副作用2(2/3)

次に少年が目を覚ますと、見覚えのない天井が見えた。きれいな白いベッドの上に寝かされていたが、古ぼけた部屋自体は馴染みのないものだ。

「いったい、僕は……」
「やっと、起きたんですね」

これも聞き覚えのない声。駅の窓口にいそうな制服姿の女性が、心配そうに少年を見ていた。

「あ、あの……ここは……」
「あなたの住んでるところから少し離れた駅だよ。駅の名前を言ってもわからないでしょうから……地図を見ればわかるかな?」

道案内用の少し細かな地図を、女性は持ってきた。付けているバッジは、少年が駅で目にするロゴが入っている。駅員のようだ。

地図には、大きな駅に赤い丸がしてあった。どうやら、そこが今いる場所のようだ。線路をなぞっていくと、5駅くらい先に少年の駅があった。

「5駅も……」
「うん、あなたの通学定期を見させてもらったけど、学校より遠い場所に来てるのよ。ごめんなさい、でもあなたが見つかった場所からは1駅だし、救護室がここにしかなかったものだから……」

学校には完全に遅刻だろうという考えと一緒に、この状況に陥る前の記憶が戻ってきた。電車の中でまた女の人になって、そして、落ち着けばもとに戻るという推測が外れて……そこから先の記憶がない。
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副作用2 (1/3)

その次の日。自然と目が覚めた少年は、いつものように背伸びをしてあくびをかく。そして、少しぼーっとしたあと、思い出した。

「あ、元に戻ってる……」自分の体を見ると、服が破れている以外は普段どおりのものに戻っていた。ただ、手足がやけに細く、肌も色白になっている。股間を確認すると、そこだけは元に戻っていないことがはっきり分かった。

薬の副作用で、少年は少女になり、男に戻れなくなっていた。しかも、『オトナになる薬』のハズが、元と同じ年頃の、子供の体で安定していた。

それよりも、少女には緊急の、文字通り課題があった。目覚まし時計を見ると、いつも起きている時間を50分過ぎていた。

「遅刻しちゃう!」少女は飛び起き、パジャマを脱ぎ捨てて学校に行くための服に着替える。学校は電車通勤が必要なほど遠いところにあったが、電車の本数は少ない。通勤ラッシュでも、30分に1本しか来ない。少しの遅れが、致命的な遅刻につながるのだった。

「うぅっ」だが、そんな彼女を、また胸の痛みが襲った。内側から無理に押し広げられるような、痛烈なものだ。見ると、思ったとおり、ぷっくりと胸が膨らんでいる。それと同時に、心臓が少し強めに脈をうっていることにも気づいた。

「もしかして、激しい運動とかすると、成長しちゃうの……?」手指も少し長くなるのを見て、仕方なく遅刻することにした彼女だった。思ったとおり、少し落ち着かせると、その長さは元に戻り、胸の膨らみも消えていた。

「よかった……って、そんな場合じゃないんだって……」少女は、カバンに授業に必要なものを詰め込み、先にでかけていた親が作った弁当を回収すると、学校に向けて出発した。
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副作用

「これが『オトナになる薬』……?」

見た目は、ただの風邪薬のような錠剤。それを手のひらの上に置いて、九歳の少年はじーっと見つめた。二次性徴はまだ始まっていないが、背は低いわけではない。ただ、気になっていた近所の年上の女性に告白したときの反応が彼にこの薬を手にさせた。それは単純明快、『コドモっぽい』と一蹴されたのだった。あまり使い方に慣れていないインターネットで、どういうわけかこの『オトナになる薬』を見つけ、即日で購入、そして今日それが届いたというわけだ。

「えーと、『一日三回、一錠ずつ飲めば一ヶ月で効果が出ます……』」

薬が入っていた瓶にある注意書きを読み上げる。小学生レベルの漢字の知識で読めるように、難しい漢字はふりがなが振ってあった。

「『10錠飲めば一時間で効果が出ますが、副作用については保証できません』……かぁ」

彼は、少しのあいだ逡巡した。副作用でどんなことが起きるかまったく見当がつかない。しかし、この薬を衝動買いさせた焦りが、彼を動かした。10錠で一時間なら、20錠だったら一瞬で効果が出るのではないか。そう憶測した小学生は、瓶から薬をドバっと出した。そして本来なら一週間かけて飲む量を、水と一緒に一気に飲み干した。

「ふぅ……」

あまりにも大量の錠剤で、少し息がつまりかけたが、何とか胃袋に詰め込む。そして、薬は胃袋から身体に吸収されていく。それを、少年は自分の体の中の熱として感じ取った。だが、その熱は少し経つと収まった。

「え……」

時計の音がチクタクと部屋に響く。少年は瓶をボーッと見つめていたが、一分くらいして諦めたのか、瓶のフタを閉じた。

「やっぱり、こんな薬だけで大人になれたら苦労しない……か」

近所のお姉さんが、遠ざかっていく。悲しみよりも、バカバカしさの方が大きかった。考え方だけでも大人になってないかと少し思考したが、何も変わっていなかった。彼は、宿題をするためノートと教科書を取り出し、勉強机に準備して座り、鉛筆を握った。

そのときだった。

《メキメキ……》
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変身描写だけ描きたい!(TS/AP/TF)

「ま、待ちなさい!お前にはまだ!!」
「見ててください……俺の変身!」

俺は師匠に叩き込まれた気功術を発動させた。怪人が一般市民を襲っているのに、俺自身の安全を考えてなどいられない。それに、修行の成果を見せるには絶好のチャンスだ。

「ふんっ!!」

気合をこめると、俺の体がぐにぐにと縮み始める。逆に、髪は長く伸び始め、黒かったものが根本からピンク色に染まっていく。

「く、くぅっ!!」

とどのつまり、俺は魔法少女に変身しようとしていたのだ。なぜ少女に変身しなければならないかと言うと、話せば長くなるが、体に一定量ある魔法を凝縮させるのが一番の目的だ。

「だ、ダメです!!やはりまだ早い!!」

師匠は必死に止めてくるが、その言葉とは裏腹に、俺は思ったとおりの少女の体に近づきつつあった。手足は短く細くなり、筋肉も鳴りを潜めていく。そして、ぶかぶかになった服が変形を始める。変身中に少し発散される魔力が、普段着をフリルたっぷりのコスチュームに変えていくのだ。

「ふふっ、師匠……ちゃんと、俺、変身できましたよ」
「お前……!」

いつもより視線が低い。近くにある窓ガラスに映る俺の姿は、魔法少女そのもの。体は小学生くらいの大きさで、顔も幼くかわいらしく、もともとの面影などどこにもない。体の中は、濃度の高まった魔法で少しぽかぽかする。準備運動にと、体を少し浮かせ、魔法の命中度を高めるためのステッキを作り出す。

「じゃあ、俺、アイツを倒してきま……っ……!?」

怪人に敵意を向けた瞬間だった。いきなり体が熱くなって、心臓がバクバクと激しく鼓動した。

「だから、言ったのに!お前の体は、まだ戦闘向きの魔力に付いていけるようなものではないのだ!」
「じゃあ、元に……!!」

元に戻る気功術を発動させようとするが、体中を駆け回る熱、いや、魔力のせいで集中できない。

《ギュウッ……!!》

なにかに、胸が締め付けられている。いつの間にか怪人に襲われたかと思ったが、違う。服の、胸の部分が前に押し出されていた。そしてそれは俺の見ている前でどんどん大きくなる。

「こ、これって!?」

俺の疑問は、すぐに解決された。その盛り上がりは爆発的に大きくなり、服を破り捨てて飛び出てきた。肌色の、やわらかくすべすべとしたカタマリ。おっぱいだ。それも、子供の胸には釣り合わない、手に余るくらいの大きさだ。

「な、なんで!俺、男なのに!」
「今は、魔法少女でしょう。もう、手遅れです。あなたは、怪人になるのです」
「か、怪人!?この俺が!?うぐぅっ!?」

脚に、急に空気が送り込まれたかのような圧迫感が走り、目線がグイッと上がる。大きな胸で視界が邪魔されて脚はよく見えない。

「お前は木属性の魔法が得意だった……だから……」

ピンク色の髪が、緑色に染まり始め、更に伸びて腰に掛かってくる。背骨がグキグキと伸ばされ、骨盤が広がる。

「だから、植物の怪人になると……?」

指に痛みが走ったと思うと、一本一本が長く細く伸びる。そして、腕が引き伸ばされるように長くなる。

「ええ……」

服はもはやビリビリに破け、俺の体はほとんどが外気にさらされている。さっき幼い少女を映していた窓ガラスには、緑髪の女性が写っている。ほどよく健康的なその体は、こんな危機的状況でなければ、いつまでも眺めていたいくらいだ。

「なんだ、普通の女じゃないか」
「ここで終わると思ったのですか?
「え……うっ、ぐぅっ!!??」

脚に、強烈な痛みが走る。骨が、皮が溶けていく。そして、皮膚は茶色にただれて、形が崩れていく。ささくれだらけの乾いたそれはまるで木の幹のようだ。

「ドリアード、樹の怪物になるようですね……」
「そんな……!!」

その脚は、地面に突き刺さり、その下の土から、養分を吸い出す。俺の目では見えないが、体でそうわかった。そして、ドクン、ドクン、と吸い上げた養分が上半身に蓄えられ始める。

「おいしい……」

無意識にそう声を発していた。大地の恵みは、とても美味だった。こんな街の中でも、地中深い所では自然が残っているのだろう。その恵みで、俺の体は育ち始めた。

「いい、いい……」

肌が、微妙に緑色を帯び始める。巨乳だった胸が、更に大きくなっていく。脚からツルが伸び、体に巻き付いて服のようになる。そして、豊かに育った乳房も、包み込んでいく。

腰には飾りのように花が咲いた。地面に根を張った脚は、いつの間にか人の身長くらいに長くなり、人間と変わらない大きさの上半身と不釣り合いになっていた。師匠の顔が、下の方に見える。

「……思ったとおりの、結果になりましたね……」

その表情は、これまで見たことがないほどに曇っていた。その悲しげな顔が、俺の胸に突き刺さった。

「お、俺は……アイツを倒して……」
「だめです、だめですよ!怪人になっても、心を奪われなければ……!!」

師匠が、必死に俺を止めている。だが俺のプライドが、人間を襲っている怪人を倒せと言っていた。……今思えば、それはドリアードの本性が誘いかけていたのかもしれないが。

どっちにしろ、俺は無我夢中でそいつを攻撃し始めた。脚からつながったツルや樹の根、ありとあらゆる攻撃手段で、狩りをした。殺す、ころす、コロス。それ以外、考えなかった。

そして、怪人が粉々になった頃には、師匠の姿はなかった。もう、魔法少女なんかどうでもよくなっていた。それよりも……

「この大地は、ワタシのモノ……醜い人間の街など、この地から消してしまおう」

そんなワタシの前に、立ちはだかるものなど、なかった。

トキシフィケーション~毒の力~ 温泉編

ここは山奥の温泉。寂れた宿屋に、3人の家族が訪れていた。父親と、母親と、小学生の子供だ。

「やっとついた……こんな秘境、よく見つけたな……」
「ええ、そうね……」

父親、大介(だいすけ)は30代のサラリーマン。妻の花菜(かな)がチラシのスミに書かれていた宣伝を見て、子供の真波(まなみ)と一緒に行きたがったことで、近くの街から車で1時間もかかるこの宿に行くこととなった。

「イラッシャイマセー」出迎えるのは、アメリカ人のような背の高い男性。多少なまっているが、和服を着て落ち着いた雰囲気だ。

「あら、外国の方なのね」
「マズハ、オチャデモー」
玄関で靴を脱いだ三人を見て、靴を下駄箱に入れながら中に案内する。朽ちた外観とは裏腹に、内装は都心の宿に引けを取らない近代的なものだった。

「古宿に泊まるのは、少し不安があったけど、これなら大丈夫そうね、ね?真波?」
「うん!でも私、もう疲れた……」

真波は、そのロングヘアを手ぐしでときながら、小さなあくびをした。

「あらあら、じゃあお茶は後にして、お風呂でも入ってくる?」
「どうしよう、一人で大丈夫かな」

「ソレナラ、オチャヲ イレタアトニ ワタシガ ゴイッショシマスヨー」
宿の主人が、宿泊部屋に案内しながら、ニコニコと微笑んで言った。両親は荷物をおろしつつ、その主人の善意の笑みを信頼することにした。

「それでは、よろしくお願いします」

「デハ、オチャヲ オモチシマース。ゴユックリー」
「ありがとうございます」
主人は、ふすまを閉じて立ち去っていった。大介は早速テレビを付けて、椅子に座りくつろぎ始めた。

「ふう、こんな田舎に、ここまで綺麗な宿があるとはね」
「そうね……」

その部屋は、つい最近につくられたと思えるほど整っていた。テレビも最新型の4Kモニターで、エアコンは変色の一つもしていないピカピカの新品だ。

「ねえ、なにかおかしいと思わない?」
「そうか?別にそんなことないだろ。おい、真波、お風呂にいく支度をしておいて」
「あ、はい、お父さん」

大介は立ち上がると、荷物の鍵を開けて、その口を開けた。真波は、それを見て自分の下着を取り出した。

「あ、真波、浴衣も持っていきなさい」
「うん」

と、そこで部屋のふすまが開き、主人がお茶を持って入ってきた。
「オマタセシマシター」
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あおり運転

「ったく、ちんたら走りやがって……」

山あいの道を、2台の車が前後並んで走っていた。カーブが多く追い抜くこともままならない道を、のろのろと走るハイ◯ースに遮られ、車間距離を狭めて走る若い男性。大きな車は小回りがきかずあまり速く走れないのだが、そんなことはお構いなしに煽り続ける。だが、『あおり運転撲滅協会・TS』と書かれているということに気づくには、観察力が足りなすぎたようだ。

前の車がブレーキランプを点滅させた。車間距離を空けろ、という注意のようだったが、そんな意図を汲み取ることもない。
「……ふざけやがって……」
前におどりでて止めてやろうか、とキレかかった男。だが、急に前の車からピンク色の煙がモクモクと出始め、真後ろにいた男の車に襲いかかった。男の車のエアコンは、もろにその煙を吸い込んでしまった。
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覚醒の夢 4話 ~魚沼 結月 後編~

「じゃあ、続きはじめるね」

結月は、弟が持っているお盆から、食べかけのマフィンを持ち上げ、残りをほおばる。そして、もぐもぐと食べるとエプロンの胸の部分の膨らみが大きくなっていく。ゴクッと飲み込むと、体が一回り大きくなる。食べたおなかを擦ると、尻がプリッと震え、膨らんだ。

「もう一つ……、いや二つ……」

いつもの落ち着いた様子をかなぐり捨て、マフィンを口に流しこむ。その度、四肢が伸び、那月との身長差が開いていく。エプロンの横から膨らみが確認できるほどに乳房が成長し、尻の膨らみは張りを保ったまま成長する。ゴクリゴクリとマフィンを飲み込むごとに、ムクッムクッと結月は、中学生の体からスタイルの良い高校生へと大きくなっていく。

「ふぅ~、いつも通り、おいしいマフィン……」

自分のマフィンの味に、そして自分の成長に陶酔している結月。やはり魔王の魔力の影響か、性格まで歪んでいるようだ。

「あなたは、これどう思う?」

――私が成長した時に比べたら、こんな大きさなんて……
と菜津葉が考えてしまう乳房は、スイカよりも大きくなる菜津葉のものと比較するなら確かに小さいものである。だがそれは、平均的な女性のものを超えている。少し前まで小学生だった結月からすれば、大きな変化であった。そして、自然な反応は……

「おっ……きぃ……」
――えっ?

菜津葉の口を突いて出るフリューの言葉に、菜津葉自身が驚く。
「でしょ……?でもまだこれからなんだよ?」
「そ、そんな……」
――ま、当然そうだよね……

結月をあざむくための演技を続けるフリューに対して、本音しか『吐かない』菜津葉――さぞかし、演技の邪魔になっているだろう。
『あのですね、この子のスキを探すために幼稚園生になりきってるのに、菜津葉ちゃんが協力してくれないと気が散っちゃいます』フリューの脳内ボイスもどことなく苛立ちを含んでいる。
――あー、分かったよ……

「ねえねえ、姉ちゃん、そろそろ僕の方も始めてよ」

マフィンのお盆をテーブルに置き、結月に何かをねだる那月。
「そうだね~、私も結構大きくなったから、そろそろだね」

結月は、那月のズボンのチャックを下ろし、ブリーフをおろして小さな男の象徴を眺める。
「成長なしだと小さいね、けど」

胸を寄せ上げ、作った谷間でエプロン越しに那月を慰める。
「ん、んっ……」
「ちょっと小さすぎるかな……」

那月の膨らみ方を見て、不服そうな結月である。那月も申し訳なさそうにするが、結月がマフィンを手に取ったのを見て顔色が変わった。

「や、やめ……て、あれは……」
「だめだよ、そうしなきゃまたお菓子作れないじゃない」

そして、優しい笑顔のまま那月の小さい口をこじ開け、無理矢理突っ込んだ。

「ん、んんんっ……!!」

すると、那月の小さかったそれが、ドクンドクンと脈動し始め、赤黒く、不自然に膨らみ始めたではないか。那月はそれが膨らむ痛みに苦悶しながら、再開された胸のマッサージに、快楽と苦痛が混じった複雑な表情を浮かべる。あっという間に、成人男性でも大きいくらいに、それは成長した。
「おちんちん、い、いたいよぉっ……!でも、また、あれがきちゃうよぉっ!」
「いいんだよ、きちゃっても」

結月は弟の息子を胸でもみながら、さらにマフィンを食べる。ムニュッムニュッと揉まれるたびに大きくなっていくそれは、結月の口に出口を向けたまま怒張している肉の棒を包み込み、メロンサイズとなって快感を送り込み続ける。
「いたい、けど、きもちいいよぉ……!また、おもらししちゃうぅっ!」
「大丈夫、出たものは全部私が飲んであげるから」

『な、なんですかあのプレイ……私もしてみたいです……』
――見てられないよぉっ、目を閉じてよ!
過激になっていく姉弟の遊びを、ただただ凝視する姿は幼稚園生、頭は妖艶なフリューと、やっぱり頭も小学生な菜津葉。そして……

ドピュゥッ!

「ひゃっ!」
ついに那月から飛び出した精の子が、結月の顔に襲いかかった。白いヌルヌルまみれになった結月だが、恍惚の面持ちだ。

「もっと、ちょうだい……」
その液体をペロッと舐めると、今度は肉棒を口に入れ舐め回す。
「んんっ、もっと出ちゃうぅっ!」
口の中にさらに液体が排出されているのか、結月はゴクゴクと飲んでいる。

『だ、だだだ、ダメですよ、菜津葉ちゃんはまだこういうのは早いから!』
――だったら目を閉じてってさっきから言ってるでしょ!ああ、駄目だこの人。
やっぱり、女の体をしていても、女の声でも喋り方でも、中身はあのマッチョマンなのだ。目を閉じるどころか、食い入るように見つめてしまっている。菜津葉は必死に意識をそらした。

『あ、菜津葉ちゃん、あの子の胸、張ってきてます!』
――はぁっ!?

結月が喉に熱い液体を流し込む、その度に、胸に何かが詰まっている。柔らかそうだったおっぱいが、硬さを帯びて、さらに那月を強く刺激していた。
「んーふふ、ぷはぁっ……ちょっと作りすぎちゃったかな……」

ある程度たまったところで、結月は口を離した。行き場を失った白い噴水は、フローリングを汚してしまう。
「ね、姉ちゃん……っ、もっと、して……」
「ちょっとだけ待っててね、那月」

結月はキッチンへ向かった。その間に那月は腰が砕けたように地面にへたっと座り、菜津葉の方を恥ずかしそうに見つめた。
「おしっこ止まらないよぉ……」

結月は、雑巾とバケツ、そして大きめのジャム用のビンを2つ持ってきた。
「那月、あとで私が片付けてあげるから、気にしないでいいよ……それより、もう、出ちゃいそう……」
パンパンに張った乳房の先が、少し湿っている。結月はそれを覆うようにビンをかぶせ、そして――

ブシャァッ!!!

体の方に押し付けて、溜まった液体を絞り出した。一瞬で、瓶は母乳で一杯になり、結月は器用に蓋を締めてテーブルの上においた。
「おっぱい、出しきれなかったなぁ」
張りが残ったのか、その顔は不安そうであったが、ハッとしたあと、一瞬で笑顔に戻り、それは菜津葉に向けられた。

「そうだ、あなたには特別、直接飲ませてあげる」

菜津葉に寒気が走ったときにはもう小さな体は持ち上げられ、おっぱいに口をつけさせられていた。

「んぐううっ!!」

菜津葉、そしてフリューは必死に抵抗したが、うふっ、と結月が笑うと、大量の母乳が菜津葉の中に流れ込んできた。
『いけません、菜津葉さん!この母乳は魔力の塊になっています!』
――じゃあ、どうしたら!
フリューが他人事のように、菜津葉に怒鳴る。その間にも、母乳が菜津葉の体内に侵入をしかけてくる。

「これであなたも、母乳たっぷりのおいしいマフィンが作れるようになるよ」

――体が、熱くなってきたぁっ……
『菜津葉ちゃん』
――え?
『私を、信じてください……』

「んんっ!」
ついに菜津葉の体が、魔力の影響で大きくなり始めた。
「んあああっっ!!!」
そして、大量の魔力のせいか、体よりも先に手足がグンッ!と急速に長くなる。わずか2秒ほどで、長さは4倍、太さは3倍程度になった。

「ちょっと、すごい勢い……」
結月すら仰天するが、その間にも、胴の部分も一気に大きくなり、小学生用の児童服を勢い良く破る。これには、結月の方も重さに耐えられなくなり、菜津葉の体を放した。
「ど、どうしたの、一体……」

「おっぱい、もっとちょうだいぃっ!」
フリューは、ほとんど母乳を出し切った乳房から口を離し、もう一つの方もギュッギュッと絞るようにして、勢い良く吸い出す。
「ひゃんっ!」

「んんんっ!」
すると、菜津葉の成長しているが真っ平らだった胸板に、ブルンッとリンゴ大の乳房があらわれ、さらにメロンの大きさまでボヨンッ!と大きくなって、同時に張り詰めていく。
「おっぱい、出ちゃうっ!」
「すごいね、もう出ちゃうの……?」

菜津葉の中で無尽蔵に生産されていく母乳は、あっという間に容量の限界点を突破し――

ブッシャアアアッ!!!

部屋中に、勢い良くまかれ、何もかもを白く濡らした。だが、それが出切るとプシューッと空気が抜けるように乳房も縮んでしまった。

「お姉ちゃん、まだ、足りないよ……」
「うーん、仕方がないね」
結月は、マフィンをまた一つ口に入れる。すると、また乳房に張りが戻る。

「ほら、おっぱいあげるよ……あれ?」
だが、今度は体が小さくなっていた。体から何かが染み出していくように、乳房が体中から何かを吸い出すように、その分母乳が生産されていたのだ。
「おっぱい、ちょうだい!」

ここぞとばかりに、フリューは結月の乳房に吸い付き、もう一つはガシッと掴んで、たまったものを出させた。
「あっ、やめてっ!離して!」
体が大人から高校生、高校生から中学生へと小さくなっていく結月は、母乳を飲んでさらに成長する菜津葉からは逃げられない。

『ふふ、これが狙いだったんですよ。母乳で急激に成長したのは、半分は菜津葉ちゃんの魔力のおかげ。それで、入ってきた母乳と菜津葉ちゃんの魔力を混ぜ合わせ、またこちらも母乳として噴出、魔力の根源となっているであろうマフィンに噴射し、そちらでも魔力を混ぜ合わせる。もう、結月ちゃんがマフィンを食べても……』

「こ、こうなったらっ!むぐぐぅっ!」
結月は、信じられない速度でマフィンを食べだした。再び体が大人のものへと戻り、母乳の勢いが増す。
「んぎゅぅっ!」

『そんなっ、菜津葉ちゃん、マフィンが無くなるまで、耐えてっ!』
結月の魔力に対抗するため、さらに体を大きくするフリュー。全身がドクンッドクンッと脈動しながら、菜津葉はさながら結月のミルクを貯めるミルクタンクのように、手が、足が、胸が、大きくなる。そして、もう片方の乳房から出るミルクは、どんどん周りに撒き散らされる。
――ミルク、いっぱい、おかしくなっちゃう、よ……

身長が160cmから180cm、さらに2mの大台へと近づき、菜津葉は150cm前後を行き来している結月に合わせるため、膝立ちになる。スネに、母乳の洪水による冷たさが伝わってくる。

そして、必死に結月の体にしがみついてはいるが、ビーチボール級に膨らんだ乳房が二人の間に挟まり、それを邪魔してくる。もう限界かと思ったその時――

「あっ、なくなっちゃった……」

プシューと体が小さくなる結月。菜津葉の口に入ってくる液体の流量が急激に減る。そして、それが出終わった頃には、結月の体は元の小学生に戻っていて、菜津葉はいつの間にか結月を持ち上げていた。
「結月ちゃん、ごめんっ!」
「えっ!?……むぅっ」

待っていましたと言わんばかりに結月の乳首から口へと、自分の口を動かす……というより、結月の体を動かして口づけをする菜津葉。何かが出ていく感触がする。

「あああああぁぁぁぁああっ!!!!!」
浄化が始まると、結月は鼓膜が破れそうなほどの悲鳴を上げ、頭を抱えた。菜津葉は、未だ自分の中にある魔力の脈動を感じながら、その行く末を見守る。

少しすると、頭を抱えるのをやめ、結月は自分の手を見て、自身の姿を確認した。
「ゆ、づきちゃん……?」
「あ……うん……私、どうしたのかな……キスされたら……もやもやが晴れた……」
菜津葉や、三奈が見ていたピンクの霧のことだろう。洗脳が解けたのだ。

「よかった、結月ちゃん……」
「お姉さん、だれ……?」
「あっ……」
未だに自分のことがバレていないのは、フリューの演技のおかげだろう。しかし、二人は、ここにいるのが結月と菜津葉(とフリュー)だけでないことをすっかり忘れていた。

「うわっ……わああぁぁぁっ!!!!」
「な、那月!」
部屋を洪水状態にしていたミルクが、那月に迫って……その口から、自分自身を押し込むように入りだしたのだ。そして、同時に菜津葉の胸が膨れだし、ミルクが飛び出し、そのまま那月の体に飛び込むように入っていく。

ブクブクブクーッ!!!!

当然、それが貯められる場所――腹部が、暴力的に膨らむ。そしてその膨らみは、人体の限界に、急速に近づいていく。行き場を失った魔力が、もうひとりの結月を作ろうとしたのは良いものの、完全に暴走してしまっていた。

「結月ぃっ!!」

その流入現象は那月が破裂する前に終わった。だが――

ドクンッ!!!

那月の体がビクンッと跳ね、膨らみきった腹部が、脈動した。成長は、これからのようだった。那月は、ドクンッドクンッという腹部の脈動とともに、ポンプで膨らまされる風船人形のように――

ボインッ!ギュワンッ!

女性のように成長していく。段階的に、しかし爆発するように大きくなる体に、服は一気に千切れ去り、その下にできゆく体は、筋肉より皮下脂肪が、骨より巨大な乳が目立つ、見まごうこともない女のものだ。

「そんな、どうしてっ!」
「これじゃ、私も浄化できない……!」
幾分小さくなったものの、まだ身長が180cmくらいある菜津葉だが、那月の急激な成長はもうその大きさに届こうとしていた。そして、結月は自分を菜津葉と気づいていないだろうが、これしか言えなかった。
「結月しか、何もできない……ううん、結月ちゃんなら、何とかできる……できるよ、結月ちゃんっ!」
「えっ……?」

2m、2m40cmとさらに巨大化する那月を前に、結月はうろたえるだけだ。その手を、菜津葉はギュッと掴んだ。
「キス、するんだよ」
「キ……ス……?」

ガタンッ!!ガッシャーンッ!!!

家具や家電を壊しながら体積を増やしていく那月。もう一刻の猶予もなかった。
「早く!完全に那月くんが魔力に飲み込まれちゃう!」
「わ、わかったっ!那月!」

「ねえ……ちゃん……」
「那月……いま、助けてあげるから……」
結月と那月は、優しく唇を重ねた。すると、那月の体全体がぽぉっと、柔らかい光に包まれた。
「ありがと……姉ちゃん……」

光が消えると、そこにいたのは小学生の那月。全てが元通りになったのだった。

「よかった、那月……」

弟を抱きしめる結月を前に、菜津葉も自分の体を元に戻した。

「えっ、菜津葉ちゃん!?」
結月は思いがけない親友の出現に目を丸くして驚いた。
「えへへ、ごめんね、今まで言えなくて……」


――これが、結月が見た夢だった。
――夢の中で、私はお菓子を作っていたの。みんなと一緒に食べるためのクッキーをいつもどおり焼いてた。そしたら……

「あ、このマフィン、おいしそう」

――自分用にも一つだけ、お菓子を作りたくなっちゃって。でもその時、中世ファンタジーで出てくるようなフードをかぶった、知らない男の人が出てきてこういったの。

「お前の魔力を解放せよ!」

――何言ってるのこの人、と思ったら、その、おっぱいが、痒くなって、服を脱いでみたらプクーって膨れだして。慌ててるうちに、お母さんのより大きくなっちゃって。びっくりしたんだけど、揉んでみたら、ミルクが出てきたの。もしかして、これでマフィンを……?と思って作ってみたら美味しくって!でもどんどんミルクが出てくるからどんどんマフィンを作って、自分で食べてたの……美味しかった……


「で、起きたらマフィンが一つ、ベッド際に置いてあった、と」
「んー、そうじゃなくて、起きたらおっぱい大きいままで、絞ったらミルクが出てきたから……とっておいたの」
「なるほどね」
菜津葉は、結月の服をもらって、ビリビリに破けた自分のものの代わりに着なおしていた。結月と菜津葉はそこまで体のサイズが違わないので、ちょうどよかった。

「でもマフィンを作って食べてるところを那月に見られて、当然那月の前で大きくなっちゃったんだけど。そしたら急におなかの下のほうが熱くなってきて……」
「い、言わなくていいよ!」
「ありがとう、菜津葉ちゃん。私を、那月を助けてくれて」

「助けたのは私ですけどね!」
黙って話を聞いていたフリューが水を差した。フリューは、騒動が落ち着いたあとポッと姿を現し、自己紹介までは済ませていた。
「あ、そうでしたね、フリューさん」
「あとね、結月ちゃん、あなたの魔力、ちょっと使用方法を広げておきましたよ。体だけじゃなくて、精神状態も変えられるようにしたんです。『このお菓子を食べると、勉強したくなる』とか、『このお菓子を食べると、私に惚れる』とか」

「えっと……楽しそうですね」
「正しく、常識の範囲内で使ってくださいね」
いたずらっぽい笑みを浮かべるフリューと、呆れている菜津葉に、結月は優しく微笑む。
「じゃあ……『幸せになる』お菓子、作っておきますね」

等価交換 序

『無作為な選別により、あなたは特別な能力を得ました。確認するにはOKをクリックしてください』なんていう、ウィルス感染サイトへの誘導のようなメッセージが出たのは、休みの日にパソコンでゲームやらネットサーフィンやらをしようとして、パソコンを起動した直後だった。

「なんだよ、変なリンク踏んだわけでもないのに……」ブラウザすら付けていない。このパソコンは家族には触らせないから、自分の操作以外でこんなメッセージが出るように設定がされるわけもない。「まあ、こんなもん無理矢理閉じれば……ってあれ」
いくらキーボードを操作しても、画面が動かない。イラッとして電源ボタンを長押ししたものの、電源が切れない。最後にはコンセントを抜いたが、それでもパソコンは謎の電力源で動き続けた。何か、超常的な現象に、俺は出くわしていた。仕方がないので、唯一動かせたマウスカーソルをメッセージのボタンに合わせ、クリックした。すると、ソフトのチュートリアル的な画面が開いた。

『まず、あなたは人間と、無生物のもの全ての形を自分も含めて自由自在にできます。試しに、自分の腕力を上げたいとか、脂肪を筋肉にしたいとか念じてみてください』というメッセージが、腕の絵と共に表示される。

――バカバカしすぎる。俺は神にでもなったっていうのか。
と思ったはいいものの、パソコンは相変わらずマウス以外が操作を受け付けない。ここまでくると、このままだと自分の部屋の扉すら開かない気すらする。仕方なく、鍛えられることもなく脂肪だけが蓄えられている右腕をじっと見た。

――腕力よ、上がれ。
考えるだけでも恥ずかしくなる文言だ。だが、その瞬間、俺の目の前で腕がボコボコと変形を始めた。

「うお、おおっ!?」思わず変な声を上げてしまう。自分の腕の脂肪が、皮膚の中で移動している。数秒すると、腕の形はガチッと固定された。
「な、なんだよこれ……」俺の腕は、念じたとおり、筋肉の塊のようなムキムキのものになっていた。力を入れると、ムキッと動くそれは、本当に筋肉だった。だが、それは一瞬でブヨッとした脂肪に逆戻りした。あまりに奇妙な光景に、無意識に元に戻るように願ったみたいだ。

どうやら、この能力とやらは本物らしい。無生物、っていうのは、生き物じゃない置物とかのことだろう。試しに、マウスパッドに向かって念じたら、四角のパッドが丸に、そしてすぐにまたもとに戻った。念じるというより、なってほしいものを思い浮かべるくらいでこの能力は発動するようだ。

よし、次はどんな能力なんだ。と、クリックする。

『次に、念じる対象は、変形前と後で同じ重さになっていなければなりません』……質量保存って言うやつか。確かに、俺の腕も、マウスパッドも、重さは変わっていなかった気がする。――また、クリックする。

『ただ、同時に二つ以上のものを変形させるときは、変形対象の合計の重さが変わらなければ結構です』
ん?どういうことだろう。まず、二つ以上のものを変形させられるっていうことが前半部分で分かる。後半部分は……合計の重さが変わらない、ということは、一個のものを軽くすれば、もう一個のものは同じだけ重くできるってことか。次は……

『人間の精神は、いくらでもいじることができますが、指定がなければ変形と辻褄が合うように精神が変えられます』
……わけがわからないよ。人間を筋肉質にしたら気が強くなるとか、そんな感じだろうか。
『試しに、自分の精神を男性に保ったまま、体を女性にしてみてください』
「ぶふぅっ!!」勢い良く吹き出してしまった。俺が女だって?なんでそんなことしなくちゃならんのか。第一、俺みたいに70kgもある重さの女性なんて、そんなの背が高くない限り完全に肥満になってしまう。

……とりあえず、人間の形を自由にできるっていうのは、性別も含めて、らしい。なら、年齢とか、身長とかも変えられるんだろう。近所のおじいさんを若いギャルにすることもできるんだろう。

気を取り直して、次へ、をクリックした。

『人間の変形をする場合には、まず対象が服越しでもいいので接触しなければなりません。また、この接触は自分の方から積極的におこなったものは無効です』
ふむふむ……近所のおじいさんを若いギャルにしたいなら、まずおじいさんに自分を触ってもらえってことか。なんか気持ち悪いな。

メッセージはこれで終わりらしい。で、俺にどうしろと。今日は家にこもってネットサーフィンしたい……いや、せっかくだからいろいろ試してみるか……

ガタンッ!!!

ああっ、うるっさい!!!隣の部屋に弟が何か壁に投げつけたんだろう。気が小さい俺が強く出られないのをいいことに、嫌がらせしてくる。そうか、まずアイツに仕返しをすればいいんだな。

いいことを思いついた俺は自分の部屋を出て、弟の部屋の扉の前に立ち、扉をコンコンと叩いた。
「ああっ!?なんだ兄貴!」中から不機嫌そうな弟が出てきた。高校生の弟は、俺よりも背が高く、力も強い。気性が荒くて、これまでの人生、何度殴られたことか。
「いや、うるさいから注意を……」いつも、こんなことはしない。また、殴られるのが分かっているからだ。だが、『能力』があればこの話は逆に俺を優位に立たせてくれる。
「うるせえのはお前の方だよ!とっとと失せろっ!」

そして予想通り、肩を、ドンっと押された。こっちの勝ちだ。――弟よ、太れ。内気になれ。

「ふんっ、……あ、あれ……?」扉を閉じようとした弟の動きが止まった。俺より頭一つ高い背丈が、縮み始めたせいで違和感が出たのだろう。その縦に縮んだ分が、横方向に移動していく。腕や足が太くなり、腹も出てきた。余興だ。俺の方は背を高くしてやるか。そして、気も強く。

「……オレ、太って……あれ、兄貴が大きくなってる……?」変身した俺を見て、縮こまる弟。どうやらかなり内気になったらしく、目線が泳いでいる。
「ふん、これまでの仕返しだ。せいぜい俺のおもちゃになれ」ふむ。俺の方も謎の自信が湧いてくる。俺と弟の立場は、完全に逆転。いや、それまで以上の差で、俺の方が上になっていた。

……といっても、太った弟を持っていても俺に何の得があるっていうんだ。パシリにするにしたって限度がある。この俺の前でガクガク震えている弟が、妹だったらどれだけいいか……と、半分無意識で、華奢な女の子を念じた。

「っと……いまの70kgくらいの体重で華奢な女の子ってのも無理か……」
「え?」
胸に全振りしたらどうなる?試してみよう。

「弟よ、今からお前は俺の妹だ」……あえて、精神の書き換えはしない。男の精神のまま、違う性別になってもらう。
「な、なにを……っ!」

弟の太い手足が、前に出た腹が、膨れた顔が、一気に絞られるように細くなる。そしてその分の肉が、念じたとおりに胸に詰め込まれ、バスケットボールサイズのおっぱいが、服をぶち破って飛び出してきた。髪はサラサラとツヤを増しながら長くなり、肌からは体毛が見えなくなり色が澄んでいく。

「なんだよ、この胸っ!!」弟が胸を持ち上げる。その声も、鈴を転がす声で、弟の男口調には全然あっていない。
「すげえな、りっぱなおっぱいじゃないか!」
「お、俺は男だからおっぱいなんかない!」腕でその胸をギュッと締め付ける。無意識に護身しようとしているのか、内股になっているその姿は、俺の願った妹の姿そのものだった。どうやら弟は、精神が体に引っ張られているらしい。こんな能力一つで――十分に素晴らしい能力なのだが――弟という存在は消え去り、一人の爆乳少女になったのだった。

だが、胸が重すぎるのか弟の息が段々荒くなり、ついには座り込んで、床におっぱいを付けてすすり泣き始めてしまった。このままでは日常生活すらままならないだろう。仕方がないので、家の壁やらに重さを移してやり、Eカップ程度までに小さくした。

ミルクショック(後編)

「実は俺の血筋には、封建制時代の奴隷の血が……」
「ちょっと、この子の前で奴隷とか言わないで」

美佐は泣き顔のまま、大きくなった体に合う椅子もなく、床に座り込んで父親の話を聞いている。「奴隷」という単語を聞いたのは初めてらしく、少しキョトンとしている。
「……召使いの血が混ざってて、それはたいそう頭のおかしな主人に仕えていたらしい」
「それで、その人を喜ばせようと……こういう体質にしたのね」
「まあ、飲み水に薬を混ぜられて、本人も望まない形でこうなったらしいがな」

その主人とは実のところ、大きな街の神父であったのだが、豊満な女性の体に魅入られていたのだが、体面を気にしていたらしい。普段は貧相な体つきの人物だけを仕えさせ、その当時は手に入れにくかった牛乳を引き金に、成長する体質にしたそうだ。それを利用して、夜だけの性奴隷を作り出していた。

もはや錬金術の域だが、実際に錬金術師が作った薬でその所業を行ったためだった。
「遠い昔、その子孫が日本にやってきて、根を下ろしたらしい。そのころには、主人の家が没落して、牛乳も飲める環境ではなくなって、体質も忘れ去られ、一個の書物としてだけしか記録に残っていなかった」
「ちょっとまって、それならあなたはどうなのよ?」
「俺の場合も、牛乳を飲むと……」

そのまま牛乳に手を伸ばしかけた父親の手を、母親が止める。
「い、いいわ……分かったから……今日は仕事もあるんだし。確かにあなた、牛乳飲まないものね……」
「うむ。ただし、一人の『体質持ち』に子供が複数人生まれた場合、ほとんどは一人だけに体質が遺伝するらしい」
「じゃあ、和佐(かずさ)は大丈夫ってこと?」

和佐は美佐の弟だ。歳は近く、もう少しで幼稚園に入園する時期だ。
「そう……あっ、もうこんな時間だっ!美佐は数時間経てば治るだろうから、今日は幼稚園は休ませて!くれぐれも病院とかには連れて行くなよ!じゃあ行ってくる!」
「あ、あなた、お弁当……!!行っちゃったわ」
母親は、たぷんたぷんと揺れる豊かに育った自分の乳房を、憮然として見つめている美佐を見て、どうしていいものか途方に暮れた。

その間にも、和佐が大きな音に目を覚ましたのか、リビングに姿を現した。

「んー……」
寝ぼけ眼のまま机に向かう少年は、見る影もなくなっている姉の前も素通りして、乾き始めてもいない白い水たまり――美佐の母乳が溜まったもの――に足を踏み入れた。
「ああっ!!」
「カズちゃんっ!」
そして、漫画のごとくズルっと足を滑らせ、顔をビチャッと水たまりに突っ込ませた。
「うぷっ……これ、なに……?」

和佐の顔いっぱいに、美佐の母乳が付いて、まるで白い仮面をかぶっているようになった。

「大丈夫?カズちゃ……」
「おなか、熱いよっ……」
和佐は、急に体を抱えて苦しみだす。その小さな体がブルブルと震えだし、そして……

ビリビリッ……

服が破れる音がし始める。和佐の体が、急激に大きくなっているのだ。しかも、男であるはずの和佐の胸がビクビクと震えながら確実に膨らんでいた。小学生の体になる頃には、リンゴ大に膨らんだ乳房が服をパンパンに張り詰めさせ、乳頭もかなり大きくなっていた。

「カズ……ちゃん……?」
「う、なんか、出てきちゃうぅっ」

じわりじわりと成長を続ける乳房は、膨張する速度を上げ、プクーッと存在感が増していく。

「だ、だめぇっ!!」

和佐は、自分の胸から飛び出そうとする何か――美佐と同じく、母乳であった――を、抑えようとするように思いっきり手を胸に押し付けた。しかし、それは、乳腺の中で、勢いを溜め込んでいた噴出を抑制するどころか、その引き金となってしまうのだった。

ブシャアアッ!!

「んあああっ!!!」

和佐はその刺激のあまりのけぞってしまう。美佐のときよりは勢いが弱かったが、白い液体が服越しに撒き散らされ、さらに悪い事に……

「んっ」

ぼーっと見ていた美佐に、容赦なく液体が降り掛かったのだ。

「また、大きくなっちゃうよぅぅっ……!!」

すでに180cm近い身長になっていた美佐は、言葉の通りに、母乳の力で体を押し広げられ始めた。

「とまっ……て……」

胸をきつく抱きしめ、自らの成長を止めようとする美佐……だが、その表情が困惑から変化し始める。

「う、う……」
「美佐……?」

突如、顔が赤くなり、まるで上気したかのような、快感につつまれた淫らな表情を浮かべる美佐。これまでの無垢な美佐がどこかに消えてしまったようだった。

「あ、あはは……アハハハハッ」
「おねえ……ちゃん……?」

特異体質のもう一つの特徴、発情とも言える性欲の爆発が起こり始めていたのだ。いくら体が大きくても、行為をしなくては意味がない、そう考えた過去の主人が仕込んだ媚薬の効果が現れ始めていた。

「おっぱい大きくなるの、気持ちいいよぉ……」

特大スイカサイズに達し、なお大きくなる胸をもみしだき、恍惚の表情を浮かべる美佐。その視線の先に、母乳を出し終わったものの、豹変した姉に腰を抜かしている弟の姿が映った。

「あは……かずちゃん、私のおっぱい、飲んで?」

またも母乳がたまり始め、張りが強くなりつつある巨大な乳房を垂らし、四つん這いになって和佐に近づく美佐。その姿は、獲物を追い詰めるネコのようでもあった。

「や……やだ……っ」
「つーかまーえたっ♥」

そして、和佐の肩をガシッとつかみ、強く張った双球の一つを、口に押し付けた。

「たーんと、めしあがれ!」

口で押さえられていなかった方の先端から、白い液体が噴き出し、床にポロポロとこぼれおちる。同時に、和佐の中にも同じ液体が流れ込む。

「んんっ!んんんん~っ!」

和佐は、姉の拘束から逃れようと必死になるが、大きな体格差には勝てない。その間にもさらなる変化が始まる。濃厚な母乳に反応して、強烈なまでの成長ホルモン、そして女性ホルモンが和佐の体中を駆け巡り始めた。

すでに大きくなっていた乳頭がビクンッビクンッと動き、その体に不釣り合いなほどに乳房が成長していく。母乳が体に染み込んでいき、体中がドクンッ、ドクンッと長くなり、太くなっていく。そして巨大な姉に負けずとも劣らない、莫大な体積を、和佐の体が占めていく。リンゴ大だった乳房は、中に生成された母乳を蓄えながら、ムリムリと膨張し、いつしか美佐のものに追いつき、追い越して、地面につきそうなくらいの途方もない大きさとなる。髪もさらさらと伸び、腰まで伸びるロングヘアになった。

「かずちゃんもすごい……」

その先からぴゅるぴゅると白い液体を出し始めたそれを眺めて恍惚の表情を浮かべる美佐。そして、乳房を和佐の口から離した。

「うふふ、おいしそう❤」
「おねえちゃん、かず、どうなって……うあっ、ああっ!」
美佐と同じく、和佐の意識もピンク色に上塗りされていく。

「おっぱい……おねえちゃんよりおっきくなっちゃった」

ちょうどそこに、弁当を忘れたことに気づいた父親が玄関の扉を開ける音が聞こえてきた。
「おーい、弁当取ってきてくれないか!」父親が呼ぶ声がするが、二人とも何かに操られるかのように息を潜めた。「誰も居ないのか?」父親の足音が近づいてくる。

「かずちゃん、おっぱいまだ出る?」足音を聞いて立ち上がった美佐は、和佐の腕を引っ張って立ち上がらせた。
「たっくさんでるよ?」姿勢を整えた和佐は、両腕で胸を揉みしだいた。先端から出る母乳の一部は、美佐にもかかり、またも美佐の乳房はそれに反応して母乳を蓄えていった。

「じゃあ、お父さんに飲ませよう」いよいよ部屋に入る扉の裏に足音が近づいてきたのを聞いて、パンパンに張ってきたおっぱいを両腕で抱えた美佐。和佐も、ニヤニヤしながら頷いた。

「おい、誰か……」
扉を開けた父親に迫ってきたのは4つのおっぱいだった。
「「せーのっ!」」
そのうちの二つが、巨大な質量で父親を押し倒した。

「な、なんだっ、ぶふぅっ!」
倒れた父親の顔の上に乳房が押し付けられ、容赦なく吹き付けられる二人の母乳。息をしようものなら、沢山の量が口の中に入ってくる。

「たーんと召し上がれ、お父さん❤」
「おいしいよ?」

その二人の下で、父親の体にも変化が始まった。メタボ気味の盛り上がった腹がグイグイと中に引き込まれ、逆にズボンの中ではムチムチと肉が付いていく。つかの間にズボンはパンパンになり、更に大きく膨れていく尻の部分はビリッと破れた。

「ん、ぶ、んぅっ!」
父親は必死に抵抗するが、それも二人の下で胸が膨らみ始め、髪が黒から赤に変わると流れが変わっていく。父親はできるだけ閉じていた口を大きく開けて、苦しい顔は快楽に溺れる顔に変わっていく。顔は魅惑的な女性のものになり、白く透き通ったものになっていた手は二人の子供の乳房を撫で回す。

「おとうさん、もっと欲しいの?でも、もう終わりだよ」
吹き出し続けていた母乳は、美佐が言うとおり勢いを弱め、数秒後にはほぼ止まった。

「あら?そうなのぉ?」元の性格の欠片もない、色欲にまみれた女性の声で答えた父親は、唇を舌で舐め、最後の数滴を味わった。「でも、おいしかったわよ」

二人の『子供』が立ち上がると、胸の大きさでは負けるものの、仕草は格段に艶めかしい『父親』もそれに続いた。180cmの身長もさることながら、ゆるいカールがかかった赤く長い髪は日本人離れしていて、体にまとわりつきながらボロボロになっていた地味なスーツが完全に浮いていた。

「この姿になったのも久しぶりね……」Gカップ並の胸の柔らかさを確かめるように持ち上げる父親。「でも、変身した後の若さは、いつまでも変わらないわ……あなたたちも若いけど、そんなにおっぱい大きいと、変よ」
美佐の、頭二つくらい入りそうな乳房をつつく。「これじゃ、お牛さんだわ」

「慣れたら、もっとちゃんとできるの?」つつかれた胸を守りながら、美佐は尋ねた。
「ふふ、あと2回変身したら大丈夫よ。……そっちの……和佐は、美佐のおっぱいを飲んじゃったのね?」父親は、仕草が美佐よりも子供に近いもう一人に、赤い瞳を向ける。
「そうだよ、ボク、おっきくなるの気持ちよかった……」

「普通の牛乳なら大丈夫だけど、血が繋がったあなたに美佐の母乳が入り込むと、体質まで感染っちゃうのよね……そっか、こうなったらぁ……」

いつの間にか、大きな女性三人に唖然として立ち尽くしていた母親に、父親はギロッと視線を向ける。

「みんなで、楽しみましょ……?」
「や、やだ、そんな体になんてっ!」
母親は逃げようとするが、その肩をガシッと掴んだのは美佐だった。

「大丈夫だよ、おかあさん。変身したら、絶対に楽しいから……」
「み、美佐……!!放して、そんなの、いいから!!」
その後ろから、牛乳パックから直接牛乳を飲んで母乳を溜め込んでいく和佐が近づいてきた。
「ボクのおっぱい、いっぱい飲んでね」

そのパンパンに張った乳房の先端を口に当てられた母親は、全てを諦めた。

かくして、一家四人は全員、牛乳を飲むと悪魔のような女性に変身するようになってしまったのだった。

『帰還』(2/3)

次の日、ギアズは朝の光に目を覚ました。

「ん、んん……」
「新入り、目が覚めたか」
「隊長……おはようございます」

先に起床していた隊長が、外をじっと見つめている。

「いいから、さっさと服を着ろ」

ギアズは、そう言われてはじめて、自分が下着すら全く付けていない状態で寝ていたことに気づき、そして、昨夜のことを思い出した。母親の声が聞こえたと思ったら、幼女に変身し……

「そういえば、伍長に高い高いされた……」
「何を寝ぼけている。お前のような男にそんなことする伍長など、想像したくもない」
「え?」

ギアズの体は、元に戻っていた。変身のときに消えていった筋肉やらなにやらが、戻ってきていた。

「よかった……」
「いいから、早く服を着るんだ。他の二人はもう朝食も済ませてある」
「す、すみません!今すぐに!」

周りに投げ捨てられていた戦闘服を急いで着る。変身した後の記憶は曖昧だが、伍長か兵長が回収したのだろう。

「まったく……」

隊長は寝坊した上に奇妙なことをつぶやくギアズに呆れ、ため息をつく。出だしこそ奇妙であるが、いつもと変わらない、サキュバスに包囲されたままの一日が、また始まろうとしていた。

四人は、生身の人間では到底敵わない相手のスキをつくため、包囲されたときから常に四方を監視していた。といっても、ギアズには所狭しとうごめくサキュバスたちにスキなど見いだせず、仕留める前にじっくりともてあそばれる感覚すらあった。
狙撃銃はなく、敵は遠くにいて、しかもその体に刻まれている紋章を撃ち抜かないと意味がない。銃弾も限られている中で、ただただ敵の様子を伺っているほか無かったのだ。国の軍隊は、とっくのとうに壊滅。国際機関もほぼ機能を失っているなかで、救援がくるのも絶望的だった。

「味方の戦闘車が来たと思ったら、中からゾロゾロと『奴ら』が出てきたこともあったな」と隊長が言っていたのを、ギアズは回想した。基地から出ること自体が既に自殺行為と思えるほど、人間側は劣勢であり、ある部隊の救援に向かう途中の別の部隊が先に壊滅することもままあった。

「ギアズ、何ぼーっとしているんですか」

考えにふけってしまっているのを、兵長に見透かされていたらしい。いや、ほかの二人も気づいているのだろうが、声をかけてきたのが兵長というだけのことだろう。ギアズが監視していた方で、これも新入りの集中力が切れているのを察知したらしいサキュバス達がワイワイ飛び回っていた。

「兵長……」
「いろいろ思うところがあるのは分かります。ですが今気を抜いたら、やられてしまうということを忘れないで」

ここまで生き残っていることも証しているように、兵長も軍人としては優秀である。話している間にも、周りの監視を途切れさせることはない。囮になりたがりの兵長だが、相手が人間であれば実際に囮になっても生き残れるだろう。

「はい!かならず、全員生きて帰りましょう!」

小隊のメンバーを信頼し、そう、威勢よく返したギアズ。だが……

「うふふ。そんなにうまく行かないのは、分かっているでしょうに」

真上から、妖艶な女性の声がする。四人は一斉に銃をそちらに向けたが、銃の引き金を引いても弾は出てこなかった。そこには、強いオーラを身にまとった悪魔、サキュバスの一人がいた。

「くそぉっ!」
「ざーんねん。私に向かって発砲はできないの。そんなことよりぃ……」

舌なめずりをしながら、四人に向かって話し続けるサキュバスだが、いきなり声音が変わった。

「ミアル軍曹!!」

その声は、四人が聞いたことのある、中年の男性のものだった。

「は、はぁっ!!……この声は……大佐……?」

そして、名前を呼ばれた隊長はつい返答してしまう。

「異種族の生態調査、大儀である!第40基地司令官として報酬を与えよう!!」

そう、その声は、四人が所属していた基地の最上級の士官のものだった。

「き、貴様!司令官の口真似など卑怯な……!」
「口真似……だったらよかったのにね。このメダル、分かる?」

声を女のものに戻したサキュバスは、自分の服につけていた勲章を指差した。それは紛れもなく、司令官だけに渡される特別なものだった。

「ま、まさか……本当に、司令官だと……?」
「ええ。二週間前だったかしら?あなた達が出撃した直後に、基地に襲撃があったの……私も反抗したんだけどね。うふふ、今となっては馬鹿馬鹿しいにもほどがあるわ、反抗なんて……」

自分の腕や腰を撫で回しながら、恍惚の表情を浮かべる元司令官のサキュバス。

「こーんなに、楽しい世界に加われるのに。やられたら死んじゃうかと思ってたけど、不老不死の美しい体を手に入れられるのよ。あなた達も、今降参すれば、ご褒美をあげるわよ?ね、みんな?」

気づけば、サキュバスの群れに取り囲まれていた。絶体絶命の危機だ。

「で、軍曹?答えは?」
「もちろん、ノーだ。考える余地などない。人間としての誇りを捨ててたまるか」

ギアズは、元司令官がこれ以上ないほどの悪辣な笑みを浮かべたように思った。

「それでこそミアル。だけどね、そんなに頑固だと身を滅ぼすわよ?じゃあ、また今度ね」

司令官が指をパチッと鳴らすと、閃光が走った。それが収まる頃には、サキュバスの群れともども、司令官は姿を消していた。

「なんて、ことだ……」

司令官がいた方向を見つめたまま、隊長は、小さく震え声を出した。

「あの、司令官が……軍人の鑑であった、誇り高き、大佐が……あんなモノになってしまう……など……」
「隊長、しっかりしてください!」

頭を抱え、震える隊長に声をかける伍長も、動きがぎこちない。基地がサキュバスにやられ、司令官がサキュバスとなってここにいるということは、基地が壊滅し、もはや四人にとって帰る場所がないということだ。基地なしでは、小隊が持っている情報など、意味をなしえない。

「く、くそ……サキュバスなど、なってたまるものか……!!俺のためにも、妹のためにも!」
「兵長……」

兵長も、視点が定まらない。こんなに周囲の監視にスキがあっても敵が襲ってこないという事実も、相手に余裕があるということをひしひしと感じさせ、余計に惨めな思いをさせられるばかりだった。

その夜。『人間の尊厳を守る』という名目で、最後の抵抗をすることとなった小隊。見張り番となったギアズに、またもや母親の声が聞こえてきた。

『ギアズ、何かあったのですか』
「母さん、母さんはまだ生きているのか?」
『何を言っているのです、そうでなければあなたのために祈ることもできないでしょう』

母親の声は、ギアズにとってはいつ聞いても安心を与えてくれるものだった。

「司令官が、サキュバスになっていたんだ」
『まさか!!そんな事が……』
「いや、本人が言ったんだから間違いない」

少しの沈黙の後、声が続いた。

『よく分かりませんが、またあなたが小隊の方々を慰めなければなりませんね』
「え……」
『今度は、祈りの力がもう少し出せそうです。同じ歳の女の子になりなさい』
「なにを……!んんっ!!」

《キィィィン……》

一日前、幼女になったときの耳鳴りが、またもやギアズを襲った。同時に、体に熱がこもっていく。

「あついっ……あつい!」

服を脱ぎ捨てるギアズ。鍛えた筋肉質な体が夜の冷たい空気にさらけ出される。だが、それもつかの間、乳首がプクッと大きくなる。褐色だったそれは、濃いピンク色となり、まさに女性のそれとなっていた。それを合図とするかのように、変身が始まった。

「う、うぅっ!!」

割れた腹筋がギチギチと音を立てて体に押し込まれていくかのように縮む。その体積が移動するように、ズボンの中に収まっていた尻がグググッと大きくなり、少し緩めだったズボンがパンパンになっていく。

さらにギギギギと筋肉が動く音がすると、筋肉が見えなくなっていたウエストが絞られていく。同時に、足の骨がバキッと短くなり、ギアズの身長がガクッと下がった。髪はサラサラと伸び、宙にフワッと舞う。

「の、喉がっ……ケホッ……また、声が高く……!!」

潰されるような痛みが喉仏に走り、思わず咳をする。次に出した声は、母親が言うとおり同世代の女子の声、鈴の音を鳴らすような澄み渡ったものだった。

「うっ、顔が、顔があぁっ!!」

喉の変化に続くように、ギアズの顔つきがグニグニと変わり始め、あまりの痛さに手で覆う。その手も骨がグキグキと細くなり、付いていた筋肉が脂肪に置き換わって柔らかい輪郭が生み出されていく。その下では、残っていた大胸筋が縮むと同時に、ムクッ、ムクッと空気を送られるように膨らみができ、乳房が生まれていく。

「はぁっ、はぁっ」

荒い息を出すたびに、なで肩になり、厚い胸板が華奢なものになる。骨盤もグキグキと広がり、尻でいっぱいになっていたズボンにさらに負荷をかける。ところどころで、ブツッ、ブツッという糸がほつれる音がしている。

「はぁ……終わった……」

熱が引いていき、痛みも和らいでいくのを感じたギアズは、顔をおさえていた手をおろし、自分の体の方を見た。

「うわ……本当に女の子になってる……」

一日前も幼女になっていたギアズだが、今度は二次性徴の途中の少女に変身したのだ。より女性らしさが強調される体になったことで、自分の変身を実感するに至り……

「じゃあこれって……おっぱいっ!?」

自分の胸の膨らみを見て自分の視線を手で塞ぐ。写真では、はだけた女性の胸を見たことがあったが、実物を見るのは母親のもの以来だ。他の女子を見る機会は、今まで与えられていなかった。

「で、でも、俺のものなら……」

ここで、ギアズの中にグワッと違和感が生まれた。女の声で「俺」という言葉が発せられるのを聞くのは、あまりに慣れないことだ。

「……と、とりあえず触ってみよう……」

胸に恐る恐る手を近づけ、ピトッと触る。途端に、ふわっとした柔らかい感触と、ピリッとした強い刺激を感じて、手を離した。

「ひゃっ!!……すごく、敏感……」

ギアズは、今度はもう少しゆっくりと、触ろうとして……

「誰だ!!」
「ぎゃああっ!!見ないで!!!」

兵長の大声に驚かされ、そして思わず顔にビンタを食らわせてしまった。

「あ、あっ……兵長……」
「いったたた……む……貴様……サキュバス、ではない……のですか」

兵長の顔には赤い跡が付いてしまったが、いつも通りの冷静な判断を下す。

「俺……です、兵長、ギアズです」
「むむ……とりあえず、服を着てください」

少なくともすぐに殺されないと分かったギアズは、床に脱ぎ捨ててあった服を着ようとした。だが、着る途中に服が胸に擦れ、さきほどの刺激がギアズを襲う。

「きゃんっ!」
「うおっ、ど、どどどうしたんだっ!!」
「へっ……?」

兵長が、いつになく慌てている。顔にはビンタしたときの跡がまだ鮮明に残っていたが、それ以上に顔が赤い。

「服が、乳首に擦れて……」
「そ、そうか……それにしても、いや、なんでもない……」

やはり、兵長の様子がおかしい。

「ジュード兵長?どうかしたんですか?」
「そ、その姿で近づくなぁっ!!」

無意識に自身に歩み寄っていたギアズを、兵長はバンッと突き飛ばした。

「きゃぁっ!!」
「す、すまんっ!!」

ギアズは無意識に出した女々しい悲鳴に戦慄したが、それ以上にジュードの興奮した顔に寒気を覚えた。

「すまん……だが、妹が今生きていたら、お前の今の姿にそっくりだと思うんだ……」
「そう、なんですか……?」

この数年戦場で戦い続けている兵長が、家においてきた妹が、ちょうどギアズと同じ歳だと言っていたことを思い出す。どうやら、兵長はギアズと妹を重ね合わせてしまっているらしい。

「そうですか、それでしたら……」

他の隊員を慰める、という母親からの願いを思い出したギアズは、また、妹を演じることにした。

「お兄様、ジュディ、またあえてうれしいです……っ!」と、ギアズは兵長に抱きついた。
「おおっ!ジュディ……!!ってなにやってるんですかギアズ……!」

兵長も抱き返しかけたが、ドギマギしながらも自分を抑えた。ジュディ、と言うのは兵長の妹の名前だ。兵長が妹の話をしばしばするものだから、その口調までギアズは覚えていたのだ。

「私、お母様から隊員の皆さんを慰めるよう言われたのです、だから、ね、お兄様……」
「母親から、ですって?まさか、それは……」
「細かいことは気にしちゃいけないのです、お兄様っ!」

生理的な拒絶感を押し切って、兵長に頬ずりするギアズ。母親から言われたことは、絶対にやり遂げたいという意思と、自分自身よりはるかに大きな責任を背負っている上官たちを自分でも慰めたいという願望が、彼を動かしていた。

「だ、だよな……妹が来てくれたんだから、それでいいんだよな……」
「ええ!」
「おお、妹よ、立派に成長して……」

兵長もついに折れ、ギアズを妹と思うことにしたようだった。その頭を撫で、ギュッと抱きしめる。ギアズは、昨日ディアンから流れ込んできたような熱さが、兵長から流れ込んできているのを感じたが、昨日ほどの負担には感じなかった。

「お兄様の力、ちょっと強すぎです……」
「ああ、すまんすまん……」

体を離したジュードの顔が、少しやつれているように見えた。膠着戦からの疲れからだろう。そう思ったギアズは、もっと元気づけようと考えた。

「お兄様、膝枕などいかがでしょう?」
「ひ、ひざまくら!!それは、いいな……」

ギアズは体の変化ですこしゆるくなっていたズボンを脱ぎ、地面に座った。

「ほら、お兄様……」
「ああ……」

兵長は、妹の太ももの上に頭を置くように、仰向けになって寝転がった。

「ありがとう、妹よ」
「ふふ、いいんですよ……こうしてお兄様といられるだけで、私、幸せですもの」

――変だ。ギアズは思った。自分は妹を演じているだけのはずなのに、本当に自分の兄に膝枕をしている少女の、幸せな気持ちを心から感じていた。それに、今度は膝を通して、ジュードから熱が流れ込み始めていた。

「顔が赤いぞ、ジュディ」

その熱が、やはり昨日と同じようにギアズのなかにこもり始めていた。体温が、段々上がっていく。

「い、いえ、大丈夫……です……」

熱のせいで朦朧としてきた意識の中で、ギアズは、ジュードの顔がさらにやつれていくのを見たように感じた。だが、それを確かめる前に、ギアズは気を失った。