人にとって睡眠とは日常に欠かせない行為の一つである。睡眠が足りなければ、日常の判断力に大きな影響が出てしまう。
「おはよー!」
しかし、この中一の少女の場合その影響は判断力に収まらない。
「おはよ。あ、また睡眠不足だな?」
「えへへ、私、ちょっと大きくなってるー?」
擦陽 あや(すりひ あや)というこの少女は、メタモルフォーゼ症候群にかかっている。周りや自分の状態に応じて体の形が変わるこの病気だが、彼女の場合、眠気に応じて成長したり小さくなったりというもので、常に変わり続けるこのパラメータのせいで、彼女の体が一定のサイズであることはない。
小学校からの幼馴染の安下 留子(やすした りゅうこ)は、いつもは自分より小さいあやが、自分と同じくらいの大きさに成長しているのを見てニヤニヤしている。
「バレバレだよ、セーラー服、一番起きてる時はいっつもぶかぶかじゃん。今日は違うもん」
「実は、漫画を読み始めたら止まんなくて。大丈夫、宿題はやってきてあるから!」
あやは、買ったばかりのカバンを机の上にどさっと置くと、中から宿題の紙を取り出し、ドヤ顔で友達に見せる。
「ほら!」
「はいはい、前は忘れてきたのに、いい子ですねー」
「こ、こら、バカにしないでよ!あんただって忘れてきたことあったでしょ!?」
「あやほどじゃないよ」
頬を膨らませ、むすっとするあやを見て、留子は口元を緩ませた。
「ほらほら、朝礼始まっちゃうよ」
「あ、そうだね」
あやがカバンから教科書を取り出し、椅子に腰掛けて、カバンを机の側に置くと、中年の男性教諭が入ってきた。
「朝礼を始めます。擦陽は……今日は大丈夫そうだな」
「もう、先生!どういう意味ですか!」
名指しで確認され、手を挙げて反論するあやだが、その途端少し背が縮んだのを、教諭は見逃さなかなかった。
「寝不足、ですね。そういうことです」
「む、むぅ……」
この体質のせいで、少しでも眠いようならバレてしまう。朝なのだから眠いのは当然であるのだが、今日は成長度合いが基準を超えていたらしい。だが、このあやという少女はかなり天然ボケが入っていて、この手の隠し事が出来ないことはあまり気にならない。
「では、出席を取ります」
そんな、少し普通とはずれているが日常と同じ朝礼が始まり、今日の授業へと続いていった。
だが、一つ落とし穴があった。1時間目の体育が、その落とし穴だった。
「新入生のみんな、
学期が始まって初めての体育は、1000m走という、女性にとってはハードな種目だった。
「はぁ……疲れたぁ」
体育の授業を終えたあやは息を切らしている。
「あや、よく3本も走れたね」
「私、走るのだけは得意なんだ」
留子のほうはというと、一回走っただけで体力を使い果たしてしまい、元気よく走り続けるあやをトラックの外からぼーっとながめていたのだ。
あやは、息を整えるとすぐに後者に向かって走り始める。
「次の授業すぐあるから、さっさと着替えないとね!」
「そ、そうだね!って、ちょっとまってー!」
留子は小さい体なのにかなり速く走っていくあやに、なんとかついて行った。
—
次の時間。授業の支度をして、席についた留子は、早速横に座っている小柄なあやを見る。すると、ペッタンコなセーラー服の胸の部分が、グググと前にせり出しているところだった。
「ちょ、ちょっと、あや……」
「うーん、なにぃ?」
留子に顔を向け、眠そうに答えるあや。胸の盛り上がりはさらに大きくなって、リボンで見えないセーラー服のボタンがだんだん張り詰めている。
「大丈夫なの?」
「だいじょうぶだってー、宿題ちゃんと……やって……」
運動で疲れたことからあやを眠気が襲っているようだ。体がメキメキいう音を立てると、あやの体が勢い良く縦に伸び、140cmの身長が165cmまでになった。スカートの下から足がニョキィと出てくると同時に皮下脂肪が付いて丸みを帯びる。
「おきて……られない……」
体を前に傾け、居眠りする体勢になると、いよいよセーラー服の限界が訪れたようで、ボタンがブチブチと取れ、中からプルンと蒸れたGカップの双丘が机の上に飛び出し、寝ようとする頭にちょうど良くクッションになった。
「あや……?」
「むにゃむにゃ……」
さらに机の上で大きくなる乳房は、スイカサイズにも達している。周りの生徒も気づいているらしく、ざわついている。教諭も気を取られて授業が思うように進まなくなっている。それでも注意しにこないのは、その中学生に見合わないスタイルの良さを目の当たりにして、もう少し見ていたいという欲望が現れた結果だろうか。だが、その姿を見慣れていた留子は、少しため息をついて、すやすやと寝息を立てているあやを見守るだけだった。留子にとって問題なのは、この後だった。
「そろそろ、アイツが出てくるかな」
留子がつぶやくと、寝ているはずのあやの口から、色っぽい声が発せられた。
「だれが、アイツ、ですって?」
あやはパチッと目をさます。しかし体つきは全く変わらない。それどころか、足を組み、体のメリハリを強調するような姿勢になったおかげで、さらに扇情的になっている。
「ふふ、留子ちゃん、お久しぶり」
「お久しぶり、あやさん」
天真爛漫なあやとは一線を画す、もう一人のあやがそこにいた。
「1週間ぶりだっけ?あ、今授業中ぅ?」
「そうだよ」
「もう、この子ったら、居眠りしちゃてるのね」
メタモルフォーゼ症候群を発症してから、あやの中に居座るようになったもう一つの人格。「元」のあやが眠ると、表に出てくる「裏」のあやだ。
「体育の授業があってね。それよりも……」
その「あや」に、留子はニヤニヤしながら喋っている。
「はやく、私にご褒美、ちょうだい?」
「はいはい。もう留子ちゃんったらせっかちね❤」
あやは席から立ち上がり、乳首を留子の口に近づける。
「ほら、後はあなたの好きにしていいわよ、私のかわいいかわいい留子ちゃん」
「ありがたき幸せ……!」
留子は、顔を前に突き出し、あやから母乳を吸うように、その豊満な果実の先をくわえた。
「留子ちゃんは、もう完全に私のトリコね。ほら、周りのみんなもどう?❤」
あやの周りに、生徒たちが男女問わずぞろぞろと集まってきた。症候群によって形成されたあり得ないほどグラマラスな体に、幻術でも掛けられたかのようだ。全員があやに頬ずりし、さわり、撫でた。異様な空間が、そこには形成されていた。
授業時間の半ばになってやっと、あやの言葉でそれは終わりを迎えた。
「あ、あの子起きちゃう❤みんな、席に戻って?」
何も答えずに、生徒たちは自分の席に帰っていく。今までずっとおっぱいを吸い続けていた留子もぱっとそれをやめた。それを見たあやは自分も席に戻り、目を閉じて机の上に突っ伏した。
数秒の沈黙の後、教諭があやに指名をする。
「それでは刷陽さん。ここ読んでください」
「はっ……!?私、寝てた!?」
あやの体が、風船が割れたときのような勢いで元に戻った。
「あやちゃん、ここ、ここ」
「あっ、そこね!私、練習してきたから大丈夫!」
留子は何事もなかったかのように振る舞う。それは留子だけではなく、教諭も含めて周り全員も同じだった。
「わかりましたから、読んでください」
「はーい!えーと、『あいあむ……』」
そして、「日常」はいつものように続いていくのである。症候群のせいで何かが狂った「日常」が。