環境呼応症候群 評価の子

「これで、準備はよし、と……」

私は、葉隠愛真(はがくれ いとま)。外見からだと、中学生と思われるかもしれないが、立派な大学生だ。といっても、もともとこんなに小柄なわけではない。高校の卒業アルバムを見れば、いまよりも成長した私がそこにいる。

「で、服は脱いで、と……」

今は、私の一人暮らしの部屋、三脚に固定したカメラの前でパソコンを広げている。伸縮性のある水着――今の私には大きすぎるビキニを肩からぶら下げ、私がやろうとしていることは、私の姿をネット配信することだった。

「うわぁ、他の配信、エグい……」

普通の配信サイトではない、たった1年前まで私も年齢的には閲覧すらアウトだった、そういうサイトに、ライブ配信をするのだ。

その理由は、広告費でお金が欲しい、ということと、私がメタモルフォーゼ症候群にかかっていることの二つ。メタモルフォーゼ症候群とは、近頃一部の界隈で話題になっている、自分の置かれている環境に応じて体の大きさが変わってしまうという奇病だ。例えば、気温に反応して症状がでる患者は、暑ければ大人の体に、寒ければ子供の体になる。

「でも、そろそろ始めなくちゃね」

そして、私は、たくさんの人にプラスの評価を受ければ受けるほど体が大きくなり、マイナスだったら引き算されて小さくなる。でも、幼稚園児サイズより小さくなることはないみたいで、胎児になって消えてしまうとかいう命の危険にさらされることはない。大きくなる方は……今のサイズより大きくなるほど、評価を受けられないから、どうなるかわからない。年を取って死ぬなんてことは、ないはず……だよね。とにかく、私はもう少し大きくなりたかった。

「配信開始っと……」

使い捨てのマスクをはめて、配信を始めるボタンをクリックする。少しローディングの時間があって、その後に床においたノートPCを見つめる私が映った。

「えーと、コホン……」

他の配信は、ほぼみんな男女同士がアレコレやっているものだ。女子中学生が一人で映っているなんて配信、誰も来ないかも、とも思っていたけれど、そういう趣向の人もいるらしい。10人くらいが、すぐに配信を見に来た。その後も、ちらほらと増えていく。

「み、見に来てくれてありがとうございます……」

直後から、段々私の視線が下がり始めた。この18禁のサイトで、貧相な中学生が映っているだけ。そんなの、低評価を受けるに決まっている。だけど、最初はそれが狙いだった。

「ひゃっ、ち、小さくなっちゃうっ……」

そして、カメラに近づいて、膨らみかけだった乳房が縮んでいくのを、アップで見せつける。

「私、悪い評価を受けると、子供に戻っちゃうんですっ」

来場者数は減ることはなかったが、増え方も鈍ってきた。そして、20人ほどになっていた視聴者は、私が言ったことを信じていないようで、どんどん評価が下がっていく。

「だ、だめぇっ、私、赤ちゃんになっちゃう!」

私にカメラがどんどん高くなっていく。ついにレンズと私の背の高さが同じくらいになった。小学生低学年くらいになったのだろうか、でも、そこで変化が止まった。

「やっと……止まったぁ……怖かったよぉ……」

小さい子供って、こんな感じに振る舞ってたっけ?と思いつつ、泣き顔をしてみせる。すると、世のロリコン達の心をつかんだらしく、来場者数が上がり始めるとともに、体が熱くなっていくのを感じた。

「こんどは、おっきくなってく……」

コメントは見ていないけど、高い評価を受けているらしい。それも、段々人数が増えて、体の中の熱は強くなっていく。足を見てみると、ぐぐぐっ……と伸び始めたところだった。胸には、段々脂肪が付き始めたのか、少し痛いくらいの張りを感じる。
「これで、元に戻れる……」

だが、その台詞に端を発したのか、視聴者達、つまり幼児体型趣向の人が低評価を出し始めた。長くなりかけた腕が、ヒョコッと短くなり、体が小さくなって、地面がかなり近づいた。

「あ、ダメっ……」

今の状態では、カメラに映らない。もう少し遠ざかろうにも、配信として見えづらくては低評価を受け続けるだけだろう。私は三脚に近づいて、何とかカメラを下に向けようとする。だけど、その間にも体は小さくなって、最小サイズの幼稚園生に戻ってしまう。
「え、えいっ」

そんなことになることも見越して、カメラには紐を付けてある。本体には手が届かなくなってしまったけど、それを引っ張って、カメラを無理矢理下に向けることができる。だけど、それじゃ見ている方も多分面白くないんだ。
「と、届かないよ……」
必要のないジャンプをしながら、涙声を出す。私は、昔は演劇部で花形を務めていたこともあって、こういう演技は得意なのだ。

そして、少し体が大きくなり始めたのを確認し、紐を引っ張ってカメラの角度を下げた。……今だ。

「や、やったぁっ……」
ロリの上目遣いの泣き顔。破壊力抜群の光景に、一気に評価が跳ね上がった。つまり……

「ひゃんっ!」
胸からおっぱいが飛び出した。本来の私くらいの、平均的な女子大生の胸が、ゆっくりと小学生になりつつある私の体にフルフルと揺れながらくっついていた。その後に、脚がぐぐいっと大きくなり、一瞬前に顔があった位置に、太ももが来た。配信画面には私の太ももがゆっくりとムチムチになっていくのが映っているだろう。

カメラの向きを上げようとすると、腕もぎゅぎゅっと伸び、上げ終わったあとに、上半身が伸びて腰がキュッと締まった。

「ごめんなさい、これが本来の私なんです……」

ビキニに胸を納めると、さらにそれは膨らんで、いわゆる「普乳」から「巨乳」へとレベルアップする。カメラが胸よりも下にあるせいで、私の視界から一瞬カメラが消えた。

私は少しカメラから遠ざかったついでに、PC画面を確認する。視聴者数の増え方が、さっきよりかなり速くなっている。200人くらいだったのが次の1秒は300人、次は500人。急激に変身したのが大勢の目に留まったらしかった。

こんなにたくさんの人に一気に評価を受けたら……

ギュギュギュギュ……と胸に圧迫感を感じた。背もどんどん高くなって、天井が近づいている感覚もしたが、それよりも……

「水着が、食い込んで……!!」

店で見つけたなかで一番大きいものを選んだはずが、私の胸がそれをかなり上回るサイズになっている。紐が食い込んで、乳房が大きく形を歪ませていた。

「きゃああっ!!」

ビキニがビチッと破れた音よりも、左右のおっぱいがバインッと互いにぶつかる音の方が、そして、その勢いで押し倒されたカメラが、ガタンッと床に落ちる音の方が大きかった。

「きゃんっ!!」

その瞬間、私の体は破裂した風船のようにパンッと音を立てて、またもや園児サイズになった。カメラが倒れたせいで、配信画面は天井を映すわ、とても大きなノイズが飛んで来るわで、評価が下がったに違いない。

「カメラ、壊れてないよね……?」

ノートPCの画面を見ると、配信はちゃんと続いていた。画面に映っている、秒針を動かし続ける時計が、それを証明している。それよりも。

「1000人……!?」

100人のロリコン達が、高評価を与えただけで私の成長は急になって、500人の時は日本人では考えられないサイズまで成長した。この配信を続けたら、大変なことになってしまう。

私は、カメラを両手で取り上げて、それに向かって謝った。

「ごめんなさい、この配信は終わり……ひゃああっ!!!」

なぜ、何も言わずに配信を切らなかったのだろう。と、その時考えても遅かった。全身が燃えるように熱くなる。1000人を超える視聴者達が、「もっと見たい」という評価を、私に、私の体に、向けていた。

「あつい、あついよぉっ!!!」

もう演技でも何でもない、心からの叫びを、配信してしまう。熱さのせいで、カメラを私から逸らすことも忘れて。

ここからは、私は何も覚えていない。熱さから気を逸らすのに必死になってカメラを握っていたのだけが、私の記憶。だから、ここからは配信の履歴映像だ。

――私が映っている。両腕で握っているはずなのに、映像はブレがなく、かなり安定している。そして、体温が上がっていく私の皮膚が、赤みを帯びていく。私は、歯を食いしばって、目を閉じている。
その映像に、ゴゴゴゴと地鳴りのような音が加わる。見ると、短くぷにぷにとした腕がぐにぐにと変形し、段々長くなっている。この音は、私の体が変形していく音らしい。ゴキゴキと骨が軋む音も混じっている。
ぽっこりしたおなかも、一瞬膨らんだり、元に戻ったり。でも、やっぱり全身がどんどん成長している。胸はペッタンコのままだけど。

ここからはさらにおかしなことになっていた。映像に映る、私の両手が空いていた。つまり、カメラが私の手から離れている。地響きのような低い音は消え、視点が私の周りを動き回っている。
――まるで、私ではない他の誰かが、私を撮影しているように。
でも、その動きは人間のものじゃなかった。視点は素早く移動し、上下左右前後と、自由自在に、とんでもない動きをする。でも、誰の息も聞こえない。聞こえるのは、スタタタッという……足音?

『ん、んんんっ……』

幼稚園生サイズになっていた私は、いつの間にか高校生ほどにまで成長している。でも、私が本当に高校生だったときより、かなり貧相な気がする。

『あっ!!』

バランスが悪いせいか、私は後に倒れ、尻餅をついた。腕を後ろにして体を支え、まだまな板のままの胸を前に突き出す形になった、その突き出た胸部を、斜め上から急にアップで撮影し始めるカメラ。
すると、それが合図になったかのように、ゴキゴキと成長を続けているその肋骨の上で、乳輪がググググ……っと広がり、同時に乳首が膨張する。そのまま大きくなっていく胸の先端。

『ふっ、くぅっ……』

その下で、ついに膨らみ始める私のおっぱい。水を入れられる水風船のように、フルフルと揺れながら膨らんでいく。徐々に巨大ともいえる大きさになっていくそれを、今度は伸ばしていた脚の上からの視点で撮影し始めるカメラ。視界の下の方に入ってきた太ももは貧相そのもので、どんどん膨張する胸とはアンバランスだ。だけどそれもつかの間、上半身の方から脂肪が詰められるかのように、ムギュッ、ムギュッと、太く、太く、それでいて張りは保ったまま、太ももに肉が付いていく。その後で、尻にも膨大な量の体積が加わり、成長を止めない骨格も相まって、さらに頭が遠ざかっていく。

今度は、視点は私から距離をおき、横から眺める形になった。私はもう、2mくらいの身長になっていて、それでも大きく見えるくらいのおっぱいがタプンタプンと揺れている。全身汗だくで、その汗の流れる方向が、生々しく私の立体感を強調していた。成長スピードは下がるどころか、さらにスピードアップしている。やがて、部屋全体でも窮屈なくらいに、サイズが増えていく。

……と、そこでノートPCが破壊されたのだろう、配信は終わっていた。現に、私のノートPCは潰されてめちゃくちゃになっている。配信が切れたことで評価が下がったのか、気づいたときには私は普通の大学生くらいの体に戻っていた。
でも、時折胸がボンッと大きくなったり、また縮んだりしている。視聴者の間で意見の交換とかがあって、それで今でも評価が変わっているんだろうと思う。

この録画がネット上を出回ったら、私の評価は絶えず上がったり、下がったりするんだろう。いつか落ち着くときは、どんなサイズになっているのか、私にもわからない。

ドリンク剤

「泣いても笑っても明日が期末試験だ、みんなやるぞ!」
「はぁ……」

とある賃貸アパートの一室。小さいテーブルを囲んで男一人、女三人、合わせて四人の大学生が勉強会を開いていた。

「もう疲れたよ……」ブツブツ言いながら数行にも渡る数式を書いていた未来(みらい)は、シャープペンを机の上に投げ捨てた。「休憩したいな……」

「おいおい、まだまだこれからだろ、赤点取ったら補修で夏休み潰れるんだぞ?」机の上でぐでーっと伸びてしまった未来を、諒(りょう)が諌めようとする。とはいえ、彼のノートもあまり埋まっておらず、消しゴムのカスより、周りに散らかった空になった菓子の袋のほうが目立っていた。

「みーちゃん、がんばろうよー」おっとりとした声で、橙子(とうこ)も未来を励ます。

「橙子はおっぱい大きいよなー」未来は、そんな友人の励ましをスルーして、橙子の服を大きく押し上げる胸の膨らみを見つめる。「美人さんだし、天然さんじゃなきゃ、アイドルの方が似合ってるよ」

「お前、こんな時に何オヤジくさいこと言ってんだよ……」
諒はそう言いつつ、未来と同じく橙子の胸に見入ってしまう。

「諒くん、未来!二人ともいつまで橙子の胸見てるの!全く恥ずかしいわ!」
四人のうち一人だけ、背の低い、そらが騒いだ。橙子も未来も大体160cmくらいの平均的な背丈の中で、130cmほどしかないそらがいるせいで、大学生の中に中学生が混じっているような錯覚さえ覚える。しかし、四人の中で一番勉強が進んでいるのは彼女で、この勉強会もそらが開いたものだった。

「もう、そらは嫉妬しちゃってー!」
「ち、違うってば!」未来にからかわれ、顔が真っ赤になるそら。

「あ、そうだ、アタシこういうのもってきたんだけどー」
教材を入れるためのカバンから、エネルギードリンクのビンを4本取り出し、机の中央に並べる橙子。

「あら、気が利くじゃない。えーと……なにこれ……」
そのビンには、【胸が大きくなる薬】【胸が小さくなる薬】【ムチムチになる薬】【いろいろと大きくなる薬】……と油性ペンで書かれたビニールテープが貼り付けられていた。

「見ての通りだよ!」
もう【自分は嘘をついています】と言っているようにしか見えない顔で未来がニヤついた。隣では諒が吹き出し、橙子が首をかしげている。
「あ、あなたねぇ……」

「ふん、いいわ、乗ってあげる。ちょうど疲れてきたところだし……」
そらは、呆れ果てながら【いろいろと大きくなる薬】の、ラベルというには安っぽすぎるテープが貼られたビンを取り上げ、フタを空ける。すると、バチバチッと新品のドリンク剤のフタを開けるときと同じ音がした。
「(やっぱり普通のドリンク剤にテープ貼っただけじゃないの……)」

中からする香りも「オ○ナミンC」そのもの。それを、グイッと飲み干すと、炭酸が強かったせいか、口からピリッとした刺激が伝わってきた。ただし、味は普通のドリンク剤だった。
「はぁっ、生き返る……」栄養を受け入れた脳が冴え渡っていくのを、そらは感じた。
「ねー、もうちょっと面白い反応してくれてもー」未来は、そらがドキドキしながらドリンク剤を飲んだり、飲み干したあとに体の様子を見てみたりするリアクションを待っていたらしい。

「だって、あからさまに普通のドリンク剤じゃないの……ほら、あなたたちも飲みなさいよ。続けるわよ」
そらの前で、未来と諒がつまらなさそうにドリンク剤を飲んだ。

「橙子も、なにぼーっとしてるの」そらが促すと、ドリンク剤が出てきたところからキョトンとしたままだった橙子はやっと動いた。
「えーとね、どうやったら胸が大きくなったり、小さくなったりするのかなーって思って」

「あー、未来の嘘だから、大丈夫よ。何も起きないから」
「そうなんだー」橙子は安堵の吐息をもらして、【胸が小さくなる薬】というラベルが貼られたドリンク剤を飲んだ。

「ほんと、皮肉よね、胸が大きい橙子がその『薬』を飲むなんて……」
「うぅっ!」
「と、橙子!?」

いきなり聞きなれない大きな声を出した橙子に、三人が目を丸くした。
「ど、どうしたんだ橙子!」
「か、体が熱く……あ、あついぃっ!!」

体の熱を逃がそうとしたのか、橙子は急に服を脱ぎ出し始め、下着だけになってしまった。諒は突然の出来事に目をそらしたが、すぐに視線を戻した。
「あついよ、あついよぉっ!」

汗だくになった橙子からムンムンとした香りが解き放たれる。そして、それは起こった。
「橙子、胸、小さくなってない!?」
「え、えっ!?」

噴き出す汗に体積が持っていかれるように、胸がしぼみ始めていた。その証拠に、少し小さいくらいだったブラに大きな余裕が生まれ、それはどんどん大きくなっていっている。
「お胸が、なくなっちゃうっ」
リンゴの大きさだった胸は、あれよあれよと縮み、ついに橙子の胸はペタンコになってしまった。
「どうして……?あ、でも、体が軽いかも……」

こんな時にも天然な彼女だったが、戦慄を覚えざるを得ない他三人。
「お、俺、何飲んだっけ……!?」
「アタシは、【ムチムチになる薬】……ってことは」
「俺は【胸が大きくなる薬】?ハッ、男の俺に胸なんて……ぐぅっ!!」
諒は、急に胸を押さえ苦しみ始めた。

「諒!?大丈夫……ひぃっ」
諒に手を伸ばした未来だが、その諒の腕がギュッと音を立てて細くなったのを見て、腰を抜かしてしまった。
「お、俺、どうなるんだっ……げほっ……あ、ああっ……」
バリトンの男声が、女性のようなアルトへとトーンを上げる。この時点で、察しのいいそらには分かってしまった。

――諒の体は女のものに作り変えられていっている。

「な、なんだよっ、普通のドリンク剤じゃなかったのかよっ!!」
パニックで声を上げる諒だが、その間にも髪が伸び、ロングヘアになる。
「そのはずだよ、でも……」

「うああぁっ!」
痛みのせいか急に立ち上がり、敏感になっていく肌のせいか服を脱ぐ諒。その体はまだ男のものだったが、筋肉がどんどん萎縮し、脂肪へと変換されていく。その代わりという感じに、乳首がムクムクと膨らみ始め、褪せていた色が赤みを帯びていく。
「う、うそ……」
未来もついに何が起こっているか分かったらしく、顔色が青ざめていく。その答えと言わんばかりに、今度は全身からのゴキゴキという音とともに、骨格が変化し始める。肩と胸が絞られるように狭くなり、つられるように肩幅も狭くなっていく。顔の形も変わり、ゴツゴツとしていたものがスッと端正なものに変わる。腰も太くなり、膝が引っ張られるように内側に向いていく。そして、身長自体も減っていき、ついには未来よりも背丈が低くなってしまった。

「ん、んんんっ!!」
最後に、体が小さくなった分余った脂肪が、かき集められるように、胸へ、尻へと動いていく。鎖骨がはっきり見えるほどだった胸が、刻一刻と水風船のようにプルプルと震えながら膨らみ、未来の、そして元々の橙子のそれをも追い越し、メロン大まで膨らむまで、かかったのはたったの一分くらいだった。尻にもプリッとした張りのある膨らみが付き、そこで変化は終わった。

「りょ、諒……?」
そこに立ち尽くす諒に声をかけた未来。

「お、俺が、お、女に……」
変身の中でも自分の体がどうなっているのかは分かっていたらしい。諒はそのまま、机の上に置いていたスマホを手に取った。

「……諒?」
「おー、まさに俺のタイプ……」
自分の新しい姿に惚れてしまったのか、気持ち悪い笑みが浮かんでいる。が、その表情がすっと変わる。そして、いかにもしおらしい声で台詞を吐いた。

「諒くん、今日一緒に、海、いかな……うおおっ!!」
最後まで言う前に興奮する諒に、呆れる未来とそら。

「だ、だが、俺は男だ……よなぁ……、まいっか、いかにも童貞らしいアイツを弄ってやるか……そうだなー……あ、あの……新田くん、ちょっといいかなっ」
胸を強調するポーズを取る諒。一人劇場がいつまでも続くかと思われたが、その諒の視線が、未来に止まった。そして、震え始める。

「み、未来ちゃ……未来……」
「なに『男だ』とかいいながら早速女に染まり始めてるんだ……」
ツッコミを入れる未来だが、諒の震えは止まらない。
「お前、太く、なって、ないか……?」

未来は、そのときになって初めて、自分の体に服が食い込み、圧迫感が加えられているのに気づいた。
「ま、まさか……」
その理由はもちろん、服が小さくなったのではなく、未来の体自身が【ムチムチ】になり始めていたためだった。
「いや、いやっ、ダイエットがんばって体重キープしてたのにぃっ」

「(そんな……いや、あれは確かに普通のドリンク剤だったのに……)」そらは、自分の身にも迫りつつある『薬』の効果に恐怖し……そして若干期待しつつ、その顛末をみていた。

少し痩せすぎにも見えていた、短い丈のスカートから出ている未来の脚が、ムギュッ、ムギュッと膨らみ始めた。
「だめぇっ、ムチムチなんかいやだぁっ」
その脚の成長を抑えようと、手を押し付けるが、効果があるはずもなく、太さは元の3倍くらいになってしまった。

「こ、今度はおなかがっ……」
未来が服を捲し上げ、見事なクビレができているウエストがあらわになった……が、それもつかの間、下腹部にむっちりとした肉がついた。

「スカート、苦しっ……」
未来はスカートのホックを外したが、それでも間に合わず、ビリッと破れてしまう。次の瞬間には胸がブルンッとゆれ、膨らみだして服がパンパンになる。

「もう、もうやめて……っ」
あっという間に限界に達した服が破れ、タプンタプンと巨大になった乳房が現れた。ブラジャーはその付け根に巻き付くだけで、全然役目を果たしていない。

服というカラを破って出てきたようになっている未来の体は、文字通りムチムチに成長し、元のスレンダーなものとはかけ離れていた。しかし、肥満の領域までは行っておらず、肉感的な体、という感じである。

「未来、ドリンク剤、だよね……これ」
「そうに決まってるじゃない!!それよりも、【いろいろ大きくなる薬】、だったよね」

未来は涙目だが、そらの方をかなり不安そうに見ている。

「あなたが書いたんじゃないの」
「そうだけど……実は道端で会ったお兄さんにドリンク剤渡されて、効果を書いたビニールテープを張れば本当にその通りになるって言われて……でも、そんなことより!」

「あ、きた……」
「そら!」
そらは、段々と体全体が熱くなってきているのを感じた。

「あついわね、確かに……あつい、あついぃっ!!」
体中が炎で焼かれるように熱くなるのに耐え、そらは自分の左の手のひらを見る。すると、引っ張られる感覚とともに、子供っぽかったそれが、長く、細く、大きくなった。

「ううっ、でも、服、脱がないとね……!」
右の手のひらも大きくなるのを感じながら、服を脱ごうとするが、あまりの熱さに手元が狂ってしまう。諦めて、そらは自分の変化を観察することにした。
「腕もっ……長く、なってきてるっ……」
ゆっくりと、しかし着実に成長する腕。その奥に見える脚も、長くなる。未来と同じ長さまで長くなるとそれは止まったが、今度は体が上下に引っ張られる感覚がしはじめる。

「ふふ、これで、背がっ」
小さく頼りなかった体が、横にも、縦にも伸びていく。脱げなかった服がいたるところで裂け、肌色が見える。
「ひゃんっ!」
ここまで、伸びるだけだった体に、一気に肉がついていく。手足が健康的に膨らみ、尻にも適度な脂肪がつく。
「む、むねがぁ……」

胸に何かが凝縮していく感覚がする。同時に、目の前でも、腹までの平坦なラインの上に、膨らみができていく。

「わ、私に……おっぱいが……」
その膨らみの中にムギュギュギュ……と何かが詰め込まれていく。そしてどんどん膨らみは大きくなり、Dカップほどになると、成長は止んだ。160cmくらいになった体の熱も、引いていく。

「まあ、みんなの変化量からしても、これくらいが妥当よね」
新たにできた胸の膨らみを吟味しながら、そらは得意そうな笑みを浮かべた。

「そら、本当に大丈夫……?」
「何がかしら?」

「そら、私……いや、俺、実は、三分の一くらいしか飲んでない……の……」
恥ずかしそうに爆乳を隠しながら、女に染まりかけの諒が言う。
「え?」
「アタシもなの……」
おなかをプニプニしながら、まだ涙目の未来も言った。
「……え?」
「私は、全部のんだよー」
服を着直し、満面の笑みの橙子に、そらは耳を貸す余裕がなかった。

引き始めた熱が、また戻ってきていたのだ。
「うそ、うそうそうそっ!!!」

そして、そらの成長は再開された。乳房がムククーッと膨張し始めるのをみて、そらは胸をギュッと押さえた。
「こ、これ以上はいいのよぉっ!!」
だが、大きくなっているのは胸だけではなかった。手も脚も更に伸び、布切れになって巻きついていた最後の衣服を引きちぎりながら、体全体が巨大化していく。
「もう、大きくなんてなりたくないんだからぁっ!!」

そらの頭にゴツンッと何かが当たる。それは紛うことなき、部屋の天井だった。
「これじゃ、怪獣みたいじゃないのぉっ!!止まってぇ!」
しかし、成長は止まるところを知らず、部屋を埋め尽くしていくそらの体。

「ねぇっ、そろそろ逃げないと、建物が崩れちゃう!」
胸だけキツイ服を着た諒が、未来と橙子を引っ張り出した。アパートの骨格が、巨大化したそらの強大な力で歪んでいた。

「ああああっ!!!」
そらが大声を上げると、アパートはあっけなく崩壊した。

そこで成長は終わったらしく、身長10mくらいになったそらは、アパートの瓦礫の上に立ち尽くした。

「ど、どうしてくれるのよぉっ!!」

巨大な少女の叫びが、街全体にこだました。

ミルクショック(前編)

「ごちそうさま!」

幼稚園服を着て、4歳ほどの少女、美佐(みさ)は朝食を食べ終わった。

「こら、牛乳もちゃんと飲みなさい」
机の上の小さな陶器の皿。その上には、トースターのクズと、卵の黄身の欠片が残っているくらいだった。だが、その隣に置かれた小さなガラスのコップには、牛乳が注がれたまま残っていた。

「あ、忘れてた」
「もう、まだバスまで時間はあるんだから、横着しないの」
母親は、空になった皿を取り上げて、自分のものと重ねながら、クスッと笑った。娘が牛乳のコップを持ち上げるのを見て、キッチンへと皿を運んでいった。

「ん、ん……」
母親に言われたこととは裏腹に、一気に牛乳を飲み干す美佐。
「今度こそごちそうさま……」

ドクンッ!!

「うぅっ!!」
急に心臓が大きく鼓動し始め、美佐の体に衝撃が走った。そのショックで、コップを落としてしまう。構造が強いのか、床に落ちたコップは割れなかったが、美佐の体には周期的に衝撃が走った。そして、下腹部が焼けるように熱くなっていった。

美佐の体質は、変わろうとしていたのだ。それまで、何の障害でもなかった牛乳に対して、過剰な反応を起こしてしまう、そんな体質に。

そして、中に流し込まれたミルクに反応して、腸が脳へと強烈な信号を送り始める。
「あたま、いたいよ……!」
それは、牛乳を体の中で薄めるために、美佐の体を大きくするための信号。それを受け取った脳は、大量の成長ホルモンを分泌し始めた。

「う、ううっ!!」
暴力的とも言えるペースで送られるホルモンに、全身の細胞が分裂を始める。そして、心臓から送られる血液の流れと同期して、ググッ、ググッと美佐の体は成長を始めた。

「おてて、おっきくなってる!」
美佐の視界でまず目立つのは腕の成長だった。だが、その奥で、脚もぐぐ、ぐぐと伸び、4歳の体だった美佐は、小学生の域に達し、駆け上っていく。服も当然サイズが合わなくなり、長袖でスカートも長い丈だったはずなのに、いまやヒジやヒザがさらけ出されている。

まだまだ牛乳は吸収され終わらず、大量のホルモンは美佐の全身を駆け巡っている。そして、美佐の体が中学生の大きさまで近づいた時、二次性徴が始まった。

「おむね、チクチクする……!」
まず、乳頭が大きくなり始める。緩めの園児服もパンパンになっていたが、美佐は新しい痛みに胸を押さえた。さらに、乳腺とそれを包む脂肪が成長を始め、中学生の体相応のものに変わる。

「私、どうなっちゃうの……?」
脚にも、ふっくらとした皮下脂肪がついて、尻も膨らんでいく。高校生の体になるころには、むっちりとした太ももと、控えめのヒップができあがる。

「大人に、なってる……」
ググッ、ググッと成長を続ける胸は、Dカップくらいになって、園児服の下からはみ出す形になっていた。牛乳の吸収が終わったのか、体の成長は落ち着き、155cmくらいの身長になっていた。だが……

「おっぱい、まだ膨らむの……!?」
ムギュギュギュ……と大きくなるスピードを緩めない乳房。Fカップ、Gカップと巨乳からさらに先へとサイズアップしていく。そして……

ボムゥッ!!

「きゃあっ!」
乳腺の成長が急激に速くなり、頭一つ分のサイズまで一気に成長を遂げた胸。さらに、ドクン、ドクンと心臓が脈打つ毎に、一回り、また一回りと大きくなる。視界を埋めていく肌色の塊は、園児服の上からもはみ出し始めた。

「もう、止まって……!!」
涙目で胸を押さえる美佐。その願いが聞き届けられたかのように、胸の成長はそこでとまった。といっても、スイカサイズとなった胸は、160cmとなった美佐の大人としての体でもアンバランスだ。さらに、成長は終わったものの、次の段階が待っていた。
「なにか、おっぱいの中が、いっぱいになってく……」

牛乳の成分を体の中から排出しようと、乳腺にそれが集められていたのだ。胸の中に溜まっていく母乳によって、乳房は張り詰め始めた。

「いたい、よ……」
園児服も、ついにその張力に負け、ブチッと破れてしまう。乳房は球体の形に近くなり、乳頭も色が薄くなる。

「もう、出ちゃう……っ!!」
ついに、乳房いっぱいに溜め込まれた母乳が、ブシャァッと乳首から全方向に飛び散った。

「あ、ゆか、汚れちゃうっ」
乳房が少しやわらかくなったのを見て、白い液体を飛び散らせている胸の先端に口を当てる。すぐに口の中が一杯になり、美佐はそれをゴクンと飲み込んだ。

「ん、んんんっ!!!」
するとすぐに下腹部が熱くなり、美佐の体全体が、ギュギュッと一回り大きくなって、最後に残っていた被服もちぎれてしまった。先ほどと同じ、牛乳に対する拒絶反応が重ねがけされたのだった。美佐はとっさに口を離し、口の中に入りかけていた母乳を吐き出した。
さらに一回り大きくなった胸は床全体に母乳を撒き散らしたが、30秒ほどするとその流れは止まった。

と、そこで、耳にイヤホンを付けてラジオの番組にでも夢中になっていたのか、娘の叫び声や服が破れる音にも一切反応しなかった母親が戻ってきた。

「ま、ママぁっ!!」

美佐は、まだ胸から滴り落ちている母乳も気にせず、母親に抱きついた。その巨大な乳房が二人の間に挟まり、ムニュムニュと潰れる感覚に、母親の方は対応しきれない。

「え、美佐……おっぱい……え……」
「えーん、ママぁ!!牛乳飲んだらこんなことになっちゃったのぉーっ!!」

自分より一回り大きい、胸の方は一回りどころではなく大きい女性に急に抱きつかれ、大声で泣かれ。もはや、母親は失神するしか無かった。

「あ、ママっ、どうしたのママ、起きて!!」

次に母親が目を覚ますと、胸のサイズは多少控えめになったものの自分とそっくりな女性――もちろん美佐だが――が目の前にいた。
「大丈夫……?」
「美佐、なの……?」
「そうだよ!!」

「おーい、牛乳こぼれてるぞー!っておい……美佐……」
その場に現れた父親も、大人になった美佐を何とか美佐として受け取ったようだ。

「あなた、何か知ってるなら教えて……」
「うむ……そうだな……」

菊月妄想2-3

「如月ちゃん、おやすみ!」

キク、キィと三日月が夜の戦いをしているさなか、如月と睦月(大)は灯りをつけて寝床についていた。

「睦月ちゃん、おやすみ」
如月は睦月に挨拶をし、布団にくるまった。そして、小さなため息をつく。
「司令官……如月のこと、忘れないでいてくれるかな……」

如月は、不安だった。これまでも、旗艦のキィを始め、たくさんの菊月の中で存在感が自分の存在感が大きいとはいえなかったが、キクと睦月が戦艦クラスのサイズになり、その大きくなった二人の脇で如月はアピールの機会すら与えられなかった。
司令官の中で、自分の影がさらに薄くなることを恐れる如月。だが一方で杏仁豆腐に精神を影響され、皆を襲い始めたキクを目の当たりにして、自分は『ああはなりたくない』という別の恐怖から、杏仁豆腐を口にすることはためらっていた。

「如月は、如月のままでいたいもの……」

しかし、不安は溜まる一方。隣で早くも寝息を立てている睦月は、性格が似ているせいで「でかい睦月」と呼ばれる鈴谷に負けずとも劣らないスタイルになっていた。

「うぅ……睦月ちゃん、私の事、置いてかないでね……」
寝ていることを分かっていつつ、睦月に声をかける。と、

「むにゃ……もう食べられないにゃ……」
子供っぽい寝言をつぶやく睦月。その姿に安心した如月は、そのまま目を閉じて、眠りについた。

だが、如月は知らなかった。自分が食べた夕食の中に、杏仁豆腐が少し混入していたことを。そして、その効果は量に関係なく、ただ発現するまでの時間が変わるだけのことを。

その数時間後、ついに如月の体に変化が起こり始めた。

睦月型で唯一Bカップに達していたその胸がピクッと震えると、ムクムクと大きく膨らみ始める。

「んんっ……ん……」

大きく押し上げられた寝間着の下から現れるウエストも、上下に伸びていく。脚も伸び、スルスルと寝間着から先端が出ていくとともに、太ももにムチムチと肉がつき、尻も成長する。

部屋着の中で膨張をやめない乳房は、ムギュギュギュと成長を加速させ、隣にいる睦月の大きさを追い越し、顔よりも大きくなる。

「んはっ……」

パツパツになった服に押さえつけられ、行き場所を失ったそれは、服の下からこぼれ始めた。もはや鎮守府の中で一番大きいと言っても過言ではない、スイカサイズの豊かな果実は、呼吸のたびにフルフルと震えた。

「はぁ……はぁ……」

しかし、これほどの変化があっても、いろいろあった疲れからか、如月が眠りから覚めることはなかった。


いつも通りの時間に、いつも通りに目が覚める如月。

「んん……」
寝ぼけ眼で布団から体を起こし、髪飾りをつけて、顔を洗いに洗面所に向かう。

「ちょっと……変な感じ……ひゃぁっ」

(ドタァッ!)

あまり前が見えていない状況で歩いていたせいか、床においてあった何かにつまづき、転んでしまった。

「な、なんなのよぉ……」
自分が脚を引っ掛けたものを確認しようと、足元を見ようと……したが、何かに邪魔されて見えない。

「え?なに……これ……?」

目の前にある、服に包まれた何か。服の中なのだから自分の体の一部であることは間違いないのだが……

「如月ちゃん……?どうしたの……?にゃっ!!??」
「睦月ちゃん?」

布団から出てきた睦月は、自分の目を疑っているように目をゴシゴシとこすった。

「や、やっぱり!如月ちゃん、大きくなってる!」
「私が、大きく……?」

如月は、自分の体を起こそうとして、胸に異常な重みがかかっているのに気づいた。
「おもた……って、これってもしかして……」
「おっぱい、おおきい……」
「おっぱい……?私の……?」

体を起こし終わると、胸にくっついている二つの肌色の塊を手ですくい上げる。
「やわらか……じゃなくて、どうしてこんなことに……」
「すごいよ如月ちゃん!キィちゃん顔負けだよ!」

如月は、大はしゃぎしている睦月に釣られるように少し苦笑いした。
「大きすぎよ……これじゃ悪目立ちしちゃう」と言いつつ、司令官にまた見てもらえることに少し喜びを感じるのだった。

「如月姉さん!さっき大きな音がしましたけど、大丈夫ですか!?」
「えっ……」

それだけに、扉をバァンと開けて登場した三日月……のようなトランジスタグラマーの女性に感じた戦慄は大きかった。

「三日……月……ちゃん……?」

たゆんたゆんと揺れる胸を見て動きが固まる。
「あぁ、すまない、如月……三日月もアレを食べたのだ……おい、貴様もか」
三日月の後に入ってきたキィは、如月をみて呆れ顔になった。

「いえ、私は……」
「昨日の夕食に、私が入れておいたんですよ。如月姉さん、ちょっと気になってたみたいでしたから」
「あ、そうなの……」

如月とキィは、呆れて頭をおさえた。

「睦月は、みんなが大きいの楽しいけどにゃ!これが睦月型のホントの力!」

そして、皆を元気づける一番艦のノリには、ついに誰もついてくることはなかった。

ナノ・インベージョン 2

「いっぱい、背が伸びてるといいな!」

小学生の拓也(たくや)は、鏡を見ながらはしゃいでいた。夜9時、小学生は寝る時間であるが、次の日にある身体測定が楽しみなのだ。

「拓也、もう寝なさい!」
「えーっ!」

母親に叱られても寝る気の無い彼。そのテンションのせいで口の中に入ってきたホコリのような何かにも気づかない。

「だって、明日は!」
「はいはい、身体測定のことでしょ!だから……あら?」

元気に溢れていた拓也は、急に眠気に襲われた。そして、素直に寝床に入った。

「ふあ~ぁ……おやすみ、ママ」
「え、ええ。おやすみ」

あまりに突拍子もない息子の行動に驚く母親だったが、拓也がすやすやと寝息を立て始めると、電気を消して部屋から出ていった。


「ニケ、どうするつもりなんだ」
「えーっ!ちょっと遊んであげるだけだよ!」

ニッコリと笑うニケに、和登は無邪気さゆえの残酷さを垣間見た気がして、苦笑いを返すことしかできない。なぜかアプリの使い方を和登よりよく知っている風のニケが、無関係の小学生にナノマシンを感染させたのだ。そして、機能の確認をするようでもなく、ポチポチとボタンを押して拓也を寝かせつけてしまった。

「まさかとは思うが、ニケ……そのアプリ結構使ってたりするのか……?」
「夜行性だからね!」

答えになってない。だが、寝ている間に家族の誰かのプロポーションをいじくって遊んでいるようなのは分かった。朝起きる前に全員の体型を戻しているのだろう。――ナノマシンを感染させた人間の認識能力を捻じ曲げる事ができるようだが、新菜の年齢に見合わないデカパイは健在だったし……と、完全にニケに認識能力を操られている和登は考えた。

「まあ、明日が楽しみだな」
「うん!和登より面白い反応してくれるはず……、なんでもない」
「ん?」
「なんでもなーい!」


翌朝。拓也は目覚ましの音で目を覚ました。

「ん~……」

大きく背伸びをして、寝床から立ち上がる。

「……え?」

その途端、拓也を襲う大きな違和感。床が、異様に遠い。少しパニックに陥りかけた拓也だが、気を取り直して部屋にある鏡に向かった。すると……

「僕の背、伸びてる……?じゃなくて、足が伸びてる!?」

彼の足は、いや足だけが、高校生並みに伸びていた。腰から上の部分は元の小学生のままだ。寝間着からかなりはみ出したそれは、かなり筋肉質で、すこし力を入れるとピクピクと動く。

「え?えっ?」

足を動かしてみると、鏡の中の長い足も動く。だが、手の方は小さく幼いもののまま。骨盤は少し大きくなって、その下に拓也からしてみれば大きい足がくっついているのだ。

「拓也、どうしたの?朝ごはんできてるわよ?」
「ママっ、僕の足、変に……」
「あら、すごく背が伸びてる。よかったじゃない」

母親は、息子のアンバランスな体を見ても全く驚かなかった。これもナノマシンの意思操作によるものだが、拓也にそれを理解する術はない。

「ママ……」
「あ、今日は尿検査もあるのよね?ほら、おしっこ取ってきなさい」
「うぅ……」

拓也は、ランドセルから尿検査用の容器を取り出し、足に対して小さすぎる腕で何とかバランスを取りながら、トイレに向かった。

「……なに、これ……?」

そして、部屋着のズボンを降ろした拓也の視線の先にあったものは、長く太く変化した彼のイチモツ。二次性徴などとっくに終えていると言わんばかりに成長したそれは、拓也には刺激の強いものだった。

「でも、おしっこ取らないと……」

小さい手で、大きなソレの狙いを定め、出そうとしたその瞬間……

ドックンッ!!

「んひぃっ!?」

拓也の全身に、大きな衝撃が走ったのだ。

ドクンッ!ドクンッ!

心臓の鼓動と同期して訪れるそれは、まるで激しい血流が彼の全身を駆け巡り、そして……

「おちんちんが膨らんでくっ!」

拓也の男性器を押し広げているようだった。だが、赤黒く怒張し、鼓動するそれは、急にグイッグイッと押しつぶされるように短くなった。

「うぐぅっ!」

ドクンッ!ドクンッ!と未だに続く衝撃と共に、彼の体に入り込むように縮むペニス。そして、豆粒ほどになったそれはついに、股の中へと潜り込んでいってしまった。

ドクンドクンドクンッ!

変化はそれで終わらず、グイグイと体の内側が切り開かれる感触が拓也を襲った。子宮が形成されているのだが、拓也は別のことが気になり始めた。

「おしっこ、どうやってだすの……?」

そして、それを出しかかっていたせいか、股間から黄色い液体がこぼれ始めていた。

「おもらし、しちゃったよぉ……」

拓也はしくしくと泣きながら、便座の上に座った。何とか尿を取ると、容器に移し替え、床をトイレットペーパーで拭いた。


「やっぱりこんな足、変だよ……」

登校中にも、短すぎるズボンで覆い切れない足にドギマギする拓也。だが、それに違和感を感じているのは彼一人のようだった。

「拓也くんの足、すごいねー!ムキムキ!」

幼なじみの女子生徒に、ペチペチと足を触られる。陸上選手並みに筋肉を蓄えた足は、低学年の好奇心を集めていた。

「そんなに触らないで、もう……」

いくら言っても、一歩歩くたびムキッ、ムキッと形を変える筋肉を面白がる小学生たち。だが、そんな彼の憂いは別の形に変わろうとしていた。

ドクンッ!!

「うっ!!ま、またきたぁ……」

ドクンッ!!ドクンッ!!

今度は、脚の筋肉が力を入れずともグニグニと動き始めた。当然脚が言うことを聞かなくなり、拓也は脚を前に出してその場にへたり込んだ。

ギュッ!!ギュギュッ!!

すると、大量にあった筋肉が、ギチッギチッと音を立ててしぼみ始めた。脚は、あっという間に皮と骨だけのようになってしまった。

「え、ええっ?」

呆気にとられる拓也だが、ドクンッ!!と次に来た衝撃とともに、グキィッ!!と腰と膝が大きなきしみを上げた。細身となった脚が、内股となっていた。

「これって、女の人の脚みたい……」

ドクンッ!

そして、つぎは皮下脂肪がギュッと詰められるように、脚全体が横方向に、丸く膨らんだ。ドクン、ドクンと心臓が脈拍を打つたびに、ひとまわり、またひとまわりと太くなり、健康的というのがちょうどいいくらいのものに変わった。衝撃は、そこでひとまず終わった。

オーバーなほどに筋肉質だった拓也の脚は、ムチッとした女性のものに変わったのだった。

「すごい……」

拓也は、脚を触ってみると、プニプニとした柔らかさと、すべすべとした心地よさを感じ、少しの間惚けてしまった。

「拓也くん、大丈夫?そろそろ行くよ?」

班のリーダーが、脚だけ女子高生になった拓也に、たじろぐ様子も見せず言った。

「え、うん……」


「身体測定、緊張するねー」
「うぅ……」

拓也は、保健室で順番を待つ列に並び、クラスメートとしゃべり……合っていなかった。当然だ、ジャージから伸びた脚は自分のものとは思えないほどスッと長く、ブリーフに収まっているはずの男性の象徴はない。そして、髪もジャージを着た瞬間にバサッと伸びてしまい、腰まで伸びるロングヘアはクラスの注目を集めるほどになっていた。

「ほら、このカードを保健室の先生に渡して」

記録カードを渡されると、拓也にさらなる変化が起こった。

ドクンッ!!

「ううっ!!」

大声を出したにも関わらず、周りは誰ひとりとして反応を見せない。そのうちにも、カードを受け取った腕がギュッギュッと伸び、指は長く、細く伸びた。そして、背骨の節々一つ一つがグキッ、グキッと大きくなり、拓也の背が更に伸びていく。ジャージがせり上がり、ヘソが丸見えになってしまった。

「もう、伸びなくていいからぁっ!」

声すら、もう小学生のものではなく、少し色気が混じった女性のものになってしまった。だが、体をギュッと抑えると、変化は収まった。

「はぁ、はぁ……」

もはや、はたから見れば普通の女子高生である。荒い息を立てながら、じっと立つ拓也だったが、保健室の入り口から顔を出す、担任の声が聞こえてくる。

「拓也くーん、何してるんだ、早く来なさい」
「うん……」

ナノマシンの精神操作を受け、涙目ながらも保健室に入っていく拓也。中には、身長計と体重計に乗るクラスメートたちがいた。拓也は、校医に測定カードを渡した。

「えーと、拓也くんね。ずいぶん背が高くなったわねー」

もう、皮肉なのか率直な感想なのか分からない。
「さあ、身長計の台に乗ってね。上からコツンってするからねー」

背丈などどうでも良くなった拓也だが、言われるがまま身長計に乗った。校医が、測定部分を拓也の頭に当てる。と、その時だった。

ドクンッ!

「うっ!」

小さな悲鳴をあげた拓也に、校医が驚いた。

「え、そんなに痛かった?」
「そんなこと、ないです……」

衝撃が、拓也を襲う。周期的に生じるそれは、全身に何かを詰め込んでいく。そのたびに、拓也の身長が伸びる。

「えっと、150、じゃなくて、155……、え、160?」

ドクン、ドクンと衝撃は続く。脚が、体が、腕が、キュッ、キュッと太さを保ったまま縦に伸びる。

「ちょ、ちょっと、165、うーん、もう、届かない!先生!」

170cmを超え、男性である担任を呼び寄せる事態にまでなった時、それは終わった。

「180cm。っと。はい、次は体重計に乗ってね」

小学生、いや日本人全体でも高い分類に入る身長。病気と捉えるのが普通なのに、校医はスルーした。そして、拓也もそれを当然と受け取った。クラスメートも、自分たちの中に大きすぎる存在がいても、気にも留めない。それも、ナノマシンの機能だった。

「うーん、50kg?この体重じゃやせすぎ。危ないかな、もっと食べないと」

この言葉を聞いて反応するがごとく、身長は伸びたが、最低限の脂肪しか付いていない拓也の体は、またしても変化を始めるのだった。脚が、グ、ググッ……と、脂肪を蓄え始めたのだ。徐々に太くなる脚のせいで、ジャージがパンパンになっていく。

「あれ、55kg、いや、60kg……」

腕にもムチッと脂肪が付き、丸い輪郭が生み出される。ジャージの上は、骨格が大きくなったせいで既にギリギリのサイズになっていたが、更に大きくなる体で、段々と引き伸ばされる。

「65.2kgね。じゃあ次、スリーサイズを測りましょう」
「え?僕は男……」
「さあさあ」

パツパツになってしまったジャージに圧迫感を覚えつつ、校医に導かれるがままに、場所を移す。そして、服を脱ぐと、スリムな体型が顕になった。

「じゃあ、ヒップから……」

ドックンッ!

校医の言葉で、測定の準備を始めた拓也の体。その小さな尻がプルッと震える。そして、ルーラーがピトッと体に触れた瞬間。

ブルンッ!!

「きゃあっ!」

尻が爆発的に大きくなる。だが、その後も内側から押し広げられる感覚が止まらない。

「くすぐったいのは分かるけど、じっとしてなさい」

その間にも、ギュッギュッと柔らかい輪郭が膨れ上がっていく。

「僕のお尻がぁ……」
「すごい、100cm超えてる……」
「えっ!?」

拓也は自分の体を確認するべく振り返ろうとしたが、その腰をルーラーが捉えた。

「次はウエストねー」
「うぅっ!」

ルーラーに締め上げられたとでも言うように、十分締まっていたウエストがキュッとさらに細くなった。

「58cm。最後に……」

ドクン、ドクン、ドクンッと、脈拍ごとに拓也の胸に何かが詰め込まれ始めた。真っ平らな胸の突起がピクン、ピクンと動き始め、小さかった乳輪が広がっていく。そして、乳腺が成長の準備を完了させる。

「だ、だめぇっ……」
次に何が起こるか察した拓也だったが、校医は待ってくれなかった。ルーラーが胸に触れた瞬間……

ブルンッ、ムギュギュッ!ミチミチィッ!!

ルーラーを押し戻すように、二つの膨らみが生まれ、育ち、膨張し始めた。

「こ、こら、じっとして!」

自分の胸にじっとしてほしいのは拓也の方だが、校医は容赦ない。Aカップなど一瞬で飛び越え、Eカップ、Gカップと膨らんでいく乳房を無理矢理押さえ、ルーラーを止める。

「110cm!」

だが、それで成長が終わったわけではなく、ルーラーで押さえられた部分の上下に乳肉がこぼれだしていく。校医がルーラーを手放すと、拓也の頭くらいになった、二つの柔らかい塊が解放され、タプン、タプンと揺れた。

「終わった……の……?」

拓也が下を見下ろすと、呼吸するたびにフルフルとゆれる胸が、視界を遮った。手で持ち上げてみると、その柔らかさで指が包まれる。自然にできあがっている谷間は何かの深淵を望むようで、かなり深くミッチリとしている。

ヘナヘナと座り込むと、こちらも大きく膨らんだ尻が、衝撃を吸収してぷるんと揺れた。彼は、クラスメートたちがいる前で、新しい快感に溺れ、胸を揺らし、揉みしだき、肌をなでた。そして、股間に手を伸ばし……


「たーのしー!」

ナノマシンに付いているらしい、視界をジャックする仕組みのカメラ機能を使って、ニケは少年の体型を操作していた。

「和登にも何かしてあげたいな!」

高校に行っている主人の事を考え、楽しそうな笑顔を浮かべるニケだった。

覚醒の夢 3話 ~魚沼 結月 前編~

キッチンに置かれた二十個のマフィンを前に、おさげの女の子が満足そうな顔で味見をしている。

「うん……今回も成功!」

その少女、魚沼 結月(うおぬま ゆづき)は、お菓子作りが趣味であった。母親手作りのクッキーを食べてから、自分でもおいしいクッキーを作ろうと、母親に習ったり、図書館でお菓子のレシピ本をあさってみたりと、努力を重ねてきた。

「お母さんに自慢しなくちゃ!」

だが、そう喜ぶ結月の後ろにゆっくりと近づく影があった。


「菜津葉ちゃん……今日は、楽しそうだね」
「それはもちろん!明日は結月ちゃんのお家で勉強会だから!」
昼休みも終わりに近づいた頃、三奈と菜津葉は三奈の机で喋っていた。

「結月ちゃん、お菓子……上手、だもんね」
「そうそう!いつも出してくれるクッキーがすごくおいしくて……あっ、結月ちゃん!」
少しぽっちゃりした、おさげの子に声をかける菜津葉。結局、三奈の一件以来、一週間は何も起こっていない。女性の写真を見ると変身する男子生徒がいて、毎日アイドルやアニメキャラのコスプレイヤーにさせられている以外は、何の問題もなかった。

「あ、菜津葉ちゃん。どうしたの?」
「今、結月ちゃんが作ってくれるお菓子の話してたの!いっつもおいしいから、今日も期待してるからね!」

一瞬間が開いた。菜津葉は、あまりにもぶしつけなことを聞いたかと、焦った。

「あ、あぁ……、その代わり、差し入れとかも期待しちゃっていいのかな?」
「うっ……ごめん、ごめんって。でも、何を持っていこうかな……」

結月は、クスッと笑った。
「冗談だよ、明日もお菓子用意して待ってるね」
菜津葉は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「うん、ありがと。ごめんね、いつかお返しするからね」
「大丈夫だって。来てくれるだけで嬉しいよ」

結月は手を振ると、自分の席に向かって歩いていった。

「菜津葉ちゃん、お菓子もいい、けど、ちゃんと勉強、してね」
手を振る菜津葉の胸に、グサッと突き刺さる三奈の忠告。
「うう、わかったよ……」


そしてその次の日、土曜日。結月の家には、菜津葉と、少し背が高めでボーイッシュだが雷嫌いの刈羽 亮子(かりわ りょうこ)、それに絵を描くのが好きな三条 愛菜(さんじょう あいな)が集まっていた。

「えっとここが上辺、ここが下辺……だな?だから……」
「あ、そこを二で割るのを忘れてるわよ!もうっ!」
「頭痛くなってきた……」
四人の中では一番成績がいい菜津葉だったが、それでもクラスの中では下の上あたりだ。

「糖分が、糖分が必要だぁ……」
頭をおさえ、机の上に肘を立てる菜津葉に、愛菜も亮子も続く。
「アタシも菜津葉に同意よ……」
「ボクも頭が回らなくなってきた……」

だが、扉の外に足音がすると、三人とも顔を上げ、期待で目を輝かせた。その期待の的、それこそが……
「はーい、クッキーできたよー」

「わが愛しのクッキーだっ!!」
菜津葉は飛び上がり、乱暴に一つ頬張った。硬すぎず、柔らかすぎず、絶妙な食感と、香りが菜津葉を満たす。
「こら!女の子なんだから手伝わないんだったら座って待ちなさいよ!」
愛菜は菜津葉を叱ったが、自分も待ちきれない様子である。

「いっぱいあるから、そんなに急がなくてもいいよ」
結月はニッコリと微笑みながら、クッキーが乗った皿をゴトッと机の上に置いた。
「ホント、いつも結月のクッキーは美味しそうだよね」
クッキーの甘い香りをかぎながら、亮子はうなった。
「そんなことないよ、私も時々失敗するよ」

「じゃあ、いただきまーす」
「あ、あなたはもう一個食べたでしょ!」
「なにをー!」
言葉では争いつつも、あまりに尊いクッキーの前で、行動は謹んでいる二人だったが、その大声でもう一人の人間が部屋に召喚されることになった。

「菜津葉も愛菜もうるっさーい!!いまゲームやってんの!」

それは、結月の弟、那月(なつき)だった。
「ごめん、那月くん……」
「もうちょっと静かにするから、許して、ね」
「ボクも、もうちょっと二人を止めるようにするよ……」

那月は、ふんっと鼻を鳴らした。
「分かったよ。あ、お姉ちゃん、マフィンが……ひっ」

那月は何かを言いかけた。が、その瞬間自分に向けられた姉の顔を見て口を開いたまますごすごと退散していった。

反抗期を抜けたばかりの男の子を恐怖させる表情。いつも大人しくおしとやかな結月からは想像しづらいものだったが、菜津葉は恐る恐る結月に声をかけた。
「ゆ、結月ちゃん……?」
「結月、どうかしたの?」

結月はゆっくりと三人の方を向いた。しかし、三人の想像と違い、結月はさっきと変わらず優しく微笑んでいた。
「なんでもないよ。じゃあ、これ以上弟を困らせるのもアレだし、勉強しよっか」
「う、うん……」

結月に感じた恐怖は、勉強で頭がいっぱいになった三人の記憶からはすぐに消え去った。クッキーは相変わらずとても芳醇な香りを漂わせ、思考の潤滑剤となったようで、あっという間に時間は過ぎる。

そして夕方5時。

「あ、もうこんな時間……そろそろ帰ろっか」
勉強が一通り終わったところで、菜津葉が壁にかかった時計を見て言った。
「あ、ホントだ……でも、勉強したかったところはちゃんとできたよね!」
「ホントにね。結月がいなかったら、無理だったわ」
「ありがと、結月ちゃん」

三人にお礼を言われ、勉強では足を引っ張る方だった結月が照れて顔を伏せた。
「そ、そんなことないよ……」

そんな結月を見て、すこし勉強の疲れを癒やした三人だった。


そして玄関先。

「じゃあ、また今度勉強会しよーね!」
「うん、また来てね」
「それじゃ、学校で会いましょうね、結月」
「じゃあね!」

別れの挨拶を交わし、解散した……ときだった。

『菜津葉ちゃん!』
「のわぁっ!」
その日一回も喋っていなかったフリューが、急に大声を上げたのだ。周りに気づかないようにしていたせいで、それに反応して上げた声が逆に三人を驚かせた。

「ど、どうしたの、菜津葉」
「な、なんでもないよ……ちょっとつまずきそうになっただけ」
「そうなの?気をつけなさいよ」

全然バランスを崩す様子もなかった菜津葉には苦しい言い訳だったが、それで通ったようだ。幸い大声を上げた瞬間は、誰も菜津葉を見ていなかったのだ。

「じゃ、じゃあね……」
菜津葉は少し急ぎ足で角を曲がると、苦情を言った。
「何してくれるのフリュー!びっくりさせちゃったじゃない!」
『あの子を浄化するチャンスです!さっき弟さんが言っていた『マフィン』。あれが浄化の鍵でしょう』

話を聞く様子もないフリューにため息をつく菜津葉。
「あのさ、結月ちゃんが作ったクッキーを食べたのに何とも無かったんだよ?それがマフィンになったところで、何の差があるの?」
『それは、私には分かりません。ですが、弟さんが、多分ですよ、口を滑らせたときの、彼女の表情。魔力に操られている人間のものです。間違いないです』
「……そりゃあ、浄化してないんだもの。そんな表情もするでしょ……でも、マフィンは怪しいね」
菜津葉は、道角からそろーっと頭を出し、結月の家の方を確認する。玄関先からは誰もいなくなっている。

『少し、スパイ活動をする必要がありますね……菜津葉ちゃん、もう少し小さくなって下さい』
身長120cmの菜津葉だったが、このマスコットはもう少し小さくなれと言い出した。菜津葉は耳を疑った。
「えっと……いま、なんて?」
『小さくなるんです、スパイするなら体重が軽いほうがいいんです!』

元マッチョが言う台詞でも無いと思う菜津葉だったが、渋々従った。小さくなれ!と強く念じると、菜津葉の体はひと回り小さくなり、身長は100cmくらいになった。
「これでいいのね」
菜津葉は少し怒りを込めてフリューに確認した。
『ええ、行きましょう』

菜津葉はぶかぶかになった服に苦戦しながら、結月の家に戻った。

――

キッチンに足音を極力出さないように向かうと、中から結月の声が聞こえてきた。

「うん……今回も成功!」

やはり、お菓子を作っていたようだ。中からは濃厚なまでの甘い香りが漂ってくる。

『む、この香り、魔力を含んでいますね……先程のクッキーとは違います』

クッキーの方には魔力はなかったらしい。あの甘い香りはホンモノだったのだとわかって、少しほっとする菜津葉だった。

勇気を出して、キッチンの中を見る菜津葉。だが、身長が低すぎて机の上においてあるものが見えない。密かに、菜津葉は小さくなれと命じたフリューを恨んだ。

だが、その奥にいた結月の様子がおかしい。いつもより心なしか大きくなっているように見える。菜津葉が小さくなっているせいかもしれない。だが、胸にも先ほどはなかった突起が突き出ている。明らかに成長している。

「姉ちゃん、くせもの発見」

唐突に後ろから声がして、「きゃっ!」と声を出して跳ねる菜津葉。そこにいたのは那月だった。どうやら、スニークスキルでは那月の方が上だったらしい。

「誰かな?」

裸エプロンの結月が近づいてくる。やはり成長している。そして、菜津葉の前まで来るとしゃがみこんだ。

「ご、ごめんなさい」
結月は、いつの間にか家に上がり込んでいた幼稚園生――小さくなった菜津葉だが――を見て、首を傾げたが、すぐに微笑んだ。
「見かけない子だけど……ここまで見ちゃったんだし、最後まで見ていってよ」
「えっ」
「私の仲間になれば、なにも言えなくなると思うしね」

そこで、菜津葉はすでに両腕が紐で縛られているのに気づいた。那月が、すきを見て拘束していたのだ。

――これくらい、成長すれば取れる……!
そう思って強く念じようとする菜津葉だが、フリューに遮られる。
『だめです、切り札は最後まで取っておいて下さい』
――そ、そんな……

「こんなところじゃ狭いから、リビングに行きましょ」

結月は菜津葉の腕を掴むと、優しい力で引っ張る。菜津葉も素直に従う。

「私、どうなるの……?」
「どうもしないけど、オトナの女性の快感を味あわせてあげるよ」

いつもの落ち着いた雰囲気だが、結月の瞳は怪しく光る。リビングに着くと、菜津葉は絨毯の上に倒され、上に重い椅子をおかれ動けないようにされた。結月は菜津葉が完全に拘束されたのを確認すると、那月に向かって頷いた。

「じゃあ、始めるよ、那月」
「うん、姉ちゃん」

そして、那月が持ってきていたお菓子を一口食べる。それはフリューの予想通り、マフィンであった。そして少しすると、クッと結月の背が伸びる――マフィンが魔力の源であることは、間違いないようだった。那月はこれから始まることをもう知っているのか、ただただ姉の姿を見ていた。

「見た?信じられないでしょ……?」

これくらいの成長、これまでの自分や三奈と比べれば何の驚きでもない。身長は130cmに達したくらいで、体型もまだ幼い子供から変わり映えしない。こういうときのアドリブが苦手な菜津葉だ。

『ちょ、ちょっと、菜津葉ちゃん!ちょっとくらい驚いた顔しないと……!』
――だ、だって……

なんの反応も返ってこずに結月が怪訝そうな顔をしたところで、フリューが辛抱しきれなくなったのか、またもや体のコントロールを奪い取った。

「え、お姉ちゃん、おっきくなった……?」
乗っ取るやいなや、これまでの菜津葉の失態を取り繕うフリュー――効果はあったようだ。結月は、ニッコリと微笑みを浮かべた。
「うん、そうだよ。でも、まだまだこれからだから、楽しみにしててね」

『こらっ!フリュー、なにしてくれるの!!』
フリューは頭の中に聞こえる菜津葉の訴えをスルーし、恐怖に震える幼稚園生を演じた。
「わたしにも、何かするの……!?」

「それは、もうちょっと待っててね。お菓子はたくさんあるから」
姉の言葉に答えてか、那月は菜津葉にお盆いっぱいに載ったマフィンを見せた。こんなに一人で食べたら、結月はどのくらい大きくなるのか、想像もつかないほどたくさんある。

ここに来て部屋の異様なミルク臭さに気づいた菜津葉は、フリューに乗っ取られたまま、青ざめるほかなかった。

ナノ・インベージョン

それは急に訪れた。英語の成績が悪すぎて凹み、めずらしく高校から直接家に帰ってきたその日、スマホケースくらいの金色の箱が、机の上に置かれていた。

『だれか間違っておいていったのか……?』

人のものの中身を覗いてはいけない、なんてルール、破るためにある。俺はためらいもなく、ケースをカパッと開けた。その中身は……
「カプセルと……説明書?」
薬が入っていそうな透明なカプセルと、文字がびっしりと書かれた説明書があった。その最後には、QRコードが印刷されている。文字を読むのが面倒だ。制服からスマホを取り出し、カメラアプリでQRコードを読み取る。すると、『このアプリをインストールしますか?』という確認が出た。普段なら、こんな唐突に『インストールしますか?』などと言われても、いいえ、しません、で済ませるのに、その日の俺は何の気まぐれか、そのアプリなるものをインストールしてしまった。

ほどなくして、ホーム画面に真っ白なアイコンが現れた。
「んー、なになに?『プロポーション……』アプリ名が長すぎて省略されてる、か。ま、開いてみるか」
ポチッとな、とばかりにアイコンをタップすると、『プロポーションチェンジャー』という、なんとも安物のフォントでタイトルが書かれた画面が数秒現れ、そして、スライダがたくさんある画面に移り変わった。

「うわ、音量ミキサーとかなにかか……?でも、この3つのスライダは……?」
無造作に並べられたたくさんのスライダは、よく見ればカテゴリ分けのような配置になっていた。そのかたまりのうちの一つには、B、W、Hと名前が付いたスライダが含まれている。
「これって、バスト、ウエスト、ヒップ……のことか……?アプリの名前が『プロポーションチェンジャー』って言ってたから、それで合ってるよな?」
まさか、スリーサイズを変えられるアプリ?でも誰のプロポーションを変えられるのかさっぱりわからない。

他にも、スライダの間に短い文章が英語で書かれていたが、何しろ英語のテストで赤点ギリギリの俺だ。読めるはずがない。俺の名前、藤川 和登(ふじかわ かずと)が書かれた解答用紙を恨みがましく睨んだ。
「ゲンダー?ってなんだ?その隣に書かれてるアゲ?それとも英語だからエイジか……?」
『ゲンダー』と書かれたスライダには、両端にFとMの文字がある。ラジオのFMのことか?いやいや、FとMの間で変えられるんだから、そんなことはない……けど何のことだ?エイジ……は、時代とか、そういう意味だったような……もしかして、年齢のことだろうか。スライダを動かしてみようとするが、グレイアウトしていて動かない。画面にある全部のスライダが動かないようだ。

「っつっても、これが読めた時点で俺に何の得があるっていうんだ……」
いろいろ考えたあげく、アプリを閉じることにした。……だが、ホームボタンを押しても、アプリが閉じない。電源ボタンを押しても画面が暗くならない。
「おい!閉じろ、閉じろって!……嘘だろ、これじゃあメッセもメールも送れないぞ」

説明書に何か書かれていないかと、探してみるが……「英語だ、これ……」俺の前に立ちはだかる言語の壁。
「ちっくしょ……、情けねえなぁ……このカプセルが何なのかすら分からん……」
プラスチックではなく、ガラスで出来てるのかつるつると滑って手に取りにくいカプセルを指でつまみ、中身を見ようとする。中に入っているのは、粉……?それとも……

バァン!!!

「わ、わわああっ!!」いきなり部屋の扉が蹴破られたかのように爆音を上げて開き、カプセルを落としてしまう。
「兄ちゃんうっさい!!!こっちは勉強してんだよ!!」と入ってきたのは妹の新菜(にいな)。黒いロングヘアは兄の俺から見ても綺麗だ。似合っているとはいえないが。
俺は暴力的な妹の怒りから逃げようと後ずさり……

カシャン……

カプセルを踏み潰してしまった。破片が足の裏に刺さったのか、若干の痛みを感じた。早く妹をいなして、傷の手当をしないと……

「わかった、すまん、すまん……」
「なによ、やけに素直じゃない。ま、分かったならよし」
「あ……あぁ」

新菜は、入ってきたときとは対照的にゆっくりと扉を閉めて出ていった。さっそく、足の裏を……

グジュ、グジュジュ……

「う、ううっ」足が、何かおかしい。血管の中を、不純物が通っていくような、不快感がある。まさか、ガラスが血管に……!?俺は急いで、足の裏を確認した。すると、そこにあるはずのガラスの破片が、一片もない。床を見ると、ガラスだと思っていたカプセルが、押しつぶされて透明な膜となっていた。

グジュ……

だが、不純物はどんどん体を登ってくる。という感触がする。心臓が一回脈を打つごとに、なにか変なものが体の中を動いてくるのだ。そして、あっという間にそれは心臓に達し……消えた。
少なくとも、何も感じなくなった。だが今度は、スマホの方に変化があった。1秒ぐらいバイブが動き続け、その後スライダが動かせるようになっていたのだ。

「俺の体のプロポーションを変化させられるようになった……ってことなんだろうな」

だが、それでもまだ動かせないスライダがあった。「カップ」……胸の大きさだろうか。そりゃ男にカップ数はないからなぁ。

「ん、画面をスクロールできるのか……?」
スライダの塊の下の方に、リスト選択できる「ネーム」、名前の欄がある。そして、そこには俺の名前が書いてある。その下にもいくつかボタンがあった。黄色のボタンには「インファクトハウス」……実は家……?意味がわからん。緑のボタンには「エックスキュート」……なにがかわいいんだろう。

二つのボタンをポチポチと押すと、喉の奥がいきなりかゆくなり、思わず咳をした。それ以外に、変化は……ん?
「リストが、新菜の名前に?」
そこには、間違いなく『Niina』と書かれている。そして、俺の家族全員の名前が少しして追加された。

まさか、新菜のプロポーションも変えられるようになったのか?……じゃあ。

遊ぶしか、ないよな。

俺はまず、動かせるようになったカップ数のスライダを、BからEに動かした。そして、エイジの部分を14から18に。バストの数字は、カップと連動して、それに身長と体重っぽいスライダもエイジと連動して動いた。
これで、隣の部屋にいる新菜が18歳の巨乳お姉さんに変わっていれば、俺の推測は当たっていることになる。迷わず部屋を飛び出し、普段は絶対に開けない妹の部屋の扉を勢い良く開いた。そこには……

「あ、の、さぁ……」カンカンに怒った、新菜がいた。姿形は、いつも通り。胸は膨らみかけだが全体的に幼児体型の、普通の中学生だ。
「なにか妙だと思ったけど……そんな気持ち悪い顔しやがって」見たこともない鬼のような表情で、今にもげんこつを飛ばしてきそうだ。

「あ、あれ……」俺はアプリを見た。スライダは動かしたまま……あ、緑のボタンが点滅している。

「少し、お仕置きをしなきゃねぇ!?」
ヤバイ。書いてある意味は分からないが、緑のボタンを押す以外俺に選択肢がない。

ポチッ……

と、その瞬間。妹の動きが、ピタッと止まった。目を見開き、立ち止まっている。
そして、「きゃっ……」と小さな悲鳴をあげた。よく見ると、胸の部分がピクッピクッと鼓動し、突起が二つ、突き上がってきている。そして、控えめな膨らみが、プルン、プルンと震えている。

「兄ちゃん、私に、何をしたのぉ……ひゃんっ!」

新菜が子犬の鳴き声のような悲鳴を上げると、胸の膨らみが一回り、プルンッと大きくなった。続けざまに、心臓から何かが送られているかのように、どんどんブルン、ブルンと大きくなる乳房は、着ていた服をパンパンにし、中学生にしては少し大きすぎるほどのものに変わった。

そして、次の変化が始まった。今度は、新菜の体全体がグニッグニッと引き伸ばされていく。部屋着から綺麗な足がニョキッと伸びると、新菜の目線が少し上がる。

「えっ、私の足がっ!んんっ!」

上半身もグイッと伸び、パンパンになった胸の部分がさらに圧迫されて、ギチッと縫い目がほつれる音がした。現れた腹部はすこしぽっちゃり気味だ。最後に腕もニョキッと伸び、新菜の成長が終わった。そこには、俺がアプリで指定したとおりの、Eカップの18歳バージョンの新菜がいた。少し大人びたが、胸がデカイ以外は俺より一回り身長が低いくらいの起伏に乏しい体だ。

「私、どうしちゃったの!?」いつもよりも自分の位置が高い世界に戸惑っているのと、周りより成長が遅れていたおっぱいが大きくなったのが嬉しいのが混じっているような表情で、自分の体を手で確認する新菜。こうなったら、尻も大きくしてみるか。

スライダを動かして緑のボタンを押す。と、またすぐに新菜の様子が変わった。

「胸がドキドキするよぉ……」大きくなった乳房の上に手を置き、息を落ち着かせようとする新菜。バストももっと大きくするか。えいっ。

「ん、んんっ……!!」まだ余裕があった部屋着の尻の部分が、ギュッギュッと詰められていく。と同時に、胸の部分の突起が更に、ビクンビクンと大きくなる。元の新菜の親指が入るくらいだろうか?
「や、やっぱり、兄ちゃんが何かしてるんだ……!きゃんっ!」乳房の膨張が始まり、リンゴ大だったものが、更に膨らむ空間を探して服を引っ張る。もう限界に近づいていた新菜の服はついに……

ビリビリィッ!

大きな音を立てて破れてしまい、中から二つの大きな白い塊が飛び出してきた。まごうことなきおっぱい。しかも、まだ成長を続けている。ムチッ、ムチッと音を出しながら大きくなるそれは、新菜の頭くらいに大きくなっていく。「こんな大きなおっぱい、いやだぁ……」新菜は、手で胸をギュッと押さえつけるが、その歪んだ形が俺の欲情を……

「ただいまー!新菜、いるんでしょ!」

母さんが帰ってきた。まずい、この状況を見られるのは……と、アプリの一番下に「リセット・オール」と書かれた赤いボタンがあった。それを押すと、新菜の体は風船がしぼむかのように元に戻る。俺は本能的に妹の部屋から飛び出し、自分の部屋に戻った。

「和登、こんなに早いなんて、珍しいじゃない」
「あはは、おかえりー……」

帰宅早々に新菜の部屋に着た母さんに、冷や汗かきまくりで何とか対応する俺。新菜はというと、記憶も服もリセットされたらしく何事もなかったかのように母さんに接していた。

これは、すごいものを手に入れてしまったようだ。辞書を引っ張り出してきて、英語を何とか翻訳したところ、持っている知識の設定欄があった。名前欄に俺の名前、『Kazuto』を設定し、『日常会話レベルの英語』を入れて緑のボタンを押すと、ようやくアプリの全容が分かった。

カプセルに入っていたのは自分を複製できるナノマシンらしい。機能は、人の体型、性格、知識を全て変えられる。テレポート機能をもっているらしく、体型の変化に必要なものは、どこかから持ってこれるらしい。
それで、アプリはその動作を決められるもので、リミッタ付きではあるがある程度非現実的なところまでナノマシンが入った人間を変容させられる。さっきの新菜の見たこともないようなデカさのおっぱいとかだ。
で、俺が何の考えもなしに押した黄色いボタンは、『インフェクトハウス』(家族を感染させる)ボタンだったらしく、いまや俺を含めた家族全員にナノマシンが入っているようなのだ。
他にもいろんな設定や機能があった。

だが……解せないのが、俺自身の体型を変化させるスライダは、時間が経つと動かなくなってしまった。まあいいが。

にゃーん。と鳴き声がする。飼い猫のニケが、部屋に入ってきていた。ベッドの上に座っていた俺は、ニケを膝の上に座らせて頭をなで、耳の裏をかいてやる。と、とんでもないことに気づいた。名前のリストに、ニケの名前がある。名前を設定してみると、スライダの代わりに、「人間に変える」というボタンがある。リセットはちゃんとできるらしいので……

ポチッ

にゃっ!と、ニケが膝の上で声を上げると、全身から骨格が変わる音がグキグキとしてくる。俺の膝にも、ニケの体が作り変えられる不気味な感触が伝わってくる。そして、心臓の鼓動がドクンドクンと伝わってくるようになると、変化が始まった。
背骨がまっすぐになり、肋骨が横に広がる。手足はぐいぐいと引き伸ばされ、人の手足の形になる。全体的に少し大きくなって、体毛が皮膚の中に戻るように短くなると、そこには金髪猫耳の小さい女の子がいた。

「え、私、ヒトになってる?……って私、しゃべれてる!?」

そういえば、ニケは人間で言うと8歳くらいだったか。

「俺が人間にしてやったんだ、すぐに戻せるけど、どうする?」
「すごーい!和登は猫をヒトにできるんだね!でも、どうやって?」

俺が何かを言う前に、ニケは正しい答えを見つけた。

「あ、これだね!」

そして、スマホをヒョイッと持ち上げ、ニケが人間になったことで現れたスライダをちょいちょいと動かした。

「それで、えいっ!」

完全に裸のニケが、俺の目の前で大きくなりだした。年齢は変わらずに、身長がどんどん伸びる。

「たーのしー!」

100cmくらいだったのが、1秒ごとに10cmくらいずつ、クイックイッと伸びる。大きくなりながらはしゃぎまわるせいで、家がギシギシと軋む。そろそろ、戻さないと大変なことになりそうだ。
俺は、ニケがベッドの上に置いたスマホのリセットボタンをポチッと押した。

「わーい!あっ。」
「えっ」

200cmくらいまで大きくなっていたニケは、元の猫に戻るのではなく……

「和登?」
「あー、これどうすればいいんだ……?」

身長100cmの金髪猫耳小学生に戻っていた。どうやら、うちの家族が4人1匹から5人になりそうだ。

覚醒の夢 2話 ~新津 三奈~

ポヨンッ!シューッ……ムクムクッ……パフッ。ベッドに寝転がった菜津葉の胸から出たり引っ込んだりするおっぱいを、机に座る小さなフリューは眺める。

「菜津葉さーん、何やってるんですかー?」
「んー、どれくらい強く念じると影響出るのかなって」
菜津葉は、ベッドの上で自分の魔力の実験をしていたのだ。外は夕焼けで赤く染まっている。
「あぁ、体が変化するボーダーラインは結構高めにしましたよ。本とか読んでるときに体型変わると困りますもんね」
「そうだね……って、体験者みたいに言うじゃない」
本当にそのとおりだったようで、フリューはため息を付いた。

「ええ、ワタシってあんなに筋肉モリモリでしたけど、あれも最初は制御が効かなくて、保健体育の教科書読みながらガリガリになったり肥満体になったり……」
「まさか、あの魔王ってやつ、他でも同じことやってたの?」
フリューはコクコクとうなずく。
「その当時は、まだ人間でしたけどね」
「へぇ……とんだ魔王もいたもんだね……」

呆れることしかできない菜津葉だったが、部屋の外から聞こえた母親の声に、服を着直した。
「菜津葉ー!三奈ちゃんが来てるわよ、忘れ物だって言うから通したわよ」
「え、三奈が?」
菜津葉が反応を返すと同時に、扉がガチャっと開いた。菜津葉の幼馴染である新津 三奈(にいつ みな)は、いつもは玄関でおとなしく待っていたが、部屋まで自分で来たのだ。なにかおかしい。
「菜津葉、ちゃん」

『気をつけてください、この子も魔力に汚染されています』
フリューはフッと姿を消し、また菜津葉の頭の中から声がした。
「三奈に限ってそんなことは……」
「菜津葉ちゃん、どうしたの……?」
――フリューに話しかけたことが、不自然な独り言に聞こえたのだろうか―少し、三奈は戸惑った。だが結局そのまま部屋に入ってきた。
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覚醒の夢 1話 ~古町 菜津葉~

古町 菜津葉(ふるまち なつは)は、北陸のとある町に住んでいる、普通の小学四年生。今は12月、日本海側特有の大雪に見舞われるが、学校は普通に授業を行う。

「じゃあ、行ってきます!」

学校は、小学生の菜津葉の足で20分程度のところにある。登校班は10人で、集まるのは家のすぐそばの公園だ。冬ということもあり、見送りの親を含めて全員厚着だ。

「菜津葉ちゃん、おはよ……」
「おはよー、三奈(みな)ちゃん!」

菜津葉を見るなり声をかけてきた、菜津葉より一回り小さな子。同い年の新津 三奈(にいづ みな)は、菜津葉の幼なじみ。気が弱く、いつも菜津葉にくっついて行動している。小学校でも別のクラスになったことはなかった――平日はだいたい一緒にいるし、休日も良く互いの家で遊んだりする。

「三奈ね、ちょっと怖い夢見たの」
小さい声で、そう菜津葉にしゃべりかけてきたのは、菜津葉と他の生徒との会話が落ち着き、学校につく直前になったころだった。

「え?どうしたの?」
「うーん、私、なんか……なっちゃって、みんなのこと……」
声がいつにもまして小さく、一部聞き取れない。その上、話の重要な部分が始まる前に、学校の門に到着してしまった。
「おはよう、みんな!今日も余裕の到着だな!」
教頭の声に遮られ、会話はそれで終わってしまった。
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覚醒の夢(仮) 序章

高層ビルの屋上に、二人の人間の影があった。少女と、黒いローブを羽織った、見るからに悪党が睨み合っている。
「魔法少女ナッツ!貴様もこれまでだ!」
「愛と正義の力、見せてあげるんだから!」
少女の名は魔法少女ナッツ。本名は古町 菜津葉(ふるまち なつは)。普段は普通の小学生だが、その正体は街を襲い来る魔人から守り抜く、正義の味方だ。

「フハハハ!強がっていられるのも今のうちだぞ!」
真剣な菜津葉に対して、悪党の方は余裕しゃくしゃくといった様子だ。ニヤける敵に、菜津葉は全力を魔法のステッキに込め、叫んだ。
「えーい!アイスフリューゲルス、ルミナスツーク!悪よ!滅び去れ!」

キュピィィッ!シュバッ!!

強い光を発した菜津葉のステッキから、強力な魔法が解き放たれる。――彼女の必殺技だ。これで、悪党は成敗される……

だが、迫りくる光の塊を見た悪党の表情は、急に冷めたものに変わった。

「ナッツ……いや、菜津葉よ。我の力を鍵とし、その力を覚醒させよ」

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