校医は呆れ顔をしたが、佐藤はうんうんとうなずいた。

「要するに、私が本当に変身するか見たいんだね」「ああ、俺の目の前で、俺そっくりに変身してくれ」

ここで、佐藤まで固まった。「そ、そんなおっぱい大きくしたくないよ、絶対痛いし」確かに、俺の胸には特大スイカサイズのおっぱいが付いている。対して、佐藤はそのおっぱい二つと体積が同じくらいの体の大きさしかない。相当激しい変身になるだろう。

「できないのか?じゃあ、俺は信じないぞ」俺は意固地になる。今の状況が治らないなんて、まだ信じたくない。「君、いい加減に……」

「分かったよ。変身する。でも、最初にそのおっぱいで気持ち良くしてからね」

こいつ、いきなり何を言い出す……って、俺も同じくらいの無茶を言っているのか。じゃあ、仕方ない。

「ああ、いいよ。やってやる」あれ?本当に仕方ないか?まあいいか。

俺は、無意識のうちにパツパツになったシャツを脱ぎ捨て、佐藤がいるベッドの上に四つん這いになっていた。

体が勝手に動く。歯磨きをしたり、シャツのボタンを止めたり、そんな日常の動作みたいに、無意識のうちに体が動いて行く。今やろうとしていることは、こいつを俺のおっぱいでマッサージするという、人生はじめてのことなのに。

「じゃあ、いくぞ」俺は、奴の腰の上に、どたぷんっ!と胸を降ろす。すると、あいつの小さい息子が、俺の胸の表面にくっついているのが伝わってきた。

「あうっ……!気持ち、いいっ」

佐藤が可愛らしい声を上げる。食べてしまいたくなるほど……

「あのねぇ、二人とも、人の保健室のベッドでなにやろうとしてるの」

なに、やろうと、してる。本当だ、俺は何をやろうとしてるんだ!?姿勢を戻し、佐藤を見るとかなりびっくりしている。どうやら、さっきの願いは冗談だったらしい。男の俺に、マッサージを頼んだところで笑われるだけだと思っていたようだ。ところが、俺はノリノリで胸を載せてきた、そんなところだろう。

「もう……佐藤くん、ごめん、この人の言っている通りにしてあげて。……って、もうする気のようね」

佐藤からとんっ、とんっと音がする。体を見ると、トクン、トクンという脈動が、最初心臓の上だけ起こっていたのが、周りに広がって行っている。

「ひゃっ……んっ……!」

ついには、小さい体全体がドクンドクンと脈動し、ベッドの上で飛び跳ねた。腰に乗せたままの俺のおっぱいも、たゆんっ!たゆんっ!と揺れ、乳首が……

「あぅ……っ!ひゃんっ!やだっ!」

先っぽがこすれて、気持ち良くなっちゃうっ!……佐藤の体も、だんだん大きくなって、中学生くらいの体が俺のおっぱいに猛アタックしてくるぅっ!!おちんちんも、大きくなってきて、固くなってきてるっ!

「やめてぇっ!……~っ!!」

俺は、やっとの思いでおっぱいを持ち上げ、衝撃から逃れることができた。なんてことを考えてたんだ、それに、自分の声とは信じられない、喘ぎ声を出していた。校医を見ると神妙そうな顔をしている。

「あぁっ!!胸が、胸がぁっ!!」

佐藤が大声を出した。いや、今まで俺が変身した時と同じくらい、どたばたともがきながら、体が太くなったり細くなったり、「熱いよぉっ!」とかいろいろ叫んでたんだが、俺の意識の中に入ってこなかっただけで……

《ムリリリィッ……!!!》

何かが無理やり伸びにくい風船を押し広げて行くような音がして、同時に佐藤の平べったい胸から二つ、丘が大きく前に突き出てきた。Cカップというところだが、俺の胸にはまだまだ及ばない。

「うおぉ……」他の奴の胸が膨らむのなんて、初めて見たわけで、思わず胸の下に腕を組んで感心してしまった。プルンプルンと震えながら、ムリムリと膨らんでいく二つの膨らみは、やがてタユンタユンと大きく揺れるほどの、立派なおっぱいに成長していく。

「んふぅっ……くぅっ!」小さな子供の声が、少しだけ低くなり、深くなって、今の俺と同じような大人の女のものに変わっている。

《プシュゥッ》

と、ここまでかなり大きく膨らんでいたペニスが、ヌメヌメとした液体を噴き出し始めた。小便とは確実に違うソレは、精液に間違いない。ただ、普通の射精と違って、勃起していたソレがだんだん縮んでいっているのだ。

「私のおちんちん、中身がでちゃうよぉっ!」

佐藤は、その最期を見逃すまいとしているのか、それとも縮小を止めようとしているのか、すごく焦った顔で、ピュッピュと噴出を続け、もう元のサイズより小さくなったそれをじっと見る。が、ほどなく急拡大し、顔よりも一回り大きくなった胸に視界が遮られてしまったらしく、完全に股の中に埋もれてしまっても、見えなくなったそれを確認しようとしている。

「おっぱい、おっぱいじゃまぁっ!!」

佐藤の言葉に逆上したかのように、胸は《ボンッ!!》とさらに大きくなった。やっと、おれと同じくらいになったか?胸を当てて、確認してみよう。

《ムニュッ》

おっぱいと、おっぱいが重なりあう。と、佐藤の鼓動がおっぱい越しに伝わってくる。俺の胸も、ポヨ、ポヨと揺れて、何だか、体が、熱く、なって……

「いい感じ……」この子の体、すごく大きくなって……さっきとは違うかわいさ……一人で二つの魅力があるなんて、もう、食べちゃいたい……

もっと紗耶香ちゃんのこと、知りたい、味わいたい。そう思って、苦しそうな表情の顔に手を近づけていく。その時、紗耶香ちゃんの目がくわっと開いた。

「わ、わたし……こんなことに……」紗耶香ちゃんが私に話してくる。変身が終わったのかな?

「なぁに?私の体になってみて、どう?やっぱりすごいでしょ……?っ!!!」

俺は、俺は何を言ってるんだ!?俺の思考が体に蝕まれているというのか!?エロい体に、男を誘惑するこの体に、心が、持って行かれている!

「す、すまないっ!!佐藤!!」とっさに謝る。が、その必要はなかった。

佐藤は、淫らな笑顔を浮かべていた。体の触れ合いを通じてもっと快楽を得たい、そう言っている顔だ。「うふっ……」ぞっとするような含み笑いも、俺のことを咎めるどころか、さらに求めていることをあからさまに示していた。そして、それは実際の行動にも現れる。両手で、俺の両胸を挟み、上下左右にもみ始めた……

「ひゃんっ、さ、さとうっ、もむの、やめてっ!」快感が、快感が俺の脳を占拠する。理性が追いやられ、意識が朦朧として、目の前が見えなくなっていく。「うふっ、うふふっ……」佐藤の淫魔のような笑いだけが、耳に入ってくる。このままじゃ、俺……

「はい、そこまでっ!」という校医の声とともに、《パシッ!!》と何かが手で叩かれるような音がする。すると、俺は快楽の洪水から解放され、視界がはっきりした。校医が、少し引きつった顔で、佐藤の顔を平手打ちしていた。

「せ、先生……ごめんなさい、私こんなつもりじゃ……」佐藤の方は、悲壮な顔をして、校医に許しを請うていた。校医はすぐに優しい顔になり、佐藤を抱きしめた。

「いいの。君が悪いんじゃない。悪いのは、体なのよ」校医は俺にも優しそうな、でも申し訳無さそうな感じでもある顔を向けた。

ああ、そうなのか。俺が元に戻る方法はやっぱりないんだな。そして、いつか俺は今あるこの「俺」を失って、違う誰かに成り果てるんだ。俺は、校医の顔を見て、それを認めるほかなかった。

侵食するカラダ その2

電車の中で、俺は自分の胸に集まってくる視線を感じながら、これからの事について考えていた。俺は、本当に女になってしまった。それも、スタイルは抜群、顔も美しさと可愛さをうまく兼ね備えた、通りを歩けば誰もが振り向くような美少女だ。実際、この電車に乗った全員が一回は俺のことを見ているだろう。

試しに、服から大きく突き出している胸の膨らみを下から持ち上げ、ムニュッと歪ませると、男は全員、女も半分くらいが目を丸くして俺を見た。そんなに俺って、目立つんだな。

一人暮らしで、誰もいない家に着くと、すぐに服を脱ぎ捨て、シャワーを浴びようとした。完全にサイズの合っていない服はキツかったし、胸の間に汗が溜まって、かぶれてしまいそうだった。

「……」

鏡を見た瞬間、それまで成り行きで動いていた体が、動かせなくなる。さっき俺は自分の姿を見たはずなのに、雑誌でも見たこともないような特大スイカの胸や、一点のシミもない透き通った肌、これ以上細くなったら折れそうなウエスト、豊満な太もも。その全てが、俺を誘惑した。

隣に先生がいたさっきと違って、今なら、誰も見ていない。俺は衝動的に手のひらほどに大きく薄く広がった乳頭の先っぽを、クイッとつまんでみた。

「あ……んっ」

俺の股間に息子が残っていたら、一瞬のうちにとんでもなく固くなるような、色気たっぷりの声が出た。

俺の、この喉から。

顔が熱くなり、鏡を覗くと、目の前の少女も顔を紅潮させ、エロい表情になっている。

俺の顔が、エロい。

体が変わっても脳の中は男なのか、滅茶苦茶興奮する。と同時に、自分が超えてはならない一線を超えたことを実感する。といっても、いまさらどうしようもない。今日は疲れたし、さっさと体を洗って、寝ることにしよう。

「ふんふ~ん♪」

俺はいつものようにスポンジにボディソープを付けて、こっちはいつものようにじゃなく鼻歌を口ずさんで肌を擦った。

《ゴシッ!!》

「ひゃんっ!」痛い!すごく痛い!っていうかなんだ今の声!無意識のうちに、黄色い悲鳴を上げてしまった。俺の考えとは別に、体が勝手に声を出してしまったのだ。

俺は一瞬思考が止まってしまった。自分の体が、自分のもので無くなっていってしまうのではないか、という不安にさいなまれたのだ。

「何考えてるんだよ、俺!」俺は、手をグーパーと動かして、自分に言い聞かせる。「ほら、自分で動かせるじゃないか」

それから俺は、できるだけ優しく、肌を洗い始めた。一番やりやすかった脚の先から……と言っても前かがみになったせいで、胸がつっかえたが……、尻、腰、胸の下、胸の間、胸の上、肩、腕と、ここまでは順調だった。

「股……って……どうなってるんだ……?」視界を塞ぐおっぱいを何とか脇にどかして、股の間を確認する。そこには、ピッと一筋、線が入っている。俺は恐る恐る、人差し指と中指を使って、その線を左右に引っ張った。すると、それはカパッと開いて、ヒダのようなものと、突起のようなものが露出された。人の一部とは思えない形をしているそれは、少しグロい。

そっとじ。

いやいやいやいや、自分の一部なんだから、どうにか慣れなければならないだろう。俺は覚悟を決めてもう一回それを開けた……

《ムギュギュギュギュ》

とそのとき、胸が妙な変形を始め、それを皮切りに俺の全身がぐにゃぐにゃと……

「はっ……!?」

俺は意識を失っていたようだ。そして、ここは風呂場。俺の体は……

元に戻っていた。完全に男の姿に戻り、俺が女だった形跡は一つもない。

「ふ、ふふ……やっぱり、そうだよな……あんなこと、実際にあるわけがないよな……」

鮮明に記憶に残っている女としての体験は……あれはきっと夢なんだ。そう自分を説得し、俺は体についていた石鹸を流し、髪を洗って風呂をあとにしたのだった。

翌日。学校に着いた俺は、だれとも会話することもなく、席に座り込んだ。昨日の体験が頭から抜けない。妙な装置で、自分の体が細胞単位で全て女に変わってしまうという、変な夢。胸についた、超大きくて、そして重い膨らみ。会ったこともないほどの可愛い女の子の顔が、自分のものになっていた。もっと何かやっておけばよかったんじゃないかと思ったが、どうせ夢だ。

「どうしたんだよ、おい!」いつの間にか、友達の新田が俺の前に立っていた。大声を出して俺を呼んでるってことは、相当な回数、呼びかけてきていたに違いない。

「ああ、なんでもねえよ」「そんなわけないだろ!お前らしくもなくぼーっとしてさ」否定しようがない。一人暮らしの俺にとって、学校での友達付き合いは大切な日常の一部だ。大抵、自分でもオーバーと思うくらいの挨拶をしてクラスに入っていく。その俺が、なんにも言わず席に直行して何か考えこんでいるなんて、不思議以外の何者でもないだろう。

「病気でもしてんのか?そろそろ期末試験だぞ」新田は、本気で俺のことを心配しているようだ。

「いや、さ、女になった夢を見てだな」

自分でもこの事を言うとは思っていなかったが、自分の中で貯めこんだままっていうのがいやだった。新田は、それを聞いて吹き出した。

「おい、なんだよそれ!お前も相当試験に追い込まれてるんだな」
「あ、ああ。そうだな」

確かに、追い込まれてなきゃ、女性化できるって聞いて、電車賃まで払って行くわけないよな。

そんな俺の視界の中に、たゆん、たゆんと大きく揺れ動く盛り上がりが入ってきた。

「お、デカパイ委員長のおでましだぜ」新田の言う通り。食べたものが全て胸に行くと言われている、このクラスの委員長が、教室に入ってきたのだ。Hカップはあり、本人は事あるごとにでかすぎるその胸のことで文句を言っているらしい。

まあ、俺のほうがデカイけど。

え?今、俺、自分の胸が、委員長よりでかいって考えたか?俺におっぱいなんて無いのに?

「ちょっと、何マジマジと見てるんですか?」遠くにあったおっぱいが、いつの間にか目の前にあった。ずーっと凝視していたらしく、周りの軽蔑の視線が突き刺さってくるようだ。

「あ……すみませんでした」と、今更謝っても遅い。委員長は俺をにらみつけて、説教する気満々だ。

「だいたいあなたは……って、きゃあ!!」まさかの委員長、なにもないところでコケた!そして……

《ドタプーン!》

俺の顔に、おっぱいが襲いかかった。服越しでもわかる柔らかさと、温もりに、俺の顔は包まれ、そして、思考が支配される。俺の『夢』がフラッシュバックし、鏡に映る『自分』の姿が、頭の中を埋め尽くしていく。

「ちょっと……ねえ……」委員長の声が、意識の彼方で聞こえる。しかし、俺の体で何かが駆け巡り始め、ゴゴゴゴと音を立てて、周りの雑音をかき消してしまう。

そして、ついにそれは始まった。

女性ホルモンが脳から分泌され、新陳代謝が加速されていく。そのせいで、全身の細胞が分裂や変成を繰り返し、体が至る所でメキメキ、ゴポゴポッ!という音を立てて不定型になる。

《ムギュギュギュギュ!!》

そして、俺の中にわずかに存在していた乳腺が、血流に合わせて急速に増殖し、胸を盛り上げる。苦しくなった俺は、服を脱ぎ、上半身を露出させた。

全身の血管は異様に浮き立ち、その先の組織が動いているかのように、絶えず変形を繰り返している。筋肉細胞が脂肪細胞に変わり、破骨細胞が俺の骨を細くし、造骨細胞が逆に俺の骨を形作る。

「んっ……んんっ」

声の高さが安定しない。体のすべての部分から、人体が出すはずのない、メリョメリョとか、ズルズルとかいう生々しい音が出され、そのたびに体の表面が凹んだり膨らんだり、伸びたり縮んだりする。

「んはっ……」

制服のズボンの左がメリメリと破れ、中から筋肉が異常に発達した脚がでてきたと思ったら、その筋肉の殆どが一瞬にして脂肪に置き換わり、同時に、ゴキッと膝の向きが変わって、左足だけが右足より一回り太く、内股になった。

その根本で、股間が怒張し、普通のバナナほどに大きくなってしまう。あまりの痛さにズボンを脱ぐと、尻が左からボンッボンッと膨らみ、それに吸いだされたかのようにペニスがギュッギュッと収縮し、股の中に消えてしまった。

「あ……はぁんっ」

次に起こったのは、お腹の膨張だった。筋肉質だったお腹が、水を入れられるように、パンパンに膨れ上がっていくのだ。腸ではないどこかに、何かを無理矢理詰め込まれる感覚がする。

「はぁっ、はぁっ」

俺が呼吸するごとに一回りづつ、妊婦のように膨らんでいくお腹。臨月を通り越し、3つ子くらいになる。

《ギュルルルルル!!!》
「んんっ!きゃああああっ!!」

腹部の変化が終わった所で、急に膨らみが吸い取られるようになくなり、逆に、これまでリンゴサイズだった胸のほうが、ヘリウムボンベで空気を封入される風船のように、特大メロンサイズまで、一気に膨れ上がった。当然、ものすごい痛みが走る。

「ふぅっ……」

胸に脂肪を送り込んだお腹の方は、逆にコルセットに締められたかのようにくびれ、いつの間にかムチムチに熟した右足の質量感を強調していた。

《ギュギュギュ……》

そこで、未だに俺の目の前にいた委員長のおっぱいを意識したのが悪かったのか、胸の中に、皿に何かが詰まっていく感覚がし始めた。俺のおっぱいがブルブル小刻みに震え始め、次第にその周期が短くなっていく。そして……

《バイィン!!!!》

乳房が爆発するように拡大し、2倍の大きさまでひとっ飛びした。どゆんどゆんと揺れるそのZカップでも足りないくらいの大きさの双つの肌色の球は、人間の乳とは到底思えないほど大きい。

そこで、体の中が安定し、変身が終わった。俺は、冴えない男子高生から、超乳を持つ牛乳女になっていた。クラス中の人間が、いきなり変身した俺を驚きの目で見ている。

「あなた、その胸……」唐突に、委員長が俺の旨をペタッと触った。その腕でも隠し切れないだろうほどの乳房に、委員長の手はかなり小さく見えた。

「恥ずかしいです……っ」そんなに色気を出す気はなかったが、自分でもドキッとするような甘い声が出てしまった。俺は、いったいどんな女になってしまったのか。この胸でもまんざらでない俺は、どこか頭のネジが飛んでしまっているのだろう。

「あ、ご、ごめんなさい……と、とりあえず私のジャージ貸してあげるから、ほ、ほ、保健室に、い、行って来なさい」

委員長の声がかなり震えている。それでも俺に助け舟を出してくれるのは、さすが委員長といったところか。って、そんな冷静な分析してる場合じゃなかった。周りに見られている。でも、そこまで問題じゃない気が……

「ほ、ほ、ほら、ジャージ!着なさい!」委員長がジャージを差し出してくれる。この肉体美をジャージの中に詰め込んでしまうなんて、もったいない。そんなこと絶対おかしいのに。

って、俺は露出狂かよ!?

一瞬、気が触れていたようだ。変身のショックで、思考回路がパンクしていたんだろう。さっさとジャージを来て、この場から立ち去らなければ。

「って、すごくきつい」胸のサイズが特に合っていない。襟からもはみ出て、今にもジッパーが飛んでしまいそうだ。乳首の形も服の表面に浮き出てしまっている。

「うるさいわね!……よかったじゃない、憧れのおっぱいが手に入って」委員長に、意地悪を言うくらいの余裕が出てきたようだ。俺は言われるがままに、保健室へと向かった。

「あなた、本当に男?」事情を説明した後に、保健室の女性校医に言われた一言目がこれだ。

「ええ、間違いなく……今日の朝まで、男でした」こんなことを、誰がどう見ても女の生徒に、しかも証拠のために出した学生証に写っている顔と共通点が何もない間抜けじみた爆乳女子生徒に言われても、誰も信じないだろう。

「そうなの……じゃあ、試しにこれを飲んでみて」

信じられないことに、俺が男だと信じられた。なんてことだ。それに校医は、俺に白い錠剤を渡した。俺の女性化の原因に、心当たりがあるっていうのか?

「ほら、水」
「あ、はい」

ゴクリ。錠剤が喉を通り抜けていった。と、体がぽぉっと熱を帯び始め、胸が縮み始めたかと思うと、数秒で俺は元の姿に戻った。

「ふーん、やっぱりあいつがやったのね」校医は俺の変化をて、うん、と何かに確信を持ったようだ。

「あいつって?」「私の兄よ」

世界って狭いなー。俺を女にした男が、校医の兄だなんて。そんな馬鹿げた話があるか。

「とりあえず、あいつの処置を受けた以上、元に戻る術はないわ。私がケアしてあげるから、大人しく女の子になることね」

どうやら俺は、後戻りできないらしい。ハァ……と、ため息をつくしかなかった。

侵食するカラダ

『簡単に性転換できるところがある』

そう聞いた俺は、興味本位で練馬区の「診療所」に向かった。西武線の駅に近いそこは、着いてみるとただの賃貸アパートのような建物、というより本当にアパートだ。思っていたとおりガセかと思ったが、入口の一つに「性転換はこちら」というシュール極まりない案内の紙が貼り付けてある。

「さて、どんな釣りなんだ?」ドアの取っ手を握ろうとしたとき、女子高生が中から出てきた。内気そうなその子は俺のことに気づくと、小さな声でささやきかけてきた。

「本当に女の子になっちゃうから、気をつけてね」

俺はあっけに取られた。こういうことを言うってことは、こいつは元々男だってことか?確かに、きている服はチェック柄のワイシャツにジーパンと、典型的なオタクと一緒だ。しかもサイズが全然合わず、『私は元オタクの男です』とその姿だけで俺に主張しているようだった。

しかし、そんなこと、男が女になるなんてこと、実際に起きるわけがない。俺は気を取り直し、女子高生を鼻であしらった。「フンッ、こけおどしだろ?」

その言葉を聞いた彼女は、明らかに不満そうに俺を睨んだ。「そう、それならそれでいい……」独り言のように呟くと、そいつは踵を返し、駅の方に去って行った。

俺に女性化願望がないわけじゃない。でも、それは単に異性の体でしかできない体験をしてみたい、レベルの願望で、別に男のままでも問題はないのだ。それでも、その弱い願望が俺にここまで足を運ばせたのだ。俺は意を決して、アパートの扉を開いた。

「いらっしゃい、我が診療所へ」すぐに、柔らかく優しい、いわば紳士的な男の声に迎えられた。不気味といえば不気味だが、俺は包み込んでくるようなその声に、自然と答えを返す。

「あの……女になれるって聞いてきたんですけど」

少しの沈黙。なんか恥ずかしくなってきた。人の前で女になりたいと言ったことなんて、初めてなのだ。だが、玄関先に白衣をきた背の高い中年の男性が微笑みながら出てきて、見当違いのことを言ったのではないと、ホッとすることができた。

「その通り。さあ、奥へいらっしゃい。順番待ちになるけど、それでもいいかな?」

順番待ち?そんなにここは有名なのか?と中へ入ると、トイレらしき小部屋につながるドアがついた広めの和室に、敷布団が何枚か敷かれ、合宿所のようになっている。だが、何よりも俺の目を引きつけたのは、壁際に貼り付けられたようにおかれている装置だ。小さめの冷蔵庫くらいの大きさのそれには、真ん中に操作盤らしきタッチパネルが取り付けられ、その他は電源ボタンと、タッチパネルの上にカメラのレンズのようなものがついている。そのレンズは何かを撮るのではなく、逆にそこを覗き込む構造になっているようだ。

「お待たせ。それで、どういう女の子になりたいのかな?」

その言葉は、俺ではなく、すでに装置の前に置かれた丸いすに座った男に掛けられていた。男、といっても、服を脱ぎ、さらけだされた上半身はかなり丸っこい。女性ホルモンでもやっているのかと思うくらい、印象が柔らかいのだ。それだけに、男が発した声には腰が抜けそうなほど驚いた。

「声が高い、小柄な子になりたいです」その声は、信じられないほど低かった。それに、よくみてみると腕からは大量の毛が生えている。体の大きさも俺とそんなに変わらない。やっぱり、れっきとした男だった。

「それでは……」白衣の男は操作盤をぽちぽちとタッチして操作し、男にそれを見せた。「これでいいかな?」

先生が、男に聞くと、男はコクリとうなずいた。すると今度は先生は俺を見た。「じゃあ、あとに入ってきた君、少し外で待っていてくれないか?」

「え?」なぜ、俺を追い出さなければならないんだろうか?やっぱり、ガセネタなんだろうか?そういう考えがすぐに出てくるのは、この装置が女性化するのにはあまりにもちゃっちく見えていたからに違いない。

俺はよほど怪訝そうな顔をしたんだろう。先生はニコッと微笑んで、「心配ない。この装置が出す光が、処置する人以外には少し有害なんだ。なに、数分で呼びに行くから」と優しく言った。そんな言葉くらいでは、これがホンモノだと納得することはない。だけど、俺は結局その場を離れ、アパートの外で待つことにした。

冬も近づき、肌寒い。つい最近まで聞いていた虫の声も、すっかり鳴りを潜め、大通りから遠いこともあって、風の音しかしない。やることもない俺はスマホを取り出し、友達とメッセージを投げ合う。その間、アパートから誰も出てくることはなく、近くを軽トラが走っていくことくらいしか、俺の周りに人がいることを感じさせることが起きなかった。

そういう状態になると、いろいろ自然と考えてしまうのだが、今自分が面白半分でやろうとしていることが、どれだけの影響をこれからの人生に及ぼすのか、それが気になった。女になれば、人生が変わるんだろうか?これまで、普通の男……学園祭で女装は一回だけしたことがあるけれど……ただの男として生きてきたし、将来の設計もそれが続く前提で行ってきたのだ。女性になればそれが根底から崩れることになる。

じゃあ、なんで俺がこんな話に乗って、時間を書けてここまで来たのかというと、今の人生がつまらない、という一言に尽きるだろう。要は、人生の転機が欲しいのだ。顔はあまりぱっとせず、勉強があまりできるわけでもない。このままだと、あとすこししか残っていない学生生活も、華がなく終わってしまう。何か大きなことを自分でするのには時間がなさすぎる。そこに、この話が転がり込んできたのだ。

ただ、そこまでして、本当に大丈夫だろうか?

「あのー?」俺の考えは、少女の高い声によって途切れた。

「うおっ!?」あまりに急だったから、大きな声をだしてびっくりしてしまった。その子は、アパートの扉の影から俺のことをじっと見ていた。結構小さい子だが、その様相に幼さは感じられない。こんな女の子が、俺に何の用……って、ちょっと待てよ?

「まさか、椅子に座ってた……」俺が聞くと、その子は顔いっぱいの笑顔を俺に見せた。

「そうですよ!ボク、女の子になったんです!」

頭にガッツーンと打撃を食らったような衝撃。手術は、本当にホンモノなのか?さっきまで、それがホンモノであるということ前提の思考をしていたはずなのに、その事実に、茫然自失としてしまう。

「どうしたんです?ほら、あなたの番ですよ!」

それに構わず、女の子は俺を部屋の中に引き入れ、自分は外に出て、お辞儀をした。

「あなたも、『望んだ姿』になれるといいですね!」

そしてそのまま、扉を閉めた。

『望んだ姿』。

俺、どんな女の子になりたいんだ?そもそも、本当に女になってしまっていいのか?

いや、待て待て、俺。考えろ。どうせ、部屋の中にもともとあの子はいたんだ。男が変身したように見せかけるために、俺を追い出して、入れ替わったんだ。そうさ。そうに決まっている。……いや、もしそうなら、なんで俺のためにそんなトリックを……

「……どうしたのかね?」

突然、背後から先生の声がした。俺はビクッとして、振り返る。そこには、大柄で、俺を包み込むようなオーラの、男が、いた。いや、どうみても先生だが。

「なんでも、ないです」なんとか、言葉をひねり出すと、先生は相変わらずの微笑を浮かべる。「そうか。では、君の番だ。上の服を脱いで、装置の前の椅子に座ってくれたまえ」

言われたとおりに、先生に続いて、部屋に入り椅子に座ると、俺の目の前に立った。

「この装置の説明をさせてもらおう」先生は唐突に説明を始めた。「この装置は、君の細胞すべてのDNAを不安定にさせた上で、書き換えるものだ」

DNA。デオキシリボ核酸。細胞核の中にあって、細胞分裂の際に、細胞の雛形になるものだ。つまるところ俺の設計図、というわけだ。というのを、最近勉強した。それを書き換えるということは、やっぱり俺の体は今のままではすまないだろう。

「まあそれだけでは体の形が変わることはないから、成長ホルモンや女性ホルモンを分泌するよう、脳に司令する機能もある。画期的だが、医療界には完全に認められていない」

「え……」俺は、違法手術を受けようとしているのか!?というより、今聞いた機能は、こんな単純な機械じゃ、到底出来ないような芸当である気もする。それに、本当の性転換手術は、メスやらなんやらちゃんと使う外科手術であるというイメージがある。

「ふふ、驚いたかね?だがね、これまで失敗したことは、一回もない。千人以上の男子を、女子に変えてきて、一人も失敗したことはないのだから、君が最初の失敗例になるなんていうことは、ほとんどあり得ない。さて聞こう。君はどんな女性になりたいのかな?」

先生の目が、俺の目を凝視する。不思議な輝きを持つその目から、何かが入ってくるような気がするくらい、まじまじと見られている。どんな女性になりたいか、だって?

「お、俺は……胸がとんでもなくでかくて、金髪ロングで、でも背は今より少し低くて……」俺は、俺の好みをつらつらと言葉にすることにした。先生はフムフムとうなずきながら、メモを取る。「足も綺麗で尻も出てて、でもウエストはキュッと絞まってる、そんな女の子になりたい……」

「それだと、周りから浮くことになるが……金髪は高校じゃもう廃れてるだろう?」先生の言葉が、グサッと刺さる。現実的なアドバイスであっただけに、相手が本気なのが完全に分かったからだ。「だから、黒髪の方がいいと思うがね」

先生は、微笑んだままだ。俺は無理な注文を言って、ボロを出させるつもりだったが、その気配は一向に感じられない。

「分かりました……」俺は、最後の手段にでた。「それで、料金の方は……?」もしこれが詐欺なら、カネのことを聞けば、ウン万と言ってきて、俺の払えるギリギリを狙ってくるに違いない。

だが、その思惑は外れた。

「160円だ」

160円。それなら財布に……って、ペットボトルジュース一本分と一緒だぞ!?そんな安価で、こんな大掛かりなことできるか!?逆に疑わしいぞ!

「あの……」しかし、そのことを指摘しようとした俺は、先生の瞳を見て、言葉を出す気をなくした。別に、熱意に感動したとか、あまりの存在感に恐怖したとかでもない。単に、言葉が出なくなったのだ。

「なんだね?」

「いえ……」素直に、財布から百円一枚と五十円一枚、それに十円一枚を取り出し、差し出された先生の手に渡した。

「ふふ、本当は無料なんだがね……君は私のことを疑い過ぎだ。これくらい受け取っておかないと、信用してくれないだろう?さあ、いよいよ始めようじゃないか」

先生は、操作盤をポチポチと操作する。よく見ると、スリーサイズが120-65-90、身長が150cmに設定されている。しかし、分かったのはこれだけで、後はよく分からない番号や記号が並べられて表示されている。

「よし、設定完了だ。レンズを覗き込んでくれ」

俺は、指示通りにする。レンズの向こうは、真っ暗だ。

「では、開始!」

《ピカッ!!》

レンズの中から、目が潰れそうなほどの光が、俺を襲った。その瞬間、全身が激しく振動するような、強烈な感覚に襲われる。

「うぉぉおぉっ!!!」
《ボコボコボコボコッッ!!!》

肌を見ると、そこらじゅうが膨れたり凹んだりを繰り返し、腕の毛を見ると、肌の中に引きずり込まれるように、短くなっていく。そして、指先から手のひら、腕へと、肌の色が抜けていく。まるで、俺の腕が何かに置き換えられていくかのようだ。

《ドクンドクンドクンドクン!!!!》

心臓も痛いほどに大きく、そして速く鼓動し、全身を血液が駆け巡っているのが感じられる。不定型になっている俺の体は、大胸筋がとんでもなく大きくなったかと思えば姿を消したり、腹筋が割れるほど発達したかと思えば、脂肪だらけの膨らんだ腹になったり、一体何になるのか分からなくなっているほどに、変形に変形を重ねていく。

「そろそろ、完全に元の形を失った頃だ。これから理想の形に近づいていくぞ」

これまで変化のなかった、胸板についている2つのポッチが、ブクッと膨らんだ。と同時に、体中から左胸に何かがジュルジュルと流れていき、皮膚を水風船のように無理矢理に押し上げる。最初、リンゴサイズまでゆっくり膨らんだそれは、次には鼓動に合わせてブクッブクッと膨らむ。衝撃に耐えながら手で触ってみると、手の方は皮膚の中で何かがジュクジュクと出来上がっていく感触が伝わり、胸の方は何かに圧迫される感じがある。左胸の方も、右胸に遅れながら着実に膨らんでいく。

《ブルンッ!ブルンッ!》

膨らむごとに揺れるそれは、俺の目から下半身を隠していく。その有様に気を取られていたようで、髪はいつの間にか伸び、俺の視界の中に入ってきた。

「これが、俺の……髪……?」髪を手の上に乗せると、サラサラと滑り落ちていく。その手も、筋肉がすっかり落ち、スベスベとした細いものに変わっている。

《ガキッ!!》

「うっ……」肩の方まで目を写したとき、肩甲骨のサイズが一挙に変わり、肩幅が一回り小さくなった。その肩を撫でて、変化を体感していると、今度は尻のほうが熱くなってきた。

《ゴキゴキゴキッ……ビキキッ!!》

腰を触った途端、骨盤の形が変わり始め、大きく広くなっていく。メロンほどになった胸のせいで前からは目で確認できず、体を捻って何とか目視すると、ズボンが広げられている。次に、胸と同じように尻に何かが流れ込む感覚が伝わってくると、ズボンはさらにパンパンになり、丸い膨らみの形が外に押し出されていた。逆に、ウエストはギュッと絞られていく。

「んんっ……!!」俺の声も、2オクターブくらい高くなり、完全に女性のものだが、それよりも、股間から何かが吸い出されている。とっさに股をおさえると、これまで大切に育ててきたものが、体の中に引っ込んでいく。そして、下腹部に何かができあがっていく。女性にしかない器官、子宮だろう。これで、俺は晴れて子供を身ごもれる体になったわけだ。全然うれしくないが。

ズボンの上から、脚を触ると、ほどよく筋肉は付いているが、柔らかくムチムチとしたものになっている。

「終わったみたいだね」先生に言われて、椅子を立つ。そして鏡を見ると、思い浮かべた通りの理想の女の子が前にいた。モチモチとした胸を手に乗せてみると、ムギュッと歪んで、目からも手からも柔らかさがいやというほど伝わってくる。

「どうかね?」

「すごい……です」はっきりいって、めちゃくちゃ可愛い。鏡の前でポーズをとりまくったあと、俺は、とりあえず帰ることにした。

服を着ようとすると、胸の先端が擦れて、経験したことのない刺激で気がおかしくなりそうだったが、何とかこらえた。それにしても、ジャケットを着た時点で、胸の膨らみが大きく前に押し出されてしまい、服がパンパンになって、恥ずかしい格好になった。

「今日は、ありがとうございました」「お元気で」

先生と挨拶を交わし、診療所を後にした俺だった。

環境呼応症候群 リツイートの子

「今日のネタツイートも反応ないなぁ……」

パソコンの画面をまじまじと見つめる少女がいた。

「フォロワーの数もだいぶ増えてきたのに、なんでかなぁ……」

目を落とし、ぺったんこの胸を触る少女、円谷 律(つぶらや りつ)のその行動は、一見脈絡のないものに思える。しかし、彼女がわずらっているメタモルフォーゼ症候群のことを考えると、SNSサイトでの自分の投稿があまり拡散されないことと、彼女の小学生のような体型が関連づけられる。つまり、彼女の場合、投稿がどれだけシェアされるかで、身体の大きさが変わるのだ。

「ああん、もう!」ショートヘアに、前髪に髪留めを2つ並べて付けたその頭を、引っ掻き回す。「どうしてよ!」

少女は、パソコンの画面の左上に貼りつけられた写真を睨む。そこには、前途有望なスタイルをした中学生が映っている。何を隠そう、この中学生こそが律なのだ。発症前の彼女は、今よりも頭一つ大きく、Bカップのバストを持つ普通の女子中学生だった。それがある日、突然ピリッと電流が走ったかと思うと身体が小さくなり始め、それ以降少し成長したり若返ったりを繰り返し、2ヶ月くらい前にやっと症状が何に依っているかが分かったばかりだ。

元々得意だった絵の技術を磨いて人気が取れるイラストを描き、拡散されやすい投稿はどういうものか研究し、とにかく自分の身体が元に戻るように努力を惜しまなかったが、今のところ効果は見られず、彼女は小さいまま学校での不便な生活を強いられていた。

パソコンの電源を付けたまま、律は布団に飛び込んだ。「もう、どうしろっていうのよ!!」考えても考えても、これ以上の方策が思いつかなかった。何もかも考えたつもりでいた彼女は、自分の症状に気づいている者が律自身だけではない可能性にまでは考えが及んでいなかった。

次の日。いつものようにブカブカの昔の制服を着て登校し、自分の席についた律。ぼーっとしながらケータイを眺めていると、彼女の机の前に、発症する前からずっと想いつづけていた男子生徒が近づいてきた。

その少年は、ぎょっとした律をまじまじと見た。「え、なに……?」律はなにが起こっているかわからず、男子に尋ねる。彼の名前は日下部 太一(くさかべ たいち)。サッカー部のエースである太一は、律に限らず多くの女子生徒に好意を持たれている。鍛え上げられた恰幅のいい身体は、律の小さなそれとは対照的ですらある。

「あ、あの……」律は、ずっと自分を恥ずかしくなるほどじっと見つめている太一に、もう一度声をかけた。すると、やっと気づいたのか、太一はなぜか震えた声を出した。

「円谷、だっけ……メタモルフォーゼ症候群の……」

律は、話したこともなかった太一に自分の名前を覚えられていることにドキッとした。なにしろ、律はこれまで教室の端から彼に見とれていることしか出来なかった。それくらいは、クラスの女子の誰もがやっていたことであって、律が特別視されるほどのことでもない。

「なんで、私の名前を……」律は、なおもじっと自分を注視している太一に問いかける。そのときだった。

《ブーッ》

「んっ……」ケータイのバイブが作動すると同時に、律の体にトクンッと小さくも普通とは違う鼓動が響いた。律は、そのバイブが、自分の投稿がシェアされた通知であることに気づいて、自分の手をじっと見た。案の定、手指が合わせて5mmくらい伸び、それで終わる……はずだった。

《ブーッ……ブーッブッブブブブブブ》

手から目を離した途端、ケータイのバイブが、ものすごい早さで繰り返され始めたのだ。

「え、何っ!?」律がケータイをポケットから取り出すと、通知欄がすさまじいスピードでスクロールされ、10回、20回、いや30回と、シェアが非常に早いペースで何回も行われていることを示した。

「ちょ、ちょっと待って……ってことは」

《ドクンッ!!》

これまでないほどに強い衝撃が、律の体を襲った。「ひゃうん!」

《ニョキッ!!》

律の奇声とともに、右腕が伸びた。長さが一気に2倍くらいになって、袖口から飛びだしてきたようにも見えた。左腕もピクッ、ピクピクッと震えたと思うと、バァン!と伸び、右腕と同じ長さになった。

「や、やっぱり、円谷って……」「あ、あぁああっ!!」太一の言葉を遮るように律が叫ぶ。

《ムギュギュギュッ!!》

と、そのスカートから伸びる脚が形をゆがませる。「噂通りだ……」太一は、その脚を机をどけて確認しようとするが、律は恥ずかしさから伸びた腕で隠そうとする。その間にも脚は伸長をはじめ、最初は地についていなかったのが、地面に押し付けられるように成長する。

「円谷、元の姿に戻るんだな」「たいち、くん……なんで、わたし、のこと……」上半身の成長と共に、律の目線がクックッと上がり、太一のそれに近づいて行く。「オレ、実は円谷のこと気になってたんだ……だが見ろ、あんなに小さくなってしまって……告白しづらくなってたんだよ」

変身を終えたらしい律の体は中学生の平均的なものに戻っていた。ブカブカだった制服はちょうど良くなり、突然の憧れの人からの告白にドキドキする心臓の動きが、制服の上からも分かった。「太一くん、そうだったの?本当に?」

信じられないという顔をしている律に、太一は顔を赤らめながら頷いた。律は、喜びのあまり席から跳ぶように立ち上がり、太一に抱きついた。「ちょ、ちょっと円谷……」「太一くん!私も、ずっと、あなたのこと……っ!!??」彼女の返答は、途中で止まってしまった。

《ブブブブブブブーッ!》

スカートの中にいれていたスマホが、再び狂ったようにバイブを作動させはじめたのだ。彼女の投稿が、さらにシェアされている……つまり、律がさらに成長することを示唆していた。

「う、うそ……でも、私、元に戻ったから、もうこれ以上は……ひゃああっ!!」

《ムクムクッ!ムギュッ!》

ぴったりになった制服の胸の部分が、今度は異常なまでに盛り上がった。襟口から、むぎゅ、むぎゅ、と脈動しながらおっぱいがこぼれ出してきて、左右に引っ張られた服には先端の突起の形も含めてくっきりと律の成長して行く乳房の形が浮き上がっていた。Dカップだったそれは今やメロンサイズで、それでもなお膨張をやめようとしない。

「私、もっと、大きくなっちゃうぅ!」

体の成長からくる慣れない感覚に、体をのけぞらせる律。そのせいで、巨大化し続ける胸の膨らみがさらに強調され、胸は上に向かって、ブルン、ブルンン!!と突き上げるように成長する形になっている。それを支える体の方も大きくなり、最初は140cmもなかった身長が、1回目の成長で160cmになったのもつかの間、もう170cmに達しようとしている。

膨れ上がる律の体を包んでいる制服にも限界が近づいているようで、律の頭が軽く入る程度になった乳房が、服の上からも下からもはみ出し、縫い目がブチブチとほつれていく。

足もムチムチと成熟し、ソックスが太ももに食い込んでその柔らかさを強調していた。

《ムギュッムギュッ!》

「ひゃんっ」尻は胸と同じく、周期的に体積を増し、パンティが引きちぎれる音がスカートの中から聞こえてくる。

「ん、んんっ……」「す、すごい……」太一の目の前にいる少女は、この10分にも満たない時間の間に、幼い少女からグラビアアイドルも顔負けの長身爆乳女性に育ち上がっていた。最初は、座っていたせいもあるが、見下ろす状態だったのが、今は自分より頭一つ大きく、激しい変化を見せつけられた少年は、大きな興奮を覚えていた。

「太一、くん……」幼さがすっかり抜け、色気すら感じさせる声で尋ねる律。「教えて、なんで、私の病気のこと、知ってるの?」

だが、太一の方は放心状態で、応答するのに少しかかった。「病気のこと?あ、いや、俺も今日聞かされたんだよ。円谷のこと観察していたやつがいてな。一週間くらいで気づいたらしい」

たどたどしい言葉だったが、律は何とか理解した。どうやら、毎日変わる律の体の大きさと、SNS上での律のシェアのされ具合を両方とも観察していた者がいるらしい。律はそこでハッとした。その人物が、知り合い全員、いや学年全員、いや、学校全員に投稿をシェアをするように仕向けたら……

「ところでさ、円谷……」鼻息が荒い太一が、しどろもどろに言葉を発した。「その……おっぱい触ってもいいか……?」

初めて話す女子に聞くことでは到底ないその質問への答えはしかし、与えられることはなかった。スマホが、これでもかとばかりにバイブを作動させていた。律は、再び自分を襲い始めた体が爆発しそうになる感覚に耐え、SNSアプリを起動し、通知欄を見た。

「嘘……でしょ?」

思ったとおり、シェアの数がうなぎのぼりになっていたが、その数は全校生徒の5分の1にも満たなかったのだ。

「これでこんなに大きくなるの……?そんな、私、どこまでおおきく……」スマホの振動とともに、体の中にバネのように溜め込まれていく力を感じる律。胸を触ると、細かく震えながら段々と張り詰めていく。制服は、強くなって行く胸の弾力にギチギチと悲鳴をあげ、生地自体が引きちぎられて肌色が露出しはじめた。そして……

《ドクンッ!!!!》

「ひゃああっ!!」強い心臓の拍動のような衝撃とともに、ついに成長が再開される。溜まっていた力が解放され、律の体はグワッ!グワワッ!と押し広げられる。

《バインッ!ボワンッ!》

胸も爆発するように何回も膨張し、制服はたまらず破れてしまった。

「いやんっ!」制服から拘束を解かれ、ブルンッ!と外に飛び出したそれは、一つ一つに赤ん坊が入りそうなほど巨大で、それでもまだまだ大きくなり続けている。スカートも腰の部分から破れ落ちてしまったが、律はデリケートゾーンを何とか隠した。胸は不釣り合いに大きくなっているものの、背も190cm、210cmとグイグイと伸び、そしてついに……

《ゴシャッ》

「あいたっ!」天井に頭がついてしまった。その頃には、たゆんたゆんと揺れる二つの果実はバランスボールくらいになり、元の小さい律が入ってしまいそうだった。

「これじゃ、教室に潰されちゃうっ!」律は、成長をやめない体がつっかえてしまわないように、前に両手をついて屈んだ。

「あっ……」

後先考えずに行ったその行動で、太一は巨大な乳房の下敷きになっていた。「重い、重いっ!」「太一くん!」律は急いで胸をどかそうとするが、太一の様子がおかしい。

「幸せ……」自分の体を包み込む柔らかさに堕ちてしまっているのだ。そんな太一をよそに、律は更なる成長を遂げようとしていた。

《ピクピクッ……ドワァン!!!!》

右胸が細かく揺れると、一気に二十、三十倍の大きさへと拡大し、周りにあった机や椅子や生徒を吹き飛ばした。衝撃波で、教室の窓という窓が割れ、黒板にヒビが入った。

《ムギュギュ……ドォンッッ!!!!!!》

左胸も、ゆっくり拡大を開始したかと思いきや、右よりも強い勢いで爆発し、教室の半分が律の胸でうめつくされていた。

《ドックン!!ドックン!!》

今や、胸の脈動は教室全体を振動させるほどに強くなり、鉄筋コンクリートの建物を崩壊させようとしている。教室の床に横たわる二つの大きな肌色の塊は、天井や床のタイルをえぐり取りながら侵食を続け、その度にドユンッ!!と振動する。律は、自分の乳房に寄りかかりながら必死で止めようとした。

「も、もう大きくなるのはいやぁ!」

結局、教室の全部が埋め尽くされるまで成長は続き、窓からはみ出したり、床と天井が乳房の弾力で大きく歪むほどに、律、いや、律の胸は成長したのだった。

それから幾日か経った後。

「太一くぅん!」
「お、律か。おはよう」

太一に手を振りながら駆け寄って行く律の体は、大きかった。中学生にしては大きすぎる170cmの体から突き出ている、Iカップくらいの胸の膨らみが暴力的に振動する。

なぜ律が成長したままになったかというと、校内全体に律の病気の特性がばれてからというもの、つまらない投稿でもシェアする生徒が激増したのだ。それでも、際限のないシェアはされず、律は常識的なサイズで、といってもかなり大きい方だが、生活することができていた。

「私、こんな写真撮っちゃったの」
「どれどれ……?ブフゥッ!」律から手渡されたスマホを見て、太一は吹き出してしまった。今の体のサイズで撮った、律のヌード写真だった。胸のサイズを強調するようなポーズを取り、その質感が伝わってくるかのようだ。

「ど、どうかな……?」律がはずかしそうに聞く。「つい嬉しくって、撮ってみたんだけど」「とうこう……してやる」

「え?」太一にあまりに小さい声で反応され、律は聞き取ることが出来なかった。

「もっと、大きくなってもらう!」太一は、素早くスマホを操作し、写真をSNSに載せてしまったのだ。

「えっ……」律は一瞬困惑したが、すぐに笑顔になった。「そうだよね、太一くんも、おっぱい好きだもんね」

律は自分でボタンを外し、外に飛び出し、膨らみ始めた乳房を太一に見せつけた。

「私で、いっぱい、楽しんでね!」